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■オープニング本文 ●激戦の後 血と泥に塗れた兵たちが疲れた身体を引きずり、次々と合戦場から戻ってくる。 「此度の戦は、厳しいものであった」 雲間から覗く青空を仰ぎ、立花伊織が呟いた。 大アヤカシと呼ばれる脅威に人は勝利を収めたが、代償は大きい。 秋を前に野山は荒れて田畑は潰れ、村々も被害を受けた。避難した民は疲弊し、アヤカシも全てが消えた訳ではない。 「再び民が平穏な暮らしを取り戻すまで、勝利したと言えぬ」 伊織は素直に喜べず、唇を噛んだ。 「今後の復興のためにも、今しばしギルドの、開拓者の力を借して頂きたい」 随分と頼もしさを増した面立ちで若き立花家当主が問えば、控えていた大伴定家は快く首肯した。 「まだしばらくは、休む暇もなさそうじゃのう」 凱旋した開拓者たちが上げる鬨の声を聞きながら、好々爺は白い髭を撫ぜた。 ●会談 武州にとって、今回の大アヤカシ進攻は早々と傷の癒えぬ深刻な問題になったが、その他にも問題を抱えている。 むしろそっちこそが当初の問題であり、瘴海の活動は文字通りの手痛い横槍であった。 「大アヤカシ・瘴海を撃退したのは実にめでたい。しかし、この戦いにて被った被害も尋常でない。武州の里や村の崩壊は勿論‥‥、瘴海との戦いにて霊剣も折れてしまった」 朝廷の重鎮にして開拓者ギルドの長である大伴定家からの言葉に、修羅たちは顔を顰めた。 五百年前に封じられた修羅たちの郷里――陽州。 そこに至る精霊門の封印を解除する為に必要な鍵、それが霊剣「鬼鎮陽平御剣」である。今なお封じられた同朋を解放する為、わざわざ武天まで足を運んだというのに、肝心の鍵が失われたのでは何にもならない。 「あ、いや。霊剣は修復方法を探して尽力しておる。どこまで元通りになるかはまだ分からぬが、門を開く役割は果たせよう。恐らくそう遠くない先には門開放の準備は整えられる」 剣呑な雰囲気を察して、大伴は慌てて言い繕う。 「大アヤカシの茶々入れなんざ誰も予想してなかっただろうし、霊剣が必要だったのも仕方なし。結果壊れたのもあれを相手に手加減する隙なんぞ無かったろうさ。直ると言うならそれまで待ってやろうじゃないか」 剣が折れたのは誰のせいでもない。強いて言えば、アヤカシどものせいだ。それは間違いない。 折れた経緯も納得はしている。誰を責める訳にもいかず、けれどもこのお預けにやっぱり不満といった複雑な表情で、酒天童子は言い放つ。 それでも了承は了承。 ほっと安堵の息をつく大伴であったが、 「それで剣を譲渡した場合、こっちにはどんな得があるというのだ?」 口を挟んできたのは、武天の巨勢王であった。大伴の前であろうと構わず、立膝ついて酒をかっくらっているが、酔った素振りは無い。 ちなみに酒天は一応招かれた立場上、自重した様子。 「それは勿論。朝廷より相応の礼を‥‥」 「当然だ。元は朝廷の物であっても正式に下賜され、今は武天の物。それをそちらの一存でまた取り上げようというのだからな」 そっけなく告げる巨勢王に、大伴はぐぅの音も出ない。 まさしくその通り。朝廷と修羅の争いなど、武天には何の関わりも無い。 「だが、それは朝廷からの話だ。さて、剣が真に必要なのは誰か。そっちから何の礼も無いとは妙な話だと思わないか?」 今度は修羅たちが息を詰まらせる。 酒天がちらりと目を向けると、修羅たちは困ったように首を横に振る。長きに渡り隠れ住んでいた一種族でしかない修羅が、武天と対等に渡り合える筈は無い。 「確かに。今は十分な礼は無理かもしれません。しかし、この借りは必ず‥‥」 修羅の一人がそう叫ぶのを、酒天が黙って制す。 「つまり‥‥剣を渡す気は無いと?」 雲行き怪しい展開に、酒天の顔つきも険しくなる。 睨みつける眼差しを真っ向から受けつつも、気にする事無く巨勢王は笑い出す。 「そうは言わない。今回の騒動ではそちらにも迷惑かけた。だからといって、立花から取り上げて渡すほどの功績かと言えばどうだ?」 「何が言いたい?」 奇妙な物言いに、さすがの酒天も首を傾げる。 「武天側には渡す義理なんぞない。だが、修羅側にはどうしても必要。しかも、ちんたら日をかけて説得してる暇も無いんじゃないか?」 口を出してきたのは、同席して成り行きを見ていた朱藩の興志王だった。 口端に笑みを浮かべ、面白そうに酒天を覗き込んでいる。 そして、酒天もようやく気付く。 「あー‥‥、つまり、なんだ? そういう事かよ」 二人の王の意図を察して頭を抱えるも、やがて似たような表情で笑い返す。 「いいさ! そっちがそのつもりなら!! こっちも全力で盗りに行かせてもらおうじゃないか!」 「よく言ったな。返り討ちにしてやる!」 指をつきつけ宣言する酒天童子に、巨勢王が恫喝する‥‥が、そのまま少し静まり返った後、双方で大笑いしている。 四の五の言わずに奪い取れ。実力を見せろ。 とまぁ、そういう事らしい。 「よろしいんですか?」 朝廷そっちのけで、王たちだけで繰り広げられるやり取りに、大伴の後方に控えていた一人が、そっと耳打ちする。 「いいも悪いも。誰がどうやって奴らを止められる?」 お爺ちゃん、お手上げである。 それに巨勢王はけして狭量ではない。剣を渡さぬのは口実に過ぎず、修羅たちが剣を奪えぬとも譲渡は行われるであろう。 要は、アヤカシ騒動で消沈する巷に活気を煽るべく、お祭りに担ぎ出されたのだ。 という訳で、当然のように開拓者ギルドにも話が行く。 曰く、この争奪戦に手を貸して欲しい、と。 |
■参加者一覧 / 雪ノ下・悪食丸(ia0074) / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 八十神 蔵人(ia1422) / 九法 慧介(ia2194) / ルオウ(ia2445) / 菊池 志郎(ia5584) / 鬼灯 恵那(ia6686) / 和奏(ia8807) / 明王院 千覚(ib0351) / 明王院 玄牙(ib0357) / グリムバルド(ib0608) / フィン・ファルスト(ib0979) / 无(ib1198) / ケロリーナ(ib2037) / ウルグ・シュバルツ(ib5700) / 雪刃(ib5814) / 杜 茂実(ib7172) / YU555(ib7660) |
■リプレイ本文 修羅が封じられし揚州を開く鍵、霊剣「鬼鎮陽平御剣」。 その譲渡を巡り、難癖を付けてきた武天の巨勢王に、修羅の王である酒天童子が実力で奪い取ると宣言した。 ‥‥と、吹聴すれば物騒であるが、要は争奪戦に見立てたお祭り騒ぎの開始。会場となる城跡の丘は、開始を待たずに観客たちで賑わっている。 そして、人集まる所には商売人が現れる!! 「イカ焼きーげそ焼きーたこ焼きー海老焼きーすずめ焼きーカラメル焼きー。地酒にヴォトカもあるでーはーいそこな開拓者に修羅もよってきやー」 見晴らしのいい頂上。八十神 蔵人(ia1422)が開く屋台からは香ばしい煙が立ち昇る。 わざわざ海辺まで取りにいって、竜で空輸した魚介類。イカと酒の匂いに釣られ、ひっきりなしに客が訪れている。 「冷たいお茶はいかがですか? クッキーやおにぎり、串焼きもありますよ」 礼野 真夢紀(ia1144)は昨今の残暑の厳しさから、氷霊結を利用して冷たい緑茶も用意。観客の喉を潤している。こちらも串焼きのいい煙に誘われ、人の流れは上々。秋の味覚をふんだんに使ったおにぎりもあっという間に持っていかれる。 「瘴海さんの脅威がひとまず去って‥‥、これが喉元過ぎればという状態なのでしょうか」 真夢紀から冷たい茶をいただきつつ、和奏(ia8807)がのんびりと感想を口にする。 「鬼のいる所、お祭り騒ぎありは定着ですね」 无(ib1198)もまた、開始時間まではと、弁当売ったり観客を整理したりと急がしそうに歩き回る。 人の入りは上々。王たちも観戦に来ているとあって、活気が溢れていた。 「お祭りで元気になりたいんでしょう。けど、中には避難してきた人も入るだろうし、お金持ってる人も少ないでしょうね」 だから真夢紀は無料で用意した食料を配っている。もちろん材料費は全て自腹で‥‥と考えていたが、そういう事ならと武州の方で立て替えてくれている。王が来ているのに狭量な真似は出来ない。 杜 茂実(ib7172)の屋台に並ぶのは装飾品。飲食に比べると客は少なくゆっくりと品物を覗いている。もっとも、冷やかしの客も多いのが何だが。 「ジャンケンで勝ったら、もう一個好きなものやるよ」 「ほう、おもしろそうだな。暇潰しに一つ勝負といくか」 茂実の売り方に興味を引かれて、店先に顔を出したのは朱藩の興志王。装飾品に興味というより、そういう勝ち負けがお好きなようで。 勝負に興じて、装飾品を買い込んでいく興志王。 「あの‥‥、興志王さま。そろそろ始まりますけど‥‥」 そうこうする内に時間となり、探しに来た柚乃(ia0638)が声をかける。 それを一体どうするのか。どこぞで鉄くずに変えるのか? 素朴な疑問が起こるも、間もなく争奪戦が開始される。 太陽は南天高くに。 丘の上からでは、生えている木に遮られながらも麓の修羅たちが遠く見えた。 酒天童子に配下の五人。そして、お祭りに乗っかった開拓者たち。 対して、丘の上で霊剣を守るのもやはり開拓者たち。人数比の問題もあって武天の兵士も数名加わっているが、‥‥正直、やる前から勝負は目に見える。 そもそも譲渡は半ば決定事項。奪う霊剣とて現在修復中なので、本物ではない。 柚乃は自身の精霊剣を使うか打診したが、大切なものならば何かあっては大変、と武天側が用意した元の霊剣とよく似た剣が使われている。 この剣を奪えるかどうかすら、関係ない。巨勢王・興志王の前で不甲斐無い真似を見せない事が肝心なのだ。 「ま、のんびり見学させていただきましょうか」 「大きな戦の後だからな。ゆっくりしようや」 和やかに茶を飲む和奏に、茂実も客の相手をしながら事の成り行きを見守る。 「この祭りが終わりましたら、皆で月見の宴などいかがでしょう? ‥‥譲渡ではなく、貸し出しだったらよかったのに。そうすれば、再び酒宴を共にする機会と口実ができますもの」 沸き立つ観客を満足げに見る巨勢王に、柚乃は酒を勧める。 「そうだな。だが、朝廷からの要求は譲渡という事。精霊門の開放時にどうなるかも分からん以上、今回のような難儀があった際、責任がどうのと難癖つけられるよりかはいい」 二つ返事で頷くと、巨勢王は大杯を煽り、修羅たちの到着を待つ。 ● 麓の修羅たちも着々と支度を整えている。 「巨勢王さまも面白そうな事してくれるじゃない。うん、ああいう感じの王様はなかなか楽しいかもっ」 準備運動もばっちりと。フィン・ファルスト(ib0979)は上で待つ王たちに胸を膨らませる。 「合意の上での物取りとは、珍しいな。ある意味、どちらの王も大物だからこそ、と言えるか」 ウルグ・シュバルツ(ib5700)はこの場にいる王の一人、酒天に目を向ける。 巨勢王は見た通りに「大物」だが、こちらの見た目は「小物」というか子供というか。油断すると周囲に埋もれてしまいがち。内面と外見は違うとはいえ、この対比はおもしろい。 「いいか、祭りだからって気を抜くな! 修羅の力、天儀に見せ付けてやれ!!」 「はっ!!」 発破をかける酒天に、修羅たちも気合いが入る。 もっとも、この中で一番足を引っ張るのは酒天自身だったりする。何せ、封印の影響で駆け出し開拓者程度の力しかない。 「力は落ちたとしても、戦闘に関する知識や判断力は残ってた筈だし、王として采配を振るう事で実力を発揮するのもいいんじゃない?」 雪刃(ib5814)からの提案に、酒天は軽く考え込み。 「采配ねぇ‥‥。怪我は無いよう、臨機応変にがんばれ、だな」 「‥‥いいけどね。別に」 至極大雑把な指示に、雪刃も苦笑する。まぁ、修羅はともかく、開拓者たちの思惑はそれぞれ違う。 酒天に共感して修羅の為にと志す者、単に祭りを盛り上げたい者、王に用がある者。目的が違えば、行動も変わってくる。場に合わせて動くのもまた戦か。 「霊剣折っちゃったの俺だもんなー。責任取る意味でもがんばるぜぃ!!」 そして、ルオウ(ia2445)の胸中もまた複雑だ。 武州の戦いでの勲功一番槍と誉れ高い彼だが、霊剣が砕けた感触はまだ手に残っている。大アヤカシ相手に仕方が無かったと責める者は無いが、そうは言っても気になるものは気になる。 「おっちゃんたちには悪いが、何時までも閉じ込めれてんじゃかわいそうだもんな!」 丘の上にいるだろう王たちを見上げて、ルオウは気を引きしめる。 「そういや、霊剣の修復ってどうなってんだ? 直す方法を探してる、とまでは聞いたが」 「それなら、精霊の力が必要と分かったので、巫女の穂邑が任されて会いにいくそうよ」 「へ‥‥、へぇ。あいつがね」 何となく気になったか。尋ねてきた酒天に、雪刃も聞いた話を普通に話す。 けれども。出て来た名前にあからさまに酒天が動揺している。彼女が絡むと挙動不審になる、とはどうも本当のようだ。 そうこうする内に、予定の時間となった。正午を告げる鐘が響くと、酒天の顔つきも変わる。 「ようし! 総員突撃開始ーー!!!」 「「「「おう!!!」」」」 天に届かんばかりの声が上がる。 定められた霊剣を奪う為に、修羅たちが一斉に丘を駆け上り始めた。 ● 開始と同時に、観客からも歓声が上がった。 激励だか野次だかよく分からない中、修羅たちと加勢した開拓者たちは丘の道を駆け上る。 しかし、その前に立ちはだかるのは石の壁。 「ストーンウォール。どうやら、すんなり行かせてはくれないようですね」 予想された妨害に、明王院 玄牙(ib0357)が一旦足を止める。 超越聴覚で周囲に聞き耳を立てるが、伏兵の気配は無い。ならばこの障害を乗り越えればいいのだが。 「罠なら潰していくのみ! お祭りなら派手に行くぜええ!!」 「あ、待って下さ‥‥!!」 大八車を引いて、真正面からぶつかるルオウ。石壁とはいえ砕くのは可能。彼ならば、全力で当たれば難しくも無い筈だったが。 「のおおおお!!」 石壁の手前、大八車ごとルオウが消える。勢いよく落とし穴に嵌まっていた。 「大丈夫ですか? お怪我ございましたら、治療いたしますので御遠慮無く」 落ちたルオウに明王院 千覚(ib0351)が声をかける。 「前からが駄目なら、横からか?」 酒天は倒すのを諦め、横から周りこむ算段。丘の傾斜はきつく整備もされずに木々が生えているが、ちょっと迂回するぐらいなら問題ないはずだが。 念の為にと千覚が神楽舞「速」をかける。道一杯に塞がっていた石壁を横に回りこむと、 「酒天さん、上です!!」 「うわ!?」 縄の擦れる音を聞き、玄牙が声を上げる。 酒天は声に反応し逃げようとしたが、飛び退きかけた足が結ばれた草に引っ掛かり倒れる。 その上に、鳥もちが塗られた網が降って来ていた。 「折角の援護も台無しですね。‥‥皆様は、どうぞ、存分に戦功を上げて下さい」 落胆する千覚だが、酒天はそれどころではない。 雪刃が縄を切っても、くっついた鳥もちでべったべただ。 「誰だー! こんな罠作ったのはーー!!」 「私ですのー♪ ここで待ってますから、早く来て欲しいですの♪」 「草を結んだのは私ですけどね。頂上に至る道も争奪戦の一部なら、罠の一つや二つは必要でしょう」 歓声を掻き分ける心からの叫びに、丘の上から明快なケロリーナ(ib2037)と落ち着いた无の声が届く。 「何だか障害物競走みたいですね。道の罠を調べて先導します」 言うや、玄牙は道なりに進みだす。修羅たちもシノビの技能を駆使して率先して先を急ぐ。 「やっぱり罠があるのね。このままじゃ通りにくいし‥‥。危ないから、観客は退いてて!」 足元と頭上の安全を確かめると、フィンは金槌を石壁へと叩き込む。 「我らも!」 修羅たちとて開拓者に頼ってばかりもいられない。奔刃術や螺旋で見つかった障害物を排除していく。 その様を見て、道沿いの賑やかな観客たちも盛り上がっている。そこには修羅たちに対する忌避のようなものは無い。 「勝敗よりも、互いを知る為に‥‥共に歩むために‥‥力を尽くしましょう」 封じられた者も封じた者も関係ない。過去も無く、ただ未来の為にと千覚は彼らの援護に勤しむ。 ● 仕掛けられた石壁や落とし穴などの障害に阻まれながらも、修羅たちはかなりの速度で踏破してくる。 「おぉ‥‥ごらん弟よ。普通なら絶対に敵に回したくない猛者がいっぱいいるよ」 「おーい兄貴ー‥‥兄さんよー。何故に俺まで此処に?」 その猛者の中、まっすぐ道を駆け上って来る雪刃を見つけ、九法 慧介(ia2194)は微笑む。 グリムバルド(ib0608)は彼ほど気楽ではない。見物のつもりで来た筈なのに、いつのまにか参加する側にいる。何故どうしてここに自分が、と頭を抱えている。 「気持ちは酒天君の味方だけど、これはお祭りだから、どっちか一方に偏るとつまらないよね」 言いながら、慧介は殲刀「秋水清光」を構える。 武天の兵は一応怪我をさせないよう、刺股などの捕具を中心に装備している。けれど、開拓者たちにも修羅たちにも武器や技に制限はない。 とりあえず、観客を怪我させなければよし。後はお祭りなので、重篤な怪我さえ負わせなければそれでいいぐらいのものでしかない。 「悪役がいないと主役は映えませんからね」 无もまた苦笑して昇ってくる修羅たちを見る。 修羅についた開拓者たちの理由は様々だが、こうして武天側にいる開拓者たちも理由は様々だ。 けして修羅憎し、霊剣奪取断固阻止で武天側にについた開拓者もいない。 「嵌められたー」 と、左の目で困った兄貴分を睨むグリムバルドのような者もいる。やっぱりどこまでもお祭り、なのだ。 「霊剣か、一応あの時使った身としては、責任を感じないでもない」 霊剣に宿った力を振るう為に、何人もの開拓者が大アヤカシに挑んだ。雪ノ下・悪食丸(ia0074)もその一人。 この場に無い霊剣にはルオウ同様心痛めるが、彼はサムライ氏族。まして巨勢王の御前とあれば、どちらの味方をするのが当然か。 「まぁ、強ぇのと戦るのは面白いけどさ。見世物になれるかどうかは分からんぜ」 悩んでも愚痴っても、慧介に反省の色は無い。諦めて、グリムバルドは長槍「蜻蛉切」を構える。 それなりに長い螺旋の道をひた走り、ついに修羅たちが頂上に到着しようとしていた。 ● 最後の石壁を崩すと、残るわずかな距離を一気に修羅たちは駆け上がる。 到着に、丘の上では歓声が上がる。 周囲こそ木で囲われているが、中心部分は整地された広場。そのさらに中心に、これ見よがしに偽の剣が刺さっている。 武天の兵たち、そっちに味方する開拓者たちが霊剣(偽)を守るように展開する。 勿論、修羅たちの狙いもそちら。攻略するよう気を引き締めて、改めて武器を構えなおす。 が、一部の開拓者はそちらには僅か目を向けただけ。 ルオウは進み出ると、物見櫓で高みの見物をしている王たちに構え、声を張り上げる。 「来いよ! 遊ぼうぜ――!」 ニッカと満面の笑みを浮かべて、挑発するように手招きする。 「お呼びのようだぜ」 「そのようだ」 面白そうに笑う興志王に、巨勢王の頬も緩む。 もっと直接的な行動に出た者もいる。鬼灯 恵那(ia6686)は殲刀「秋水清光」を抜くと櫓の王たちに特攻。さすがの暴挙に周囲の警護がどよめき殺気立つが、それを無言で巨勢王は制すと、自身、太刀を抜き恵那の刀を真正面から止める。 「こんな機会、滅多に無いから楽しまないとね♪ お祭りだし、このくらいは無礼講だよね?」 恵那の剣は巨勢王の首を間違いなく狙っていた。下手をすれば、王の命を奪いかねない行為は祭りといえども度を越している。 「いいだろう。楽しませてもらうぞ!」 しかし、それにも巨勢王は豪快に笑うと、恵那を力付くで押し返す。 踏ん張れず、恵那が弾かれ転倒。そこにすかさず唸りを上げて刃が落ちてきた。慌てて躱すと、恵那は急いで間合いを開ける。 「燃えろ! あたしの魂‥‥鬼神の如く!!」 百噸の槌を振り上げてフィンもまた巨勢王に迫る。大降りの一撃は眉一つ動かさない巨勢王にあっさり躱され、勢い余って地面を撃ち付ける。振り下ろされた瞬間、槌頭の宝珠が派手に光った。 「派手な武器だな」 「ん。修羅に金棒ってしたかったけど、金棒無いから金槌持ってきたの」 めり込んだ地面から槌をあげつつ、フィンが悪びれもせずに答える。 「手伝うか?」 「いやいや、客人はゆっくりなされよ」 楽しげに笑いながら、のそりと巨勢王が一歩進み出る。 祭りの座興に担ぎ出された。とはいえ、手を抜く気も無い様子。巨体から放たれる気迫・威圧感に大アヤカシと対峙した開拓者たちですら息を呑んで一瞬尻込みしかける。 王のお出ましに、観客からも声が上がる。 ● 王が動くとあって、観客の注意もそちらに幾分流れたが、だからといってそっちの勝敗つくまで強奪は中断というのもまた不自然。 霊剣の奪取は変わらず、そちらの攻防にも緊張した目が向けられている。 「勝敗よりも祭りが先だ。正面突破、行かせてもらう!!」 「そうは行きませんよ!」 霊剣(偽)に迫る羅喉丸(ia0347)に向けて、守る无は呪縛符を構える。 「うっ」 小さな式が羅喉丸の手足を捕らえる。 続いて、大龍符。巨大な龍の式が召還され、襲い掛かるがこれは実体を伴わない。観客は見た目で悲鳴を上げるが、内情を知る開拓者にはたいした効果は無い。 とはいえ、その巨大さには一瞬でも目を奪われる。 その隙に投げられる爆竹。火は少ないが、大きな音が上がる。いきなり足元でする破裂音に、羅喉丸の足が戸惑った。 「俺が、武天の蒼い風っ!! 雪ノ下・悪食丸だっ!! 喰らえ!!」 神威の木刀を握り締め、悪食丸が羅喉丸に迫る。呪縛符は今だ羅喉丸を捉えたまま。 しかし、そこは羅喉丸とて開拓者。 一気に距離を詰めた悪食丸の刀がすれ違いざま叩き込まれる。直線的なその動きを、羅喉丸は八極天陣の驚異的な瞬発力を生かし、するりと躱す。 ならばと、悪食丸が神経研ぎ澄まし、見つけた一瞬の隙をついて木刀を繰り出すも、羅喉丸は大きく背面飛びで避けて間合いをとった。 「観客の期待には答えなければな。日々の修練の成果を確かめるにも丁度いい」 「なるほど実戦さながら、という訳か」 見栄えのする動きは、観客とて見て楽しい。機敏な泰拳士の動きに、観客はどよめく。 そちらに、ちらりとだけ羅喉丸は目を向ける。悪食丸も笑みを浮かべる。しかし、お互い緊張は解かない。 武天の兵たちも、現れた強奪者たちを捕縛せんと動き出す。 「その道、開けてもらおうか」 立ち塞がる彼らには、ウルグがロングマスケットを向ける。 呼吸法にて手ぶれを抑えると発砲する。ただし、空砲。火薬と練力だけで放つ空撃砲で、邪魔な兵たちを次々と転ばせていく。 ウルグからの支援を受けて、修羅たちや開拓者たちも残りの僅かな距離を駆け抜ける。 「仕方ねぇ。いっちょ当たって砕けるかぁ!」 砕けちゃ駄目です。守らねば。 不動の構えを取ると、グリムバルドは長槍「蜻蛉切」を地面スレスレから振り上げる。途端、地を行く衝撃波。地奔が修羅の一人を捕らえて足止めするも、敵の動きは止まらない。 「まだまだ!!」 大きく振り回す回転切り。大ぶりの槍に阻害されては、修羅たちもさすがに次の踏み込みを躊躇う。 「一方的にやられると、おもしろくないですからね」 その集団に飛び込むと、慧介も行動に移る。刀鞘奔らせ、正確無比の秋水での斬り込み。斬られた修羅は一旦間合いを開けて、互いに目配せし合う。 何をするかと思いきや、その影が伸びる。影縛りで捕らえられた武天側が、押さえ込まれる。 「今の内に!」 勿論、抑えられる人数は限られる。守り側の勢いを乱した隙に、残る修羅が早駆で抜ける。 「ほぉ、なかなかやるじゃないか」 修羅の動きを援護射撃しながら、ウルグはじっくりと観察。何せ、冥越に隠れ住んでいた種族だ。興味は尽きない。 そして、霊剣へと手が伸ばされる! 「もらった!!」 だが、霊剣に届く手前、踏み込んだ修羅に対して猛吹雪が襲い掛かる。ケロリーナの仕掛けたフロストマインだ。 「嵌まった人は寝てて下さいの」 畳み掛けるように、ケロリーナはアムルリープを仕掛ける。抗しきれずに修羅が倒れる。 「そういえば、酒天くんはどこ行ったですのー?」 眠らせて抱きついてしまおうと思ったのだが、乱戦の中にも姿が見えない。まさか途中の罠に嵌まってそのままかと探してみると‥‥。 「王さんたちも大したもんやなー。酒天もどうや。駆けつけにヴォトカ一杯」 「ありがとよ。いや、もう暑いのに大変だよなー」 別の罠にしっかりかかっていた。 蔵人の屋台でイカと酒持って歓談している。 蔵人は別に武天側の味方をする気も、修羅の邪魔をする気は無い。無いけど妨害はしてみる。屋台を出してたのはそういう事である。後、金もうけ。 「いいんですかね、王があれで。やっぱり、武天側について勝った方が気持ちよく終われたかも」 そんな酒天に肩を竦めつつ、菊池 志郎(ia5584)は霊剣までの距離を早駆けで抜ける。フロストマインも発動した後を辿れば恐れるに足りず。潜り抜け、志郎が霊剣を手にする。 「邪魔はさせん!」 抑えようとする武天の兵士は羅喉丸が空気撃で体勢を崩させる。一人でも倒れれば、集まってきていた兵士たちは動きを乱し、ほんの一瞬でも足を止める。 「これを!」 その隙に、志郎はさっさと傍にいた修羅に投げ渡す。 「王!」 「おうよ!」 そして、修羅の手から、屋台で食ってた酒天へと霊剣(偽)が投げられる。 邪魔しようとする者は他の修羅たちが押さえ、見事、霊剣(偽)が酒天の手に届く。 「おっしゃ。よくやった。という訳でいただいていくぜ、武天の衆!!」 たかだかと振り上げて酒天が宣言する。 が、 「それ、わしとこのげそ焼きやでー」 「あ、こっちか」 霊剣はしっかり握り締め、高々と振りあがったげそに、どっと周囲から笑いが起きる。計算してるのか天然なのか。 ともあれ、後は撤収あるのみ。 しかし、そのイカ焼きの串が軽快な破裂音と同時に途中でぽきりといきなり折れた。 見れば、櫓の上から興志王が銃を構える。 「曲者を見逃す訳にはいかないな。巨勢王がお忙しいので、助太刀いたそう」 「言ってくれる」 妙に芝居がかった台詞に、巨勢王が笑う。 その巨勢王はといえば、ルオウ、フィン、恵那を相手にしている。いずれも実力を備えた開拓者たちではあるが、彼ら相手に太刀を振るう巨勢王も引けを取らない。 実戦でなく、お祭り半分遊び半分もあるとはいえ‥‥いや、であるからこそ実力の高さが覗える。 興志王はといえば、酒天に狙いを付けると次々と発砲。酒天の足元で土や石が爆ぜている。 「待て、危ねっ!!」 当てるつもりなく、こちらも全く遊んでいる。 「えーい、任せた。持って逃げろー!」 「俺がですか。いいですけどね」 回りまわって、また霊剣(偽)を投げられ、志郎はそのまま逃走に入る。その背後からただちに撃ってこられる。当たるか当たらないかのぎりぎりの際に打ち込んでくるのはさすがというべきか。下手に動けば、却って怪我をしかねない。 「させっかよ!」 酒天が刀を抜くと、櫓へと迫る。すぐに取り押さえられるのは想像に難く無いものの、そっちに注意が向いた間は追撃の手も止む。 その間に、まんまと志郎は霊剣(偽)を持って逃げおおせていた。 霊剣(偽)はまんまと奪ったもののものの、首謀者である酒天はしっかり捕縛された。まぁ、やられっぱなしでは武天側の面目も立たないか。 容赦なく王二人から一撃ずつ喰らって昏倒する酒天。 「‥‥隙だらけ。まだまだね」 駆け寄った柚乃が、素早く酒天と唇を重ねてみる。 「酒天くんはおねむですか〜。これで終わりなら、一緒に里のおいしいもの食べたいな〜♪」 「ぎゃああああ、何だ!?」 寝ている酒天に目ざとくケロリーナが抱き付く。即座に起き上がるものの‥‥、本当に隙だらけだ。 ● 霊剣は奪われたものの、首謀者逮捕が空々しく発表され祭りはお開き。 帰りに何か買っていくかと屋台に並ぶ列と帰る列が出来始める。 少しずつ会場は寂しくなっていく。 「おー痛。全力で殴ってくるわ撃ってくるわ縄までかけられるわ。ここまでする必要あったか?」 「酔っ払い親父が持って帰る寿司土産みたいに巨勢王様に振り回されてましたからねー」 「そこまで酷くはねぇ!!」 声を荒げる酒天だが、全てしっかり見ていた和奏は揺るがず茶を啜る。 「もしも本当に全力ででしたら命が危ういですよ。あの方々は」 「でも、やれて満足だよ。楽しかったー」 怪我人を治療していた千覚は頭を抱えるが、その当人とやりあっていた恵那はぼろぼろの顔でも軽い声を上げている。 「この後は祝賀の宴でしょう。また騒ぐのですか?」 「当然。霊剣は取れたんだし、祭りも賑わったんだし。あの入道ももう譲渡には否を言わねぇだろ」 无の渡す酒を、酒天は簡単に飲み干す。 霊剣争奪の大騒動。 いろいろあったが無事決着もつき。後は霊剣が還るのを待つだけである。 |