【修羅】ぱんついっちょ
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/09 19:34



■オープニング本文

●死霊の玉座
 人骨を敷き詰めた寝床に、小柄な少女が寝そべっていた。
 少女は気だるそうな表情を浮かべたまま、手元でハツカネズミを遊ばせている。
「封印されたと聞いていたが‥‥酒天め、いまいましい」
 ふいにつぶやく少女。
 その小さな手をきゅっと握り締める。ハツカネズミは血飛沫と共に肉塊へと変わる。
 修羅の王――祭りの喧騒に誘われるようにして封印を解かれた酒天童子。かつて朝廷と覇を争ったとも言われる王が復活したとの報に、少女は不快感を露わにした。
 それも、酒天は再度封じられるでもなく、開拓者ギルド預かりの身となったと言うではないか。朝廷との間に再び血の雨でも降ろうものなら面白いものを‥‥どうも、そういった様子ではない。
「ならば争わせるまでじゃ」
 手元の肉塊を混ぜ捏ねるようにして放り出すと、ハツカネズミは再び腕を駆けはじめた。
「ふふ‥‥」
 少女の口元に、凄惨な笑みが浮かんだ。


 今日も物騒な天儀の空の下。
 二人の乙女が恥じらいの悲鳴を上げる。

「はーちゃん! はーちゃん! もふらさまが! もふらさまが酷い目に〜!!」
「泣くな、ミツコ! 気持ちは分かる! と、いう訳でやっちゃってくれるわね!!」
「何をだ?」
 そして、駆け込む開拓者ギルド。泣きつかれた乙女二人に、係員は困惑しきり。
「「勿論! 悪逆非道傍若無人荒唐無稽四捨五入の修羅たちよ!」」
「とりあえず適当言ったな?」
 どー考えても評価に値しない言葉が混じっており、係員は頭を抱える。
 が、二人の息は変わらず荒い。かなり頭に来ているのは確か。
「一体、何がどうしたんだ?」
「どうしたも何も! これよ!!!」
 ハツコが示したその先には、もふらさまたちが並んでいる。
 だが、その姿は哀れなもの。もっふもふの毛は短く刈られ、腰まわりだけが申し訳なさげに三角形に残されている。
 その姿はまるでぱんついっちょ。
「こんなあられもない姿にされるなんて! いっそ丸刈りにしてくれた方がっ!!」
「いや、それもどうかと思うぞ。それよりもふらたちの心配はないんかい」
「だって、別に怪我も無いし、毛もすぐ生えるし」
 乙女二人が小首をかしげる。見てる前で、へくちっ、とくしゃみをするもふらさま。
「寒いもふ」
 ふるふると身を震わせると、あっという間にもふもふの毛に戻った。
「被害は無いんだけど、もふらさまに手をかけた事は事実だよね! よって、こんな酷い事する修羅は成敗されて当然!」
「っていうか。ちょっと調べたんだけど、他にももふらさまたちが、修羅たちによってぱんついっちょな丸刈りにされてる被害が起きてるのよ。何考えてんだか分かんないし、その内毛刈りだけでなく危害まで及ばされるようになってからだと遅いじゃない」
 詰め寄られて頷く係員。確かに、明確な被害が出てからでは遅いのだが‥‥。
「しかし、何故修羅の仕業なんだ?」
「「目撃者がいるのよ!」」
 示されたのは、当のもふら様自身。寝転がって怠けたまま、その時の様子を語りだす。
「夜中に寝ていると、ちっこい鬼が六人こそこそやってきて、毛を刈られたもふ。でっかい刃物でじょりじょりやった後、また出て行ったもふ」
「‥‥悲鳴を上げるとか逃げるとか追っかけるとかは」
「眠かったもふ〜」
 それが当然とばかりごろごろ転がるもふらさま。
「そして、さらに! 現場には必ずこれが残されているのよ!」
 ミツコが懐から紙を取り出す。
 しわくちゃの紙には、どうしようもなく汚い字が書かれている。曰く、『しゅらちんじょう』。
「あー、『ち』じゃなくて『さ』ね」
 一瞬考えてから、係員納得。
「「こんな文字も満足に書けないお馬鹿な連中にしてやられるなんて! 必ずや捕まえて相応の報いを!!」」
 二人の声が見事に重なる。
 確かに放っておけないし、断る必要も無い依頼だが。
「しかし、これだけで修羅の仕業と断言するのはなぁ」
 修羅と名乗りを上げての襲撃が各地で相次いでいる。
 本当に修羅の仕業なのか。目的は一体何なのか。いろいろと調査中であり、報告を待っているところである。
「何言ってるのよ。ちゃんともふらさまの話聞いてた?」
 だが、馬鹿にしたような目で依頼人となった二人は睨んでくる。
「というと?」
 何か聞き逃しただろうか。
 あれこれ思い返すも、確信を得られるだけの証言ではなかったはず。
 そんな係員に気付いたか。ハツコが胸を張って答える。 
「小さい鬼が来たって言ってたじゃない。小さいといえば修羅でしょう!」
「いや、小さいのは主に一人であって種族全部が小さい訳じゃないから」
 自信満々に告げられたものの‥‥。
 大きい修羅だってちゃんといる。
 どうも妙な風に話に話が広がってるようで。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
朱点童子(ia6471
18歳・男・シ
ルー(ib4431
19歳・女・志
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
白仙(ib5691
16歳・女・巫
オルカ・スパイホップ(ib5783
15歳・女・泰
烏丸 紗楓(ib5879
19歳・女・志


■リプレイ本文

 日がまだ高くとも、こうも寒いのでは人の通りも少ない。
 それでも、朱点童子(ia6471)とオルカ・スパイホップ(ib5783)は宣伝活動として目ぼしい通りを練り歩く。
 ちなみに紙は高いので、立て看板での宣伝になった。
「いらっしゃいませ〜 いらっしゃいませ〜♪ 郊外にもふら一座のイベントだよぉ〜♪ こんなにいっぱいのもふら様見た事な〜い♪」
「もふら様たちによる遊戯を開催。暇ならばどうだ」
「はあ‥‥」
 オルカは兎耳をぴょこぴょこ弾ませ、元気一杯道化で声をかけ。
 朱点童子も普段の鴉で‥‥は目立ちすぎるので、そこそこ目立つ服に着替え客を集める。
 
 郊外に設けられた天幕に、もふらさまたちが集う。
「さん、はい♪ も〜ふら〜の学校は〜」
「もふー♪」 
「もふもふー♪」
「って、そこちゃんと付いてきてくださーい。いい子にしていたらオヤツをあげますよ〜」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)がもふらたちを前に指揮を振るう。
 が、そこは気ままなもふらさま。簡単な歌や踊りを思い思いに披露してくれる。‥‥おかげで一向に揃わない。
 それもまたもふらの愛嬌と観客に受けている。やはり可愛いは正義なのか。
 冬は出歩くのも鈍りがち。人々は退屈し、娯楽に飢えている。
 簡単な出し物ではあったが、もふら公演は冬の無聊を慰める好機となった。
 人の入りも上々。昼の一時をもふらと戯れて過ごす。

 そして、入り口では依頼人二人も箱を手に代金を回収する。
「はい。御代はこちら。お一人一文になります。お触り自由ですが、もふら様たちだけにお願いします」
「御利益ありがたな〜、もふら像は〜こちらで〜す☆ お賽銭はお気持ちだけで〜。お足元に気をつけてくださ〜い」
 その行動に戸惑う柚乃(ia0638)と白仙(ib5691)。
「あの‥‥、商用の興行じゃないんですけど‥‥」
「お賽銭取る為に‥‥、像彫った訳でも‥‥ない‥‥」
 いつの間にやら料金箱。
 興行用に白仙が彫ったもふら像は、いつの間にか祠に設置されて賽銭箱まで備えられている。
「分かってる。憎っき修羅を捕まえる為でしょ! これもその一環だよ!」
「無料の公演よりお金取る方が人気あるっぽく見えるでしょ? 修羅は馬鹿っぽいし、こうして人気と人目を集めればより狙って気安いじゃない? 大丈夫、ちゃんと良心料金。集まったお金も協力してくれたもふら様たちの御飯代にするから」
 ミツコとハツコなりにもふらに仇名す修羅憎しと協力してくれているようだが‥‥、
「‥‥あ、お客様! 代金はこちらになります♪」
 入り口でうろうろしている客に、すかさず料金箱を差し出しに行く辺り、どうも目的がすり替わっているような?
 まぁ、あの二人の行動はおいておくとして。
 問題はもふらを刈る修羅たちである。
「本当に‥‥修羅の仕業なのかな?」
 依頼人たちはそう決め付けているが、柚乃には疑問である。
 修羅の仕業とされ、赴いてみればアヤカシだった件もある。今回もそうでないとは限らない。
「そう思い込むのは誰も‥‥あ、いや、依頼人以外にはいないと思うけど。でも明らかに小鬼の仕業を修羅のせいだと言い続けさせるのは、気分良くないよ」
 憤りを隠さない依頼人たちを目にして、ルー(ib4431)は少々訂正。
 だが、修羅でなくても人の仕業とするには余りに稚拙すぎる。
「誰の仕業でもいい。実害は無いにしても、バチは当たってよい気はするわ」
 お尻だけもふもふパンツのもふら様たちに、謎の犯行文(?)。
 そこに一体何の意味があるのか。‥‥何にせよ、烏丸 紗楓(ib5879)は懲らしめる気十分。
「器用なのか、不器用なのかよく分からない相手みたいですね」
 アナス・ディアズイ(ib5668)は首を傾げる。
 丸刈りにした方が楽だろう。それを一箇所残すのはどういう目論見か。
 しかも腰まわりだけ?
「最後の一線はまずい‥‥とか?」
「越えると何かあるんですか?」
 ルーが適当に考えるが、やはりよく分からない。
「単なるデザインとしたらセンス無いですよね。どうせならブラジャつけるとか、プードルにするとか、そうすればいいのに〜。
 ミツコさん、ハツコさんもどうせ刈るなら可愛い方がいいですよね〜?」
 公演をはけたアーニャが、依頼人たちに同意を求めるが‥‥。
「簡単に言うけど、プードルカットって結構難しいのよ。いろんな技法が必要で、下手だともふ感が損なわれたり歪になったりするし」
「ビキニもねー。もふらさまつるぺただから胸の位置を見極めないとー、ずれたら不恰好だよー」
 すっごい真面目に即答された。
 何故そんなに詳しいのか。もしやこいつら犯人なのかと、一瞬疑いの眼が向いた。


 犯行は夜陰に乗じて。
 昼の興行を成功に治めた開拓者たちだが、本番はこれからである。
 集まってもらったもふら様たちにはもう少しお付き合い願い、用意した天幕に泊まってもらう。
 一見もふらばかりの寝所に見えるが、そこかしこに開拓者たちは隠れ犯人を待つ。
「はふ〜、幸せもふ〜、でもお腹減ったもふ〜」
 アーニャはまるごともふらを着込んで、もふらさまたちに混じって転がる。もふもふに埋まって至福で仕事を忘れそうだ。
「確かにお腹すいたもふ。何か無いかもふ?」
「だ、ダメですよ、もふら様。ここにいるのがばれちゃいます」
 幾つか用意された箱の中。その中にも開拓者は隠れている。
 耳と尻尾も丸めて潜んでいた紗楓に、突っ込んでくるもふらたち。
 もふもふは嬉しいが、大きさが紗楓一人用なので無茶。何とか押し出し、我慢してもらう。
「寒いのは確かですが、箱は狭いので‥‥。毛布もありますから‥‥」
 こちらも箱に隠れる柚乃。毛布に包まってるとやっぱり興味本位かもふらさまが寄ってくる。
 温かいのはいいが‥‥狭い。
「もふら様‥‥できれば、他の所で寝ていただきたいのですが‥‥」
 天幕を覗けるように、箱の下部を加工した白仙だが、その部分にみっちりもふらがくっついている。
 もふもふの毛が邪魔になって見えない。
 ‥‥どうも、人で楽しんでいるようだ。

「大丈夫なの‥‥いろいろと」
 残りは離れた位置で、やってきた犯人を囲めるような位置取り。
 藁の中で風を避けながら、ルーはもふらに群がられている箱の人たちを心配しつつ、動向を見守る。

 やがて人で遊ぶのも飽きたか。もふらたちの寝息やいびきや寝返りごろごろがそこらで見聞きできる。
 それもまた楽しいが和んでいられない。
 接近は割りと早くに気付いた。近付いてくる子供のような影が六体。こそこそと隠れるようにしているが、注意していた開拓者たちにはバレバレである。技量が低い。
 そして‥‥。
「やっぱり‥‥アヤカシみたいです」
 気付かれぬよう小声で柚乃は近くにいる者たちに告げる。
 張っていたのは瘴索結界。これに引っ掛かるなら、少なくともただの人間とは考えにくい。
 ふと修羅もかかるのか柚乃は気になったが、まぁ、それを試すのはまたいずれ。
 今は眼前の凶行を防ぐのが大事。
 暗い天幕内で、僅かに浮かぶ影には角の形。確かに鬼だ。硬い金属音と共に抜かれた刃が僅かな光に煌く。
 そのまま、寝ているもふらに近寄りその毛を掴もうとして、
「私はもふらじゃありません」
 すっくと立ち上がったもふら‥‥ではなくまるごともふらなアーニャが夢魔の弓で叩く。
「ウキャ!?」
 残念ながらさしたる痛手は負わせられない。だが、不意の反撃は驚かせるに十分だった。
 予想以上に慌てて騒ぐ相手一体に、鎖がかけられる。
「小鬼‥‥アヤカシか。依頼人に突き出してもいいが、逆に迷惑だろうな」
 鎖の一端を握るは朱点童子。暗視を使えば明かりがなくとも先だって動ける。
 柚乃と白仙も火種を生み出す。方々に仕掛けられていた灯りに火が入り、周囲が明るくなった。
 影から浮かび上がるのは小鬼。修羅とも思えないし、勿論獣人でもない。
 アーニャが鏡弦で弓を鳴らす。
「反応あり。はっきりアヤカシですね」
 瘴気や外見からしてもその通り。改めて言われるとやっぱりである。
 明るくなって、ようやく落ち着いた小鬼たち。そして状況を悟る。
「キー!」
 小鬼が叫ぶと、捕まった一体も残し、もふらを踏ん付けて逃げにかかる。
 アナスが逃げ道に回りこむと、ベイル「翼竜鱗」でぶつかり止める。
 その横をすり抜けようとした小鬼たちには、ルーが弾丸をお見舞いしている。単動作で素早く充填を行い、足を狙って動きを止める。
 アーニャも矢を番えて即射。
 退路を塞がれた小鬼たちは、手にした小刀をちらつかせる。もふらの毛を刈る為に見せた刃はこれか。
「怖がらなくても、命は取りませんよ。‥‥まだね」
 アナスが静かに告げる。
 睨み付ける小鬼をもう一度盾で止めると、カッツバルゲルでぎりぎりに手加減して斬りつける。 
「もふもふ。大丈夫もふか〜」
 そんな騒動の最中、やっと起きたもふらさま。
 人質ならぬもふら質にでもしようというのか、小鬼が近付く。
「注意は後衛だけでなくこちらにもか‥‥っていうか、もふらさま暢気すぎ!」
 後衛に危険が及ばぬよう、守りについていた紗楓が小鬼の前に割り込む。
 出された刃をガードで止めると、珠刀「青嵐」を返す。
「オシオキの時間ですよ〜。でもアヤカシ相手なら〜、手加減する必要もないのでしょうか〜?」
「全滅は困りますが‥‥後は‥‥適当に?」
「はい〜」
 場を身軽に飛び回っていたオルカは、一瞬で間合いを詰めると素早い一撃を繰り出す。
 小柄な鬼は宙を舞い、天幕の奥へと押し戻されていく。

 自由なままにしておいては、またどんな事をしでかすか分からない。
 とりあえず、アナスと白仙が荒縄で縛り上げ、その上から鎖を巻く。
 逃げ出したりしないよう、周囲を取り囲む。
「でも、私。最近来たばっかりで修羅を見たこと無いんだけどね」
「僕も、修羅とアヤカシの判断が出来ないんだよね〜。ついでに誰か教えてくれないかな??」
 まじまじと捕らえた小鬼を見ながら紗楓が一言。
 オルカも興味深く乗っかる。
 問われて、幾人かがほぼ同時に顔を合わせた。
「修羅は人と変わらない、との話だけどね」
 ルーが自身の額に触れる。
 アヤカシの鬼の異形ぶりと修羅たちでは、角のある人型というぐらいであまり似てない。
 だが、過去の朝廷が修羅を鬼と呼んだからか、いろいろ情報が混在している。
 改めて考えると、修羅について分からない事も多い。
 とりあえず、酒天童子は規格外な所もあるので標準とは言い難いらしい。
 アヤカシとの同義は否定しているのだから、今の所はそうなのだろうと思うしかない。
「ともあれ、これはアヤカシであり毛狩りの犯人なのは明白‥‥。なんであんな形にもふらを刈ったんですか?」
 修羅との差異はさておいて。
 アナスが小鬼たちに問い正す。
「そうです! なんでパンツなのですか! プードルにしましょうよ〜」
 アーニャも力一杯訴える。何か違ってる気もするが、ぱんつ姿にした不思議は誰も同じ。
 だが、返答は。
「キャキャキャ!」
「ウギュ、ウギャ!」
「キュー!!」
 奇声を上げてばかりで、話にならない。
 朱点童子が無言のまま、手にした鎖を締め上げる。悲鳴が上がったが、抗議もまた奇声。
 どうやら会話は難しいようだ。
 では筆談はと地面に書かせてみるが、あの妙な「しゅらちんじょう」の文字は書くがそれ以外は今一つ。というか、それしか覚えてない。
 アヤカシとて幅広い。人知を超える知恵を持つ敵もいれば、虫以下の反応しか示さない者もいる。
「たいした知性は無いらしい。実力といい、小物だな」
「そうなると‥‥。勝手に他者を語る知恵とかも文字を覚える教養も‥‥無いよね?」
 結論付ける朱点童子に、白仙は推測を口にする。
 自分で出来ないなら、やらせた誰か――何かがいる。
 修羅を騙るアヤカシの事件は他にも報告されている。広範囲に及ぶそれは規模が大きい事を示す。下手に手を出せば、こちらの身が危うい。
 小鬼たちを締め上げても白状させる事はできないだろうし、泳がせても果たしてこの程度の相手では意味があるのか。
 尋ねる事は最早無い。
 ならば、やる事は一つ。
「ぱんついっちょの刑!! だよね〜。もふらさまは毛が再生するけど‥‥キミらはどうなのかなぁ〜」
 邪悪な笑いを浮かべるオルカ。
「毛の再生だなんて‥‥。もうもふらさまを襲わせないよう‥‥骨の髄まで‥‥分からせる」
 白仙は黒い感情を宿した目で白霊弾を撃った。


 アヤカシは瘴気に還すと、協力してくれたもふらたちに礼を告げる。
「ああ、お一人ぐらいお持ち帰りしたいです〜」
「ダメもふよ〜。もふは皆のもふもふ〜」
 もふもふに顔を突っ込んで別れを惜しむオルカに、もふらたちは不敵に笑う。
 各もふらが飼い主の元に、あるいはまた気ままな生活に戻すと、今度は依頼人たちに報告。
「アヤカシだったの? 修羅じゃなくて?」
 顛末を話すと、頭から思い込んでいた二人は寝耳に水だったようで。
「でも本当に、なんでもふら様なんだろう」
 首を傾げるルー。
 事情が聞けなかったので謎も残る。
 修羅襲撃で滅んだ村も多い。それに比べれば、今回軽度に済んだのはいいのだが‥‥。
「そりゃあ! もふらさまの愛らしさに嫉妬してだよ! もふら様可愛いんだもん!」
「‥‥と、もふらさまの為なら幾らでも相手を怒れるって人はいるし、かくいうあたしもそうだね。‥‥だとしたら、見事に踊らされたわよね。小さい鬼って聞いたし、てっきりね」
 憤っているミツコを宥めて、ハツコは少々反省。
「修羅の人たちはみんな大きいよ‥‥背が小さくても‥‥大きくても‥‥魂が大きくて強い‥‥」
 白仙が笑って告げる。
 今はまだ冷遇されている種族だが、いつか人と和解できる日が来るかもしれない。
 だが、それを望まぬ者もいる。人の中にも、それ以外の中にも。
 今回の事件も、そういう事なのかもしれない。
「そして何故パンツ?」
 何かの手引きにしても、あの刈り方でなくてもいいはず。
 アナスの素朴な疑問には、依頼人たちも首を傾げる。
 案外、小物なアヤカシのささやかな主張だったのかもしれない。