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■オープニング本文 「五尺五寸」 「無い。五尺」 「んな訳無いだろう!? せめて五尺三寸!」 「あーうるさい。四尺七寸。うん、これだな」 「ちーぢーんーでーるっ!! 冗談じゃねぇ!」 登録用の背丈を測ったはいいが。結果に納得行かない。ギルドの係員相手に、じたばたと悶える酒天童子。 「酒天殿! 大変です!! 議場が襲われました!!」 「何!?」 血の気の失せた形相で飛び込んできた伝令に、酒天ははっと顔を上げて係員を離す。 「朝廷側の護衛が赴いた修羅の首を跳ね、逃亡。ですが‥‥、その近辺にて修羅の少女が妙なものを見たと訴えて来ております」 「分かった。直接話を聞きたい。案内しろ」 表情険しく即座に駆け出す酒天に、伝達係も頷き先導する。 「おい、登録は!?」 「勝手にやっとけ!」 解放された係員は、厄介なことになったと顔を顰めつつ、次に供えて登録作業をさっさと片付ける。 ●襲撃 陽州では決め事に各氏族の代表者たちによる合議制を取る。 修羅の王は今だ「酒天童子」であり、自分たちは臣である為だ。けれども、天儀に封じられた王を、陽州に封じられた修羅が助けに行ける筈無く。所詮建前に過ぎない。 「和議と見せ掛け、殺害するとは‥‥。やはり朝廷は今も昔も変わらぬか」 訃報は、陽州にも迅速に届いた。 すなわち、『和議に赴いた修羅が、朝廷の護衛に殺害された』と。 届いた時、陽州はまさに蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 元々、王を封じ自分たちも隔離した朝廷によい感情など無い。それ見たことか、朝廷など所詮信じるに値せぬ、と、更なる続報を待つより早く噂が飛び交い、朝廷が攻めてきたとまで尾鰭が付く。 事態を収拾すべく、氏族代表の一人が話し合おうと召集を呼びかけたのだが、来たのはわずかに三名。 「わしのところでもそうだが。民が動揺しておる。暴走せぬよう宥めるのに手を離せぬか」 「あるいは。自身が先走り、戦支度を始めているのやも」 「やらかしそうなのが来ておりませぬなぁ」 開いた席に視線を送って、やれやれと息をつく代表者たち。 陽が落ち、夜の闇が迫ってきた。侍女たちが建物のあちこちに明かりを灯す――黒々とした影もまた生み出されていく。 「とかく、他氏族へ今一度使いを送り、先走りしそうな輩には仔細を待つよう諭して‥‥」 こうも人が少なくては話し合いも叶わない。頭を抱えながら、今出来る策を纏めようとしたが。 「なんぞ外が騒がしいな」 代表者が来たなら、顔も分かっているので騒ぎになる筈無い。 別の誰かなら、表で待たせる。なのに、騒ぎは静まるどころか、どんどん近付いてきている。 「邪魔するぜ」 会議室の扉を破るように開け、入って来たのは子供に見えた。が、今回の和議に供えての予備交渉で、何度も顔を合わせ、見慣れた顔。 「酒天様!? そ、そちらの方々は?」 その後ろには明らかに修羅でない者たちが控えている。 「開拓者たちだ。厄介な事になっているんで、ついてきてもらった」 代表者たちを前に各々で礼を取る開拓者たちだが、そちらには構わず、酒天は議場を見渡す。 「数が少ないな。ここで氏族代表者たちが集まって、襲撃事件について話し合うっつって聞いたんだが」 「その襲撃の噂が民にも広まり、騒いでおります。そちらを宥めるのに手を焼いているのかと」 大きな卓に、見合った椅子の数。されど、三人だけのがらんどうな場。 代表者たちも申し訳なさそうに現状を伝える。 「元々遺恨を抱えていた所にこの所業だ。それはしょうがねぇが‥‥この件、裏がある」 「と言いますと?」 「アヤカシが動いている」 酒天から切り出された言葉に、代表者たちははっと息を飲んだ。 「修羅の嬢ちゃんが目撃している。どうやら憑かれた奴が今回の騒ぎを引き起こしたようだ」 酒天は深々と嘆息する。 「天儀には俺を目の敵にしているアヤカシもいる。そいつの仕業かは知らんが、朝廷と修羅が手を組むのは奴らにとっちゃおもしろくは無いだろ」 かつて天儀にもいた種族だ。その頃から今も活動しているアヤカシはいる。天儀が他の儀と交流するのは未知数であり見逃しても、修羅と手を組むのははっきり不利益でしかない。 「とにかく先走るな。目撃者も保護してるし、必要なら話をさせる。今迂闊に動くのはアヤカシの術中に嵌まると思え」 表情険しく代表者たちは頷くと、他の氏族にも伝えるべく瞬く間に手配する。 アヤカシが動いてるとあり、伝令役にも開拓者たちを付ける。修羅といえど全員が戦闘に長けた訳でなく、アヤカシ相手なら恐らく開拓者の方が経験はある。 また話で聞くよりも、天儀の人間というのを直接見て分かれ、という、何とも酒天らしい荒っぽい考えだった。 「これで粗方手配は終わったか?」 考えうる手を打ち、さすがに疲れたか代表者が茶を持ってくるよう告げる。 すぐに侍女が茶を運んできたのだが。 「いや、まだだ」 険しい顔で酒天が持っていた杖を投げつける。侍女の床に伸びていた影に刺さるや、その影が大きく伸び上がり、二つに裂ける。 「きゃああああ!!」 腰を抜かして気絶した侍女を、連れてきた代表者が慌てて引っ張り背後に庇う。 その間にも、裂けた影は人をはるかに凌駕する肉体となり、見下ろす鬼となる。 鬼。 修羅ではない――アヤカシだ。 「関与決定だな」 どこか楽しげに酒天が笑い、構える。 「天儀の開拓者に酒天童子。丁度いい。今ここで事が起きれば、お前たちの仕業と皆思うだろうな」 「世迷い事を!!」 代表者の一人が手裏剣を取り出す。風を切って投げつけられるが、鬼はそれを躱すと、するりと影に入った。 「くっ!」 その入った影に再び手裏剣が投げられるも手ごたえが無い。移動したらしい。灯明の生み出す光により、そこかしこに影が存在していた。 「なるほど。代表であるわしらが倒れ、罪を開拓者に擦り付ければますます話はこじれましょうな」 「頭がいい。雑魚ではない。どうも天儀はこの五百年で恐ろしい事態になっているようですなぁ」 苦々しく代表者たちも顔を歪める。 そこに外からも悲鳴が届く。同時に激しい物音。それも複数の方向から。 ちっ、と酒天が舌を鳴らす。 「他にもいやがるか! どうする!?」 珍しく、焦った表情で酒天が開拓者たちに問いかける。 影鬼が討てるならそれが一番。だが、影に潜む相手は厄介。身のこなしからして、並の手合いではない。 ある程度持ちこたえたら、周辺に伝達に走った供が報告に戻ってくると考えられる。あるいは議場を抜け、街に出て他の修羅に手を求めるか。 数は分からないが、奇襲をとってきた以上少人数と思われる。大勢の修羅で囲めば勝機も出るし、その気配が濃厚になれば逃げるだけの知恵もあるとみた。 ただし、修羅側にも被害は大きくなる。 少なくとも、代表者たちは守らねばならない。彼らは大事な生き証人なのだから。 |
■参加者一覧
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ルー(ib4431)
19歳・女・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 巨大な建物は、会議をするにはうってつけの施設。取り巻く広大な庭と並ぶ防風林が周囲の騒音も隔て、静かな環境を作り上げている。 その中であちこちから修羅たちの悲鳴が聞こえる。叫びや戦闘の音も外にどれだけ聞こえるのやら。 耳にすれども助けに行く余裕も無い。 建物内の広い大会議室にて、開拓者たちもまた窮地に立たされている。 そこかしこにわだかまる影。そのいずれかに潜み、襲撃してきたアヤカシ。守るべき修羅の重鎮たちは、対抗する戦力として数えるには少々力不足であった。 こちらの事態も知らせる為、ライ・ネック(ib5781)は武天の呼子笛を吹き鳴らし、菊池 志郎(ia5584)は声を張り上げている。 「影に入り込むアヤカシが襲来しています! こちらはこちらで対処しますので、どうか、持ちこたえて下さい!!」 館内に響く声に応じる声は無く。聞こえているのか、返事をする余裕が無いだけなのか。 「狼煙銃を使って、外に知らせては?」 銃に手をかけかけたライだったが、志郎はきっちり窓を閉ざしていく。 「発する光で影も増えてしまいます。奴らの動きを増長させかねません」 外は夜。暗い闇が広がるものの、その闇を補うべく焚かれた篝火や、浮かぶ月の光すら影を作ろうとする。影鬼が潜むには十分だ。 「きやがれ、阿呆が!」 八十神 蔵人(ia1422)が咆哮を上げる。 不気味な能力を持てども、鬼は鬼。体力自慢で精神力に欠ける者が多い。影鬼もその例には漏れないのか、声に誘われ、影から躍り出てくる。 蔵人が持たれる壁、かかる影から生える野太い腕。 「んなぁっ!」 振るわれる鋭い爪から逃れると、浮かぶように影鬼の本体も現れ出てくる。影は巨大なその姿がそのまま入りきれる大きさでは無い。影に潜めば、隙間にも入り込めるようだ。 「羨ましい能力ねぇ。頭が良くて雑魚でも無いけど、所詮は中級なんでしょ? こいつらを操ってるのがいるわねぇ」 そんなに修羅と人をくっつけたくないのかと、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は苦々しく思う。 明らかに影鬼は代表者たちを狙ってきた。ついでに酒天童子と護衛に開拓者たちがいたのは幸か不幸か。 いかに影鬼がそれなりのアヤカシといえども、荷が重過ぎる。さらに上の誰かがいると考えた方がいい。 それが一体誰なのか。ここに同じく来ているのか。気にはなるものの、探す暇は無い。 今やるべきは、ここにいる修羅の代表者たち三名と酒天童子を守る事。 身構えるリーゼロッテだが、それに待ったをかけるのは蔵人だった。 「構わんでええ! それよりとっとと松明持って全員、壁際に走れ! 壁にぴったり背をつけて松明持ってりゃ背後は取られへん! そこの姉ちゃんも忘れんな!」 着込んだ大鎧「双頭龍」で攻撃を防ぎながら、影鬼を自身に止める。技の名は防盾術であっても、何も盾だけに頼るものでない。 咆哮で出てきた影鬼は一体のみ。抵抗して潜み続けているのがいるのかもしれないが、調べようが無い。部屋の外、襲撃している奴もいる。一体何体いるのか。外の奴らが終えてこちらに合流してくれれば、ますます苦しくなる。 いたらまたそれはその時として、急いで開拓者たちは守りの体制に入る。 ルー(ib4431)は、会議室に付けられた明かりを消して回り、他の面々も影を作りそうな代物を急いで片付けていく。 「光源はなるべく少なく。影を増やすだけ、向こうに有利にしてしまうもの」 火を使って明るくしているので、下手に倒すと火事にもなる。燃える炎と影からの攻撃は勘弁願いたい。 「ようやく修羅の国と道が繋がって、これからという時。こんな事で駄目になんて出来ない!」 雪刃(ib5814)は鬼腕を発動させると、邪魔な物を蹴っ飛ばして一箇所に集める。荒っぽいが、上品に気を使ってる余裕は無い。 「あわわ。もっと丁寧に扱ってくれんか」 「非常事態なので、多少のお行儀の悪さは許して下さい」 会議室なので、余計な物は無い。が、代表者たちが集う卓に椅子だけでも、大きな影を作るに十分な遮蔽物。 代表者は慌てているが、それにはすみませんと片付けを手伝う和奏(ia8807)が頭を下げる。 「幾ら頑丈な修羅って言っても、戦いなれてないでしょ? ここは私たちに任せておきなさい。‥‥それと、酒天! あんたは巫女の癖に前に出ようとしない!! それより治癒手伝いなさいよ。出来るでしょ!?」 「んな、かったるいもん知るか!」 「うわっ、使えないわねぇ」 杖から刀に持ち替えて、影鬼に走ろうとする酒天をリーゼロッテは叱咤する。 「王将は、重厚に構えるものではありませんか?」 「じっとしてるのは性に合わん」 ジークリンデ(ib0258)が諌めるも、酒天に退く気は無い様子。 「阿呆か! 血に酔うて暴れるなボケが! お前が死んだら、もっと大勢の修羅も人も死ぬんじゃ! 王の癖に部下や民草見捨てる気か、ちゃんと考えんかい!」 「うっせぇ! 五百年の間、しっかり地に足付けてきた連中をなめんなよ! 俺が欠けたぐらいでどうこうなる奴らじゃねぇ!」 売り言葉に買い言葉もいいところ。 影鬼の動きを捌く蔵人も酒天を制すが、こちらも黙ってなどいない。 双方、相手を悪くは思っていない。口は悪くとも、嫌悪はそこに含まれてはいない。 「王にまぁなんと暴言を‥‥」 「大丈夫。割と普通のやり取りです」 代表者たちの方が庇われながらも唖然としている。彼らにしてみればありえぬ光景だ。光源を調節しながら、和奏は端的な説明を入れる。 「これで最後ね」 ルーが行灯を消すと、部屋が一気に暗くなった。 それで正気づいたか、はっと影鬼も周囲を見る。粗方の遮蔽物は無理矢理片付けられ、より広くなった空間に出来る影は限られている。 「小賢しいなぁ!!」 にたりと笑うと、影鬼が突如閃光を発した。 ● 「何だ!?」 強い閃光に、蔵人が目を庇いつつ片鎌槍「北狄」を構え攻撃に備える。が、影鬼は出来た影に素早く潜り込んでしまう。眼晦ましだけでなく、そういう使い方をするらしい。 「どっちが小賢しいのよ!?」 ライが暗視で影を見、超越聴覚で音を聴く。だが、影に潜んだ影鬼の行方は知れない。 「代表者さん方、声を振り絞らせて、近くにいる奴、この部屋に呼び込んで一緒に固まらせぇ。来れない様ならここと同じように灯りを持って壁を背にして戦えと指示してくれんか」 蔵人の頼みに、ジークリンデが待ったを告げる。 「救援に来る味方の影に隠れて入り込む可能性もありますわ」 「そやな。とにかく影の中に突っ込むなよ、持久戦は覚悟の上や!」 蔵人も明かりの傍に移動する。 光を背にして、影を前にするように代表者たちを集めている。そうすれば、影鬼に潜まれようとも前だけ集中して背後を取られる心配も少ない。 「襲ってきていただいた方が分かりやすいですね」 和奏は代表者たちに一歩で迫れる距離に位置取り、気の流れに集中する。虚心では隠れている影鬼までは探しきれないが、攻撃に転ずる殺気を逃さねば対処は出来る。 「隠れようとも、あぶりだしますわ!」 ジークリンデがトルネード・キリクを仕掛ける。周辺を除く範囲の外側が纏めて真空の刃を孕んだ竜巻に吹き飛ばされていく。 「がはっ!!」 巻き込まれた影から影鬼が飛び出てくる。 ライの影が伸びる。 逃げようとする影鬼を捕らえようと影縛りを仕掛けるも、それもまた影。してやったりと影鬼が入り込む。 「しまった!」 ライの影からさらに重なりあう影へ。侵入した影鬼は、代表者の一人の伸びる影から飛び上がる。 と同時に、窓が割られ、新たに二体の影鬼が外から入ってきた。とすると、外の様子はどうなったのか。確かめようにも今はその暇も無い。 間近に迫った影鬼の固められた拳は岩のようで、殴られれば修羅といえど無傷ではすまない。 唸りを上げる影鬼の腕が、しかし、血に塗れた。いかに奇襲を狙おうと、それを警戒されては意味が無い。 素早く和奏の刀「鬼神丸」と、ルーのロングソード「クリスタルマスター」が抜かれる。 秋水に居合い。素早い刃の動きは確実に鬼を捕らえていた。 「ちっ!」 忌々しげに影鬼が退こうとする。 だが、そこにさらに志郎が迫る。夜で止めた時の内に瞬脚で走りこんでいた。 他の誰の目にも、まさに一瞬で間合いを詰めたように見えた。影鬼が反応しきれない内に、秋水で忍者刀「風魔」を閃かせていた。 「トルネード・キリクがいけるなら、こっちも!!」 リーゼロッテの掲げたアゾットの先から吹雪が吹き荒れ、乱入した影鬼たちが迫るのを阻む。 一体が無理矢理にも走りこんでこようとしたが、その途中、またあらたな吹雪がそいつに襲い掛かった。 ジークリンデの仕込んでいたフロストマインに嵌まったのだ。 「位置的に見て、先ほどの影鬼もフロストマインを通過した筈。影に潜んでますと、罠にもかからないという訳ですのね」 先に襲い掛かっていた影鬼に目を向け、ジークリンデはその柳眉を歪める。 ただ、影に潜んでも攻撃すれば追い出せる。広範囲魔法でいそうな影を手当たり次第に攻撃すれば、隠れた所ですぐに出て来ざるをえない。 潜んでも利が無いと考えたか。影鬼も影に頼らず、力押しに責めてくる。影を限定する為に固まっている分、攻撃も狙いやすい。 鋭い爪が唸りを上げる。下手に躱せば、庇う代表者たちが無防備にさらされてしまうので、蔵人は鎧で受け止める。阻まれて動きを止めた影鬼へは、ライが忍刀「暁」で切りかかる。 注意を代表から逸らすべく、わずか離れた位置から雪刃が咆哮を上げる。途端に標的は雪刃に移るが、影鬼三体の猛攻にさらされてはさすがに分が悪すぎる。 「うぐっ!!」 神経研ぎ澄ませ、大太刀「殲滅夜叉」で襲い掛かるも、隼襲は防御を疎かにする。一体に切りつけた腕を、別の一体が捕らえられる。振り払おうとするより早く、獰猛な牙が深々と食い込んできた。 「離れなさい!!」 すかさず宝珠銃「皇帝」を発砲する。響く轟音に、代表者たちが驚いて耳を塞ぐ。 「酒天も、天儀の今の人たちも、私達開拓者も。この和議の為に必死で戦ってきた。今更ここで邪魔をされる訳にはいかない! 好きになんてさせない!!」 素早く再装填すると、抜け目無く構える。強い意志で影鬼を睨むルー。 そんな彼女を――いや、守ってくれる開拓者たちを神妙な面持ちで代表者たちは見つめている。 「降りかかる火の粉は払うまで!!」 ジークリンデから伸びたアークブラストに影鬼を射抜く。たまらず一体が崩れ落ちて瘴気と化した。 「うるあああああ!!」 一体が閃光を放ち、別の一体が脇にやった物を投げつける。 無理矢理に影を作って、そこから潜む気か。 「影が繋がっていないと、移動は出来ないのですね」 代表たちの傍で構えたまま、和奏はじっくりと影鬼を観察している。 散らかした遮蔽物に、雪刃は銀の耳を不快そうにぴくりと動かす。伸びる影を阻むべく、雪刃は鬼腕で遮蔽物を殴り飛ばす。何度散らかされようと片付けるまで。 その影から飛び出る影鬼へは志郎は夜で走り、蔵人も防御だけでなく槍で攻撃も入れる。 「目的は、敵を倒す事じゃなく凌ぐ事」 「いずれ外とも呼応できる、と思いたいけど‥‥」 油断無く構える雪刃に、ルーは少し悔しそうに、けれど代表者たちを守るべく陣取る。 離れれば銃を撃ち、トルネード・キリクやブリザーストームで纏めて攻撃。近寄っても守りの刃で代表者たちには近寄らせない。 中級だけあって簡単にはいかないが、確実にその力を殺いでいく。 一方で、リーゼロッテは閃癒で味方の傷を癒す。練力が足りなくなれば、瘴気回収。治療に務める。 ● 三体の影鬼を瘴気に返し、部屋は静まり返った。 咆哮を上げるが反応はなし。それでも油断はならず、代表者たちへの守備を崩さない開拓者たち。 志郎が警戒しつつも、窓を塞ぎ明かりを消す。影が全く無くなれば、影に潜めない。 だが、荒れた部屋で一切の光を失くすのも難しい。 「影鬼がいないのなら、館内の修羅を助けに行きたいところですが」 注意深く明かりを消すと、なんとなく人影が浮かび上がる。 視界が悪い状況で襲撃されないのは、影鬼含めて敵がいないと判断してもいいが‥‥。 「外の声、聞こえませんし。心配ですね」 耳を済ませていたライが声を上げる。その顔がはっと上がった。 「誰か来ました‥‥。こちらの応援です!」 襲撃されている様子は無いという。 緊張しながら、こちらからも状況を告げ、影鬼の襲来とその対処を叫ぶ。 だが、あの三体で終わりなのか、他は逃げたのか。それ以上の戦闘は起こらなかった。 「御無事で何よりです」 伝令に出ていた開拓者と共に、修羅の集団が代表者たちと酒天に礼を取る。 改めて捜索に出ると、会議所についていた警備たちは、残念ながらほとんどが殺られていた。 「もう少しでわしらも同じ目に合わされていたか」 会議所が朝廷に襲われているという、妙な話も出ていた。信用ある代表者たちがいなければ、死人に口無し。その妙な話が真実味を帯びて信じられていたかもしれない。 「そういう事だ。悪いが休んでる暇はねぇ。とっとと真相を伝えに回るぞ」 酒天の指示に、代表者たちも強く頷く。 アヤカシの生み出した策略。それに嵌まらぬよう、陽州もまた動き出していた。 |