【桜蘭】行方
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/26 22:00



■オープニング本文


「東堂派は殺せって命令を聞いてないのか!」
「我々が受けた命令は護送だ。無論反抗すれば相応の対処はするがな」
 双方の長が殺気に近い視線を向けあい、一触即発の雰囲気が強くなる。
「俺達は森様から直接命令を受けんだ。悪いが通してもらうぜ」
 荒っぽい方の浪士組が直接行動に出ようとしたそのとき、聞く者の背筋を凍り付かせる声が響いた。
「隊士同士で争う馬鹿は要らん。今退けば不問にする」
 柳生有希(iz0259)の威圧と真っ当な理屈に圧され、森藍可(iz0235)の名を受けた者達が退散していく。
「真田のもとへ連れて行く」
 元東堂派隊士は無言のまま頷き、毅然とした態度を保ったまま従順に柳生の後に続いていく。護送隊である真田よりの隊士達もほっとした様子で、東堂派の左右について動き出す。
 能面じみた冷たい無表情のまま、柳生は内心舌打ちをしていた。
 東堂俊一(iz0236)死後、真田悠(iz0262)について森藍可と争うのは覚悟していたが、ここまで相性が悪いとは正直思っていなかった。森を出し抜いて主導権を奪取すれば済むと考えていたが、相手が先んじて行動を起こしたが為に、かえって森たちも動き始めた。この調子では流血の事態は避けられないかもしれない。

「真田さん! 東堂さん……いえ、東堂が!」
 隊舎に伝令が駆け込んできた瞬間、真田は得物を手に取り即座に出られる姿勢をとる。
「自ら縛につきました。反乱部隊の一部も東堂に倣い降伏しています」
 伝令は荒い息をつきながら、声を張り上げ報告を行う。


「これまでのようですね」
 東堂捕縛の報告はたちまち都中に広がった。世間が知ると同時、それは逃げる東堂派隊士の耳にも入っていた。
 隠れて様子を見ていた真坂カヨは、共に逃げた仲間たちに静かにそう告げた。
 逃げ切れず捕まった隊士も多い。だが、逃げ切った隊士も多い。残った手合いを集めて、未遂の計画を強引に決行する事は出来る。
 しかし、それをした所でもはや何の意味があるのか。全てを画策し、そして指揮していたのは東堂であり、その志も東堂という中核があってこそ。
 形だけの計画を行っても役に立たない。もはや結果は決まったのだ。それは誰の目にも明らかだが……。
「私は投降します。逃げたい者は逃げて構いません。あなたたちは巻き込まれたようなもの。私も出来うる限り嘆願を行い、あなた方への罪は無きよう計らいます。ですから、これ以上誰かと争い合おうなど考えないで下さい。無駄な争いなど、誰も望みはしません」
 目を伏せ、諦観しながらカヨは同士に語りかけていた。
 そしてカヨは屯所へと去った。

「納得できるか!」
 そう声を荒げるのは、坂野井修一だった。家が桜紋事件に関わった為に取り潰され、幼かった彼はその後苦労して生きてきた。
 真坂カヨと再会し、桜紋事件の真相を知った。その汚名を晴らし、歪んだ秩序を正すとあらば、拒絶する理由など無い。
 それが、こんな形で頓挫しようとは。全てを受け入れるには、彼は少し若かった。
「せめて一矢。変革は無理でも、奴らが何をしたか思い知らせるべきだ!!」
 苦渋と共に吐き出す言葉に賛同した者も多かった。単に暴れたいというごろつきも加わったが、それもまたよし。志や品性が下劣であるなら、使い捨てにもしやすいというもの。
 かくて、東堂派の一派は都の闇を駆ける。目指すは都の中心。そこには祭りの為に朝廷の大物が多数滞在していた。


「あれは。確か坂野井と言ったか」
 とある浪志組の隊士は、都の裏を疾駆する見知った顔を見つけて顔を歪めた。東堂派の同士……いや、元同士だ。
 だが、かつての同士であっても、東堂派であればもはや謀反人である。その仲間も下種の罪人と成り果てた。だというのに、真田派は捕縛せよ、生け捕りにせよ、と喧しい。
「謀叛を企む大罪人に情けをかけるなど、真田の連中は阿呆揃いか。いいから、急ぎ同士を集めよ。ただし、真田派の奴らには悟られるな。森さまの命を遂行するぞ」
 坂野井たちは、どうやら朝廷の重役が屯している界隈へ向かおうとしている。ならばなおさら手加減無用。凶賊を倒すのは治安維持には当然の事。

 悟られるな、と言われても、物騒な森派隊士を見張る輩は少なく無い。屯所から、見回りから、森に傾倒する隊士が抜け出て集まる気配を感じて、これは誰か討伐に向かう気かと真田派の隊士はおおよその見当を付ける。
 ただ捕縛を旨とする真田派隊士。相手を取り押さえる為に手がかかる。どうしても、数が足りなくなる。
「誰か動ける奴はいるか。ギルドの連中に声をかけてもいい。森派を押さえ、相手が東堂派隊士ならば急ぎその身柄を確保せよ」
 無用な血など真田も東堂も望んではいない。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
高見 醒鋭(ib9619
22歳・女・サ


■リプレイ本文

 謀叛を企てた楼蘭党。
 首謀者たる東堂俊一が大人しく縛についても、混乱はすぐには収まらない。
 大人しく出頭してくる者もいるが、なお現状を不服として暴れる者もいる。
 身から出た恥。その汚名を雪ぐべく、浪志組は騒動の鎮静化に急ぐ。
 だが、その浪志組とて今だ一枚岩ではなく、内部は微妙な力関係が渦巻いている。
「お祭りの人込みでの刃傷沙汰は無用な混乱と怪我人を出すだけだと思うのですけど……。浪志組のお名前に瑕をつけないよう上手く纏める算段が、森派の方々はお有りになるのでしょうか」
「無法者を放っておく方が世の混乱も怪我人も多数出る。それを最小限に食い止めた、辺りで森さまなら纏め上げるだろうな」
 和奏(ia8807)の疑問に、連れ立って走る浪志組が答える。
 答えた側は同じ浪志組でも、真田悠を支持している。苛烈で豪胆な森藍可に対して、考えは温和で慎重とも思える。志は同じであるが、取る手段は大きく違う。森は謀反人はただちに始末せよと言い、真田は捕縛せよと言う。
 思えば、東堂はよく彼らを纏めていたものだ。
「恐らくこの辺りと思うのだが……」
 貴賓街に入れば、都の様子もがらりと変わる。特に武帝がお越しになった上、こんな騒動まで起きれば、建物の出入り口に門番がいるのも当たり前。
 森を慕う隊士は東堂の残党を察知してすでに動き出していた。真田を慕う隊士はその森の動きを見て動き出した為、どうしても遅れを取る。
「そこらの奴に聞きゃいいだろう。森派も東堂派も目ェ血走らせて走ってェんだから見つけるのは容易いよなァ」
 鷲尾天斗(ia0371)がけらけら笑う。言い草に反論してくるかと思いきや、隊士たちはあっさりと同意し、聞き込みを始める。
「真田や天草にはカリを返したから、ここいらで貸しを作っておくのもいいかもなァ」
 彼らの態度に軽く肩を竦めたが、すぐに歪んだ笑みを浮かべ、軽い足取りで行方を知りそうな相手を探す。
「真田は、真田は浪志組の設立以前から『皆が安心して暮らせる場を護る』ことを願い動いていた。その芯を通すつもりならば、俺も部外者なりに協力しよう」
 浪志組から出た叛乱計画及びその捕り物は、少なからず開拓者にも影響を与えている。
 キース・グレイン(ia1248)は民を守る同志として考えていた組織の失態を残念な思いで関わる。ただ、浪志組は取り潰された訳では無い。東堂の思考を払拭し新しく立て直し、もう一度神楽の都を守る組織として動き出すはずだ。
 その規律の要になるのは誰か。おそらく、その駆け引きももう始まっている。


 少々の聞き込みで、森派の動きはすぐに知れた。事を起こすまでは隠れて動かねばならない東堂派と違い、森派が警戒するのはあくまで同じ隊士である真田派ぐらい。
「とすれば、東堂派も近くにいるはずだ。おそらくは要人を狙って」
「ですね。俺らはこのまま東堂派を探します。うまくすれば鋏打ちにできるかも」
 キースの推測に、菊池 志郎(ia5584)は頷くと何人かと共にさらに情報を求めて街中を駆け出す。

 別に森派真田派と名札をぶら下げている訳では無い。部外者にはどちらも同じく浪志組。けれども巧みに抑えられているが、紛れもなく殺気を感じるのは、捕縛を旨とする輩には似合わない。
 いつでも刀は抜ける状態の隊士たち十名。その間近でいきなり、銃声が響いた。
「ドォ〜ンと一発ゥ! ハァ〜イそこの道行く三下達〜、足止めてコッチに注目ゥ〜。都を騒がせるガチロリさんが居るよォ〜」
「何奴」
「だからガチロリさんですよォ〜」
 魔槍砲「アクケルテ」で天に向けてブラストショットを放った天斗が、笑いながら姿を現す。連れ立って、真田派の隊士の姿を認めて、森派は苦々しい表情を作った。
「開拓者たちか。手勢なら足りている。さっさとその者と別の場所を調べていろ」
 去れ、と森派が告げる。
「まぁまぁ、そう仰らず。お茶でも飲んで落ち着きませんか。何なら屋台で買った飴もありますよ」
 何気ない仕草でふらふらと和奏が歩み寄る。と思うや、手にした飴をひっくり返し、森派の隊士にぶつかる。
「何をしている」
「ああすみません。すみません」
 謝りながらも、着物を拭おうとし。そうしながらも何気に足を踏ん付けたりしている。
「貴様! 何がしたい!!」
「うーん。引止め難しいですね。早々と斬られそうです」
 顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる森派に、明後日の方を向いて和奏は呟く。早々と後ろに引っ込んだ和奏に代わり、長谷部 円秀(ib4529)が森派の相手をする。
「騒ぎを起こすのは下手をすると浪志組の進退、藍可さんにも悪影響があるのではないですか?」
 森派が不快そうに目を鋭くした。
「東堂派をお探しになっているのでしょう。自分が責任を持って、私の義、私自身にかけて東堂派を止めてみせるので任せて欲しい。無理なら私が東堂派に引導を渡しましょう」
「断る」
 円秀の申し出を、しかし、鼻で笑って即答する。
「大罪を企てた者たちに何の情けが必要か。帝を手にかけんとするその不届きな振る舞いに、しかるべき罰があって当然。それを温情だと? 大罪を犯すことがどれだけ恐ろしいか、しかと知らしめねば阿呆どもが付け上がるだけだろうが」
 吐き捨てる言い様は、受け入れる気などさらさらない。
「血を見るのが嫌というなら、そこの盆暗隊士と共に去れ。大人しく家にでも篭っていろ」
「貴様ら……そんなに無駄な血を流させたいか」
 黙って話を聞いていた九竜・鋼介(ia2192)だが、さすがに腹に据えかね、剣呑な眼差しを向ける。
「生きる価値を無くした屑を始末するだけだ。邪魔をするなら、その方らも奴らの仲間とみなすが」
 森派の構えが変わる。強制的に開拓者を排除する気だ。
「仮にも街中。内部のいざこざで、民間人に恐怖心を植え付けるような真似をする気か?」
「凶悪犯が野放しでいる方が恐怖だろう。確かに終わったという証こそが大事だ」
 キースが言葉を続けるが、森派の態度は変わらない。
「仕方ない。ここは食い止める。その間に、東堂派を捕縛してくれ」
 これ以上の話し合いは無駄、と鋼介は森派に不動の構えを取る。気合と共に肉体を硬質化させる。その不退転の意志は森派にも伝わった筈。
 森派の人数は多いが、単に行く手を阻むだけなら熟練の開拓者たちならば、そんなに人数はいらない。
「行かせるか」
「それはこちらの台詞だ」
 その場から離れようとした開拓者を追い、森派が動く。その行く手に鋼介は飛び込む。
「痛い目に合いたいか」
「別にぃ。森派だとか東堂派とか、俺には関係無いし、知ったこっちゃ無いんだがよぉ」
 両端を釣り上げて笑いながら、天斗が片方だけの目を森派に向ける。
「だけどさァ、喧嘩ッつーのはよォ。負けそうな奴に肩入れして勝ち誇ってる奴をぶちのめす方が楽しくねェかァ?」
「捕り物だ。喧嘩と一緒にするな」
 挑発に敢えて乗ったか。森派の何人かが武器を手にする。
 と、同時に半数ほどが影に隠れて離脱しようとする。開拓者たちは単なる邪魔であって捕り物の対象でも無い。あちらもまた数名を足止めに残し、残りは東堂派を追う腹か。
「仕方ない」
 鋼介は飛び出すと、密かに追いかけようとした森派に迫り、払い抜ける。武器は十手。刃は無く急所も外したが、攻撃を加えればさすがに森派も黙ってはいない。
「手を焼くな。向こうまで飛び火しなければいいが」
 不動と強力により高めた体でキースは森派を押さえ込む。適度なところで抜けて後を追わねば。東堂派に言ってやりたい事も多い。
 たちまち辺りは騒乱。剣撃や銃声が駆け巡る。


 藪の中、明かりが見えた。小さな小さな種火のようだが、それでも火。一体何に用いるつもりなのか。
 周囲には息を殺した人たちが手に手に武器を持っている。数は十五名。きりっと表情引き締め、一際大きな建物をにらみ付ける。
 矢の先にその火種を括りつける。そのまま弓に番えて引き絞ろうとする。
 そこに足元に白霊弾が飛んできた。慌てた弓手は矢を落とし、引火して矢が燃える。
「お前は」
「お顔が見えましたので」
 白霊弾が打たれたほうを見れば、柚乃(ia0638)が頭を下げる。問うた坂野井修一とは過去に顔を合わせている。
 柚乃の周囲にはさらに開拓者たち。坂野井の表情が暗くなった。
「一体ここで何をするつもりだったのですか」
 志郎が問うが、相手は黙ったままだ。もっとも、抜き身の武器を持って貴人宅に火をかけようとしたのだ。どんな言い訳が立つというのか。
「今ここで『一矢を報いる』なら、桜紋事件に係わりのない人達も巻き込み、傷つけることになります。それはあなた方の正義に反しないのですか。真坂カヨさんが保護していた子供達……。あの子達は、あなた方が世の中をよくするために行動していると心から信じています。そんな彼らに、これから行おうとしている事を胸を張って言えますか?」
 子供を引き合いに出すのは心苦しいが、今は場を納めるのが先決。志郎は真剣に相手に訴えかける。どうか武器を下ろして欲しい、と。
「残される者の苦しみ……。坂野井さんなら分かる筈……」
 柚乃も憂いの目を見せる。遺恨がどれだけ心に残るか。やがては無関係な人間も巻き込むこの騒動は、やがてまた繰り返すのだろうか。
「どうするんだ。俺たちは暴れられりゃそれで良し。それがお上に対してならなおさらだ」
 だが、進み出てきたのは明らかにごろつき風情といった輩だった。東堂たちの精錬された雰囲気とはまた違う。その声はどこかふざけている。
 坂野井たちは促されて悩む素振りを見せてはいる。
「考え直さないの? こんな下らない事に命を捨てるなんて、ばかばかしいわ。あなた達がこうして、個人的な欲求を満たしたいがために命を賭けている間、世界では、生きたい。まだ生きていたい。まだ死にたくない。そう感じている人が、何人いると思っているの。……自分の地位や誇りを盾にして、生きる事から逃げて甘えるんじゃないわ!!」
 高見 醒鋭(ib9619)が恫喝するが、坂野井がそれを真っ向から睨み返す。
「なにやらこちらも一筋縄では行かなくなってますが」
 森派の騒動を抜けて、東堂派を探していた円秀とキースが剣呑な雰囲気に気付いて飛び込んでくる。
 一触即発の姿勢だが、それでも円秀は訴える。
「その行動は東堂さんの意に叶うのですか。浪志組の義、それが成されないと絶望したからこその今回の事案では。彼は覚悟し、そして今、粛々と罰を受けようとしている。その覚悟を無駄にし、浪志組の義に反してないのか。私怨ではなく、一度原点に浪志組の理想に戻りましょう。義を成すことこそ本意、仇を討つことではない」
「そうだ」
 けれど、坂野井たちは態度を崩さない。
「我らが何故事を起こすか。桜紋事件……、朝廷が英帝さまを軽んじねば謀叛などそもそも起きず、楠木さまも……俺の父母も一族も逆賊の汚名を被らず死ぬ事すら無かったのだ。帝の威光を汚し腐敗した朝廷を野放しにしておれば、やがて民が苦しむ事になる」
 東堂さまは甘い、と吐き捨てる。
「名を汚すような事、して欲しくはありません。汚名を晴らすどころか、故人の顔に泥を塗る事にもなりますよ」
 柚乃が叫ぶが、坂野井の手に力が篭る。同士らしきサムライたちもそれに倣うと、へらっと笑ってごろつきたちも構えを取った。
「隊の規律をいい事に、猫を被ったロクでもない輩も紛れ込んでいるようだが……。今お前らがやろうとしている事はなんだ。血で血を洗う世界を望んでいるのか?」
「望むのは尽忠報国。天儀に正しき御世が訪れる事だ」
 キースに答えるが早いか、坂野井が動いた。抜かれた刀は避けられ空を斬ったが、それを皮切りに他の東堂派も動き出す。
「都を騒がせるというなら、縛についていただきます。治安を守るのは浪志組だけではないのです」
 柚乃は一瞬泣きそうになりながらも、眼差しを鋭く返すと、白霊弾で足を狙い、移動を止める。
「実力行使やむなし、か……。断られはしたが、やると言った以上、それを果たす責任がある。幕引き、この手で担います」
 円秀が構えを取るとすばやく東堂派の一人に迫り、拳を振るう。
「投降捕縛し大人しく沙汰を待つなら、森派には決して手を出させません」
「言っておくが、逃げて森派に斬り捨てられたとしても責任は取れんぞ」
 空気撃で転ばせ霊刀「カミナギ」で打ち据える志郎。
 キースも言葉を被せながら致命傷を外しながらきつい拳をお見舞いしている。
「警告はもう十分すぎるほどよね。それでも向かってくるという事は、生を放棄したという事。……容赦はしないわ」
 後方に下がると、醒鋭は刀「牙折」を振るう。生み出される衝撃波で大地が一直線に伸び上がり、捉えられたごろつき一体があっという間に全身を裂かれ、血の海に倒れる。まったく手加減など無い。
 けれども、わざわざ止めを刺しにもいかない。
(向かってくるなら別だけどね)
 醒鋭は心でそう呟く。
 熟練の開拓者が揃ったとあって、ごろつき風情では手も足も出ない。坂野井始めとするサムライらしき者たちもは奮戦していたが、それでも敵ではなく、瞬く間に彼らは捕らえられた。

 東堂派の者たちを捕縛し、傷ある者を志郎が癒す。その作業からさらに流れるように、捕縛した者たちを詰所まで連行する。
 森派の者たちが駆けつけたところで時すでに遅し、さすがに捕らえられた者を殺害したとあっては問題になる。
 東堂派は牢に入れられ嘆く。捕まった事では無く、朝廷を正せなかった事に。
 彼らもまた流罪となる。二度と会う事は無いだろう。