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■オープニング本文 ●夜に啼く鳥 チッチッチュンと、雀の鳴くような声がした。 夜なのに雀が鳴くのも奇妙だと思っていると、外でガタンと音がする。 何事かと男が草履を引っ掛けて外へ出てみれば、通りには隣家の者の姿があった。 「おぅ、どうしたい?」 寒そうに背中を丸め、袖に手を突っ込みながら声をかければ。 振り返った相手の隣に、見覚えのある人影が一つ。 「‥‥婆ちゃん?」 目を丸くした男は、まさかと我が目を疑った。 小さい頃に死んだはずの祖母が、そこにいて。 隣人の傍らで酷く怯えた顔で、助けを求めるように男を見やる。 「お前‥‥うちの婆ちゃんに、何を‥‥!」 そんな筈はないと胸のどこかで判っていたのだが、先にカッと頭へ血が上った。 とっさに殴りかかった男へ、隣人が振り返る。 その手に、合口がちらと見えて。 あっと思った時には、ストンと刃が胸に刺さっていた。 それでも残った勢いだけで、男は隣人を殴り飛ばす。 突っ込んできた男とぶつかった隣人は、体勢を崩して一緒にひっくり返り。 そして、二度と起き上がることはなかった。 倒れ方が悪かったのか、首があらぬ方向に曲がっていたが‥‥殴った本人には、もう確かめる術などある筈もなく。 月の細い夜闇に残ったのは、薄ぼんやりと立つ人影が一つ。 もし見る者がいたならば、人影には『顔』がない事に気付いたろう。 再びチッチッチュンと、雀の鳴くような声がすると。 誘われる様に、家の影から同じような人影がもう一つ現れた。 動かなくなった男二人へ、二つの人影は次々と覆い被さる。 そして羽ばたきと共に小さな影が二つ舞い降り、遅れて『獲物』にありついた。 ●面影顔 『 朱藩にある村が、アヤカシ「白顔」に襲われた模様。 アヤカシの正確な数は不明だが、「夜雀」の鳴き声を聞いたという話もある。 至急の討伐を願う 』 「まぁた、面倒なアヤカシが出たモンだぜ」 張り出された依頼書を眺めて、ゼロが呟く。 依頼はアヤカシに襲われた村ではなく、近隣の村々からの連名で出されていた。 命があるうちに逃げた者達が、情報を提供。不確定な情報をまとめたギルドの出した『推測』が、『白顔』と呼ばれるアヤカシの出現‥‥なのだろうが。 「そんなに、厄介なアヤカシなのですか?」 隣で同じ様に依頼書を見ていた弓削乙矢が、呟きを聞き止めて尋ねた。 「厄介というか、面倒くせぇというか。『白顔』てのは『面影顔』と呼ばれる事もあって、人にあらぬ面影を見せて惑わせ、同士討ちを誘う。だから下手に数で攻めると、余計に酷い事になったりしてな」 話を聞いた乙矢は再び依頼書を読み返し、考え込む。 「それは確かに厄介です‥‥でも、誰かが討伐しなければならないんですよね」 「まぁ、そうなんだが」 答えたゼロが受付を見やれば、物言いたげな係員がじーっと視線で訴えていた。 「もし白顔相手で同士討ちを始めようモンなら、誰かが止めなきゃあならねぇから‥‥『見届け役』としてなら行ってもいいが。ただ、夜雀がなぁ」 「夜雀……? この、鳴き声を聞いたという話ですか」 聞き慣れぬ言葉に、顔を上げた乙矢が小首を傾げる。 「夜雀もアヤカシだぜ。見た目は雀みたいなモンで、鳴いて近くのアヤカシを呼びやがる。普通は、もっと山ン中に出るんだが‥‥そうだな。乙矢も来るか?」 「私が、ですか?」 きょとんとした乙矢が聞き返せば、腕組みをしたゼロが首肯した。 「夜雀を討つのに、弓術師の腕が幾つかあると有難い。白顔の惑わしが怖いなら、無理は言わんが」 「‥‥未熟な腕ですが、それでも良ければ」 逡巡した後に弓術師が心を決めればサムライは頷き、受付に話をつけに行く。 三度じっと依頼を見つめた乙矢は拳を握り、それからゼロの後へ続いた。 |
■参加者一覧
柚月(ia0063)
15歳・男・巫
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
神呪 舞(ia8982)
14歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●鈴音 チリチリンと、小さな鈴が鳴った。 「‥‥これは?」 「見ての通り、鈴だ。念のために、皆でつけておこうと思ってな」 不思議そうな顔で鈴を振った弓削乙矢へ、鈴を配る天目 飛鳥(ia1211)が説明する。 「古来より鈴の音には、邪気を祓う力があると言われている‥‥それがアヤカシに効果があるかどうかは置いても、鈴の音で敵味方の判別をつけられるかもしれない」 「鈴をつけた相手は仲間、か。音でアヤカシを祓えるかは、疑わしいが‥‥仲間がどこにいるかの目安になるってのは、確かにいいな。何せ、明かりも少ねぇ事だ」 手の平でゼロは鈴を転がした末、掛け金の一つに引っ掛けた。 夜雀が現れる時刻は、夜。 既に人の気配がない村では、それぞれが持つ灯かりを頼りにしなくてはならない。 「惑わしかぁ。厄介だねっ」 「ああ、うちが結びますえ」 着物の袖に鈴を結ぼうと柚月(ia0063)が苦心していると、見かねた雲母坂 優羽華(ia0792)が手伝った。 「ありがと、優羽華」 柚月が礼を告げれば、黒い艶髪を揺らしてにっこりと優羽華は微笑む。 「まぁ、惑わしを振り切る為のきっかけにでも‥‥なってくれると、良いがな」 袖を振るたびにチリチリと鳴る柚月の鈴を見ながら、ぽつりと飛鳥が呟いた。 「それにしても、幻を見せて人を惑わせて同士討ちをはかるなんて、厄介なアヤカシですね‥‥いえ、悪趣味と言うべきでしょうか」 どこか固い口調で神呪 舞(ia8982)が眉をひそめ、僅かに優羽華も表情を曇らせる。 「そうどすな‥‥皆はん、あんじょうよろしゅうにぃ。ゼロはんは、お久しゅうどすなぁ」 ちゅうても、依頼では初めてなんどすがぁ。と、再び笑顔を浮かべる和やかな巫女へ、ゼロも気安く笑い返した。 「ああ、そういえばそうだな。頼りにしてるぜ。柚月もな」 「おっちゃんの所為で、乙矢やゼロともご近所さんになっちゃったし‥‥折角だからね。ご近所付き合いは、大事でしょ。それに、懐が寂しいのもあるしねー」 ぷぃと餅のように柚月が頬を膨らませ、からからとゼロは喉をそらして大笑する。 「ま、懐寒いのは、何かと辛ぇからな」 稼いだ金が翌日には消える事も多いという噂のあるサムライに、乙矢が小さく苦笑し。 「よろしくお願いします、ゼロさん、弓削さん」 「こちらこそ、よろしくお願い致します。神呪殿」 改めて言葉をかける舞へ、丁寧に乙矢は頭を下げた。 「それで、白顔‥‥とやらは、あたしに何か面白いモノを見せてくれるんでしょうかねぇ」 帽子のつばに手をかけて真珠朗(ia3553)が呟けば、「さぁて」とゼロはがしがし髪を掻く。 「見えるモンが『何か』は、俺にも判らねぇからな。鬼が出るか、蛇が出るか‥‥あるいは、全く何もねぇか。ただ白顔を退治する時には、同士討ちしただのしかけただのって話を、ちょいちょい聞くからなぁ」 「ふぅん。何や、ややこしおすが、このままのさばらしとくんはあきまへんしなぁ」 人差し指を口元に当てて、優羽華はやや思案顔をした。 「そういえば、弓削とは大船原でのアヤカシ討伐以来だな。最近、崎倉とは会ったのか?」 ふと、思い出したように飛鳥が尋ねれば、「はい」と乙矢は首肯する。 「縁があって、神楽では崎倉殿らの住まいの近くで、居を構える事となりました」 「なるほど。よければ白顔退治が終わった後にでも、近況を聞かせてもらえるか?」 「喜んで。サラ殿共々、つつがなくおられますよ」 「そうか」 僅かに笑んで飛鳥が一つ頷くと、チリンと小さく鈴が鳴った。 「そうそう。失敗して同士討ちしだしたら、迷わず俺達の首を斬り飛ばしてくれていいぜ」 「はぁ?」 道すがら、突然の巴 渓(ia1334)からの『申し出』に、憮然としたゼロが相手を睨み据える。 「ナンで俺が、そんな面倒くせぇ事をしなきゃあならねぇんだ。それに、てめぇの首だけならともかく、他人の首の事まで勝手に決めてんじゃあねぇよ」 不機嫌さを隠しもせずに言い放ち、それ以上は耳を傾ける気もないという風に、見届け役のサムライは渓から視線を外した。 ●思い揺らぎ、惑い揺らぐ 「白顔がいたら、飛鳥と真珠朗に任せて‥‥とにかくこっちは、夜雀を先に退治だね」 「うちは、周辺警戒しときますえ。白顔だけやのうて他のアヤカシも寄ってきたら、難儀どすからなぁ」 分担を確認する柚月に、こくと優羽華が頷く。 「お願いします。他のアヤカシを呼ばれる以外に、逃げられるのも厄介ですから」 「そうだね。仲間呼ばれたり、逃げる前に潰しちゃおっ」 梓小弓を携えた舞と、気合を入れる柚月。 二人に加えて渓と乙矢がまず夜雀を見つけ、これにあたる事となっていた。 「問題は、気功波が届かない位置まで逃げられた時か。そうなる前に倒せば、問題ないが」 相手が鳥では、もし高い場所へ逃げられたら渓も手が出せない。 柚月は念のためにとダーツを用意してきたが、距離が開けば舞の梓小弓と乙矢の理穴弓が便りだった。 「昼ほどに見通しが良くないので難しいですが、そうも言ってられませんね」 ピンと張った弦を、軽く弾いて舞が確かめた。 小さな羽ばたきが一つ、梢に止まった。 それから遅れて、もう一つ。 二羽のアヤカシは尾を上下に動かし、久し振りに見つけた『獲物』を観察する。 それから再び一つが飛び、もう一つが後を追った。 村の上を一回りして、物陰にうずくまる『相棒』を見つけると、チッチッチュンと鳴き声をあげる。 その呼び声に、目鼻口のない顔を天へ向け。 立ち上がった白顔は、誘われるように歩き出した。 「今の鳴き声、聞きました?」 「うん、あっちから聞こえた!」 聞き止めた舞が問えば、柚月も暗がりの先を指差す。 「向こうって、優羽華が残っている方だよね」 「はい。一人のところを、狙う気でしょうか」 声を追って急ぐ足は、次第に駆け足となり。 チリチリンと鈴を鳴らしながら、仲間の元へと一行は急いだ。 ○ ――ゆう、ちゃん‥‥。 「‥‥?」 不意に、聞き覚えのある声に呼ばれた気がした。 驚いて優羽華が辺りを見回せば、少し離れた場所に妹が立っていた。 「め、めいちゃん!? なんでここに‥‥どないしたんどすか!?」 驚いて言葉をかければ、双子の妹はにっこりと笑んだまま、ふぃと角を曲がる。 「めいちゃん、どこへ行きはるんどす?」 後姿を見失いたくなくて、、慌てて優羽華は後を追いかけた。 妹は、彼女の妹は確か、別の依頼を受けて、彼女とは違うところへ向かったはずなのに‥‥? 「めいちゃん、待っておくれやす。どないしはったんどすか?」 揺れるふくよかな胸の上で、鈴がチリンと弾む。 妹の身に何かあったのではないかと、急に何故か妙な不安に駆られた。 角を曲がると妹の後姿はその先にあり、少しだけ安心する。 だが妹が進む先に、複数の提灯が揺れていた。 「柚月さん、あそこに」 気付いた舞が足を止め、家の軒先に止まる一羽の夜雀を見つけて指を差す。 小さなアヤカシはまだ開拓者達に気付いていないのか、再びチッチッチュンと鳴いた。 邪魔をせぬよう、やや後ろで乙矢が理穴弓を引き絞り、三人が息を殺して夜雀との距離を詰める。 ちゃんと技が届く位置まで慎重に、そーっとそーっと近づいて。 「今だっ」 柚月の合図で、矢と、見えざる力が飛んだ。 一瞬の風が巻き起こったようにも見え、短いギャッという鳴き声と共に、羽が飛び散る。 矢を受け、『捻じられ』た夜雀が形を失えば、散った羽も落ちる途中で霧散した。 それを見た乙矢がほっと息を吐き、番えた矢を外す。 「逃げられなくて、よかったです」 舞が目を細めれば、口に煮山椒を含んだ渓は喋れず、無言で首を縦に振った。 「あれ、優羽華‥‥かな?」 前から歩いてくる人影に気付いた柚月は、仲間へと駆け出そうとするも。 不意にその足が、鈍った。 「‥‥柚姐様、なんで‥‥」 言葉を紡ぐ口の中は、カラカラに乾いている。 明かりの先にいるのは、見覚えのある女性。 ずっとずっと見たかった、優しい笑顔。 小さかった僕を、拾って育ててくれた。 芸で身を立てる事を、教えてくれた。 何より、僕に「月」って名前をくれた。 綺麗で、凛とした‥‥大好きな‥‥大好きだった姐様。 そして‥‥ずっと前に、僕を置いていなくなってしまったヒト。 だが優しい笑顔が、不意に曇った。 不安げに後ろを振り返り、救いを求めるように柚月へ近づいて来る。 そして彼女の後ろから、追ってくる人影があった。 追われている。 彼は、アヤカシに追われていた。 村で唯一、彼女と仲良くしてくれた、幼なじみの彼が。 「‥‥あなたは‥‥」 それ以上は言葉に出来ず、舞は息を飲む。 もう、生きているはずが、ない。 視界がにじみ、見開いた瞳から溢れた涙が、ひとすじ頬を零れ落ちた。 そう、彼は死んだのだ。 でも、彼は生きて目の前に‥‥。 梓小弓をかざせば、チリンと鈴の音がした。 渓が『敵』だと思ったそれは、普通のどこにでもいる男の子だった。 彼女の年からすると、これくらいの年の子供がいても不思議ではない。 好いた男と契りを交わし、孕めば十月も待って、文字通り身の裂けそうな産みの苦しみの末に産声を聞き。 据わらぬ首を支えながら乳を含ませ、泣けば子守唄を唄ってあやし。 座って、這って、立って、歩いての一つ一つを見守られながら、普通に育てられてきた子。 そんなどこにでもいる、何の変哲もない子が、ゆぅくりと口を開き。 怯えた声が、耳朶を打つ。 ‥‥ネェ オネエチャン? コンドハ ボクヲ チャント マモッテ‥‥。 小刀を取り、扇子をかざし、弓を握る。 チリリンチリンと、鈴達が澄んだ音をたてた。 鈴をつけた者は――。 「いちびってうちらの心を弄んだあんたには、遠慮しまへんえ! 覚悟しよし!」 「ニセモノの姐様なんて、イラナイ!」 「人の心を弄ぶ‥‥不愉快です。許しません、私はっ!」 ――仲間、だから。 惑わしの表情が、一瞬で掻き消える。 そして暴かれた『のっぺらぼう』もまた、惑いを払った者達の反撃に、消え失せた。 ○ 真冬にもかかわらず、どっと汗が吹き出す。 「大丈夫ですか?」 言葉をかける乙矢に肩で息をし、胸を上下させ、荒い呼吸を整える者達が頷いた。 「乙矢はんは、大丈夫どした?」 にわかに寒さを感じながら汗を拭った優羽華が尋ねると、心底ほっとしたように乙矢は深い息を吐く。 「はい。白顔へは近寄らぬよう、言われていましたので‥‥皆さんにお怪我がなくて、よかった」 「あった事や見た事は、おっちゃんとかには内緒だからね!」 口を尖らせて言い含める柚月に、少し笑いながら乙矢は首を縦に振った。 「今の間に、他のアヤカシの姿は見ませんでした。アヤカシは、これで全てなのでしょうか?」 「まだ、分かりません。村の様子を見ながら、別行動をしている二人と合流してみた方がいいかもしれませんね」 舞の提案に、異論のある者はなく。 他の夜雀の鳴き声が聞こえないか注意しつつ、五人は仲間を探し始めた。 ●ゆめうつつ そこにいたのは、彼より5つばかり年下の、少女だった。 彼が、父と並んで尊敬に値する人だった。 記憶にある少女の表情が、苦痛に歪む。 自分を導いてくれた、師。 攻撃を受け、助けを求めるように、彼を見た。 ただ刀の稽古をつけてくれる時だけは、本物の鬼に見えたものだ‥‥。 そうだ。あの人は、そんな師匠だったから‥‥。 「俺に助けを求めるような真似など、決してない!」 気迫と共に、珠刀「阿見」が炎をまとう。 チリリと鈴音を鳴らして、一歩を踏み込み。 ひと息に払った刃は、少女の幻影を引き裂いた。 貫いたアヤカシが形を失い、瘴気となって散ったのを見届け、真珠朗は構えた槍「疾風」の穂先を下げる。 「結局あたしにゃ、大切なモノなんざないって事なんでしょうがねぇ」 ややガッカリとした口調で呟くのは、失望。 『のっぺらぼう』の白顔は、幾ら見ても真珠朗にとって『のっぺらぼう』のままだった。 「ただ、あたしにゃ、何にもなくてもねぇ。他の方は、そうじゃないんでしょうし。他人の大切なものくらい守って見せますよ。御代の分くらいは」 それでも、もしかしたら‥‥と、多少の期待はしていたのだが。 失望と同時に、何も見えずに安堵している自分がいるのも、確かだった。 「助かった。何か、面倒をかけなかったか?」 「ええ、たいした傷もなく。大丈夫ですよ」 気遣う志士へひらと手を振り、泰拳士は少しズレた帽子を整え。 「あたしゃ、正義の味方気取りの輩が大嫌いだって話なんですがね。それでも、まぁ‥‥あるんですよ。小悪党にゃ小悪党なりの、矜持が」 届かぬ呟きを、アヤカシが消えた跡に落とす。 それから顔を上げ、真珠朗は辺りを見た。 「ツラなしと会う前に、雀の声がしたんですが。どこかに行きましたかね」 「柚月達も、こなかったようだな。別の場所で、何かあったのか‥‥」 「見に行きますかね」 尋ねる真珠朗へ、刀を鞘へ納めた飛鳥が首肯する。 「他にアヤカシがいないか、確かめておきたいからな。心眼で探していけば、おそらく夜雀も見つかるだろう」 「ですねぇ」 同意しながら、歩き始める飛鳥へ続く。 自分には、何も見えなかったが。 飛鳥には、何かが見えていたのだろう。 夢を見えた他者と、現(うつつ)に在る自分。 ただ、天秤としては奇妙な採算が取れているのかもしれない、と。 月のない空を仰ぎながら、真珠朗はふと、思った。 チッチッチュンと、夜雀が鳴く。 だがアヤカシ白顔は、姿を見せなかった。 夜雀一匹だけでは、ただの鳴く鳥と変わらない。 虚しく仲間を呼び続ける鳥を見つけて討つのは、容易い仕事だった。 ○ 「風の精霊はん、力を借してなぁ‥‥ほしたら‥‥『我、癒したり』」 風を送るような仕草を優羽華がすれば、豊かな胸がぽぃんと揺れた。 実は、胸から癒しの風が起きるのカナ? なんて奇妙な事を、柚月は一瞬考える。 「大した怪我もなくて、良かったな」 深手を負った者はいなかったが、神風恩寵で仲間全員が傷を癒されると、改めて飛鳥が安堵の表情を浮かべた。 何かの思いを押し込めるように、黙ったままの舞は静かに目を伏せて。 仲間に過ぎる、癒しの風では癒しきらぬ疲労の影に、柚月は小さく首を傾げる。 (「皆には、誰が見えたんだろ‥‥詮索はしない方が、いいんだろうケド‥‥」) 例え‥‥ニセモノでも、彼女がまたいなくなるのを目の当たりにすれば、気持ちは苦かった。 七人が村を出れば、別れた場所でゼロが待っていた。 「片付いたら、おぶぅでも飲んでほっこりしとおすなぁ」 「おぶ?」 「お茶の事どす」 「ああ、寒いしな」 無事さえ確認出来れば、仔細は十分なのだろう。 ほわんと笑む優羽華とそんな話をするだけで、『見届け役』は何も問わなかった。 |