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■オープニング本文 藪紫は犬神里長への定期報告を終えると、里長はすこぶる上機嫌で笑う。 「今期の利益は前年比五割増しで確定か、はっはっは、今なら四大氏族がケンカを売って来てもまるで負ける気がせんな」 随分と剛毅な発言だが、無論身内だからこそ言える冗談の類である。 藪紫は慎重に言葉を発した。 「それで、そろそろ雲切の謹慎を解いてはどうか、と思いまして」 上機嫌の笑い声がぴたりと止まる。 「ほう」 「当人も充分反省していると思いますし……」 里長は藪紫の顔を覗き込むようにしながら、にやりと笑う。 「まあ良かろう。先の戦、あやつならば謹慎を振り切ってでも顔を出してくると思っていたのだが、どうしてどうして、大人しくしていたようではないか」 藪紫は無言。実は、この戦の事を藪紫は雲切に知らせておらず、当人はジルベリアに放り出してあるのだから顔出さないのも当然である。 「ありがとうございます」 と許可を得た藪紫は、どうにかなってくれたかと内心のみで安堵の息をもらすのであった。 ジルベリアの王都ジェレゾにて、開拓者ギルドを管理する任を負っているビィ男爵という男と、藪紫はジルベリアにまで赴き面会していた。 「雲切をこれ以上預かれない、との話でして。何か起こったのかと」 男爵は先に一言、気を悪くしないで聞いて欲しい、と注釈した上で告げる。 「これ以上彼女の安全をこちらで確保出来そうにない。いや、そも、雲切を傷つけず預かるのは我等には不可能だ。不可能だった」 敢えて繰り返してまで強調するビィ男爵は、こちらで起こった雲切という犬神シノビが巻き込まれた事件の数々を説明する。 男爵に悪意はまるで無かったが、これは確実に管理責任を問われるケースであろう。 「責任を果たせぬ責めは私が負おう、彼女をこれ以上預かれぬ不甲斐なさを詰るのも良い、だが、一つ、全てをこちらも明らかにしたのだから、そちらにも包み隠さず教えて欲しい事がある」 藪紫は表情を変えぬようにするのに、かなりの労苦を要する。 「アレをそちらではどーやって管理してきたのだ? 私はこれまでに数度、天災指定してやろーかと本気で考えたぞ」 藪紫は表情を隠しきる事が出来ず、男爵から目を逸らし、彼方をぼうと見やる。 「……特別な方法なんてありません。貴方が負ったであろう苦労を、私はあの子が子供の頃からこれまでずーっと抱え続けてますよ……」 表情が凍りつくビィ男爵に、藪紫は言葉を続ける。 「出来れば一瞬たりとも手元から離したくは無かったのですが、こちらもどうにもならぬ事情がありまして……」 ちらと藪紫が男爵を見ると、彼は眉根をひねる何ともいえぬ顔をしていた。 「これ以上ウチで預かれば、間違いなく私の戦に巻き込む事になる」 藪紫は何でもない事のようにぽろっともらす。 「反政府勢力との戦いですか。しかし雲切ではその手の戦いの役に立てるのは難しいのでは?」 男爵は今度は表情を変える事は無かった。 「役に立てて良いのか? 手は無いでもないが」 「ダメですっ。それと先人として止めておきます。絶対思った通りになんて動いてくれませんよ。作戦の場所に辿り着く前に、道中で問題起こして何時まで経っても現れないとかザラですから」 「だろう。ああ、やはりか。あれ程の腕だし試すだけ試すのもアリかと思った程度で、本気で使えるとは思っとらん」 本来、両者ともこの手の交渉を得意とし、間違っても本音を漏らすような事はありえないのだが、どちらもがこの件に関して駆け引きを行う事を放棄しているように見える。 どうせ上手い駆け引きを行った所で、当の雲切がぶち壊してくれるだろーという両者の認識故である。ヒドイ話だ。 藪紫も雲切を預かる事の難しさを良く理解しており、男爵の応答から、彼は手を抜いてそう言っているのではないと見た藪紫は、ここらが限界か、と雲切を返してもらう事に決めたのだった。 天儀に戻す以上、里長の謹慎解除の命が無ければ、雲切がまたそこらで問題起こした時どーにもフォロー出来なくなる。 藪紫はまだ時期尚早とも思ったが、何とか里長を説得するべく幾つかの腹案を用意するのだった。 「くーもーちゃん♪」 「ふわぁい? ってやぶっちですの!? ど、どうしたのですか急にこんな所まで!」 「仕事よ仕事。それより聞いたわよー、ギルドの人に随分迷惑かけたんだってー?」 「ちっ、違いますわっ! いいですか、長い話になりますが……」 「あーあーきこえなーい」 「きーてくださいましー!」 藪紫はもちろん人を道具として見る見方も心得ているし、それを雲切に当てはめる事も出来る。 が、そんな事、実際に雲切に対してやる気になんてなれない。 この、チョロいと見せかけ大層な難物である友人は、藪紫に、友達とはどういうものかを教えてくれた最初の人なのだから。 ギルド係員は、どうしても男爵を詰る口調になってしまう。 「あれ程の逸材を手放すとは、理解に苦しみます」 男爵は彼とは目を合わせぬまま、言い訳がましくぼそりと答える。 「アレは私の戦向けに出来てはいない。アレにアレの為の戦場があるとしたら、それはきっと、この地では無い何処かであろうよ」 いずれ決定した事項だ。係員も男爵に意見を翻すつもりが無いとわかったので、これ以上は追及せず退席する。 途中、彼は手にしていた書類の束をゴミとして投げ捨てる。 そこには雲切を戦力として活用する案が山と書かれており、彼はこれを一度振り返って見下ろし、目を閉じ口の端を上げる。 一人の人間に彼がここまで手間をかけたのは、男爵以外には雲切が始めてだ。 そんな自分の有様にここでようやく気付いた彼は、雲切には妙に甘い男爵を責められぬな、と自嘲する。 「どうやら、私は随分と彼女の事が気に入っていたようですね」 その結果が如何に利用するか百選であるのだから、随分と歪んだ性質を持つよーである。 そこで彼は、ふとある事を思いつく。 ジルベリアでの生活もそれなりの長さであった事だし、雲切がこの地を去るのなら、縁のあった人間との別れを演出してやるのも良いかと。 公な形で彼女の退去を知らせてやれば、ギルド係員の彼も知らない人間関係も網羅出来よう、そう考え実行に移した。 「あのKUMOKIRIが天儀に帰るだあ!? ふざけんな勝ち逃げなんざ許さねええええ!」 真っ先に反応したのは、ジェレゾの街でさんざっぱら雲切がボコった民間暴力担当の方々であった。 天儀に帰られては復讐の機会はもうなくなってしまう。これが最後と彼等は後先考えずありったけの戦力を用意し、ギルドとの一戦すら辞さぬ覚悟で事に望む。 この他にも、個人で彼女にボコられ、いつかは復讐をと修行を重ねた剣士やら拳士やらレスラーやらグラップラーやらまで逃げられてたまるかと集い始める。 開拓者ギルドは、この馬鹿騒ぎへの対処を迫られるのだった。 |
■参加者一覧
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲
能山丘業雲(ic0183)
37歳・男・武
アルバ・D・ポートマン(ic0381)
24歳・男・サ
土岐津 朔(ic0383)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 叢雲・暁(ia5363)にとって、一度破れ再登場した敵の価値なぞ無きに等しい。 「再生怪人の法則に従い弄り倒してくれるわ!」 雲切が、あの時の! なんて台詞で自分が出ようとするのをさくっと遮ってロッドの前に立ちはだかる。 「邪魔するんならてめぇから……」 「ロウ!」 もんの凄い打撃音がしたのは、しなるようなローキックをロッドの腿に叩き込んだせいだ。 「ハイ!」 続けざまに足が上段へと振り上がるが、流石に二度はない、とロッドは腕を上げこれを防ぐ。 「敵の言葉を信じてどーするっ!?」 なんて台詞と共に暁の足は中空で軌道を変え、再び下段を痛打する。 「ちょ、調子の乗ってんじゃ……」 「ロウ! ハイ! ミドル! と見せかけて肘! ついでにジェントル的超急所! ええい男の子が涙なんて流すな!」 装甲薄紙のような暁であるが、その戦闘能力は攻防共に極めて優れており、更に俊敏さを活かし大きく間合いへの出入りを繰り返されると為す術が無いのだ。 「んー、良い具合に仕上がったか〜?」 足やら二の腕やらがどす黒く変色し始めているロッドは、しかしここまで痛めつけられては、ここで暁を倒した所で雲切に復讐なぞ不可能だと考える。 「ちっ、今日の所はこのぐらいで……って、おい、何すんだ」 せーの、で暁はロッドを持ち上げる。 「いやだから俺今日はもー」 背骨がみしみしいうような形で、暁はロッドをぶん回す。 何度も何度も回転を続けると、押さえ込む暁の腕からロッドの抵抗が徐々に失われていくのがわかる。 「喰らえ再生怪人! これぞ飯綱落としによるシノビ百八のスペシャルホールドが1つ! コマドリスペシャル!」 そのまま天高くへと投げ上げると、自らも跳躍しこれをキャッチ。 頭を両膝で挟み込みつつ、ロッドを逆さまに固定し落下。大地へと脳天を叩き付けた。 何という大技! これはわたくしも黙っていられませんわとか抜かす寝ぼけた女シノビが居たので、直衛についていたアルバ・D・ポートマン(ic0381)は、 「いいから嬢ちゃんは大人しくしてろ」 と後頭部をすかぽーんとひっぱたくのであった。 フィン・ファルスト(ib0979)は特に警戒すべきといわれていた者の一人、ムーラン・ルージュと相対する。 鞘から剣が抜けてしまわぬよう紐を巻いておいたフィンは、両腕にずしりと来る重量の鞘つき剣を構える。 「貴方は、正々堂々の決闘を望みますか?」 「それ以外、目的は無い」 そうですか、と笑みを見せるフィンであったが、生憎、現在雲切周辺は絶賛大乱闘の真っ最中。 というかあれ、雲切出立前に収まるかどうか微妙な所である。 だからと乱戦に参加されてはたまらない。フィンは仕方なく、自分が相手ではどうかと提案する。 「お前は、クモキリ程、強いのか?」 「程、かどうかはわかりませんけど……」 フィンは物静かに体中にオーラを巡らせる。 全身から光が漏れ出す中、フィンはムーランへと問う。 「不足ですか?」 ムーランは即答する。 「いいや、充分だ」 斧を構えるムーラン。上半身裸で鎧もない男だが、鍛えぬいたその体はフィンの一撃をすら堪えるだろう。 「たぶんっ」 なんて言い訳自分にしてから、フィンは鞘付き剣を振り上げる。 本来中段から盾と共に受けやすい形にしておくのが良いのだが、鞘に入れている分落ちる剣速を補う為の構えである。 それを見透かしてか、ムーランは正面から斧を振り上げ振り下ろす、先制攻撃からのラッシュを狙う。 先を取れるとの確信があっての一撃。これを、フィンが同じく真っ向より振り下ろした剣が迎え撃つ。 二人の中間点で斧と剣はぶつかりあい、そして、より速度と膂力と技術に勝ったフィンの剣がムーランの斧を弾いて飛ばす。 そこで決着はついていたのだが、そのまま勢いあまってムーランの頭部を強打してしまったのはご愛嬌という奴である。 「人の恋路を邪魔する奴ぁ! ホースに蹴られてバイバイバイドだ!」 なんて意味不明な雄叫びを上げるガイアに、佐久間 一(ia0503)は何と答えたものかと考える。 「えっと、恋路の邪魔はさておき、想いは、伝えたのですか?」 「ばっ、馬鹿おめー、そう簡単に言えねーから、その、しばらくはこっちに居て、だな」 多分この人一生言えなさそうだなーとか、一は思うわけで。 「……彼女にも都合あっての事ですし、何より、故郷に帰ろうというのですから」 うっせーボケカス邪魔すんな死ねこらー、とガイアが突如発狂しだしたのは、過分に照れ隠しもあるだろう。 剣を袈裟に振り下ろしてくる彼に対し、出際を見極めるなり一は大きく懐へと踏み込んだ。 襟を掴み、剣を持つ手を引き手に。 咄嗟に後ろへと加重をずらすガイアであったが、一は股の間に入れた足を振り上げ腰の上に乗せる。 そこからひっくり返すまでは一瞬の出来事である。 綺麗な内股であったが、この技を知らぬガイアは受身すら取れずに大地に叩き付けられる。 そこでふと、一は雲切の方に視線を向けると、雲切もまた一の方を見ていた。 雲切は嬉しそうに叫んだ。 「見事ですわ一さん! さあ! 次はわたくしが相手……」 速攻でアルバにつっこまれる。 「あんた敵も味方もお構いなしか」 無差別バトルロイヤルとでも勘違いしている雲切に、一はやっぱり苦笑するしかないわけで。 砲術士のリムは護衛についている開拓者よりも、雲切を脅威と捉えていた。 つまり、彼女を行動不能にしなければ目的は果たせぬという話。 ヒドイ馬鹿騒ぎから離れ、建物の二階に陣取り長銃を構えたリムは、すぐ近くの音に反応し銃眼から目を離す。 「ここであったが百年目! リム、貴様の噂は聞いているぞ、死ね!」 突如、二階の窓から身を乗り出し、銃を突きつけてきたのは津田とも(ic0154)である。 「は? アンタ何言って……」 盛大な銃声。 筒先から仰け反り体を外したリムは、とにかく走ってその場から離れる。 「いきなり何すんのよ!」 「黙れ! おまえは俺が殺るっ!」 「意味わかんないわよー!」 ここはリムにとって勝手知ったる街。 何とかともを振り切り、射角の取れる家の屋根へと登ると、再度雲切へと狙いを定める。 「さーて、今度こそ……」 「見つけたぞ! 死ね!」 家のえんとつからにゅっと顔を出したともは、僅かな躊躇もなく引き金を引く。 「どっから出て来んのよアンタ!」 咄嗟に屋根から飛び降りて難を逃れるリム。 近場にあった龍厩舎に駆け込むと、これを銃で脅して無理矢理強奪。 一気に空へと羽ばたかせる。 「こ、これで追いつけないで……」 羽ばたく龍の足元から声が聞こえてきた。 「女砲術師にだけは負けんぞ、貴様! 死ね!」 「ぎゃー!」 これまた躊躇無く発砲すると、驚いた龍がバランスを崩して落下。二人は大地に激突寸前、川の上から水中へと飛び込む。 二人は同時に水面に顔を出し、ともが先に銃先をリムへと突きつける。 「わかった! わかった私の負けでいいから! ホントもうごめんなさいってば!」 「ならば、よしっ」 ムスタファは極めて腕力に優れており、均整の取れた肉体はそれ自体が武具となりうる。 月酌 幻鬼(ia4931)の振るう長巻と比して、いずれが優位かは見た目では判別がつかない。 「鞘をつけたまま? キサマ、俺が泳ぐだけの男だと思ったか?」 「さてな。どの道俺は運動なら夜の運動の方が得意なんだよ参ったね……」 「惚けた男よ。その身に纏った気配はそうは言っておらんぞ」 稲妻のように飛び込んで来るムスタファに、幻鬼は敢えて踏み込みを許し、むしろこちらからも踏み出しながら長巻を振るう。 ムスタファの前蹴りと、幻鬼の長巻はそれぞれの脇腹をかすめるに留まる。 以後、ムスタファの激しい出入りを、都度長巻の間合いで封じ続ける。 叩き付けるような長巻の一撃を、ムスタファは手甲をはめた腕で弾き返す。 疾風の如きムスタファの踏み込みを、幻鬼の前蹴りがたたき返す。 一進一退の攻防が動いたのは、幻鬼の地断撃が放たれた時だ。 この地を這う衝撃に対し、ムスタファは自分から当たりに行く勢いで突っ込んでくる。 激突寸前、ムスタファの体が跳ねた。 天高くへと飛び上がり、衝撃を飛び越えるムスタファであったが、幻鬼はムスタファが駆け出すのを見るなり既に動き始めている。 ムスタファの予想をすら上回る速度で跳躍し、長巻どころか飛び蹴りの間合いよりも近くへと。 そのまま空中で交錯。幻鬼の膝蹴りによりムスタファの体勢が大きく崩れ、二人は折り重なるようにして落下する。 そのまま、体勢のよい幻鬼は着地と同時に強烈な唐竹割りを叩き込もうとして、寸でで止める。 「どうする? 続けるんなら付き合うぜ」 能山丘業雲(ic0183)は、もう誰にでも聞こえる程大きな音で指を鳴らす。 「集団でいいどきょうだな、おい?」 そして、死ねや雲切同盟の面々に向かって怒鳴り叫ぶ。 「女子供に集団で向かってくるとは、なんたる情けない連中だ! かわりにわしが遊んでやる。かかってこい!」 その言葉に対する最初の抗議は、背後の雲切より寄せられた。 「わ、わたくしは別に集団でも……」 さわやかに無視しつつさっさと一人で突貫する業雲。 「おらおらおらおらぁ!!! まとめてかかってこいやぁぁああっ!!!」 まず殴る。 相手の顔がひしゃげる勢いで殴りつけると、敵は悲鳴と共に彼方へ転がっていく。 次に殴る。 ボディが甘いんだよ的な正面からの強打により、敵は今朝の朝ごはん塗れになって倒れ付す。 そして殴る。 顎を下より殴り上げると、敵は縦に回転しながら他の者を巻き込み飛ばされていく。 そんな彼の雄姿を見たアルバはぼそっと溢す。 「護衛じゃねーのかコレ」 当然聞こえてない業雲はそのまま突貫を続けるが、多分聞こえていても一緒であろうて。 しかし、とぞろぞろ出てくる有象無象にうんざりしながらぼやくアルバ。 「これが所謂大名行列ってやつかねェ?」 すぐ後ろに雲切を配し、更に挟むように逆側には土岐津 朔(ic0383)がいる。 朔はうんざりだと言わんばかりだ。 「なんですか、このお祭り騒ぎ……。少しは大人しくしてて下されば良いのに、負け犬のクセにはしたない」 大体、と更に文句は雲切へと向けられる。 「……貴方、一体なにやったんですか、雲切さん……」 「えっと、とりあえず悪い人におしおきしていただけですけど……」 その場合、悪辣な連中ばかりが集まるはずだが、とアルバが周囲を見渡す。 集まった面々、そして要注意の五人とかを思い出すに、悪辣なだけとはとても思えぬバラエティ豊かな奴等だ。 「……成程。嬢ちゃんがやたらイロモノに好かれるっつーのは良く分かった」 「そうなんですの?」 皮肉は通用しない模様。 わらわらと寄って来た者を、次々打ち倒しながら雲切の様子を伺う。 護衛対象だというので、基本的には動かさないようにしていたのだが、どうにも、彼女にとってはあまりよろしくない模様。 と、早々に敵を倒したらしい一がこちらへと戻って来ていた。 「雲切さんにも混ざっていただきましょう」 ぱーっと顔に光が灯る雲切。 朔は確認するように問う。 「いいんですか?」 「ガス抜きは必要でしょう」 という一の心配りにより、雲切は解き放たれる。 「いってらっしゃい」 「いってきますわー!」 とはいえ、基本的に側を離れぬ形、という条件付ではあるが。 乱戦は続く。 もう何処に居るのか見えなくなっている業雲であるが、何せ声がデカイので大体の場所はわかる。 「む? おぬしは妙に手ごたえがあるな」 それなりに楽しんでいるようで。 アルバは戦いながら自分の背中を守る友人の事を思う。 『安心して背中任せられるっつのはイイもんだ……』 と、後ろから声が聞こえた。 「ちょっと待て、俺はもう引くからやめろってばかっ」 「なぁに言ってんですか、貴方たちが仕掛けて来たんでしょう。さっさと帰ってくださいよ、ほら、ほら、ほら」 「おいこら朔ちゃん。あんま前出るなよ、ホント。遠距離主体だろオイ」 見ると朔は矢をへしおった棒のようなものを武器に刺したり殴ったりしている。 どー考えても弓術師やる事ではなかろうて。 それでも、そこは開拓者、武器があろうと無かろうと志体のない者にそうそう遅れを取りはしない。 存外綺麗なケンカを見せてくれている。 の、だが、アルバは結構短気な朔の性格を知っており、こりゃこのまま戦わせたらキレそーだと危機感を募らせていたり。 ちょうど強敵を黙らせた仲間達が集まって来ている事もあり、アルバは雲切にもう少し自由に動いて良いとの許可を出してやる。 すると、業雲がもう一人増えたかのよう、あっというまに突っ込んで行ってしまった。 「おおっ!? おぬしも来たか雲切よ!」 「もちろんですわ! このわたくしにかかればこの程度の敵っ!」 「そうかそうかわーっはっはっは!」 「そうですわそうですわほーっほっほっほ!」 味方が増えた分、敵も減り、落ち着きを完全に取り戻した朔は、周辺を取り囲むようにして見物している面々に、無駄と知りつつ注意を促す。 「そんなに前のめりになって見物してると危ないですよ」 すると、アルバが朔の隣までくる。 「よーアルバ。これって収集つくのか?」 「さてねぇ〜、だが偶にはこんなお祭り騒ぎも悪くねェ。……毎日は勘弁したいがな」 へー、あれでも、と朔が指出した先では、見物を決め込んでいたはずの鉱山の男達までが、ケンカ騒ぎに参加を始めていた。 アルバは大笑いしながらまた別の方を指差す。 そちらからは兵隊と思しき一団まで乱入を始めている。 朔は、危険は概ね去っただろうが、まるで収まる気配の無い馬鹿騒ぎに向け、大きく匙を投げてやる。 「もー好きにしてくれっ」 結局、日が暮れるまで馬鹿騒ぎは続き、夜は敵も味方も一緒になっての酒盛りとなり、開拓者達はこれにまで付き合わされるハメになるのであった。 |