|
■オープニング本文 アル=カマルにて発見されたからくり。調査が進む中で、それは突然全てが機能停止した。 原因不明の事態に混乱を生じたが、その後の調査で再起動に成功。 遺跡から見つかるからくりたちを次々と起動させていき、神楽の都にも彼らを相棒として扱う開拓者が増えてきていた。 そして、開拓者ギルドにて。一人の人妖が不満を叫ぶ。 「どういう事だべさ! 開拓者の可愛いカラクリといえばおら達が定番でねぇべか!? それをカビの生えた遺跡から見つかった骨董品なんぞが易々と隣に立つなんぞ、一万年ばかし遅いべ!!」 「なんなんだ、いきなり?」 繰り返すが、叫んだのは人妖。別にからくりでも無いし、個体差はあるもののあまりそういったなまりで話す事も無い。 そうあるのは、むしろ……。 「ちょっと土偶ゴーレムらの気持ちになって叫んでみたのよ。文句ある」 「出来ればどこかの野っぱらで叫んでくれ。仕事の邪魔だ」 宙に浮いたまま、高飛車に見下ろしてくる人妖に、ギルドの係員は迷惑だと訴える。 「何よ。あたしが折角気持ちを代弁してやってんのに。当の土偶たちですら、『わたすらはわたすら、からくりはからくり。皆で協力してご主人を助ければええだばさ』とかなんとか言っちゃって全く相手にしないし! そんな甘えた根性してたら、その内いたかどうか分からないような扱いされるんだからね!」 どうやら、すでに邪険にされてここに来たようだ。妙にご立腹で立ち去る気は無い様子。 「大体さー。ああいう焼き物連中って本当何考えてんだかさっぱり分かんない。駆鎧や滑空艇なんて、放っといたら一日中のへーっと何もせずそこにあるだけだし」 「その前に駆鎧や滑空艇は自立してないんだが……」 口を尖らせる人妖に、係員は頭を抱えるしかない。 「まぁ、人様の心配する前に自分の心配したらどうだ。ご主人はどうした」 「このあたしが、あんな焼き物人形如きに愛らしくて有能な相棒ナンバーワンの座を奪われるわけ無いでしょう。……そりゃ、今は何か研究が忙しいとかで追い出されたけど」 「なるほど、すでに御払いばふごぉ!!」 嫌味の一つも言おうとした係員の顔面に、人妖の小さな足がめりこんだ。係員は大きく仰け反り、そのまま体勢崩してひっくり返る。 「単なる自由時間をくれただけよ! まったく品が無い人間の相手はこれだから困るのよ。あーあ、何かおもしろい事無いかなぁ」 つまらなそうに伸びをしたかと思うと、係員の目が離れた隙に、人妖は勝手にギルドの書類を漁りだす。 あっちに一枚、こっちに一枚。散らかした挙句にふと一枚に目を留める。 「ん? 何この依頼」 「こら! 勝手に依頼を探るな!」 気付いた係員がすぐに取り上げようとするが、そこは人妖。ひらりと宙に上がると、手の届かぬ位置で目を通す。 「何々。草茫々の古い牧場を整備しようとしたら、足斬草が混じってて怪我人続出。このままでは危なくていつまでたっても整備が進まないから、開拓者に牧場の草刈りを頼むぅ? 何様よ、こいつ」 「依頼人様だ。決まってるだろう」 依頼に気を取られている間に、机に上った係員が飛び上がって人妖から依頼を奪い返す。 「足斬草は弱いとはいえ一応アヤカシだ。葉が鋭利な刃になっていて近づいた獲物を切ったり、真空の風を飛ばして斬りつけたりもする。そうして、流れた血を啜る。移動しない上に、一般人でも注意してかかれば十分やっつけられる程度の輩だが、草茫々の中に紛れていては厄介だろう」 「ふーん。弱いんだ」 仕事病か、生真面目に説明する係員を、人妖は何となく聞いていたが、 「丁度いいわ。この依頼あたしが貰ったげようじゃない」 にやりと笑うとまたもや素早く依頼書を奪い返してしまう。 「おいおい。幾ら弱いといっても、牧場全体にどれだけ足斬草が入り込んだか分からないんだぞ。お前さん一人じゃ無理だろ」 「あたしがやる訳無いでしょ。大体これって、結局牧場の草刈りやれって事なんでしょ。なんでそんな泥臭い作業しなきゃいけないのよ」 ふん、と鼻で笑うと、人妖はぐるりとギルドを見渡す。 そこには主について、一緒に依頼を確認したりしている相棒達の姿も。 「弱い相手だったら、起きたばっかのからくりとか田舎臭い土偶とかいつもむっつりの駆鎧や滑空艇でも十分でしょ。何考えてんだか分かんないだからこの際じっくり観察させてもらおうじゃない」 「いや……駆鎧や滑空艇は自力で動かんぞ」 「分かってるわよ。そういう道具と自力で動くやつらの比較をしてみたいのよ」 ふんぞり返ってる人妖に、係員は疲れたように突っ込むが。 確かに、相棒だけでも十分相手できる相手。駆鎧や滑空艇で草刈りもなんだが、手っ取り早いのは確かだ。 何より、これ以上この人妖に好き勝手されたくない。 「分かった。それじゃ方法は問わないから、牧場一つ草刈り頼んだぞ」 「はーい」 依頼人にしてみたら草刈りできたらいいのだし、と任せてみる事にした。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫
キルクル ジンジャー(ib9044)
10歳・男・騎 |
■リプレイ本文 荒れ果てた牧場に、足斬草発生。 このままでは作業も出来ないと開拓者ギルドに依頼が持ち込まれた。 アヤカシとは言え、草は草。放置されていた牧場も草がいっぱい。 要は草刈り頼むと言われたようなものだが、それでも放置は出来ない。すぐに開拓者が討伐に向う……はずだったが、そこにまた小さな茶々が入る。 「ねぇねぇ、あんた暇でしょ? だったらこの依頼、受けなさい」 小さな人妖は依頼書を奪うと、からくり中心とした相棒に上から目線で声をかけていく。その態度はさて置き、結果として相棒たちが中心となって討伐に向かう事になった。 「ふーん。土偶はやっぱりいない訳ね。やる気が無いのか、そもそもマイナーって奴なのかしら。……まぁ、いいわ。じゃ、頑張ってちょうだい」 牧場につくと、人妖は何かの小屋の上にふわりと腰を下ろし、お茶の準備を始める。 「草刈りしないの?」 アゲハの翅を閃かせ、カンタータ(ia0489)の羽妖精・メイムが人妖に並ぶ。その姿をちらりとだけ見た後、ふんと人妖はそっぽを向いた。 「泥臭い作業なんて繊細な私がする事じゃないわ。別にサボる訳じゃないわよ。ここから全体を見て、アヤカシに変な動きが出ないか見張っててあげるのよ」 だからあんたたちがやりなさいよ、と言外に主張される。 変な動きも何も、そもそも足斬草は動かない。衝撃刃で少し遠くの獲物を切りつけたりもするが、すぐに力尽きてしまうようなアヤカシである。だからこそ、安心して「行ってこーい」と送り出すご主人たちも多かった。 道も無い草茫々の牧場に、海神 江流(ia0800)のからくり・波美−ナミ−は不快な視線を向ける。 「確かに、着物が汚れそうね」 「ふぅん。そういう事気にするんだ」 「当然だわ。主から買っていただいたばかりの浴衣だもの」 きっぱりと言い切ると、汚れぬよう裾を少し持ち上げて準備を整える。 「まぁ、何があるか分からないですから。用心はした方がいいですって事ですね」 足元を確かめがら、キルクル ジンジャー(ib9044)が告げる。相棒と共に来たご主人たちもいる。もっとも、キルクルの場合、いなくてはどうしようも無い。 アーマーケースを広げると、出現するのはアーマー・レイピア。巨大な鎧は、重々しくキルクルの前で佇んでいる。 「そうそう。いい事言うじゃない。そういう意見をそこのでかぶつむっつりは言えない訳!?」 「うちのレイピアはむっつりじゃないのですー」 アーマーに向かって、憤りを見せる人妖。キルクルも反論するが、当の駆鎧は黙ったまま。当然だが。 もっとも、それは人妖も分かっていてしつこくは絡む気無い様子。自分で入れたお茶を素知らぬ顔で啜り出す。 柊沢 霞澄(ia0067)のからくり・麗霞は場にいる者たちを数える。 「刈払いの要員も少ないので時間がかかりそうですね」 「その通りだわ。さっさと始めたら?」 牧場は広い。どうにか今日中には終わりそうではあるが、それもきちんと作業をすれば。のんびりすれば、どんどん遅くなる。日が落ちるのは遅くなってきたとはいえ、長居もしたくない。 少しでも手は多い方が……、という気もするが人妖はさっぱり動く気配なし。 「私たちの仕事ぶりが主の評判にも影響するのですから。他の方も何か工夫してみては?」 人妖は諦め、麗霞は大鎌を取りだす。斬るだけなら剣などでも十分だが、草刈り用には出来ていないとわざわざ用意して来た。 「そうだね。それに、たまには熾弦がいなくてもきちんと戦えるってしっかり見せないと、安心して戦いを手伝わせてくれないもの。うん、頑張る」 羽妖精の風花は、一見大人しそうな外見で熾弦(ib7860)への固い決意を誓う。 隠れている足斬草。それよりも生えてるただの雑草。荒れた牧場。 地味に手強そうな戦場へと、相棒たちは進み行く。 ● 小金沢 強は困惑していた。平野 譲治(ia5226)から何やら装備つけられ、 「頑張ってくるなりよっ!」 と、気合いと笑顔で送り出されたものの、人妖が気にしていたのはからくり。自分、この依頼はちょっと違うんじゃないの? と……。 他の相棒不可なんて言われて無いので別に構わないのだろうが、回りはほとんどちっこい相棒ばかり。さらに、譲治からきちんとした依頼内容を聞いて無いものだから、今一何していいのかつかめず、何となく所在なさげでもあった。 けれども、大きいで言えばアーマーもいる。その主人は、何やら人妖と言い合っていたようだが、一度動き出せばやはり頼りになる。 レイピアが、アーマーアックス「エグゼキューショナー」を振り回す毎に、草が飛び散り、岩が粉砕され、無秩序に生えた木も折れる。アヤカシも雑草も関係なく地面を踏み固め、周囲はあっという間に平らに刈り込まれていく。 その動きを見て、強もやるべき事を悟る。全力で羽を伸ばしてくるといいのだっ! と言われたのも思い出し、文字通りに羽を伸ばすと、他の相棒たちがまだ踏み込まぬような地帯にまで移動する。 見定め地上ぎりぎりの危険な低さで飛びまわると、膝に付けられた膝槍を使って草を刈り込んでいく。絡まった草に足を取られ、何度か地面に激突する事もあったが、コツはすぐにつかみ、瞬く間にその範囲をひろげていく。 麗霞は大鎌を振るう。刈払う高さに保持、体を右側に捻り溜めをつくり、そこから左側に振って草を刈る。気合いを入れて軌道を見極め正確な動きで振るうと、さくりと草が切れる。 草を刈っていると、草の汁や茎葉によって切れ味が鈍くなる。その為、麗霞は予備の鎌も用意している。それが駄目になっても、研ぎ石も用意している。 「泥汚れが嫌でしたら、研ぐくらいは出来るのでは?」 「やぁね、そんな爪が欠けそうな事ゴメンだわ」 それぐらいはやってくれないかと声をかけるが、人妖は素っ気無い。 まぁ、下手に研がれると却って切れ味が鈍くなる。無理にとは言わず、麗霞は作業を続ける。 風雅 哲心(ia0135)はブリザーストームで、雑草を吹き払う。人妖は相棒中心に声をかけていたとはいえ、同行して作業を禁止する権限までは無い。その相棒である羽妖精・美水姫は主の頭の上でくつろいでいたのだが、 「うにゅ、草刈ですかー? いっぱい生えてるのです。斬るのは任せるのですよー」 相棒双刀を手にすると、青い蝶翅で宙を移動する。茫々の草むらへと突っ込み、刈り込んでいたが、その体に不意に薄く傷が入った。 「にゅっ!! 何かとんできたのです」 言い置く間にも見えない刃が飛んでくる。慌てて宙高く逃げると哲心のトルネード・キリクが草を巻き上げ引きちぎる。 纏めて倒された草むらへと、もう一度美水姫は近寄る。そこにはもう何の反応も無い。 「うにゅ。あれがアヤカシの草ですね。ちょっと痛いですー」 すっと腕に入った線を美水姫が撫でる。あまり深い傷ではない。が、その他の足斬草に紛れたままどこから飛んで来るのか分からないとなるとやはり面倒だ。 「アヤカシの分際で、生意気にも大地に根差すだなんて……許せませんわね。この私が、文字通り根こそぎにしてくれますわ!」 高飛車に告げるのは此花 咲(ia9853)の羽妖精・スフィーダ・此花。修行の旅に出て咲と出会ったものの、そもは大地を汚染するアヤカシと戦う、大地関連を象徴する一段の出自。憤りも深まろう。 「足斬草は反撃しかしてこないんだよね。……攻撃してくるなら、先に上を飛びまわって囮になるとかは出来るかな」 風花が小首を傾げると、まだ草茫々の場所を飛びまわる。 やがて見えない刃に襲われた。慌てて宙高くに逃げ、そこから慎重に目を凝らすと、風とは違う不自然な動きをしている草を目にする。外見はそこらの雑草と変わらない。だが、それこそがアヤカシ・足斬草なのだ。 どうやら、アーマーなどで周囲が派手に刈りつくされていくのを草なりに感じ取り、自分たちも危ういと思ったのか攻撃的になっている。 「誰の許可を得て生えていますの? 図々しいにも程がありましてよ……!」 見極めるや、スフィーダがその根近くまで飛び込み、真っ青な豪剣「リベンジゴッド」を一息に振り回す。か弱い足斬草はあっという間に薙ぎ払われる。切れた草はひらりと宙を舞い地面に落ちるのを待たずして瘴気へと形を崩し、土に残っていた根の部分も幻のように消えていく。 「あらあら。その程度ですの? 草の姿をしている癖に、碌な根性もありませんのね」 消えていくアヤカシを、スフィーダは鼻で笑う。これでは、他の草と纏めて刈り取っている間にも、すでに何体消え去っていることか。 「白刃♪ 白刃〜♪ あいた。足斬草もちょっきんだねー」 ギロチンシザーズをしゃきしゃき鳴らしながら、メイムは草を刈り込んでいく。 燐火剣で刈り取っていた波美だが、短剣ではやはり草のそばまで寄らねばならない。伸ばした白い手にするりと草が勝手に巻きつく。とっさにつかんで刃をたてる。 力もついでに入ったか、ぶちぶちと音を立てて足斬草は千切れ、瘴気へと戻った。 が、巻きついた手に少しだけ傷がつく。 「主の許し無く……、私に傷を……」 むっとするが、その頃にはもう相手はいない。これ以上、傷はつけないよう、更に慎重に草むらを刈り込んでいく。 ● 「もう動かないの? やっぱりむっつりはダメね。いざという時動けないと優秀な相棒とは言え無いわ」 「だから。うちのレイピアはむっつりじゃないのですー!」 アーマーの稼動には限界がある。練力不足になり、ショーテル「灰尽」持ってよたつきながら草刈を始めたキルクルに、人妖は呆れた声をかける。 広いとはいえ、力に猛るレイピアや広範囲に移動しやすい強がいるお陰で草刈りも順調。予定よりも早く仕上がりそうだ。 時折紛れている足斬草は厄介だが、それも慣れてくると気の配り方も分かる。避け方や予めの探し方も分かってきて傷を追う事もなくなった。 後は黙々と草を刈るのみ。 けれども、そろそろ夏の日差しになってくるかという頃。外でずっと作業を続けるのは、アーマーでなくてもばててくるもの。相棒たちだって疲れはある。 なので適度に休憩を挟む。 「やぁねぇ。まだ終わんないのー。おっそーい」 人妖は不平を漏らすが、ずっと休憩しているような子に口を出す権利は無い。 「労働の後のお茶会は格別だよ、ほら、カンタータちゃんが朝にクッキー持たせてくれたんよ」 「ちょっと、変な物落とさない下さる? せっかくのお茶が台無しになるじゃない」 「変なものじゃないよ。幸運の光粉だよ」 ピンクのツインテール揺らして飛びまわるメイムに悪態つきながらも、人妖は用意していたお茶を渡す。一応、労ってくれるようだ。 ワッフルにドライフルーツの入ったクッキー、キャンディと疲れを癒す糖分は十分。紅茶に緑茶も準備され、一行は適時体を休める。 その中で、身体の傷を気にしたり鎌の手入れをしていた麗霞が、おやつにも手を伸ばしたのを見て人妖が驚く。 「あんたたちも食べるの?」 「せっかくですから、少しだけ」 からくりに食事は基本的に必要無い。が、食べられない訳でも無い。味覚もあるようだ。もっとも、麗霞に関してはその部分少々怪しい所かもしれない。 そういうもんなんだ、と素直に目を丸くしている人妖に、波美はそっと手を伸ばす。 「からくりは人の形はしているけれど、生き物には遠い身体だから。この肌もそう。柔らかい貴女の肌、羨ましい……」 作られたという意味では人妖も同じ。けれどその外見は人妖は人に近く、からくりは人形に近い。 波美が顔を伏せる。表情自体は乏しいからくりも、感情は豊かだ。ふとした仕草でそれは分かる。 「主に見つけて貰えなければ、私も他のからくりのように、遺跡の中で朽ちて塵になっていくだけだったのかもしれない。でも主はそんな中から私を見つけて、枷を外し名を与えてくれた。だから、生涯をかけて尽くすだけの意味が私にはあるの」 不明点も多いからくりだが、その不明は自身の不安にも還るのか。けれども、誇らしげに波美は告げる。 「もしかすると、からくりよりも人妖の方が相棒として優れているのかもしれないけれど……『私』は、主にとっての一番の相棒であってみせるつもり。貴女はどうかしら、人妖さん?」 「私が主の一番なのは当然でしょう。いちいち確認するまでもないわ」 くすりと笑う波美に、人妖が不機嫌そうな顔を作ってそっぽを向く。 「でもね。やっぱり一緒に草刈りやらない? アヤカシ退治で頑張れば、ご主人様にも威張れて、出来るんだって改めて認めさせられるかもしれないよ?」 「別に。改めて認めさせるまでもないわ」 「そっか……」 身振り手振りを交えての風花の誘いもにべなく断る。 けれども、皆がまた草刈りに出払ってしまうと、所在なさげに暇そうにている。ずっと食べてばかりでは飽きて当然か。 そんな人妖の側に、強が舞い降りる。 「何よ。乗れっての」 その通り、と仕草で促す強に、人妖はやれやれと肩を竦める。 「高い所から指揮も必要だものね。仕方ないから乗ってあげようじゃない」 悪態つきながらも、どこか楽しげに人妖は甲龍につかまる。 人妖を連れて、強は作業を再開。上昇と下降を繰り返し、草を刈り続ける甲龍から、歓声がずっと響いてきていたのを、他の相棒たちはそれぞれの眼差しを向ける。 「にゅー。みずきは主様の上のがいいですねー」 休憩休憩と、美水姫は哲心の頭上に降り立つ。 のんびりとのんびりと。時折、足斬草と闘いながら、時は過ぎていった。 ● 夕暮れ迫る頃には、牧場内は来た時とは見違えるほど綺麗になっていた。 刈った草も一箇所にに纏め、高い山が出来ている。そこから足斬草が攻撃するような真似も無い。 「マスターに『新しい剣の試し斬りをしてこい』と言われて来ましたけれど。この程度の相手では、聊か物足りなかったですわね。結局草刈りもさせられましたし」 剣の刃こぼれがないかを確かめながら、スフィーダが告げる。何せ、足斬草がどれだけどこにいるか。確実に退治するには、ひっくるめて全部刈り取るのが早かった。 牧場の依頼主に事の終了を告げると、後は個々に家路に着く。 「それでは霞澄さまがお待ちですので、先に帰らせていただきますわ」 優雅にお辞儀をすると、早々と麗霞は帰路につく。 キルクルは気負い無く収納済みのアーマーケースを背負い、強はギルドで出迎えた主にちょっと冷たくそっぽを向いて慌てさせている。 相棒毎に主への思いも様々。されどその絆は、例え他者には理解できずとも確かに存在している。 |