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■オープニング本文 新天地に賑わう天儀の世の中。 二人の乙女が心痛める。 「ねぇねぇ、はーちゃん。もふらさまって戦えないのかなー?」 「はぁ? ミツコってば何言ってんのよ。日がな一日ごろごろ寝てて気まぐれに命令聞いてもそもそ動くもふらさまが戦闘に出てどうすんの?! 大体前にも言い出した事あったけど、そん時も『もふらさまは戦わなくていいじゃない』って事で落ち着いたじゃない」 真剣に尋ねてきたミツコに、ハツコはいつもの如く面倒そうな否定を入れる。 「でもさー、戦わないのと戦えないのは違うよねー?」 が、珍しくミツコの顔は真剣なままだった。 「どうしたミツコ。変な物でも食べた?」 心配するハツコに、ミツコはそっと目を伏せる。 「それはさておいてー。ほら、遭都とかで何か強いアヤカシが襲ってきた話があったでしょ?」 「開拓者とかが頑張ったおかげで、被害は抑えられたって聞いたけど」 修羅との和議を邪魔するように、大アヤカシまでもが姿を見せた襲撃事件。 一般人には詳細まで知りようが無いのだが、帝のいる朝廷にまで攻め込んだと聞けば事態としては深刻だ。 「もふら牧場もアヤカシに入られてるしー。もふらさまが被害にあう話もちょいちょい聞くよね? 確かに戦わないのがもふらさまの魅力だけど、やっぱり身を守る程度はしてもらえたら、防犯も楽になるんだけどー」 ふぅ、とミツコがため息をつく。 アヤカシ対策を考えても限界がある。 もふら牧場にもふらさまがいるのは当たり前だし、自衛に勤めてくれたらこれほど心強い事は無い。 「戦えないなら仕方ないけどさー。その前の大祭りの時、もふらさまたちが開拓者を千切っては投げ、投げてははねてと大活躍したらしいじゃない」 「‥‥そういえば、そうよねぇ?」 安須大祭。先導したのは大もふ様だが、釣られた大勢のもふらさまも暴走に参加している。 勿論、もふらさま相手に手加減した者も多いし、数の差もある。が、開拓者相手にそれなりの動きを見せたのは事実だろう。 「戦ってもらえたら安心だというミツコの気持ちは分からないでもないけど。問題は、やっぱりもふらさまよ?」 「うん、やっぱりそうだよねぇ‥‥?」 困ったように告げるハツコに、ミツコも渋々頷く。 もふらさま、知恵も体力も兼ね備えている。‥‥ただ、どうしようもなく怠け者なだけだ。 ● という訳で、二人は開拓者ギルドに訪れてみる。 「もふらさまって、戦えないかしら?」 「あのもふらさまがか? 無理だろ」 ギルドの係員も似たような反応を示す。 そして、似たような会話を経由して、係員もまた悩みだす。 「戦う、戦わない以前に‥‥もふらさまにやる気があるかだろ」 「「うーん、もふらさまのやる気かぁ」」 指摘されて、二人揃って悩みだす。 「つまり、アヤカシ対策に出来そうな事を覚えてもらう為には、まずはやる気を出してもらう必要があるのかぁー」 「食べ物で釣ったりとかは?」 「そんな一時的な事でやる気が持続するか?」 ハツコたちが思いついたことを口にしてみるが、係員は首を傾げる。 「仮にやる気を引き出せたとしてもだ。役立つ芸事が覚えられるかどうかの問題もあるし。本当にもふらのアヤカシ対策が出来るなら開拓者ギルドとしても気になる所だが‥‥道は通そうだぞ?」 ちらりと、係員は日向を見つめる。 そこには、どうしようもなくだらけた顔で寝ているもふらさまがいる。日光を浴びてもふもふになった毛が幸せで気持ちよさそうだ。 「んー、でもどうにかしてもらわないとなー。幸い、知り合いの伝手でいろんなもふらさま呼んでこれるしー。何とかやる気を引き出す方法考えてもらえないかなー」 諦め悪く悩むミツコは、開拓者の協力を頼む。 「あるいはミツコに諦めてもらう方法かしらね」 「案外そっちのが早いかもな」 呟いたハツコに、係員もこっそり同意していた。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
无(ib1198)
18歳・男・陰
光河 神之介(ib5549)
17歳・男・サ
スレダ(ib6629)
14歳・女・魔 |
■リプレイ本文 広い牧場で、もふらはもふもふ転がっている。元から牧場にいるもふらの他、借りてきたもふらもいるらしいが、皆区別無くその行動は似たり寄ったり。 何かを食べている。寝ている。くつろいでいる。 のほほーんとだらけきった姿はいっそ見事と、人々の心を打つ。 「神の使いなのに怠け者で農耕用で、牧場で暮らしてたり港で売られてたり。本当に天儀は不思議な国です」 半分呆れてるスレダ(ib6629)に、ミツコは穏やかに微笑み、もふらに手を合わせる。 「もふらさまが笑っていればそれでいいんだとミツコは思います。大丈夫、もふらさまは小さい事気にしないよ」 「‥‥小さいかなぁ」 ハツコは軽く首を傾げている。 近くにいるもふらたちにやり取りは聞こえてる筈だが、関係無しに怠けている。 「そのもふらが戦うなんて普通想像できねぇよな‥‥。俺はそれが見たくて、もふ助を戦場に連れてってんだけどな」 怠惰なもふらに、こちらは心底呆れ顔の光河 神之介(ib5549)。 「お役に立つもふらもふ! そこいらのもふらと一味も二味も違うもふ」 「はいはい」 きりっと表情を引き締め、胸を張るもふらのもふ助を、神之介は苦笑を噛み殺してあしらう。 意気込みは感じれど、神之介から見ればやはりもふ助も結構怠け者なのだ。 「浮舟も、一応戦闘についてしつけてはいるぞ?」 「物資輸送なら得意でありますが‥‥」 見遣るからす(ia6525)から、落ち込むようにもふらは視線を落とす。白くて大きな毛が少し萎んだようにも見える。 「もふらさまって天儀の平和の象徴‥‥みたいな感じで、ゆる〜い精霊力から生まれてくる気がするもふの。だから天儀が大変な事になりそうな時以外は、本当の意味でのやる気は出してくれないんじゃないかなって‥‥思うもふ」 古株そうなもふらさまに寄り添い、一緒にごろごろしたり毛づくろいしたり。 そうしてもふらの気分になりきり、水月(ia2566)が思いを語るが、途端、ハツコが軽く眉を潜める。 「でも天儀が大変な時って、その前にもふらさまも大変な事に陥っていそうだけど」 何となく手遅れになってから、動き出しそうな気がする。 察した水月も、小さく頷いて見せる。 「それまでにアヤカシに襲われるとか、密猟に会うとか、事件もありますね。それに対抗するなら自衛する手もありでしょう」 「うん、そうなの! いつも開拓者に助けてもらえる状況ばかりじゃないからね」 エルディン・バウアー(ib0066)が笑いかけると、ミツコは真剣に頷き返してみる。 「ただ、もふらさまが戦う気があるかどうかですよねー」 気の抜けた声で、鈴木 透子(ia5664)が呟く。 やる気なのはミツコぐらい。ハツコが半信半疑なのはいいとしても、当のもふらさまがさてどのぐらい話に乗って来てくれるのか。 「どこかをポチッと押してやる気になってくれたら楽なんですけどねぇ。‥‥いえ、そんな本気にされても」 苦笑交じりで明らかな无(ib1198)の冗談だが。一縷の望みでもかけたか、真剣にミツコはもふらをまさぐり出す。 全身を探られ、もふらは愉快そうだ。 「基本的に戦うのが苦手というか嫌いな種族だ。それでも身の危険を感じるなら抵抗もするだろう」 「どの程度を身の危険と認識するか、だけどね」 からすのもっともな意見から、ハツコは目を逸らす。 なんせ、アヤカシがいても寝ていたもふらもいる。‥‥まぁ、それが世の一般的なもふらとも思えないが。 「怠惰ももふらの性格ではあるが‥‥では、そのもふらたちがやる気を出すとしたら一体どんな時だろうな?」 「「それはやっぱり‥‥」」 からすに問われ、依頼人二人が顔を見合わせる。 それからもふらを見つめ、ハツコだけが何となく肩を落とした。 ● 「とりあえず、落ち着いて話ができるよう、茶席でも設けるのは如何か?」 からすの提案に、依頼人たちも頷く。 卓と椅子も並べ、その上に持ち寄った菓子や茶も並べる。気付いたもふらたちが牧場の彼方からも走り寄ってくる。 「静まるであります! 数はあるから仲良く食べるであります!」 「もふ」 察した浮舟が皆の前に立ちはだかる。 さした混乱もなく。早くくれと言わんばかりに、もふらたちは行儀良く待ちの姿勢。 そんなもふらたちに、スレダは語りかけてみる。 「私達の国でも精霊信仰があるのです。精霊が魔を退けたとされる日には、舞を奉じ、お酒や食べ物を供えるものなのです。姿の見えない精霊に対してさえ、そのように感謝するのですから、実在するあなたたちがアヤカシを退ければ、より感謝されると思うです。私もファドも活躍した日には同じように扱われたものです」 スレダの肩で、相棒の迅鷹も胸を張る。 「アヤカシ倒したら、御飯一杯もらえるもふかー。だったら、がんばるもふー」 「でも、面倒臭いもふ。アヤカシ退治は開拓者の仕事もふ」 「取っちゃ駄目もふねー。仕方ないもふ」 やはり食事報酬は心惹かれるのか。目を輝かせるもふらもいたが、すぐにまたごろりだらだらな態度に戻る。 「というか、そもそも私としては働かざるもの食うべからずと言いてーところですが?」 ぐうたらな生き物に、スレダは頭を抱える。 途端に、「心外だ!」と言わんばかりにもふらたちが抗議し始める。 「働いてるもふ! 昨日は市場で糸と麻を運んだもふ!」 「今日はお風呂を沸かしたもふ!」 「そして、明日はお風呂に入るもふ!」 「何故今日入らねーんですか?」 「お喋りしててごろごろしてたら忘れるもふー」 ‥‥やはり、もふらさまとはこういう生き物なのか。 知識はあれど、実際目の当たりにするとあらためてその凄さが分かる。 「いい気分転換です。ファド、少し遊んであげるといいです」 よろめくようにもふらから逸れると、スレダはそっとファドに囁く。 短く鋭く鳴くと、砂色の迅鷹は空へと飛び立った。 「もふら様、格好よくなりたいですか?」 のんびりともふらたちとお茶をしながら、アルネイス(ia6104)が問いかける。 もふらたちは顔を見合わせ微妙に頷く。 その方がいいけど、どうでもいいといえばどうでもいいという感じ? 「やっぱり格好いい姿って云うと、悪い物とかから皆を守る事だと思うんです〜。もふら様たちは悪さをするモノが出て来たらどうします?」 尋ねるアルネイスに、もふらは少し考える。 「格好よく戦うもふ!」 「とりあえず助けを呼ぶもふ」 「諦めて寝るもふ」 「最後の奴、もう少しがんばりやがれです」 性格もあるので、答えは結構ばらばら。ついスレダも口を挿みたくなる。 「そこで戦うとすれば評判が上がって、上手い物が沢山喰えるぞ?」 「少なくとももふは、中華まんや麻婆豆腐とかを毎日タダで食べてるもふ!」 「「えー、いいなぁー」」 「ここで依頼人たちに食いつかれても‥‥」 喜色満面のもふ助が告げると、もふらに混じって依頼人たちもねだる目で神之介を見てくる。 普段食べない泰国料理には、彼らも興味があるようで。 「じゃあ、とりあえず格好よく戦う為の条件を、進めていきますね。私達より相棒の方がもふらさまに近いと思いますので、ムロンちゃんお願いします」 アルネイスがジライヤを召喚。 「ふふん。まず、大事なのはギャップなのだ! 普段は今一頼りない、もしくは怠けていると思われているくらいで良いのだ!」 自信たっぷりに解説を始めるムロンの前で、ごろごろ寝て食べているもふらたち。 「そこは軽々とクリアしてますね」 「普段から気を張らなくても良い、とお伝えしたいのです」 スレダに、アルネイスは囁く。 構わずムロンはもふらたちに語りかける。 「しかし、いざ事が起きたら誰よりも早く問題を解決する事! これを行ってこそ格好の良いヒーローになれるのだ!」 鼻息荒く、そっくり返る大蛙。 アルネイスは微妙な眼差しを向けるが、もふらさまの手前とりあえず黙っておく。 そして、空を見上げる。 朋友の迅鷹たちが風に乗って旋回している。見晴らしはよく動きは丸見えだが、鳥が飛ぶなどいつもの風景。誰も注意を払っていない。 「実は、ココだけの話。悪い奴がご飯を奪いにこの牧場に来るらしいのだ」 「な、なんだってもふー!!???」 こっそりと告げたムロンの警告に、もふらたちが戦慄した。 「大切な物を守ってこそヒーローなのだ! 頑張るのだ!」 「分かったもふ! 取られないよう、急いで食べるもふ!!」 そして、いきなり始まる早食い大食い大会。‥‥がんばる方向が間違っている。 「奪うものが無くなる前に‥‥始めましょうか。ナイ、頼んだ」 无は管狐を呼ぶと、無言のまま素早くナイはもふらの御菓子を奪い取っていく。 「もふの御菓子が!」 「あー、こっちももふー!」 奪われ目を逸らした隙に、舞い降りたエルディンのケルブや水月の彩颯も御菓子を掴んで去っていく。 当然、もふらも取り返そうと追いかける。しかし、ナイの運んだ御菓子も今度は空から舞い降りたファドが掴んでまた飛んでいってしまう。 ナイも人魂で姿を変えると、一緒に逃亡。 もふらの頭上を、迅鷹たちは御菓子を掴んだまま悠然と飛ぶ。 「泥棒もふ! 開拓者さん、捕まえるもふ!」 涙目になってもふらたちが口々に訴える。 「よし、分かった。お前たち覚悟しろ!! ‥‥うわ、やめろー」 実はもふらにやる気を出させる為の計画だと悟られてはならない。 やや棒読みながらも神之介が迅鷹たちを威嚇。その傍をケルブが通り過ぎる。翼が触れるかどうかのタイミングで、神之介は大仰に倒れてみせる。 ケルブは御菓子を掴んだまま、ふと視線をエルディンの方に向けた。無言のまま、エルディンがお願いするとふんとそっぽを向く。素っ気無い態度とは裏腹に、白い翼は力強く羽ばたき、もふらたちと付かず離れずの距離を保つ。 「この迅鷹さんたち、強いです。誰か助けてー」 適当な場所に浄炎を放ち、水月もやられたふりで助けを求める。その頭上では機を狙うように、彩颯が飛び回っている。 「離れるもふ。やめるもふ!」 水月を追い回す彩颯を、一緒に遊んでいたもふらが追い回す。威嚇したりとそれなりの動きは見せるが、彩颯がちょっと近付くと、怖いのか逃げて距離を置く。‥‥遊んでいるようにも見える。 他の開拓者たちも倒れたふりの神之介の看護のふりなどして、観戦体制に入る。 「もっふー! もふ達の御菓子を取るのは許さないもふ!」 開拓者の傍にいる分、有事への心構えが出来ているのか。 怨みを込めて立ち上がったのは、神之介のもふ助だった。 力強く大地を蹴ると、低空を飛んでいたファドに体当たりを仕掛ける。 驚いたファドだが、そこは迅鷹。ひらりと躱すと今度はもう少し届かぬ高みへと逃げる。 「あれ本当に本気だよねぇ? 大丈夫?」 その素早さに、ミツコが少々驚く。 「もふ助には知らせてなかったからなぁ」 神之介もある程度予想はしていたが、実際に計画に嵌まってる姿を見ると申し訳なく思う。 だが、まさかのもふらのやる気が見られそうなのだ。迅鷹たちにも悪いが、もう少し踏ん張ってもらおう。 「さあ! 怒らせたらどうなるか教えてやろうもふ!!」 「分かったもふ!」 悔しそうに足を踏み鳴らしながらも血気盛んなもふ助が、他のもふらたちを鼓舞する。 受けたもふらたちも、迅鷹を追い回す。が、如何せん、牧場育ちでは思い切った行動は出来ない。 「体当たりも当たれば、体格差で結構力があるのだがなぁ。‥‥よし、浮舟、指揮を執るのだ!! クロスボウの使用も許可する」 「分かったであります! 皆、泥棒を逃がさないよう、取り囲むであります!!」 器用にビーストクロスボウを装填すると、浮舟が迅鷹を狙う。勿論、当てないようちゃんと逸らしてはいる。矢は放物線を描き、彩颯が描く虹色の軌跡を通り越す。 しかし、走り回っていただけのもふらたちが武器まで持ち出してきたのだ。迅鷹たちの方も少々面食らう。 もふらに手を出しては駄目ときつく言い渡してある。 どうしたらいいのか。指示を請うようにケルブがエルディンにちらちらと視線を送る。 「ここら辺が限度みたいですね」 「そうだねー。あまりやりすぎて怪我があっても大変だしぃー」 とりあえずの動きは見れたのだ。水月が依頼人たちに了承を願うと、二人とも頷く。 もふらに気付かぬよう撤収の指示を出すと、掴んでいた御菓子を捨てて、迅鷹たちは一旦牧場の外へと飛び去っていく。 「御菓子を取り戻したもふー!」 「やったもふー」 降って来たお菓子に我先にともふらたちが群れる。 勝利の余韻か、単にお菓子が美味しかったのか。どのもふらも喜びで溢れていた。 ● もふらたちを労い、怪我がない事を確認する開拓者たち。 こっそり牧場外への迅鷹たちの様子も見に行き、そちらも無事な事を確認する。 「とはいえ、課題は残りますよ? 途中から飽きてさぼりだしたのもいやがりましたし」 お茶会を再開。 また怠けきっているもふらたちを見ながら、スレダが息を吐く。 さすがに飛ぶ迅鷹を追い回し続けるのも難しい。 徐々にお菓子を諦めて見学に回っていたもふらも少なくなかった。 「もふらもやる時はやれるのだと分かった」 神之介が真面目に戦ったもふらたちはきちんと誉める。特にもふ助は今回がんばってくれたのだ。後でたっぷりとお礼をしようと、心に決める。 その一方で。 諦めたもふらたちの集団を睨むと、盛大な喝を入れる。 「お前たちは少し勇気とやる気を出しやがれ!!」 ただ、怒られながらも構われてどことなく嬉しそうなもふらたちである。どこまで本気に通じているのか分かったもんじゃない。 「今回やる気でも、後になったらころっと忘れてそうですよねぇ」 「結局、そこよねぇ」 のんびりしたアルネイスの意見に、ハツコも弱った顔ながらも同意で頷く。 「そもそも。依頼人さんは今回何がしたかったのですか?」 无が何気なく尋ねると、ミツコが身を乗り出す! 「勿論! もふらさまに安全の為、防衛手段を身に着けてもらいたいの!」 「もふ?」 聞こえたもふらさまが、頭を上げる。その頭をハツコが撫でる。 「最近物騒だからねぇ。‥‥まぁ、やる気があるってのはいいけど、いきなり戦わせるのはやっぱり厳しいと思うよ? 度胸とか技術とかも必要になってくるからね」 実際、率先して動いていたのは開拓者のもふらたちだった。牧場のもふらたちはやる気を見せても、どうしていいか分からずほとんどうろうろしていた。 「うん。でもやる気があるなら、これからちょっとずつ訓練させればいいよ! 大丈夫!!」 だが、ミツコもめげない。何とかなると確証を得たのか。俄然張り切り出す。 无は適度に相槌を打つと、もふらたちに目を向ける。 「では、もふらたち自身はどうなのでしょう?」 「もふ。体を動かすのも楽しいもふー」 「でも痛いのは嫌もふー」 「怖いのも嫌もふ」 やはりのんびりと告げる。 「でも、もふ助殿や浮舟殿の助けがあったとはいえ、一応皆さん動きました。君達は強いのです。もし怪しい人やアヤカシに襲われたら、皆で固まって突進すれば無敵です。そいつらは君達のご飯を奪う悪い奴らなのですから」 微笑と共に、エルディンはもふらたちを抱きしめる。 それはもふらたちを誉めると同時、エルディンがもふらに埋まって楽しんでいるようだった。 「まぁ、依頼人たちもあれだけ必死なので、少しはアヤカシに立ち向かうとか、危なくなったら逃げるくらいしてあげて下さいな。そうすれば、楽しい怠惰な日々を割と長々過ごせますよ」 「もふ。がんばるもふ」 肩を竦めて笑う无に、もふらたちも気の抜けた態度で返事したが‥‥。 「さて、盗られて食べられなかったもふらもいるだろう。追加を持って来たから、皆で仲良く食べるのだよ」 からすは浮舟に持ってきた食料などを渡すと、もふらたちに配らせる。 「もふ。動いたからお腹空いたもふー」 「もっと食べたいもふ」 お菓子は行き渡ったが、もふらたちはわがままを言いだす。 「可哀そうに‥‥。あたしが、食べるモノをあげましょう」 ごろごろと転がって不平を言うもふらたちに、透子は静かに歩み寄る。 手には鞭。前髪で目を隠し、編んだ髪も解いた少々恐ろしげな格好。振る舞いもいつもの透子とは違っている。 何でも、陰陽の師匠の不機嫌な時の立ち振る舞いなんだとか。選んだ理由が、自分の知る限りもっともサディスティックな人だからという辺り‥‥どういう人だったのだろう。 「食べ物をくれるもふ?」 そんな裏事情は知らぬもふらさまは、外見に若干警戒しているものの、食べる物に釣られて尻尾ふりふり透子に近寄る。 「はい。だけど、タダとはいきません。でもご安心を。お金を払えとかそういうのでもありません」 只ではないと知りしょげるもふらさまに、透子は企みの持って含みを持たせた笑みを向ける。 「『ミツコやハツコなんて、大嫌いだ! もう絶交だ!』と叫んでくれれば、いくらでも差し上げ‥‥」 「「「「ミツコやハツコなんて、大嫌いだ! もう絶交だ!」」」」 透子が皆まで言い切らぬ内に。 はっきりしっかりすっぱりと。もふらさまたち口を揃えて言い切りました。 「「「「ミツコやハツコなんて、大嫌いだ! もう絶交だ!」」」」 しかも聞き間違いようがなく二回。 「ちゃーんと言ったもふ。だから、早く欲しいもふ」 「えーと。こういう誘惑に乗らないのも、アヤカシとの戦いだと言いたかった訳なのですけど」 期待の眼差しでおねだりするもふらたちに、透子は顔を引き攣らせ、汗を掻く。 珍しく動揺を見せる透子の手を、忍犬の遮那王が舐めて慰める。その頭を撫でながら、恐る恐ると依頼人たちの方を向けば。ミツコもハツコも魔の森を広げそうなおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。今なら大アヤカシだってしばき倒せそうだ。 「もーふーらーさーまぁあああ!! みーちゃん達の事、そんな風に思ってたなんて、ひどいぃいいい!!!」 「ち、違うもふ。御飯が欲しいから言ったもふ。本心じゃないもふ!」 慌てて否定するもふらさま。 「ほおおおおおー。つまり恩や友情より、食欲を取ったと!?」 「「「「もふ!」」」」 でも、これは皆で頷いた。途端、ハツコの拳骨が落ちる。 「いや、あの、その‥‥正直、申し訳ない」 動揺している透子が頭を下げる。 が、その肩に二人は手を置いて、黙らせる。 「とーこちゃんのせいじゃないよ‥‥。これは‥‥こうなる運命だったんだよ!!」 「そうね、あたしも目が覚めたわ。あの甘えた根性が少しでもよくなるよう! 徹底的にもふらさまを鍛えろって事なのね!!」 歪んだ笑いをもふらに向けると、依頼人二人ががっしりと腕を組む。 とりあえず、依頼人が二人ともやる気になったようだ。 |