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■オープニング本文 依頼書が並ぶ掲示板を眺めていた結夏(iz0039)は、知らず知らずの内に溜め息を吐いていた。 「どうしたの、暗い顔して。気になる依頼でもあった?」 書類を抱えて通り掛かった西渦(iz0072)が声を掛ければ、逆ですと少々硬い声が返ってくる。 「ジルベリアでは頻繁にアヤカシが出るというのに、討伐依頼となるとやけに数が少なくありませんか?」 村や街が出すような、小さな依頼が少ないことを結夏は気にしていた。依頼を出す必要が無いなら問題ないのだが。何かの理由で出すことが出来ないならまだしも、もうそんな必要が無いほど状況が酷いのでは‥‥ 言外にそんな意味を篭めて、結夏は改めて西渦を見やる。 「雪の多い国って話だし、この時期はそもそも依頼が出難いのは確かよ? ‥‥まあそれにしても、情報少ないというのも正解ね」 やはりそうなのですか、と結夏は顔を伏せる。 「そっか、結夏さんはいつもそういうとこ回ってるんだっけ」 それは気になるわよねと考え込む風の西渦に、素直にはいと答える結夏。 「ただジルベリアは担当外ですし、泰国でも後始末を一つ抱えているのですぐに動く訳には行かないのですけど」 その言葉にぴくりと反応した西渦は、素早く浮んだ考えを再検討すると恐る恐る尋ねる。 「ねえ、結夏さん。泰国での後始末って、厄介事?」 「厄介と言えば厄介です。アヤカシ討伐ですけど、何やら特殊な」 「分かったわ、それ私が引き継ぐから。結夏さんジルベリアで情報収集してきてくれないかな?」 突然の申し出に目を白黒させる結夏に、事情を話す西渦。 「確かに情報が足りないの。だから目星を付けている中継拠点を見てきて欲しいのよ」 ギルドの相談席に結夏を引っ張り込み、依頼書を作成しながら地図を見せ状況を説明する。 「依頼の骨子は新種のアヤカシ調査。実際に戦って弱点の一つでも見つけてくれればありがたいけど、これは建前。目撃情報、いえ最悪噂話でも構わないわ」 ばりばりと目の前で作成される依頼書に、その建前が記述されていく。 「本題はここに書けないのだけど、普通の人たちの噂やら考えやら、できれば本音を拾ってきて欲しいの。そこから何か洗い出せるんじゃないかって」 アーマーなんて珍しいもの引っ張り出してきてるから、特殊な部品なんかもたくさん流れているはずだし、関心の的になっているかも知れないし。そこまで話しながら書き上げた依頼書を脇に避けて結夏に返事を問う。 「あ、依頼の条件さえ満たしてもらえれば、しばらくそのまま残ってもらって構わない。というかむしろ負担にならない程度に継続をお願いしたいところだけど、まあそれは置いておくとして。どうかな?」 あまりに都合の良い申し出に躊躇う結夏だったが、そのまま素直に聞いてしまう。 「その‥‥ どうして私にそこまで?」 「ま、こっちも都合が良いのよ。知り合いにジルベリアのアヤカシ情報に飢えている人がいるし、ギルドで情報募集中なのも本当。それに人同士の仲違いでアヤカシが得するとか許せないというのもあるし」 手馴れた人が事に当たってくれたら安心だしね、とあっけらかんとそこまで言い募る西渦に、驚きを隠せない結夏。 「ま、あとは泰国に行く機会を狙ってるってのもあって」 あはは、とまるで照れ隠しの様に付け足す西渦に、結夏は笑みを浮かべて答える。 「分かりました、こちらからもよろしくお願いします。泰国の方も、現地の頼りになる方を紹介しますよ」 本当に? と本気で喜ぶ西渦に、勿論ですと太鼓判を押す結夏だった。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
葛城 深墨(ia0422)
21歳・男・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
更級 翠(ia1115)
24歳・女・サ
燐瀬 葉(ia7653)
17歳・女・巫
グライ・ガラフォード(ib0079)
23歳・男・吟
レートフェティ(ib0123)
19歳・女・吟
ルヴェル・ノール(ib0363)
30歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●石造りの街とそこに住む人々 この時期には珍しく、雲が切れ青空が広がってはいたが。まだ大して暖かくもない日差しと同じように、街の雰囲気は何処か固くてよそよそしい。それでも先程のやり取りを思い出して、レートフェティ(ib0123)はくすりと笑みを浮かべていた。 (「このくらいの寒さなんて、序の口なのにね」) 精霊門を潜って早々に飛空船に詰め込まれた一行は、この街に辿り着いて漸くジルベリアの冬に触れたといってよかった。凍りつく大地に声も無い様子だったが、思わず吸い込んだ空気の冷たさにくしゃみが続けば、自然とにぎやかな笑い声が溢れだしていた。 「っと、まずはお仕事お仕事っと」 同じように楽器を背負う旅人を見つけて目的を思い出すと、慌てて駆け寄り声を掛け始めた。 「そうか。それは残念だな」 露店の店主と話をしながら、グライ・ガラフォード(ib0079)は撥で三味線をかき鳴らす。俺もだよと答える店主は、忙しそうに愛想笑いを振りまいているが妙に機嫌がよい。聞きなれない弦の音が格好の人寄せになっているのか、いつもより多い客がその理由らしい。 「何時もなら星屑のオカリナくらいは置いてるんだぜ? でもここんとこ食料の他には良く分からない物ばっか流れててよ」 兎に角でかくて嵩張る上に重いと来てる、と荷揚げに駆り出された店主は顰め面で答えて見せる。 「変なのは荷だけか? 少々、街の雰囲気も固いようだが」 そうさなあ、と店主は暫し考え込むが、グライが三味線で合いの手を入れるとにやりと笑って答える。 「元々商品護衛の傭兵は多いところだしな。そういう奴らが取り立てて増えたり減ったりって感じはねえなぁ」 それよりよ、と店主はグライに硬貨を放って言う。 「楽器も珍しいけど兄さん気に入ったぜ。何か陽気な曲、やってくれねえか?」 硬貨を受け取って一瞬考え込んだグライは、ふむと一つ頷くとそれをそのまま店主に投げ返す。 「お代は曲を気に入ってくれたらでいい。後で酒の一杯でも奢ってくれ」 背負った荷物を足元に置き、一言断って荷台に腰掛けると。短い掛け声一つ発して、グライはその撥を力強く叩きつけて威勢の良い演奏を始めた。 子供たちの歓声が上がった街の広場では、お手玉が高々と宙を舞っていた。それらは過たず芦屋 璃凛(ia0303)の手に戻り、そして更にその数を増やして空に帰って行く。 「あんたたちもやってみるかい?」 璃凛がちらりと視線を向けて声を掛ければ、我先にと殺到した子供たちに群がられるが。一つも落とさず受け取って見せれば一層の笑い声に拍手まで混ざる。 そんな様子を、鬼啼里 鎮璃(ia0871)は別の一団と少し離れたところから眺めていた。保護者というか面倒を押し付けられたというか、小さい子に混じるには少々照れがある年長の子供たちと一緒に、である。その子たちも見慣れない風体に最初は警戒していたようだが、明るい笑顔を一緒に眺めていればそれも薄れるというもの。 「最近大変な事になってるみたいですねぇ」 鎮璃が話を向ければ、日頃の不安をぽつりぽつりと話し出す子供たち。具体的な話としては『夜中に動き出す石像』といった、どこにでもある噂程度であったが。他は親さえ言葉に出来ない「分からなさ」に対する漠然とした思いであった。 (「こればっかりは‥‥ 難しいところですねぇ」) 突き詰めれば国の在り方に行き着く話は、この子たちには早すぎるし部外者が口を挟むものでもない。それでも聞く事で安心させることが出来るのならば。鎮璃はしばらく、穏やかに相槌を打ちながら、子供たちの話を聞くことに決めた。 ●石像のある広場で待ち合わせ 「コンラート様の石像、ですか。‥‥育ちの良さそうな顔立ちはしておりますね」 早々に宿の確保を終えたルヴェル・ノール(ib0363)は、待ち合わせ場所が見える食堂に腰を落ち着け店主と雑談を始めていた。料理も当たりなら、店主も話好き。絶品の煮込みを食べながら手が出そうになる酒を何とか我慢していれば、いつの間にやら一行が広場に集っていた。 「これはいかん、長居が過ぎてしまったか? 店主、勘定を‥‥ ふむ。いや、あと八人ほど客を連れてくるのでテーブルの準備を頼めるかな」 これだけ美味い料理を私だけが堪能していては申し訳ないと告げれば、店主も快く頷いて送り出してくれる。 (「皆も体を冷やしているだろうしな。戦の前には補給も大事だろう」) まあ、寒空で立ち話を好む者はいないだろうし、と思わず本音を呟いてしまってから苦笑いしてしまうが。ルヴェルは一行に声を掛けて、食堂へと皆を誘った。 「じゃあ、次は俺から。本屋を見て来たんだけど、残念ながら新聞は売り切れてたよ」 代わりに色々聞き込んで来た、と葛城 深墨(ia0422)が手帳を見ながら報告を始める。曰くゴブリンスノウというジルベリア特有の小鬼が結構あちこちに出ているという話。だが直近で言えば、この近くでアイスツリーに遭遇した隊商がいるという。 「今朝の事だっていうから、次の新聞にでも載るんじゃないかって話だな」 「それって‥‥」 声を上げた更級 翠(ia1115)は燐瀬 葉(ia7653)を見るが、まだ続きがあるみたいようやし、と葉が目配せすれば、深墨に先を促す。 「ん? まいっか、あとはこの辺りの童話にアヤカシっぽいのが出てくる話が幾つかあったかな。ギルドに既に情報が入っている奴では一つ目犬の鬼とか氷人形だな」 サバーガカラヴァにアイスゴーレムって名前だったか、と手帳をぺらぺら捲りながら話す深墨。 「あとは『オヴィンニク』って‥‥ 黒猫、がそれっぽいかな。その吼え声は不安を撒き散らし、炎を吐くとか何とか」 信憑性には欠けるかも知れないが、ま、用心に越したことは無いってところか、と深墨は話を締めくくる。 「最後は私たちか。葉と二人で街外れの厩舎を見て来たよ」 護衛の傭兵にでも話を聞こうと思ってなと翠が告げれば、葉も頷き言を次ぐ。 「先程、深墨さんが仰ったアイスツリーに襲われた隊商さんがおってな。怪我人が何人もいたよって、傷を癒してきたんよ」 どうやら今朝早くに街を出たらしいのだが、早々に怪我人を抱えて戻ってきたらしい。犯人は枝にたくさんの氷柱を生やした植物型のアヤカシ。氷柱を飛ばす他、根を足のように動かして移動することもあるとのこと。 「一緒にいたお姉さんが気の毒になるくらい動転しとってな? もう少し詳しく話を聞きたかったんやけど、すぐにどっかに飛んでいってしもたんよ」 他の人は多かれ少なかれ怪我をしていたため、大事を取ってそこでお暇してきたとの事。 「何かやけに急いでいたのが気になったけど‥‥ まあ、商売が絡むとそういうものなのかね」 翠がそう締めくくる中、葉は別の思いを抱えていたが。 (「怪我人の心配はあんまりしてなかったんよね。というより、部品がどうとか、期日がどうとか」) それでも口に出しては、寒そうな格好してはったねぇと苦笑して見せ、葉もそこで話を切り上げた。 ●氷を生やし雪を従える樹々 野外組は当初広範囲な捜索を予定していたが、居場所のはっきりしたアヤカシがいるなら話は別。ジルベリアのアヤカシという好都合もあれば、一行は隊商が被害にあったという現場に早速向かった。 雪原では、果たして二本のアイスツリーが一行を待ち受けていた。雪原にぽつりと立っている姿はそれだけで相当怪しいが、かなりの氷柱をぶら提げているのに加えてその枝を撓らせもしない姿は既に異様である。 「さて、一暴れと行きますか」 鎮璃と共に前衛を務める翠が刀を構えて呟けば、皆一様に気を引き締めアヤカシの攻撃に備える。 「そろそろ彼らの間合いでしょうか。気を」 鎮璃が隣の翠に視線を逸らした瞬間、雪原から雪球が飛び上がった。二つまではその槍で叩き落すが、鎮璃の足元に飛び込んだ一つは器用に転がり跳ねると膝辺りに絡みつき、そのままがちりと凍り付いてしまった。 「くっ!」 槍の石突を雪原に突き立てて、なんとか姿勢を保つ鎮璃。だが翠の方は、受けた刀に絡みつかれて姿勢を崩せば、踏み抜いた足元がいきなり凍りつく。その合間に飛びついた雪球は、左腕に肘辺りにぶつかると、これも瞬時に凍り付いてしまった。 そしてそれを見越したかのように、微動だにしなかったアイスツリーが枝を撓らせ氷柱を投げつける。狙いを過たず鎮璃と翠に向かって飛ぶ氷柱は、だが辛うじて得物で受けられ粉々に砕ける。しかし依然二人はその場を動くことが出来ず、確かにそれを理解するアイスツリーはまるで嘲笑うかの様に氷柱をなびかせる。 「精霊よ‥‥」 一行の誰もが悲鳴を飲み込み、怯む事無くすぐに意識を集中してはその力を解き放つ。璃凛の符からは斬撃と火炎が飛べば、続いて深墨の符が銀髪と巨大な蝙蝠の羽を棚引かせてその手で撫ぜる。二人の術者は翠の珠刀に絡みつく雪球への攻撃に確かな手応えを感じていたが、それでもその雪球はしぶとく翠に飛び掛る隙を窺っている。 「癒しの風よ、彼の者を癒し給え。そして我らが敵よ、彼の者から爆ぜよ!」 葉の祝詞が癒しと歪みを発すれば、雪球は弾ける様に宙へ舞う。その隙に翠はすぐさま刀を返して身に引き付け、気を内に溜めつつ突きの構えを取る。 「今日は責めたい気分だって‥‥ 言ってるでしょう!」 宙に舞った雪の塊に向けて翠は咆え、間髪入れず放たれた諸手突きは過たず雪球を貫き通した。あまりの手応えに残心の最中に慌てて刀を引き抜いた翠だったが、雪球は既に空中で瘴気へと帰りつつあった。 「斬撃は効き難いようです。こちらで持ちこたえる間に、まずは雪球への攻撃お願いします!」 これがフローズンジェルですか、と冷静にその最後を見届けた鎮璃は、だが後衛の術者に向かってはそう叫ぶ。既に試した刺突も斬撃も、まともに当てた程度では手応えは鈍い。炎を纏った刃も変わりない所を見ると、武器による攻撃への耐性が高いということなのだろう。術全般は受けて動きが鈍くなるからには確かに効果はあるようだが。それでも動きを止めるまでにこれだけの攻撃が必要な理由は、とにかく生命力が突出しているということに違いない。 (「これは思った以上に長引きそうですねぇ」) 鎮璃は口には出さずに覚悟を決めると。翠の援護に入れる位置を取りつつ、後衛の射線に邪魔とならない位置の確保に徹することにした。 ●陽気な酒場と開拓者の関係 南方を通ってきたという旅人たちから話を聞くことが出来たが、レートフェティの表情は冴えなかった。安全な旅路、巨神機の目撃情報、住民の様子。思った以上に得られた情報だが、気の重くなる話も多かった。 (「住人の消えた村、か。台座だけ残る石像ってのも気になるし‥‥ でもやっぱり一番は『評判』よね」) 自由が身上である以上、支配者に対して『お互いの尊重』以外を求めるつもりは無いのだが。民の失望はやはり聞くだけでも心が痛む。 (「領民のためにって商人に重税か。‥‥この寒さ厳しく物も少ない時期に、商人追い払っちゃまずいよね」) 一事が万事この調子と口を揃えられては、当事者ではなくても反乱の行く末が流石に気になってくるというもの。 だが次の目的地が見えてくれば、とりあえず心配事は棚に上げておくことにする。表情の暗い吟遊詩人などお呼びでは無いだろうし、行く先から陽気な声と音楽が聞こえてくれば尚更だ。気合を入れ直して傭兵御用達と聞いてきた酒場の扉を潜ることにする。 「何にする?」 鳴り響く三味線に気を取られながらもカウンターに辿り着けば、強面の主人が仏頂面で尋ねてくる。 「その、私は旅の吟遊詩人で」 「何にする?」 背負ったリュートを取り出す暇なく、主人は重ねて尋ねる。慌ててメニューを探すが、壁に掛けられた黒板にはエールは売り切れと殴り書き。あとはどうやら強めのヴォトカが幾種類かあるのみと、そんな進退窮まったレートフェティに隣から聞き覚えのある声が届いた。 「あ、この子、彼と私の知り合いです。ヴォトカで良いですよ。うん、ジョッキで」 少々不審げな顔をした主人だったが、無言で後ろを振り返って何かを注ぐと、陶器のジョッキを叩きつけるように置く。 「それを飲んだら、好きにしてくれていい。酒も飲めん奴はこの店にはいらん」 それだけ呟くと、他の客に呼ばれてそちらに向かってしまった。呆然とその後姿を見送ってしまったレートフェティだったが、慌てて隣の魔術師に視線を向ける。 「走り回って喉乾いてるだろ? まずはこれで癒してくれ」 「ルヴェル?! って私、お酒嫌いじゃないけど、この量は流石に」 おまじない、と呟いてから渡されたジョッキからはきれいに酒精が飛んでいた。一口飲んでみれば、少々温くはあったが普通の水である。 「冷たい水も用意してやれるが、まずはそれを飲んでからだな」 こちらを見ている店主を目配せして示しながらも、指差して見せるのは桶に盛られたいっぱいの雪。ブリキのコップで自分のジョッキにぶち込むと、二度ほどの縁を叩いて見せてはその中身をゆっくりと啜り始める。 (「それで良いの?!」) 何か魔術の使い方を間違っているような気がしないでもなかったが。口に出してはありがとうと礼を言い、確かに乾いていた喉を潤すことにした。 残る一行が酒場を訪れたのは、そのすぐ後のことだった。皆一様にぐったりと力尽きかけてはいたが、アヤカシを退治してきたと酒場に伝われば、何時の間にかジョッキを手渡され、乾杯の嵐に巻き込まれていた。 「情報収集はもう無理だな」 隣に座ったグライがカウンターに座る。 「収穫はありましたか?」 レートフェティが尋ねれば、グライは懐から取り出した螺子を放り投げる。 「何だと思う? ‥‥巨神機の部品だってよ」 驚いて取り落としそうになるレートフェティに、ルヴェルは悪ふざけが過ぎると笑みを零しながらも解説してくれる。先程客の一人が取り出した変哲も無い螺子が、グライの詩で尤もらしく脚色された結果だという。 「良いとこアーマーの部品だろう。それでも十分珍しいんだがな」 問題はと続けようとするグライを遮って、瘴気、と一言レートフェティは呟く。 「ほんの微かだ。単に剣を交えた結果なら良いんだがな」 最悪の想像を、だがグライはジョッキを飲み干し振り払う。 「さて、そろそろ酒場が英雄殿を称える歌を欲しているようだ」 にぎやかに三味線を掻き鳴らしながら、騒動の輪の中に入り込む。酒精のせいで一時的に盛り上がった一行から話を聞きだし、即興の物語を紡ぎ始める。 (「ここは心配するところじゃないか」) なんだ、こんなに身近に英雄譚が転がっているんだね、と呟いてみれば。ルヴェルの勧めもあって、レートフェティもその輪に加わり、物語に風の音を編みこんでいった。 |