朱藩 イカは如何か
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/17 19:50



■オープニング本文

 豊穣の秋到来。この季節には各地で収穫祭が催され、様々な賑わいを見せる。
 食べ物が中心になるこの祭りであるが、どの食材が中心になるかは産地で様々。
 朱藩は海。首都・安州では『海産祭』として、魚介類や海の干物などが市に並ぶ。新鮮で良質な海の幸を手に入れようと、遠く泰から買い付けに商人が来るほど。
 勿論、市だけでなく、歌や踊りを披露する野外舞台も設置され、約一ヶ月程も祭りは続く。

 首都の祭りである以上、当然集まる人も多い。
 地方にしてみれば、自分たちの名産品を売り出し地元を知ってもらういい機会なので、この市を狙って都に上る者だっている。
 だが、売り出すにしても商品が無ければどうにもならない。

「参った」
 とある港町。漁師たちは船を前に、頭を抱える。
 秋の海。もう泳ぐには寒い季節だが、この時期でなければ獲れない魚もいる。そうでなくとも魚介類は鮮度が命。食うにしろ加工するにせよ、取れたての魚をいかに扱うかが勝負。
 だから毎日のように漁師たちは海に出て魚を捕らえている。
 首都での祭りもあって、今こそ稼ぎ時‥‥なのに。
 港が所有している大ぶりの漁船。それが軒並み動かなくなっていた。いや、近付く事さえ危険な状態。
 整備された漁港に寄せる波。揺られる船の間から、ときおり白くて長い触手が現れしなやかに揺れる。三角形の頭がたまに出てきて、巨大な目が周囲を見渡す。
 どう見てもイカである。
 しかもでかい。さらにさらに、どうやら二体いるようだ。
 海の中を泳ぎながら、触手を伸ばして舞い降りたカモメを捕まえたり、船に残った魚を探って食べている。
 何が気に行ったのか、漁港から立ち退かない。船に近付くと襲われる為、どうにも仕事にならない。危険の為、漁港自体を閉鎖している。
 アヤカシではなく、ケモノのイカ。漁師たちでも対処しようとすれば出来るかもしれないが、下手に暴れられたら人への被害も船への被害が甚大になるのは目に見えている。
「仕方が無い。急いで開拓者ギルドに連絡しよう」
 自分たちでの対処は断念し、漁師たちはギルドへと走る。

 そして、開拓者ギルドにて依頼が出される。
「‥‥という訳で、ケモノのイカ二体が相手だ。遠くへやったくらいでは帰ってくる可能性もあるし、沖合いで船がやられてもつまらん。出来ればこの機に仕留めてほしい。ただ、漁師からの要望で港や船にあまり痛手を与えてほしくないとの事だ。その代わり、漁師たちも手伝うといってくれているが、まぁ、無茶はさせない方がいいだろうな」
 要求が多いが仕方ない。イカを倒せても、明日からの生活が送れないなら意味が無い。
 今回海で動きが取りにくいのも考慮して、相棒の同行も許可された。
 とはいえ、相手は水の生き物。厄介なのは変わらない。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
からす(ia6525
13歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
和奏(ia8807
17歳・男・志
サニーレイン=ハレサメ(ib5382
11歳・女・吟
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂


■リプレイ本文

 漁港は一見平和に見えた。人影は無いものの、定休日とでも思えば不思議ではない。
 波に揺られながらも漁船は整然と並んでおり、次の出港を待つ。
 そこに一羽のカモメが翼を休めに舞い降りた。広い視界を生かして周囲を警戒している。
 しかし、その目から隠れつつ、船陰からしゅるりと長い紐状の物が伸び上がる。
 音も無く静かに伸びたそれは、カモメにしがみ付くと高々と持ち上げ、海中へと引き込む。
 波間から覗うように見えた巨大な三角頭。その数は二つ。それぞれ全貌を見せる事無く海にまた引っ込んだ。

「大きい‥‥ですね」
 物陰から仔細を見ていた乃木亜(ia1245)が率直な感想を口にする。
「ケモノのイカ‥‥ですか。今までにもケモノに会った事はありますが、海にもいるものですね」
 朝比奈 空(ia0086)も目を丸くする。
 海にも生き物がいる以上、いてもおかしくない。もっとも、そうしょっちゅうこんな生物と出会っていたら、命が危うい。
「巨大化と共に、気も大きくなって悪さをしたくなるのでしょうか」
 和奏(ia8807)は首を傾げるも、答える者は無い。
 さもありなん。イカの気持ちなどいかがなものか。そもそもあの巨体でこんな岸辺で活動するのも気が知れない。
「アヤカシでは無いなら、悪気が無いのは確かなんでしょうが‥‥。悪気は無くても被害は無視できないですから、退治するしかないですね」
 御調 昴(ib5479)が困ったように告げる。
 確かに悪気は無い。というか、それだけの意思は恐らく無い。あるのは本能で、そういう意味ではアヤカシと変わらない。違うのは人に対しての執着か。
 昴は空を見上げる。陽はまだ高い。
「お茶に間に合うように頑張りましょう」
「あそこまで大きいと大味らしいぞ?」
 昴の呟きに、からす(ia6525)が指摘する。
 漁師たちによれば、似たようなケモノの話は聞いた覚えもあるらしい。それと経験からいって、多分食べられないだろうという、あまり退治には関係ない情報。
 けれど、それはある意味重要な情報でもあった。
「イカ飯食べ放題と聞いてやってくれば、アヤカシ退治とはこれイカに。‥‥なんですか、テツジン。その残念そうな顔は」
「いいえ、何でもございませんよ。聞こえなかったふりをする方がいいか迷ったなどありはしない」
 嘆いて見せるサニーレイン(ib5382)が、隣の相棒に目を遣る。
 土偶ゴーレムは落ち着いた口調で、静かに首をぐるぐる横に振ってみせる。おどけたサニーレインに調子を合わせたようだ。
 例え食べられぬにしても、イカを放っておけない。沖に追い出してもそこで漁船を襲われては面倒なので、討伐しかないが‥‥。問題は、敵は水の中。しかも漁港内は漁船が連なり、障害が多い。
 その為、一旦海に出した後、討伐をしようと計画する。


「短い間のみですが、念の為に。気をつけて下さい」
 乃木亜は神楽舞「瞬」を使い、空に飛び立つ面々を支援する。
「海に被害が出る前に何とかしないとな。‥‥とりあえず試せるだけ試してみるか! 行くよ、ゲヘナ!!」
 鷲獅鳥に跨ると、瀧鷲 漸(ia8176)は颯爽と空に舞い上がる。
 同じく和奏、空、昴も鷲獅鳥に乗って海上へと飛び出した。
「そろそろ寒い季節ですねぇ。潮風も気持ち悪そうですけど、漁師の方々が難渋しておりますので御協力下さい」
 一見白に近い毛並みを逆立て気味に飛ぶ漣李を和奏は宥める。
 磯の香り漂う濡れた風は、山里育ちには少々馴染めないか。
 イカは二体。触手は合わせて二十本になる。それらに捕まるとさすがに開拓者も危うい。空を飛んでいると、何となくイカの影も見える。
「イカの耳ってどこだ? まぁ試してみればいっか」
 漸は高度を下げると、イカたちに咆哮を浴びせる。
 効果はあったか、単に鷲獅鳥が美味しそうだったか。後者だとしたら、深紅と黒の禍々しい姿を食おうとした根性は天晴れ。
 水中から伸びでた触手を、ゲヘナグリュプスはひらりと躱す。
「この程度で捕まるようじゃ、魔神と付き合う資格は無いさ。このまま沖まで連れ出すぞ!」
 一旦背を向ける形になり、鷲獅鳥はいささか不満そうにしているも、文句を垂れずに沖合いへと翼を羽ばたかす。
「きゃあ!」
 空が荒縄を水面に垂らしていた。その先にはただの布‥‥だが、見ようによっては餌にも見える。大雑把な釣具にも気にせず、絡みついたイカの触手が縄を引き、空を引き寄せにかかる。
 このままだと空がイカに釣られてしまう。
 急いで縄を手放し落下は防いだ。体勢を崩した空を、黒煉は烏羽色の身体の上に器用に押し上げ、距離を取る。追ってきた巨大な触手の群れを飛翔翼で躱しながら、港から引き離していく。
「あの触手に捕まると、ケイトでも危ないですから。捕まらないよう気をつけて」
 昴の言葉に、誰に物をと言わんばかりにケイトが鋭い視線で返す。
 挑発するように上空を飛ぶ鷲獅鳥たちに、イカたちも徐々に攻撃の手を強めてくる。その合間を曲飛用いて飛び回るケイト。
 その背に乗る昴も用心で両の手の宝珠銃はいつでも撃てるようにしておく。もっとも彼の場合、用心すべきはイカだけでなく。弱気を見せようものなら、この鷲獅鳥は即行振り落としかねない。
 しなる触手には無数の吸盤。巻き付かれれば剥がすだけでも一苦労なのに、海へと引き込まれたらさらに窮地に陥るのは目に見えている。
「海はあちらの領域ですから。‥‥終わったら美味しい物を食べさせてあげますね」
 慎重に飛び回る漣李に、和奏が普段と変わりない口調で告げる。
 時折、跳ね上がった水飛沫が顔にまでかかる。磯の匂いにこのしょっぱさ。
 長く海水に漬かってるだろうあのイカたちもこの海水が染み付いているのだろうか。
 とにかく、仕留められねばそれを確かめようも無い。

「どうやら、うまく誘い込めたな」
 船の上で、管を慎重に構えたまま風雅 哲心(ia0135)は沖に向かうイカから目を離さない。
 飛び交う四頭の鷲獅鳥に、海中から伸びる触手。大蛇のようにうねるそれらのみならず、時折、胴体部分も視認で来た。
「それではこちらも急ぎ参るとするか。近寄りすぎて触手にやられぬようにな」
「念の為に水中呼吸器もお借りしてますので、ある程度はお助けできるかと思います」
 船を進めながら忠告するからすに、乃木亜は細い竹筒のような器具を取り出す。
 文字通り水中での呼吸が可能になる代物だが、それで飛び込んだとしても水の弊害は大きい。動きも鈍り、術もものによっては半減する。
 でなくてとも、いい加減寒くなってきている海なんぞ出来れば泳ぎたくは無い。
「まさかの時の為の命綱。‥‥テツジン、浮かびますよね?」
 自身と土偶ゴーレムを縄で繋ぐサニーレインだが、返事は芳しくなかった。
「残念ながら空を飛べないように、どうしても出来ない事はこの世に存在するのだよ」
「沈むんですね。分かりました」
 恐る恐ると確かめたサニーレインに、残念そうにテツジンは答える。
 土偶ゴーレムは水中ではろくに動けず、頭まで沈むとバランスを失って転倒。その為、移動もできなくなるらしい。
 もっとも。万一落ちてもどちらかが船に残っていれば縄を手繰って引き上げ易い。命綱の意味が無い訳でも無い。
「‥‥。錘にならないといいのですけど」
「善処しよう」
 重い相棒をじっくり眺めるサニーレインに、その相手は動じず沖合いを見つめる。
 船は戦場に合流しようと、イカたちへ確実に近付いている。


 港から十分離れ、漁師たちに被害を出さずに済むと判断した時、開拓者たちは積極的な攻撃に転じる。
「さて、大きそうな目から狙ってみましょうか」
 和奏は相変わらずの穏やかな口調で構えると、そんな彼の分までと言わんばかりに漣李は鼻息荒く。翼を畳み、イカの胴体目掛けて落下するように迫る。
 波間から覗く巨大な目。しかし、そこに届く前に触手の一本が漣李を捕まえた。
「ギャア!!」
 翼広げて耐えようにも力の差は大きく。そのまま海に引き釣り込もうと次々と触手が襲ってくる。
 和奏は素早く刀「鬼神丸」を秋水で一閃。巻きついていた触手を断ち切ると、自由になった鷲獅鳥が素早く離脱する。
「ほぉ、でかいな。以前のがしゃどくろほどではないが」
 船の上では、召喚された管狐が暴れるイカをきらりと光る紅い眼でじっと見据える。
「無駄話はそこまでだ。来い、翠嵐牙!」
 哲心の軽い叱咤が飛ぶと、もう余計な事は言わず、管狐の緑の体躯がするりと武器に同化する。
「水には雷が定石だな。‥‥響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け―――アークブラスト!」
 深遠の知恵であがった知覚を用いて放つ電撃が閃光と共に、イカの見えていた胴体部分を撃ちぬく。
 驚いたか、高々と触手が上がり、水飛沫を上げてイカが水中に沈む。
 木の葉のように揺れる船に捕まりながら、からすは弓「蒼月」にて縄付きの金属矢を打ち込む。
 刺さったのを見るや、ジライヤを召喚。
「こりゃまた大きいなぁ。話に聞くと見るでは大違いじゃ」
「怖じ気ついたかね?」
 イカを見て口を開けた峨嶺に、からすはちらりと一瞥。そんな主人をジライヤは鼻で笑う。
「はっはっは、ジライヤ舐めちゃ困るねぇお嬢」
「では命ず、『捌け』」
「酒のつまみ宜しくねぇ!」
 荒れる海を物ともせず、赤い蛙が飛び込む。
 深く潜行すると、迫る触手をデーモンズソードにて切り刻んでいく。
 海の底から攻撃され、知らずイカは水面へと押し上げられる。水中からの攻撃にイカの目が峨嶺に向けられる。
 そこですかさず、ジライヤは蝦蟇見得を切る。
 鋭い眼光に、思わず萎縮したイカは動きを鈍らせる。
「今です! 黒煉、突っ込んで!」
 空の指示の従い、鷲獅鳥が触手の群れを抜けて胴体に迫る。
 十二分に狙いを付けると、空はその目に向かって、アークブラストを放つ!!
「幾ら大きいとはいえ‥‥弱所は変わる訳でもないでしょう」
 空は黒煉の右目の傷をふと見つめる。
 黒煉も空を一瞬だけ見るも、すぐに強く翼を動かし飛翔。動きを鈍らせ目一つ潰しても、二体揃ってまだまだ元気に活動している。触手に捕まる前に距離を置かねば。
「水中攻撃の手もあるとはいえ、逃げられる前に勝負を決めてしまいたいところですね」
 砂迅騎の領分を発揮。カザークショットでケイトを乗りこなすと、防御も考えずに昴は宝珠銃「皇帝」と宝珠銃「エア・スティーラー」を放つ。
 単動作で再装填を行うと、素早くただただ攻撃に専念。
 ケイトも滑空し、鷲返撃で二撃入れてイカの足を潰しにかかる。
 イカの動きは餌をとるそれから、はっきりと敵を追い払う攻撃へと変化している。風を切り、波を叩き、海を割るその強さはなかなか終息を見せない。
 しなる触手から鷲獅鳥は距離を置くも、昴は休まず銃を撃ち続ける。
「多少の荒事も必要かねぇ。ゲヘナ、突っ込め!!!」
 漸の言葉と共に、ゲヘナグリュプスが高速でイカに迫る。
 暴嵐突でぶち当たるようにイカの胴体へと朱雀の嘴を食い込ませるや、背の漸が斧槍「ヴィルヘルム」を振り回す。
 破軍で気力を燃やして旋回。その勢いたるや凄まじく、迫る触手が次々と断ち切られ、食えもしない切り身として、波間に蠢く。
 船に上に留まり、サニーレインが鳴らすシストルムの音に調子を合わせながら、乃木亜は神楽舞を舞い続ける。
「心」で術の効果を高め、「瞬」で敏捷性を上げ、必要とあらば閃癒で治療を行う。
「藍玉、捕まると危ないからあんまり近付いちゃ駄目よ?」
「ピイイイイィ!!」
 その足元をミヅチが右往左往していた。間近に見るイカの大きさに慄き、乃木亜の後ろに隠れてしまう。
 それでも、じっくり観察して落ち着いてきたか、徐々に攻撃を自ら仕掛けていく。
 イカの足に対して水牢。蝦蟇見得や他の攻撃と合わせて動きが鈍くなった所へ、水柱で突き上げる。
 巨体でぐにょぐにょ動いてるイカの平衡感覚がどうなってるのか。見た目からはよく分からないが、その動きはまとまりの付かないものになっている。
 それはサニーレインが放つスプラッタノイズのせいもあるかもしれない。
「ばーかばーか!」
 可憐な振る舞いで、何とも普通に罵倒するサニーレインだが、混乱していても時に攻撃がこちらに向く事がある。
 きろっとイカの目が動くと、先端の切れた触手が船を打とうと振り上げられる。
 そこにテツジンがビーストクロスボウを放って牽制する。
「船には触らせん! 力比べと行こうか!!」
 垂れ下がった触手をギガントシールドで防ぐと、ナックルコートによる渾身の一撃を叩き込む。
「みーなーさーん、がーんばりまーしょうねー♪」
 船を守りにどたばたと走るテツジンを含め、サニーレインは適当に応援している。いや、近付けば奴隷の葛藤でイカに防御を取らせられないよう、その心に訴えたりと動いてはいる。
「イカは目と目の間に急所があります。そこを狙えませんか?」
「そういう事でしたら!」
 空がアムルリープを仕掛ける。眠らせても、もう一匹がこうも暴れていてはなかなか近寄れないが、いい加減、向こうも混乱し弱ってきている。
 睡魔が効いたか、だらりと触手が横たわる。別のイカはあらぬ方向にうねうねと触手を伸ばしている。
「まずは一匹減らしますか」
 漣李と共に、和奏が刃を煌かせる。
「お陀仏になりなぁ!!」
 海から飛び上がったジライヤも、混乱している胴体に向けて大上段から刃を振り下ろし、切り刻む。
「さすがにしぶとい。ならこいつで行くしかないな。‥‥猛ろ、冥竜の咆哮。食らい尽くせ――ララド=メ・デリタ!」
「これで!!」
 哲心と空から生み出された灰色の光球がイカに触れるや、灰と化す。
 抵抗するどころか逃げる力も失い、ただ弱り続けるイカたちに最後の止めと容赦の攻撃が続く。
 やがて、くたりと胴体部分が折れ曲がり、ゆっくりと沈んでいく。最後の足掻きのように蠢き続ける触手を丁寧に捌くも、それらも動きを止めるのは時間の問題だった。


 海に沈んだイカたちを、矢につけていた縄を手繰り、ジライヤや漁師たちにも手伝ってもらいからすは回収する。
 一体何人分あるのか。その巨体を少し捌き、試しに調理してみる。
 食えないと聞かされていても、確かめずにおられないのが開拓者の性分か。
「‥‥。大味な上に強烈に塩辛くてエグい。ヒトには向かない」
 からすは顔中に皺を作って無理矢理飲み込むも、その後茶をがぶ飲みする。
 好奇心では負けてない藍玉も一口齧るが、恐ろしく妙な顔をした辺り、ミヅチの口にも合わぬと見た。
「お腹が空きました。おいしいいかめしが、食べたい、のです」
 イカはあるけど、米を詰めても到底食えぬ。恨めしそうにサニーレインは討伐したケモノをじっくり見つめる。
「思っていたよりやられたな。まぁ、俺らにも責任があるし、片付けくらいなら手伝えるな」
 陸に戻った哲心は港を見る。
 沖に出て戦うも、起こす波にやられたか、港では幾つかの漁船に傷が見えた。修復は容易い程度。漁に出るに支障ないと、漁師たちは喜びを口にする。
 イカから打たれた傷も、とりあえず乃木亜に癒してもらい、動くに問題なし。
「ありがとうございます。漁に出れず、たいしたものはありませんが、よろしかったらどうぞ」
「だそうです。よかったですね」
 お礼に海の幸を料理してくる漁師たちに、和奏は毛並みを整えていた漣李に話しかける。
 今回の功労者は開拓者たちだけではない。その相棒たちもだ。
「熱いですからね。気をつけて食べて下さい」
 美味しそうな匂いにねだる藍玉に、海鮮焼きを乃木亜は取り分ける。
「仕事後の一杯に美味いつまみ。最高だねぇ!」
 皆に茶を用意すると、からすはジライヤ召喚。峨嶺も上機嫌で、酒を片手に貝や魚に舌を伸ばす。
 開拓者たちが舌鼓を打つ間にも、漁師たちは祭りに出す新しい海鮮を求め、準備が整った者から次々勢いよく出港していた。