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■オープニング本文 朝、目が覚めると全てが変わっていた。 いや、確かにそこは自分の部屋だ。物の配置、壁、外の景色。何もかも変わっていない。 だが、感じる違和感。 音、臭い、目線の高さ、触覚‥‥。 起き上がろうとするが、それがうまく行かない。その理由も分からずじたばたともがいていたが、‥‥唐突に気付く。 「なんじゃこりゃあああああー!」 気付けば、自分は相棒の姿になっていた。 どこをどう見ても人間では無い。普段と体つきが違うので苦労はしたが、やがて慣れてどうにか動き回れるようにはなった。 一応会話はできるし、自力で動けるのが救いか。 が、いつまでもそのままは困る。 どうしたものかと、開拓者ギルドに相談に赴いたところ。 「ああ、たまーにありますねー。そういう事」 ‥‥あるのか。たまに。 「はい。もふら妖精のイタズラですから」 言って、職員が指した先には体長十センチほどのもふらが転がっていた。その背中にはトンボのような羽が生えている。確かに普通のもふらではない。 「もふもふ。魔法の修行もふー」 もふら妖精が杖を振る度に、ギルドにいた開拓者が相棒の姿に変わっていく。いや、相棒に開拓者が同化してるのか? 「元に戻せー!」 「もふー。それは面倒臭いもふー」 詰め寄ると明らかに邪魔臭そうな顔でもふら妖精はまた杖を振る。 すると周囲のもふらに羽が生えた。まるでもふら妖精のように。 「うふふー。捕まえてごらんなさーいもふー」 もふら妖精は羽を震わせ飛び上がると、そんなもふらたちの中にあっという間に紛れてしまう。 「マテ!」 急いで後を追うが、もふら妖精の姿はすでになく。 というか、あたり一面もふら妖精だらけ。どうやら魔法で都中のもふらに羽を生やしたようだ。もっとも妖精と普通のもふらでは大きさが違うし、魔法の羽は偽物なので触れるとすぐに消えてしまう。 「奴を放っておいては次に何をしでかすか分からないぞ!」 何より、この姿を解いてもらわないと困る! かくて、神楽の都の中。相棒になった開拓者達はもふら妖精を追う事になる。 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません 大事なので二度書きました。間違えないように。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
露草(ia1350)
17歳・女・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
无(ib1198)
18歳・男・陰
針野(ib3728)
21歳・女・弓
湯田 鎖雷(ib6263)
32歳・男・泰 |
■リプレイ本文 寝て起きたら、人間ではなくなっていた。 「あらら、桃になっちゃてるわねぇ?」 御陰 桜(ib0271)は肉球を顔に当てて、毛だらけの姿が鏡に映っているのを確認する。 普段の「ないすばでぃ」はどこへやら。いろいろ動いてみても、その姿は犬である。 しかも首筋には、桃の花の形に似た模様。どう見ても自分の忍犬・桃(もも)♀である。 感覚が違うのか、最初はうまく動けなかったが、慣れてくるとふさふさ尻尾もぶんぶん振れる。 こうなった原因を考えてみるが、分からない。 分からないのだが‥‥。 「まぁ、気付いたらなっちゃってるんだから、そのうち治るわよねぇ?」 実に楽観的というか、おもしろがりというか。 折角の状況。わんこらいふを楽しむべく、桜はうきうきで外に出かける。 ● 相棒の姿に変わったのは桜だけではない。 とりあえず原因を探ろうと開拓者ギルドを訪れた者もいる。 「これって夢? それとも現実? あれれ?? でもふわっと飛べたりしますね」 「あら、あらあらあら。まぁまぁまぁ。‥‥なるほど、これはいい夢ですね!」 ギルドの中を飛び回る管狐に、人妖。 狐が柚乃(ia0638)で、人妖は露草(ia1350)である。 戸惑いはあるけれど、飲み込むのも早かった。というより、露草妙な方向で納得してるよ? 「面白いですねーこれ。体はムロンちゃんなのに、自由自在に動かせて〜。あれ? でもジライヤって呪文唱えながら練力を使って召喚されるんですが、大丈夫なのかな?」 ジライヤの巨体が大きく跳ねる。 中身はアルネイス(ia6104)である。 ジライヤ限らず、管狐など使役に練力が必要な相棒もいる。のだが、この姿になってから結構な時間が経ち、あれこれ動き回っていても、特に体に変化は無い。 「アーマーでお喋りできる時点で何かおかしいと思いますの。いえ、アーマーだけで動けるのがそもそもおかしいのですけど」 純白の駆鎧が手を握ったり閉じたりしながら悩んでいる。 一見普通に駆鎧が動いてるだけだが、操縦席を開けても中はがらんどう。しかも、聞こえる声はアレーナ・オレアリス(ib0405)なのだから、一体どうなっているのやら。 開拓者の混乱にギルドの係員は笑顔で説明。 元凶のもふら妖精は、自由気ままに杖を振る。 「それでこの姿ねぇ‥‥」 无(ib1198)の耳が面倒そうに動く。その姿は、やはり相棒である尾無狐のナイ。一応管狐ではあるがケモノでもある。 いきなりの変化は、もふら妖精の魔法と分かった。が、肝心のもふら妖精は逃亡。 御丁寧に、目晦ましで周囲のもふらたちに羽を生やしてまで。‥‥大きさが違うので大体見分けは付くが。 『とにかく、もふら妖精にお願いしたら戻してもらえるのだな。もふもふついでに、目指せ増毛!』 ギルドから紙と筆を失敬。筆談で確認と野望を認める湯田 鎖雷(ib6263)。 最近後頭部に悩んでいるが、相棒の霊騎・めひひひひんはそんなのお構い無しにじゃれ付いてくれる。どんだけ心配だ、毛。 そのめひひひひんに同化しているので後頭部を喰われる心配は無い。が、やはりめひひひひんのさらさら鬣より、薄くても自分の髪のがいい。‥‥いや、まだ薄くは無い。 『ちなみに、駆鎧が喋れて何故俺が筆談?』 アレーナのヴァイスリッターを見つめ、鎖雷は素朴な疑問を抱く。 「個人差でしょう。もふら魔法ですからそこら辺ものすごく適当です。私も霊騎になった経験はありませんので、御助言は出来かねますが、きっと慣れれば普通に過ごせますよ♪」 なんだか自信を持って保証されたが。 できれば慣れる前に元の姿に戻りたい。 ギルドに飼われている馬(多分雄)から、何やら熱い視線を感じる鎖雷(外見は牝馬)。春だね。 「異種族ロマンスとはやりますねぇ」 『俺は嫌だ』 にこやかにしている係員に、鎖雷は頭を抱えたくなる。 せめて目線をそらしたいが、馬の視野は広くてなかなか外れないのも悲しい。 なるほど、どこにいてもめひひひひんが自分の後頭部を見つけるのはこういう事かと、変な所で納得する。 ● 「元に戻る為には一刻も早くもふら妖精を探すべきですね。まずはもふら妖精もどきに紛れてないか、虱潰しに調べて見分けましょう♪」 言うが早いか、露草はふわりと宙を飛ぶ。 露草自身、衣服に香を焚き染めているが、それが人妖の衣通姫にも染み付いている。 飛び回るたびにほのかな香が香り、興味を惹かれたもふらが顔を上げる上を飛ぶと、そのまま背中に飛び込む。 魔法の羽は、露草が触れるや消えてしまった。 「もっふもふですー♪」 そのまま、露草はもふらの毛を堪能する。口や態度でごまかせど、目的はやはりそれである。 「楽しそうです。でも、もふら妖精は外に逃げたみたいですから、そちらに探しに行ってみます」 柚乃は伊邪那(イザナ)のお日様のような目をくりっと動かしてしばし考え。ヴァイスリッターの薔薇の紋章が入った肩にちょこんと乗っかってみる。 外に出たアレーナは情報収集で、まず辺りを歩き回ってみる。 「視界良好。感度も十分。何より音声を外に出せるというのは便利ですねぇ」 都の屋根も目線より低く。足元は普段の生活で歩き回る人もいるが、彼らを躱して歩くのもいつもより容易い気がする。 「すみません。もふら妖精を見ませんでした? あるいはここら辺で騒ぎがあったとか」 「ギルドから出た後、どこかに隠れてそれっきりだねぇ」 珍しそうに見上げる一般人に尋ねるが、返事は芳しくない。 それでもアレーナは苦にしない。 「見る限り、もふらさまばかりみたいです。‥‥でも、このままでいいかもとか思ったり、思わなかったり」 するりと空に浮かび、柚乃も周囲を見渡す。 「うーん、このままっていうのも困ります。思う通りに動くのはよいですけれど、やっぱり生身の方がいいかな」 アレーナが小首を傾げる。 表情はさすがに変わらないが、雰囲気は笑っているようだった。 ● 散歩に出た先で、桜は妙な犬に出会う。いや、姿は普通に忍犬なのだが、行動がじたばた落ち着かない。 「何してるの?」 「あ、丁度良かったさー。忍犬よしみで背中掻いて欲しいんよ」 忍犬の針野(ib3728)が訴える。 背中が痒いが、足が微妙に届かない。何とかしようと四苦八苦で七転八倒。 「そうねぇ、不便な事も多いわねぇ。いつものぶらっしんぐをしてあげられないのは仕方ないとしても、料理できないからどっぐふーどぐらいしか食べられないし」 視界が違うのは勿論、聴覚や嗅覚なども普段と違う。いつもと同じはずの景色が、まるで違った意味を持つ。 それはそれで面白いのだが、身体の作りも違うので、自然、出来ない行動も出てくる。 気持ちは分かると大きく頷き、桜が背中を掻いてあげる。 傍から見てると犬が犬に肉球押し当ててるようで、妙に微笑ましい。 「助かったさー。ハチの見てる世の中を知るいい機会だけど、これは意外な不便さだったんよ」 八作の青みがかった灰色の毛を震わせ、針野は礼を言う。 「これはハチに感心してる場合じゃないさー。早く、もふら妖精を探すんよ!」 「もふら妖精?」 わんこらいふを楽しんでいた桜は、首を傾げる。 事情を察して、針野は掻い摘んで説明する。 「かくかくしかじかで、匂いを頼りに探してたんよ。きっとまだ近くにいるはず!」 姿が違うからか、開拓者としての動きは出来ず。針野は八作の絶対嗅覚を使い、様々な匂いの中からギルドにいたもふら妖精の匂いを嗅ぎ分け追い始める。 「ふーん」 周囲を見渡したぐらいでは見当たらない。 針野から説明を受けても、桜はあまり興味無い様子。 鼻をひくつかせゆっくり探し出す針野を見送ると、自分は広場の桜見物に向かう。 「‥‥そういえば、今ここで元に戻った場合どうなるのかしら?」 ふと、桜は自分の姿を見る。針野にしてみても、相棒用の装備はしていたが、人間用衣装は着てない。 同化しているなら、元に戻った時は着ていた時の衣装を着ているのだろうか。 といっても、桜は寝てる間どのみち何も着ていない。 咲き誇る桜の周囲はお花見客もいっぱい。そこで元に戻ると、自分はいいが都の倫理委員が五月蝿そう。 「ま、こんな事もあろうかと依頼用ばっぐは持ってきたけどね」 確かに水着ぐらいは入っていたはず。 暢気にそう考えながら、桜は咲き誇る花をのんびりと眺める。やはり春。 「紅梅栗毛のめんこい馬じゃのぉー。おらとこの嫁にこんか。飼い主どこじゃー」 『いいえ、俺が飼い主の湯田鎖雷本人です』 もふらの羽を鼻で小突いて片端から消していた鎖雷も、馬主からナンパされる。 これも春か? 筆談で否定するが、いっそ首から看板かけてた方が早くて分かりやすいかもしれない。 ● 春の風は甘いが、まだ少し寒い。さほど苦にならないのはやはり体が違うせいか。 「ふむ。万黎から見える世界というのはこういう感じなのですか」 迅鷹の翼に風を受けて、メグレズ・ファウンテン(ia9696)は神楽の都を遥か下に見る。 「不思議な感覚よね。レギンレイヴが私に同化する時って、こんな感じなのかな」 迅鷹は主に同体化するが、その逆は無い。 浅井 灰音(ia7439)も感心するが、いつまでも浸れない。 風に乗る飛び方を覚えると、旋回してもふら妖精を探す。 「もふら妖精もどきは飛ばないんですね。それとも飛ぶのが面倒なのでしょうか」 メグレズの見る限り、もふらたちは羽が生えても普段と変わらず、そこらでごろごろ怠けている。 小さなもふら妖精はどこに隠れているのか。 「こうもいっぱい居ると、どれが本物なのやら‥‥。少し数を減らそうか」 大きさが違うと分かっていても、視界に入れば気になる。 灰音は蒼い翼をはためかせると、一気に地上へと降りる。地面に達する前にもう一度浮かび上がると、そのまま滑空姿勢で街中を飛び回りだす。 道行く人は器用にすり抜け。広げた翼がもふらの羽に当たると次々消し飛んでいく。 「ふふ、気持ちがいいね。こうやって空を飛ぶというのも」 ふわりと屋根に降り立ち、灰音は翼を振るわせる。 滑空を繰り返し、同じ要領で他のもふらたちの羽も掻き消していくが、 「きゃあ!」 横から出てきた人妖と接触しそうになる。 慌てて身体を捻って回避すると、体勢を整えてもふらの背に止まった。 「びっくりしました。人妖攫いかと思いました」 橄欖石の瞳を丸くしているのは普段の衣通姫ならば普通だろうが、実は露草と思えば珍しいか。 「申し訳ない。少々調子に乗ったようだ」 人妖に叱られ、翼で器用に頭を掻きながら詫びを入れる灰音。その隣に、露草も並んでみる。 並ぶと人妖より迅鷹の方が若干大きい。鋭い嘴に立派な爪を持つ相手を見上げ、露草は改めて普段の違いを認識する。 もふらをもふもふするのに飽きて、人妖の目線の違いを楽しんでいた。売られている菓子も干された布団も巨大化して楽しかったが、小さくて楽しい事ばかりでもないのだと改めて認識する。 「それよりもふら妖精はどこに行ったのでしょう? 御存知無いですか?」 二人が話しこんでいるのを見て、メグレズも降りてくる。 「それがこちらも生憎なのです。もふら妖精はもふらの形なのに、どうもアクティブですから、うろちょろしてるのが怪しいです」 問われて露草は首を横に振る。見渡しても、いるのは普通のもふらばかり。 「妖精を探してるもふか? さっき広場に行ったもふ。多分まだいると思うもふ」 と、そのもふらから声をかけられた。物臭そうに告げると、後は横になる。 「ありがとうございます!」 それでも情報十分。礼をすると、メグレズと灰音は早速教えてもらった方向へと飛び立つ。 「ああ、待って下さい」 露草も銀の髪をなびかせて、慌てて後を追う。さすがに迅鷹ほど早くは飛べない。 ● もふらも花見か、広場に集って怠けている。 无がもふらの背中に飛び乗ると、生えてた羽は消えた。してみるとこれもハズレ。 「一体どこにいったのやら」 言いながらも、やはりあまり困った様子は無い。滅多に無い状況をおもしろがるのは仕方が無い。 そして、この機会に相棒の能力を把握しようとするのもまた当然。 「泥煙幕〜☆ぶちかまし〜☆ 蝦蟇油炎弾をどーん!!」 「何事だ!?」 いきなり広場の一角に煙幕が湧くや、続いて響く爆音。 无はとっさに耳を伏せる。 咲いていた桜が一気に吹雪く。舞い落ちる薄紅色の花びらに混じって舞い上がるのは紅蓮の火の粉。 「スキルテスト終了♪ やー、結構楽しいですねー。運動して疲れましたし、御飯にしましょうか」 晴れた煙幕からぴょんと跳ねて現れたのはジライヤ。アルネイスである。 「うーん。やっぱりムロンちゃんの体だからでしょうか。ついつい食べすぎ〜。でも、ムロンちゃんはいつもこれ以上食べてましたねぇ、やはり少しダイエットさせますか」 持っていた御飯をアルネイスはあっという間に飲み込む。空になった大きな弁当に悩みは尽きない。 「っていうか、燃えてる‥‥ぞ?」 「あれ? やばいですか?」 指摘され、冷や汗を流す。 蝦蟇油炎弾、類焼します。近くに可燃物が無いか注意しましょう☆ 幸い小火の内に消し止めた。 が、 「ひー、酷い目にあったもふー」 焦げ跡から小さなもふらがふらりと宙を彷徨う。 「ジライヤの攻撃でも羽が消えてない。‥‥という事は、本物か!」 ぱっと无が跳んだ。前肢が僅か届いたが、それよりさらに高い所へもふら妖精は逃げてしまう。 「もふー。元に戻すもふかー? あれは面倒臭いもふー」 「いえ、それより前に羽を生やし飛べるようにして欲しい!」 口を尖らせて渋るもふら妖精に、きっぱりと无は否定する。 「あれ? 管狐ってある程度飛べませんでしたっけ?」 「管狐の能力を出した事が無いからなぁ。私自身、ナイをずっとケモノだと思ってたぐらいで」 首を傾げるアルネイスに、无も困ったように首を振る。 「それも面倒もふー。だから逃げるんだもふー」 「あー。駄目ですよぅ。甘いお菓子あげますからー」 ふらふらと去り行くもふら妖精を、アルネイスが呼び止める。 「お菓子なら出せるもふー。皆集まれーもふー」 もふら妖精が杖を一振りすると、辺りにたくさんのお菓子がばらまかれる。 その御菓子を狙って、もふらたちも集まってくる。 あっという間に、広場はもふらできゅうきゅうになる。 「ふふふ。今の内に逃げるもふー」 「待ち、なさーい」 だが、追いかけたくても押しかけたもふらのせいで、身動き取れない。 「まっかしんさーい!」 騒ぎに駆けつけた針野が群がるもふらたちの背中を飛び石のように渡り、飛跳躍で空高くに飛び上がる。 「いやーんもふ」 一撃の代わりに甘噛みされて、もふら妖精は針野と一緒に落下。 下はもふもふがいっぱいなので、落ちても怪我は無い。 「八作の体で走るのは楽しいけど‥‥ハチはハチで、わしはわしなんよ。い・い・か・ら・戻しんさい?」 前脚でしっかりともふら妖精を踏みつけると、くわっと牙を剥き出す。 「助けてーもふー」 危機を感じたもふら妖精が杖を振ると、またも菓子が降る。 その菓子狙ってもふらが殺到。 「きゃん!」 押し寄せるもふらに、針野がもふもふ状態になる。 その隙間からもふら妖精が逃げてしまう。 ● 「もっふぅ。酷い目にあったもふ」 ふらふらになってもふら妖精は空へと逃げる。 だが、空に逃げたとて安全ではない。高速飛行で跳ぶ迅鷹たちが、すぐにもふら妖精を見つける。 「さあ、早く元に戻しなさい」 回りこんだメグレズが風斬波を放つ。勿論当てないよう、威力も抑えている。 やっぱり逃げようとするもふらだが、退路には灰音が回りこむ。 では、下で御菓子を食べているもふらたちに紛れて‥‥と高度を下げるが、そこには飯綱雷撃が飛んだ。 「もふらさまは巻き込んでませんよね? 大丈夫ですよね? ‥‥開拓者はこのくらいじゃ死なないから大丈夫です」 柚乃の心配は人よりもふらさまである。 「誰かに命じてもらった方が気分が出るんですけど。皆様無理そうですか」 「じゃあ、もふが命令するもふ。あいつらをやっつけて欲しいもふ」 困って焦ってもふら妖精が柚乃に頼むが、 「ごめんなさい。柚乃は別に今のままでもいいかなーと思うのですが、もふら妖精さんを必要とされる方もいらっしゃるのです」 青とも紫とも付かない毛並みの管狐は、深々と頭を下げる。 「私の‥‥というか、迅鷹のスピードから逃げられると思っているのかな? 貴方に足りない物は色々略して何より速さ! 敵に回した事、せいぜい後悔するんだね」 元々楽しい戦闘を求める灰音。もふら妖精を追い詰めるのも容赦無い。 「もふ。酷いもふ、怖いもふ。どうしてこんな事するもふか?」 追い詰められたもふらが、大きな鎧像の陰に逃げ込む。 「ちゃんと皆を戻さないからですよ。かけた魔法はきちんと元に戻す。これも修行です」 「もふ?」 その像が動くと、ぽんと手を合わせ、中にもふら妖精が閉じ込められる。 「よかった。ちゃんと捕まえられました」 立ち上がったのは像ではなく、アレーナのヴァイスリッター。 「もふー。捕まったもふー」 その大きな手の中で、小さなもふら妖精はようやく降参を告げた。 ● 小さな妖精を怪我させる事無く、捕獲に成功。その感覚は、むしろアレーナにとって驚きだった。 「何時もより軽快に動ける気がするのは間違いではないかも。よりダイレクトに操縦者の感覚を伝えられる手段が構築できれば。駆鎧も相当進化しそうな‥‥」 「もふもふ。降参もふ。そろそろ出して欲しいもふ」 こつこつと中から駆鎧の指を叩くもふら妖精。叩かれた感覚すら、我が物として感じる。 「っと、ごめんなさい。でももう逃げないで下さいね。いい子にしたら甘味を奢りますよ」 駆鎧の理論は一時中断。 アレーナはそっともふら妖精を放す。 「しょうがないから戻すもふー。面倒もふー」 『ちょっと待ったー』 渋々と杖を振るもふら妖精に、高速走行で滑り込むめひひひひんならぬ鎖雷。 『俺を元に戻す時、ついでに増毛してもらえないだろうか。ほんの少しで構わない! 毛根が丈夫な毛を!!』 「馬の鼻息は荒いもふ。ちょっと離れて欲しいもふ」 妙な熱意で訴状を差し出す鎖雷に、もふら妖精は距離を置く。 「でも、心意気は分かったもふ! それは是非叶えるもふ! もふのように全身もっふもっふのふっかふかにしてあげるもふ!!」 すっくと立ち上がると、もふら妖精は杖を振る。 『いや、お願いしたいのは頭髪で後頭部だけで‥‥』 慌てて鎖雷が付け加えるが、口から出るのは嘶きだけ。 そして魔法が周囲に広がる。 気がつくと、そこは見慣れた自分の部屋。 「あー、やっぱり夢か。夢ですか。そうですか」 起き上がり、落胆と安堵とが交じり合った息を吐く。 なんとなく念の為に鏡で自分の姿を確認してみる。 そこに映る姿は、きっと普段と変わらぬ姿‥‥のはず。 |