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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 空に咲く炎――花火。 花が華麗なのか、火が美しいのか、その轟音が素晴らしいのか。 問いかけると全部と答えるかもしれない。とにかく魅せられた鬼火玉が一人、ひーちゃん。 花火に魅かれ、花火になろうと日夜特訓を重ね、ついには危険を顧みず己を鍛えようとする始末。 見かねた主人の多摩が開拓者ギルドに依頼。集った開拓者たちが指導する中、ひーちゃんは頑張って技の完成に勤しんだ。 開拓者たちと別れてからも、ひーちゃんはひたすら、ひたすら夜空に上がる華にならんと特訓を積み重ね、 そして、 「なんとかそれっぽいことが出来るようになりました」 これも皆様のおかげです、と開拓者ギルドに現れた女性は頭を下げる。 鬼火玉の主人であり、依頼人であった多摩。危険な特訓も回避し、鬼火玉がその願いを叶えた事を報告に来た……にしては、表情が浮かない。 「空に飛び上がって、空中で炎を散らす。ええ、それは何とか出来るようになりました。けれど、ひーちゃん、まだ不満みたいでして」 ふぅ、と多摩がため息をつく。 「というと?」 ギルドの係員が先を促す。 飛び上がり、火を散らす。それだけでもたいしたものだ。 「どうも……、美しくないみたいで……」 「……。」 飛んで火を散らすのは形になってきた。まだまだ不安定な所もあるが、 しかし、ある時よりひーちゃんは水辺や鏡に自分を映しては落ち込むようになった。意味無く燃えてみたり、炎の色も色々変えたりといろいろ試しているが、何か違うらしい。 言葉は無いひーちゃんと、一生懸命多摩も語り合ってみる。探ってみる。結果、どうやらそういう事らしい。 もっと激しく、もっと美しく! あの夜空に散る花火のようにどんと華麗に綺麗に勇ましく!! 「やはり……、自爆したいと?」 「いえそうではなく、……ようするに業火球をもっと派手に散らせるような感じのことをしたいみたいです」 で、もっともっと火を高めるには己を鍛えて威力を上げる必要アリ、と考えたらしい。気付けば、またもやそこらのケモノやアヤカシを見つけに武者修行に出かけかねないひーちゃんに、多摩が頭を抱える。 「なので、すみません。ひーちゃんがもっと綺麗に燃え上がれるよう、美しい技の出し方を特訓してくれませんか?」 綺麗にはじける花火のように。 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
にとろ(ib7839)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 上がる魂。燃える火の玉。 華麗なる夜空の華を目指し、今、鬼火玉の挑戦が始まる!! 技の完成は勿論のこと、見た目の芸術性すら求めようとする貪欲なまでのチャレンジ精神に、心打たれた開拓者もまた少なくない。 「力強さだけではなく、美しさも兼ね備えた爆発を、か……。やっぱりひーちゃん分かってるな!」 独特の感性に身を包み、喪越(ia1670)は燃える火の玉を褒め称える。 「うん、こだわり! そう、こだわりこそ全ての原点!! あくなき探究心を持つのは悪くねェぜ! と、いう事でこの土偶を見てくれ、コイツをどう思う?」 「すごく……美少女です……。きゃ〜、ミーア言っちゃたですう☆」 村雨 紫狼(ia9073)も、熱く頷き隣の少女を紹介する。 ドリルを持つ手を振り回し、照れてるミーアをじっと見つめる鬼火玉。 ミーアは紫狼の土偶ゴーレムである。ただし、燃えならぬ萌えに萌えまくったその外見はほとんど人間そのもの。飽くなき探究心が生み出した至高の一品である。 それは、今のひーちゃんの思いに似ているかもしれない。単なる姿じゃ物足りない、極めてこそ華なのだと……。 「つーかオメーはイッちまってるってーの! こだわれば、ウチのミーアみてーなオンリーワン相棒になれるZE! ともかくガンバろーぜ。何とか玉、ってーか何か蹴りやすそうだなお前」 「……蹴らないで下さいね?」 「マスターはツッコミも大丈夫なのです!」 軽く笑って球『友だち』を巧みに蹴ってる紫狼に、依頼人の多摩が心配そうに声をかけ、ミーアは元気いっぱいに力説する。 「ひーちゃんよ、汝の夜空に大輪の花を咲かせんとする心意気、妾は実に感服した。汝の目標の為、微力ながら力を尽くすぞ」 力強く激励するリンスガルト・ギーベリ(ib5184)に、ひーちゃんもめらめらと闘志を燃やす。 ● 「とはいえ、もっと綺麗に花火っぽくにゃんすかー。……難しいにゃんすねぇ。ひとまず、今の完成具合を見せて欲しいにゃんす」 どこか眠そうに目を瞬かせながら、にとろ(ib7839)がひーちゃんに技を促す。 ひーちゃんは一つ頷くと、準備にかかる。 周囲が見つめる中、緊張しながらもひーちゃんが気合いを溜める。 おもむろに地面を蹴って天高く上がった。 落ちるかどうかの最高点に合わせて体を回転させると、纏った火花が飛び散り、周囲に広がる。 「ほぉ。前回はまだまだだったが、少しは形にしてきたか」 瀧鷲 漸(ia8176)が感心する。 飛んでも技が出せなかったり、飛距離が短くなったり。おおよそ完成には遠かった。 もちろん、まだまだ未熟な点は多々ある。しかし、それでも一応こなせる程度には出来るようになっている。それにはどれだけの特訓が必要だったか。ひーちゃんの思いが伝わってくる。 「それで、ひーちゃんは美しさが欲しいにゃんすね。けど、美しさにもいろいろあるにゃんす。より具体的にぃ、何が足りたいないのかをぉ、教えて欲しいにゃんす。……今見た技でぇ感じた事ですがぁ、もしかしてぇ花火自体がぁ小さいって事にゃんすかねぇ?」 じっとひーちゃんを見つめて、にとろが問い質す。 ひーちゃんも真面目ににとろに向き合い、頷いたり、違うと体を捻ってみたり、回転してみたり。 言葉の無いケモノとの意思疎通は大変だが、それを情熱でカバーしようとしている。その熱い思いを受け止めにとろの鬼火玉・ストラディバリウスや漸の鬼火玉・焔那も一緒になって必死に訴え出す。 「つまり……全般的に物足りない、のじゃな?」 リンスガルトが尋ね返すと、三体揃って期待を込めた目を返してくる。 なかなか欲張りな鬼火玉だ。 「これは茶碗風呂の出番なのですね、マスター」 「ああ。そのこだわりは分かるぜ。今んとこは飛跳躍に業火球追加は成功してるワケだ。開拓者との合体技がアリなら前みたいな道具を用意しなくてもまあまあは飛べるんだがな。……確か、たまゴローの相棒の開拓者って浮気で蒸発……」 「しいいい!! その話は聞かれると大変なんです!!」 多摩が慌てて口を塞ぎに来、縮み上がるひーちゃんと一緒に周囲を見渡している。……家庭問題は複雑なようだ。 「で、まず問題は炎の出具合つーか、美しさからか??」 悩む紫狼に、ミーアもとりあえず悩む。 「よぉ、アミーゴ。その問題はどんなもんだい、俺に任せろってなもんだい」 ふらふらと歩み寄り、じゃじゃんと振り上げた喪越の手には立派な化粧道具一式が。 「自分の容姿に自信が無いってんなら、取り敢えずメイクアップから始めてみるか。外見を整えれば、俺様の超カッコイ(ryには及ばずとも、超カッコイイ鬼火玉にはなれるぜ!」 自身の派手な滑空艇を叩くと、おもむろに化粧筆を装備。 「チークとシャドウで顔の輪郭を整えて、眉毛は今風にほっそりと。付け睫毛をつけて、仕上げは真っ赤なルージュこう引いて……――ぶはははは!」 「ま、真面目にやって下さい! ひーちゃんは必死なんですから!!」 しかし、そういう多摩も笑っている。 しっかり化粧を整え眉毛ばっちしの鬼火玉は、巨大な厚化粧だけ浮かんでいるようだ。 「うぷぷぷ。……まぁ、笑ってる場合じゃないな。話を戻せば、簡単にできる事だとそれこそアクセサリーの範囲になるんかなぁ? 光を反射するような物を身に纏えば、爆発した瞬間キラキラしてひーちゃんの追い求めるものに近くなるかもしれねぇ。その辺はひーちゃんの反応を見ながら微調整していくしかねぇけど」 ちらりと喪越はひーちゃんを見つめる。 「もふ珍獣みてーな追加スキル前提なら、特殊な道具類はダメだろ。基本、錬力消費のみでやらなきゃ意味がねーしな」 案外化粧が気にいったらしいひーちゃんは、自分の姿を水に映して眺めている。 紫狼が声かけると、微妙に炎を揺らしている。 花火となるとまた思いは違うよう。業火球にするほど火を出せば鬼火玉の姿も隠れる上、激しい回転に化粧がどれだけ持つか。 「そうなんだいっと。ひーちゃんは、自力で全てをこなす事にこだわりがあるみてぇだからな。今回も基本は地道な訓練あるのみか」 喪越が告げると、うんうんと大きく頷き炎を燃やす。 ● 「炎の色をある程度コントロールできたりするんなら、そこを自由自在にできるよう特訓するのが近道? ひーちゃんの行動と炎の色の関係性を見つければ特訓を助けてやれるかも」 見つめる喪越の前で、ひーちゃんは明るくなったり暗くなったりと上がる炎を微妙に変える。 「んー。ここは地道に上空にぃ大輪の花をぉ咲かせるためにはぁ、業火球の練習をぉするのはどうにゃんしょ?」 色を変えてもしょぼいものはしょぼい。 先の火花を、にとろは思い出す。 飛んで、火が散るだけ。花火に見えるといえば見えるが、何か違う。 「業火球は必須だが……、それだけではちと見栄えがな」 どっかりとあぐらを掻いて座り込み、漸は考え出す。鬼火玉の焔那にも意見を問うてみるが、体を振るわせるだけ。業火球もまだの身では、いささか難しいか。 「考えたのじゃが……突進系のスキルを極短い距離で停止し、その瞬間に業火球、また突進を繰り返して大空に円や三角等の図形を描きつつ炎を撒いていけぬであろうか?」 リンスガルトが告げるが、これにひーちゃんは難色を示す。 確かに、飛びながらさらに移動を繰り返すのはさらに難易度が高い。だがそれ以上に……。 「そうか、おぬしはあくまで上を目指すか……」 うるうると涙目の訴えを悟り、リンスガルトは肩らしい辺りをぽんと叩いて宥める。 「基本は変えず、ほら何とか玉のスキルに分身する奴あるだろ?」 「影分裂ね」 シーラ・シャトールノー(ib5285)が指摘する。 「あ、そういうのか? 何でもいいか。大ジャンプから真っ赤に燃えて回転する前に分身すんだよ! で、分身体が同時に炎を上げながら大回転! 名付けて、必殺・大回転紅蓮弾……!!」 ポーズをつけながら、ついでに回ってみる。 「あと、回転も漫然と回るんじゃなくて激しくキレある動きを心掛けろ!」 「そうです! このミーアの魂、ドリルの様にスパーキングに大回転するのです!! いつもよりも多く回しております!!」 迫る紫狼に、ミーアもドリルをぎゅるぎゅる回して後押しする。 とりあえずはやってみようと、ひーちゃんは動き出す。 飛跳躍で飛び上がり、さらに影分裂。 「お!」 上空でひーちゃんが二つに割れる。そのまま双方回転! 火を撒き散らす。 が……。 「何か、しょぼさが増したのですぅ」 ドリル回転が緩やかに。ミーアのアホ毛もへちゃりと垂れるぐらいのがっかりさ。 飛び上がって次の技、までは前回の特訓の感覚でどうにかできた。が、そこからさらに別の技をとなるとまだ手をこまねくようで、撒き散らす炎はお粗末過ぎる。 「ぐだぐだ感は前以上ね。でも、当然二つより三つの方が難易度も上がるけど、ひーちゃんなら頑張れるかしら?」 挑む目をシーラは向けると、当然とばかりに鬼火玉はきりっとした目を向ける。 「まずは地上で特訓といこう。……ほれ、汝の業火球はこのように如雨露で水を撒くように、炎を撒き散らすスキルじゃな」 ぐるぐると自身が回転しながら、リンスガルトが実演。如雨露に入った水が円状に周囲に散る。 回転をやめると、如雨露から両手それぞれに魔槍「ゲイ・ボー」へと持ち替え、危ないから少し下がれと皆に指示。 「これをじゃな。この様に、火球スキルの連射に変えられぬか?」 同じく回転しながら、魔槍を放つ。狙い定めぬ武器はどこぞに飛び、やがてリンスガルトの手元に戻った。 「無論、従来よりも発射速度を上げ、発射間隔も狭め、消費錬力も少なくしてな。さらに、その火球を撃ちっ放しにするのではなくこの様に爆発させるよう工夫するのじゃ」 焙烙玉に火を付けると、被害の無い場所で爆破させる。 その様を見たひーちゃんは、心新たに気合いを入れている。 ● とはいえ、活性化の都合もある。火球はひとまず横におき、業火球に挑む。 「回転速度をぉ上げてぇ、遠心力でぇ業火球の効果範囲をぉ広げるぅにゃんすー」 応援するにとろに応えて、ひーちゃんが回り出す。他に技を繰り出さねば、なかなかの見応え。しかし、その他に技を出す為にもまだまだ頑張らねばならない。 「ひーちゃん、オーラを覚えてみる?」 シーラの提案に、鬼火玉は大きく首を傾げた風を見せた。 「丹田……まあ、眉間に力を集中させて精神を研ぎ澄ませるの。オーラの力を借りれば、豪火球等をより強くできると思うの」 額を押さえ、オーラを練ってみせるシーラ。 見よう見まねでひーちゃんも試してみるが……まぁ、一朝一夕で出来ては開拓者の立つ瀬も無い。 じっと見て考えていた漸がおもむろに口を開く。 「回転させる時に、回転軸に垂直。車輪でいえば回転してる面の方に集約して炎を飛ばせないか?」 ひーちゃんは少し考えた後、その場で業火球を使う。意図は分かってくれたか、炎は横に飛ぶ。おかげで、開拓者たちが少し危なかったが。 「一方向からの眺めはよくなるかと思ったが、あまり変わらぬような? まぁ、それも特訓次第じゃな。発展型として、縦回転しながら、横にもある程度回転できれば全方向から見えそうなのじゃが……」 果たしてそんな事が可能なのか。悩む漸に、依頼者が遠慮がちに耳打ちする。 「それってつまり……」 「おお、なるほど」 手を打つと、漸はひーちゃんに横回転を頼む。危険なので業火球は無く、回るだけ。 「ふんっ!」 一生懸命、宙に浮いて回転してるひーちゃんに近付くと、漸は下から上へと手をかけ回す。 横から縦から、複雑な回転でひーちゃんが転がっていく。 「なるほど、可能だな。後はこれが自分で出来るようになれば」 思わぬ動きにへろへろになってひーちゃんが帰ってくる。依頼者はがんばれと応援している。 ● 特訓ばかりも大変だと、休憩にシーラはお米を使ったプティングを作る。 「消耗した体力を少しでも補充できるよう多めにどうぞ」 口を開けて美味しそうに食べるひーちゃんたちを、ミーアは羨ましそうに見つめる。 「だが、休んでばかりもおれぬ。兎に角練習あるのみじゃ!」 リンスガルトは滑空艇・Suに、シーラは滑空艇・オランジュに乗り込み、空でひーちゃんを待つ。 火を撒く特訓ばかりも飽きる。それに、三つの技を重ねる特訓は前以上に過酷だ。それでも、ひーちゃんはやり続けた。 「頑張るのじゃ!天儀で最も粋な鬼火玉よ! 花火玉への階段を登るのじゃ!」 Suを停止させてリンスガルトが激励を送れば、シーラもタイミングを見張る。 飛んで分かれて回って。火が弱いと思えば、また重点的に地上で練習。 「貴様の努力とはこの程度か! 回転が疎かになっているぞ!」 漸も発破をかけ、ひーちゃんは回る、回る。 途中時間を貰い、活性化を変えて火球も撃ってみる。しかし、一方向の技を短時間で複数に撃つというのも、また時間がかかりそうな感じだった。 跳ねて分かれて火を撒いて。シーラからオーラもまねて、ひーちゃんは厳しい特訓に励む。 そして、何度目の挑戦か。 ひーちゃんは跳んだ。置かれていた俺様の超カッコイ(ryすら踏み台にして、高く飛びあがり、上空で二つに割れると、それぞれが凄まじい炎の回転を繰り出す!! それは見事な技の連鎖だった。 死に物狂いの高速回転。二つの中心が一つに見える程、激しく燃え上がり周囲に炎の花弁が咲き誇る!! 「おお!!」 おもわず歓声を上げる開拓者たち。 と同時、どかんと音を上げて花弁が散り、鬼火玉も消えた……。 「たまやー、なのですね。マスター」 暢気なミーアの声が空に響く。 「……まぁ、なんだ。分裂した互いが近くで火を振りまいていたら、怪我の一つも負うだろうな」 漸が珍しく困ったように、顔を掻いて目を逸らす。 かといって、分裂同士が安全な距離を保てば、単にしょぼい花火が二つなだけだ。 「やはり自爆か……」 「無茶しやがって……」 喪越と紫狼とミーアが空に向かって敬礼する。焔那とストラディバリウスは敬礼こそしなかったが、哀悼の眼差しを向けている。 「じゃなくて、ひーちゃんはどうなったんですか!?」 「大丈夫にゃ。ほら」 悲鳴を上げる依頼者に、動じずにとろが一方を指差す。その先から、地上から少し浮いてひーちゃんが帰ってきた。心なしか、どこか黒ずんで見える。 「まぁ、偶然でもこれで一度は成功はしたんです。後はこの感覚を忘れず、出来れば危険の無い様に、技を磨いて行けば」 あまりのがんばりに、シーラも未完成を責められない。 依頼者の元に戻ると、さすがにひーちゃんも疲れたか。ぼとんと地に落ちて無造作に転がる。 心配したが、炎の色は戻ってきているので大丈夫であろう。 何よりも、その表情は至極満足そうであった。 |