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■オープニング本文 四季豊かな天儀の一年。 春間近ではあるが、まだまだ続く寒い日に、二人の乙女が立ち上がる。 「という訳で、温泉行って暖まろう!!」 「もふー!!」 開拓者ギルドに入り込んできたミツコともふらが陽気な声を上げる。 「遊びのお誘いか? まぁ、この所事件だらけで開拓者も疲れてるだろうからありがたいが……」 「遊びじゃないわ。仕事の依頼よ。まぁ、遊んでもいいけど」 羨ましそうに開拓者たちを見つめたギルドの係員に、ハツコが小さく指を振る。 「川辺の温泉なんだけどね。そこは、まず砂を掘らなきゃいけないのよ」 砂を掘り、湧いてくるお湯が温泉なのだそうだ。ちなみにちょっと熱め。その為、近くの川水と上手く混ぜ合わせねばならなかったりと、少々労働が必要な場所らしい。 「うちのもふらさま大きいしー。この大きさが浸かれるぐらいの穴掘ったら、こっちが疲れちゃうよねーって事で、開拓者さんに頼もうと思うの☆」 勿論、時間が空けば開拓者自身も温泉を楽しんでくれて構わないのだが、もふらさまの要求は温泉に留まらなかった。 「もふ! お花見もふ! 桜見たいもふ!」 「桜餅を食べるもふ! 白酒を飲むもふ!」 「酒を飲みながら温泉は健康に悪いもふ。気をつけるもふ」 「そして、隠し芸やるもふ! 盛り上がるもふ!」 温泉場で騒ぐ気満々である。その接待もやってほしいと情け容赦なく依頼人は頼んでくれる。 「ちなみに、その温泉場には花なんて全く無いから、どうにか用意してね。費用はこっちで出すから」 さらりと言ってのけるハツコに、係員は外を見つめる。春一番も間近とされるものの、まだまだ北風が冷たい。 「調達しようにも、桜はまだ無いだろうな。他の花で納得してもらうか?」 「そうね。その説得も任せるわ」 「もふらさまたちが盛り上がってるしー。頑張って楽しいお花見させてあげて欲しいのー。でも、他のお客さんも来るところだから、あんまり大騒ぎもさせないようにしてね」 我侭気ままなもふらさまを満足させるにはさてどうすればいいか。 「あ、もふらさまの入浴後のブラッシングもお願いね。周囲が砂場って事だから砂遊びする子もいるとおもうけど綺麗にしてあげて」 「そこまで使うか」 係員は呆れる。まぁ、宴会に満足させられれば、そのつやふかになったもふらに埋もれて帰ってこれるかもしれない。そう思うと悪くは無い依頼かもしれない。 それも全ては開拓者次第。とりあえず、閑そうな連中にこんな依頼があるぞと知らせてみる。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
明王院 千覚(ib0351)
17歳・女・巫
観那(ib3188)
15歳・女・泰
シータル・ラートリー(ib4533)
13歳・女・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 そろそろ春が訪れる頃なのに、世間は一向に寒いまま。 ここは一発温まろうと、依頼者たちは温泉旅行を計画する。 そして、案内されたのは川辺の砂地。なんでもそこを掘り、温泉を作るのだとか。 「砂場を掘ってもふらサイズの温泉を作るに始まり、お酒と料理の準備に加え、花見用の花をどこかから確保。そして温泉の温度管理にもふらの毛繕いまで……。開拓者使いが荒いです」 申し渡された案件に、ペケ(ia5365)は的確な意見を述べる。 「いいじゃない。」 「よろしくねー☆」 たまに開拓者を便利屋扱いする依頼者がいる。ミツコとハツコなんぞその代表的な依頼者だろう。 温泉に行くのはいいが、もふらたちの世話をして、と気軽にお願いしてくる。 そのもふらたちは花見だ宴会だと、春に浮かれている。いや、いつも浮かれているかもしれない。その相手をするのは確かに面倒ではある。 「ここを掘ると温泉が湧き出すのかぁ。ボクの故郷ですと、幾ら掘ってもお湯は出てきませんから……どのようなのかしら〜♪」 川側で、吹く風もまだ冷たいが、踏みしめる砂は暖かい。 軽く掘ると、じわりとお湯が染み出てきて、シータル・ラートリー(ib4533)は歓喜の声を上げる。 ただこれをもふらたちが入るまで掘り進めるとなるとかなり大変だ。ミツコたちの連れているもふらたちは結構大きい。 「えっと今回は皆女性……なのかな?」 柚乃(ia0638)が集まった面々をぐるり見渡し、首を傾げる。 「ま、女の細腕もこれだけ集まればなんとかなるわよね」 「開拓者さんたちなら何とかなるよ」 お気楽に励ます依頼者たちだが、天河 ふしぎ(ia1037)が真っ赤になって小さく手を上げる。 「いや……その……、一人いるんですけどー。…………丁度温泉入りたかったんだもん。他がみんな女の子だなんて、知らなかったんだからなっ!」 紅一点ならぬ黒一点か。 別に女性限定ではないのだからいてもいい。むしろ頼りになる。 ただ外見的にはやはり女子御一行にしか見えなかったりもするが。 (砂地の温泉、山の中。きっと起きるよハプニング。僕を待つのはからかいだけか、周りは女子ともふらだけ。……さて、どうする天河ふしぎ) 女の子だらけの依頼に恥らうふしぎに、何やらからす(ia6525)は期待した目を向けていた。 ● 兎にも角にも温泉地に来たのだから、風呂に入らねば意味が無い。 風呂に入る為には砂を掘るのが必要。 道具は温泉の管理小屋から借り受け、さっさともふら様用の温泉を作りにかかる。 ちなみに依頼者は依頼者で勝手に楽しむようだ。 「掘ります! 掘ります!! 目指せ温泉ですよー」 砂に向かって牙狼拳。観那(ib3188)は大きな耳を揺らし小さい体で懸命に掘り進める。 掘った穴からは、少し待つと下からじわりと湯が上がってくる。こうして砂を掘り続ければ自然と温泉になるのだが。 「結構熱いのですね」 シータルが、まだ小さな温泉に手をつけてみる。 一応浸かっていられる熱さだが、抜いた手は少し赤くなった。長く浸かっているとすぐにゆだってしまう。 そのせいだろう。他の客たちは川の側で温泉を掘り、川の水を汲んでいる。時折水を注ぎ足し、掻き混ぜ、のんびりと入っている。 「でも、いちいち水を汲んでくるんじゃなくて、水路を掘って水を入れて、上手くお湯冷ませないかな?」 ふしぎもお湯を確かめ川を見る。試しに水路を掘ってみると、一応流し込むのは可能。しかし、引き込み口は冷たく、遠ざかるほどに温度を増してしまう。 「広すぎると温度調整が難しい。もふら一匹二匹が入る大きさで作るべきかな」 「七匹分で数が多いね。その分動いて暑くなりそうだけど」 計画を練るからすに、リィムナ・ピサレット(ib5201)は乾布摩擦用の手拭を汗拭きに変える。 掘って掘って掘り進む。穴を深くすると、湧き出る温泉に浸かりながらの作業になる。最初の内は寒くて服を脱ぐ気になれなかったが、そうなってくると濡れるし暑いしで着替えた方がやりやすい。 温泉は混浴……というより砂地を開放しているだけ。一般客の中には自分たちが掘った温泉の周囲を何かで囲い、目隠ししていたりもするが、ほとんどは男女の目を気にしないよう水着や浴衣で入っている。 「そんな事しなくても、全く気にしませんが?」 「うわわわわわ」 すっぽんぽんでシャベルを担ぐペケに、ふしぎは目のやり場に困る。そのふしぎはきっちり手拭を巻いて体を隠している。 「胸隠す必要あるの?」 「ぺたんでもぼいんでも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよー」 「もふもふ。外してみるもふー」 「やーめーてー!」 何か興味深げに依頼人やもふらたちから観察されて、真っ赤になってふしぎは手拭を重ね合わせる。さらに遊び半分で、もふらが手拭を引っ張るものだから、死守するのに大変だ。 「ダメですよ。悪戯する子はこっちに来て下さい」 「何もふか?」 めっ、と怖い顔をした柚乃が、少し掘った穴にもふらを招き寄せる。素直に従ったもふらがその穴に伏せると、上から掘って出た砂をかける。生き埋め状態だ。 「あったかいもふー」 最初の内こそほんわかと笑顔でくつろいでいたもふらだが、じきにその息が上がり出す。 「熱いもふー」 「んー、ちょっと砂風呂にはきついようなのですね」 篭る熱が高すぎてしまうようだ。 少し残念に思いながらも、柚乃は悪い事をしないよう諭した上で、砂をどかす。もふらは身体をふるって汚れを飛ばしていた。 「水温が高いんだったら、こっちも試してみてよー」 ビキニ「ノワール」に着替えて汗していたリィムナが天幕を張ってもふらを呼ぶ。 中は地面からの熱でちょっとしたサウナになっている。もふらたちも上機嫌だ。 「もしかして、それでよかったとかですか?」 服の袖を濡らして頑張る観那としては、少し不満顔だ。が、そうでもなかった。 「ダメもふ! これは外が見れないもふ! 花見で宴会するには狭いもふ!!」 即座にもふらたちが騒ぎ出す。 本当に注文が多いもふらたちだ。 ● 風呂を整える傍ら、花見の用意も欠かせない。 しかし。花といえば桜だが、時期が早すぎてかまだつぼみも無い。どの道、温泉周辺には花の気配はとんと無い。 「もう実になっちゃいました?」 「もふー。つまんないもふー」 おずおずと柚乃がサクランボを差し出す。不満の声を上げる割にはしっかりサクランボは食べている。 もっとも、開拓者たちもちゃんと考えてきている。意向はこなすのが今回の依頼だ。 「今の見頃はこっちでしょう」 大八車に根っこごと運んできた木を、ペケは見やすい位置に埋める。ただし、桜ではなく梅。芳しい香りが風にそよぐ。それもまた風情がある。 「枯れ木に花を咲かせましょう、なんだからなっ!」 ふしぎは適当な木に花をくくりつけ、花吹雪を散らせる。と言っても、普通の花もまだまだ品数が少ない。 「春はやっぱりこれからってとこだけど。……もふら花壇完成!!」 そしてリィムナは、まるごともふえもんと招きもふらを花で飾り、その周囲にも花を散らして作品をこしらえている。なかなかの大作だ。 「梅はあるので、桃とかもどうでしょう? 色が桜っぽいし、季節行事的に白酒飲むならそっちの方が!」 「白酒いいもふ! 飲むもふ!」 観那としては苦しいかと危ぶんでいたが、もふらたちはあっさりと承諾している。 というよりも。 「もふらさまたちは、むしろ花より団子でしょう」 お見通し、とばかりに微笑みながら、明王院 千覚(ib0351)は食事を用意する。 七輪を用意して、天儀酒を熱燗に。買ってきていた桜の意匠の和菓子や飴細工を添える。 「まだ、桜の時期には早いですけど。桜の香りと一緒に、桜のお菓子を楽しむお花見なら、ご一緒出来ますよ」 「桜はないが、とっておきはある。飲んでみるかね?」 別に真剣に花見したい訳では無いだろうと、からすも花の形の菓子と一緒に、ちゃんこ鍋を用意。 その他、お香「梅花香」に香蝋燭「花宴」で嗅覚から風情を刺激。甘露梅酒に酒「桜火」と、手持ちの酒も披露する。 柚乃も手伝ってよそうと、待ちかねたようにもふらたちはぺろりと舌を出している。 「お酒お酒。……美味しいんですか? まだよく分かりません」 観那は首を傾げつつも、やはり用意した三食団子、おはぎ、道明寺を並べる。最ももふらも酒より団子で、柚乃が焼き出した肉などに興味を向けている。 配膳も済ませると、風呂もいい感じに仕上げられ。 これで本当に、花見の支度が出来上がった。 ● 「もふら様、熱くないですか?」 「いいお湯もふー。みんなも入るもふー」 川から注ぐ水が逆流せぬよう板も取り付け、適度にお湯も掻き混ぜて風呂は完成。お湯には桜の花湯も混ぜ込み、花の香が混じりあっている。 湯加減を聞くシータルにも、もふらは上機嫌で答えている。 「お誘いいただいたなら遠慮なく。……おや、どうした? 誰しも裸で生まれてくるのだ。何を恥らう事がある」 「いや、だからってねぇ」 作業中は水着だったが、風呂では遠慮なく脱ぎ捨てたからすは、慌てるふしぎをからかっている。 「ふー。下から湧き上がってるのか、足元は熱くなりますわね」 シータルもタオルを二重にしっかりと包んで、風呂をよばれる。いい湯ではあるが、やはり温度差は気になる。 「氷をお作りしましょうか?」 千覚が申し出るも、シータルは少々悩む。 「それも上が冷えるばかりですからねぇ。こまめに掻き混ぜるしかないですか」 「私はもう少し後でよばれますね。川の水をいつでも足せるようにしておきましょう」 もふらにかけ湯をしていた観那が、桶に川の水を汲みおきに走る。 「ふぅ、もふらさまに囲まれて……ですっ」 小さめに作った狭い風呂。もふらにしがみつくように入りながら、柚乃も満足げに息を漏らす。 「これで舞台は整ったもふ! のんびりしていられないもふ! 花見に酒に食事とくれば、後は宴会芸もふ!!」 花を見ながら、食事を満喫していたもふらさまが、突然叫びだす。頭上からぽろりと手拭が落ち、観那がきちんと乗せ直す。 「宴会ですか。やらなきゃダメなんですか?」 風呂場で騒ぐのもいかがなものか。不思議そうにするシータルを、真剣な顔でもふらは諭す。 「だめもふ! 花見に宴会をしなければ、その年は不幸になってしまうもふ!」 「まぁ!? そうなのですか?」 「えーと。あってるような、あってないような?」 真面目なもふらに、シータルは疑いが無い。依頼人たちもどう答えてよいのやら。 「そういう事なら、ここは一つ暗黒舞踊を」 「いやいや、怖い怖い」 なにやら物騒な踊りを見せようとするペケに、依頼人たちは揃って首を横に振る。 お酌をしていた観那もせがまれ、考えた末に投げられた物を背見も使って叩き落す。また、柚乃に笛の伴奏をつけてもらい、故郷の収穫祭の踊りを披露したり。 「もふえもんは実は魔法もふらだもふ! 皆が幸せになる魔法だもふ〜」 リィムナも、花で飾られたままのまるごともふえもんを着ると、くるくる踊る。 ホーリーコートを発動させると、ハートスティックが白い輝きを纏い、ハートの光がちりばめられる。 「よかったですね。これで不幸にならずに済みます」 「もふ」 喜ぶシータルに、もふらも嬉しそうに頷いている。 「さあ、これで最後だ……。空中に花を咲かせるよっ!」 ふしぎは手品を披露。三角跳びで高く跳んで目を引き付け、夜を利用して物を出したり隠したりと派手に動き回る。 ……のはいいが、当然動けばタオルもはらりとめくれる。 「わわわ、みっ見ちゃ駄目なんだぞっ!」 真っ赤な顔で裾を閉じるふしぎを、からすが笑う。 ● のんびりまったりと風呂に浸かり。たまに騒いで、酒飲んで、鍋をつつき、菓子を取り合い。ゆだりすぎると水を浴びてまたのんびり。 結構な時間を風呂に費やす。 「そろそろ帰ろっか」 「そうね。いい加減のぼせてきたわ」 おもむろにミツコが切り出すと、ハツコも茹で上がった赤い顔を手で仰ぐ。 「もふらさまも満足されたようですね」 芸……といっていいのやら。足裏マッサージをしていた千覚の前で、酒と満腹と目の保養でいい気分になったのか、大の字で満足そうにもふらたちが寝そべっている。 「じゃあ、もふらさまたち、ブラッシングしますよ。任せて下さい! ふわふわです!」 もふら用の櫛を手に、観那がもふらたちの毛を梳く。その間に、温泉をきちんと埋め戻す。後片付けはきちんとせねば。 「あ、その梅は残しておいて欲しいって。根付いたらいい見物になるからね」 温泉管理人から打診があったらしく、ペケの梅はそのまま残される。 「お湯に浸かりすぎで、喉が渇いてませんか? 冷たい冷やし飴を用意しました」 熱い風呂に、冷たい一杯。もふらたちも喜んで口を付ける。 春はいずこと思う昨今。だが、それならそれで楽しめる事はある。 来年の今頃はどんな花を見てるだろう。どんな御菓子を食べてるだろう。 帰りは、早々とそんな期待を膨らませているもふらたちの、ふわふわになった毛に埋もれるように乗せてもらいながら、やっぱりのんびりと家路についていた。 |