love! Beer!?
マスター名:
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 29人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/20 19:53



■オープニング本文

 ジルベリアより天儀にもたらされた酒、ビール。
 この販促の意図も含め、一大ビール祭りが開催される。
 しかし、ただ無制限にビールを配るだけではさして販売促進には繋がらない。
 ならば各地を回る旅人にその味を知ってもらえればどうか。
 無論旅人など、集まれといって集まるようなものではない。
 だが、各地を飛びまわりかつ依頼さえあれば一所に集まる事もある連中が居る。
 そう、開拓者ならば、ビールを天儀中に売り出さんと野望を燃やす商人のめがねに適う存在であろう。

 商人が集めに集めたビールの樽、樽、樽の山。
 彼が開拓者に望む事はただ一つ。
 飲め!
 ただひたすらに!
 貪欲に!
 何処までもぶっちぎる勢いで飲み倒せ!
 いいさつまみも用意してやる!
 だが<Cンはビールだ飲み続けろ!
 後先なんざ知るか!
 明日の朝日が黄色かろうと!
 今飲む事が全てに勝る!
 酔って暴れようと一向に構わん! 最悪の事態になる前に取り押さえてやる!
 酔って何処を汚そうと一向に構わん! 清掃スタッフが常時張り付いててやる!
 酔って人間関係狂ったら!? そいつは自己責任だ忘れるな!
 ビールじゃ酔えぬ? なら胃袋破裂するまで飲むがいい!
 飲んでは吐き、吐いては飲め!
 何処までも続く今宵の酒宴に酔いしれろ!
 いいか考えるな! 飲め!
 そうすれば何を考える必要もなくなる!
 そこまで飲んで! 楽しくなったら更に飲め!



「これ、本当にいいんすか旦那。相手は開拓者っすよ」
「フォローに回りながら、自分のペースで飲むのもまた楽しみ方だ、心配するな」
 ボスである商人がこの調子なので、部下はあちらこちらと飛びまわり、当日の準備を万端滞りなく整える。
 酒の席で彼等がどうなるのか、とても良くわかる図式であった。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 真亡・雫(ia0432) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / ダイフク・チャン(ia0634) / 海神 江流(ia0800) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 秋桜(ia2482) / フェルル=グライフ(ia4572) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 劫光(ia9510) / パラーリア・ゲラー(ia9712) / ユリア・ソル(ia9996) / フラウ・ノート(ib0009) / アーシャ・エルダー(ib0054) / アグネス・ユーリ(ib0058) / ラシュディア(ib0112) / ヘスティア・V・D(ib0161) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / リディエール(ib0241) / 不破 颯(ib0495) / 岩宿 太郎(ib0852) / 尾花 朔(ib1268) / リア・コーンウォール(ib2667) / 色 愛(ib3722) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 忌部 光流(ib5345


■リプレイ本文

 開会の話を聞いている者なぞ皆無であろうと司会は、注意事項だけ述べ壇上より降りる。
 会場入りするなり、かなりの人数が開会式も何も知った事かとビールに手を出していたのだから、参加予定者全てが集まるのを待っていたら、こうなるのは当然であろう。
 もちろん会の進行を受け持ち、企画運営していた者は渋い顔だが、出資者の商人は早速皆がビールを口にしてくれたので超上機嫌である。
 そんなこんなで開始早々より賑々しい会場。
 声高らかに乾杯の歓声が上がる。
 とりあえず一杯目をちょびっと口にした海神 江流(ia0800)は、率直な感想が顔に出てしまう。
「‥‥苦いな‥‥これ」
 しかし同席している秋桜(ia2482)はというと、舌先でじっくりとこれを味わった後、一息に呑んでしまう。
「天儀古来の味深きものとはまた違う趣がありますなぁ」
 呑み放題な開放感も含め、大層御満悦な様子。
 色 愛(ib3722)も一緒になってこれを一息に開けるも、味に文句のある様子は無い。
 江流は二人の様を見て、ならば自分もと杯をぐいっと傾ける。
 かーっと喉奥が熱くなる酒ではなく、何処までも飲料の延長っぽく、喉を通る冷たい感じが実に心地良い。
「‥‥おぉ、今のはなんか‥‥」
 まあつまる所、江流も気に入ったという話で。
「これ、どんどんいけるな」
 秋桜はというと、端っから呑み放題という事で遠慮するつもりはないらしく、言われるまでもなくがんがん呑み始めている。
「お酒は万國共通。素晴らしきものです」
 愛もまた嬉しそうに杯を重ねる。アルコールは常の酒より低いはずなのだが、周囲の賑やかな雰囲気も手伝って、程よい気分になるのもそう時間がかからなかった。
 互いにビールを注ぎあい、あちらこちらとつまみに手を伸ばす。
 酔いが回ってくると、男女の別が少しづつ崩れるもので。
 江流がはたと気付くと、江流の杯にビールを注ごうとしている愛のはだけた胸元がどどーんと目に入る。
 思わず噴出しそうになり、それ一発でほろ酔い気分が吹っ飛んでしまう。
 慌てて酒を飲んで誤魔化そうとするのだが、今度は秋桜が即座に注ぎに来た。
 彼女の御奉仕致しますな衣装でそんな真似された日には、意識するなという方が無理である。
 二人揃って熟れきった果実を二つもぶら下げて距離近すぎますよこんちくしょー、この世の幸せここにありですかぼけー、的な赤面顔で、この杯も一息で空にする。
 まあ、そんな呑み方してて何時までも正気でいられるはずもないのだが。
 がんがん行く江流に負けじと秋桜、愛も杯を重ねる。
 三人共が酔いの口をぶっちぎった頃、愛はおもむろに取り出した白い布をばばーんと張り出す。
「絵! 描きましょう!」
 意味が全くわからないが、秋桜も江流も待ってましたと手を叩き立ち上がる。
 足元も覚つかぬまま、筆を手に手に、もふらやら浮世絵やら最近の愚痴やらを書き始める。
 正直、見るに耐えない。
 描いてる途中の互いの絵を見て、あれが悪いこれが悪いと言い合いながら描き続けたり、他人の絵にちょっかい出したりともう何をしてるんだ君等と。
 それでも三人共、ものすごーく楽しそうなのが不思議でならない。
 自分の書いてた風景画をしっちゃかめっちゃかにされた秋桜は、ならばと墨を顔面に被り、そのまま和紙に向かってダイブし顔拓作ってうっきうき。
「これがわらくしの作品〜」
 愛は愛で、秋桜と話しているつもりで明後日の方を向きながら喚く。
「はい! 秋桜たいちょの負けだから飲みなさ〜い」
「おおおっ、わたくしの勝利を祝ってくださるのれすか〜。ではではかんぱーい」
 会話が通じてるようで通じてない。
 待てーと割って入る江流。
「まだ僕の書いたの見てないだろ〜。これ見てから文句を言ってよねっ」
 白いきゃんばすに真っ黒な墨をたっぷり染み込ませた筆を走らせる。
 ひゃんと跳ねる愛。酔っ払った江流の筆は、愛の白い二の腕の肌を滑っていた。
「海神様、筆でこちょこちょは卑怯だぞっ」
 秋桜はこれはまずいと思ったか、手荷物から水着を取り出し始めている。
「汚れちゃっても良いように水着に‥‥」
 菊池 志郎(ia5584)は、頬をひくつかせながら目を逸らし、隣のからす(ia6525)に頼む。
「‥‥女性の方お願い出来る?」
「心得た」
 女性としてのやばげな一線を越えぬよう、フォローに入るからすであった。

 一方、落ち着いた雰囲気でビールをいただく一団もいた。
 アーシャ・エルダー(ib0054)はビールカクテルに挑戦していた。
 これは出資者である商人をいたく喜ばせる。彼も存在は知っていたが、実際呑んだ事が無かったのだから。
 独特の苦味を消す柑橘系との混合は、あまり酒が得意でないリディエール(ib0241)の口にも合うものであった。
 調理の傍ら、これを口にしてはにこにこと笑う。
 そして、出来たカクテルやら料理やらを物凄い勢いで口にしているのは岩宿 太郎(ib0852)である。
 まずはビールを口にして嬉しそうに。
「何かやたら苦いがこれはこれでツマミが進む! 麦焼酎とは違ってこれもいいな〜!」
 次にアーシャのビールカクテルをぐいっと。
「ちょっと風味が変わるでしょう。柑橘系の果汁とビールは相性がいいのですよ」
「うんうん、上手いよこれ! 干物たまらん!」
「干物がおいしいのかカクテルがおいしいのかはっきりしてくださいっ」
 リディエールは豚肉玉ねぎしめじの組み合わせにビールを用いて調理中。
 これまた商人は嬉しそうに見守り、一口所望していたりする。
「こんな料理もあったんですなぁ」
「はいっ、お口に合うかわかりませんが」
「いやいや、肉が実に柔らかくてよろしいですなぁ。後味にほんのり残る苦味がまた‥‥」
「ふふっ、ありがとうございます。そちらもどうぞ」
 太郎の前に出される豚肉のビール煮は、瞬く間に消費されてしまう。
 アーシャがすぐに抗議の声を。
「あーっ! 私まだ食べてませんよ!」
「実に上手かった。あ、カクテルおかわり」
「知りませんっ」
 何やかやとリディエールが量を作っていてくれたおかげで、アーシャもこれにありつけたのだが。
 アーシャのビールカクテルはかなりの好評を得ているようで、色んな所から注文が来る。
 このせいで、バーカウンターから動けなくなってしまっているアーシャであったが、これを作りながらビールをがんがん呑んでいたりするので、それはそれで楽しそうでもある。
 そのあまりの勢いにリディエールが少し心配げに声をかける。
「少しペースが速いのでは‥‥」
「ぐびぐび‥‥ぷはーーっ。え、私? 酔わないです。っていうかヴォトカでも酔えないほどですから」
 アーシャはまるで酔った様子もなく、はいっとリディエールに出来立てのビターオレンジを差し出す。
 くすくすと笑いながらこれをぐいっと飲み干すリディエール。
 そこで、ふと何杯目だったかなと考えると、あまり呑めないはずのリディエールにちょっとハイペースで出してしまっている気がしてきた。
 酔ってるのかと顔を覗き込むも、上品に笑うのみ。
 リディエールは小首をかしげまた笑い出す。
 これらは料理をしながらなのだが、皿に燻製などを盛り付け、一皿完成するたびまたくすくすと笑う。
 アーシャは即断した。
「うん、酔ってますね」
 と、そんなアーシャの側頭部にすこーんと干物が激突する。
 一頃静かになったなーと思っていた太郎が、干物を山程手に持ちながら満面の笑みをしていた。
「干物の描く回転の先に‥‥見えた、宇宙が! スペース麦畑!!」
 とりあえず言語機能がやられたのだけは確認出来た。
 アーシャは毅然とこれを迎え撃つ。
「私に戦いを挑むとはいい度胸ですね。かかってきなさい!」
 しゃおらー! とぐるぐる回りながら干物を次々投げつける太郎。
 これをアーシャは確かな足取りで近接し、ヘッドロックにて押さえ込む。
 ぎりぎりと頭部を締め上げられ、少しは痛がるかと思いきや、太郎は何かを悟ったように叫ぶ。
「麦の宇宙=アーシャさんだったのか!」
 やはり言語がイカレているので意志の疎通は困難であったが、はたと、奴が幸福そうにしている理由に思い至るアーシャ。
「は、胸が当たってる! ‥‥いやぁっ!」
 そのまま投げ飛ばしたとて、誰が彼女を責めようか。
 そして、一人でも酔いが回りきっていないのが居るので、あそこはもー任せたと志郎とからすはほっと一息。
 ビールでこんと軽く乾杯し、弁えた量を嗜む。

 そしてこちらは調理コーナー。
 酒が一滴も呑めずとも、出番は充分確保されているのである。
 ビールは腹にたまりやすいとはいえ、やはり酒の席に食べ物は不可欠。
 礼野 真夢紀(ia1144)は、調理器具やら具材やらを持ち込んでやる気満々。
 明らかに飲酒年齢制限に引っかかりそうな彼女でも、こういった場ならではの目的がある。
 姉が呑む時のつまみに合った料理を知りたいとこの場に来たのだが、早速ビール煮なるものを教えてもらい、作ってみる。
 が、何せビールの臭いが強すぎるので、自分で味見するのに躊躇してたり。
 同じく調理担当を買って出ていた紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が代わりにこれを口にし、にこーっと笑ってやると真夢紀もまた嬉しそうに笑う。
 やはり料理は喜んでくれる人が居てこそだ。
「次は点心に挑戦してみるっていうのはどう? 良ければあたしが教えてあげるよー☆」
「いいのですか」
「もちろん☆」
 簡単に調理出来、酒のつまみにあう一品料理を手ずから説明してやる紗耶香。
 元々味にうるさく料理慣れしている真夢紀は、異国の料理も独特の味わいもすぐに理解する。
「手際が良いね〜。じゃ、あたしは出来上がりをみんなに配ってくるよ」
 そこで調理場側に居たネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が大きく手を振る。
「こっちこっちー」
 新しい料理が出来上がる度、すぐに口に出来るよう調理場側に陣取っていた彼は、ビールを流し込む以上に料理を楽しんでいたりする。
 ジャガイモとソーセージを炒め、チーズを乗せ塩を強めに塗した皿を手にしたネプを、真夢紀はじーっと見つめている。
 口の中のものをビールで一気に流し込んだネプは、ではではと新たな皿に手を伸ばす。
「いいねいいね、味強いけどビールには凄い合うこれ」
 皿の三分の一をあっという間に食べ、ビールをぐいっと飲み干す。
「っぷはー‥‥幸せだなぁ」
 ネプの感想に、真夢紀はにぱぱーっと笑い、張り切って次の料理に取り掛かる。
 健啖な人は、それだけで料理を作る者にとって最上のゲストとなりうるのだ。
 上機嫌のネプは他所に給仕している紗耶香に声をかけてたり。
「おねーさんおねーさん。それが終わったら、僕と一緒に飲みませんか〜?」
「あー、ごめんー。これ終わったら次ご飯もの作るんですよー」
 あらま、と肩をすくめるネプは、ふと近くで淡々と飲んでいる和奏(ia8807)に声をかける。
 何を考えてるのかわからない顔でぼーっとビールを呑んでいるのが少し気になったのだ。
「食べるか?」
 ジャガイモとソーセージの炒め物をそっと出してみると、こくんと頷いた後もくもくと食べ始める。
 調理をしながらこれを見ていた真夢紀の目が光る。
 和奏は特に表情に変化無し。
 二人を見比べ、ネプは仕方ないといった感じで和奏に問う。
「おいしい?」
 またまたこくんと頷く。
 反応の鈍さに真夢紀が少しがっかりしてるのを見て、良しと一肌脱いでやる気になった。
「なあなあ、好きな料理とかってある?」
 お人形のようにちょこんと行儀良く座りながら、和奏はビールをくいっと呑み、小さな樽をじっと見る。
「‥‥何でも頼んで良いのです?」
 ネプは目だけで真夢紀に問うと、彼女は強く頷いた。
「大丈夫だって」
「‥‥では、焼き白子と岩牡蠣が食べたいかな‥‥檸檬かすだちで‥‥」
 よしっ、と一心不乱に作り始める真夢紀。程なくして作り上げたものをおずおずと差し出してみる。
 ビールを呑む傍ら、もきゅもきゅとこれを口にする和奏。
 その手の速さが答えになっているのだが、驚かしてやりたいとでも思ったか、真夢紀は次のオーダーを問う。
「あとは‥‥てっさと〆サバがあれば嬉しい」
「了解ですっ」
 給仕から戻ってきた紗耶香は、三人の様子を何とはなしに見ており、次の料理の好みを聞いてみたりする。
「お豆腐は好き?」
「‥‥お豆腐はお塩でも美味しいですが、今はやりの「食べるラー油」もいけると思います」
 合点承知と、こちらもまた調理に取り掛かる。
 二人が作った料理を和奏に出し、これをやはりペースを変えずにもくもく食べる様を見たネプは、率直な感想を述べてみる。
「なんか、餌付けしてるみたいだよな」

 そして会場で一番賑やかな、というか騒々しい、というかやかましい場所である。
 パラーリア・ゲラー(ia9712)は、ゲストにも関わらず明らかな給仕服、というかぶっちゃけメイドスタイルなので、誰にも不自然さを感じさせぬ勢いで料理や酒を運んでいる。
「お待ちどうにゃ〜♪」
 一緒になって給仕をしていたはずのリア・コーンウォール(ib2667)は、厨房近くで食器の並べ方に物申していいものかどうか苦悩してるのでほっぽいといてきた。
 アグネス・ユーリ(ib0058)がこれを受け取り、ふらふらと揺れながら劫光(ia9510)の側に向かう。
「ちょ、劫光〜飲んでる? 飲んでるの!?」
 そんな言葉と共に呑んでる真っ最中の劫光の背をばんばんとひっぱたく。
「ぐはっ! アグネスは呑んでっときに叩くなよ!」
「きゃはははっ」
 アグネスは人の話なぞまるで聞いておらず、やはりばしばしとたたき続ける。
 どう見ても酔っ払いです、本当にありがとうございました。
 どうにかこうにか追い返し、劫光はふうと一息つく。
 そこそこの量を呑んでいるはずなのだが、どうにも酔いが回って来ない。
 理由は、自分が一番良く知っている。
 少し浸った気分で杯を傾けるのだが、まあそんな雰囲気を許してくれるはずもなかった。
 すぐにヘスティア・ヴォルフ(ib0161)とユリア・ヴァル(ia9996)が両脇を囲みに来たわけで。
「よ、我慢の男、苦労人。恋した女の父親役やったんだと? お前さんMだったのか!」
 とはヘスティアの開口一番である。
 事情を全て知っている気の置けない友人達だ。何誤魔化しても仕方が無い。
「‥‥お前なぁ」
「取り敢えず飲めや、飲んで忘れろ〜」
 がばがばと呑ませにかかるヘスティア。ユリアは何処か見守るような目をしている。
「ふぅ〜ん、花嫁の父親代理ね。お姫様の騎士役交代ってわけね」
「なんだよ、文句でもあんのか」
「‥‥前から思ってたけど、よく貧乏くじ引くわねー」
「ほっとけ!」
 先のアグネスもだろうが、随分と気を使わせているのは劫光にもわかっているのだが、男の子には意地というものがある。
「‥‥んな気を回さねえでも、別にどうこうなったりしねえよ」
 ヘスティアとユリアは顔を見合わせた後、同時に笑い出しながら酒を勧め出す。
「まあ飲め!」
「ともかく、飲んでからね」
「っだー! 無茶言うんじゃねえ! お前等のうわばみペースで飲めるわきゃねえだろうが!」
 傷心云々言っている余裕もない。ともかく我が身を守るので精一杯な劫光は、助けを請うようにラシュディア(ib0112)に視線を送る。
 彼は、何かとても衝撃を受けるような事でもあったのか、ぽろぽろと涙を溢しているではないか。
「こんな楽しくビールを飲むときがくるとは‥‥!!」
 泣きたいのはこっちじゃぼけー、とか口に出さないだけの分別は劫光にもあった。
 劫光の脳裏に閃光走る。
 ああして泣き出してるラシュディアを口実に、この場を逃げ出すというのはどうであろうかと。
「ん? なぁにラシュディア、泣いてるの〜?」
 良く見ると、ラシュディアの隣ではアグネスが嬉しそうにこれまた背中をばんばん叩いている。
「飲みな、飲めば何とかなる! だって人生はこんなに楽しいのよッ」
 見てるだけでこっちも悩んでるのがアホらしくなるようなアグネス満開の笑いであるが、つまる所、あちらに避難するという事は何とか放り出した酔っ払いの下へ自ら飛び込むという事で。
「に、逃げ道がねぇ」
 両脇の悪魔が微笑み、結局意識が失われるまで酒を呑むはめになった。
 尾花朔(ib1268)は、こんにゃろ達の料理を担当していた。
 給仕を引き受けていたパラーリアが一度厨房に戻ると、ちょうどリアが結局やる事にした整理整頓を終えた所であった。
「あちらの方はどうだ?」
 パラーリアはにっこり笑う。
「すでにあびきょうかんだにゃ」
「‥‥‥‥わかった、応援に来いというんだな」
 厨房の奥から朔が布巾で手を拭いながら出てくる。
「牡蠣、茄子の天ぷらに蓮根の海老はさみ揚げ、鰯のつみれ汁他諸々も大体出来上がったので私達もあちらに戻りましょうか」
 両手に皿を持ちあぶなっかしくフラウ・ノート(ib0009)も奥から出てきた。
「うーん、勉強になるなぁ」
 他料理人の手際を時折横目に見ながら調理をしていたのだ。
 そんな事を考えながら歩いたせいか、両手に一つづつ持っていた皿のバランスが崩れる。
「わわっ」
 同時に、右の皿をパラーリアが、左の皿をリアがひょいっと支える。
「給仕の粗相は厳禁にゃ♪」
「む、盛り付けが僅かにずれたか」
 ちょっとばつが悪そうなフラウ。ちなみにずれた盛り付けはリアが一瞬で直してしまう。
 四人は和やかに料理を運び、そして友人達が集う場所へと辿り着き、ちょっと眩暈を起こしかける。
 劫光は白目を剥いたまま仰向けにひっくり返っており、ラシュディアは泣くわ笑うわ。
 絶好調で呑み続けるユリア、ヘスティア、アグネスの三人。
 回れ右をしたくなったのを、一瞬でも堪えたのが敗因だ。
 あっという間に三人に引きずり込まれ、泥酔地獄ツアーに参加決定。夜は、これからなのである。
 リアは、どんと中樽をテーブルに叩き付ける。
 椅子の上にあぐらをかくという、ちょっと行儀の悪い座り方。ついでに目も据わっている。
「聞いているのか?」
 じろっと睨み、ビールをぐびっとあおる。
「全く、あの子の奔放さは誰に似たのか。大体、壁の隙間や屋根に‥‥」
 これで十六回目になる姪っ子の愚痴である。
 相手は飽きもせずにこれを聞いてくれている。
「そもそも、皆どうしてあんなに食器が崩れたまま放置出来るのだ‥‥」
 これも八回目である。
 愚痴のお相手を務めるビヤ樽さんは黙して語らず。というか何処までも無機物な樽相手に何を言っているんだろうか、この人は。
 ラシュディアがビヤ樽からビールを掬おうと近寄ると、いきなり怒鳴りはじめる。
「わかっているのか!」
 しかしこちらも酔っ払い、ラシュディアはまるで抵抗なく大笑い。
「もちろんだよ! よしっ! かんぱーい!」
「うむ! ならばいい! かんぱーい!」
 何がもちろんで何がいいのやら全くわからないが、当人達は納得出来ているので深く追求するのは無為というものであろう。
 ラシュディアはそのままリアの側に座ると、いきなりテーブルに突っ伏して泣き始める。
「ビールおいしいよねぇ‥‥何より、一緒に飲んでくれる相手がいて嬉しいね」
 おんおん泣き出すラシュディアと、やはりビヤ樽さん相手に説教だか愚痴だかを続けるリア。
 このテーブルに、僅かでも理性のある者は決して近寄ろうとはしなかった。
 しかし、まだここはマシであった。
 朔にすがりつくようにしながら呑むユリア。
「酔った朔君ってばほんとかーわいい♪」
 ほっぺをつんつんと突きながら、実はユリアさん、これでまだ酔っていなかったりする。その事実の方が余程恐ろしいであろう。
 そして朔だが、こちらは元より酒に弱い事もあり、既に酩酊状態といっていい。
 ころんと片方に倒れこむと、そちらにはユリアの肩が。
 心地良さそうに寄りかかった後、今度は逆側にころんと。
 今度はヘスティアの肩によりかかり、気持ちよさげに目を細める。
「ん〜」
 思わず漏れた朔の甘え声。
 くすっと苦笑し、ユリアはヘスティアに一献勧める。
「美人のお酌はいかが?」
 朔は頭をふらふらさせるのが良いのか、ヘスティアが頂いた酒を飲み干すと、再びユリアの方へと傾いていく。
 これを肩ではなく手で受け止め、えいっと正座した膝の上へと導くユリア。
「ん〜〜んっ?」
 着物の襟元を大きくはだけさせながら、猫のように丸くなる朔。
 ユリアはもうめっちゃめちゃ嬉しそうに頬を突いては、むに? だの、うに? だの返ってくる声に頬を緩めまくっていた。
 ヘスティアは、これをくししと笑いつつ、別席にて料理に手を伸ばしていたフラウの元へと。
「ふ〜らうっ♪」
 いきなり後ろから抱きついたかと思うと、頬に口付けを。
「うひひゃう!?」
「呑んでる〜?」
「いきなり何を、ってちょっと!? 後ろに引っ張るなー!」
「まくーくーかんに引きずりこめー」
「何処よそれ!? いやだから待ってって! 私お酒あんま呑めないし、そもそも悪意しか感じられないくうかんなんて行きたくも‥‥誰かへるぷー!」
 側で呑んでいたパラーリアは、巻き込まれる危険性を考慮し、キャット気配漂うすまいりーで見送る。
「ふぁいとにゃー」
「だからたすけてってばー!」
 何処から取り出したか、パラーリアは葱を一本手に持つ。
「いざとなったらこれ刺して止めるから心配無用にゃ」
「それを何処に刺すつもり!? R−18タグ無いんだからそーいう無茶は‥‥ってユリアんも手招きしてるし!? いーやー!」
 悪夢の園へと連れ去られたフラウを見送り、パラーリアはアグネスに問う。
「まずいにゃ?」
「だーいじょうぶだいじょぶ! も、ぶっすーっていこっ!」
 昏倒より復活を果たした劫光は、ぐわんぐわんと揺れる頭を抑えつつ呟く。
「それ、聞く相手間違ってるだろ‥‥」
 アグネスは突如テーブルの上に昇り、手に持った杯を高く掲げる。
 これを見たパラーリアと劫光の間で、刺していい? ダメ、という問答があったとかなかったとか。
「今日この日に、美味しいビールに、美味しい料理に、そしてこの時を一緒に楽しむ仲間に」
 皆は、それぞれ手にした杯を同じように掲げる。
「乾・杯っ☆ 」

 この賑々しい会場の中で、独自の世界を築き上げている者達もいた。
「二人でお酒は初めてですねっ」
「ん、そういえばそうだな」
 フェルル=グライフ(ia4572)と酒々井 統真(ia0893)の二人である。
 極端なペースではない。ゆっくりと語り合うのに相応しい速度で、最初の内は呑んでいた。
「出会ってまだ少しなのに‥‥嬉しい事も哀しい事も一杯ありました。けれど今笑顔でいられるのは、統真さんと一緒に歩いてきたからです♪」
 酒が口を少し滑らかにしてくれているようだが、それでもまだ、統真にも照れが残る。
「そっ‥‥か」
 鼻の先をかきながら答える統真の腕に、静かにしなだれかかるフェルル。
 というか、幾ら酔っていようと、こんな空間に近づける奴なぞ居るはずもないのである。
 話は尽きる事なく、何時しかビールの量も想定していたものを逸脱していく。
 結構な照れ屋である統真が、気まずさ無しで肩に手を回せる程度に酔いが回って来た頃、ふと、酒の中樽が空になっている事に気付く。
 まだ酒の用意はあるが、幾らなんでもこれは量が多すぎだ、と酒を控え、控えさせようと樽を遠くにそっと押す。
 その所作だけで意図を察するフェルル。
 瞳を潤ませ、上目遣いで統真の服の裾を掴みながら、静かに懇願する。
「うう‥‥もう飲んじゃだめ‥‥?」
 彼の内部で、どのような葛藤があったのか。
 返事をするまでのほんの数秒間の事であったが、後に統真が語ったところによると、文字数にして六千字以上の思考が駆け巡ったそうな。
「す、少し、ゆっくりと飲もう、な」
「うん♪」
 とりあえずこれが彼の精一杯であったらしい。
 
 琥龍 蒼羅(ib0214)は、さして騒ぐタチでもないので、大人しく飲めそうな所に腰を落ち着けた。
 その席には、見るからに無骨な羅喉丸(ia0347)と、優男にしか見えぬ真亡・雫(ia0432)がいる。
 いずれも見る人が見ればわかる、武の世界に身をおく歴戦の重々しさを備えていた。
 これならば大人しい酒宴を楽しめよう。
 実際、言葉を交わしてみると、その端々に落ち着いた貫禄をすら感じさせる居心地の良い二人であった。
 蒼羅自身口数の多い方ではないが、同じ武の世界に身を置く者との会話は、ためにもなり、共感出来る部分も多々ある。
 良い酒宴となりそうだ、そう思えた蒼羅が前言を翻すのに、そう時間はいらなかった。
「愉快だ、なんと愉快なことだ。これだから世界はすばらしい」
 何かもう、やたら嬉しそうに笑う羅喉丸。
 料理がうまければ笑い、ビールを呑んでは笑い、あちらで騒ぐ人を見て笑い、テーブルに足をぶつけて笑い、つまみを掴み損ねて笑い、酔った雫を見て笑う。
 もう意味がわからない。
 雫はもっとヒドイ。
「僕、何時も一升瓶三つ空けてますから、このぐらいでは酔いませんよ」
 超真顔でそんな事を言う。
 おもっくそ酔ってるのがわかるぐらい顔赤くしておいて、こんな事言われてもどう返事したものか蒼羅にはわからない。
 羅喉丸は、やはり大笑い。
「それは豪気だな、はっはっはっはっは」
「やだなぁ、冗談ですよ」
「ははははは、そうかそうか」
 もう何処がどうおかしいのか、いや、二人がおかしいのは理解出来るが、どうすればいいのやらと。
 挙句、不破 颯(ib0495)が乱入してきて、陽気に歌なんか歌い始めると、羅喉丸も雫も一緒になって肩組んで歌いだす。
『導いてくれー! 下克上ー!』
 どういう歌なのだろうか。とりあえず公の席では間違っても歌えない類の歌であろう事だけはわかった。
 颯の乱入は、この席の更なる酒気向上に役立った。
 幸いにして一歩引いた位置を確保できた蒼羅はともかく、羅喉丸と雫の体内酒率は劇的に上がってしまう。
「ん〜、暑い、ですね」
 雫は上着をはだけ、胸元の白い稜線が顕になる。
 男とも思えぬ真っ白な肌を、口元より零れ落ちた黄土色の雫が滴り、艶かしくこれを彩る。
 大きな瞳と整った風貌はほんのりと赤らみ、薄桃色となった頬がぷうと膨らんだ後、喘ぐように吐いた息が中天に吸い込まれていく。
 いろんな意味で危険っぽい気がしたので、蒼羅は目を逸らしてみたり。
 不意に、側から声が聞こえた。
「美味しそうな料理みゃ☆」
 ダイフク・チャン(ia0634)が、じーっと蒼羅が箸で掴んでいたソーセージを見つめていた。
 無言のまま皿を寄せ着席を促すと、ダイフクは嬉々として席につく。
「いただくみゃ〜☆」
 じゃがいもとソーセージの炒め物をもぐもぐと食べる。食べる。食べる。
 食べるペースに合わせ、テーブル上の料理を一つ一つ寄せてやると、次々これを平らげていく。
 ふっと喉が渇いたのか、ビールに手を伸ばす。
 一瞬、蒼羅が眉根を寄せたのに気付いたダイフクは抗議の声を上げる。
「ちゃんとお酒飲める年齢みゃよ! しかし‥‥ビールってのは苦いみゃね〜」
 文句を言いつつもきっちり飲み干し、再び料理に手を伸ばしている。
 愛らしい少女が一生懸命もぐもぐやってる所は、それはそれで趣があるものだが、延々見つめているのも趣味が悪いと思い、蒼羅は自分の杯をくいっと空ける。
「あ、綾香様は‥‥どこみゃ?」
 行儀の悪い事に、椅子の上に立って周囲を見渡すダイフク。標的はすぐに見つかったらしい。
「みゃ〜! 綾香様〜!」
 嵐のように少女が去った後、肩をすくめた蒼羅が次に見咎めたのは、テーブルの対面であった。
 羅喉丸がはっはっはと笑いながら拳を構えている。
 そこに、雫がやはりにこにこしたまま回し蹴りを。
 羅喉丸は器用にこれを捌き、いなす。
「回し蹴りには武器を当てるのが一番だが、間に合わない時はこんな風に‥‥」
「流石に泰拳士はこういった手法が充実してますねぇ」
 どうやら武術の指導云々といった話になっているらしいが、これを颯が混ぜっ返す。
「ほう乱闘!? いいだろうやるならやってやらぁ! 弓術士を遠距離専用と思うなよぉ?」
 肩を鳴らしながら立ち上がると、羅喉丸も面白いとやる気になり、雫はというと、中途に衣服がはだけた状態から動いたもんでもう何じゃこりゃー的になった服を、自分で直せず四苦八苦している。
「おれの破理戦さばきとくと味わえ〜い! ちなみにフライパンだってもってんだぞ両手で振り回せんだぞコレあっははは〜!」
 フライパンをぶんぶん振り回すが、もう酔っ払いすぎて何処を狙ってるのか当人にすらわからなくなっている。
 羅喉丸も腹を抱えたまま蹲ってしまい、雫は自分の服に絡まって身動き取れなくなっている。
 せめても、こいつらの側にこれ以上誰かが近づく事のないよう、配慮してやるのが蒼羅に出来る精一杯であった。

 戦い済んで夜が明けて。
 洒落にならない頭痛に見舞われてる者に、からすは二日酔い用の薬草茶を振舞っている。
 何だかんだとフォロー役に回る面々と一緒に、志郎はエライ格好でひっくり返っている者達を移動させ、休める場所に連れていってやる。
 後は会場整理担当に任せられるぐらいに落ち着いてきた会場で、志郎が一息つきつつ席に座ると、隣にからすも並ぶ。
「因果な話だ」
「性分ですから」
 からすは空いた杯に、並々とビールを注ぐ。
「最後ぐらい、もてなされる側になるのも悪くないだろう」
 志郎が何をするより早くからすは自分の分も注いでしまう。苦笑しつつこの好意を受け入れる志郎。
 と、二人の視線の先に、女の子をおぶっている男の子の姿が見えた。
「まったく、しょうがねぇなぁ」
 背負われている女の子が、不意にぎゅっと男の子の首根っこに顔を寄せる。
「だーいすき‥‥♪」
 もんの凄い勢いで、男の子の顔が赤面していく。
 しばらくあわあわしていた男の子ははたと思い出し、からすよりもらった二日酔いの薬を肩越しに飲ませてやる。
「う〜‥‥苦い〜‥‥」
 これを見ていた志郎は、思わず噴出してしまう。
「甘すぎ、でしたか?」
 からすは自ら仕掛けたいたずらでありながら、ちょっと大人げなかったと自覚しているのか、少しだけ頬を赤くしていた。
「酒の席での戯れだ。忘れてくれ」