理想と現実
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/01 20:02



■オープニング本文

 新天地アル=カマルに仮設のギルドが設置され、現地では交流とアヤカシとの攻防が繰り広げられる今日この頃。
 神楽の都でも、届く情報や出入りする開拓者の変化に人々もどことなく浮き足立っている。
 そんな都の往来で、突如騒ぎが起こる。
「乱闘だー!」
 通報を聞き、すぐに警備兵が取り押さえにかかる。
 敢え無く御用となったのは、少々意外な面子で‥‥。

「で? 何があったんだ?」
「そっちの奴らが急に斬りかかってきたんだ」
 渋面しきりに事情を問うのは開拓者ギルドの係員。不機嫌に答えるのは、酒天童子である。
 聞けば、酒天が都で相変わらず呑んだくれている所をいきなり木刀で襲い掛かってきたという。
 襲撃者は覆面をつけていた。
 警備が駆けつけると、抵抗もせずおとなしく縄に付き、その覆面もとったのだが‥‥。
「そっちの奴らって‥‥、獣人じゃあないよな?」
 係員は目を向ける。
 歳の頃は十代半ば。見た目は酒天と同じか少し上といった所。
 少年四名に少女が一人。普通の人間のように見えるが、皆、頭上に酒天同様の角が見られた。
 大掛かりな交流こそまだ無いが、和議は成立しているのだ。修羅が神楽の都を歩いていても最早問題では無い。
 が、その修羅が酒天を襲うとはさて何事か。
 彼らが振り回していた得物は木刀。刃は無くとも、まして修羅が持つなら十分に凶器だ。
 下手をしたら、和議の存続にも関わりかねない。事情はしかと聞いておかねばと係員は修羅たちを見据える。
「俺は、認めないぞ‥‥」
 五人の中で、一番背の高い少年が、悔しそうに口を開く。
 どうやら、彼がまとめ役らしい。名前は和弥と名乗った。
「あいつが! たった俺たち五人程度もあしらえないあんな奴が酒天童子だなんて!」
「はあ?」
 悔しさを滲ませ、彼が酒天を睨む。
「酒天童子といえば、疾き事風の如し、徐かなる事林の如し、侵略する事火の如し、動かざる事山の如し、身の丈低き事米の如しと、それはそれは偉大な方!!」
「最後の違うだろ!!」
「いや、他はともかくそこは間違いな‥‥がふっ!」
 妙に陶酔し天を仰いで語る男に、酒天は声を荒げて怒鳴り、首をかしげた係員を無理矢理黙らせる。
 そこに、女の子がおずおずと手を上げる。
「あの‥‥他にも花鳥風月豆とかありまして‥‥」
「言うな! オチは読めた!!」
「というか、米だの豆だの特産品なのか?」
 出された言葉を酒天は即行斬り捨て。
 その間にも、男は聞くのも恥ずかしくなるような酒天の英雄像を長々と騙り続けている。
「‥‥と、聞かされ続け、俺はいつの日かそんな酒天様のお役に立とうと嫌いな牛乳も毎日飲んできたんだ! なのに、いざ復活なされたと思えば、単なるジャリチビじゃないかっ!」
「あー、頼む。ギルド内で暴れないでくれ!」
 指突きつけて怒る少年に、酒天が拳を振り上げる。周囲で成り行きを見ていた開拓者たちが止めに入る。
「一族復興、打倒朝廷。先祖代々その思いを胸に長い間密かにアヤカシ相手に腕を磨きながら今日まで来たのに! その要となるのが、あの程度!! ‥‥俺はぜっったいに、認めないからなー!!」
 よっぽど悔しいのか。滂沱の涙流して、和弥は走り去る。
 ‥‥逃げた訳だが、なんかもう誰も追う気力無し。
「すみません。お目覚めになってから酒天様がどれだけ尽力されたかは婆さまから聞いてます。今となっては打倒朝廷も無いでしょうし、残る一族を早く解放せねばというのは和弥ちゃんだって分かっています」
 すまなさそうに、女の子が頭を下げる。名前は花と名乗る。
 残りの少年は珍平、勘太、遁遁。ま、里の仲良しがつるんで暴走してみたらしい。
「お力だって、封印のせいで減じられてしまった事も‥‥。でも、もしかしたら何かお芝居をされてるのかもと。不意をついたら本気を見せてくれないかと思って、あのような無礼を致しました」
「「「すみませんでしたっ!!」」」
 花に合わせて、三人も頭を下げる。
「どう伝わってるかは知らねぇけど。昔の本気で相手してたら、お前ら死んでるぞ?」
「はい。ですから今の情勢を鑑みて、街中の人の多い所で襲えばいきなりの全力全開は無いでしょうし、正体を隠してたら事情を聞く為、半殺しぐらいですむかなと計画してみました!」
 ものすごい笑顔で花が告げる。
 ‥‥無謀と言うか、大雑把と言うか。巻き込まれた方はいい迷惑だ。
 まぁ、怪我人も出なかったのだし、本人たちも反省している。後は襲われた側が良しとすれば、厳重注意ぐらいに纏め上げる事はできようが。
「一人、謝ってねぇよな」
 御機嫌斜めで酒天が告げると、四人は気まずそうに目を外す。
「和弥ちゃんは‥‥自分も背が低かった分、チビでも凄く強かった酒天童子さまにすごーく思い入れてましたから」
「低かったって‥‥あいつ六尺近く無かったか!?」
「ここ数年で急に伸びたんです。前は花よりチビでした」
 彼らのうちで一番低い花も、酒天がやや見上げる程度には背がある。
 不意に酒天が歩き出す。
「どこに行く?」
「決まってる! 和弥って奴を探し出して、とりあえずジャリチビ呼ばわりしたのをぶん殴った上で、背を伸ばした原因を聞きだす!!」
 高らかに宣言するや、ギルドを飛び出していく。
「あのぉ、私達も和弥ちゃん探しに行きたいんですけど」
「まぁ、酒天があんな調子じゃ心配だろうが‥‥。事件を起こした後なんだ。監視は付けさせてもらう」
「それはいいですし、和弥ちゃんと酒天様が殴りあうならそれはそれで見てみたいのですが‥‥。問題は和弥ちゃん酷い方向音痴で、放っとくとどこに行くか分からないんです」
「おーい、暇な奴。迷子探しと仲裁頼む」
 真面目に告げる花に、係員は頭を抱えてギルドの中を見渡す。
 暇そうに聞き耳を立てていた開拓者たちは、迷いながら顔を見合わせていた。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
和奏(ia8807
17歳・男・志
贋龍(ia9407
18歳・男・志
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
紅雅(ib4326
27歳・男・巫
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ


■リプレイ本文

「暇な奴。迷子探しと仲裁頼む」
「は〜い♪」
 暇な奴、と聞き、ギルドで踊っていたアムルタート(ib6632)は、返事と同時にポーズを取る。
「喧嘩と聞いてーっ! って、あれもう終わった? え、修羅同士?? 酒天さんってあの??」
 蒼井 御子(ib4444)は騒ぎに駆けつけるが、当人たちはすでにギルドの外。
「アレやコレやの逸話はどこ行った? ふっふっふー、ボクの夢を壊すなあああーっ!」
 ギルドから飛び出したのは修羅・和弥と酒天童子。事態を聞き、御子は密かな闘志を燃やす(?)。
 戦いは嫌いだそうだが、喧嘩ならいいらしい。喧嘩も祭りの一種、か?
「その酒天ってどんな人?」
 しかし、アムルタートは首を傾げている。エルフの彼女が天儀の事情に疎いのも当然。
 詳細を説明しつつ、紅雅(ib4326)は安堵交えて笑みを零す。
「変わらず健勝で、何よりです」
「そうですねー。会うのは久しぶりですが、相変わらずで何よりです」
 贋龍(ia9407)も頷く。
 修羅と朝廷の騒動。大アヤカシまで出現し、不明な部分も多く残るが、それでも顔見知りが無為に命を奪われず生活出来るのは喜ばしい。
 それは修羅という種族にも言える。
「こうしてこの街にいるのが、何だか嬉しいです♪」
 歴史の闇に葬られ、冥越の奥に隠れ住んでいた種族。そんな彼らが、神楽の都ににいる。
 フェルル=グライフ(ia4572)を始め、その事を喜ぶ者も多い。
「こちらこそ、お会いできて光栄ですね」
 花という少女が代表して礼を告げる。
 しかし。口調も丁寧、表情も笑顔なのだが‥‥、どこか画一的に見える。他の三人にしても、あまり目を合わそうとしない。
 これまでの経緯を思えば、しこりがあるのも当然か。
 それらも飲み込み、ゆっくり仲良くなっていけばいいと前向きにフェルルは考えている。
 もっとも。開拓者と修羅が仲良くしても、肝心の修羅がバラバラでは仕方が無い。
「どっちが悪い、じゃないものね。仲良くして欲しいな。直ぐ手を上げるならそれこそ子供の喧嘩っ!」
 力を失った酒天と、それが不満な和弥。
 どっちの心中も察し、柚乃(ia0638)は小さな肩を落とす。
 ただの喧嘩で済んでいる内に、何とかしなければ。
「酒天くんは相変わらずですけれど。修羅の皆もこんな感じなのかな〜」
「良く判らないです。道理は通じる相手と知っていますが、感情が高ぶるとどうなるのか」
「何か、沸点低い人多い?」
 いきなり殴りかかってきたり、乱闘したり、飛び出してみたり。
 ケロリーナ(ib2037)の素朴な思いに、鈴木 透子(ia5664)と和奏(ia8807)も揃ってのんびりと「そうだね」なんて頷いている。
「そんな事ないです! 平和を愛する修羅だっています! 今回は他に案が無かっただけで」
 聞き咎め、慌てて修羅たちが、弁明する。


「それじゃ、一緒に探しましょうか♪ 和弥さん、食いしんぼさんだったりします?」
「別に。もっとも、好き嫌いする余裕はありませんから」
 和弥の捜索には仲間の修羅たちも誘って歩きながら、フェルルはお気に入りの店を紹介していく。
 迷子捜索というより神楽の都案内だ。
「そういえば隠れ里ってどうなってるのかな? 前にアヤカシに襲われてたから心配してたんだよ」
「おかげさまで無事です。その節はありがとうございました」
 フィン・ファルスト(ib0979)にも、礼を告げてくるのみ。
「あ、あそこ美味しいんですよ」
 問いかけには主に花が答えている。他の三人は、相手が女の子なんだから女子同士で、と任せてる感じだ。
 フェルルの案内に興味はあるそぶりだが、実際に誘うとやんわり断られる。
 和弥が気になるのか、それとも‥‥。
 それでもめげず、二人はいろいろと話しかけ続ける。
 勿論、聞き込みも忘れない。幸い修羅の姿は結構目立つし、走り回ればなおさらだ。
 が、情報は錯綜していた。
 整理すると、道に迷ったまま走り回って、どう通ったのかいきなり奇妙な場所から出現していたり。
 途中、酒天を探す組とも出会うが、そっちもなんだか似た様な状態。迷子に酒天も振り回されている。
「うう、迷子っていってもどれだけ広く歩き回っているんでしょう?」
 住み慣れた場所だというのに、まるで迷路を歩かされているよう。
「そうですねぇ。御面倒をおかけします」
 目を回しそうになっているフェルル。これには花も心底同情した声を上げていた。

「酒天くんも目立ちますからね。すぐに見つかるとは思うんですが」
 贋龍はそう考え、実際、すぐに目撃情報は得られた。
 問題は、走り回っている相手を追って酒天も動き回り、追いつかない事か。
「でも、酒天くんの性格からしてすぐにお腹が空くから美味しい匂いに誘われてることは請け合いだと思います」
 ケロリーナは間違いないと、確信的推察を披露する。
「案外、走ってお腹が空いて寄り道とか‥‥まさかね」
 幾ら何でもと思いつつ、あるいは酒天なら?
 柚乃も半信半疑ながら、目撃情報近くの飲食店を探していき、
「あ? お前ら何してんの?」
 赤提灯のお店で、無事に酒天を発見する。
「酒天童子、げっとぉぉおおおおおお!」
「えぇぇいっ!」
 すかさず御子とケロリーナが捕獲にかかるが、抱き付く前にひょいと逃げられる。
 勢い余った二人は、頭を仲良くぶつける。
「「痛ーーっい」」
「当たり前だ! 来るならせめて普通に来いっ!」
 それでも酒瓶は決して放さず。酒天は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「やぁ、お久しぶりです。元気そうで何よりです」
「おう。で、一体何の用だ?」
 全く変わりそうに無いその態度に、贋龍はもう笑うしかない。
「和弥さんという修羅の方と喧嘩なさったと聞きまして。‥‥その‥‥、相手は子供です。もっと大人の態度を取った方が」
 言い含めながらも、透子は言葉に迷う。
 見た目ならほぼ同い年。身長が無い分、酒天の方が幼くも見える。しかも、突っかかってきたのは向こうの方から。どっちが悪いかといえば、どっちだろう? まぁ、本気に受け止める辺り、大人の対処とも言い難いか。
「とにかく、和弥は私たちも探してるから一旦帰ろう! そろそろ向こうも見つかってるだろうしさ〜」
「それから、一発入れるなり好きにしたらいいよ。修羅は嘘が嫌い、なんて言われているぐらいだし、キミの前で嘘はつかないよ」
 アムルタートと御子が笑顔で誘う。
「んな、正直者ばかりでもねーとは思うけど」
 首を傾げながらも、酒天は了承を入れる。いい加減、探し飽きていたらしい。
「酒天くんは決してお馬鹿さんじゃありませんから、何か思うところがあるかと思います。良い子だから、和弥くんの事を放ったらかしにも出来ませんよね」
「だから、子供扱いするな。これでもお前よりうんと年上だぞ?」
 笑う紅雅に口を尖らせる酒天。お勘定払って店を出て、一旦、ギルドに戻ろうという時に。

「すみませーん。開拓者ギルドってのはどっち‥‥」

 ばったりと出くわす修羅一人。長身の少年は、探していた彼である。
 探してない時に見つかるのもよくあるよね? ってなもんだ。
 最初は店の親父を見ていたが、すぐに開拓者たち‥‥というより酒天に気付き、表情が歪む。
 そして、身を翻して逃走を始めた。
 逃さず、追いかけだす酒天と開拓者たち。騒ぎから、和弥を探していたフィンたちも駆けつけ、なんだか凄い追いかけっこになっている。
「待てよ! 何してそんなにデカくなったか白状してもらおうかっ!」
「酒天さん、それ殴られた事と完全に話がすり変わってます」
「じゃあ。殴りかかってきた事を凹ましてから現状を聞く!」
「それも違う気がします」
 追いかける酒天にフェルルは冷静に突っ込む。
「なんだこの大人数は!」
「あなたが逃げるからだよ!」
 本気で逃げてる和弥に、フィンが返す。
 理由はともかくとして、大人数が一斉に追いかけたらそれなりの迫力。逃げたくなっても仕方ないか。だからといって、人数減らしても、惰性でこのまま逃げてしまいそうだ。
「暴力沙汰になる前に、ギルドにお帰り願いたいですねー。犬の喧嘩なら水をかければ収まりますけど」
 和奏は走りながらもとぼけた表情で周囲を見る。観客が多い。
「追いかけて追いつかないなら円運動です。とすると‥‥」
 透子が横道に逸れる。
 そこから和弥が来そうな場所に先回り。結界呪符「白」で通行を塞いでしまう。
「んな!?」
 やがてやってきた和弥が壁に阻まれ、慌てて足を止める。
「よし!」
 それを見た酒天が飛び掛ろうとし、
「危ない!」
 透子が声を上げると同時、結界呪符「白」を展開。酒天の『前』に壁が現れる。
 勢い余って、酒天が壁にぶつかる。よろめいた所をアムルタートが鞭で足を絡め取る。
「危ないって言いました」
「皆が見てるよ? 他人に当たったら大変だよ? だからギルドでやろう」
 平然と告げる透子に、アムルタートも鞭を絡めたまま、酒天を引っ張る。
「上に立つなら、話し合いに武力は持ち込んではいけませんよね?」
「一方的に不条理に攻撃されたんだ。反撃は当然だろ」
 にっこりと笑って諭す紅雅に、酒天は相当むくれている。
「はいこれ。喉渇いたでしょ。和弥くんも一旦はギルドに戻ろう。和議が成ったばかりなんだから暴れない。封印とか討伐とかうるさい人もいたんだから。っていうか、まだいるけど」
 フィンは和弥に岩清水を渡し、落ち着くよう促す。
 和議反対派も、また何のきっかけで声を荒げるか分からない。簡単に事態を二転三転はさすがに無いだろうが、念を入れておく必要はあった。


 という訳で、どうにか開拓者ギルドに戻った一同。
「クッキーありますの。和弥くんは何が好きですの?」
 ケロリーナはあれこれ話しかけ、二人の気を落ち着かせようとする。
 が、
「壁にぶつかった挙句、女に足を取られるのが伝説かよ」
「同じ場所をぐるぐるしてた学習能力も無い奴がつべこべ言うんじゃねぇ!」
 やっぱり反目する和弥と酒天。
「いきなり暴力は駄目。約束してくれたら後でとっておきの御褒美を上げる」
「今はお茶でも飲んで落ち着いて下さい。昼間なのでお酒は控えましょうね」
 柚乃はアル=カマルで手に入れた酒をちらつかせ、紅雅は茶を振舞う。
「本当に大切なのは心の強さですの。他人の欠点を責めるような事はダメッ。お話聞いてくれないとけろりーな、泣いちゃうかもですの」
「分かった。泣いてろ」
「ひどーい」
 諭すケロリーナを、酒天は適当にあしらおうとする。機嫌は良く無い。
「和弥の悪い所は多分まず殴った事。それから、自分の期待を違うってたからって酒天の気持ちも考えないで好き放題言ってしまった事」
 一旦二人を離し、透子は事のおさらいをしてみるが。
「酒天の悪い所は‥‥あれ? やっぱりない?」
「よなぁ? って訳でまず殴る」
「駄目です。とにかく二人とも街を騒がせたのは良くないです」
 立ち上がりかけた酒天に、応じようと構えた和弥。その間に無理矢理割り入る。
「酒天さんって、ほんとに弱いと思います? 度量も広いですし、それも一つの強さだと思いますよ?」
 詰め寄るフェルルに、和弥は目を逸らす。いじけてる風は、分かっているのに認めたくない強がりだった。
「力は鍛えて戻ったりはしないの?」
「ある程度はどうにかなるんじゃないか? 俺もよく分かんね」
 フィンの当然の疑問だが、酒天はお手上げだと態度で示す。
「理想と現実が異なっていたのは、酒天さまの責任ではないです。ちびと言われて悔しい思いをされた経験がおありなのに、その暴言は感心できないかも。酒天さまだって好きでチビジャリ? ではないでしょうから?」
 真面目な顔で告げる和奏は、そのまま酒天へと向き直る。
「そもそも、王さまで百年生きててバツイチなのに大人げないかと‥‥。人に物を尋ねる時に相手を殴ったりしちゃいけません。
本当に修羅さんを理解してもらう気ありますか? だからチビジャリ? と言われるのだと思います。‥‥ところで、ちびは判るのですが、ジャリ?」
「ジャリンコのジャリでは?」
 首を傾げる和奏に、花が口を挿む。
「ってか誰がジャリでちびだっ! 大体バツイチってなんだ?!」
 どこまでも真面目に見える和奏に、黙って肩を震わせていた酒天が声を荒げる。
「そうですね。二桁は確実! 愛人だって」
「それも違うだろ!」
 真面目に否定する花だが、こちらも否定される。
「そもそも、別に尊敬されようとは思ってねぇ。嫌だったら勝手に嫌がってろ。だが、迷惑賃代わりに、どうやってそこまでデカくなったか、きりっと白状しろ!」
「え、何故といわれても普通にこうなったとしか」
 いきなり話を切られて詰め寄られ、和弥が戸惑っている。
「和弥くんが伸びたのって、成長期だからだと思うんだけど。酒天くんの場合、低いというより成長が止まった感じ? 先代はどうだったの?」
 素朴な疑問を口にする柚乃だが、酒天の動きがぴくりと止まる。
「実にその通りです」
 迷った末に、修羅たちが頷く。
 修羅には時折特別力を持つ者が生まれ、長命で全盛期の肉体が長く維持されるという。とすると、酒天の最高がこれか。
「絶対認めねー! もうちょっと成長した方が普通に力も強い筈だろうが!」
 そう言われても、何とも言いようが無い。
 まるきり駄々をこねているようにしか見えないのがまた困る。
「とにかく。まだ納得行かないなら一発ずつ殴り合えば? 力を知りたい、懲らしめたい。ルール決めてやった方がいいよ」
「そうだね。それならいいよ」
 御子が強く勧め、フィンたちも同意。
 が、お膳立てされると毒気を抜かれるのか。二人顔を見合わせると、そっぽを向いた。

「それでは、皆様。御迷惑をおかけしました」
 和弥が大人しくなった所で、用は済んだと修羅たちは早々都を後にする。
「二度と顔を見せるな」
 酒天も心狭く見送るが、言う割に毒気は無い。
「酒天はきっといい父親になりそうね」
「どうだろ。どの道すぐ俺よりでかくなって、先に逝く」
 笑う柚乃だが、酒天はあまり嬉しそうでもない。特殊なのも良し悪しか。
 不安が広がり、柚乃は用意した刀など差し出す。
「あの、これ受け取ってくれないかな? 使わずに済むならそれが一番だけど‥‥」
「悪い。あれこれ貰っても返す物が無い。気持ちだけ貰っとく」
 笑みを見せるも、やんわり断られてしまう。
「ところで、酒天は食べ物良く知ってるでしょ? 天儀とか修羅の美味しい御飯知らない〜?」
 横合いから尋ねるアムルタートに、酒天は全員の顔を見渡す。
「そだな。何か良く分からんが迷惑かけたみたいだし。いいさ、食事でも奢るさ」
 それで思い出したように、改めて柚乃に向いた。
「そーだ、新大陸の酒持ってるって言ってたな」
「‥‥そっちは取るんだ」
 しっかり手を出す酒天に、柚乃は呆れるしかない。