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■オープニング本文 三寒四温で寒暖激しい昨今。 冬の間は途絶えがちだった交流も、ゆるゆると動き出し。すっかり雪解けた街道を、寒そうに旅人たちは行き交いだしていた。 「なんだありゃ?」 街道の横手から、近付く人影っぽいものがあった。別に道を逸れて歩いてきた旅人が全く道の無い場所から街道に合流してくるのは不思議では無い。ただ、その人影は異常すぎた。 人のように見えるが、頭が大きすぎた。その頭を重そうに揺らしながら、五人、ふらふらと近付いてくる。 あまりに唐突な光景に、思わず旅人たちは足を止めて見入った。 一人が石に躓いた。体勢を崩した体から、ごろりとその頭がもげて地に落ち転がった。誰かに斬られたとか攻撃された気配も無い。血飛沫すら上げず、ただ落ちたので、却って見ている側は唖然としてしまった。 そんな彼らを、転がった首はぎろりと目を剥き明らかに睨みつけた。 異常を察して、人々が身を引こうとするのと、首が宙を浮かび上がったのはほぼ同時。逃げ遅れた旅人の首筋に食いつくと、噴き出す血と共に旅人がどっと倒れる。 「逃げろ!!」 「助けてくれ!」 さすがに事態を把握し、口々に騒いで逃げ始める人々に向けて、残る四体からも首が離れ宙を飛び殺戮を繰り出す。 首を失った体の方も平気で動き回り、どこで見ているのか。逃げる人に追いつき捕まえると、凄まじい力で引き千切る。 たちまち辺りに混乱が訪れた。 そして、開拓者ギルドに伝令が駆け込む。 街道に首なしと大首が現れ暴れている。逃げる人を追いかけ、街に近付きつつあるので早急に食い止めて欲しいと。 |
■参加者一覧
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
高峰 玖郎(ib3173)
19歳・男・弓
笹倉 靖(ib6125)
23歳・男・巫
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
御凪 縁(ib7863)
27歳・男・巫
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志
一之瀬 戦(ib8291)
27歳・男・サ
ゼス=R=御凪(ib8732)
23歳・女・砲 |
■リプレイ本文 街道に、大首と首無しが出現。 道行く人を蹂躙し、逃げる人が知らず先導役となって街へと案内しようとしている。 「厄介なところに出現したものだ。とにかく事は一刻を争う。急がなければならないな」 無愛想に告げる高峰 玖郎(ib3173)だが、情が無い訳ではない。 街まで着いてこられては、どれだけの被害が出るか分からない。現場に急行した開拓者たちは、まずは逃げ帰る人々と遭遇する。 「アヤカシ討伐に来た! 奴らは俺たちが引き受ける。足を止めるな、落ち着いて街まで避難しろ!」 御凪 縁(ib7863)が声を張り上げ到達を告げると、逃げていた者たちは助かったと息をつく。 だが、そこで立ち止まられてもまた困る。急ぎ街まで行くよう励ましながら、開拓者たちは人々の流れに逆らい、さらに先へと進む。 進むに連れて、指示する声を掻き消すような悲鳴が辺りに響く。女子供が泣き叫び、恐怖に歪んだ人の顔が増える。 逃げ惑う人の頭一つ分は突き抜けて、最後尾で暴れる人影っぽいものがあった。 まさしく人っぽいものだ。暴れる肉体は頭が無く。飛びまわる頭は胴体が無い。 逃げ遅れた人々に次々と手をかけ、あるいは噛み付き、血祭りに上げていく。 「ふざけた真似を!」 子供を抱いて逃げる女に、首無しが手をかけた。玖雀(ib6816)は早駆で間を詰めると、明山の拳石を投げ付けた。 呪いの込められた礫をぶつけられて首無しが揺らぐ。その間に、素早く女は子を抱いて逃げ出そうとする。 けれども敵もしつこい。ひたすら走る女に、大首が噛みつかんと音も無く飛んでくる。 「死人の頭に憑依たぁ、気持ち悪い事しやがるぜ」 嫌悪を吐き捨てると、一之瀬 戦(ib8291)は大首に走る。その前方に玖雀が割り込んだ。止める為ではない。 「ハッ、思う存分暴れて来やがれ!」 素早く身をかがめると、戦の足場となる。 戦は玖雀を踏みつけると、彼を足がかりに宙に浮かぶ大首へと飛びかかる。抜かれるロンパイア「クレセント」。新陰流で薄い刃に練力纏い、その三日月を脳天目掛けて叩き落した。 足蹴にされた玖雀も元より承知で不満は無く。戦が大首を攻撃すると同時に体勢を戻すと、近付く首無しを牽制する。 「でかくて狙いやすいのはいいが、人を侮辱するにも程がある。虫唾が奔るわっ!!」 着地した戦は、嫌悪も露わに怒りを込めて咆哮を撒き散らす。 魅かれたアヤカシたちが戦へと向かう。逃げる人々から、その意識が逸れた。 「そら、今の内だ。俺たちが引き受けるから後ろは気にしなくていい。足元に気をつけて、落ち着いて逃げるんだな。誰か、怪我をしてる奴も頼む」 煙管を咥え、扇子で街の方をひらひら向けて笹倉 靖(ib6125)は一般人を誘導する。 子供を抱えた女は一つ礼を述べると、急いでその場から逃げ出す。他の民も同じく。 咆哮に抗ったか、走り去っていく彼らを追いかけようとしたアヤカシもいたが、それは藤田 千歳(ib8121)が回り込み、追跡を阻む。 「これ以上の被害の拡大は絶対に阻止する。ここからは一つの命もくれてやる訳にはいかない」 すでに現場は酷い有様だった。逃げる人々の捨てた荷物が散乱し、血の痕が見られる。 倒れている人も多い。まだ息があるのか、苦しむ声も聞こえる。だが、最早動かないものもいる。どころか何か肉っぽい物も散らばっている。 その原型は、今は考えない。ただ怒りだけをアヤカシに向ける。 縁はまだ息ある人たちを靖と共に助けながら、散乱した荷物を手早く街道脇に投げて除けていく。足場を確保せねば、間合いを取るにも邪魔になる。 「これ以上の被害を出さない為に俺達は来た。その仕事は全うさせてもらう」 ゼス=M=ヘロージオ(ib8732)は、大首に向けて足元に転がっていた篭を蹴り上げる。慌てて急展開をする大首だが、そこに出来た隙を見逃さずすかさず発砲。向かい来る間に再装填を済ませる。 逃げられる一般人は逃げ切ったようだ。そうなれば、周囲を気にせず思う存分戦える。 大首も首無しも、獲物が減ったがその分開拓者たちへと殺気を漲らせている。 「次の旅人が来ても困るからねぇ。見張っておくから手早くな」 靖はそう声をかけながら、加護結界をかけて回る 見通しのいい街道。 遠目からでも戦闘が起きていれば分かるだろうし、そんな物騒な場所に好んで近付くとは思えない。とはいえ、アヤカシの方で遠方の旅人を見つけ移動されても困る。 何より長々と街道封鎖していては流通にも迷惑。 心ならずも散った人に報いる為。そして、生きている人々を守る為。 「浪志組隊士、藤田千歳、参る!」 千歳は左の手に刀を握り締め、力強く踏み出す。 ● 「鬼さんこちらっ、手の鳴る……って、耳ないんやっけか?」 鳴らそうとしていた手を止め、福幸 喜寿(ia0924)は首無しをまじまじと見る。 耳どころか頭ごとない。目も無く鼻も無く口も無く。それでどうやって周囲を確認しているのか全く分からないが、確かに首無しは状況も位置も判断し、開拓者たちに太い腕を振り回して襲い掛かってくる。 「ちょっとばかり、鬼ごっこに付き合ってもらうんさねっ! 呪縛符〜!」 喜寿の生み出した小さな式が、三体の首無しの手足に絡んだ。元々愚鈍な首無しの動きがさらに緩慢になる。 残る二体。仲間が縛られたのが分かったか、首無したちはなにやら気合いを入れると、猛然と駆け込んできた。 そこをすかさず玖雀が割り込むや、その大きな身体を蹴りつけ飛び上がり、軽業師のようにその肩にすとんと乗った。 「フン、どこ見てやがる。俺はここだぜ?」 「んじゃ、真似してみるさね」 喜寿も首無しの肩に乗ってみる。鈍い首無しの動きは、喜寿でも十分に対処できた。 危険になる前に、玖雀は朱苦無を衝きたて素早く回避。喜寿も危なくない方向へと逃げる。 勢い余った首無したちは互いを攻撃し合う。……いや、周囲に誰がいようと関係ない。敵も味方も無く、手当たり次第に暴れまわっている。 苦無の傷は確かに残れど、それを気にした様子は無い。 声も無く、玖雀と喜寿は集まる。 「いやはや、恐ろしいさね」 獰猛なその様に、喜寿は軽く身震いする。そうやってお互いをうっかり傷付け合おうとも、首無したちは怯みもせず、また傷にうろたえる様子も無い。 少々の傷では倒れない上、痛みもせずに暴れまわり、もし逃がしでもすればその傷も数刻の後には無かったように再生してしまう。面倒な相手だ。 「同士討ちも気にしないようだが、さすがに今の内に倒してしまうのは難しそうだな」 ふと息を吐くと、喜寿と目だけを合わせ、そして一斉に飛び退く。 とにかく今は惹き付けるのみ。 二人が首無したちを翻弄する間、残りの者たちで飛びまわる大首を相手にする。 靖は続けて神楽舞「武」を舞う一方、縁も加護法をかけて回っている。飛びまわる大首は当然手足が無く武器はもてない。さすが頭だけに頭が良いのか、知覚を使った術を得意としていた。 大首たちは浮遊しながら、直接脳裏に呪いの言葉を吐きつけ、大声を上げて注意を惹きつけ、恐慌状態に陥らせその場から逃走させようとする。 しかし、元々そんなに強いアヤカシではない。支援を受けた事もあって、労せず抵抗すると開拓者たちは攻撃に出る。 「物理と知覚、どちらが通るか……。どちらも変わらないか」 それでも攻撃に引っ掛からぬよう十分距離を置き、玖郎は華妖弓を絞る。鷲の目で大首を見据え、胸中の怒りや嫌悪を矢じりに乗せて放った。 黒い靄を纏った先端は、確実に大首を射抜いていく。だが、普通に撃ってもたいした差は無いように思う。精神面への攻撃を得意とする割に、自身はさほど抵抗も出来ぬらしい。容易く次々と射抜いていく。 「その程度で、よくも世を乱そうとしたな」 間合いに入った大首に、千歳はすかさず刀「虎徹」を引き抜く。 鞘走る赤い炎を纏った刃はたちまちの内に大首を切り裂き、瘴気を散らす。 刃を恐れ、空に逃げようとも玖郎の矢と共に、ゼスもロングマスケット「シューティングスター」で撃ち抜いていく。 凶暴な面を見蹴るその眉間が弾け、それでもなお襲ってくる相手に単動作で一瞬の内に再装填を果たし、隙を見せない。 「アヤカシの弱点がどこにあるのかしれないが、好きに暴れろ。邪魔はさせてやらん」 ゼスは他の開拓者に呼びかけながらも、大首の動きを牽制。 喉元も狙ってみるが、特に呪声が止む気配も無い。ならば命を絶つのが早いと、始末にかかる。 千歳も刀の間合いで足りぬ相手には、雷鳴剣で仕掛ける。 造作も無く、五体の大首たちは瞬く間に数を減らしていく。 「逃がしなんかしねぇよ!」 状況を見る事は出来るのか。惑う大首たちへと戦は咆哮を浴びせる。 たちまちに大首たちが迫る。 同時に、範囲内にいた首無したちも戦に向かい始める。 「おいおい。しっかり留めておいてくれよ」 「呼んだのはそっちだろう」 軽口叩く戦に、玖雀がほんの少し目を細めて間に割り込む。 「意外に面倒だからな。さっさと片付けて、そっちは一気に叩くべきか」 縁が首無しに白霊弾を放つ。痛手は被っているはず。だが、動きに変化は無いので意外に振り回されがちになる。 「言われなくとも」 そういう意味では大首の方が可愛げがあるか。 戦が大首を両断すると、二つに裂かれた顔は歪んで地面に転がる。 空に浮かぶアヤカシを散らすと、続けて地を彷徨う巨体アヤカシにかかる。 「アヤカシに食われるとか、体引きちぎられるとか恐怖でしかないよねぇ。のくせそっちのでかいからだの奴はいまいち攻撃効いているんだか、効いていないんだか分からない反応すっし」 ふらふらと加護結界を続けながらも、靖の口調は浮かない。 街道の惨劇は一目瞭然。せめて彼らの味わった恐怖の一旦でも味わえば溜飲も下がるかもだが、そんな神経すら首無しにはあるのか無いのか。 反省など当然ある訳ない。そもそも襲ったところで喰う口も無い。死んだ人間は一体何故死なねばならなかったのか。やはりアヤカシの所業は理不尽でしかない。 「愚鈍で目もねぇ奴らでも、剣気で怯ませるのは出来るだろ」 戦が全身から気を発する。途端に、びくりと首無しの一体が竦み上がる。即座に千歳の刀が閃き、首無しを切り刻む。 だが倒れない。ぼろぼろになりながらも暴れ回り、手当たり次第に薙ぎ払い、体当りをかましにくる。 「痛みや恐怖が無ければ己の身を滅ぼす。……このアヤカシには関係の無い話か」 冷たく告げると、ゼスは足元を狙い打ち続ける。痛み知らずで暴れようとも、足が無ければ移動できない。 「当てるのは容易い……しかし……」 矢の雨を降らせながら、玖郎もまた首無しの対処に回る。その威力にも負けずに駆け込んでくる首無しを慌てて躱す。 「力不足かな〜? 仕方無い、お札の力を借りるんさね!」 喜寿は陰陽の指輪を指にはめる。知覚は上がるが、回避が鈍くなる。けれど首無しの動きからして避けるのは簡単と判断。他の開拓者たちもいるのだから、簡単に近寄らせはしないはず。 「いくっさー」 陰陽符「アラハバキ」を手にすると、放つ斬撃符。高めた威力で、ようやく一体を切り刻み瘴気に還した。 ● 大首は問題なく駆逐。 残る首無しはいささか手こずる。何せ倒れない。 愚鈍な動きは読みやすかったが、思わぬ動きに開拓者たちとて怪我も皆無では無い。 しかし、それも靖の新風恩寵ですぐに治せる程度。概ね危なげなく、最後の一体にも刃を入れる。 全てが完全に瘴気に返ったのを確認するまで、思った以上に時間を食っていた。 「ったく。ここぞとばかりに全力で踏み抜きやがって!」 玖雀が背についた足型に文句を言うのを戦は笑って流す。元より知った仲。悪態をつく割には双方恨みも無い。 「後はこの散乱物をどうするか。人を通せるようになるにはもう少しかかるかな」 靖は街道に落ちた荷物を見つめる。 縁が適当に脇に避けた為、戦闘に巻き込まれず残った品も多い。 大切な品ならばきちんと届けたいが、中には逃げる為に捨てて行った者もいるだろう。そうした者たちが取りに来る可能性はある。 ギルドに連絡し、改めて人を呼んで選別してもらうのがいいか。 亡くなった方々も、近くの墓地まで運んでもらう。身元が分かるなら家に戻せるが、その原型も留めぬほど粉々にされた遺体も少なくない。 (浪志組隊士として、人々がアヤカシに脅かされない世の中を作る為に。二度とこんな死に方をする者を出さない為に。俺は、この身朽ち果てるまで戦い続ける) 整理されていく遺体に手を合わせながら、千歳は胸中で強く誓う。 いつ終わるとも知れないアヤカシとの戦い。人心も荒れて纏まらぬ世の中。理想は空虚な希望かもしれないが、諦めればそれはいつまでも達成しない。 |