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■オープニング本文 朝廷と修羅との和議成立。とりあえず差し出された手は繋がる事が出来た。 では、即次の行動へ‥‥と逸る思いはあれど、これがなかなかうまく行かない。 遺恨は飲み込めど、ただそれだけで五百年に渡って蓄積された問題が瞬時に解決できるものでもない。 大アヤカシからのいらぬ茶々もあって、今はまず現状の整理が優先されている。 「ま、ここまで来てじたばたあがいてもしょうがねぇってのはあるけどー。まどろっこしいわな」 神楽の都の図書館にて。やや苛立ちぎみに酒天童子は卓を叩く。 和議成立により軟禁状態は解かれたものの、監視など気にせず自由に動き回ってたのでそこらは前と変わりない。 いや。朝廷との話し合いなどで、遷都と神楽の都を行ったり来たりしている今の方が時間に束縛されているようだ。 現状は回復傾向にあり、問題も少しずつ解決に向かっている。 朝廷とて動いているので、一人気を揉んでも仕方ない。 「それで‥‥、何故図書館に?」 とりあえず目ぼしい書簡を持って館内の卓についた酒天を、護衛の一人がもの珍しそうに見る。 軟禁が解かれ監視目的は無くなったが。アヤカシの動向がよく分からないので結局護衛としてそのまま数人が付いて回る状態。結局あまり前と変わってない。 「お偉方と話してても、地形とか歴史とか今一つぴんとこねぇんだよなー。寝てる間何があったかざっとさらえとこうと思って」 途端、護衛たちの顔が濁る。 「今頃ですか? 和議前から神楽の都にいていろいろと自由に動き回れたのに、呑んだくれてばかりいたもんだから今困るんでしょう。鍛錬もそうですけど、勉学というものも日々の習得により身につくもの。俄か仕込みで覚えてもすぐに頭から抜け落ちて‥‥」 「うっせ! やろうと思うことが大事だろうがっ!」 護衛の正論に、酒天が思わず声を荒げる。 即座に周囲からきつく睨みつけられる。図書館では静かに、だ。 無言のまま頭を下げて回ると、罰が悪そうに酒天は座り直す。 「とにかくっ! 俄かだろうが、なんだろうが人がやる気出してるんだから余計な口を挟むな!」 小声でも語気はきつく。酒天は護衛たちを一睨み。 護衛もそれ以上は口を挟まず、離れて様子を見る。 そして、しばし経過。 「‥‥寝てますね」 「いますよねー。活字見るとすぐ寝る人って」 やけに静かと思いきや。 卓に突っ伏して寝こける酒天を、護衛たちは見る。 「いやまぁ、最近ばたばた動き回ってるし、お偉方との謁見で気疲れとかもあっただろうと」 「あの無駄な元気と野太い神経でか」 一応、援護もしてみるがやはり笑われる。言った当人も苦笑しているが。 「で、どうします? 起こします?」 ぽそりと出された提案に、護衛たちはしばし沈黙。 寝るのならとっとと帰れとばかりに図書館職員たちは睨んでいるが、うるさくはしてないし本に破損の危険は無い為か、それ以上は特に言ってこない。 下手に起こすと怒られそうだし。そもそも起こしてもまた寝そうな気がする。 厭きてどこかに行こうとか考えられたら、また振り回される。 「まぁ、ここなら襲われる心配もなかろうし、放っとくか」 「そうしましょか」 不機嫌な職員たちに無言で詫びを入れると、とりあえず護衛たちは見守る事にする。 今日は館内の用事があるとかで、図書館は夕方まで。 例え僅かな間でも、静かにしてくれるなら、その方が護衛にとっては楽なのだ。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
橘 天花(ia1196)
15歳・女・巫
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
白藤(ib2527)
22歳・女・弓
カメリア(ib5405)
31歳・女・砲 |
■リプレイ本文 紙の値段が高いのだから、比例して書物の値段も高額になる。印刷の人手や手間をかければさらに増す。 大勢に買ってもらえるなら一冊の値段を抑えても資金回収が出来るが、読む人が限定される本はそうもいかない。そういう場合、値段はどれだけのものになるか。 また書というのは意外に嵩張る。数を増やせば空間重量共に家の負担になる。 古い木簡竹簡になれば入手自体が難しく、管理も一苦労。 知識を求めても、個人で書を集めるのは限界がある。 なので、古今東西の書を集め、かつ、一般公開もしている神楽の都図書館は、書を求める者にとって実に居心地のいい場所であった。 「おはようございます! 今日もお邪魔させて頂きますね」 勿論足を運ぶ開拓者も多い。 橘 天花(ia1196)は職員に挨拶をすると、慣れた手つきで来館帖に署名。勝手知ったる目当ての書架へ足を向ける。 防犯用の署名さえすれば、後は比較的自由。 入館には保証や紹介状を必要とし、基本的に申請した本しか閲覧できない遭都の図書館とは随分な違いである。 もっとも自由に人が出入りする分、書の破損も酷くなる。なので、本当に重要な本はやはり閲覧が制限されているが、それでも読める本は多い。 天花が足を運んだ書架には、天儀の歴史を中心に納められている。朝廷が認めた正史は元より、外史や歴史物語すっとんで御伽草子のような物まで幅広い。 ただし、朝廷を批判・否定する内容はほぼ無い。 世間を賑わせた『修羅』も歴史に深く関係するものの、関する書は無い。あっても世間に流布するアヤカシとして扱われているような話になる。 それが書物の限界なのかもしれない。 「そうですね、今日は大天儀史の三巻から読ませていただきましょう」 それでも知識は知識。ざっと見渡し、天花は一冊の本に手を伸ばしかけ。 別の本を取ろうとした誰かの手と接触する。 「あ、申し訳ありません」 「こちらこそ失礼いたしました」 互いに一歩退くと、頭を下げあう。 その相手、秋桜(ia2482)は歴史書の中から簡単な物を何冊か選ぶと、もう一度お辞儀をして閲覧用の卓へと向かう。 天花はそんな彼女を何となく見送った後に、改め書を手にする。 図書館は静かに、が常識であるが。 実際には書をめくる紙の音、書架上段の本を取ろうと梯子を動かす音、歩き回る足音、ひそひそ話など様々な音が飛び交っている。 されどそういった雑音も耳に入らず、近くの椅子に腰を下ろすと、すぐに天花は書に没頭し始めた。 趣味の読書を思い切り満喫すべく、図書館に来たのは以心 伝助(ia9077)も同じだが、閲覧室の様子が変なのに気付く。 「酒天童子さんが来てるでやんすか。‥‥話しかけても大丈夫でやしょうか?」 注目の視線を辿っていけば、卓の一角で寝こけている少年を見つける。獣人でもない角はすぐに正体が知れる。 声をかけるか迷ったものの、邪魔するのも悪いかと今は自分の趣味を優先する。 旅行記や伝記などの本を探して、書架を歩く。 「こういう知識も、情報屋とはしては必要でやんす」 特に依頼でよく関わる武天や石鏡方面は気になる所。祭礼の巫女の国石鏡と気骨のあるサムライの国武天では、国が近くても風土も習慣も当然異なる。 その異なる雰囲気を楽しむように、伝助は本を読み比べ。 いつしか、珍客の事などすっかり忘れて自分の世界に入り込んでいた。 「申し訳ありません。読まれてない本は書架に戻していただけますか?」 「すみません。今、片付けます!」 砲術の本を読んでいたカメリア(ib5405)だったが、職員から注意を受け読み終えた本を書架に戻す。 砲術士で銃オタクのカメリアは、朱藩の銃に興味があった。朱藩は事実上の鎖国時期があり、その為か関する書物も他国より少なめに思える。 なので、却って本を集めやすかったが‥‥、やはり自分が埋もれるまで所持するのはやりすぎか。 一旦本を戻し、次の本を探し出すと、足が自然ジルベリアの書架に向いた。 銃を紐解けば、ジルベリアも無縁では無い。そうでなくとも、カメリアには気になる事がある。 「結構揃ってますねぇ」 書架を覗いて、カメリアは目を輝かせる。 天儀はジルベリアと国交を結び、また、神教会の布教も禁じてはいない。その為、ジルベリア発行の神教会に対する攻撃的な書物や天儀神教会発行の布教本は元より、対立に関して公平に考察された学術書や一方を批判する論文など隔て無くある。 「ここに棲んじゃ駄目ですか? 駄目ですよねぇ。駄目ですかぁ‥‥」 ずらっと並ぶ書に、カメリアは溜息をつく。 そう望む本好きは多いが、さすがに許可は出ない。 一通り目を通すと、また図書館を散策してみる。 ● 「うにょぁ! なんだっ!?」 いきなり耳に息を吹きかけられ、酒天童子が飛び起きる。途端、周囲から降り注ぐ厳しい目。 「駄目ですよー。図書館では、しー、なのです♪」 「いや、だから‥‥いきなり何する!?」 抱きつこうとしたケロリーナ(ib2037)を無意識に止めながら、酒天は周囲を見渡す。 「え? でもこうしたら眠気が吹き飛ぶって‥‥」 「どこの誰だ、んな事教えた奴わっ!」 吹きかけた張本人・柚乃(ia0638)はただ小首を傾げる。 「活字見て寝てる人初めて見た‥‥。でも、お疲れ様、なのかな?」 本を手に席を探していた白藤(ib2527)。ケロリーナが手を上げて呼ぶが、その傍にいた酒天に驚きを見せる。 「ありがとよ。まだやる事山積みだけどな」 酒天は軽く欠伸をする。 「ほぅ、酒天童子殿か。他の修羅には関わった事はあるが、こうしてお会いするのは初めてか」 「こんにちは。砲術士のカメリアと申します」 起きたのならこれも縁と、羅喉丸(ia0347)とカメリアも挨拶に向かう。 護衛は少し離れた所から、寝てる方が静かで良かったのにー、ってな目で見ているが、起きたものはしょうがない。 「歴史を調べてるのですか?」 「まぁな」 カメリアが酒天の読んでいた本を覗き込む。 「そちらは‥‥アヤカシについてか」 「ええ。少し、ね」 薬草の本に目を通していた白藤は、重ねていた別の本を羅喉丸に問われる。 一冊手に取ると羅喉丸は興味深げに目を通す。 「アヤカシに遅れを取らぬよう、既存の報告例を読みに来たが‥‥本当にでたらめだな。ほぅ、こちらには賞金首も載っているのか」 凶悪そうに描かれた絵に、羅喉丸は苦笑する。 だが、それを押し黙って見ていた白藤は、重い表情で酒天にそっと尋ねる。 「実は聞きたい事がありますの。人語を喋れて‥‥ほとんど傷を残さずに開拓者も殺せるアヤカシを知りませんか?」 「その情報だけじゃなぁ。下級でも人語を話す奴はそれなりにいるし、術を使えば外傷つけずに呪い殺すぐらいできそうだし。もっとも五百年前とじゃ状況全然違うし、俺が知るアヤカシの方が少ないさ」 「‥‥そう」 あっさりと告げられ、白藤はふと息を吐く。 「この間の弓弦童子はどうなのですの?」 そんな白藤の隣に席を取り、心配そうにしていたケロリーナは別の事を思い出す。 「あいつもなー。いろいろ聞かれるけどよう分からん」 散々荒らしまわった賞金首だが、狙われた当人は首を傾げるばかり。 「面倒ですね。もふらさまの歴史なら簡単なのですが」 物騒な話に、柚乃も眉根を曇らせる。 もふらは天儀の最古から存在していた。そして、その頃からもふもふごろごろと生きている。きっとこの先ももふもふごろごろし続けるだろう。 「皆様いろいろ調べてるのですねぇ。‥‥どうでしょう、帰りに今日分かった事皆で交換しませんか? 何人分もお勉強できて御得ですよぉ」 「だったら居酒屋とか、お酒が飲める料理のお店でとかどうでしょう? ここで賑やかにする訳には行きませんし、酒天くんもお酒呑みたいでしょう?」 カメリアの提案に、雰囲気を変えるように白藤も頷く。 「帰りと言わずに今からでも!」 「それは何しに来たんだ?」 居酒屋に飛びついた酒天に、羅喉丸が密かに頭を抱えた。 ● とりあえず要点だけ抑えておけばいいと、羅喉丸は天儀の歴史を掻い摘んで説明する。 「‥‥この嵐の壁を突破して見つかった泰から俺の修める武術が伝わったんだ。最近では新大陸のアル=カマルが発見されたが、この開拓事業時に現れた魔戦獣について朝廷は何か知ってたようだが、修羅の方でも何か知ってるか?」 「ぐー」 「寝るな」 丁寧に話すが、相手は卓に突っ伏している。 してみると、勉強というものにあまり興が乗らないようだ。 それでも話は聞いていたらしく、肩を竦めて話しだす。 「朝廷の秘匿ぶりは徹底してるからなぁ。ちょっとやそっとじゃ手がかりすら掴めん」 酒天が渋面を作る。その秘匿のせいで、歪んだ歴史の中に放り込まれた修羅を思えば当然か。 「酒天くんは五百年前の天儀や歴史を知ってる承認ですの。当時の天儀や帝はどんなだったです? 故郷の島は?」 「朝廷はもっといばってた‥‥ってのは、さておき。俺が言うのもなんだが、アヤカシが少なかった分平和だったな。あー、でも宝珠がある分生活は今のがいい。帝は‥‥今の方がマシなのかなぁ」 答えながらも、酒天は顔を顰め考え込む。今も昔も、一筋縄で行かないのが朝廷という所か。 「島はいい所だぜ。贔屓目もあるけど‥‥まぁ、住みづらいって事は無いな」 過去を見る酒天の顔が少し綻ぶ。が、その表情が皮肉げに歪む。 「もっとも、今はどうなってるか分からないけどな」 閉ざされた門の向こう側。五百年の内にどう変わったか。 「その修羅には、何か武術が伝わっているのか?」 未知の世界への興味は尽きない。羅喉丸が気になるのはやはり自身の動きにも関わる事柄。 「無かった訳でも無いけど。今に伝わってないって事はその程度のもんだって事さ。有用な技が残っているかは、今の連中に聞かにゃ分からんだろ」 「そういうものか」 所詮は古い人間。今との差はありすぎる。 「島への精霊門はまだ閉じたままなんですね。でも、冥越の隠れ里の方ぐらい、神楽の都に呼べたらいいのに‥‥」 「ですねー。けろりーなも隠れ里で修羅の子供たちとお友達になったのです☆」 里を思う柚乃に、ケロリーナも複雑な表情を見せる。 だが、それは心配無いと酒天が告げる。 「そこらも合わせて現在調整中。少なくとも和議は成ったんだし、天儀のどこでも朝廷から不当に迫害される事はない。ただ心情面がなぁ。朝廷を信じられない奴とか。例え不便でも住み慣れた土地を離れるにはそれなりの覚悟がいるもんだ」 「加えて、長い誤解もありましたし、こちら側もすんなりと受け入れる者ばかりとも言えず。和議のみでは埋まらぬ溝というものもありましょうねぇ」 しみじみと告げる声に、全員が振り返る。 視線を受けて、秋桜が丁寧な礼を取る。 「隔たりが無くなったこれからが始まり。落ち着けば、修羅の里とも交流可能になるのでしょうか。里の皆様と酒を酌み交わしたいものです」 秋桜の言葉に、酒天も大きく頷く。 「そういえば酒天くんの家族やパパは?」 「親父? まぁ、他の家族にしろ皆いないだろうな?」 ケロリーナへの返答は、諦めたような口ぶりだった。 「‥‥お話が弾んでる所申し訳ありませんが。歴史のお勉強はどうなりました?」 白藤がにこりと指摘する。 いつの間にか酒天の持つ本が白藤の読んでいた薬草の本に変わっている。春の野草の頁が開いてる辺り、興味が食欲に向かってる。 「大丈夫。そんな事もあろうかとこのような物を御用意しました」 秋桜が出したのは、一冊の手書きの本。中は羅喉丸が話したような歴史が、絵付きで大きく分かりやすく纏められいてる。 「主な歴史をなるべく分かりやすくなるよう纏めました」 「ありがと‥‥だが、この黒塗りの下がすッげー気になるんだが?」 表紙にくっきり書かれた『■■でも分かる、天儀の歴史』。黒塗り部分を透かして見れば、何となく並ぶ馬と鹿。 「気のせいですよ」 ジト目で睨む酒天に動揺する事無く、すんなりと秋桜は受け流した。 ● 「もしもし、もう閉館ですよ。‥‥もしもーし?」 「はっ!? もうこんな時間でやんすか? こいつは失敬。夢中になりすぎたでやんす」 天花に声をかけられ、伝助は辺りを見渡す。館内はすでに薄暗く来館者もまばら。 何か暗いと暗視まで使うが、日暮れという概念がすっぽ抜けていた。 慌てて読んでいた本を書架に戻し出す。 実は天花も読書に夢中になりすぎ、職員に閉館を注意された。本を書架に戻す途中、自分と同じような状態の伝助を見つけ声をかけた訳だ。 この後は館内清掃があるとか。手伝いを天花は申し出たが、やんわりと断られていた。 「そういえば、酒天童子さんはもう帰ったでやんすか?」 「え? いらしてたんですか」 尋ねてみるも、本に夢中の天花は全く気付いていなかった。 だったら自分で確認するかと、伝助は閲覧卓を覗いてみる。 「あ、まだいたでやんす。‥‥でも凄く眠そうでやんすねぇ」 軽く自己紹介をしてみるも、酒天は大欠伸を隠さない。 「まーな。休憩で飯食ったら睡魔がどっと」 「けろりーなは美味しいおむすびと玉子焼きを作っただけですよー」 ケロリーナが若干口を尖らせる。弁当のほとんどは酒天が平らげたのだ。単なる食べすぎ。 「チョコは集中力や記憶力を高めたり脳の活力源になるっていうけど‥‥あんまり効果無かったかな?」 「んな事無いぜ。美味かった」 柚乃が取り出したチョコにひょいと手を出す。ケロリーナも酒入りを持ってきていたが、そっちも当に平らげている。 「ここで食べると司書さんが怒るでやんすよ。活字が苦手なら絵の多い本を選んでみるとか。酒や祭りが好きなら、お酒の名所や各地の祭りを調べるのもいいっすよ。特に祭りは歴史にも関係ありやすし」 「なるほど。そういう手もありか」 伝助に言われて、酒天が手を打つ。 他の人間と変わらぬ仕草に、伝助が思わず吹き出す。 「とはいえ、ここはもう閉館だし。続きは居酒屋でぱーっと行くか」 本を片付ける動きは素早い。 図書館を出るや、一路繁華街へ。 桜はまだ早いか、つぼみも目立つ。それに目を向けていた柚乃がふと酒天に顔を向ける。 「そういえば、忘れてました」 「何を?」 「おかえりなさい」 微笑む柚乃に、酒天も笑う。 「そだな。ただいま」 かくて、居酒屋になだれ込んだ訳だが。 ここに呑んべが混じれば勉強会にならないのは当然の結末である。 |