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■オープニング本文 一人の少女の願いから妖精は姿を現し、一体のもふらの呟きから妖精は開拓者と行動を共にする事にした。 実際は、その裏でも実に様々な出来事があり、いろいろな交流があった。それが長く姿を見せなかった妖精たち全体を動かしたのかもしれない。 ともあれ、羽妖精たちは人前に公然と姿を見せ始めた。 共に、瘴気を――アヤカシを祓う為に……。 そして、開拓者ギルドにて。 「じょーだんじゃないわ! 長らく開拓者の可愛い相棒の座を勤めてきたのはあたしたち人妖よ! あんなぽっと出の新参者がちやほやされる時代なんて、許されないわ!!」 声も高らか、憤りを隠さないのは人妖である。 「もふ、聞き捨てならないもふ! 開拓者の可愛いお供はもふらもふ!」 人妖の言葉に、もふらがきらりと眼を光らせる。 その隣で、ギャアギャア騒ぐのは、炎龍と甲龍と駿龍。開拓者の相棒といえばまずこの三体のいずれかだろうが、何故か影が薄い。気のせいか? 「愛らしさなら、おらたちも負けてねぇべ!」 土偶ゴーレムも手を振り回して叫ぶが、小さな人妖はそれらを一喝する。 「あんたたちみたいな獣臭いのや、奇妙な焼き物がなんぼのもんよ! あたしたちは、人間の美と知恵を集結させて生み出された愛の結晶なの! 立場が違うのよ! それを自然発生のなんだかよく分からないものと同列にしてもらっちゃあ困るってもんよ!!」 美しい人妖に至っては、獲得の為に戦争すら起きたというほど。小さな人形のような相棒は、希少価値の高さと共に人気も高かったが、ついにライバル登場(?)という訳か。 「こうなったら、あたしたち人妖の有能さを世間に知らしめ、羽妖精なんか目じゃないと広めてやるのよ。という訳で、なんかこう有能さを発揮できそうな依頼ってないの!?」 宙にふわふわ浮いたまま、目上から指示する人妖に、係員は苦笑しながら一枚の依頼書を引っ張り出す。 「そうだなぁ。裏山に巣食った猫又をどうにかしてくれっていう依頼があるな」 猫又は野生のケモノ。 近くの村に入り込み、食料を盗んだり畑を荒らしたりニワトリを追い回したり洗濯物を汚したりとやりたい放題なのだとか。 身軽な猫相手に塀を作っても効果は無く、捕まえようにもすばしっこい。頭もいいので罠なども見破ってしまうし、捕まえても暴れられたら手におえない。 話は出来るので、食べるものなら上げるからどうか暴れないでくれと頼んだ所、完全に人を舐めきって、だったら海からマグロを釣って来いとか、シシ肉が食いたい取って来いなど無茶を平然と言い放つ始末。 言った物を用意すれば大人しいが、その用意に手間がかかって村の仕事が疎かになる。かといって、持ってこないと村で悪さをするのでやっぱり村の仕事が出来ない。 困った村人たちは、この猫又をどうにかして欲しいとギルドに頼みに来たのだ。 別に退治する必要は無い。村人との共存方法を考えてもらうか、どこか別の場所に行ってもらっても構わないのだ。 「厄介とはいえ、猫又一匹。お前の御主人といけばすぐにでも……」 「やぁね。それじゃ、あたしの有能さが分からなくなるじゃない。大体、あたしの御主人は今留守してるからいけないわよ。これはあたし一人でやるわよ。他の開拓者たちだって手出しさせないんだから」 人妖が係員の手から依頼書をひったくる。すぐにでも飛び出しそうな彼女に、係員は慌てる。 「待て待て。それじゃ他の開拓者を連れて……」 「あら。この程度の依頼にそんな開拓者をぞろぞろと連れて行く余裕があるの? 大きな事件が起こってるんだもの。人手なんて割けないんじゃない」 ちらりと睨む人妖に、係員は言葉を詰まらせる。 全くその通り。猫又を追い払うぐらいなら、もっと強力なアヤカシを屠ってきて欲しい。 猫又は厄介だが、被害は日常の範疇でもあるのだし、この案件解決は後回しにされていたほどだ。 「あたしとしてもちっちゃな話だって思うけど、あたしだけでアヤカシ相手ってのはさすがにきついわ。解決すると感謝する人間は多いし、ま、これで満足してあげるわよ」 ふん、と胸をそらす。 「この一件、見事解決してやるわよ。そんで、やっぱり羽妖精なんかよりあたしらのがよーっぽどいいって分からせてやるんだから。猫又一匹なんぼのもんだってのよ!」 意気揚々と出て行く人妖。 確かに、相手は猫又一匹だけ。ではあるが、あの態度では一体何がどうなるやら。 けれど、開拓者の手はどうにも借りてくれそうに無い。 「すまんが、何とかあの人妖に同行して、面倒にならないよう丸く解決してきてくれないか」 同行させてもらえる可能性があるとすれば、有能な相棒たちの方か。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
国広 光拿(ia0738)
18歳・男・志
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 羽妖精の登場で、人妖たちは過去の遺物と成り果てる……と思ってる、とある人妖。 自分たち……というより、自分のよさを分からせる為、開拓者ギルドにて立ち上がる。 「手伝ってくれるのは別にいいわよ。……でもね。あんた達と一緒なんて冗談じゃないわ!!」 じろりと人妖が険のある視線を送る。その先にいるのは、問題の(?)羽妖精たち。 「羽妖精よりも有能な所を見せたいなんて、その気持ちは分からなくもないわね。でも、うちにも来て一緒に暮らしてみて分かったけど、あの娘らも普通に面白いわよ? むしろ私達にしか出来ない事もあるんだし」 目くじら立てる人妖に、同じく人妖であるフレイヤが間に入る。外見そっくりな主・プレシア・ベルティーニ(ib3541)はといえば、ギルドの隅で仕事上がりのお稲荷さんを食べている。まだ当分こちらには気付きそうに無い幸せそうな顔だ。 なので、そんな主は放っておいて、さっさと勝手にフレイアは別依頼を受けている。 「彼らにしか出来ない事って何よ」 「え、それは……」 フレイヤの目が泳ぐ。 「嫌いだから連れて行かないなんて心が狭いんだなぁ。いくら有能でも性格が悪かったら誰も欲しがりませんよねー♪」 「何ですってー」 笑顔で挑発するリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)のギンコ。怒りを露わにする人妖に、六条 雪巳(ia0179)の人妖である火ノ佳が割って入る。 「まぁまぁ、わらわ達の方が『せんぱい』なのじゃろう? こちらから敵視してやる必要もあるまいて。どーんと大きく構えておれば、人間もわらわたちの器の大きさに惚れ直すであろう♪ 戦い方の傾向も違うようじゃし、住み分けも出来よう」 「そうそう。私たちも連れて行って、懐の広さってのを見せれば、随分と違うと思いますけどねぇ」 仲裁する火ノ佳に、ギンコはしっかり胸を張る。人妖が怒りに満ちた目で羽妖精を睨むが、火ノ佳の言い分もしっかり分かる。 「それに、比較対象の不香たちが居ないと、本当に羽妖精より役に立つって証明できないと思うですけど?」 「くっ、でも一理あるわ。……着いてきてもいいけど、けっして絶対邪魔しないでね!」 国広 光拿(ia0738)の羽妖精からもそう告げられ、人妖は渋々と受け入れる。 が、それを受け入れられるかはまた別。しっかり、釘を刺してくる。 (ふっ、計算通り) それを殊勝な面持ちで受け入れるギンコだが、陰ではニヤリと笑う。全て予定通り、上手くいったと……。 「羽妖精の方たちも、煽るのは程ほどにね。同行を拒否されたらその方は失敗になっちゃうわよ」 「はいはい」 フレイヤの忠告にも笑って頷くが、どこまで聞いているのやら。 「人妖さんには負けないです!」 そんな人妖たちに、不香は密かに嫉妬の炎を燃やす。実は主である光拿から人妖に手を貸してくれと頼まれてこの依頼を受けたのだが、その言葉の裏にどうやら人妖への憧れのようなものを感じ取った。……乙女の勘は怖い。 「ともあれ、これで決着だね。それじゃ、猫又とOHANASHIに行くよ〜」 元気良く、葛切 カズラ(ia0725)の人妖である初雪がふらりと宙を舞う。 「こちらも準備万端もふ! いざ、出発もふ」 「はぅっ、ふかふかでもふもふです!」 今のままでエルレーン(ib7455)に丹念に入念にブラッシングさせていたもふらのもふもふ。その回あってふわふわに膨らんだ毛並みに不香が目を輝かせる。 「もふぁ〜。話し合いは終わったもふか? この時期は空気が乾燥しているから、喋ると喉が渇くもふ」 ごろごろと転がって寝ていたもふらの八曜丸が、ふわわと欠伸をすると勇ましく進むもふもふの後を追う。 そんな八曜丸を柚乃(ia0638)はそっとギルドの柱の陰から見送る。お使いに出す子を見守る保護者の気分だ。 もふらに羽妖精、人妖たちを引き連れ、意気揚々と進み出した依頼人だが、 「わん」 その後から更に、忍犬の桃(もも)♀が並んでくる。 「ん、何? あんたも来るの?」 「わんわん!」 「じゃあ、いいわ。あたしたちの邪魔にならないよう、ついてきなさい」 「わん」 主の御陰 桜(ib0271)からは桃が頼りになるところを見せてあげなさいと言われている。 依頼人の許可も得て、桃はその言葉を守るように一行に従う。 ● とある村の裏山に勝手に居座った猫又。 「さて、どこにおるのやら。今日は食事の量が多いので運べないからそちらから出てきてくれぬか?」 火ノ佳が方々に向けて声をかける。 地面を嗅ぎまわっていた桃が、ふと一本の木に近付くと、その枝に向かって呼びかけるように吠え出す。 「うにゃ? 誰が来たにゃ?」 眠そうに日が当たる木の上から三毛の猫又がひょいと顔を現す。 冬の風も無く、穏やかな陽がじっくり差し込んでいる。そこで毛干ししていたのか、毛並みはどこかふかふかで。 「うーっ、我慢できないですー!」 じっと見ていた不香が呻く。 「もふもふさせるです!」 「やなこった」 猫又に向けて飛ぶ不香をひらり躱すと、猫又は地面へと降り立った。 「ふーん、今日はマタタビか。いいにゃ、今日一日は自由にうろつくにゃ」 火ノ佳が用意した餌箱に近付き、猫又が中身を改めて顔を近づける。 途端に餌の中から網が飛び出し、猫又を絡め取った。 「にゃ、にゃんにゃー?」 「もふっ! 我輩は、志士のエル何とかの護衛をしてやっている、もふらのもふもふなり! 悪さをする猫又とな……。困った奴もふ、こらしめてやるもふ!」 もふもふが名乗りを上げると、「はぁ?」と猫又が顔を歪ませる。 「悪さなんてしてないにゃ。むしろ勝手にやってきていきなり攻撃するあんたらの方が酷いにゃ」 尖った爪で網を破ると、乱れた毛を毛づくろいする。 「あんたね! 村の人は困ってんのよ。どっかに行きなさいよ!」 「藪から棒に何を言い出すかと思えば……。ここは別に誰のものでもなかったにゃ。ならおいらの物にしてもいいにゃ」 上から目線で言いつける人妖に、ふわっと猫又が欠伸をした。完全に効く気ゼロだ。 その猫又の側に桃が、その口に猫じゃらしを咥えてそっと近寄る。 「村で暴れた挙句に、人に不当な要求をしてるそうじゃない」 人妖が声を張るのを聞きながら、桃が猫じゃらしを振っている。 「村でちょっと遊んでるだけにゃ。それに、おいらは鮪くれたらちょっとぐらい場所を貸してもいいと言っただけにゃ。それを本当に持ってくるのは、あいつらの勝手にゃ」 人妖がどんなに言いつけても、鼻で笑う。もっともそんな人妖の態度も説得してるようには到底見えない。 しかし、猫じゃらしは気になるのか。ちらちらと目が動いている。 「もう! 少しは、こっちのいう事聞きなさい!」 「いきなりやってきてごちゃごちゃ言うのはそっちにゃ。用が無いならさっさと出て行くにゃ」 不機嫌な猫又が爪を立てて威嚇してくる。人妖も負けじと構えを取る。 「お前も、さっきからうるさいのにゃー!!」 牙も剥いて猫又が猫じゃらしに両手でパンチを繰り返す。 遊んでいるのか、怒ってるのか、八つ当たりなのか。……どうもその全部なようだ。 「やっぱり決裂ね。まぁ当然だけど」 ひょいとフレイヤは肩を竦める。 「そういうわけだから、まずはボコボコにして戦意を折る事から初め〜」 初雪が怪しい触手を振り回すと、風斬爪の衝撃波を猫又に向けて放つ。 「にゃにゃにゃ!!」 攻撃されて驚いた猫又だが、身軽にそれらを躱していくが…、 「えいっ!」 小さな足がその顔にめり込んだ。ギンコからのドロップキックだ。 「何するにゃー!」 「そんなに、怒らないで下さい。ね?」 「にゃにゃ?」 毛を逆立てる猫又に、不香が投げキッス。目を白黒させて動きを止めた所に、もふもふが剛鉤爪をつけた前脚で叩く。 「うにゃー、もう怒ったにゃ!」 「そんな怖い顔したら嫌」 猫又が鋭い爪を見せると、今度はギンコが投げキッス。 かかる魅了で言いなりにしたり、抵抗されて逆襲されたり。 猫又は獰猛なケモノだが、この猫又もその通り。数で負けていようと、逃げもせず立ち向かおうとしている。 「八曜丸も、きゃつを座布団にしてよいぞ」 「しょうがないもふね」 「わん」 火ノ佳に焚き付けられ、共に退路に居座っていた桃からは「ここは任せておいて」と言われたように、きりっとした目を向けられ。八曜丸が楽しげに笑う。 「このぉ!」 不香が羽刃を振るう。渾身の一撃を振るう白刃に、薄い刃が光に包まれる。 大きな一撃だが、それでも怪我の無いようにはしたい。その思いで手元もぶれたか、猫又はするりと逃げ、刃は地面を抉ったのみ。 「やるにゃ、羽妖精とやら」 「ちょっと! 何、あたしより目立ってんのよ!!」 面白そうに羽妖精を見つめる猫又と、不機嫌に羽妖精を睨む人妖。 そこに影が刺す。 「もふアタックもふ!!」 助走をつけて高く飛んできた八曜丸を見つけ、慌てて人妖が逃げる。 八曜丸は空中で回転すると、そのまま猫又に向けて落下しながらの体当り。 「うにゃ!??」 唖然と見ていた猫又は、気付いた時には逃げ遅れ、押し潰されていた。 ● 「毛並みが汚れたもふ」 猫又を組み敷いたまま、八曜丸は藤色の毛並みを丹念に整え始めた。 「離すにゃ!」 「はいはい。怪我は治したげたんだからいいじゃない」 勿論、敷かれたままで満足する猫又では無い。フレイヤや初雪が新風恩寵で治すと、すぐに暴れ出す。そんな猫又に跨り、不香も首輪にとりつき押さえ込むのを手伝う。 猫又ともふらに挟まれ、何となく楽しそうにはしている。 少し離れて桃は猫又が逃亡してもいいよう、隙無く事態を見つめている。何かあればすぐに動ける体勢だ。 「少々おいたが過ぎたようじゃの。そも、人間たちが食えて稼げるからそちを養う事ができるのじゃ。人間たちが食えなくなれば、真っ先に切り捨てられよう」 「誰も養えなんぞ言ってないにゃ。おいらの居場所に踏み込んでくるなら手土産は当然にゃ」 火ノ佳が告げるも、ふんと相変わらず猫又は素っ気無い。 「勝手に居座るあんたが悪いんでしょ! あたしたちの強さが分かったなら、ごめんなさいしてさっさとどこかに行きなさい!」 「いきなりやってきて暴れるなんて、礼儀知らずも甚だしいにゃ!」 「あんただって村に入り込んで悪戯三昧じゃない!」 「そこらに落ちているので遊んだりしてるだけにゃー。それが誰の物かなんて知らないにゃー」 相変わらず高飛車に諭す人妖と、聞く気の無い猫又の会話は平行線だ。交わる視線だけが火花を散らす。 「あまりオイタが過ぎると、僕たちよりもヒドイ人達が来るよ。具体的には、猫でも龍でも気にせず手篭めにする触手使いの陰陽師とか」 「そ、それは嫌かもなのにゃ」 腰に手を当てて初雪が諭すと、猫又が引いた。ただ、陰陽師が怖かったのかその性癖が怖かったのかは微妙な顔つきだ。 「行いには、必ず理由があるもふ。本当に単なる悪さもふか?」 八曜丸が金の瞳で、猫又を覗く。 「もしかして……主に捨てられたもふ?」 びくり、と猫又が震えた。他の相棒の体も、その言葉には反応した。 主とのつながりは様々。主従・友人・なんとなく……。だが、それでも相棒である以上、大事な片割れである。多少でも思いいれはある。 「ああ、俺にも昔は主がいたよ」 緊張した面持ちの相棒たちをじっくりと見た後、おもむろに猫又は語り出した。 「いい奴だった。強かったにゃ。だがある日、いきなりいらないと言われていなくなったにゃ。探したにゃ。すると、あいつは別の相棒を連れていたにゃ……」 「そんな……」 絶句する。言葉が紡げない。一体主にそんな態度を取られたら、自分ならどうするだろう。 そんな表情を浮かべる相棒たちを、猫又はまた見回すと、 「なーんて。全部嘘にゃ」 にやりと笑った。途端、初雪の触手が飛んだ。 「お腹すいたもふ。丸飲みしていいもふか?」 「いや、待てすまんにゃ!」 大口開けて八曜丸が猫又に迫る。 さすがにこの状況では、逃げられず。割とマジな顔をしている八曜丸に、慌てて詫びを入れる。 「今後の相談はまだあるです。 一、ご飯は村人から奪わず自分で獲る。悪戯もしない。子供たちが遊びに来ても追い返したりしない。 二、ここ以前に居た場所に帰る。 三、天儀の港で相棒になってくれる人を待つ。 オススメは三番ですけど、全拒否の場合……もう峰打ちとかしませんから」 首根っこを押さえたまま、不香が笑顔で選択を迫る。 この笑みは脅しの笑みだ。これ以上ふざけるようなら、もう容赦などしない。 「いたいのなら妾たちからも村人に説得しよう。だが、揉め事はダメじゃ。次に騒ぎを起こせば、今度こそ討伐対象じゃぞ。開拓者たちに退治されたくなければ、人と仲良うして大人しくしておくことじゃ」 火ノ佳がきつく言い含める。 「合戦も終わりましたし、私のご主人様も来るかもね。そうなったらどうなるか……消し炭か氷漬けか灰に返されるか……」 つらつらといい連ねていたギンコは言葉を区切ると、その顔を引き攣らせて身を震わせる。 演技だが、迫真に満ちている。なかなか芸達者だ。 「ちっ、分かったよ。大人しくしてりゃいいんだろ」 かなりふてぶてしい態度だったが、猫又は一応了承を口にする。 「ふん、分かればいいのよ!」 「ってな訳で、猫生を終えたくないなら約束は守って下さいね」 さも当然とばかりに胸を張る人妖に、ギンコが口添える。 途端に、人妖がでしゃばるなとばかりにギンコを睨みつけていた。 「やれやれ。こっちがまだ片付いてないもふ」 黙って見ていたもふもふが、頭を振ると人妖に近付く。 「もふ……我輩は思うのだが、そんなに羽妖精にいきらずともよいではないかもふ?」 「なんでよ、あんな二番煎じみたいな奴、許せないわ!」 人妖は敵意を隠さない。 「お主はすごい術が使えるもふ……。でも、我輩のようなふあふあもふもふの毛並みはもてない」 「べ、別にいらないわよ。そんなの」 出かけ際の丁寧なブラッシング。さらに、ここに来てもふもふの毛皮を使い、もふもふのもふ感が増した。 気の無いふりをしながらも、人妖は横目で触りたそうな表情をしていた。 「そんなふうに、皆違って皆いい。そう思わないかもふ? いろんな奴が相棒になるって、すばらしい事もふよ」 告げるもふらに、人妖も悩んではいる。 共に戦い、説得し……。未熟ながらも一生懸命だった羽妖精たちを側で見てもいたのだ。 「……ま、いいわよ。少しは出来るみたいだし。少しだけ認めてあげても。でも、少しだけね!」 少しをやたら連発するも、羽妖精への態度は来た時よりかは和らいでいた。 話もまとまり和気藹々の相棒たち。解放された猫又は、離れた場所からそんな彼らをどこか遠い目で見つめている。 「主か……」 懐かしげに呟くと項垂れ、そして、ふんとまた鼻で笑って丸くなる。見たくも無い物から目を背けるように。 桃はそんな猫又に気付くと、そっと近寄り、頭を撫でるように舐めた。 そして、村人たちの所に相棒たちは向かう。 ひとまず事情を話し、もし次に悪さをするようならその時こそきちんと自分たちの主に片をつけてもらうと。 「開拓者が来ないなんて、どうなるかと思ったけど。やっぱり開拓者のお連れは違うねぇ」 猫又が悪さをしないなら、村人たちも受け入れようと言ってくれた。 自分たちで依頼を仕上げ、相棒たちは意気揚々と戻る。 そんな彼らを開拓者ギルドで待っていたのは、当然、彼らのご主人たち。 「ぬしさまー」 見つけた途端、飛び出した不香を筆頭に、次々と戻っていく。 相棒だけの依頼は、こうして無事に丸く収まった。 |