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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 梅雨明けやらぬ天儀の世界で、 二人の乙女が倒れ付す。 「おーい、馬鹿娘ども。いるかー?」 ギルドの係員が、もふら牧場を訪ねる。ギルドに座って依頼を受けるばかりではない。必要があれば、こうして出向きもする。 しかし、そうして足を運んだもふら牧場には、人っ子一人、もふら一匹もいなかった。 「出かけたのか? おーい」 呼びかけながら、係員はもふら小屋の影に回る。 そこで見た光景は!! 「なんじゃこりゃーーーっ!!」 別に係員は血反吐吐いて倒れたりしません。 代わりに倒れていたのは、ミツコにハツコにもふらさまたち。 係員の叫びに反応し、倒れたままハツコが目を開ける。 「の‥‥呪いが‥‥もふらさまの呪いが‥‥」 「呪い!? 神の使いの暢気なもふらさまが、呪いだと!?」 よろよろと手を上げるハツコに、戦慄の眼差しで係員はもふらたちを見る。 もふらたちは、いつもと同じようにもふもふごろごろしているように見えるのだが‥‥。 「こ、木陰でみーちゃんたちが涼んでいると、もふらたちがそっともふもふ寄り添ってきました」 ミツコもまたよろよろと手を上げて、説明を始める。 「もふ、木陰は涼しいもふ」 「日差しが暑いもふー」 もふらはごろごろと寝ている。 梅雨はまだ明けてないようだが、すでに日差しは夏のそれ。 いや、梅雨が明けて無い分、じとっとした湿気が絡み、暑苦しさ倍増。 「もふらさまが一匹寄り添い、二匹寄り添い、三匹寄り添い‥‥気付けばなんか頭がくらくらしてきましたとさ。まる」 「もふー。暑くて動きたくないもふ」 「って、それはただの熱中症だろうがー! 水はっ! 水!」 様子が分かり、係員は慌てて手当てしようとするが、勝手の分からぬ場所で右往左往。 それを見たミツコとハツコともふらさまは、ふっと目を合わせた。 「「「水より、きんきんに冷えた西瓜が食べたいなー♪」」」 「よし、分かった!」 和した声に、係員は深く考えずに近くの八百屋に走り出していた。 ● 「こ、これがもふらの呪いか‥‥。くそ、何故こんなに財布が軽い‥‥」 空になった財布を握り締め、係員が泣き崩れる。 「ただの暑さボケでしょ」 「おいしーね」 「もふー」 そばでは二人ともふらたちが遠慮無く西瓜を頬ばっている。 「それで、一体何の用よ。デートなら金が無いやつに興味無し」 「みーちゃんは、もふらが嫁だから♪」 きっぱり言い捨てる二人に、係員は気を取り直す。 「何を言ってる。実は、もふらさまの特訓について、ギルドで何か検討できないかという話になってきたから、特訓方法と結果をもう少し詳しくまとめて教えやがれと伝えに来たんだ」 「うわー、上から目線ー」 「財布空にされて、冷静にやってられるか」 財布握り締めて、係員は睨みつける。 しかも、西瓜はもらえない。それを可哀想と言う人はこの場にいない。 「ってか、買って来いなんて強制してないし」 「御見舞い持ってきて愚痴る人さいてー」 女二人は冷たいが、やはりもふらさまは優しい。 「では、せめて感謝の印もふ」 「え、ちょ、ま」 西瓜はべろっと全部食べつくした後で、おもむろにもふらたちは係員に寄り添い、もふっと抱きつく。 気温も湿度も高い中で、もふらさまたちに抱きつかれるのはちときつい。 「いー天気だね」 「そーだねー」 そして、ミツコとハツコは二人で冷やし飴なんぞ飲んでたり。 ● 「と言うわけで、係員を届けたついでに開拓者集合。もふらさまの特訓につきあってー」 もふらに運ばれた係員はそのままギルドの奥で布団に転がされ、代わってミツコとハツコが収集をかける。 「まぁ、今までのも伝えてあるけどね。特訓方法とか詳しく伝えられるのは『もふアタック』と『もふらの癒し』かしら。でも、もうちょっと動きを煮詰めといた方がいいわよねって事で、今回はそこらを中心にがんばってこー」 おー、と手を上げるハツコに対し、ミツコは首を傾げる。 「モフテラスはー?」 「‥‥‥‥ムリっしょ」 ごろごろもふもふもふらさま。頭で願えど、がんばれど、八頭身には程遠い‥‥。 もふらさまは割と前向きにがんばってはいるようだが、やはり道は険しすぎる。 それ以外、もふらの癒しは、歌で回復してもらおうという技。割ともふらさま、一緒に歌ってくれてはいるので、こっちは大丈夫か? もふアタックは通常のたいあたりでは威力が微妙なので、助走つけて回転してとつけてみた。が、もふらさま、あまり機敏な方でなし。なんとなくもたついた感じが残る。 「精霊力も、どうなのかなーって感じーだよねー」 「それはうちらでは分からないし、ギルドで調べてもらえるならそれでいいのかもね」 唸るミツコに、ハツコは苦笑い。 「でも、そゆことさっぴいても。全体的にもふらさま、やっぱり御遊びなんだよねー」 ふぅ、とミツコがため息をつく。 目指せモフテラスに引っ掛けて、やる気を出してくれているが、今一つ真剣さが足りない。案外、たいあたりの威力が無いのもそのせいか。 「牧場防衛もふらさま自衛の為にも、どこまで実戦してくれるか見たいんだよねー? だから、実戦させたいんだけど、いきなり戦えってしても、もふらさま多分動かないから、そこらも視野に入れて今回動いて欲しいの」 「‥‥実戦って。アヤカシとでも戦わせるわけ!? それでなんかあったらどうするのよ」 気軽なミツコにハツコは眉をひそめる。だが、ミツコは一応考えている。 「うん。そこについては、こんなものを入手してみました!」 ばさり、とミツコが広げたのはまるごともふら‥‥と思いきや、もふらに似ているが顔がより凶悪に仕立てられている。まるごとふらもである。 「アヤカシ直接は危ないから、開拓者がこれ来て変装しアヤカシに扮して襲撃してもらおうと思います! で、迎撃にがんばるもふらさまたちの雄姿を見てみよう! ということで」 喜び勇んで披露するミツコだが、ハツコはまるごとふらもをじっくりと見る。 「これ、耐寒性能10度って書いてる」 「あで?」 まるごとを示すハツコに、ミツコは大仰に首を振る。 やっぱりもふらののろいか、ぼけてるぞ。 そして、もふらたちはといえば。 「暑いもふー」 「おなかいっぱいもふー」 「眠いもふー」 完全にだらけきっていた。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
リーディア(ia9818)
21歳・女・巫
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ラムセス(ib0417)
10歳・男・吟 |
■リプレイ本文 もふらさまにも、自衛手段を。 その願いを叶えるべく、ここしばらく開拓者たちは一丸となって牧場のもふらさまたちを特訓してきたのだが。 「暑いもふー」 「スイカが食べたいもふー」 「氷がいいもふー」 夏到来。うだるような暑さが続き、もふらもすっかりだらけた姿で出迎える。 「桃みたいな修行大好きなコだったらイイんだけど、もふら様たちってそこまでやる気無いわよねぇ」 「ないね」 「きっぱり無い」 御陰 桜(ib0271)に、ハツコとミツコは自信たっぷりに答える。 桜の隣では、首筋に桃の花のような模様が特徴な忍犬・桃がきりっとした姿で控えている。暑さで多少参ってる気配はあるが、もふらに比べると態度は雲泥の差だ。 いや、そもそも比べるのが間違っているか。 「もふら様がもふもふもふもふ楽しいデス〜」 「ほんまに。そろそろもふるんも暑ぅなってまう季節になりましたなぁ」 そんなもふらたちに、ラムセス(ib0417)や雲母坂 芽依華(ia0879)は飛び込んでいる。 幸せそうだが、そのままでは特訓にはならない。 「‥‥いけないデス。これじゃあまるで遊んでるみたいデス!? ‥‥はっ? それともこれが捜し求めていたもふらさまの癒しでショーカ? それならもっと突き詰めないといけないデス?」 何かに気付き、もふもふもふもふとラムセスは思う存分もふらさまを堪能し始めるが。 「みーちゃんはちょっと違うと思うデス」 「同意しとくわ」 確かにしっかり癒されているが、もふらさまは単に寝てるだけである。もふら効果と言えるかもしれないが、特訓の糧になってる気配無し。 「色仕掛けってダメかしら。‥‥あたし、もふらさまの格好イイとこ見てみたいなぁ?」 だらけたもふらさまに、桜はナイスなボディを武器に口説いてみる。 夜春も使って、流し目をしながらもふらを見つめる。 何となく桃が厳しい目を向けてる気もするが、気にしない。 「もふ、がんばるもふ」 何匹か立ち上がるが‥‥やはり興味なさげなもふら様もいる。 うだうだとしているもふらと芽依華たち。その上に、鳥や兎が落ちてくる。まだ生きており、ばたばたと飛びあるいは元気よく跳ねている。驚いて芽依華が飛び降りると、ものすごいすねた目で炎龍の青紅が見下ろしていた。 「ああっ、青紅はん!? 青紅はんが自給自足出来るんは良う分かっとるさかい、森からケモノ取って来ぇへんでええから。‥‥あ、これみんなで食べたり餌にしたり出来るかもやね。偉いで、青紅はん」 頭撫でられ、青紅はふっと鼻息を強くする。 「焼肉かぁー。それもいいよねぇ」 「暑い時は体力つけるべきだよね☆」 団扇扇がせ、ハツコが遠い目をしていると、ミツコも笑顔で準備にかかる。だが、依頼人が元気になっても仕方が無い。 だれだれのもふらたちに、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)も思案顔で悩む。 「もふ龍ちゃんはやる気十分なんですけどねぇ。やはり食べ物で釣るしかないでしょうか。こちらのもふらさまは何が好きなのでしょう」 「もふ龍、お魚食べたいもふ」 兎をおいかけていたもふ龍がぱっと顔を上げる。薄い金色の毛を撫でてあげながら、紗耶香は依頼人たちに尋ねる。 「何でも食べるよー。好き嫌いは悪い子☆」 「とりあえず、今はひゃっこい物でしょうねー。あっついわー」 会話は流暢だが、日陰から動かず。ミツコもハツコもややバテ気味。吹く風も熱風では体力落ちっぱなしだ。 「やはり夏はこちらでしょうか。質より量で、たくさん仕入れてきました」 「氷も一杯で涼しいもふー」 藤色もふらの八曜丸が引く大八車には、大量の果物が乗せてある。樽の中は氷霊結で凍らせた水も用意されている。 人生初の賭け事をしたとかで、今回、柚乃(ia0638)は随分と奮発している。 「氷だ!」 「スイカもふ!!」 「冷たいもふー!」 食い気と冷気に惹かれてもふらたちの目が一斉に輝く。ついでに依頼人たちの目も輝いている。 「やっぱり冷たい食べ物の方が、もふら様たちもやる気を出してくれるのかな? でも、これはちゃんと練習した子用のおやつだ。サボった子にはあげないから。花月、こっそり食べないようにしっかり見張っておいて」 一斉に飛び掛ってきそうなもふらと依頼人たちを軽くにらみ付けると、水鏡 絵梨乃(ia0191)は迅鷹の花月に番を頼む。 「では、特訓開始と行きますけど。こうも暑いと熱中症が恐ろしいです。対策として、塩と砂糖を溶かした水を沢山用意しましたから、きちんとそちらを飲んでくださいね。ご飯や休む時も木陰を選んで。‥‥こちらの牧場にはもふらさま用のプールもありましたわよね?」 作ってきた飲み物を氷樽に入れて冷やしながら、リーディア(ia9818)は心配そうに告げる。 「はりゅよー、もぐむぐ」 「‥‥口に物入れたまま喋るな。湧き水から引くようにしたから結構冷たいわよ」 冷たいスイカを頬張るミツコに突っ込んだ後、ハツコは砕いた氷を口に放る。特訓関係無いしと、気軽に手を出している。 「えーと。差し入れはもふらさまに、なんですけど‥‥」 遠慮無しに涼を楽しむ二人に、柚乃は八曜丸と顔を見合わせ困惑気味。 「大丈夫、ちゃんと彼らの分は残しとくわよ」 「だから、特訓頑張ってねー☆」 といいつつ、食べる手は止まらない。 それをじっと見ていた牧場のもふらたちが、ふっと集まる。 「‥‥あいつらやっつけるべく、がんばるもふ!」 「「「「もふ! 食べ物を勝ち取るもふ!!」」」」 今、牧場のもふらたちに危ない結束が生まれようとしている。 そして、依頼人と牧場のもふらたちの絆はぐんぐん低下中。 「やる気が出た所ですみませんが‥‥、今回は特訓前にアーニャさんの話を聞いていただきます」 リーディアは、もふらたちを集める。その表情は随分と硬い。 「できたら、二人にも聞いてほしいんだけど」 「ほえ?」 「どうやら茶化せない話があるみたいね」 アーニャ・ベルマン(ia5465)は依頼人たちにも声をかける。 その真剣さに、ミツコはカキ氷を食べる手を休め、ハツコは一つ頷くと二つ目のスイカは横に置いた。 ● 木陰にもふらたちを集めると、アーニャはもふらに向けて語り出す。 もふら牧場に、大きなアヤカシが現れて、もふら達を襲った話。 密猟により捕まったもふらが、怪我をして檻に入れられた顛末。 それらをじっくりと丁寧に言い聞かせる。 「勿論、アヤカシは退治されました。でも、亡くなったり傷ついたもふらもいました。密猟されたもふらも、きっと戦えたら密猟者よりも強かったでしょう。 ギルドに依頼が出たなら開拓者が助けに行く事もあります。でもね、開拓者はいつも一緒じゃない」 アーニャの真剣さが分かるからこそ、もふらたちも真面目に耳を傾けている。 「駆けつけたらすでに大きな被害が出ている事も多いのです。一緒に遊んだ仲間が急にいなくなる、そこのお二人が怪我をしたりして二度と会えない遠い地に行ってしまう。そんなの嫌ですよね」 尋ねるアーニャに、もふらたちは顔を見合わせる。 「私もあんな悲しい事件は二度と起こしたくないです。だから一緒に訓練に取り組んで下さい」 もふらたちに、頭を下げてお願いするアーニャ。その後ろから、すっと猫又のミハイルが姿を現す。 「脅す訳じゃない。真剣にお前らの事を考えて言ってるんだ。人の言葉が分かるなら人の気持ちも分かれよ。お前らは非力じゃないんだぜ」 じろり、と黒眼鏡の奥からもふらたちを睨みつける。 同じく人と通じる相棒として、助言は重みがあった。じっと言葉を聞いていたもふらたちは、やがておもむろに大きく頷く。 「分かったもふ! 世の為、人の為、自分の為に、特訓、頑張るもふ!!!」 「そう! 分かってくれるんだね!?」 すっくと立ち上がると、胸を張って宣言する。 その態度に、アーニャ始めほっと胸を撫で下ろしたが、 「でも、暑いから今は休憩もふ」 「氷食べたいもふ」 「話聞いたから、おやつ欲しいもふー」 「うあああ、何か分かってないーーーっ!!」 先ほどまでのシリアスさはどこに行ったか。あっという間にいつものもふら様が姿を見せる。 頭を抱えて泣くアーニャに、依頼人二人が肩を叩く。 「大丈夫だよ、アーちゃん。今の話、もふらさまたちも絶対分かってくれてるよ。ああ見えても、きっと心の奥底では感じるものがあったはずだもん」 「ただ、その言葉を噛み締め、行動に出すのが遅いだけ。そう、多分、何ヶ月とか何年単位で‥‥」 「それじゃあ、遅いって話をしたいんですよぉー」 「「でもやっぱりもふらさまだしねー?」」 慰めてるのか、投げているのか。 口を尖らせるアーニャに、二人は両手を上げてやれやれと項垂れ気味に首を横に振る。 ● 気を取り直して、もふらの特訓。 「今回は集中トレーニングで、もふアタックを覚える子ともふらの癒しだけを覚える子に分けたいと思います」 「じゃあ、歌うもふ」 「鈴鳴らすもふ♪」 「手を叩くもふ」 「皆行っちゃ駄目です」 リィーディアが告げると、もふらたちがもそもそと癒しを覚えに日陰に行く。覚えたいというより、動き回るもふアタックより楽だと考えられた様子。 「特訓はしっかりやってもらわないとね。アヤカシに襲われて何も対応出来ないんじゃ意味が無いからな。という訳で、アヤカシを見事倒した子には御菓子をいつもの倍あげるぞ〜」 「やるもふ!」 「氷がいいもふ!」 「果汁美味しそうもふ!!」 絵梨乃が宣言すると、途端にもふアタックの特訓台に殺到する。いい所見せやすいのはこっちと判断した様だ。 「だから、皆行っては駄目です」 うろつくもふらをリーディアは必死で区分する。 とりあえず、これまでの成績よさげな子で分ける事にした。 「といっても、もふらの癒しの方は大体練習できてますね。もふらさま、歌ってくれますよね?」 ラムセスが促すと、らいよん丸がのっさりと起き出す。 「じゃあ、いくもふ〜♪」 「♪ もふ〜」 そのらいよん丸の指導の元で、のんびりもふらたちが歌い出す。もふリルさんは変わらず慣れた様子で聖鈴を楽しそうに鳴らす。 「なんだか元気になった気がするデス‥‥」 「本当ね。でも癒し効果ってどうなのかしら? もふらさまみたいなもふもふなコをもふってるだけでも心が癒されるけど、体まで癒される歌なのかしら。聞きながら眠ると傷の治りが早くなったり、お肌がつやつやになったりするのかしら?」 三味線構えて伴奏するラムセス。 桜も笑って頷きながらも、自身の肌の艶を何気に気にする。夜はお肌の健康の為、しっかり寝ている身としては、そういう効果があると嬉しい。 実際の効果はまだよく分からない。けれど、聞いてると、なんとなく落ち着いた気分になるのは、果たして歌の効果かもふら自身の賜物か。 ● もふアタック用には、まず食べ物を設置。その前に壁を作って障害とする。その壁をぶち破れば食べられる、食欲を利用した特訓台が完成した。 「もふアタックを会得しないと飼い主が食べちゃうよ〜」 「もう食べてたり?」 「ミツコ、少しはこっちに回せ」 紗耶香の作った料理を壁で囲んでもふらを釣る。飼い主たちにも美味しい料理を作ってきたのだが、特訓を横目に食事を楽しむ二人に、もふらの怒りも上がっていくようで。 「守るどころか、倒しそうですね」 飼い主ともふらの関係も様々か。もふ龍と顔を見合わせ、紗耶香は軽く肩を竦める。 それでやる気がでるならば、それもいいかと考えた人はいるのかいないのか。 「食べもんの周りかもふらはんの周りか、どっちか完全に囲うてしもた方がええでっしゃろな」 「ですね」 芽依華の助言に、柚乃もあっさり頷くと、八曜丸に頼んで、資材を運んでもらう。 まずは一方向だけに立てかけていたが、横をすり抜けて素知らぬ顔でさっさと御飯をせしめる。そうい知恵はすぐに働く。 「この壁を徐々に高ぅしていって、ジャンプ力を鍛えるんどす! 一匹で飛び越えれん高さも、もふらはん全員で協力して積み上がっていったら越えられるやろし、最上段から飛び降りたら、十分『じゃんぷあたっく』の威力は出るやろしね」 泰拳士の修行本を握り締めて、芽依華が熱く語る。 「でも、仲間がいない時に飛べなくなる可能性もあるし。なるたけ、自力でがんばろうねー」 「もふ!!」 暢気に告げるミツコに、一番大きなもふらさまが返事すると、鼻息荒く、どんと走り出す。 そのまま一直線に壁に迫ると‥‥そのまま壁にぶつかり押し倒す!! 「高ぅするどころか、そのまま行ってどうしますんや‥‥」 飛ぶ気配すらなかったもふらに、芽依華は笑うしかない。 「というか、普通にもやれば出来るんだ‥‥。アヤカシに食料庫が占領でもされたら、本気になってくれそうかな」 その勢いは、まさに真剣そのもの。普段からこうだったらと、柚乃はそっと頭を抱える。 ただ、ぶつかった衝撃でもふらさまふらふら。その横を他のもふらがすり抜け、露わになった食料に殺到している。 「駄目ですよ。ちゃんと待って下さいね」 順番待たないもふらにはリーディアが止めに入る。言う事を聞いてちゃんと待てが出来たもふらはキチンと褒める。些細な事がやる気に繋がる。 「回転って難しいのかな? とするとジャンプしてのしかかりというのも有りかも? ‥‥アタックというよりプレスになってしまうけど」 見ていた絵梨乃は、うまく動いてくれないもふらさまに頭を悩ます。 「大柄なもふら様はのしかかり、小柄なもふら様は回転と分けてみます?」 もふらの大きさは結構ばらつきがある。それが問題なのかもとラムセスも考え込む。 「もふ龍ちゃんはやれる子ですけど‥‥後は助走した後の回転でしょうか?」 「やってみるもふ! 頑張るもふ!」 同じもふらでも、性格は違う。紗耶香のもふ龍は気合い十分で、直した特訓壁へ颯爽と向かう。 四肢をしっかりと地面につけて、特訓壁を睨みつけると、呼吸を整え、後は一気に目標に向かって駆け出す。 「もふ!」 勢いつけてジャンプすると、空中でくるっと回転。そのまま壁にぶつかる!! 「おー、やったよ! すごい!!」 「うん、後は壁が倒れたら良かったけど」 「もふ?」 ミツコとハツコが掛け値無しの拍手を送る。 踏切が早かったのか、壁にはぶつかったがそのままたわんで押し返された。 「でもすごいじゃない。桃ももふら様の相手もシてると自分の修行があんまり出来ないから、朝早起きシて頑張ってるみたいだけど、このままだとそのうち負けちゃうんじゃないの?」 「ワン!」 桜が面白そうに笑って、桃をからかう。 耳を倒して不満そうに鳴く桃だが、それは自身の身を心配してでなく、「自分はどうなのだ?」と主人を戒めているようだった。が、桜はそんなの気にせず、素知らぬふり。ふぅ、と桃は耳を上下させる。 「もふ龍さんはすごいデスね〜? らいよん丸さんは小さめもふら様デスからその分スピードがあればいいと思うデス〜?」 ラムセスも目を丸くしてらいよん丸に話しかけるが、当のらいよん丸は暑さに眠さも重なって舟を漕いでいた。 「もう少しですね? このように、やればできます! 皆も頑張って!!」 もふ龍を褒めながら、紗耶香が他のもふらも促す。 何となく分かったのか、他のもふらものそのそ動き出す。そのやる気を向上すべく、ラムセスは偶像の歌でもふ龍の偉業を讃える歌を歌う。 「♪ もふもふもふもふもふ龍さん もふもふボディーが火を吹くデス もふもふ闘志がばちばちもえて くだけ必殺もふ龍アタック〜」 並んでらいよん丸も歌い出す。 「がんばってもふー」 さらに、もふリルさんまで鈴を鳴らして応援し始める。 見本を見せられ、なんとなくやる気になったのか。それなりにもふらさまも特訓に精を出す。 「やる気って、小さくとも目標を立て挑戦するうちに、発揮されるものなのかも‥‥。思うように成果が現れずとも、頑張っている姿は素敵です」 走って、飛んで、回って、転がって。逃走するもふらをついでに追い回したりと、今日も牧場は賑やか。 ● 特訓を微笑ましい気分で柚乃は見ていたが、ふと思い出す。 「そういえば。今回、モフテラスは見送りなのかな?」 尋ねる柚乃に、困ったようにハツコは肩を竦める。 「八頭身化はねぇ‥‥。やっぱり、どこをどう訓練したらいいか?」 「単に動くだけでもこれだもんねー。みーちゃんも頑張りたいけど、変身とか精霊力とかどうしたらいいのかさっぱりだもん」 ミツコも、腕を組むと眉間に皺を寄せて考え込む。 千里の道も一歩から。しかし、どうももふらさまはまだ半歩ほど踏み出した程度。道は長く険しそう。 「いいです。モフテラスも諦めてはいません。その時になったら、八曜丸も手伝ってくれますよね?」 「え、‥‥うん」 柚乃は決意を新たにすると、八曜丸にも尋ねる。 毛づくろいしていた八曜丸はいきなり話を振られて驚いたようだが、柚乃の顔を見るとにっこりと頷く。 「精霊力の使い方が分かればいいのですが‥‥。飼い主を守る意識があれば、もしかしたらとんでもない力を発揮するかもしれませんねぇ」 困ったように告げる紗耶香に、もふ龍も同じように見上げている。 「「つまり、牧場のもふらたちとは信頼関係が無いと」」 ショックを受けている依頼人二人だがから、そっと開拓者たちは目を逸らす。まぁ、もふらさまなので、そのうちまたもふもふと仲良くなるに違いない。 「そういえば、冬だったデスけど、らいよん丸さんをぎゅっとしたら、ぱちっとしたデス。あれが精霊力だったデスか?」 思い出してラムセスがらいよん丸に尋ねるも、当のらいよん丸は休憩とばかりに日陰で眠そうにしている。 ならばついでと、ラムセスは当時を再現。涼しい環境を作るべく、らいよん丸を団扇で扇いでみる。 「季節限定の精霊力?」 「夏にも使えるように頑張ってね」 首を傾げるミツコに、ハツコは苦笑してただ応援する。 「それでは、そろそろ休憩をとりましょう。気の長い特訓は仕方ないとしても、炎天下に長くいるのは駄目ですよ」 リーディアが飲み物を運ぶと、依頼人たちは待ってましたと卓を並べ、紗耶香たちも食べ物を運んでくる。 「氷もふ♪」 「西瓜もふ〜♪」 「おなかすいたもふー」 動き回ってくたくたな筈のもふらたちも、軽い足取りで御飯についた。 |