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■オープニング本文 今日も物騒な天儀の世界で、 二人の乙女がもふらに燃える。 そして、開拓者ギルドに乗り込んできた二人。 「という訳で、対アヤカシ撲滅用完全戦闘形態もふらさま降臨に向けて特訓開始するわよー!」 「ちなみに、はーちゃんが先生で鞭を振るうなら、みーちゃんは保健の先生で胸を振るおうと思います!」 「もふー。もふは給食のおばちゃんに腕を振るって欲しいもふー」 「‥‥どういう寺子屋物語なんだそれは?」 真っ黒な丈の短い着物で鞭を振るうハツコと、白衣着て何か胸に仕込んで大きくしているミツコに、ギルドの係員はとりあえず状況を整理しようと全力で気力を回復する。 「っていうか、何だ? 対アヤカシ撲滅用完全戦闘形態もふらさま? 牧場警備の為にももふらさまは戦えないのかというそんな話は前したと思うが、それがどこでどうなった?」 アヤカシの動きが激しい昨今。 自衛の為にももふらさまは戦えないのかなと、相談に訪れたのがつい先日。 結局はやる気の問題だろーという事で、開拓者にもふらのやる気を引き出してもらったのだそうだが。 「もふらさまはー、徹底的にしごかれたいんだよねー?」 「もふー。しごきは嫌もふぅ」 もふらに抱き付き笑顔を見せるミツコだが、むしろもふらを無理矢理引き止めているように見える。 「だったら『オウツクシイミツコサマハツコサマゴメンナサイ』と土下座おし!」 「心にも無い事を言うと怒られると分かったから、もうそんな事は言わないもふっ!」 嫌がるもふらに、ハツコが鞭を突きつけると、もふらは真面目にそっぽを向く。 たちまち険悪になった二人から、それぞれ片頬を引っ張られるもふらさま。 「もふらさま、嘘も方便とかいろいろあるだろうに‥‥」 何があったか知らないが、正直だけが世の道理でも無い。 「‥‥とまぁ、冗談はさておき。どうやらもふらさまだってやる時はやれそうだって分かったから、本格的に警備を頑張ってもらおうと思うのよ。でも、もふらさまにいきなり戦えって言っても出来るもんじゃないし、その動きを教えようにもあたしたちだって素人じゃない? だから、やっぱり餅は餅屋で開拓者に戦闘方法を教えてもらうのが一番だと思うの」 「相棒さんも一緒なら、どんな修行方法が出来るか考えてもらえそうだしー」 軽い口調ながら、真面目にハツコとミツコは語る。 「冗談だったのか」 唖然とする係員に、二人ともふらはきょとんと目を丸くする。 「当然でしょ?」 「みーちゃんとはーちゃんはもふらさまと仲良しだもんねー?」 「もふ♪」 笑顔を見せあう二人と一体に、係員はやっぱり頭を抑える。‥‥真面目な奴だけが世を生きる訳ではない。 「でもねー。みーちゃん考えたんだけどー。もふらさまって精霊力の塊なんだし。魔法って使えないのかな?」 尋ねられて係員は首を傾げる。 生憎、魔法を使うもふらさまとは伝説伝承ならともかく、確信が持てる範囲では聞いた事が無い。 しかし、だからといって出来ないとも断言できない。もふらさまはやる気が無いので使う事が無かったとも考えられる。 もふらさまだって神の使いとすら言われる精霊なのだ! 条件は悪くない。 「でもさ、精霊力の修行ってどんなよ? それより体を鍛えて攻撃したり、いっそ足を鍛えて確実に逃げられるとかの方がいいんじゃない? そしたら、開拓者がいない時でもあたしらで特訓の予習復習させてあげられるし」 「でもでもー。見つめられるといらっとしたり、刈り上げられた毛が一日で元通りなのは精霊力の賜物だと思うよー。せっかく素質があるのに、伸ばしてあげないのももったいないじゃない?」 難色示していたハツコも、ミツコの強い推しに少々考え込む。 「そうか。癒し系だもんね。もふもふで心癒され、魔法で傷も癒されっていいかも」 「え? みーちゃんは炎吐いたり、精霊砲乱射! とか楽しそうと思ったんだけど」 わいわいと、口々に言い合う依頼人二人。 が、その間に係員は割って入って話を止める。 「もふらさまだぞ? そんな高度な事をあれこれ教えても覚えられるか? 精々、大声で助けを呼んだり、応援したりじゃないか?」 実際、白熱する二人を放っといて、当のもふらさまはごろごろしている。 自分が話題になっていても関係無しだ。 「「いーや。もふらさまだってやればできる!!」」 「そうかぁ?」 二人は確信をしているようだが、係員はどこまでも懐疑的。 やる気にはなるようだが、それがどこまで続くのか。 戦闘させるにも、これまでそんな経験全くない‥‥どころか、関わるそぶりすらなかった。一から出発ではなく、マイナスから始める訳だ。 「まぁ、悪い事ではなさそうだしなぁ。例え技なり術なりが完成しなくても、ギルドには報告する事。何かの足しにはなるだろ」 「「了解!!」」 まるっきり期待してない係員に、二人はきっちりと両手を上げる。 むしろ二人の方がやる気満々だった。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ラムセス(ib0417)
10歳・男・吟 |
■リプレイ本文 もふらさまに戦う手段を。 依頼人の意気込みに、開拓者たちも興味深げにもふら牧場に集う。 「そういえば、今まで技を使った事ってあったかな? 勿論、使わずともいつも助けてくれたり、頼りになるんだけど」 「頼まなくても使うってのはあるけどね」 柚乃(ia0638)の疑問に、ハツコはやれやれと手を上げる。 ごろごろ寝てたり、ドヤ顔してたり、食っちゃ寝してたり‥‥。 技というか、生態そのもののような動きはしょっちゅう見せてくれる。 もっとも技はともかく、荷物を運んでくれたり、もふもふごろごろして和ませてくれたりといろいろ頼りになるのがもふらさまだ。 「もふもふしてて、ホンマええ気持ちどす〜」 雲母坂 芽依華(ia0879)も、もふもふに埋もれている。幸せそうに緩みきった顔はまさにもふらさまが与える恩恵故だろう。 「‥‥けど、これだけが目的やおまへんのやな。新しい技を習得できるようお気張りやす」 「分かったもふ。がんばるもふ!」 が、いつまでも埋もれていては話が進まない。本来やるべき事を思い出し、気を取り直すと場にいるもふらたちをじっと見つめる。 もふらもじっと見つめ返す。 だが、それもしばしの出来事。やがて、ふと目をそらすとめいめいに遊び出す。 「もふらさまは、やる気無し選手権天儀代表みたいな感じだしね‥‥」 もう「がんばる」と言った事も忘れ、だらけきっている。 訓練しようにもまずはどう集中させるか。水鏡 絵梨乃(ia0191)でなくとも、頭を抱えたくなる光景だった。 「とりあえず、もふらさまにも好みがあるでしょう。いくつか技は考えて来てますから、その中からもふら様たちがやってみたい技をまずは選んで見て下さいませ」 リーディア(ia9818)が告げると、彼女のもふらであるもふリルさんが率先して手を上げる。 「あたし、楽器演奏できるようになりたいもふ〜」 「‥‥後で、太鼓買って上げますね?」 「わーい」 ちょっと困った表情をするリーディアだったが、言われたもふリルの方は素直に喜んでいる。 楽しみにしてはしゃぎ回る姿を見て、リーディアの表情も緩む。 「ただ。もふらさまって攻撃的なイメージは無いのですが‥‥できるのかしら?」 ふと気になり、もふリルを呼び戻す。 食いしんぼだけあって丈夫そうな歯や爪はしているが、それで誰かを攻撃するとは性分的に考えづらい。 とはいえ、まずはやってみるだけである。 ● 「そういえば、もふ龍ちゃんはいっつも干してある布団に向かって体当たりの練習してましたね。あれは何をやってたんでしょう?」 「そのまんま、体当たりの練習もふ〜! もふ龍アタックもふ〜!」 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の疑問に、もふ龍は胸をはって答える。 「そうですよ。もふら様は本当は強いのですよ。もふら様と一緒にケモノやアヤカシ退治した事あるのですよ。もふら様の一撃で、相手はポーンと飛ばされましたもん」 アーニャ・ベルマン(ia5465)も頷く。 「あたしが考えたのは突進系だけど、ここら辺は助走付けるぐらいで同じと見ていいかしら」 忍犬・桃(もも)♀を撫でていた手を止めると、御陰 桜(ib0271)は拍手を打ってもふらの注目を集める。 お腹なでられデレデレしていた桃も、何か始めるのだと気付くと、途端に真面目な態度になって桜の横につく。 「もふらの皆さ〜ん、こ〜んに〜ちは〜♪ あたしが紹介するのは攻撃だけじゃなくて、ちょっと急ぎたい時にも使える技よ♪ よ〜く見ててね♪」 夜春も使って好感もよくし、子供相手にするように桜は騙りかける。 今回の為に、作られた的を指し示すと、 「桃っ!」 「わんっ!」 桃が走る。オーラを纏って風を切る、見事なダッシュアタック。 用意した的が木っ端に砕けたが、ま、そちらはまた用意すればよし。 見事標的に当てた桃は、そのまんまの勢いで桜の所に走る。両手広げて待っていた御主人の腕の中に飛び込むと、よくやったと撫でられて、千切れんばかりに尻尾を振る。 「こんな感じで、やってみたいコには、あたしと桃が優しく教えてあ・げ・る♪」 「わんっ!」 桜の笑みに合わせて、一緒にやろうと誘う桃。 「もふ! やってみるもふ」 面白そうだと思ったらしく、もふらたちがすっくと立ち上がると、新しく用意された的にぶつかっていく 「当たりが弱いかな?」 走って的にぶつかるが、それで倒すという勢いでも無く。 もふもふのもふらがぶつかっても、布団で攻撃してるようなものだろう。 その内、的にぶつかる遊びにすりかわっている。 「毛並みが乱れるもふ〜」 牧場のもふらたちと一緒になって遊んでいた柚乃の八曜丸だが、擦れてぺたんこになる藤色の毛を丹念に掻いている。 「力と体力はあるのだから。カウンター技とかどうかな? 攻撃は最大の防御っていうけど、その逆?」 その毛並みを整えてあげながら、柚乃はふと告げる。 「どうかしら? よく知らないけど、確かそういうのって相手の技を受けるなり避けるなりして攻撃を返す感じよね? ‥‥で、もふらさまの場合」 ハツコの動いた視線を、柚乃も追いかける。 そこでは、的当てに飽きたもふらたちがじゃれている。 一匹が飛び掛ると、もう一匹は何もせずにどかんと巨体に潰され倒れている。受けるも避けるも無く、勿論、攻撃も無し。 「そういう素早い切り替えって難しそうですか?」 溜息と共に、柚乃は八曜丸を見つめる。もふらは黙って見つめ返すばかり。 「じゃあ、もっと簡単に‥‥荒ぶるもふらのポーズ!」 「もふっ!」 紗耶香の掛け声に合わせて、もふ龍が勝利のポーズらしきものをとる。 「かわいー。これならすぐに出来そうだね!? しろもふらさまもやってみてー♪」 「もふ♪」 はしゃいだミツコが、もふらに頼む。すぐにもふらはコロンと寝転ぶ。‥‥あまり荒ぶる勝利っぽくは無い。 「勝利の感じが無いのかな? でもそれは教えたら忘れないよね?」 「そうだね。でも、これの最大の欠点は、これでどうやって牧場を守ってもらうかよ」 手を打って喜ぶミツコだが、ハツコの意見は厳しい。 「不快な感じを与えられません?」 「みーちゃんは嬉しいけど?」 紗耶香が問うが、ミツコはこれには首を傾げる。 自衛手段と考えると、確かに微妙。ま、あって困るものでも無さそうだ。 「時間をかけてやる事になるでしょうから、差し入れにしましょうか。勿論、もふらさまたちの分もありますよー」 「もふ龍、ご主人の作ったお饅頭が食べたいもふ!」 紗耶香の呼びかけにもふ龍も喜ぶ。 「もふっ!?」 そして、御飯と聞きつけたもふらたちが殺到する。 やはり、こういう時は素早いようだ。 ● もふらさまといえば、そのもふもふの毛が特徴。 「その毛を気合い入れて更にもふもふもこもこにしてしまうんはどないでっしゃろ? 名付けて『まりもふら』どす♪」 もふもふと。もふらに埋もれながら、芽依華が提案する。 「もふもふが増えるのはいいけど、自衛の方は?」 ハツコが問うと、小首を傾げ、 「もふ増量で防御を上げ、さらに跳ねて攻撃できる言うんはどないですやろ。それに、壁一杯の栓になったり色々使えますえ」 言ってもふもふの感触を確かめ‥‥、やっぱりまた埋もれてみる。 あまりにもふらに埋もれてるからか、炎龍の青紅が嫉妬の眼差しを向けている。 「そないな顔せんと。仲良ぅしてぇな?」 芽依華があまりに笑顔で言うのだから、青紅も何も言えず。幸せそうなもふらと顔をつき合わせる。 「もふ? 毛を膨らませるもふ?」 言うと、もふらは一生懸命毛を逆立てる。 「うーん、ちょっと膨らんだ?」 「まぁ、普通には」 何となく丸くなった気もするが、何が変わったかは今一。 とりあえず、触るともふもふするのは変わらない。そのまま跳ねる姿は‥‥楽しそうではある。 毛を生かした特技はアーニャも考えており、その為にまるごともふらを着込む。 「で? なんで俺までもふらの格好なんだよ!!」 もふなり兜とふわふわの毛皮でもふらっぽく仕立てられたミハイルは、不満げに毛を白黒の毛並みを逆立てる。 「かっこよく技を決めたら可愛い弟子が出来るかもしれませんよ?」 「なるほど。それも悪くは無いな」 アーニャの返答を吟味すると、ミハイルは黒眼鏡をかけ直して気も取り直す。 「では、もふらの皆さんには『もふ毛飛ばし』の術を覚えてもらいます。ミハイルさん、お手本どうぞー」 「あー。こんな格好してるが猫又だ。そこそこ戦いなれている。お前らがアヤカシから身を守る為に俺が技を伝授してやろう」 どんと胸を叩くミハイル。 もふらたちが見守る最中、用意された的に向かうと、上体を逸らし、大きく振りかぶると細い毛のような光の刃を飛ばす。針千本だ。 「こんな感じだ。お前ら精霊力の塊だろう。頑張れば俺よりも強くなれるぞ」 「もふー、がんばるもふー」 真似して、もふらたちも上体逸らして毛を飛ばすポーズを取るが、悪戯に地面を叩くだけ。そのうち、足を踏み鳴らす方に意識が行く。 「もふ毛に集中して、ぽんと飛ばす事をイメージしましょう」 アーニャの助言をしばし考えてもふらさま。やがて、はっと顔を上げる。 「分かったもふ! こうやるもふ!!」 首の辺りを後足でこりこり掻くと、抜けた毛が数本ふわふわ飛んでいる。 「‥‥自分で考えた所だけは評価してやろうじゃねぇか」 苦笑いするアーニャを、ミハイルは肉球で叩く。 「ほな、そのもふ毛飛ばしを生かして、毛を大きゅうする技と併用。もふ分身っちゅうんも出来るかも知れまへんなぁ」 「飛ばさなくても、毛を刈り取ってまとめたら、それぐらいはすぐ出来そうだけど‥‥。問題は、大元の毛がまた伸びるのに一日かかるのよね」 「それやと、結局もふらさまの行動とは言われへんのと違います?」 芽依華の言葉に、ハツコも少々考える。 もふらが自分で自分の毛を刈って、また伸ばす‥‥。出来そうな気もするが、どうなのだろう? 「でも、これ以上もふもふが増えたらみーちゃん困っちゃう♪」 「確かに、ふかふか気持ちいいですよねぇー」 ミツコとアーニャがもふらに埋もれる。 しばし中断。まったりとした空気が流れる。 ● 「体力ばかりがもふらさまじゃない! だって、もふらさまは神様だもの!」 「そうもふ! 神様だから聖なる光を発せられるもふ! この光でアヤカシを弱らせる事が出来るもふ」 立ち上がって告げるミツコに、もふ龍が賛同。胸を張って高らかに告げるが、 「‥‥、で。それ、どうやるの?」 「もふぅ?」 ハツコからの指摘に、もふ龍は素直に首を傾げる。一応、他のもふらたちにも聞いてみるが、やはり首を傾げる。 「もふはそんなの覚えなくていいもふ。毛並みはいつでもピカピカもふ!」 「八曜丸はね?」 毛づくろいをして胸を張る八曜丸に、柚乃は微笑む。 「物理的ではなく、精霊力を目覚めさせるデス? でも、使いすぎたらもふら様小さくなっちゃうかもデス?」 アヤカシに食われるなどして、精霊力が失われたもふらが小さくなる事はある。 ラムセス(ib0417)からの指摘に、ミツコとハツコは顔を合わせる。 「‥‥。やだー! もふらさまのもふもふが少なくなるなんて絶対ヤダー! そんなだったら今のまんまでいい!!」 「あ、でもでも。御飯を一杯食べて皆で寝てれば、戻るデスヨね? ね?」 そこまで考えて無かったのだろう。 半狂乱になって否定するミツコを、ラムセスは慌てて落ち着かせる。 「と、とりあえず。どうなるかは置いといて、気功波みたいに撃つ事はできないかな? こんな感じ」 絵梨乃が掌に気を集中させる。 分かりやすくする為に、迅鷹の花月がこっそり同化。神布「武林」が煌きの刃で輝く。その状態で放てば、離れた場所にあった的が砕ける。 「気っていうか、もふらさまなら精霊力かも? もふもふ精霊砲乱射‥‥とかだと、集中力と命中力が必須かな?」 柚乃が八曜丸を見る。 「そうだね。まずは気を掌に集中させる事からか? 出来るようになったら、目標に向かって放つだけなんだけど。ちゃんとできたら、美味しいおやつを御馳走しよう!」 絵梨乃から、おやつ、と聞き、俄然張り切り出すもふらさま。ラムセスも精霊集積を歌い上げて、補助する。 そしてもふらたちはじっと手を見つめて‥‥、そのまま固まる。 「やっぱり難しいかな? たんぽぽさんに手伝ってもらえたらいいのデスけど」 ラムセスは迅鷹のたんぽぽを見る。 同化して精霊力を集める感覚を掴んでもらおうと考えたのだが、どうやらもふらとは同化できないらしい。憑くのはあくまで志体になので、道具に直接というのも無理なようだ。 「もふらはんが、融合‥‥ちゅうか、同化するんは無理なんやろか?」 芽依華が素朴な疑問を口にする。精霊なのだから、これも出来て良さそう。 どんなの? と言う目で見られたので、ラムセスが実践してみる。たんぽぽはラムセスに同化すると、金剛の鎧を発動して見せる。 「やってみるもふ!」 一応やりたがるもふらさま。勢い良く立ち上がり、たんぽぽのように滑空する勢いでミツコに向かって走りこみ、 「にょああああああああーっ!!!」 そのまま、どかんとぶつかる。 受けたミツコは、悲鳴と共に放物線を描いてすっ飛んでいく。勿論、同化はされていない。 「‥‥やっぱり攻撃力は乏しいのかなー。ミツコ生きてるし」 「問題、そこなん? というか、志体持ちでもおまへんし、そこから無理と違いますのん」 冷静に分析するハツコに、芽依華は冷や汗ものだ。 「もふ? じゃあ、もふ龍がやってみるもふ!」 「‥‥また今度ね?」 目があったもふ龍を、紗耶香は宥める。 頑張ろうとする姿勢は誉めたいが、正直あの二の舞は御免である。 「分かったもふ! こうやればいいんだもふ!」 そして、全く空気を読まずに別のもふらさまも立ち上がる。 何の事だという皆の目線を受けながら、もふらさまはとっとこ歩き、的として木の板をぶら下げていた花月に近寄る。 花月も訳が分からず、とりあえず様子を見ている。その前でもふらは大きく息を吸い込むと、ふーっ、と花月を吹いた。 「精霊砲発射もふ!」 「違うと思う」 ドヤ顔で嬉しそうにするもふらに、冷たく言い放つハツコ。どうやら、これがもふら精霊砲の限界らしい‥‥。 「でも、耳に吹き込んだりするとちょっとイヤンな技だよね? 大蒜とか食べた後だとなお」 「それも精霊砲とは違う」 復活後、何故か嬉しそうにしているミツコに、ハツコはやっぱり冷たい。 ● 「もふー」 「もふーー」 「もふーーー」 「もふ♪」 ラムセスの偶像の歌に合わせて、もふらたちも歌い、もふリルも鈴を鳴らしている。 アーニャはもふらを集めると、おかしで釣り、紙芝居を披露。 「開拓者の皆で追い詰めたのは怖い大きな猿型のケモノでした。とても強かったのです。でも、もふら様がどーん! と思いっきり体当たりして開拓者を助けました」 紙をめくると、もふらさまが猿のような化け物を突き飛ばす絵が。 そうやって言い聞かせる事で、もふらのヒーロー部分を刺激しようとするが、今の所、もふらはおやつに夢中である。 楽しそうなもふらたちに比べると、開拓者たちの表情は浮かない。 「やっぱり、実用的な技となると難しいのかしら」 「なんでー? もふらさま頑張ったじゃーん」 「頑張っても結果がねー」 ミツコは口を尖らせるが、難しい表情でハツコは頭を掻く。 一応、一通りこなそうとはしてくれる。 してくれるが、出来るとは限らない。限らない内に他の事に意識が向いてしまう。最終的にごろごろし出す。 「それで? もふらさまたちがやりたい技ってありますか?」 リーディアが問うと、もふらたちは口をそろえる。 「「「「モフテラスになりたいもふ!!」」」」 目を思いっきり輝かせるもふらに、柚乃がのたうつ。 モフテラス。あるいは、八頭身もふら。手足のすんなりしたもふらとは一体どんなのだろう。 「八頭身のかっこいいもふらさま‥‥八頭身はっ! 頭部がっ、もふらさまのままーっ!??」 思考の限界に達したようで。苦しむ柚乃を、ハツコが宥める。 「でも、みーちゃん見たいなー。はーちゃんも思うよね?」 「そりゃ見たいけど!!? 八頭身になったからってどう戦うの?」 ミツコは乗っかるが、ハツコは懸念が大きいようだ。 「手足が伸びれば逃げやすくなりますよ?」 「俊敏に戦えそうですし、在るだけで敵も怯んでくれそうです。神々しい姿に、目にした人はきっとお供えをして拝むに違いないのです!」 アーニャとリーディアが口を添える。 お供えと聞いて、もふらの目はますます輝く。 「なるほど。で、どうやってなるつもり?」 ハツコも納得。したのはいいが、ではとなるともふらも開拓者も首を傾げる。 「ダイエットとは、違う‥‥多分。精霊力を再構築というか、練り直すというか」 「それが出来てるなら、もふ毛増やすぐらい朝飯前だと思うよ?」 悩む柚乃に、ハツコは手を上げる。 「結局、精霊力が問題ですね。塊といっても、自在に使いこなせてはいないようですから。傷が癒えていくのを、自分では制御できない、そんな感じなのかしら? 催眠療法で自己暗示とか、人妖さんに頼んで人魂の方法を講師していただくとか」 リーディアもあれこれ考えるが、もふらはつぶらな目を向けたまま。いいとも悪いとも判断つかない。 「‥‥いっそ逃走技を身につけさせます?」 「それも一つの手よね?」 諦め半分に告げるリーディアに、ハツコも肩を下げる。 「逃っげるもふー♪」 聞いたもふらさまが、一斉に走り出す。遊ぶ事には実に素早い。 「じゃあ、練習がてら鬼ごっこでもしますか。頑張ったコには御褒美があるからね。桃も、ちゃんと手加減してあげて」 「ワンッ!」 ウィンクして告げる桜に、桃は高らかに答える。 「柚乃もサクランボ持ってきてます。お買い物の顔なじみが増えちゃって‥‥おまけしてもらえる事も増えました」 ちらっと八曜丸を見ると、向こうは他のもふらたちと並んでじっとサクランボを見つめている。 遊ぶ前に欲しいなーという目をしていた。 |