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■オープニング本文 ●死霊の玉座 人骨を敷き詰めた寝床に、小柄な少女が寝そべっていた。 少女は気だるそうな表情を浮かべたまま、手元でハツカネズミを遊ばせている。 「封印されたと聞いていたが‥‥酒天め、いまいましい」 ふいにつぶやく少女。 その小さな手をきゅっと握り締める。ハツカネズミは血飛沫と共に肉塊へと変わる。 修羅の王――祭りの喧騒に誘われるようにして封印を解かれた酒天童子。かつて朝廷と覇を争ったとも言われる王が復活したとの報に、少女は不快感を露わにした。 それも、酒天は再度封じられるでもなく、開拓者ギルド預かりの身となったと言うではないか。朝廷との間に再び血の雨でも降ろうものなら面白いものを‥‥どうも、そういった様子ではない。 「ならば争わせるまでじゃ」 手元の肉塊を混ぜ捏ねるようにして放り出すと、ハツカネズミは再び腕を駆けはじめた。 「クク‥‥」 少女の口元に、凄惨な笑みが浮かんだ。 ●神楽の都 修羅の王という酒天童子。 監視付であり軟禁状態であるものの、比較的自由を許されているのをいい事に今日も今日とて呑み歩く。 「ありがとうございましたー」 にこやかな笑顔とともに、酒店の名物娘は暖簾を片付ける。 まだ日は高い。が、売る物が無くなっては商売にならない。 囚われの身というのに、酒天は少しも遠慮が無い。 「さて、次はどこ行こうかなー」 軽い足取りで進む酒天を、監視が呆れた顔で従う。 そして、銃声が響き、酒天の身から血が噴き出した。 ● 「どうなってんだか全く」 正月気分を名残惜しむ今日この頃。 どうにもそうのんびりしてられない事態が続いていた。 アヤカシの活発化。安須大祭終わって以降、妙に目立つと思っていたら、今やはっきりとその数が増えている。 この騒動には何か意味が隠されているのか。 アヤカシを退治する傍ら、その調査も進められている。 それだけでも大変な事態。に、加えて更なる案件が重なっていた。 ――修羅を名乗る者たちによる襲撃。 アヤカシ騒動の中、混乱を利用して修羅たちが決起した‥‥と思えなくも無い。 しかし、 「それはこっちの台詞だろ」 ギルドに持ち込まれる大量の依頼。それらに真剣な眼差しで目を通していたのは、その酒天自身だった。 銃弾は肩を掠めたが、さしたる怪我でもなく。傷も癒されて最早無い。 対面の宿屋から狙った犯人は即座に抑えられ、投獄された。 銃は盗品。すぐに所有者が分かり、詳しい事情を聞かされている。 犯行の動機は‥‥故郷である村が修羅によって滅ぼされた復讐。 「お前さんが都にいるのは、調べれば簡単に分かる。下手に動けば危険が及ぶぐらい推測つくだろうに」 「王といっても昔の話だ。今の境遇を俺のせいだと怨む奴がいてもおかしかない。今更出てきても知った事か、自分達の手でどうにかしようって連中がいても不思議じゃない。それで失敗しても俺の仕業となすりつけやすいだろうし」 「それでいいのか?」 「いいも悪いも。それを決めるのは俺じゃない」 あっさりと酒天は肩を竦める。 「もっとも、幾ら一枚岩じゃないにしても聞いた話と印象が違いすぎる。‥‥とすると、他に考えられるのは」 「修羅を騙った何者かの仕業」 係員が言葉を継ぐ。 修羅、と名乗っているだけで、本当にそうなのかは話だけでは伺えない。 角を持った神威族や、あるいはアヤカシの仕業とも考えられる。 もっとも、神威族であるならば何故修羅を語るのか。アヤカシであるならば、そもそも組織だった計略の如き動きをとるのかどうかからして疑問ではあるのだが‥‥。 結局の所、謎は尽きない。 「つー訳で、ちょっくら様子を見てくる」 依頼書の一つを手にして、酒天が立ち上がる。 それは『修羅』の襲撃を受けた村。 村の目に付く建物をことごとく焼かれ、多くの村人が無残に殺された。かろうじて生き延びた人々も再びの襲撃に恐れ、怯える毎日。 さらに、その近辺でも修羅の襲撃は続いているという。 炎を使い、恐るべき力であらゆる物を粉砕する鬼たち。 「忘れちゃいないだろうが、お前さんは一応監視付きの身であり‥‥」 「だから、都からそう出張らずにすむ場所を探したんだろうが。監視は狙撃の件で軒並み責任問題で事情聴取中。その間の代理って方便で辻褄合わせろ。あーそうそう、自己防衛手段ってことで武器の一つぐらい貰っていくぞ。いちいち借りるのめんどくせー」 係員は頭を抱える。 幾ら軟禁状態といっても、自由すぎる。果たしてこんな横暴が許されるのか。 かといって、制止して聞く耳など無さ気で。飛び出していかれたそれこそどんな事になるやら。 内心、ムカつきながらも係員は上司への説得を考え出す。 「種族の動向は気になるだろうし、報復として怪我まで負わされたんだ。じっとしてられないのも分かるがな。‥‥ただ、本当に『修羅』の仕業だったら、お前さんはどうするつもりだい?」 軽い口調で、けれど真剣な眼差しで係員は問い詰める。 酒天が立ち止まる。 口端だけで笑うと、何も告げずに立ち去る。 ●襲撃 「つ、つまらん」 燃え盛る炎に包まれた村。逃げ惑う人々。非力な彼らを心行くまでもて遊び、肉を裂いて骨を折るのは容易い。 実際、足元には原型をとどめぬまでに破壊された肉体が転がっている。もはやそれで遊べそうに無く、次の獲物に手を出したいところだが、そうもいかない。 「つまらん」 「ひぃいいいー!」 足を潰して転がしておいた老人に手をかけると、苛立ち紛れに壁にぶつける。 鈍い音がして老人は地面に倒れた。しかし、まだ生きている。 「アヤカシ‥‥、化け物が」 げふげふと血を吐きながら、老人は恨みの眼差しを向ける。 思う存分弄りたい衝動に駆られるが、それを抑えて頭を横に振る。 「アヤカシ、違う。‥‥俺達は‥‥修羅。鬼の‥‥修羅、だ」 頭上には恐ろしいほど鋭利な角が生えた、巨体の人型。その数はたったの五名。 「つまらん‥‥つまらん!」 その苛立ちが建物にぶつけられる。 あっさりと壁は崩れ、柱は折れ、屋根が落ちる。放った火が類焼を呼び、あらゆる物を焼き尽くす。 「俺達は、修羅だー。覚えておけー」 業火に負けじと、咆哮を上げる。 さんざん暴れまわり、建物を壊しつくすと、他の集落を求めて去っていった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
和奏(ia8807)
17歳・男・志
贋龍(ia9407)
18歳・男・志
无(ib1198)
18歳・男・陰
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 各地にて修羅による襲撃が相次ぐ。 だが、襲撃者が修羅とされるのは、本人たちがそう名乗るからだ。 「わざわざ名乗るものかねぇ」 釈然としないのは、无(ib1198)だけに限らず。 「修羅が自ら修羅だと豪語して何の徳があるのでしょう?」 「そりゃ、手っ取り早く名を広げる為だろ」 贋龍(ia9407)に当然と酒天童子は告げる。 「では、名を広げてどうすると?」 重ねて問うと、肩を竦められた。 「仮に襲撃が本当に修羅の仕業とする。酒天が朝廷に抑えられている抗議なら、まず解放しろとか返せとか叫ぶだろう。虐げられた事の復讐なら、村一つすら満足に殲滅させていないのは可笑しい。そうした中で自分が修羅だ、と殊更強調する必要は無い。‥‥つまり」 竜哉(ia8037)の眼光が鋭くなる。 「修羅の仕業だと到底思えない。酒天の言葉を鵜呑みにする訳じゃないが、酒天たちに対する風評を悪い方向に誘導する為にやってるようにしか見えない。ただの茶番だ」 襲撃者として名を上げる為の名乗り。 だが、その茶番劇で命を落とした者もいる。 何者の仕業にしろ、到底許せるもので無い。 「う〜ん、アヤカシさん? 修羅さん悪者? 便乗商売? おじ〜ちゃまの策謀? とにかく謎だらけですの〜」 出会い頭に酒天童子の手を取って御挨拶。 依頼について、あれこれ考えるケロリーナ(ib2037)に、酒天は眉根を潜める。 「おじーちゃまって朝廷の連中か? そりゃ民を道具とすら思ってないのもいるだろうけど、そこまでするかぁ?」 何分被害が大きすぎる。 朝廷の仕業とし、それがばれれば反発を生むのは必死。民の乖離は朝廷とて痛い。 また、朝廷内にも派閥がある事を思えば、糾弾され地位も名誉も失いかねない命取りな行い。そこまでの危険を犯してまで、果たして修羅を追い込むのかどうか。 「でも‥‥、もし本当に『修羅』の仕業だとしたら、再び朝廷‥‥人と争いが起きてしまうのかな。昔みたく」 酒天のいた時代。叛旗を翻したという事は様々な戦があったのだろう。 想像して、柚乃(ia0638)は身を震わせる。 戦いに駆りだされれば、幸福な勝者ばかりでない。誰もが傷付き、下手をすれば命を落とす。 「‥‥それは駄目っ。絶対」 顔を青くして想像を振り払う柚乃を、酒天は冷めた目で見る。 「まぁ、考えても限がないですね」 贋龍が頭を振るう。 「民に害を為すモノなら、全て俺の敵だよ」 竜哉の意志は決まっている。揺らぐべくもない。 「酒天は、本気で修羅の事を思って、その為に自分が泥を被るのは何とも思ってないように見える。王としての自覚かとも思うけど‥‥。暴れてるのが修羅にせよ、騙りにせよ、そんな想いを踏みにじるなら、許せない」 依頼に臨み、何を思うのか。 雪刃(ib5814)は酒天の心中を鑑み、襲撃者への苛立ちを覚える。 ● まずは襲撃を受けた村から調査。 「その前に」 後ろから酒天を抱えようとした雪刃だが、伸ばしたその手は強く払いのけられる。 「何だ?」 怪訝な眼差しで睨まれる。 のほほんと口を出したのは、和奏(ia8807)だった。 「お話を伺う間くらいは、正体は伏せておいた方がお互いの精神衛生の為かも」 言われて、酒天も額に手をやる。 鬼に襲撃された村で、鬼が入り込む。いい気にはさせられない。 柚乃がもふらぼうしを被せる。 「現状を考えると仕方ないの。ここで村の人たちと揉めたら抑えきれない‥‥我慢してね?」 「そこまで馬鹿じゃないさ」 心配する柚乃だが、意外か酒天はあっさり承諾して帽子を自ら被り直す。 「都で襲われたこと忘れないで。ただでさえ修羅を名乗る鬼に襲われた場所で、もし角を見られたり、迂闊に名乗ったらどうなるか」 「そん時はそん時だろ。逃げるなり、汚名をそそぐなり、やる事はいろいろあるな」 容易く言ってのける酒天に、逆に不安を感じる。本当に分かっているのか? 「ちゃんと角隠していけよー」 とっとと歩き出した酒天に、念の為に、ルオウ(ia2445)が釘を刺す。 「へーへー」 返事はとてもおざなりだったけれども。 村に入れば現状を目の当たりにする。 即席で作られたらしい真新しい小屋は、真冬の寒気をどこまで防げるか。 残った建物からかろうじて使えそうな物を集め、どうにか生活している。 少し村を歩き回っただけでも、灰で全身が黒く染まる。 襲撃について聞きまわる傍ら。ルオウは強力で瓦礫をどかし、柚乃も怪我人を治療して回る。 精力的な活動に、村の人も辛い思い出を協力的に話してくれた。 「訳が分からない。いきなりやって来て、村を襲って、火を放って、そして去っていったよ。自分たちは修羅だと叫びながら」 火傷が痛々しい村人は、頭を振ろうとして痛みに顔を歪める。 「どちらの方角から来たとか‥‥。最近、棲み付いたなら変化に気付いた人はいませんか?」 「あるいは、この辺りに鬼の伝承とかは無いですか?」 和奏と无の問いに、村人は少し考え、すまないと頭を下げる。 「聞かないなぁ。うろついてるみたいだけど、怖くて誰も近寄りたくない」 考えることすら恐ろしいと言いたげに、村人は身を震わせる。 幾つかの村を練り歩くが、情報自体は簡単に集まった。隠れる様子も無いし、生存者の目撃談も多い。 「身の丈六尺以上で筋骨隆々。人間ばなれした恐ろしい容貌ねぇ‥‥」 ケロリーナの持ってきたおむすびを食べながら、酒天は集まった情報を吟味する。 その表情が厳しいのは、おむすびのせいでは無い。 「村を襲った状況を聞いても、あまり頭良さそうな連中じゃ無さそうだな。ただ、襲撃された村は復興で手一杯だし、まだの所は防衛に忙しいしで、移動に関する目撃情報はあまり聞けない」 弱るルオウ。危険な輩がうろついてるとなると、村人も恐れて出歩かなくなる。 小さな集落が集まったこの一帯。和奏は付近の状況と照らしあわせると、ある程度なら足跡も見える。 そこからさらにどう動くか。 「行動範囲も広いですしねぇ。一応、現れたら半鐘でも鳴らすようにお願いしましたが、聞こえますか?」 「先回りするのは難しいか」 告げる和奏に、贋龍は渋面を作る。 「避難を促してみたけど‥‥、行き場がある人ばかりじゃないです‥‥」 柚乃が嘆息つく。 避難先が無ければ動きようが無いし、いつまでか分からないのでは躊躇する。 避難しても襲われる可能性も考えると、容易な事では無い。 「とりあえず、この襲撃者は炎を使うようですが‥‥、そもそも修羅の中には炎を操る力を持つ者もいますかねぇ?」 「お前らはどうなんだ?」 无の質問を酒天はまんま返す。 「一緒だ。アヤカシのような特殊能力で、という意味なら無い。が、術を覚えてるかならそういう奴もいるだろ」 修羅も人と変わりない。あるいは開拓者と変わりないという事か。 「酒天さまはやられたらやり返す派でいらっしゃいますけど、他の修羅は違うという事ですか?」 「だから、人と変わらないって。楚々とした美人だっていたさ」 和奏に、酒天は答える。 それを聞いて无が言葉を重ねる。 「では、貴方を邪魔だと思ってる者はいますかね?」 「いてもおかしくないだろ」 あっさりと告げると、ケロリーナのおむすびをまた頬張る。 まったく幾つ食べるのか。こんな状況でも食欲が落ちる気配は無い。 「そういえば、他の修羅の一族ってどこに隠れ住んでるのかな? 探さなくていいの?」 「大丈夫。それは他に任せる」 柚乃の疑問に、当然と酒天はしている。一応考えてはいるらしい。 「それじゃあ、恋ってどんな感じか教えて欲しいな〜」 「ぶっ」 喜色満面のケロリーナに、酒天は喉を詰まらせる。 「お前は、そういう話しか興味無いんかいっ!」 「依頼はちゃんとしますし、カエルさんだって好きです! でも、興味があるのは事実ですの」 咽る酒天に、ケロリーナはおっとりと言い返す。 熱意を持って迫られると、酒天は目を逸らして逃げ場を求める。 そこへ慌しく人が駆け込んでくる。 「助けてくれ‥‥修羅が‥‥‥‥、村を、襲って!」 倒れこみ、咳き込みながらも、それだけを叫ぶ。煤だらけの体に、軽い火傷の痕。 柚乃が手早く怪我を見るが、かまっている時間も無い。 「急ぎましょう! 間に合いませんでしたでは済みません」 贋龍が告げる間もなく、開拓者たちは駆け出す。 酒天も特に異は唱えず、行動を共にする。 「それで、恋話は〜?」 「百年ほど生きろ。その間に嫌でも分かるっ!」 繰り返す聞くケロリーナに、半ば自棄で叫ぶ。しかし、肩の力が抜けているのは事実。 それを見て、とりあえず満足げにケロリーナは後についた。 ● 「火の手が見える。あそこか!」 立ち昇る大量の煙に、竜哉は表情を硬くする。 吹く風が煙く、火の赤もはっきりしてくる。村に入ると燃え盛る炎で熱いくらいだ。 「どこに?」 无が人魂を放つ。程なく、一方向を示して走り出す。 方々から聞こえる悲鳴。入り乱れて逃げ惑う人々。その流れを躱しながら、村の中を行く。 暴れる『修羅』。捕縛するか討伐するかは、開拓者たちの間でも意見が割れているが。 「例え連中が騙りじゃなくても‥‥。これだけの事をしたなら、遠慮無用」 「ああ。修羅だから冷遇されるのは冗談じゃねぇが、かといって優遇してもらう覚えもねぇよ」 雪刃の重い口調に、淡々と酒天は頷く。 ただ、動かぬ表情は何を考えているのか。 燃え盛る炎の中、鬼は村人を捕まえる。 丸太のように太い腕。片手で大人一人軽々と持ち上げる。 「つまらん」 苛立ちと共に、投げつけようとする。 「ふざけるな! お前等の相手はこのルオウ様がしてやるぜぃ!!」 無体な仕打ちに、ルオウが咆哮で注意を引く。 ぎろりと異形の目が開拓者たちに向いた。 隼人で俊敏さを増した雪刃は、掲げたままのその腕を狙い、斬竜刀「天墜」で斬り上げる。 だが、刃が届く前に村人を武器として鬼は大きく振り払った。 「くっ!」 そのまま投げ捨てられた村人を受け止め、雪刃は下がらざるをえない。 解放された村人に逃げるよう促すと、どうにか自力で動いてくれた。 後方から光の矢が迫り、鬼の胸を貫いた。ケロリーナのホーリーアローだ。 「うぐっ!!」 苦悶に顔を歪め、身構える鬼。 その様子に、ケロリーナは酒天を見遣る。 「アヤカシですか?」 「ああ。神威族でも修羅でもない」 胸の痞えが取れ、酒天がほっとしたように笑う。 「違う」 アヤカシが苛立たしげに否定する。 「修羅だ‥‥。俺たちは修羅だ‥‥」 「ほざけ!」 この期に及んでもなお主張する。奥歯を噛むと酒天が刀で切り込む。 打ち合うこと数回。鬼は児戯のように受け止めると、力任せに振り祓う。 「傷一つ与えらんねぇのかよ!」 「ダメですよ‥‥無茶したら‥‥」 遊ばれてる酒天に柚乃は加護結界をかけ直す。 鬼はその間も止まらない。追撃をかけようとする動きに、贋龍が雷鳴剣で阻む。 「何かあっては困りますからね」 庇われてむくれる酒天。だが、仕方ない。 「アヤカシなら、なおさら遠慮無用。つまらんというなら、詰めてやるよ。息の根ごとな!」 竜哉が鬼に迫る。腕や肩、脚を狙うも向こうも執拗にそれを防ぐ。どうやらそれなりの実力を持ち合わせている。 「ハァ!!」 鬼が大きく息を吸い込むと、火炎が吹き出された。思わず身を庇うと、そこにすかさず突っかかってくる。 息を吐くと、一足飛びに迫り、額狙って竜哉は斬竜刀「天墜」を下ろした。 割れた額から血が流れ、角が欠けて飛ぶ。 「騒ぐなよ、鬼ごときが」 一片の情けも無く、利き足を踏み込むと喉を突く。刃はするりと貫通し、向こう側に抜ける。 「他の奴らもかかってきやがれ! お前らの相手はこっちだ!」 村人たちを追い回していた鬼たちも、ルオウは咆哮で呼び寄せる。 数は開拓者たちの方が上だ。 无が呪縛符で鬼たちを縛る。動きの鈍った鬼に雪刃は全身でぶつかる雲耀にて鬼の腕を落とす。 怯んだ相手にさらに无が放った魂喰の式が食い荒らす。 しかし、そのまま全て倒して終了、ともいかない。 「お喋りが出来る程度に意識があれば上々という事では‥‥ダメですか?」 「尋問に二体。それも口が聞ければ十分だろう」 簡単な和奏の言い分に、竜哉は勿論他からも特に異論は無い。 「じゃあ、ねむねむさんでゆっくりしてもらいますの」 ケロリーナがアムルリープを唱える。やがて一体の鬼が横たわると、高いびきを始める。 気付いて、起こしにかかった鬼をルオウは蹴り付け、すかさず殲刀「秋水清光」を奔らせる。 さらに和奏の紅葉舞い散る刀「鬼神丸」が神速の刃を見せる。 「縄は無いですの?」 「燃やす可能性がある。‥‥ようは口が残ればいいんだろ?」 眠る鬼を縛ろうとしたケロリーナだが、その前に酒天が立つ。 一呼吸力を溜めると、鬼の足を斬りおとす。 さすがに鬼が跳ね起きた。のたうつ鬼を、贋龍は虚心で回避しながら見極め鎧で押さえ込む。 「怪我なんてしないで下さいね。問題が起きるのもアレですし」 注意を促す贋龍に、鬼が唸りを上げた。 軽く飛び退くと、その横合いから別の鬼が倒れこまされる。すでに他の開拓者により満身創痍になっている。 その二体以外に鬼の姿は無い。倒れた鬼たちは、ゆっくりと瘴気に還ろうとしている。 こうなると、誰の目にもアヤカシの仕業とはっきりする。 「何の為に修羅を名乗った。村を襲った目的はなんだ」 不審な動きが無いよう開拓者たちで警戒する中、酒天が詰問する。 忌々しげに顔を歪めていた鬼たちは、やがてゆっくりと嗤い出した。 「何がおかしい」 「目的など‥‥ただ命じられただけだ。修羅と名乗り暴れろと‥‥。全滅はさせるなと‥‥」 「誰から!?」 「上からだ!!!!」 まだそんな余力があったのか。突如、アヤカシが炎を吐いた。 燃え盛る炎が間近に迫り、さすがに一瞬隙も出来る。 その間に逃げにかかった鬼たち。だが、幾らもせずにこの業火の最中、猛吹雪が鬼を包んだ。ケロリーナのフロストマインに踏み込んだのだ。 すでに満身創痍だった鬼はそれで沈んだ。 残る一体にしても、どこに罠があるかわからないのでは、似たような身体で逃げ切るのは無理。 「シャア!」 道連れとばかりに、開拓者に向き直る。振るわれる拳を、和奏は篭手払で崩す。それでも執念か、和奏をかろうじて殴ったがそれまで。 一斉に放たれた技に為すすべもなく、アヤカシは瘴気に戻される。 ● 炎を消し、逃げ遅れた人々を救助する。 幸いというべきか、被害は知れていた。‥‥少なくとも他の村に比べては。 続けて治療を望む柚乃を残し、酒天と開拓者たちはギルドへの報告に急ぎ戻る。 「アヤカシが修羅を騙る‥‥か」 本来徒党を組まないアヤカシにあって、存在する命令系統。 「何のつもりにせよ、これから色々大変そうです。ねぇ」 頭を抱える无に、否定を入れる者は無かった。 |