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■オープニング本文 何かが起きてる空の下。 二人の乙女が顔を合わせる。 ● 「あかもふら!」 「あおもふら!」 「みどもふら!」 「きもふら!」 「もももふら!」 「「「「「五体揃って、もふられ隊もふ!!」」」」」 「というのを、みーちゃんは考えてみたんだけど、はーちゃんはどう思う?」 「考えたどころか、連れてきてどうする‥‥」 「だいじょうぶ。今から頼まれて都まで一緒にお使い行くところなのー」 五色それぞれのもふらさまを伴い、真剣に意見を尋ねてくるミツコ。 「それより、どうしたのそのもふらさまたち。一緒に都行くってどういう事よ」 「うん。あのね、知り合いに御手伝い頼まれたの」 都では現在武天の名を冠した武闘大会が開催中。巨勢王も訪れるとあって、これを機に腕前を披露せんとあちこちから猛者が訪れている。観覧希望者が溢れ、警備で普段よりも賑やか。 まさに祭りだ。 「人がいっぱーい来てるでしょう。だから、このもふらさまを連れていって人目を集め、その間はーちゃんはこの看板を掲げてばっちり牧場の宣伝してしてこいって」 「さらっと聞いてない話を混ぜたわね」 「うん。今話したからいいよね。お給金も出るよ」 じろりとハツコが睨むが、ミツコは気にしない。 両手で抱える程の板には、『楽しいもふら牧場』というでかい文字と、簡単な牧場周辺地図が描かれている。 ぱちぱちと、ミツコは懐から出した算盤をはじく。 出された桁に、ハツコは肩を落とたが、黙って看板を受け取った。 「でも、もふらさまを連れて行くだけじゃあ、特に目新しくも無いでしょ。連れて歩いてる人や、道端で寝てる子だっているのに」 「大丈夫、だから五色のもふらさまにしたの」 自信満々にミツコは胸を張る。 「あかもふらは勇気、あおもふらは知性、みどもふらは健康、きもふらは食欲、もももふらは恋愛。五体揃ってもふれば、運気が何となく上がる気がするよって触れ込めば、皆とりあえずは触りに来てくれるよねー」 「その配色で戦わんのかいっ」 「この間、もふらさまに戦闘は無理ってはーちゃん言ったじゃない」 「それはそうだけど。寸劇程度に何かするのかと期待したぢゃない‥‥」 口を尖らせるミツコ。 確かにそのとおりだし、考えを改める気もない。ハツコは黙って負けを認めるしかない。 「寸劇かぁ‥‥。もしかして、あれもそう勘違いしたのかなぁ」 「何かあったの?」 思い出して考え込むミツコに、ハツコが尋ねる。 「うん。ここに来る途中でね。変なのがいたの。五匹いて五色のもふらさまに似せてはいるけど、眉毛なんてこーんな直角ですっごくぶさいくなのっ」 指で眉毛を作り、憤慨した表情でミツコは事態を語る。 「へんな格好なのに近付いてくるから、ムカついて殴ったら、ガオーッって襲ってきたの。しつこいから撒いてきたけど! 今、思うと主人公たちそっくりの偽物という立ち位置の敵役として登場したつもりなのかなぁって‥‥、はーちゃんどうしたの? 卓と仲良し」 「いやもうどこから突っ込んでいこうかなーと」 勢い込んで話すミツコとは裏腹に、ハツコはずんずんと頭を下げる。 「そいつら、ふらもだよ。もふらに似たアヤカシ」 「全然似てなかったもんっ」 「見る人が見たら、違うって分かるらしいよ」 まだ腹に据えかねているミツコに、ハツコは苦笑する。 「そんなの五体も追い回されて、無事ですんで良かったわよ」 「もふらさまたちのおかげだねー」 もふらさまにもふもふと抱きつくミツコ。 ‥‥もふらさまが何をしたのかはよく分からない。 「で、そのふもら。どうしたのよ」 「んー。畑の肥料に足を取られてひっくり返ってもがもがしてたから放って来た」 「‥‥‥‥商売の前に、まずは開拓者ギルドね」 頭を抱えてハツコはミツコともふらたちを伴い、歩き出した。 「依頼料は自腹だよー。多分御手伝い料と比較してこんくらいの赤字」 「見つけちゃったんだから、連絡しとかないとダメでしょーが」 算盤を弾いたミツコに、ハツコは歯を食いしばりながらもギルドに向かう。 ● 「ただでさえ忙しいのに、都にでもやってこられてはたまらん。早急に依頼を出すか」 事情を聞いたギルドではさっそくふらも討伐の依頼書が作成される。 「しかし、ふらもか‥‥。うっかり、他のもふらさまに怪我を負わせても困るし、何か確実に見分けがつく手がかりは無いか?」 「近寄るとすぐに分かるよー。肥やしに漬かったからすっっっごく臭いもん。ちょっとやそっとじゃ取れないよ」 「畑の肥料って‥‥あれか‥‥」 受付はそっと目を逸らす。 「だから、はーちゃんとも相談したんだけど。アヤカシ退治して肥やし臭くなるのも悪いから、湯屋も用意しておいてあげる。はーちゃんの三助付き」 「待て! 最後了承した覚えないわよ!!」 ハツコが声を上げるが、ミツコが気にしないのはいつもの事。 「後、五色のもふらさまを特別にもふり放題。運気上がるよー」 「いや、それはお前さんたちが勝手に吹聴してるだけだろ‥‥」 ふかふかのもふらたちを満面の笑みで紹介するミツコに、受付は否定を入れた。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
葛葉・アキラ(ia0255)
18歳・女・陰
ザザ・デュブルデュー(ib0034)
26歳・女・騎
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
アルセニー・タナカ(ib0106)
26歳・男・陰
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ふらりと現れた五色のふらも。 もふらそっくりのアヤカシ出現に、アルセニー・タナカ(ib0106)は興味を隠しえない。 「名前は聞いた事がありますが、実際に見たことはなく。個体差はかなりあると聞きました」 背筋正しく、優雅に上品に。たおやかな物腰ながら、気持ちは結構前のめり気味。 「もふら様に似てるようで違う‥‥かぁ」 「全然違うもん」 「そらまぁ、好きな人には分かる言われてますもん。うちには判別難しいやろなぁ」 葛葉・アキラ(ia0255)が神妙に唸る。 即座にぶーたれるミツコ。彼女にしてみれば、一緒にされる方が心外らしい。 分かる人にはすぐ分かる。しかし、分からない人にはやっぱり差異が分からない。そんな面倒臭いアヤカシなのだ。 「ま、今回は分かりやすい目印がついてるけどね。‥‥主に嗅覚的に、だけど」 安心するようにハツコが告げるが‥‥、顔は引き攣っている。 「肥溜ってやっぱりアレか」 「うん。アレ」 ザザ・デュブルデュー(ib0034)の問いかけに、ハツコは遠慮がちに頷く。 確認を取れても、ザザは冷静なものだったが、迷惑そうな顔つきになったのも確か。 「まぁ、いいよ。そのつもりで準備は整えて来たからね。炭は匂いを取るって聞くし」 「顔が真っ黒になるんじゃない?」 「そこまでは責任もてないね。秤にかけてどっちがマシって話さ」 砕いた炭を布で包む。 妙な心配をするハツコに、ザザは軽く笑う。 「赤・青・緑・黄・桃。‥‥折角のヒーロー色も臭いとあっちゃぁ形無しだな。‥‥むしろ、何でアヤカシがヒーロー色‥‥」 「アヤカシも、ヒーロー気分に浸りたい時があるのでしょうか? もふら様の姿ではしまらない上に、浸かったのは肥溜めでしたけど」 ふらもの彩り豊かな配色に犬神・彼方(ia0218)は少し悩む。 勇壮な曲を奏でていたシャンテ・ラインハルト(ib0069)も、しばしその音色を休め、代わりに吐息を漏らす。 「もふら様だってかっこいいもん。その真似真似したから、天罰が下ったんだよ」 「そうだね。きっと肥だめにはまったのも、日頃の行いが悪いからに違いないもの‥‥。でも、そんなに臭いのに近づくのちょっとやかも‥‥」 口を尖らせるミツコに、ルンルン・パムポップン(ib0234)はしっかり同意。 しかし、罰受けてざまぁみろ、とはまではいかない。そんなものに近付きたくないのは、誰も一緒。 むしろ、割を食ったのは結局開拓者かもしれない。 「臭いのは‥‥嫌です。だから、斃します」 見るからに才媛の御令嬢のジークリンデ(ib0258)だが、目に宿る光は非常に鋭く危険すら孕む。 「‥‥。そうだよね。へこんでなんていられないよね。五色のもふらちゃん達とも会いたいし。‥‥とっても可愛い上に、幸せも運んでくれるなんて、まさに神秘なのです!」 「‥‥運を招くって触れ込んでるのはミツコだけだからね」 気を取り直すルンルンに、ハツコは一応訂正を入れておく。 「でも、臭いが移ると困るから、皆も臭くなっちゃうと触らせてあげられないからね?」 ミツコは真剣に注釈を付ける。 「勿論、臭いは取る。その為に、湯屋の用意もしてくれているのだろう?」 心得ている、と風雅 哲心(ia0135)が確認を取る。 「それじゃあ、皆がんばってね〜」 遭遇したミツコから更に詳しい話を聞いた上で、開拓者たちは退治に出る。 勿論、依頼人たちは同行しない。 微妙な心持で出て行く開拓者たちを見送りながら、ミツコがぼそりと小さく呟く。 「‥‥ところでさぁ。別にいいんだけど、はーちゃんの三助は皆どーでもいいんだね」 「‥‥ま、本当にいいんだけどね」 ハツコの表情はほっとしたような、少し残念なような。 ● ミツコが出くわしたという現場に着いた開拓者たち。 何となく。すでに臭うような‥‥気がする。風が吹くといらぬ臭気も吸い込みそうで、知らず呼吸も浅くしてしまう。 「まだあくまで気のせい、なのだが。なるべく近付かせる前に、仕留めたい所だ」 哲心が周囲を見渡すが、それらしい影は無い。一体どこをうろついているのか。 「それだけの臭いを撒き散らしていたら、きっと目撃者が居たり、肥溜めから後が続いてるに違いないです! ニンジャの目にはお見通し、バッチリ見つけ出しちゃいますからね!!」 「‥‥出来たら、そんなもの確認したくありませんけどね」 目を凝らすルンルンに、シャンテは本音をそっと漏らす。じっくり見て楽しいものではない。 嵌まったという肥溜め周辺は‥‥どうやら脱出に試行錯誤したようで、酷い有様だった。 そこから更にどこへ行ったのか。足取りを掴むべく、改めて動き出す。 「近隣の方にお話を伺ったところ、向こうの溜め池付近でよく目撃されたようです。‥‥一応身だしなみは気になっているのかしら」 近くの民家で話を聞いてきたジークリンデが、小首を傾げる。 「アヤカシやから人の気配が無い方へは行かへんやろ。そないすると、大体行動範囲も絞れてきよったな」 アキラは人魂を作り出すと、周辺を探りにかかる。 他の者たちも、疑わしい場所や隠れてる場所が無いかと、念入りに探し始め、 「‥‥何となくいる気がします」 「うちもそないな気ぃする」 やはり最初に気付いたのは臭気。 吹く風に、異様な臭いが混じったのを感じ取り、ジークリンデとアキラは用意した香りを面やマスクに仕込む。 「なんかぁいぃ香りに混じってぇ、余計気が滅入って来る気がするんだわぁ」 ザザから配られたマスクも借り受け、彼方も香りを配してみるが、効果あるように思えない。 さらに慎重に調査すれば、後の居所は簡単に知れる。 「‥‥配色は赤青緑黄桃の五色って聞いたんだけど」 「控えめに言って、かなり汚れてるな」 顰めっ面のザザに、哲心とて嫌そうな表情をする。 元はそれなりに綺麗な配色だったのだろうが、今は全員全身素敵な汚れっぷり。 「「「「「らもーーーー!!」」」」」 向こうも久々の獲物を見つけ喜んでいる。 身を震わせる度、飛び散る何か黒い物に、アルセニーは不快そうにマスクの上からさらに口と鼻を布で押さえる。 「この場に民家は無いとはいえ、万一にも一般市民の生活にあんなものを紛れ込ませるわけにはいきません!」 決意も新たに、開拓者たちの目がふらもを睨む。 ふらもたちも、汚濁に塗れた目を開拓者たちに向ける。 「来るよ!」 ふらもが動くと同時に、ザザも走る。 猪のように突進してくる五体に、ザザは投げ網を投げつけた。 古い網を譲り受けた為か、彼らの力か、あっという間に千切られる。 「これはどないや!」 悪戯っ気たっぷりに、アキラは大龍符を使う。 召喚された巨大な龍が牙を剥き、先頭を走っていた赤ふらもに襲い掛かる。 「ふ、ふも!!」 さすがに驚いたようで、赤ふらもの動きが止まる。先頭が止まると、後も足並みを乱し、こける者も出る。 絶好の隙だが、龍は攻撃する事もなく消えた。そもそも、はったりの技でしかない。 その隙にさらに距離を置く開拓者。 「おやおや。でも足止めされたなら今の内だね」 役に立たない残骸は捨て、ザザはフランベルジュを抜き放つ。 他の開拓者たちに近付け避けない為、敢えてふらもの傍に寄り、盾となるべく接近戦を挑む。 その間にも、シャンテは精霊集積を試みる。 「精霊は臭いを嫌がりませんよね‥‥?」 臭いがきつすぎて、何かもう感覚がよく分からない。 そんな空気に精霊が合うのか心配だったが、特に問題なく術は発動している。 「あぁりがとぉさん。あの移動速度‥‥、距離取ったからぁ言って安全ってぇ訳でもない。十分気ぃつけないとな」 シャンテに例を述べると、彼方がふらもたちに符を打ち出す。 呪縛符で足止めをし、斬撃符で切り刻む。 「うふーん♪」 怪我をした仲間の姿を見た桃ふらもが、彼方に向くと愛らしいウィンクを見せる。 汚濁に塗れながらも、可愛らしいその仕草。 一瞬、心ときめくものが胸にこみ上げたが、すぐにそんな妄想は振り払う。 「あぁりえなぁいっつうのー! 触りたくなるのぉはやばい。ほんとぉにやばい!!」 「しっかりして下さい。肥塗れをもふりにいかれては困ります」 背筋にどぉっと冷たい汗が流れる。 恐れ震える彼方を、アルセニーが軽く叩いて正気を促す。 その頃には、シャンテは騎士の魂を奏で出す。勇壮なる騎士の物語は、開拓者たちの心を強くする。 「とはいえ、あまり近寄りたくないってのは変わらない」 その力も借りても完全には拭いきれぬ不快感を飲み込み、ザザは戦闘に集中。 まだ身動きしている緑ふらもが向かってくる。 意地でも触りたくないという思いも手伝って、ふらもを躱すとまずは脇腹に全力で刀身を叩き込んだ。 「ふもっ!」 衝撃で緑ふらもがよろける。畳みかけようと踏み込みかけたところへ、横から別のふらもに邪魔をされた。 小さな舌打ちが布の奥から漏れて、ザザは一旦間合いを取る。 「ゆけ、毒蟲ども! ‥‥まさか出撃拒否なんてしませんよね」 一抹の不安がアルセニーの胸によぎるが、小さな虫型の式は臭いなど気にせずふらもの四肢にたかる。 「ふむ、むぅ‥‥」 黄ふらもが膝をつく。すぐに起き上がったが、上手く歩けない様子。 「ふも、ふむぉ〜」 さっとその前に入り込むと、懇願するように青ふらもが訴えてくる。 「魅了しようとしたって、そんな不細工で臭かったら、百年早いんだからっ!」 足に気を集中させると、恐ろしい速さでルンルンは間合いを取る。 「ルンルン忍法シュリケーン!」 取り出したサクラ形手裏剣が巨大化する。自分の背丈を余裕で越える超大型武器を、ルンルンは苦も無く投げつけた。 眩いばかりの閃光。狙い違わず青ふらもを捕らえ、刃で刺しつらぬいたまま更に転がる。 「うぉおおおお!!!」 仲間の危機を感じたか、赤ふらもが吼えた。 鼻息を荒くし、開拓者たちに突っ込んでくる。アヤカシにしては見上げた奴である。 「止まりなさい!!」 ジークリンデがストーンウォールで行く手を阻もうとする。 しかし、出来た石の壁も粉砕し、赤ふらもの走りは止まらない。 「何て奴! やっぱり赤の威厳?」 「おとなしくしやがれ!! そして、貴様の罪を数えろ!」 構えた珠刀「阿見」。錬力を集中させ、鋭く抜き放つとカマイタチが赤ふらもを捉える! 「ぐぅ!!」 赤ふらもが顔を歪めた。だが、それでも攻撃の意志は解けない。 「ひでぇ臭いを撒き散らしやがって‥‥。とっとと終わらせてやる!!」 そのまま間合いを詰めると、刃をその首筋に立てる。 悲鳴を上げながらも、赤ふらもはふり斬り、距離をまた開ける。 「なるべく一箇所に集まって下さると、こちらはやりやすいのですけど‥‥」 距離を保ったまま、ジークリンデが告げる。 「遠くに逃げられる前に、どぉにかせなあかんしな。‥‥逃がさへんでぇ!」 アキラが斬撃符で逃げ出しそうなふらもを中心に攻撃を仕掛ける。 「近付くんだったら真っ黒焦げに消毒です。‥‥ルンルン忍法ファイヤーフラワー!」 ウィングイワンドを振り上げると、ルンルンの周囲に火が燃え広がる。 うっかり触れたふらもが火傷を負ってふらりと後退。 五体は自分たちの窮地を思い知り、自然集まる。 「ありがとうございます。考えてみましたら、ふらもサマも好きで肥溜めに落ちたのでは御座いません。せめて水で流して綺麗な体であの世に送ってさし上げたいと思います」 池の縁に回りこむと、水を巻き込むようにブリザーストームをかける。 強烈な吹雪は薄氷を作り、ふらもたちにまとめて襲い掛かる。 ● すでに手傷を負っていたふらもたち。その攻撃で二体が消失。残った者たちにしても、寒さで動きをさらに鈍らせ、まともな戦闘どころではない。 瞬く間に決着はつき、アヤカシは瘴気に戻る。 「つまりこの瘴気は、あのふらもから回収している訳では無く‥‥。深くは考えないでおきましょう」 瘴気回収を行ったアルセニーは、複雑な胸中をいっそ横に置いておく。 まぁ、終わってしまえばすべて良し‥‥とも言えない。 「やっぱり何か臭うよなぁ‥‥さすがにこのままじゃ帰れねぇ」 自分の体臭や、ふらもを斬った刀やらに鼻を近づけ、哲心は眉間に皺を寄せる。 悲しい事に、強烈な臭いをかぎすぎて鼻が慣れた点も考慮しなければならない。 帰路に着く際、事情をしらない周囲からの目線が痛い。 「お帰りー首尾はどうだったと聞く前に、お風呂屋さんはあっちだよー」 「やられた失敗、なーんて心配はしてなかったけど。これだけは予想外れて欲しかったよね」 帰った開拓者たちの姿を認め、駆け寄ってきた依頼人たちも、距離を置いて立ち止まり、速やかに風呂屋を示す。 せっかくの好意でもあるのだし、風呂を断る理由は無い。 貸切にしてくれた事もあって、他の客を気にせず、ずいぶんと時間をかけて丹念に臭気を落とす。 「じゃあ、改めて御苦労様〜。おかげで偽もふらに商売の邪魔されず無事宣伝できたよ〜」 笑顔で礼を述べるミツコの背後。五色のもふらたちも面倒そうに頭を下げる。 「は〜極楽やねぇ! それにしてもあの臭い、壮絶やったなぁ」 「帰った時に推測はついたよ。今は大丈夫だけどね」 くたびれた様子でもふらたちに飛び込むアキラに、ハツコが苦笑して見せる。 「服に染み付かないか心配だったが何とかこっちも落ちたな」 「装備も清められたし、風呂にも入ったし。贅沢させてもらったよ」 もふらにもたれながらも、乾いた衣服を木にする哲心。 ザザはもう大丈夫と笑ってみせる。 「気付いてしまったから依頼を出さない訳にもいかないとは大変そうです。せめて、五色のもふら様の宣伝のお手伝いが出来れば‥‥」 「いーえ、大丈夫よ! その気持ちだけいただくわっ!」 「うん。お駄賃減らされちゃうからねー」 シャンテの申し出を、ハツコは真剣な表情で丁重に断り、ミツコはさらりと本音を吐く。 「でも、この五色のもふら様をおもいっきり茂符も付したら幸せになれるんだよねー」 辛い討伐もなんのその。すべてはただこの為にとルンルンがもふらたちを堪能する。 「これが癒しなのですか。不思議な感覚。でも、何かいい、です」 ジークリンデも最初は遠慮がちに、けれど、嫌がるそぶりも見せないもふらに気を許して、もふもふと触ってみる。 まったりと、追加の報酬を楽しむ中で。 アルセニーはただじっともももふらを見つめる。 脳裏に浮かぶはアヤカシふらも。こうして間近に見ると、確かに違いが分かる。 「アヤカシの研究もまだまだこれからですね」 ふっと笑うと、もももふらに顔を埋める。 手には恋愛成就のお守りを握り締め、片思いの相手の名を口の中で、誰にも聞こえないように呟く。 ただ、神の使いが本当にその頼りになるのかは、誰も保証しない。 |