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■オープニング本文 実りの秋到来。 恵み多き季節を祝い、各地で収穫祭が行われる頃である。 武天の都・此隅では『野趣祭』といい、秋の実りで肥太った獣肉が、これでもかと言わんばかりに料理され、市に並ぶ。まさしく豪快な肉祭り。 南方・武州で大アヤカシが討伐された話も広まり、今年は一段と賑わいを見せている。 そんな武天の開拓者ギルドに、まだ泥だらけの猟師が飛び込んできた。 「開拓者はいるか? 至急来てくれ!」 息も上がったまま、慌てた様子で猟師は喋り出す。 肉を食して祝う祭りなので、肉を供給するのは当然の事。 この日の為にと保存された肉も多いが、新鮮な肉を求めて猟師たちも大忙し。 地面に残った痕跡から獲物を追って、野山に分け入っていったという。 そこで妙な咆哮を聞いた。いや、獣の鳴き声というのはすぐに分かったが、なにやらいつもと様子が違う。危険を察したが、事態を見ておかねば対処も出来ない。 仲間たちと共に、慎重に声の主を探して山に入って行った。 「大猪のケモノだ。三頭。普段ならいい獲物だと思うんだがな」 苦々しく猟師は顔を歪める。 残念というべきか、大猪のケモノたちを先に捕らえるものがあった。人間の身の丈を悠に超す巨体には、びっしりと不定形の粘着質のモノが張り付いていたのだ。 粘泥。武州の騒動でも出現した低級アヤカシだ。 もっとも、この粘泥たちが武州の騒ぎと関係してるかまでは判らない。山の中に潜む下級アヤカシなど珍しくも無い。 粘泥は暗がりに潜んで獲物を待つ習性がある。何らかで粘泥たち潜み溜まっていた場所に、大猪たちははまり込み捕まったのだろう。 物理攻撃に極端に強い粘泥を倒すすべなど、大猪には無かった。だが、粘泥たちの方も大猪たちを即座に仕留めるほどの力は無かったようだ。 結果、大猪たちは体中にはりついた粘泥たちを振り払おうと、大暴走を始めた。 「大猪たちは山を降り、近隣を暴れまわっている。街道もあるし、街や村もあるし、田畑も踏み抜かれる。祭りの余波で人通りも多いぐらいだ。被害を抑える為に大猪を仕留めようにも、纏わりついた粘泥のせいで俺達の武器じゃ通用しない」 粘泥が大猪を仕留めるまでどのくらいかかるか分からない。その間に、どれだけ動き続け被害を広げるのか。 また、下手に粘泥が振り払われ、街中にでも潜まれたりしても困る。 「頼む。暴れ大猪と張り付いた粘泥とを、仕留めてくれないか」 猟師たちの訴えを聞き、開拓者ギルドも至急体勢を整える。 祭りで賑わう武天に、物騒な話は必要ない。迅速に対処すべく、朋友たちの参加も認められた。 |
■参加者一覧
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
十野間 空(ib0346)
30歳・男・陰
沖田 嵐(ib5196)
17歳・女・サ
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 「一体見つけましたよ」 凛とした鷲獅鳥の背に跨ったまま、御調 昴(ib5479)が知らせてきた。 上空からのバダドサイト。山の中など木々に阻まれてはさすがに見つけられないが、幸か不幸か街道付近を走り回っているのがいた。 遠目からでは巨大な猪でしかないが、よくよく見れば、その身体が日の光に濡れたように反射している。ケモノの大猪というだけでも問題だが、粘泥に取り付かれ、暴れ狂っているのだ。 合計で三体が確認されている。残り二体は今の所見える範囲にはいないという。 「祭りだっつうのに、しょうがねぇな。ともかく、一刻も早く退治しねぇとまずいよな」 困惑仕切りに沖田 嵐(ib5196)が、近くて遠い首都へと目を向ける。 「山々や近隣の方々への影響だけでも甚大だというのに、更に祭りの最中に乱入されるような事になったら一大事ですね」 昴から付近の様子を聞いて、十野間 空(ib0346)は頭が痛い。 街道は、猪騒ぎを聞きつけたか、今の所人はいない。が、その道をひた走れば当然どこかの街だか村だかにつく。此隅の野趣祭にちなみ、近郊でも祭りの賑わいを見せている。 そんな中に猪がアヤカシ付きで突撃しようものなら、どんな惨事になるか。 「猪だけなら普通の狩りですが、ぬるぬる付きとなりますと少々‥‥風情が」 「戦でも粘泥ばかりで苦労しましたのに‥‥」 胸を悪くするサーシャ(ia9980)に、フェンリエッタ(ib0018)も大仰に嘆息付く。 大アヤカシ・瘴海率いる此度の戦いに現れたアヤカシは粘泥や昆虫型がほとんど。ねっちょりした奴らは物理攻撃には強くて生命力も高い為、苦戦を強いられた開拓者も多い。 その苦労が忘れえぬ内の此度の騒動。当分姿を見たくなかったという思いも多少はあるか。 ● 近付くほどに、街道沿いを走った巨大なイノシシの惨状が誰の目にも明らかになる。 前は全く見えてないのか、気にしてないのか。木にぶつかっては倒し、休憩の茶屋に突っ込んでは壊し、水路に突っ込んではすっ転んでもがく。 ぬた場で身体を洗うが如くに悶え、時折、苦しげな悲鳴のような声が響く。体についた粘泥をどうにか振り払いたい。 突進したかと思えば、急展開。ジグザグに走り回ったりと滅茶苦茶だ。 けれど、粘泥はその程度では剥がれない。イノシシはじわりと弱らされる一方であり、放っておけば死に至る。そうすれば、動きを止めたイノシシに張り付いた粘泥をゆっくり退治できようが、それを待つ間一体どれだけの被害が出回るか。 「アヤカシに食われ大地に還れないのは無念だろう」 竜哉(ia8037)が暴れるイノシシを憐れむ。 弱肉強食は自然の倣い。アヤカシと人間にはその道理は通じない、と竜哉は考える。 喰われた命はまたその命を紡ぎ、死しても土に還る。それは人とて同じ事。アヤカシは瘴気に還る。喰われれば後は無い分、アヤカシの方が無残か。 このイノシシとて、粘泥にやられてなければ何かの腹に収まっただろう。 「野趣祭って御肉がいっぱい出るお祭りなのだよね? それだって、食を祝う為でもあるはずなのにね。俺の知らない美味しいお肉料理とかもあるんだろうなー」 叢雲 怜(ib5488)はうっとり祭りを思えど、行くなら後だ。すぐに気を引き締める。 「このままどこかの集落に被害が及ぶ前にまずはあの一体を。残り二体はそれからまた捜しましょう。フーガ、ボクの防御をお願いします。‥‥ムリの無い範囲で」 カンタータ(ia0489)は暴れるイノシシの前方に回りこみながら、相棒の忍犬に指示する。思わず、口をついたのはイノシシの暴れ具合の凄まじさから。 下手に近付けば、自分は勿論、フーガも潰されかねない。 だが、その暴れイノシシにも物怖じせずに灰色の狼犬はカンタータを見て強く鳴く。 恐々としていたカンタータだが、まだ子供なその目を見つめ返す。少し落ち着くと、一定間隔で結界呪符「白」を展開。まずは進路を阻む。 地面からいきなり生えた白い壁は誰の目にも明らか。しかし、イノシシは気付いた様子が無く、止まりもせずに体を打ち付ける。白壁がたわみ、壊れるかとカンタータはぎょっとしたが、さすがにそう簡単に壊れる術で無い。 「鶴祇、防御を頼む。終わったら、治療と解毒もな」 「それぐらい言われずとも心得ておるから安心せい。そなたこそ、下手に怪我してこちらの手を焼かすでないぞ」 竜哉へ当然とばかりに告げると、人妖は後方で壁を作るカンタータのそばまで下がり、守護童を仕掛ける。 竜哉が咆哮を発した。 が、粘泥の動きに変化が見られない。抵抗された可能性はある。が、それ以上に緩慢な動きの為、竜哉に襲い掛かろうとしてものろくてそう見えないのか? むしろイノシシには届いたようで、鼻息を荒くすると竜哉に向かおうとする。もっとも、こちらも纏わりつく粘泥のせいで猪突猛進ともいかないが。 「来てくれるだけでありがたいか」 竜哉が肩を竦める。 少なくとも、危険な場所での戦闘は避けられそうだ。 アーマーに搭乗したサーシャが動く。 ミタール・プラーチィ。ペットネームはルギエヴィート。各部にふんだんに宝珠を施した外装を持つアーマーは、クラッシュブレードを振りかざし、その距離を一気に詰め全重量を込めて叩きつけた。 その威力は傍で見ていて恐ろしいほど。 さすがに、イノシシの体もたわみ悲鳴のような声が上がった。 のだが。 「どんだけ強いんですか!?」 唖然とフェンリエッタが声を上げる。 迫激突の衝撃で、イノシシがよろめいたものの、貼り付いた粘泥が衝撃を吸収したのか、さしたる痛手でもなく弱っている足を突っ張らせて身構えている。 そして、イノシシに纏わりつく粘泥は相変わらず貼り付いたまま。サーシャが剣を引くと、刃についた分が糸を引いて剥がれ、地面へと流れる。その先から瘴気に還り、イノシシにしがみ付く粘泥も厚みを減らしている辺り、ノーダメージでもない。 叩かれた恨みでアーマーに向かったイノシシだが、すぐに粘泥に侵され苦悶にのたうち出す。予測不能な動きでは、さすがに近寄りがたい上、粘泥のせいでイノシシ自体に傷を与えにくい。 「粘泥が鎧状態になってますね。残り二体を長く放置状態には出来ませんし、急ぎませんと」 「それには、まず粘泥を剥がすのが先か」 鷲獅鳥のケイトに乗ったまま、昴は宝珠銃を構える。 一瞬だけ、昴はケイトを見た。気位の高いこの鷲獅鳥は昴が弱気を見せると、容赦なく背中から振り落としかねない。 もしイノシシの前にでも落とされれば、あのごつい蹄に踏み抜かれかねない。 そんな心境を読み取ったか、ケイトがじろりと昴を睨む。一瞬怯んだが、気を引き締めて強く見返すとケイトも強く翼を羽ばたかせる。 昴はカザークショットで鷲獅鳥を走らせると、暴れるイノシシにしがみ付いた粘泥に向け、螺旋弾を撃ちこむ。 竜哉は破邪の剣を抜くと、戦塵烈波を放つ。破邪の剣は刃引きされた儀礼用の剣だが、練力の集中にはむしろ向く。 やはりアーマーの痛手はあったようで、胴体に張り付いていた粘泥たちがさすがに耐え切れずに剥がれ落ちる。その粘泥が支配していた部分だけ、イノシシ自体の体が露出する。 その部分を狙い、空が毒蟲を放つ。小さな虫の式はイノシシに取り付くと、毒を吹き込む。滅茶苦茶に暴れていたイノシシがやがて四肢を麻痺させ、音を上げて倒れた。 毒の効果も長くは続かない。動きを止めている内に、粘泥を退治してイノシシに引導を渡す。 「すまん! せめて苦しまないよう早く済ませてやるからな!」 じわじわと粘泥に苦しめられ、新たに開拓者たちに寄ってたかって屠られるのも哀れというべきか。 四肢はまだ粘泥が纏わりついている。 「赤雷! 火炎を! そこらの草木とかは燃やすなよ!」 嵐は炎龍に命じると、赤雷が声を上げて炎を吹いた。 類焼する炎は、粘泥は勿論、接していたイノシシにも熱かったらしい。粘泥が逃げる代わりにイノシシが激しく手足を動かす。粘泥が蠢く隙間を見極めると、嵐は戦斧「アースブレイク」を脚へと叩き込む。 巨大な戦斧がイノシシに食い込む。一刀両断とは行かないが、それでもう走り回る事はできまい。 火炎や術で粘泥を滅ぼし、露呈したイノシシに速やかに屠る。さすがに開拓者たちが一斉にかかれば、さほどの時間は掛からなかった。 「食いもしないのに‥‥すまない」 静かに詫びると、竜哉はイノシシの頭部目掛けて破山剣を振り下ろす。巨大な鬼すら倒したという鬼切で頭蓋骨ごと叩き割ると、余剰練力が放出と共にイノシシもまた動きを止めた。 ● が、まだ一体を葬っただけである。 「残り二体。現在も暴れてるだろうから、近くまで行けば痕跡はすぐに分かりそうか。粘泥がこっそりどこかに行かない内に見つけないとな!」 怜がやれやれと息をつく。 空と地上に分かれて、ただちに開拓者たちは捜索を開始した。 「何か匂いますか?」 イノシシと粘泥の匂いは改めて覚えた。鼻を鳴らすフーガの後をカンタータは邪魔をせずについていく。 「空から見ても死角は多いな。とにかく地面の痕跡を探すしかねぇか」 呼子笛を咥えながら、赤雷に乗って嵐も地上を見渡す。 地形の関係や高く伸びた木々など、視界を遮る邪魔は多い。 それでも、空からの目の方が見つけやすいのか。二体目も空組から呼子笛の連絡が鳴り響き、甲龍の月光から空の人魂が地上を探していた開拓者たちへと文を届ける。 その連絡を頼りに赴けば、一体目とは離れた草原で、やはり同じように粘泥に塗れてイノシシが暴れまわっていた。 「こっちは三体目の捜索を続けるから、あれの退治は任せる」 「了解。気をつけて」 炎龍に乗って舞い上がる怜たちを見送りながら、サーシャはアーマーに騎乗する。 (木々を巻き込む心配もなさそうですし。練力‥‥まだいけますね) 練力が切れるとアーマーは動かない。そうなる前にある程度の打撃は与えておきたい。まして、今度は二手に分かれるのだ。一体目で大体の予測はついたとはいえ、手間取れば火力不足で苦しむ可能性はある。 そうなる前にと、イノシシはさっさと潰しておきたい。イノシシさえ動きを止めれば広域に暴れる恐れは無くなり、粘泥にも対処しやすい。 「手順はさっきと同じですね。フーガ、よろしくお願いします」 「ワン!」 カンタータに告げられ、フーガは守りの体勢に入る。 白壁を形成し、イノシシの移動範囲を狭める。サーシャがアーマーで突撃。大きく剣を振るい張り付いた粘泥たちに半月薙ぎで斬りつけていく。 ● 地上の甲班に二体目を託すと、空組乙班は三体目を空から探し続ける。 「あ、あそこ!」 怜が示した先で、大木が揺れると音を立てて倒れた。即座に空が小鳥を模した人魂を放つと確認に赴く。 「いますね。暴れまわってますよ」 回りまわって山に戻ってきたらしい。だが、それも束の間、また山から飛び出しどこかへ駆け抜けようとしている。いつ里に出るか分からない。呼子笛を吹き鳴らすと、ただちに退治に回る。 「壁が無いから、まずは動きを押さえないと? 姫鶴、斜め上辺りを離れず飛んでくれ。引っ付きすぎるなよ」 純白の炎龍は猛々しく羽ばたくと、イノシシの動きにぴたりと張り付く。普段温和な性格でも、さすがは炎龍。戦闘になると生来の獰猛さが顔を出す。 物怖じせず、ともすれば自分から出かねない勢いの姫鶴を繰りながら、怜はマスケット「魔弾」で標的を狙い、スピードブレイクでイノシシの動きを阻害する。 フェンリエッタは駿龍に跨り、光輝の剣を抜く。 「方向転換には、少なからず減速停止が必要。その時を狙えば当てやすい‥‥んだけどね」 古代の文字が浮かぶ刀身が雷電を帯びると、雷の刃を放つ。狙うはイノシシの鼻先。攻撃されれば幾ら正気を失っていようと、とっさに向きを変える。変えるが‥‥次にどう動くかは予測がつかない。暴れるイノシシは注意していないと危険極まりない。 「キーラン、あなたもよく気をつけておいて下さいね。さっきみたいに飛び出すのは駄目ですよ」 フェンリエッタがキーランヴェルに注意を促す。 キレのある身のこなしをする駿龍だが、軽くてひょうきんな性格も関与してか、油断すると動きが前のめりがちになる。 一体目の時も、速さに乗りすぎてもう少しで突っ込むイノシシの鼻先に飛び出そうになったりした。 重々言い聞かせると、分かったとばかりにキーランヴェルが吼える。けしてわがままでもなく、フェンリエッタとの協調も楽しんでいる。彼女の間合いに合わせて、暗色の鱗を緑みに煌かせて、イノシシとの距離を適切に取る。 「イノシシを止めるには、まず粘泥剥がしが必要。なのは、こちらも同じようですね」 銃撃と雷撃でイノシシの足が鈍るも、攻め込むほどにはまだ弱い。 邪魔な粘泥に向けて、空は呪声を響かせる。 幽霊系の式による脳内への攻撃だが、一体粘泥の頭はどこなのだろう。多少不思議には思えど、効いてるのは確かな様子。とりあえず一体を剥がすと、そこに先と同じく毒蟲で攻撃。四肢を弱らせる。 フェンリエッタも駿龍から降りると、火炎での牽制を任し、自身は粘泥退治に剣を振るう。横踏でイノシシの動きを見極め躱すと、瑠璃で斬りつける。 「粘泥さえいなければ!」 剥がれ落ちたイノシシの部位に向けて、怜は銃弾を浴びせる。 甲高い悲鳴を上げてイノシシが倒れても、粘泥たちの動きは止まず、寧ろ死んだ肉は興味ないとばかりに開拓者が近寄るのを待ちかねていた。 ● 地上の甲が動きを抑えて仕留めるならば、空中の乙班は動きを鈍らせて倒す感じか。 人手を分けた分時間はかかったが、どうにかイノシシも粘泥も殲滅する。 「こちらも終了。これで三体すべて討伐できましたね。月光も御苦労様」 甲班と合流すると、空は乙班での成果も報告。探索を手伝ってくれた甲龍にも労いの言葉をかける。 傷はカンタータや鶴祇たちが癒して回る。しぶとくて乱雑な動きを見せる相手には手こずりはしたが、皆、重篤な傷は無い。 「周囲を見てきましたが、粘泥の気配は無かったです。隠れた可能性も否定できませんが、恐らくは大丈夫でしょう」 暴れるイノシシから振り落とされた粘泥がいないか。 暴れた付近を中心に診て回ったフェンリエッタだが、少なくとも視認する限りは異変無かった。 探知する術は無いので定かでないが、あの粘泥のしぶとさからしても、早々と獲物を離しはすまい。 そのしぶとかった粘泥もそうこうする内に綺麗に瘴気に還り、ケモノであるイノシシだけがその屍を残す。 「普通の狩りでしたら、十分な成果なのでしょうけどね」 「首都の祭りに持っていったら、喜ばれそうだけどな」 サーシャが告げると、怜も残念そうに告げる。 「アヤカシの毒にもやられた訳ですから、口にするのは危ないですよね‥‥」 カンタータは猟師に報告すると、松明を用意してもらう。 重いイノシシを動かすのは大事で、猟師たちや相棒たちの手も借りて集めると、木を組んで焼却処分に。 天をも焦がすばかりに起こされた業火に、イノシシたちの姿が消える。 暴れていた後もいつかは消える。 恐々としていた人の流れもすぐに動き出し、祭りの調子が戻り始めていた。 |