|
■オープニング本文 ●小さな依頼 アル=カマルの開拓者ギルドは、仮設とはいえ大盛況だった これまでこの地では、開拓者がおらず、何か難事を持ち込むとすれば伝手を頼って傭兵を探さねばならなかったので、大変効率が悪かったのだ。 だが、そこにジン‥‥つまり志体が多勢登録されていて、依頼と人が集中しているとあればこれを利用しない手は無い。料金は多少割高ではあるが、客人たちに対する好奇心もあって、多勢の人が訪れていた。 とはいえ、物珍しさが先にたって、ギルドには冷やかしも多い。 興味本位の依頼が増える傾向もあって、やはり、本当の意味で「信頼」は得られていないのだな、と実感するばかりだ。 「‥‥それで、こうした依頼から先に解決をなさる、と」 「さようです」 三成の前に決済を求めて差し出された書類には、信頼獲得に向けての方策が記されていた。 「ふむ‥‥」 まず第一に、重要性の高い依頼について、依頼者から徴収する依頼料を割り引く。第二に、開拓者たちに積極的に働きかけ、そうした依頼から優先的に解決して廻る。これを通じて、ギルドが頼れる存在であることをアピールしよう、ということだ。 ● 「アヤカシを見つけた」 開拓者ギルドに飛び込んでくるや、真っ青な顔で係員に詰め寄る。 「オアシスに群れている。小さなオアシスで訪れる隊商は稀だが、砂漠では貴重な水源だ。すぐに排除して欲しい」 いつからそこにいるのかは分からない。 が、久しぶりにそのオアシスに寄ろうとした隊が、オアシス上空に飛ぶ異形の鳥を見つけた。 気付かれぬよう一旦引き返し、後日装備を整えてオアシスの偵察を行い、現状を確認したという。 「パンヴァティー・ガルダが五体。そして、デザートゴーレムも潜んでいるらしい。こちらはおそらく三体との事だ。いずれにせよ、奴らを追い払うのは、ジンでなければ無理だ。ここはそういう所なのだろう。早く退治してくれ」 一方的にまくし立てる依頼人を、ギルド側はどうにか落ち着かせる。 パンヴァティー・ガルダ。あるいはグルル。離れた相手には光線で攻撃したりするので凶光鳥と呼ぶ天儀人もいる。飛行し、その動きは素早く、奇声で敵を怯ませたりもする。 デザートゴーレム。その名の通り、巨大な砂のゴーレム型アヤカシだが、砂の部分を攻撃しても意味が無い。顔にある一つ目のようなコアの部分が破壊されない限り、何度でも周囲の砂を集めて復活してくる。破壊できるまでは、砂を操り叩きつけ、あるいは目くらましのように吹き付けたりもする。 どちらも下級だが、接した事がある開拓者の話では、それなりの手練でなければ対処し難いという強さ。しかも、空を飛ぶ相手。相棒が必要になるだろう。 「お前たちは砂漠に不慣れの奴も多いだろう。旅に必要な物はなるべくこちらも用意するし、何ならオアシスまで道案内をつける」 その代わり、アヤカシを退治できねば許さない。 依頼人の眼差しは不審に満ちていた。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
九条・颯(ib3144)
17歳・女・泰
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 いい天気‥‥ではすまされない。アル=カマルの太陽は暴力的と言えた。 刺さるような陽光。吹くのは熱風。 天儀の夏とも違い、湿気が無いのでべたつく不快感は無い。代わりに混じる砂が体に纏わり付く。 「髪の毛がぱさぱさして、痛んじゃいそうです」 砂が絡む髪に手をやり、ルンルン・パムポップン(ib0234)は小さく嘆息。 忍鳥『蓬莱鷹』を頭に乗せて風除けにするも限度がある。 砂漠を行くのは八名の開拓者と、一人の案内人。それぞれの朋友や借りた駱駝に跨り、砂漠を行く。 他の儀に比べても過酷と思える世界がそこに広がっている。慣れない開拓者からしたら何がどう道なのかさっぱりだが、案内人はわずかな手がかりを見落とさずに砂漠を平然と進んでいく。 「ほれ、見えてきたぞ。あそこが問題のオアシスだ」 案内人は駱駝を止めると、深い皺だらけの手を前方に向ける。 「見えたって‥‥どこに?」 水鏡 絵梨乃(ia0191)が目を凝らすも、そこにあるのはやはり砂と空だけ。ただ、共にいた迅鷹の花月はわずかに緊張した。してみると、鳥の目では何か見えるのか。 「ふむ、まだ遠いかの。だが、これ以上近付けば、じきに奴らもこちらに気付く。そうなれば、ただではすまんぞ」 「望む所さ」 引き返すなら今の内と、試すような案内人に、酒々井 統真(ia0893)は不敵に笑う。 元よりそのつもりで来たのだ。大事の前の肩ならし、と呼ぶには本人気が引けるようだが。見知らぬ土地で自身の動きを確かめ、なにより人助けであるなら退く理由などどこにも無い。 「結局は、観察力と注意力が大事‥‥ってか」 九条・颯(ib3144)が軽く肩を竦める。 パンヴァティー・ガルダは勿論だが、砂に潜伏するというデザートゴーレムを一体どうやって察知するのか。尋ねると相手はただ手を上げた。ジンの助力が得られないなら、出来る事はほとんど無い。 「けど、信用されてないね」 案内人の態度に、琉宇(ib1119)がのんびりと告げる。 そもそも、依頼人からしてギルドを信頼している気配は無かった。なので、モハメド・アルハムディ(ib1210)は依頼人自身に仕事をきちんと見てもらいたかったが、危険が増えると反対されて断念。 「キャラバンの準備もあると聞けば、無理も言えません」 代わりに案内人が全てを見、報告するつもりでいるらしい。こちらも会った時から、厳しい目を向けられている。 「依頼人さんもやけど。お前らに出来るんか? ってな目やなぁ」 ジルベール(ia9952)は若干の落胆を持たせて息を吐く。 「何をくっちゃべっておる。怖気づいたなら、とっとと帰るぞ」 気負っているが、案内人も一般人である。見知らぬ者に命を預ける不安が拭えない。だが、それでも間近にまで行動を共にするのは‥‥ジンを信じる気持ちもあるのか? 「新参者に信頼が無いのは当然じゃてな。精々気張らせてもらおうかの?」 椿鬼 蜜鈴(ib6311)が苦笑する。 態度は確かに気に障るが、内心が読める分案内人や依頼人を本気で怒る者もいない。 「信頼は実績で勝ち取るしかないか。‥‥いっちょやったろやないの」 やる気を出してジルベールは笑うと、駿龍をよりいっそう駆り立てた。 ● かなり小さいオアシスらしく、何度聞いても砂景色に埋もれ、どこにあるのかぴんと来ない。 だが、そこから飛来する鳥の群れには開拓者たちも気付いた。見る間にそれは大きく形もはっきりとしてくる。数は五羽。 「ぼさっと待つ必要も無かろうて。‥‥天禄、此度も存分に暴れてよいぞ」 蜜鈴は彼方の鳥たちを扇で示すと、駿龍の手綱を引く。 駿龍は一際高く鳴くと速度を上げる。見る間に、鳥の距離が縮まる。 「ヤー、まずは動きを上げましょう」 モハメドは軽やかな楽曲を披露する。 真っ赤な妖鳥パンヴァティー・ガルダ。その黄金の嘴が開くのを見るより早く、蜜鈴はホーリーアローを放つ。 耳障りな声を上げて、パンヴァティー・ガルダが苦悶した。 狩り取るには油断のならない相手と知ったか。勢いで突っ込んできていた鳥たちが、四方に散った。だが、動きは止まらない。囲みながら、機を狙い襲いかかる構えだ。 「ゴーレムの気配は感じひん。‥‥まだ追いかけて来とる最中か、オアシスで待ってんのか」 弦の響きから、ジルベールは潜む敵を探る。だが、反応は今の所、目の前のパンヴァティー・ガルダたちぐらい。 警戒を続けたいものの、出迎えのパンヴァティー・ガルダはこちらの都合には構ってくれない。 空の上で、数は向こうが上。加えて、パンヴァティー・ガルダの動きに、開拓者自身はともかく騎龍の方がおぼつかない。 近付いてはその嘴や牙で、離れては怪光線を放ち、空を自在に飛びまわり翻弄している。 そして、隙を見て地上にその凶行を及ぼさんと強襲をかける。 「こっちに来るな! ってんだろ!!」 空から鉤爪を立てて落ちてきたパンヴァティー・ガルダから、統真は依頼人を庇う。 勢い余った鳥は地面に落ち、派手に砂が舞った。 埃が目に入らないよう気をつけ、再び飛び上がる空波掌を放つ。衝撃波は砂煙を割り、凶光鳥を撃つ。 「案内人をアヤカシに触れさせたないわ。ネイト、お前の速さ、鳥どもに見せつけたれ!!」 ジルベールは、呪弓「流逆」から戦弓「夏侯妙才」に持ち変えると、凶光鳥たちを睨みつける。 乱れ飛ぶ凶光鳥に向かって、駿龍は飛ぶ。その背に跨りながら、精神を集中。込めた矢を放つ。 矢が射抜くと、その横を挑発するようにネイトは飛びぬける。追ってくる凶光鳥を、高速飛行で一旦は避けるも、距離を置いたら反転し、また別の個体へと接近する。 「ムアウィヌン、こちらも少しがんばりますよ」 モハメドは騎龍に告げると、怪の遠吠えを響かせる。 その音がどう聞こえるのか。アヤカシの注目が僅かでもムハメドに向けられる。 途端、ムアウィヌンが駆ける。逃げる者を追うように、凶光鳥も動く。 速さは互角か。追いついた凶光鳥の爪を、駿龍の翼も用いてなおムアウィヌンがかろうじてそれを避けた。 追撃が来る前に、ムハメドが重力の爆音。鳴り響く重低音に、凶光鳥が羽根を振るわせ、怪光線を四方に放つ。 ● そうやって、徐々にパンヴァティー・ガルダの注目を引き、地上から引き離しにかかる。 勿論、射程に入れば地上の開拓者も応戦する。 が、空にばかり感けてはいられない。 確認されたアヤカシはまだ他にもいる。 「さて、残りをどうするかな」 古酒の入った瓶を投げ捨て、油断無く絵梨乃は四方に目を向ける。 「異変、察知しました!」 言うが早いか、ルンルンが砂漠を走ると、同化した迅鷹の影響で輝くグニェーフソードを地面に叩き付ける。 大剣の衝撃で、砂が上がる。そこには何も無い‥‥ように思えた。 「むぅ!」 小さく口を尖らせて、ルンルンが飛び退る。今まで立っていた場所を、湧き上がった砂が一つに固まり、巨大な腕となって薙いでいた。 水から曳き上がる様に腕から肩が現れ、頭部が現れ。そして、デザートゴーレムの巨大な姿が現れる。 「ルンルン忍法ジゴクイヤー。砂に紛れて迫ろうったって、そうはいかないんだからっ!」 剣を示して、ルンルンが胸を張る。蓬莱鷹の同意なのか、同化の輝きが一層増した気がした。 「後ろです!」 「くっ」 デザートゴーレムが砂を集める不自然な音。 超越聴覚を駆使して、僅かな音も注意していたルンルン。指摘された絵梨乃は振り向き様に、蹴りを入れる。 絵梨乃を掴もうとしていた手が一気に崩れる。開いた隙間に飛び込み、さらに追撃を入れようとする。 狙いはコア。頭部に光る目のような宝石。 「もらった!!」 絵梨乃に合わせて、花月が同化する。輝きと共に加わる攻撃力を、型も何も無いただ純粋な一蹴りで見舞う。 高めた気功が龍となって天に昇り、轟音を響かせる。 抉られた砂が散っていく。 デザートゴーレムはよろめくように崩れ、砂塵となったかに見えた。 「やった!?」 「まだです! 動いてます!!」 砂に消えたデザートゴーレムに、絵梨乃は声を上げるも、ルンルンは否定を発する。 それを裏付けるように、砂が盛り上がる。立ち上がったデザートゴーレムはコアで睨みつけると、生えてきた腕で砂を撒き散らす。 「きゃあ!」 頭から降り注ぐ砂の雨に、絵梨乃は目を庇いながら続く攻撃を花月の疾風の翼を乗せた乱酔拳で躱す。 「ブライ!!」 砂を自身の黄金の龍翼で防ぎながら、颯は迅鷹へと呼びかける。 空へと逃げていたブライは、身を翻すとコア目掛けて風斬波を放つ。起こった風が砂を蹴散らし、コアを叩く。 続けて、颯が空波掌を構えるも、取り巻く砂を割って別の腕が伸びてきた。 その腕を払いのけ、襲い掛かってきた別のデザートゴーレムへと空波掌をコアへと放つ。 砂が飛んだが、どれだけの打撃を与えたか分からない。砂の巨人は顔色も変わらず、まだまだ平然と立っている。 威圧するように囲むその数は三体。 「面倒臭いなぁ。足場も滑るわ埋もれるわ。何より熱いし!」 さらには、油断するとパンヴァティー・ガルダの攻撃が降ってくる。 だが、本気で弱音を吐く気も無い。 「最後に勝つのは、我らだからな!」 砂を裂いて飛ぶブライと共に、颯も翼をひらめかせてデザートゴーレムたちに挑みにかかる。 ● デザートゴーレムが砂に潜るのを見かけ、ろんろんが天幕を広げる。 起き上がる動きは天幕越しに分かるものの、問題は天幕で隠れてコアの位置も分かりづらい。頭部を叩けばどうにかなるが、向こうも知恵はあるのか、そのうち天幕を避けたり、わざと浮かせて誘ったりした動きも見せ始める。 「じゃあ、次を試そうか」 ろんろんに命じて、琉宇は降下する。 降りてきた駿龍に狙いを定めて、デザートゴーレムが立ち上がるも、捕まる前にさっと琉宇はヴォトカをアヤカシに投げつけた。 一瞬、デザートゴーレムが怯む。その隙に駿龍は天幕を拾うと再び上昇。空中で体勢を整え、火炎をお見舞いする。 ヴォトカは度数の高いアルコール。火炎が引火し燃え上がる。 「んー、でも駄目か」 コアの目印になればと思うが、アルコールが飛べば火も消える。砂の研磨によっても拭い落とされ、長くは持たない。 攻撃されたお返しか、デザートゴーレムが砂を掴むと撒き散らす。 すかさず琉宇は騎龍と空に高く飛ぶ。元より、ただの砂にさほどの力がある訳でもないが、 「!」 そちらに気を取られていると、接近してきたパンヴァティー・ガルダの光線が掠める。 辛くも駿龍は逃れるが、その体勢が整わぬ内に、琉宇はその凶光鳥を射程に捕らえて、重力の爆音を返す。 「ほぅれ、わらわが遊んでやろうてな」 重低音にふらつくパンヴァティー・ガルダの頭上を取った蜜鈴は、ストーンアタックで翼を打ちぬく。 「天禄、押さえつけておやり!」 言うが早いか、駿龍は爪を立てて落ちるように凶光鳥を地面へと押し込む。 「おいおい、こっちにも気をつけてくれよ」 統真は口に入った砂を唾と共に吐き出す。 砂の衝撃から身を守る為、案内人を伏せさせた‥‥というか、地面に押し込んだような。 だが、落ちた機会を逃す必要もない。起き上がろうとしたパンヴァティー・ガルダの首目掛けて、統真は空波掌を放つ。ジルベールからの矢も降り注ぎ、縫いとめられたパンヴァティー・ガルダは動きも取れぬうちに四散していく。 駱駝は後でまた回収すればいいと早々と逃がしている。それでも依頼人というお荷物抱えて戦場にいるのは厳しい。 あまり戦場の真ん中にいるとデザートゴーレムとの戦闘に巻き込みかねないし、かといって距離を置くとパンヴァティー・ガルダが喰らいにやってくる。 「雪白もあまり前に出すぎるな。一呑みされかねねぇし」 「そんなヘボじゃないよ。統真こそ、癒し手はボクだけなんだし、あまり手をかけさせないでよね」 浮かぶ人妖に向かい、統真は注意を促す。緊張と環境と術の行使から、雪白の息も上がり気味だったが、軽口を叩くやすぐに気を引き締め、戦場を見渡している。 案内人は間近な戦闘に身を硬くしたまま。襲われてもとっさに動けない。だが、それは仕方ない事。勝手に動かれないのはむしろありがたい。 「案内人の安全が大事ですね」 騎龍を駆り、モハメドはパンヴァティー・ガルダに近付く。 案内人には統真がいるとはいえ、まかせっきりも悪い。 とはいえ、怪の遠吠えも最初こそ反応する素振りを見せていたが、その内慣れたか今はもう気にする気配も無い。そちらは止めて、確実に攻撃をしとめられるよう、重力の爆音でパンヴァティー・ガルダの動きを弱める。もちろん、黒猫白猫で味方の動きを支援するのは続行していく。 空からの降下と上昇を繰り返し、琉宇も剣の舞を仕掛けて回る。 地上では砂から起き上がったゴーレムが腕を振るい上げる。その脇の下を、ジルベールを乗せネイトがすり抜ける。一拍遅れて下ろされた腕は、ネイトを追っていたパンヴァティー・ガルダに向かった。 さすがに直撃はしない。凶光鳥が避ける。が、体勢を崩し、そのまま砂漠に落ちる。 「よっしゃ!」 即座に、ジルベールは矢を射掛ける。 悲鳴を上げたパンヴァティー・ガルダが飛ぶより早く、怪光線を放つも、ネイトは軽々とそれを躱し、自身もソニックブームを放つ。 安息流騎射術。まさしく人龍一体となり、ジルベールはパンヴァティー・ガルダをかき回し、そして仕留めていく。 「皆! ちょっと離れててよ!!」 倒れるようにゴーレムが砂に隠れようとする。いらっとした絵梨乃が、見方の距離を測ると、大きく足を踏み出した。 たちまち絵梨乃を中心に放たれる崩震脚。砂に描かれる同心円が衝撃の凄さを物語る。 敵味方関係ないその攻撃は、下手に隠れても意味が無い。 苦悶にのたうつように起き上がったデザートゴーレムに向けて、蓬莱鷹と同化したルンルンが走る。 「マスター時代の名の元に、今こそニンジャ合体です蓬莱鷹。‥‥マスタールンルン、ここに見参!」 煌きの刃で輝く剣。金剛の鎧で衣装。 「光ある所に影あり、悪ある所に正義ありなのです。‥‥ルンルン忍法ライト&シャドウ!」 疾風の翼に煌く脚でゴーレムの懐に飛び込むと、間髪入れずにグニェーフソードを叩き付ける。 ソードが鳴くと同時に、コアが砕け散る。 途端、砂が瓦解した。 大量の砂に埋もれぬよう飛び退くと、後は砂の山が残る。散った宝玉の欠片からは瘴気がうっすらと昇りだしていた。 ● 「これで!」 ブライの風斬波と颯の空波掌が同時にコアを打ち抜く。 それが止めとなり、最後のコアがひび割れ砕けた。 と、同時に、重い音を上げて、パンヴァティー・ガルダが空から落ちる。羽根を撒き散らしまだ動こうとしてはいたが、それを止めるのは容易かった。 見上げた空は青く、ただあの乱暴な太陽が浮かんでいる。砂漠を見渡せど、もう蠢くモノは無い。 「どうやら、終わったようだの」 まだ身を硬くしていたが、案内人はほっとしたように開拓者たちに礼を告げる。 「タシャッカルク・ジャズィーラン、アルハムド・リッラー。‥‥あなたのお陰です。ありがとうございます」 その緊張を和らげるように、モハメドは丁重に礼を告げる。 「これで、一見落着かの。依頼人殿も満足じゃろうて」 蜜鈴は天禄に持たれたまま、煙管を取り出すと軽く一服。 雪白が神風恩寵をかけて傷は癒せど、皆の表情は達成感よりも今は疲労が濃い。 「にしても、暑い‥‥いや、熱いよぉ」 「そうだね。できたらオアシスでさっぱりしたいんだけど」 恨めしそうに天を見上げる雪白に、ルンルンも案内人に願う。 「逃げた駱駝は向こうにいる筈だし、どの道オアシスには向かわねばならない。だが、水浴びは無駄だろう。帰りもどうせ砂塗れになるだけだ」 言われて閉口するルンルンに、案内人が大声で笑う。 「そうか。でも休むぐらいはできるよね」 息を吐く琉宇に、勿論だと案内人は告げるとオアシスへの道を歩き出す。 「はあ。砂が絡んで適わぬ。早く風呂に入りたいものじゃ」 うんざりと蜜鈴は天禄に同意を求める。砂にはうんざりしているのは龍も同じか、軽く翼を振るわせる。 だが、蜜鈴は案内人に目を向けなおすと、ふと笑みを浮かべる。 行きと違い、かなり砕けた態度を取るようになっている。 どこまで信用を得たかは分からないが、少なくとも悪い印象ではない筈。 「戻ったら、依頼人にも挨拶を述べに行くべきでしょう」 モハメドが来た道を振り返る。今頃、依頼人はどんな報告が来ると考えているのか。 だが、それも少々後回し。 しばし帰りの足の確保に、疲れや喉の渇きを癒す為。今は救った小さなオアシスへと開拓者は足を向ける。 |