【北戦】新庄寺館奪還！
マスター名：からた狐
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| ■オープニング本文 ●東和の戦い 北面の王たる芹内王の下には、北面東部の各地より様々な連絡が届けられていた。 アヤカシの軍勢は、蒼硬や翔鬼丸の撃破といった指揮官の多くを失し、何より、魔神「牌紋」の力をも取り込んだ大アヤカシ「弓弦童子」の死によって天儀側の勝利に終わった。各軍は疲労の極みにある身を叱咤激励して逃げる敵を追撃し、一定の打撃を与えもした。 しかしその一方で―― 「敵は新庄寺館より動く気配無し。朽木にたむろするアヤカシも周辺に出没し始めております」 「ううむ」 芹内は思わず唸った。敵に確か足る指揮官を欠いているがゆえだろうか。アヤカシは先の戦いで一部破損はしているものの、かつて北面軍が防衛線の一角に築いた城を、今は自らの拠る城として立て篭もっているのだ。 また、各地には、はぐれアヤカシが跋扈し、朽木の奪還もこれからだ。このままでは、弓弦童子を討ったとﾍいえ、東和平野の一角がアヤカシの手に落ちてしまう。 どうやら、まだまだ休むことはできないらしい。 ● 開拓者ギルドに酒天童子現る。 弓弦童子が消えた後、雪に残された骨らしき物が何だったのか。その詳細が分からぬかを尋ねにきたのだが、そちらはとりあえず他の開拓者に回収を任せる方針であるとだけ伝えられた。 「ちっ、一足遅かったか」 気にはなったが、負傷者を守る為にも撤退するしかなかった。今もその周辺はアヤカシがうろつき、被害の報告も聞かれる。気軽に近づける場所でもなかった。 「残念だったな。まぁ、合戦も終わったばかり。今はゆっくり休養を……」 「ん？ なんだ、その依頼」 苦笑めいて慰めを入れる係員だったが、その手元に隠しかけた依頼書をめざとく取り上げる。妙に慌てて係員が取り上げようとしたが、そこは素早く距離を置いた。 「新庄寺館？ ああ、北面の話か。そうか、占拠されたままだったな。へー、アヤカシを蹴散らして奪還する計画が出てんのか」 魔の森から出てきたはいいが、弓弦童子を始めとして上級アヤカシも滅び、残った雑魚たちは逃げ帰り、一部がここに立てこもっている。 元々、魔の森の警戒に当たる為の城壁だ。内部では何百人と収容でき、場合によれば篭城できるよう井戸や食料庫も存在する。それがアヤカシに取って代わられている。明確な頭がいない分、無秩序な巣窟と化している。 しかし、幾ら無統制といえど結構な数のアヤカシがそこにいる。魔の森も健在。 城砦を取り戻さねば、魔の森の監視も出来ず、逆に新庄寺館を足がかりに攻めかねられない。東和平野はまだ遠く、北面の危機は去っていない。 なので、拠点を取り戻すべく、依頼が出されようとしていた。 「おもしろそうじゃん。節分の後の鬼退治ってのも」 「馬鹿言うな。遊びじゃないんだ」 依頼書をじっくり読み込み、にやりと酒天童子が笑う。その手から係員は依頼書をひったくる。 「んなこた分かってる。その上で受けようってんだ。王はやめたんだから、あれこれ指図される謂れはねぇ」 「いやまぁそうなんだが」 もっとも。その王というのも「辞めた」の一言で抜けたと言う。そんな軽くていいのだろうかという疑問は今なお付き纏う。まぁ、修羅の問題なので構わないといえば構わないのだが。 「まぁ、駆け出しの開拓者と見るなら確かにとめる手立ては無いのだが……ちなみに、この依頼どう行動する？」 納得行かない係員。例とばかりにそんな事を口にすると、 「決まってるだろ、そんなもん」 満面の笑顔を酒天は見せる。 「正面から乗り込むだけだ！」 「誰か、あの無謀なチビを止めろー！！」 依頼書を奪い返して走り出す酒天に、係員のやっぱりかと言わんばかりの叫びが追いかける。 とりあえず下駄一つ、係員の顔面に帰ってきた。 かくて、新庄寺館奪還が始まる。 酒天童子と共に乗り込むは、南にある大手門。周囲を堀で囲まれて通常橋で乗り込む所が、今はその橋も落とされ、門も堅く閉ざされている。魔の森に備えて壁も頑丈に作られており、櫓も遠くまで見渡せる。でなくとも、飛行系アヤカシも数多く入り込んでいる。 攻め込む敵用に通路の左右から攻撃を仕掛けられる構造になっており、正面切って行くには難しい場所ではあるが。 「こそこそしてもしょうがねぇだろ。俺たちは正面からどかんと攻めに来たって知らせてやればいいんだよ」 小さな胸を張って言い切る酒天に、豪胆な開拓者たちは苦笑めく。 派手に騒いで、実力を見せ付ける。別方向から他の開拓者たちが乗り込みやすいようアヤカシの目をひきつける役目でもある。単純だが、危険も大きい。 |
■参加者一覧
柚乃（ia0638）17歳・女・巫 
鴇ノ宮 風葉（ia0799）18歳・女・魔 
酒々井 統真（ia0893）19歳・男・泰 
巴 渓（ia1334）25歳・女・泰 
ルオウ（ia2445）14歳・男・サ 
水月（ia2566）10歳・女・吟 
菊池 志郎（ia5584）23歳・男・シ 
刃兼（ib7876）18歳・男・サ |
| ■リプレイ本文 北面に弓弦童子出現、撃破。 陰謀巡らす大アヤカシをついに討伐できたのは、喜ばしい事態ではあったが、それで全てが丸く収まったわけでもない。 勿論、他の大アヤカシはまだまだ存在し、魔の森は健在。そういった厄介も勿論だが、もっと直面した問題が残されていた。 新庄寺館。侵攻時に落とされたこの城砦に手下のアヤカシたちが留まり、立て篭もっているのである。 「宝珠砲？ 投石器？ そんなの百台積んだって、このあたし一人にも満たないっての、教えてあげますか」 自信に溢れた言葉の通りに、鴇ノ宮 風葉（ia0799）は滑空艇・涼風を鮮やかに操り、風を切って飛ぶ。 他の開拓者たちも同様、空からの突入を試みる。隠れる必要は無い。そもそも、課せられた対応は『派手に騒いで攻め込め！』だ。 「派手にやれ……。ふ、分かりやすくていい内容だな」 「簡単でいいだろ」 巴 渓（ia1334）は甲龍・サイクロンを駆る。苦笑交じりに、しかし、同意をこめて告げると、酒天童子は快活に笑う。 開拓者たちと行動を共にする元・修羅の王。その実力はといえば、他開拓者に比べまだまだ劣る。というのに、むしろ、駿龍・志那の飛速に任せて突出しようとする。その志那が何やら不満そうにしているので足並揃うが、でなければ一人突撃しかねない。 「酒天の勢いは相変わらずとしか言いようがないが、……派手に正面からっていうのはこっちも好みの戦術だな。いつまでも奪われた砦をそのままにもしておけねぇ！」 見晴らしのいい空。そこから見える目標物に、酒々井 統真（ia0893）は燃える目線を送る。攻撃的なのはこちらも同じ。同じく突っ走りそうな彼を、駿龍・鎗真は心配そうに運んでいる。 新庄寺館の周囲を守る堀は空だが、その分広くて深い。至る大門は襲撃時に奴らによって破壊されたが、逃げ込む際に直したのか、歪に行く手を遮っている。彼らに出来て、こちらに出来ぬとも思えないが、周囲を巡る堀にかかる橋も落とされている。空を越える方がはるかに容易い。 とはいえ、遮る物の無い空から、隠れもせずに乗り込むとあっては動きは丸見え。新庄寺館からも出迎えが来る。当たり前だが人ではない。だが、それも好都合だった。 「北面軍がまた駐屯する事ができれば、ここで亡くなったか方たちの、お弔いも出来るでしょう。何とかこちらの手に取り戻したいです」 深い藍と銀の滑空艇・天狼から、その様を菊池 志郎（ia5584）は見る。 「うん。取り戻そうね、絶対に……」 柚乃（ia0638）は小さく身震いする。空を駆る冬の寒さのせいでもあるが、亡くなった人を思う悲しみであり。炎龍・ヒムカはそんな主人を気遣うように目線を動かしたが、すぐ、前方に迫る敵に戻し、荒い息を吐く。 「派手に騒いで戦って、引き付けろ、か。今までそんなに派手に戦った記憶が無いんで、改めてそう言われると……」 ただ倒すのと何が違うのか。高い身体機能を誇り、戦の民とすら言われる修羅ではあるが、長く細々と隠れ住む生活を送っていれば注目を集める経験は寧ろ少ない。 困惑する刃兼（ib7876）に駿龍・トモエマルは「どうするんだ？」と問いかけるように指示を待つ。自信を持って答えたのはやはり酒天童子だった。 「んなの決まってるだろ！ とりあえず、突っ込めー！！」 騎龍の腹を蹴りつけると、無理矢理にでも速度を上げる。ご機嫌斜めの駿龍とは対照的に、上機嫌で酒天童子はアヤカシの群れへと飛び込んだ！！ 「あー、行っちゃった……」 柚乃が小さな頭を抱える。 「正面から突っ込んでってとか、らしいな〜。おもしれぇ、そいつで行こうぜぃ！！」 ルオウ（ia2445）もまた笑うと、すぐに酒天の後を追うよう炎龍・ロートケーニッヒに指示を入れる。 「騒がしいの……って苦手。でも、今回は……頑張るの」 敵を見つけたアヤカシたちが警戒して口々に騒ぐ。戦闘に入ればさらに騒がしくなるだろう。 きゅっと柳眉を寄せて嫌そうにしていた水月（ia2566）も、覚悟を決める。 雪のような髪を纏めるローレライの髪飾りが落ちぬようもう一度確かめると、鷲獅鳥・闇御津羽の背からまずは騎士の魂を歌い上げていった。 ● 「先ずは、西門から注意を逸らす……ね」 南側に聳える大手門を目に、柚乃は告げる。西からは他の開拓者たちが奇襲を行う算段になっている。自分たちはその眼を逸らす囮でもあるのだ。 「そんなの全く関係なくはしゃいでる方はいますが」 志郎の言葉が耳に入ると、誰とも無く、約一名を注目する。 立て篭もったのが、北面で争ったアヤカシであれば、その傾向もすでに解析済みだ。 羽猿や翼腕鬼であれば低空を好む。それより上空となれば、我先にと飛び出してくるのは鵺や以津真天。雷が飛び、毒気が振舞われる。いずれも雑魚とは言い難い。 駿龍の速度に任せたまま、構わずアヤカシの中に突っ込んでいく酒天童子。しかし、滑空艇は駿龍よりも速い。動きを読んで涼風を先回りさせると、風葉は霊杖「カドゥケウス」を振りかざす。 黄金杖の先端から広がる吹雪。冷気を浴び、傷を負ったアヤカシ相手に太刀を抜くと切り払う。 酒天自身よく動いてもいるが、やはり実力差は如何せん。そんな酒天に迫る鵺に向けて、風葉が黄泉より這い出る者を放つ。血反吐を吐いた鵺は体勢を崩して落ちていったが、その後からもまた新手が現れる。 「大体いつも楽しそうですね。地位なんて、本当に関係ないのでしょう」 安須大祭で迷い出た頃より何かと関わってきた志郎だが。立場がお尋ね者だろうと古の王だろうと単なる居候だろうと全く何も変わらない。変わらなさ過ぎて振り回された経緯もあるが、今となっては過去の話だ。 「あれだけ生き生きしてるのを見ると、無茶を止めるべきか悩むんだが……。まァ、王をやめて自由の身になったんだとしても、今は一緒に戦場駆けてる仲間だからな」 刃兼には心中複雑だ。本来なら、自分たち修羅を統括するお偉いさんのはず。他の王のように城を構え、守られるべき存在でもある。力を失っているならなおさらだ。 けれど、こうして自由気ままに振舞う様をみると今の状態も悪くないと思う。 「もっとも、ケガをされたら寝覚めが悪いんだが」 駿龍の飛行でどうにかなってはいるが、危険な飛行をする酒天をはらはらと刃兼は見守る。 「怪我の治療は準備してます。毒も受ければ無理せずに言って下さいね。放っておく方が厄介ですから」 直接的な攻撃も危険だが、じわじわと身体を蝕む毒も無視は出来ない。 その為、志郎や柚乃は治癒の技を活性化。有事に際してはすぐに治療できるよう注意しておく。 「はーぁ……世界制服の為にこんな脳筋の護衛しなきゃいけないなんて……。世界ってのは本当、我侭なお宝よねぇ」 「ばーか。すぐに手に入るお宝なんざ価値無いだろ」 一応護衛が必要かと、風葉とルオウが酒天について回る。が、当の向こうが護衛される気なんぞさらさらない。やりづらい。 ぼやく風葉に、酒天は声を上げて笑う。 「ちぇっ、やっぱしロートじゃアレに追いつくのは無理か。……気にすんなロート、お前には戦闘の方を頑張って貰うからよ！」 聞こえたのか、不機嫌そうに一声鳴いた炎龍を、背中からルオウは叩いて慰める。 飛びまわる酒天の駿龍に風葉の滑空艇はよく追いついているが、さすがにルオウの炎龍はそれほどの速さは無い。 だが、それに悲壮感は無い。元々そういうものだとキチンと理解していれば、むしろそうでなければ出来ない事も見えてくる。取りこぼされた敵のトドメや、死角からの攻撃が無いか。俯瞰的に状況を把握しつつ、ルオウは危険を排除する。 「向こうに比べたら、こっちは楽なもんだな」 動き回る酒天に連動して動く風葉やルオウ。味方の先手をうって動く姿には感心するが、同時に統真は同情も感じる。 そういう彼も護衛と言う点は彼らと同じ。しかし、支援を主とする水月は率先して前には出ない。むしろ大人しい獲物とみたか、アヤカシたちの方が盛んに集まり出す。むしろ願ったりだ。 統真は背拳で周囲に気を巡らせ、背後による気配も探る。近寄るアヤカシたちを空波掌で打ち落とす。 「身の安全は任せろ」 「ん……。歌うから、注意してて」 飛びまわる鎗真から統真が告げると、水月は注意と共に歌い出す。 精霊の狂想曲。自らの声を楽器に薄緑色に輝く燐光が舞い散れば、届いたアヤカシたちがさらに無秩序な動きを始める。 ただ、暴れる精霊を宥める為だけに歌い続ける必要がある。練力の消費も激しいので定期的に瘴気回収で補給も必要。 その間無防備になりがちな彼女を統真が護り、それすら潜り抜けた相手には闇御津羽が獰猛な気性を見せ付ける。 酒天に振り回されながらも、風葉に不安な様子は無い。自分がヘマをしても団員が輔佐してくれるだろうと、気軽にブリザーストームを構わず放つ。 「団長の術の冴え、全く……敵に回したく威力だ！」 ばたばたと地上に落ちるアヤカシに、渓は身震いする。 風葉は奇襲や伏兵を気にしていたが、周囲を見渡してもその気配は無い。どころか、明らかにアヤカシ側は連携もとれていない。一斉に群がる他のアヤカシが邪魔で思うように飛べず、下手に術を放てば味方も巻き込む有様。 後方支援の開拓者たちが援護を始めると、さらにアヤカシの動きは混乱。全くの無秩序のそれに変わる。 「行くぞサイクロン！ 先の合戦で攻めあぐねた鬱憤晴らしに丁度いい」 エメラルドグリーンの重厚な甲龍が答えて吼える。周囲のどこも敵だらけ。獲物の数だけ心をたぎらせると渓は撃破にかかる。 「空の敵は外にも任せて。まずは内に入る事を優先する」 刃兼が咆哮を上げる。群がる敵の先手を取って太刀「鬼切丸」を振るう中、トモエマルは敵を掻い潜り、城砦へとさしかかる。 その内側では、鬼たちがひしめき合っていた。高度を下げれば、砲角大鬼の角が龍を掠め、白冷鬼の冷気は更に周囲を凍えさせる。もっと簡単に矢や術も飛ぶ。届く筈ないのに石を投げる小鬼もいた。 志郎は天狼の出力を上げると死角に潜り込ませながら、忍者刀「風魔」を振るう。桔梗を繰り出し、離れた敵を始末していく。 深い藍と銀の機体が門周辺の敵をかき乱す。しかし、一掃は数が多すぎて難しかった。 だが、そうして深い藍と銀の色を持つ機体が飛びまわってアヤカシを駆逐する中、柚乃はヒムカと共に門の上空にたどり着く。 「じゃあ、やるね。朋友さんたちは驚かないよう気をつけて」 更に激しさを増す戦場で、白霊弾で来る敵を抑えながら、柚乃は焙烙玉を用意する。狙いは大手門だ。 積もった雪に気をつけて焙烙玉を放る。アヤカシたちが対処する間もなく、見事門の前で玉は破裂する。鬼たちが作り直した安い門扉はあっけなく吹き飛び、その大口を開けた。 ● アヤカシの包囲から逃げる為、柚乃は天高く騎竜と共に上がる。ついてくるアヤカシが少なくなると、改めて城砦を見下ろす。 門が吹き飛んだとて、中の動きに差は無い。 「外に追い立てて……堀へ落とせないかな……」 「今はまだ慌て者だけみたいですね」 同じく様子を見ていた志郎が肩を竦める。 深い堀で囲まれている為、飛行アヤカシならともかく徒歩の鬼たちも早々越えられない。篭ったつもりで、閉じ込められている。やはり浅はかな行動だ。 一部、外の敵をやっつけようと血気盛んに突撃する鬼たちもいたが、堀に落下して足掻いている。間抜けではある。 「地上の奴らも中を引っ掻き回せば、外に出ざるを得ないだろうさ」 「だから！ あんたが率先してどうするのよ」 新庄寺館に駿龍を突っ込ませる酒天童子に、急いで風葉もそれを追う。 「滑空艇降りたら敵に壊されそうですよね」 「盗られないよう倉庫に入れて、鍵でもかけとくわ」 竜や鷲獅鳥なら自衛できるが、滑空艇は動けない。志郎の言葉に、風葉は軽く頭を振る。何せ酒天から目を離せない。 内部構造は北面の兵たちから詳しく聞いている。聞いていた通りの場所に竜たちを突っ込ませると、地上へと降り立つ。ただちに鬼たちが歓迎して来た。 「ロート、空は頼んだ。こっちも派手に行くぜ！！」 炎龍はルオウを下ろすと、即座に反転。追ってきた飛行アヤカシをラッシュフライトで翻弄させる。 頭上は相棒に任せ、ルオウは咆哮を上げる。 アヤカシの注目がルオウに集まる。押し合い群がるアヤカシたちに向けて、風葉のブリザーストームが飛んだ。 「回転・剣舞、ニ連！」 それでもなお立つ相手には、殲刀「秋水清光」を振り回し回転切り。威力は減るが、それより今は数を相手にする必要がある。 「まずは機動力を殺ぐ。トモエマルも無茶はするな」 敵の動きを見極めつつ、仲間の死角に入るようなアヤカシから刃兼は仕留めていく。けれど、中級あたりになると、さすがに刃兼だけでは厳しい。太刀に練力を混ぜて攻撃の瞬間に発して短期にしとめようと試みるが、手に負えない。 気付いた風葉たちから支援も届く。ヨモツヒラサカをかけられたらしい単眼鬼がよろめいた所で、ルオウの殲刀が閃く。 ほっとする間もなく、傍を弾丸のように打ち出された角が掠め飛んだ。 丸い身体をのそのそと動かしながら、建物の影から砲角大鬼が狙っている。 「あんにゃろー」 「酒天童子も無茶はしない」 鈍そうな外見だが、その実力はかなり高い。だというのに、太刀を構えて突っ込もうとする酒天童子を刃兼はさっさと捕まえる。 「建物が壊れたら後が困るんだよ！ 気ぃ使え！」 砲角大鬼に渓が素早く距離を縮めると、赤龍鱗をはめた拳を撃ち付ける。分厚い肉の感触は攻撃をどれだけ受け止めているのか。さほど痛がる様子無く、次々と角を放ち出した。 じわりと砲角大鬼を止めるも、その間も他のアヤカシたちが群がってくる。背拳で読んで運足でかき回し応戦するが、 「切りねぇな。分かれて攻めるか。酒天の小僧はルオウと団長閣下にお目付け役を任すな」 「誰が小僧だ！！」 何せ数百人が収容可能な砦だ。広さも見合うだけあり、一体どれだけのアヤカシが逃げ込んだか。纏まっているより分かれた方が効率いい。 開拓者たちが散る。分かれた彼らを追い、その動きに翻弄され、アヤカシの動きは乱れるばかり。 「頭上は守る……。でも、深追いは絶対にしないで」 黒い翼を羽ばたかせ飛行アヤカシを追わせながらも、水月はしっかりと闇御津羽に釘を刺す。闇御津羽は直感と風に乗って身軽に回避しながら、迫る敵を啄ばむ。けれど、水月の言葉を守り、深追いはしない。退くならその後を見送る。追おうにも次々にアヤカシがやってくるせいもある。 「中級はいるが、統率は本当に取れてないな。来るとも考えてなかったのか」 水月への注意は継続したまま、統真は周囲の様子を探る。 応戦する者、逃げ出す者、様子を見る者。アヤカシ個々の気性のままに、やはり連携は無い。 防御重視で八極門で身を固めつつ、上がった攻撃力のままに統真は群れに突っ込んでいく。 「風神雷神、初陣だ。起風発雷、乱打で押しこむ！」 力押しというなら酒天もまたそうだが、統真の腕前は本物。宝珠も備えた鉄甲が繰り出されるたびに、風が唸り雷光が閃く。 水月の護衛には鎗真がついている。彼女と共に空を見張り、追い払っている。 やがて、アヤカシ側の動きが乱れ、全く別の方向から泡食ったように騒々しく流れてくる団体も出てくる。 「どうやら西門に動きがあったみたいですね」 空から確認した志郎が西を示す。 真正面から飛び込む自分たちに続き、横合いから突然新手が突付かれれば、統率者のいない烏合の衆では対処しきれまい。怖気づいたアヤカシは逃げにかかるが、逃げ出せる場も限られている。 壊れた大手門は外への出入り口のように口を開けている。実際そうなのだが、橋は落とされ、出ても堀に落ちる。 転落した所へ、次のアヤカシが転がり落ちて押し潰されてと、自分たちの所業で瘴気に還るアヤカシも出る始末。 人型に近い鬼が主流と合って、戸惑う姿は人と重なり気も咎める。しかし、放っておいては彼らこそが人に危害を及ぼす。 外に逃げる者は追い立て、向かってくる者は倒し。 そうして、急速に館内のアヤカシの気配は減っていった。 ● 空を飛ぶアヤカシが魔の森へと逃げる。堀に落ちた鬼たちは我先にと味方を踏ん付けて這い上がろうと足掻く。 それが確かな流れになったと判断すると、一同も一時退却する。細かな掃討戦は北面に任せても構わないだろう。 終わってからも傷の治療に毒抜き。怪我らしい怪我は無くなったが、大勢を相手にした披露はまだ残っている。 「お疲れさまです。よろしかったらどうぞ」 精霊鈴輪を鳴らし、鎮魂を祈っていた柚乃は、その様子を見て急いで柚子茶と柚子入りチョコを振舞う。暖かく、甘い食べ物は残る疲労もじんわりと和らげてくれる。 「それで……なかなか時間が取れなくて、年跨ぎになっちゃったけど」 「へ？ ああ、ありがと」 もふ毛糸で作ったマフラーは酒天宛。ふわりと首にまきつければ、目を丸くして酒天は礼を述べる。 まだ雪深く。新たな戦闘の爪痕も痛々しく、新庄寺館は魔の森と向き合う。 だが、すぐに手が入り、以前のように……いや以前以上の役割を果たせるようになるだろう。 いつか春が来るように、いつまでも今のままでは無い。 |
