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■オープニング本文 「平蔵、平次、お前等なぁ……」 目の前の机には数枚の書類が。 大机に座るは部隊指揮官であり、数百人単位の兵を預かるに足る武骨な雰囲気と、重厚な気配を兼ね備えた男であった。 机越しに神妙な顔で項垂れているのは二人の兵士。平蔵と平次である。 「女兵士ってのはな、やはり色々と、こう、な、気を配らなきゃならん部分もあるんだ。わかるよな?」 平蔵も平次も無言のまま。 「男と同じに扱え、そう言って来たからってな、お前等、本気で一緒に風呂に入ろうとするとか、もうな、俺が短気な司令官だったらその場で叩っ斬ってるぞ」 平蔵は、慙愧に耐えぬといった顔で苦々しげに漏らす。 「男の、浪漫、なんですっ……」 平次もまた、両目を瞑りながら吐き出すように言った。 「隊長って、死ぬ程めんどくせーんだけど……それでも、女なんっすよ。むしろあのひんにゅーは俺の嗜好どまんなかっつーか……」 司令官は、唐突にブチ切れた。 「任務中の兵士様が何簡単に欲情してやがんだブチ殺っぞボケがああああああああああ!!」 つまる所、平蔵と平次は二人の隊長である相沢みゆきを言葉巧みにだまくらかし、一緒に風呂に入ろうとしたという話である。 どうにか冷静さを取り戻した司令官は、嘆息しながら二人に問う。 「というか、他にも女兵士は居るだろうに、何だってよりにもよって相沢なんだ? アレ国許じゃちょっとした名士の娘さんだし、家にバレたらお前等エライ事になるだろ」 平次は平然と言い放つ。 「いやだって、隊長すげーチョロいし」 すぐさま平蔵が続ける。 「ぶっちゃけ、風呂入るだけだったら隊長多分マジで納得してくれてたっすよ。大体、他の女の人に同じ事したら俺等その場でヤられるっしょ、どう考えても。うっかり文香さんとか桜子さんとかにやってた日には洒落じゃなく俺等首斬られてますって」 「ああ、うん、そうか、お前等のそのバカ高い危険察知能力無駄に発揮してんじゃねえ」 地元の名士の娘である為万が一があってはならぬと、司令官が知る中でも最高の斥候二人を相沢隊長につけたのだが、中々に上手くはいかぬようである。 ちなみにこの後、平蔵平次と顔を合わせた相沢みゆき隊長の第一声は。 「……どーせ私はちょろい隊長であろうよっ」 であった。司令官から話を聞いたらしい。騙された云々とか以上に、ちょろいと言われた事が納得いかなかった模様。 こんな不協和音を抱えながら、みゆき指揮の下、魔の森に橋頭堡を築くべく彼女の小隊はアヤカシとの紛争地域に足を踏み入れる。 予想されていた敵との遭遇もなく、目標地点に到達。そのまま簡易な砦作成に取り掛かる。 一体二体のアヤカシが思い出したように顔を出す以外、ほとんど戦闘らしいものもないまま作業が終わりに近づいた頃。 突如みゆきが砦の外から大慌てで皆の下へと駆け込んで来た。 「い、一大事だ! 凄いアヤカシが居たぞ! 直立二足歩行する狼アヤカシが回し蹴りとか飛び蹴りしながらこちらに向かって来る!」 一瞬の間の後、隊員一同大爆笑。 狼アヤカシ、まあわかる。しかしそれが二足歩行する意味がわからない。二足歩行したいんなら狼の姿をとる必要なぞ全くないだろう。 その上狼らしき外見骨格を兼ね備えた存在が回し蹴りとか。狼の足はぴんと伸びるように出来ていないのだから、回し蹴りとかやはり意味がわからない。 というか、狼の蹴りって何よと。 一同からの総ツッコミが入る中、平蔵は顔を真っ青に染め硬直する。 「た、隊長。それって、何体ぐらい、いました?」 「わ、笑うでないっ! ほ、本当に見たのだぞ! ……っと、全部で30体弱といった所か」 平次は既に厩に向かって走っており、すぐに二頭の馬を引いて戻って来た。 「隊長! 俺等がもう一度確認してくるから今すぐ撤収の準備しててくれ! そいつら、多分、やべぇ敵だ!」 隊員の一人が、信じたのか? と問うと、平蔵は馬に飛び乗りながら答える。 「その手の意味がわからねえアヤカシってな大抵、中級アヤカシ並の奴ばかりなんだよ」 すぐにみゆきが発見した現場に急行、もちろん絶対敵に見つからぬ二人ならではの巧みな接近を行ってはいるが、これを確認する。 幸い、三十体全てがヤヴァイアヤカシではない模様。 二人から見て危険なのは五体程。 まずは一。 片手を顎に当てる程寄せ、残る手はだらりと曲げ垂らし構える。 この腕が、奇妙な程に伸びるリードブロウを牽制に主力に用いる。ジルベリア風に言うなればボクシングスタイル。 次に二。 両手を顔前に構え、重心はさほど低くなく、身軽に動き、そして、鞭のように鋭い蹴りを放つ、ムエタイ形。 三体目。 どっしりと重い重心を取り、打撃はこの優れた体躯によって受け止め、止めるなり腕と言わず足と言わず、掴んだならばぶん投げる。 つまる所、柔道の動きである。 四。 三体目より更に一回り大きく、一番の体躯を誇る。特に構えらしい構えはないが、優れた体故の受けの確かさは特筆に価する。 この体でドロップキックやラ・ケブーラダのような空中殺法まで使ってくるプロレススタイル。 ラスト。 踊るようにステップを踏み、時に逆立ちをしながら変幻自在の蹴りを見せてくる。 何というか、狼がやってる事を考えると一番納得のいかないカポエラ使いである。 平蔵は言った。 「……俺さあ、そろそろコイツ等イミフアヤカシと縁切りてぇんだけど」 平次は答えた。 「チクショウ、見た目だけじゃなくて、何を望んで生きてるのかすらさっぱりだよコイツ等」 この五体の戦闘技術を二人が知る事が出来たのは、何故かこのアヤカシ達は、彼等同士で一対一の戦いをしていたせいである。 技量を高めようとでもいうのだろうか。痛打を与えるのが目的ではなく研鑽を目的とするような戦い方をしていた。 もちろん、いしゅかくとーぎせんをこんなところでみられるなんてうんがいいなー、なんて事を、平蔵も平次も、これっぽっちも考えたりはしないのである。 |
■参加者一覧
神町・桜(ia0020)
10歳・女・巫
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
イデア・シュウ(ib9551)
20歳・女・騎
白木 明紗(ib9802)
23歳・女・武
ガラード ソーズマン(ic0347)
20歳・男・騎
ピュイサンス(ic0357)
12歳・女・騎 |
■リプレイ本文 アヤカシとの遭遇、戦闘開始、辺りまではまあ、一般的なアヤカシ退治とそう大差ない流れであった。 しかるに、オドゥノール(ib0479)は眼前に居る狼の骨格を持った二足歩行するアヤカシが、妙にまっすぐな姿勢で両腕を前に突き出し構える様を見て、ああ、これはふつーじゃないんだな、と理解する。 これで隙が無い構えに見えるから不思議だ。 そんなアヤカシに対し、オドゥノールはさっぱりとした表情で言い放った。 「よし! ……つきあわない!」 どうも近接狙いっぽいので、すたすたと後退し、間合いを充分以上に取り、手にした槍を全力でぶん投げると、アヤカシはものっそい勢いで仰け反ってこれをかわす。 海老反りに反った体を起こしながら、アヤカシはオドゥノールを心なしか非難がましい目で見ているような。 それでも武器が失われたのなら、とアヤカシは間合いを詰めにかかろうとするが、放り投げたはずのオドゥノールの槍が、かざした彼女の手の内に吸い寄せられるように戻って来るではないか。 雷槍ケラノウス、神秘の力である。 オドゥノールは戻って来た槍に、アヤカシにも見えるようにしっかりと、オーラの力を槍へ流し込んでやる。 アヤカシは、一瞬の間の後猛然と飛び込んで来るが、投槍の一撃を食らい転倒。 再び距離を取るオドゥノールに、突貫、投槍。 可愛そうになるぐらいこれを繰り返し、ようやく、アヤカシの腕がオドゥノールの襟元に辿り着く。 しかし、元より、超が付く近接間合いは騎士の距離だ。 左腕を上から被せるようにアヤカシの腕に乗せ、あっという間に釣り手を切り、逆手に握った短剣を頭上へと振り上げる。 敵、下がる。が、出来ず。 短剣を振り上げると同時にオドゥノールが飛ばした足先が、アヤカシの踵を拾い上げ、ひっくり返してしまう。 付き合わないと言っておきながら、どうやら決め手はジュードーで言う所の足払いになりそうである。 オドゥノールとは対照的に、この奇異なアヤカシを喜ぶ者もいる。 イデア・シュウ(ib9551)は、数多の下級アヤカシの最中に居た、これはという兵アヤカシに目をつけた。 駆け回る下級アヤカシを、盾をかざしながら強引に突破にかかるイデア。敵の群れへ飛び込む事で、標的は自分ではないと思わせる手だ。 しかし逆に、盾の死角を敵アヤカシは突いてきた。 地を滑り這うような蹴りがイデアのかざした盾の下から伸び、足を払う。 もんどり打って倒れるイデアの、背中にもう一撃。 苦痛を堪えながら転倒から立ち上がるが、このアヤカシは何と逆立ちをしながら蹴って来る。 足の付け根の位置が通常より遥かに高い為、この状態からの蹴りの角度はイデアにもまるで経験が無い。 先手を取るつもりが逆に押し込まれる有様だが、イデアは騎士は騎士らしく、相打ち上等、真っ向からの削りあいを挑む。 引かない。一歩も引かない。 不利な状況故の不安を、意思の強さのみでねじ伏せ、蹴られては斬り、蹴られては斬り返す。 そう、イデアは正しい。 このアヤカシは特異な動きで間合いを惑わし、対応しようとする動きを更に幻惑する立ち回り。 これに対し惑わされたままでよい、と代わりにこちらも痛打を叩き込みにかかるイデアは、純粋に攻撃力防御力を競うのみの原始的な戦いに持ち込んだのだ。 無論、代償は支払わなければならないが。 両腕の感覚が無い。剣を握っているのかいないのか、それすら定かではない。 ただ意地のみでそこに立ち、逆立ちを止めているアヤカシと対峙する。 ゆっくりと歩み寄り、震える手を上げ、アヤカシの体に触れる。 既に意識が無かったのかアヤカシはそのまま倒れ臥す。 こんなギリギリの戦いであっても他アヤカシが手を出して来なかったという点は、敬意に値するかも、と虚ろな思考でイデアは考えた。 狼の姿勢は人間よりずっと低い。 これは、刀を持って対峙するとその厳しさが良くわかろう。 脛より下の位置を攻撃するように刀も刀術も出来ていないのだ。 しかし、と神町・桜(ia0020)は先端を下段に下ろした薙刀を構え、自ら踏み出し一匹を斬る。 しなるように強く薙ぐと、狼アヤカシの頭部は真横より斬り裂かれる。間髪入れず、逆に払うとまた別の一匹の前足を削り取る。 背後より、更に別の狼が一息に間合いを詰めて来た。 振り返りざま、石突で真横より殴りつけつつ、自身は攻撃範囲からズレ動く事で回避。 下段への攻撃を苦手としない薙刀は、当然、下段への防御術も充分に研究されているのだ。 尤も桜の身長では、そのまんまでも言う程狼への攻撃に苦労はしないかもしれないが。 一方一般的な身長の(ついでに言うのならより女性らしい体型でもある)白木 明紗(ib9802)は、片手槍と剣という装備で狼へと挑む。 人狼型のイミフな動きはさておき、狼型は極めて一般的なアヤカシの形態の一つだ。 明紗は手馴れた様子で桜と共に、集団を成す狼アヤカシ達へ突っ込んで行ったのだ。 人狼とそれぞれ対峙する皆への援護が二人の役目であり、狼アヤカシを彼らに近づけないよう引き付けるのも、援護の内なのである。 アヤカシとはいえ、狼型である彼等は所謂狼に近い習性を持つ。 なので明紗は、わざわざ低い位置にある狼を斬りにはいかない。 間合いを詰めて一定の距離にしてやると、狼はこちらへと飛び掛ってくる。 これは慣れていればわかるが、進路は下からくぐるように駆け寄り、そして最後の最後に跳躍し首元へ飛びつくのだ。 この飛びつきにかかる瞬間を剣で狙う。 首元への飛びつきは最初の一匹であり、これで引きずり倒した後、残る狼が貪りに来るわけだ。 その一匹を、すれ違いざまに斬り伏せる。 一撃では倒しきれずとも、この妙技を見せてやれば、基本的に臆病な獣である狼は動きが鈍るのである。 こういった立ち回りを自然に出来てしまうのは、子供の頃からケンカをしていた証であろう。自慢出来る事ではなかろうがっ。 そして、こちらの力を見せ付ければ後退するのが野生の狼であるが、アヤカシはそうはいかない。 残った狼アヤカシ達は、ぐるぐると二人の周囲を駆け回り始める。 桜と明紗は背中合わせにじっと彼等の動きを観察する。 明紗は低く姿勢を落としながら背後の桜に注意を促す。 「一斉に来るわよ」 桜もまた緊張感に満ちた顔である。 「うむ。正念場であるな」 明紗はしかし、これに付き合う気は無いようだ。 「合図したらどれでもいいから一匹、遠距離で潰して。それで向こうの機先を制してから一気に攻勢に出るわ」 「機先を、制せるのか?」 「任せてっ」 羽織っていた袈裟を放り捨てると、明紗は堪えきれぬ笑みを溢す。 「ふふ、いい戦いね、身体が火照ってくるわ」 今、と合図を飛ばすと、明紗は槍を投げ放ち、桜は精霊砲を撃ち放つ。 勢い良く動いていた狼の動きが目に見えて乱れるのに合わせ、二人はこれらへと斬り込んで行った。 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)もまた、イデア同様難敵を前に、喜びを隠せぬ様子。 だからであろうか、あまりにもふざけた提案をしてしまうのは。 アヤカシを相手に、リンスガルトはあろう事か、刀を大地に突き刺し手離し、好きに打つがいいと両腕を開いて見せたのだ。 挙句、指を三本立て、三度好きにしていいぞとの超ド慢心っぷり。 「3発じゃ、貴様の渾身の3撃で妾を仕留めてみせよ。妾は躱しも手向かいもせぬ。妾はジルベリア貴族、貴族に二言は無い」 ムエタイ使いのアヤカシは、僅かに目を見開いた後、何と深呼吸を始めたではないか。 体はそれで平静を取り戻したようだが、その目が言っている。 『マジ殺す』 ステップインしながらの右ロングフック。これをリンスガルトは肘を立てながら片腕を顔横に振り受ける。 すぐに次撃、今度は左のストレート。 これは両腕を眼前にかざし止めようとしたのだが、腕の隙間を割って入り命中。 さしものリンスガルトも上体が大きく揺れる。 死ねオラ、とばかりの上段回し蹴りがリンスガルトを襲う。 この時既に、リンスガルトの手は大地に突き刺した刀の柄を掴んでいた。 高く伸び上がるような蹴りを、潜りかわしながらリンスガルトは手にした刀を一気に振り抜いた。 「ほう、斬り落とせぬか。中々に鍛えておるようじゃの」 蹴り足を深く斬り裂かれたアヤカシは大きく後退しつつ、非難するような目をリンスガルトに向けるが、当人は平然としたものである。 「すまんが気が変わった。女心と秋の空、妾は貴族である前に女なのじゃ」 それでも、最初の二撃はフリーで打てたのだ。これで仕留められぬアヤカシにこそ、油断があったというべきであろうて。 そのアヤカシは、拳も、蹴りも、組技ですら、見事にこなす相手であった。 叢雲・暁(ia5363)は、しかしこの敵の最も恐ろしい部分に気付いていた。 暁の刃が、奴の体を通らないのだ。 全く無効という訳でもないが、ありえぬ程頑強な体を持っており、敵はこれを頼りにまず受けてから、敵の攻撃の隙を狙うスタイルであったのだ。 ふう、と溜息一つ。暁は刀と手裏剣を手離し、肩を大きくぐるりと回した後、無手での構えに切り替える。 これを見たアヤカシは、受けてからというスタイルを捨て、自ら動き暁に襲い掛かる。 腕を棍棒のように振り回し首を狙う。これをしゃがみかわしながら暁のローキック炸裂。 と同時に、攻撃を覚悟していたアヤカシは暁の奥襟を掴み取る。背後よりの形になったせいでかわしきれなかったのだ。油断もあったかもしれないが。 咄嗟に体を捻って外そうと試みる暁であったが、アヤカシが引き寄せにかかる方が速い。 奥襟を引っ張り引き寄せられると、アヤカシは両腕で暁の体を上からがっちりとクラッチ。ぶっこ抜くようにその体を持ち上げ、背後に向かって投げる。 空中でもがくもクラッチは、切れず。アヤカシの変形ブレーンバスターをもらい、背中をしこたま痛打される。 大地に叩き付けた衝撃でクラッチは外れ、暁はというと、敵アヤカシとほぼ同じタイミングで立ち上がる。 「いーものもらっちゃったなー。これはお返ししないとねー、僕の魂的にも!」 ものっそい痛いのだが、それ以上に頭に来た模様。 以後は膝が砕けるまで下段蹴りを連打し、動きが鈍った所でじごくのきゅーしょふーじなるスペシャルホールドを仕掛ける。 もちろん最後はじごくのだんとーだいなる技で、首を膝にて引きちぎるマジ地獄ちっくなムーブである。 そして倒れたアヤカシに告げた。 「お前の、いやお前たちの敗因は一つたった一つ。メイン武器を間違えた事だ! 抜刀牙を使われてたら即死だった……」 ガラード ソーズマン(ic0347)が対峙するボクシングアヤカシは、大剣を振るうガラードの戦闘スタイルとは全く持ってかみ合わぬ相手である。 そもそも有効間合いが違いすぎる上に、速度域にも著しい差があり、お互いの有効間合いは逆側にとってみれば攻撃不可能な距離になる。 つまり双方それぞれにとって有効な距離を、双方がお互いに潰しにかかるのだから、有効打が出る確率は極端に下がる。 特に懐に入られた後で、ガラードは相当な労苦を背負わされる。 大剣を盾に用い正面を防ぐも、左右からの連撃が大剣をかいくぐってガラードを打ち据える。 この相性の悪さを、補ってくれるのがピュイサンス(ic0357)である。 こちらは拳を武器に戦う為、間合いはアヤカシとピタリハマってくれる。 それでもアヤカシの方が速さも力も上。一つ一つの動き全てで上を行かれては、ピュイサンスも迂闊に攻勢には出られず。 しかし、同じ釜の飯を食った仲間である二人は、これほどに速い敵であっても、連携を行う事が出来るのだ。 アヤカシのステップインからのボディブローを、ガラードはぎりっぎりで剣を盾に受け止める。 続く連撃も、いいかげん体が慣れてくれたようで、小刻みに剣を動かし何とか防ぐだけは防ぐ。 剣ごと顔を殴られてたりもするが、平べったい面がべんっと顔に当たる感じであるので拳が刺さるより遥かにマシであろう。 この一息の内に行われる連撃に、ピュイサンスの体が反応する。 例えるならば、ご飯のおかわりをいただいたガラードが椀を受け取った直後の隙をつき、ピュイサンスの手が伸びガラードの皿上にある鮭の切り身を抜き取り、口の中に放り込むかのよう。 鋼鉄で覆われたピュイサンスの左腕がアヤカシの腹部を痛打し、ここに再びガラードが反応し動く。 例えるならば、鮭の切り身をほおばり満面の笑みのピュイサンスに、間髪入れずガラードがピュイサンスのタケノコの煮物が入った小鉢を奪い取り、これをモノ質に人の物を食うでないと説教かますかのよう。 縦に振り下ろされた大剣はアヤカシの前面を削り取る。 踏み込める限界まで踏み出しての斬撃だ、アヤカシはこの痛撃を堪え反撃に動く。 しかしガラードの脇の下から滑り出して来たピュイサンスに、カウンターで突き上げをもらってしまう。 「兄様に続くのです! うぅぅぅりゃぁぁぁ!」 何ともかわいらしい事を言ってくれる妹分の攻撃を無駄にせぬ為、ガラードは攻撃を切らぬよう続ける。 「我が剛剣、貴公に見切れるかッ! とあーッ!!」 大上段より振り下ろされる、見てくれは単純な一撃。 実際は足捌きをそれまでとは逆にしているため、半歩分反応が遅れてしまうもの。 肩口に強打を受け、アヤカシはその場によろめく。 そしてピュイサンスは鉄の腕を天へと掲げ叫ぶ。 「ボクの左腕が光って吼える! お前を倒せと輝き叫ぶ!」 陽光の照り返しのみではない輝き、オーラのそれを纏わせた必殺の一撃。 「ひーーっさーつ! しゃぁぁぁぁいにんぐぅぅぅ……すまぁぁぁぁぁっしゅ!!!」 キッチリ仕留めた後、さて他はどうかと見渡すと、他も概ねケリがついた模様。 ガラードはどうにかなったか、と一息つくが、ふと気がつくとピュイサンスの姿が見えない。 まさか、と思い地面を眺めてみると、居た。さながら燃料が切れた飛空挺の如く、ぱたりと倒れて品の良い寝息を漏らしている。 仕方が無い、とこれを担いでやる。それでもまるで目を覚まさないのは、まあ頑張った証だろうと大目に見てやる事にしたガラードであった。 |