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■オープニング本文 アヤカシの影響か、単なる異常気象なのか。今年は雪がよく降るようで。 普段は雪が降らない地域でも、雪の話がちらほら聞こえる。 「姉ちゃん! 雪! 雪だよ! 積もってるよ!!」 「ほら、風邪ひくから暖かくして遊びなさい!」 見慣れぬ雪景色に二人の弟はおおはしゃぎ。面倒見役の長女が服を着せる前に、外に飛び出していこうとする。 母親は数年前に他界。父親は生活の為に、この冬は別の町でずっと働きに出ている。 家を任されたのはまだ手足の伸びきらぬ長女と、幼い弟二人。御近所衆も様子を見ているとはいえ、それなりに苦労は絶えない。 吐く息の寒さなど子供にとっては何でもない。 遊び場でもある隣の空き地に飛び込むと、雪合戦に雪だるまにかまくら。橇で雪溜まりに飛び込んだりとさんざんに遊び倒している。 その遊んでいる合間にも、長女は家の掃除や洗濯など家事に追われる。むしろ弟たちが外で遊んでくれていた方が邪魔されなくてやりやすかったが、 「姉ちゃーん、僕の玩具が無いー!」 しばらくすると、弟の一人が泣きながら家に戻ってきた。 「またぁ? 最後にどこに置いたの?」 「分かんない。どっかに埋めた」 「だから隠すなら分かりやすい所にしなさいと前から言ったのに‥‥」 長女は頭を痛める。 隠した物を探す遊びは前々からやっていた。隠した場所が分からなくなり、泣きついてくるのもよくある事。 しかし、今回は勝手が違う。 普段なら子供の隠す場所、隠せる場所は限られ、また痕跡も何かしら残る。 が、雪の中なら誰だって簡単に隠せてしまう。降り続ける雪は些細な痕跡など隠してしまう。 「姉ちゃ〜ん‥‥」 「分かった分かった。皆で探そ? でも、見つからなくても我慢しなさいよ」 半分疲れたように長女は諭す。 弟らが遊んでいた空き地は、昔民家だった場所を取り壊した場所。家こそ無いが、その分、更地が広々と広がっている。 一方、無くしたという玩具は布で出来たもふらさま。白くて小さくて子供の片手に納まる程度。 弟らの作った雪だるまやらが橇用の滑り台やらも適当に置かれている中、そんな小さな物が見つかるとは思えなかった。 「で、まぁ、結局見つからなくて。弟は泣いてましたが、仕方ないよと諦めてもらったんですが‥‥。家に帰ってから、髪に刺してたあたしの櫛が無いって気付いたんです。探してる途中まではありましたから、多分その後で落としたみたいで‥‥」 長女は開拓者ギルドに訪れる。 ギルドの係員相手に、事の次第を弱り顔で説明していた。 「母の形見なんです。何とか探しだしてもらえないでしょうか?」 すがる目で、長女は係員を見る。 そんな顔をされると無碍には出来ず、また断る程の依頼でもない。 「ちなみに、その櫛の特徴は?」 「木を削って作った普通の櫛です。特に色付けも無く、花の細工が掘り込んでありますけど、正直古いのでちょっと分かりづらいかも」 髪に飾る程度なので、あまり大きくも無いという。 「分かった。手伝ってくれるものを募集してみよう」 つまり、雪原に落ちた小さな木の破片を探すのか、という率直な意見はとりあえず依頼者の前では胸に仕舞い。係員は、開拓者たちに話を通した。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲 |
■リプレイ本文 外の景色はほぼ白一色。影の陰影で墨絵のように見える。 雪、まだ止まず。厚い雲からは、しんしんと降り続けている。 「雪が降ると、普段出来ない遊びが出来て楽しいよな♪」 まだ柔らかい雪を両手で集めて固め、叢雲 怜(ib5488)は小さな雪だるまを作る。 「何、雪遊びだとー!?」 「違うよ! 依頼者さんの大切な物を探すんだよ!」 心浮き立たせる緋那岐(ib5664)を咎めたのは、でかい蛙‥‥ではなく、まるごとじらいやを着込んだルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)。 「えー。違う‥‥つまんね‥‥いや、なんでもない」 せっかく適度な雪があるのだ。のんびり遊び倒せたらどれほど楽しいか。 緋那岐が思わず不平が口に出すと、途端、周囲からちょっと困ったような目線が飛んだ。 「そうだな。今回は落し物の捜索だったのだ。時間が経てば経つほど落し物が雪に埋まっちゃって見つけ難くなりそうだし、早く見つけたいよな」 怜も雪だるまを横に置くと、毛皮の手袋についた雪を払う。 その雪だるまにもぽつりぽつりと雪は舞い降りている。ゆっくりと、だが確実に厚みを増している。 「大切な物、壊さないように見つけないと‥‥。雪との戦いですね」 礼野 真夢紀(ia1144)は曇天を見上げる。 雪景色が心に響く一方、雪自体は酷く厄介な相手だった。 ● 「それではお願いします」 訪れた開拓者六名。 依頼者の少女が頭を下げる隣で、二人の弟もすがるような目で見てくる。 探すのは主に少女が失くしたという櫛。 「母の形見の品‥‥か。そういう事であれば、何としても見つけ出してやりたいものだ」 事情を聞いた明王院 浄炎(ib0347)はしみじみと思う。 そして、もう一つ。そもそも櫛を失くす原因となった弟の紛失。 こちらはそれ程重要でもないらしく、口には出してこない。が、出来ればそのもふらぬいぐるみも見つけてくれたら‥‥という思いも見え隠れする。改めて買うなり作るなりできても、それは愛着の差だろう。 失くしたという現場は隣の空き地。そこと依頼者宅を含めても、範囲は限定されている。 だが、元は住宅だったというその空き地の広さは結構なもの。 そして、止まない雪はぼやっとしてると隠し物をさらに深く埋めていく。空き地に出向いていると、子供たちの遊んだ後や探したらしき痕跡の上にも雪は積もり、奇妙な凹凸になっている。 「依頼者さんの話では。弟さんから話を受けて捜索中、髪が邪魔になって整えなおし、その時は櫛はあったそうです。で、あっちやこっちやを探して弟さんの落とし物は見つからず、家に帰ってふと髪に手をやると自分の紛失に気付いた、と‥‥」 和奏(ia8807)が空き地を見遣り、状況を説明。 「‥‥。そうですね、龍さんのソニックブームなどで雪を巻き上げたら見えたりしないでしょうか。一緒に飛んで行っても、もふらのぬいぐるみは色が賑やかそうなので飛んでいくのが見えそうですが」 「空飛ぶもふらなんてやめてくれ」 和奏の提案に、若干緋那岐の顔色が悪くなる。ぬいぐるみであっても、出来栄え如何ではトラウマが疼く。 「壊しても仕方ないですからねぇ。では、炎魂縛武で雪を溶かし‥‥たついでに、対象が焦げたりしても大変です。ここは地道に行きますか。‥‥おや、颯さんどうしました?」 依頼人から聞いた行動順に巡ってみようと動きかけ、和奏は自身の駿龍がジト目で睨みつけている事に気付いた。 龍にしてみれば。取り立てて活躍もなさげなのに、雪原に連れてこられては寒いだけ。もふらや忍犬たちのような毛皮など持たない分、身に堪えるようだ。 開拓者たちにしても、各自で防寒着を着込み寒さ装備は万全。それでも、吸い込む空気や顔など露出した肌などから、外気の冷たさを十二分に感じる。 ちらつく雪を気に留めてないのは、緋那岐の忍犬ぐらいか。 「歩き回るのはいいが、埋もれているのに気付かず、踏み砕いたりしないよう十分注意してくれ。雪かきなども同じだ。物が古くて壊れやすい以上、破損の可能性は常に念頭に置き、足運びからして細心の注意をはらうのがいいだろう」 大きな鍋などを運び込みながら、浄炎が注意を促す。 その鍋は空き地の中央に設置され、真夢紀の用意していた大小二つの薪に設置される。 真夢紀が火種で薪に火を付ける。降る雪の水分で少々苦労したが、やがて赤々とした炎が巻き起こった。 「邪魔な雪は溶かせばいいですし、そのお湯を撒けば雪も溶けますよね? こちらで温まる物を作っておきますから、冷えた方は御遠慮なくどうぞ」 悴む指を温めると、真夢紀は持ってきた食材を使って早速調理に取り掛かる。 ● 広い空き地を闇雲に探っても、取りこぼしが出る。 まずは小さな区分を作り、一区画から順番に巡っていくのだが。 「消えちゃいますねぇ?」 ヘラで升目を作り、その中を隈なく探すルゥミ。ふと掘り返した所を振り返ってみると、新たな雪がどんどん降り積もっている。 何となく差は分かるが、あまり時間をかけすぎると自分たちが掘った穴なのか、子供らが遊んだ跡なのか見分けがつかなくなりそうだ。 「少し高めの位置に印を付けるか」 緋那岐は棒を等間隔に立てると、縄を張って区切りを付ける。これなら早々埋もれる事は無い。 「捜索範囲としては、ぬいぐるみにしても櫛にしても。弟くんたちが遊んでいた辺りが怪しいかな」 雪だるまに、暖をとるかまくら。斜面を利用して表面が均された滑り台、と楽しげな遊具があちこちに置かれている。 怜たちもその辺りを重点的に調べ上げていく。 「雪、重っ!」 掻いた雪を火に運び、怜は思わず息をつく。ふわっとした印象ながら、所詮水の塊。纏まれば結構な重量になる。 湯にくべて水に戻す前に、もう一度丹念に雪の中に棒を突き刺し、手ごたえが無いかを探る。 無い事を確認した上で、鍋へと放りこむ。 「火傷するなよ」 「分かってるって」 熱湯も火も扱いを間違えれば危険な代物。 よく探したつもりで、探し物がぽろっと火に落ちて消失、なんてのも勘弁だが。落とさないよう火にばかり注意して、鍋をひっくり返したり、お湯が跳ねたりしてもしょうがない。 雪を溶かした上で、さらに鍋を確認。探し物浮いてないかを確かめる。 「無いなー。やっぱそう簡単に見つからないね」 浮いているのは精々葉っぱや木の枝。 怜は軽く肩を竦めると、続けての作業に戻る。 同じく浄炎も雪を掻き、溶かす作業を続ける。 「こちらも気を付けるが‥‥、水が凍結するして滑りやすくなる。ここら付近の足元は特に注意してくれ」 ある程度、鍋が埋まったら余分な水は空き地の隅に捨てる。 その作業の繰り返し。 「お子様たちが遊んでる時点で雪は積もっていた訳ですし、根元までしっかり掘る必要は無いでしょう。多分、半分ほど堀り下げて無いならそこには無い、と思われます」 雪を溶かしながら、真夢紀は推測する。 ルゥミも這い蹲って掘り進み、根気よく作業を続けていた。 目線は地面とほぼ同じ。だから気付けたのだろうか。 ふと目に入った雪だるま。真っ白いその足下に、赤い色が見える気がした。 壊すのが気に引けたが、気になったので少し崩してみると、確かに、より色が鮮明になった。 「あ、あった。もふらさま」 思い切って大きく雪を削ると、中からずるずるともふらぬいぐるみが出てきた。 「何故ここに?」 「雪に埋めたのを忘れて、上に作っちゃったとか?」 疑問はあるが、また後で聞けばいい。 見つけたぬいぐるみは早速弟たちに渡しておく。もちろんもう失くさないよう、とくと言い含めて。 もふらぬいぐるみが見つかった歓声は、隣で作業を続けていた開拓者にまで届いた。 すぐにでも礼を言いたかったようだが、今は待ってもらう。迂闊に踏み込まれて、壊されたり却って作業の邪魔になってしまってはしょうがない。 ● 残るはお姉さんの櫛のみ。 案外ぬいぐるみが見つかった近くで見つかるかとも思ったが、こちらは一向に見当たらない。 「もふらを探す際に見当たらなくて、結構あちこちと見て廻ったそうだからな」 もふらが見つかって一安心。いきなり目に飛び込んでくる心配が無くなり、緋那岐は安心してうろつきまわる。 長女の歩いた道順は、遊んだ場所を中心に探し、念の為に家との柵の方も探し、見つからないので四隅の方まで探し‥‥と行動範囲が広い。 外気の冷たさに、知らず身体の中も凍えてくる。 しばしば作業を中断すると、真夢紀の作る雑炊や甘酒などで温まる。 「冷えますねぇ。風邪ひいたりしないといいですけど」 和奏は雑炊を受け取り、ふーっと湯気を吹く。 「動き回って汗もかくからな。それで体が冷えて体調を崩す事もある。下着など濡れたなら、適時着替える方がいい」 用意のいい浄炎は、着替えもある程度用意している。まさか空き地で着替える訳にも行かず、その際は、隣の依頼人宅を借りるのだが、そうすると弟たちの様子も目に入る。 見つかったもふらぬいぐるみでせわしなく家の中を駆け回り、姉が面倒に追われている。 微笑ましい光景だが、なるべく早く、空き地を開放する方がよさそうだ。 「といって、無茶してぶっ倒れて迷惑かける訳にもいかねーしな。適度にやるか」 以前似た作業で、失態を犯したようで。 緋那岐は焦らず地道に雪を掘り起こし集め。忍犬の疾風も、主に習って雪を掻く。 単調なのに重労働。次第に言葉も少なく、ただただ作業に没頭していく。 「‥‥。まさか見落としたなんて事無いよな?」 探した面積を振り返り、怜は不安にかられる。 そうならないよう、念には念を入れて雪の中を調べ上げていったのだが、こうも見つからないと不安も多少出る。 「ううん。ちゃんと丁寧に調べて来たんだもん。絶対まだ無いんだよ」 「ですね。まだ探してない場所もありますし、そのうち見つかるでしょう」 強く言い張るルゥミに、和奏ものんびりと作業を続ける。 それからさてまたどのくらい経ったか。次の区分に映ろうとした時に、ふと、忍犬がその鼻先を唐突に雪に埋めた。 「どうした?」 しきりに何かを気にしている。見ると新雪の下、薄い木の形が見つかった。 「‥‥。おお、あった!」 見つかる時は本当に一瞬。 慌てて雪を除け、緋那岐が櫛を掲げて大声を上げる。 掲げた櫛は、確かに聞いた特徴と一致していた。 ● 「よ、よかったあー。ありがとうございます」 櫛を届けると、長女は座り込んで礼を述べる。 「大切な家族との思い出の品。見つかってよかったな」 「はい、以後気をつけます!」 浄炎が語りかけると、長女は涙で目を潤ませて強く頷く。 母の形見とあれば思い入れも一入。開拓者たちもほっとする。 「あのね。もう空き地で遊んでいい?」 弟たちは小さいからか、どれ程の物か分かっていない様子。それ以上に、自分たちの興味で一杯だった。 「勿論。あ、そうそう‥‥あんまり姉ちゃんに迷惑を掛けちゃ駄目なのだよ〜!」 「「はーい」」 相等退屈を持て余していたのだろう。 遊んで散らかっている家の中に、怜は苦笑しつつ、しかと弟たちに言い付ける。 「おーし、雪合戦やろーぜー」 緋那岐が誘うと、弟二人は笑顔で外に駆け出していく。 ついでとばかりに、浄炎が家周りの雪かきを行い、真夢紀はその雪を掘り起こした空き地に均し、滑り台を作り直す。 「どうしました?」 駿龍と一緒に火に当たっていた和奏の元に、ルゥミが並ぶ。 「冬眠で雪の中でじっとしてるとつまんないんだもん。蛙ごっこは春になってからだね」 残っていた甘酒で温まると、ルゥミはやっぱり蛙のようにケロケロと飛び、子供らと一緒に跳ね回る。 春はまだ先だが、家族の表情は明るい。 思い出も笑顔も、凍結させずに済んだようだ。 |