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■オープニング本文 開拓者ギルドの掲示板を通りかかった結夏(iz0039)は、目に入った依頼書に何か違和感を覚えて立ち止まった。用件は『遭難者の捜索』とある。 「栢山遺跡、既に一週間経過、小型の朋友を持ち込んでいた模様‥‥」 書面から要点を拾い出しては声に出して読んでみる。珍しい依頼ではあるが、特に不審な点は見当たらない気がする。それでも何故か立ち去りがたいと首を傾げていると、その後ろを賑やかな一行が通り過ぎていった。 「遺跡かぁ。金銀財宝が待ち構えてるってんなら、いの一番に飛び込んでやるんだがなぁ」 「だから、それは一種の賭けだと言っているだろう。まだ最深部まで辿り着いた者はいないのだから、何かがある可能性は高い」 かもしれないじゃ懐は膨らまねえしなぁ、と一頻り苦笑いが続いていたが。そういえば遺跡から何かを持ち帰ったという噂があったことを思い出していた。あまり広まらなかったその話を聞いたのは‥‥ 依頼書の一行が出発した日のことだった気がする。 「何か関係があるのかしら?」 手帳に要点を書き込むと、まずは知り合いのギルド職員に話を聞きに向かう結夏だった。 「限りなく黒に近いのですが、確かめようが無くて困ってます」 開拓者ギルドに代わって交渉に当たっているという調(iz0121)を訪ねれば、心底困った風に事情を話してくれた。 「何やら、性質の悪い山師のような輩が関わっているみたいでして。本人も薄々怪しいとは感じているようなのですが‥‥」 取引されている品物は、遺跡から持ち出された石像。造りは精巧、大きさは等身大。題材も刀を構えるサムライから杖を構える巫女まで様々となれば、連作一式が揃っていればどれだけの値が付くことか。中々目の付け所は良かったのですが、と調は一旦口を閉ざす。 「何やら、表情がよろしくないとか揉めていて、商談が纏まっていないらしいのです。半金は前払いだったのに、まだ二体しか受け取っていないとか」 そもそもこのまま商談を続けるべきかという一大事、しかも取り止めたとして大枚が戻るかどうかという瀬戸際に「その石像は怪しいから引き渡せ」では態度も硬化するというもの。その上「人命と金、どっちが大事なの!」とギルド職員が詰め寄れば、「自分の金だ」と開き直ったものだから、余計に拗れてしまったらしい。 「‥‥西渦さんらしいですね」 結夏は思わず苦笑しながら呟いていたが、調は笑うに笑えないという心境だろう。 「とにかく、先方を納得させる材料さえあれば何とかなると思うんです。お願いできますか?」 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
橘 楓子(ia4243)
24歳・女・陰
レートフェティ(ib0123)
19歳・女・吟
ルヴェル・ノール(ib0363)
30歳・男・魔
光琳寺 虎武太(ib1130)
16歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●情報取捨 「中々厄介なアヤカシが多いみたいね」 気さくに手を振って相手を見送る恵皇(ia0150)は、レートフェティ(ib0123)の呟きを聞きつけると表情を曇らせて呟く。 「似たようなアヤカシなら手を合わせたことはあるが‥‥」 遺跡に潜ったという開拓者の話は、やはりアヤカシに関するものが多い。だが今までに聞いたことが無い能力の数々は、全く正気の沙汰ではないというか、流石アヤカシとその非常識さに唸るしかないというか。 「でもさ、やっぱり遺跡って男のロマンだよな!」 こちらも飛び上がりながら見送っていた光琳寺 虎武太(ib1130)が、勢い良く振り返って二人に問う。先ほどの話は終始目を輝かせて食いついていたし、今も早く遺跡に行きたいぜと息まく様子。 「その気持ちも分かるがな。人命が掛かっていることを忘れるなよ?」 笑みを浮かべながらも嗜める恵皇。だがふと気付いたように、ああ、その辺りのことも占ってもらってみるか、と呟けば。 「何々、占いでそんなことまで分かるのか?!」 おうよ、とそれに答えて盛り上がり始める二人を見て、レートフェティは仕方が無いなぁと思わず息を吐く。それでも、そんな些細なことで気付くこともあったりする。 (「わたしもちょっと、肩に力が入りすぎていたようね。うん、準備は十分に、そのためにも焦りは禁物よね」) 静かに深呼吸を終えると、二人に声を掛けて次に話を聞く相手を探しに行く。 遺跡の周辺を調査していた犬神・彼方(ia0218)と華御院 鬨(ia0351)は、話を聞くこと数人目にして漸く、そんな奴らを見たという猟師を捕まえていた。 「そぉいつぅに間違ぁい、ねぇんだな?」 念を押しつつも、既に手を顎に当てて思案顔。鬨も彼方の様子に気付いていたが、思わず声に出して呟いていた。 「六人で大きな荷物を二つ、どすか。‥‥数が合わへんねぇ」 それを問いと取ったのか「あんなデカイの、見間違いはしねえよ」と少々憮然と答える猟師。最初こそ二人の聞きなれない言葉遣いと振る舞いに気後れしているようだったが、ここは猟師としての矜持が勝ったらしい。 「他には何か、気になることとか聞かへんかったやろか?」 彼方も一つ頷き、「どぉんな様子だぁったか、とぉかな」と続けて問えば。 「うーん‥‥ そうそう、『続きはいつにする』ってしつこく聞いてたっけな」 それに何かけったいな格好してたなぁと思い出し笑いする猟師の横目に、二人は真剣な表情を見合わせていた。 「これが遺跡への立入申請書。それから、これは希望なのだけど。遺跡に入った一行の、特徴が分かるような資料があるようなら見せて欲しいの」 「これも頼む。石化治療の申請書だ」 深山 千草(ia0889)とルヴェル・ノール(ib0363)が開拓者ギルドへ書類申請をしていると、事が合ったらしい日に遺跡の入口付近を警備していたという見張り番を、結夏が連れてやって来た。散々事情聴取を受けた後だというが、事の成り行きに思うところがあるのだろう。訳を話したところ、快く応じてくれたということらしい。 「じゃあ、全員が遺跡から出てきたところを見た訳では無いのね?」 「はい。最初に出てきた奴が火を貸してくれと来てですね。詰め所に入ったところで少し話し込んでしまったんです」 何気ない質問から、遺跡の中の話題が弾んだらしい。それでも時間にしてはほんの数分。そう大掛かりなことが出来るとも思えないが、何かあったとしたらこの時だったのだろう。 「そんなに悪い奴には思えなかったんですけどね‥‥」 少々寂しそうに答える見張り番に掛ける言葉はすぐに出て来なかったが。 「大丈夫よ、手掛かりは遺跡から探し出してくるから」 千草が安心させるように微笑むと、ルヴェルも穏やかな表情で頷いてみせる。 (「失敗できない理由が一つ増えてしまったな」) 厄介事には違いないが、重荷と思うようではなく。その責務を果たすべく、決意を新たにするルヴェルだった。 ●遺留品発見? 遺跡の中は仄かに明るいが、部屋の片隅の闇を払うほどではなく。そして松明に火を灯せば、向ける先こそ明るい視界が広がるものの、そこから逃げたモノが寄り集まったかのように反対側の闇を深くする。合言葉で扉を開けさせてもらって大喜びだった虎武太も、思わず居住いを正すほどの静けさが広がっていた。 「どぉうしたぁ、虎の字? なぁんか良いもん、みつけぇたか?」 彼方が声を掛ければ、思わずびくりと身体を震わせてしまう虎武太だったが。それには気付かぬ振りをして、彼方はそのまま虎武太の頭を撫で回す。 「わ、わわ?!」 何しやがる、と口では言いつつ、ほっとした表情をする虎武太。一行はこっそりとそれに和みつつ、遺跡の奥へと歩を進める。 「そういえば恵皇。また結夏に何か占ってもらっていたようだけど?」 レートフェティが声を掛ければ、恵皇はおう、と機嫌良さそうに答える。 「アヤカシとの相性を聞いたんだけどな、思い通りの結果でちょっと満足してるよ」 ま、俺の口説き方が悪かったら、それ参考にしてくれたら良いしな、と鬨と千草に話を振れば。二人は事前に聞いていたのか、苦笑を返すのみ。レートフェティが不思議そうな顔をしていれば、隣のルヴェルもぽつりと呟く。 「私も聞いてはみたが‥‥ 思い込みには気をつけたほうが良さそうな結果だったな」 とはいえ、今現在、行方不明以外の人間が遺跡にいないはずとなれば、採るべき対策は限られてくる。考えていても仕方がないことを思い悩むのは置いておくことにした。 「そういえばこの前の依頼の村、あれから落ち着いているという話だったよ」 ‥‥遺跡は、真っ直ぐな通路で構成されていた。といってもそれは単なる直線ではなく、ある程度進むと今まで通ってきた通路を折り返すように奥へ続いていた。行き止まりで曲がる方向だけが変わる何の変哲も無い通路に、次第に何かに迷い込むような錯覚に陥りそうになった頃。その先に、ぽっかりと開ける広間が現れた。 「反応は無いわ」 目を瞑って広間を心眼で探った千草は、その結果を小声で皆に伝える。構える武器こそ下ろすが、緊張を解かぬまま一行が広間に入れば。そこには探索に必要な道具の数々が一面に散らばっており、そして部屋の中央には毛布を上から掛けられた、高さ一メートルほどの何かが置かれていた。 「石像が一つ、どすなぁ」 つかつかと歩み寄った鬨がその毛布を静かに取り去ってみれば、そこには片膝を付いて静かに瞑目する石像が現れた。服装よりも何より、その肩から掛けた弓からクラスを特定できるその女性は、どうやらその胸に石の猫を抱えているらしい。 「ふむ、資料通りだな。行方不明の一行の弓術士だろう」 ルヴェルが資料を捲りながら確認すれば、この子が朋友の猫又ね、とそれに答える千草の表情は硬い。だが思ったよりも穏やかな二人の表情に気付けば、我に返って辺りの捜索に移る。 「後から入ってきた奴ら、ここで石像三体を見つけたってことなんだろうなぁ」 一通り捜索を終えると、頭を掻きながら恵皇が切り出せば、他の皆も反対意見は無い。 「こんなでかぁい宝、手に入るとぉは思ってなぁかったんだろぉよ」 そう言いながら彼方が拾い上げたのは、まだ使っていない松明の束。行きと帰りの分は減っているようだから、本当に必要なもの以外、邪魔になると捨てていったのだろう。 「どうする? この石像を持って帰れば、件の商人さんを納得させる証拠は揃うわよね?」 レートフェティが窺えば、そんなの決まっている、と皆の顔に書いてあった。 「だって、あと二人、足りないんだろ?」 不思議そうに虎武太が叫べば、ルヴェルもそれに頷いて続ける。 「散らばっている荷物は山師のものだろう。何も考えずにここで引き返したのは確実だろうし、そうすればこの先に石像が残っている可能性は高い」 何よりここまで一本道、どこかに隠せるような場所も無かった訳だしな、と理路整然と答えれば。 「これで石化は確実どす。原因がこの先にあるんやったら、うちらで何とかせんことには。今ここに居る意味があらへんえ?」 鬨も深く頷き、そう答えれば。顔を見合わせた一行はそのまま先へと進むこととなった。 ●行き止まりの先? 辿り着いた部屋は石像以外何も無い、殺風景な部屋だった。 「志士に陰陽師‥‥ 背格好に装備も資料に一致する。うむ、残りの二人に間違いないだろう」 ルヴェルが資料を捲っている間にざっと部屋を見渡した一行だったが、特に目印になるような物も無ければ、入る前に確認した通りアヤカシの気配も無かった。十メートル四方の部屋には、入口から見て奥の壁を向いている二体の石像があるのみ。 「二人が向いてる壁に、何かあるのだとは思うのだけど‥‥ カラクリでもあるのかしら?」 壁に近寄ろうとする千草を、レートフェティが呼び止めようとはするが。 「迂闊に近づいちゃ危ないけど‥‥ だからって調べない訳にはいかないんだよね。どうしよう」 と問おうとしたその時。 「分かった、こういう時こそ呪文だろ!」 周りが止める間も無く、『でなでなー』と虎武太が開封の呪文を唱えれば。‥‥だが奥の壁には何も起こらない。 「虎くん。思い付きで‥‥ 行動をすると、思わぬ事故に繋がるのよ?」 千草のきつい注意に思わず肩を竦める虎武太であったが。左側の壁に音も無く開いた隠し扉に気付くと、一行は皆驚くしかない。そちらから流れてくる黴臭い空気に、しばらくぶりに開いたのであろうことには誰もが気付いていたが。 「未知を開拓してこそ、開拓者ってな」 拳を鳴らして気合いを入れなおす恵皇に負けじと、一行はその先に歩を進める。 「数は三つ。十メートルくらい先に固まってるわ」 通路の先が闇に、明かりの無い広間に繋がる手前にて。微かな音を聞きつけた一行は、何かしらの存在を確認すると戦闘態勢を整える。 「入口に着いたら、そこから各自散開ってとこだな」 小声で後ろに伝える恵皇は、前衛を務める鬨と千草に手で合図を送り、足を忍ばせ入口へ向かう。後衛もその後を追って入口に達するが、部屋の闇は深く対象を見分けることは出来ない。だから恵皇は目を瞑り、間合いを脳裏に思い浮かべると、そのまま闇に向かって踏み切った。 それと同時に、部屋の壁が一斉に淡い光を放つ。だがそれに気付いた時には恵皇はアヤカシの目の前まで踏み込んでおり、そしてそのまま腰溜めに構えていた紅の波動を躊躇無く叩き込んでいた。 (「強酸性粘泥‥‥ にしちゃあ、聞いてた色と違うか?」) 一撃叩き込んだところでその相手と手応えを確かめれば、続く二撃目の気を瞬時に練り込む。 「刀や拳には滅法硬いが、術系統には弱いんだよなっ!」 思い浮かんだ開拓者の話を無意識に言葉にしつつ、逆の拳から波動が続けて打ち込む恵皇。先ほどとは異なる軌道だが、どちらもアヤカシの芯を捉えていれば。一瞬身体を震わせたそのアヤカシはそのまま床に零れると、すぐさま瘴気に返り始めていた。 「目ぇで睨まれる心配は、無さそうどすな」 続く鬨も静かに滑るように間合いを詰めれば、恵皇の攻撃を認めて自身の刀に精霊力を纏わせる。入口に留まった千草も、突きの構えを見せて機を見計らって固着すれば、だがそこに一瞬の間隙が生まれていた。 「よーし、俺も突撃‥‥ ってなんだ?!」 踏み込もうとする虎武太と、その襟首を掴んだ彼方の頭上が翳ると、何時の間にか現れていた霧が二人を包み込んでいた。それは瞬時に消え去り、すぐに二人を姿は露わになったのだが。 「あれ‥‥ 腕が動かない! 俺、石になっちまうのか?!」 「男なぁらうろたえぇるな、虎の字。ほぉれ、腹に力ぁ入れて気張るんだぁよ!」 虎武太を構う彼方の声こそ軽いが、その不自然な姿勢を自分では戻せない様となれば。『夜の子守唄』を歌い始めていたレートフェティが慌てて『霊鎧の歌』に切り替えると、千種も二人に駆け寄り頑張ってと励まし始める。 (「これは時間との勝負だな」) ルヴェルはアヤカシを分断する形に冷気を叩きつけてその動きに制限を加えれば、次の瞬間、それを読んだかのように二手に分かれた恵皇と鬨は、それぞれ周りこんでアヤカシに痛撃を叩き込む。 「あまり気張りすぎないのよ、虎くん」 「ぐむ‥‥ 難しいこと‥‥ むむむ」 千草と虎武太のやり取りを、彼方は何とか聞く余裕が出てきていた。どうやら石化よりは幾分落ちる、麻痺毒の類であるらしいが、だからといって毒が回ってしまっては行動不能になることに変わりは無い。幾分上がっている心拍を押さえながら、彼方は静かに気を集中し続けるしかなかった。 ●壁の先へと進む方法 そのまま粘泥を倒しきると、虎武太と彼方に駆け寄ったが。二人とも何とか毒に耐え切っており、その何とも無い様子を見れば、誰とも無しに安堵のために座り込んでしまう。二人は照れ笑いするしかなかったが、まずは皆で無事を喜ぶ。 「さてと。なら次はお宝の分配かね」 恵皇が踵を返して部屋の中央にとって帰ると、その手に小箱を抱えて戻ってきた。鍵も掛かっていないその箱を注意深く開けてみれば、その中には合わせて二種類十個の宝珠が納められていた。赤と黄の二色のそれは、その内一個ずつが少々大振りだが、形は他と変わらない。 「これが『開門の宝珠』‥‥って奴なのかね」 言っちゃ悪いが、安っぽい作りだよな、と笑い飛ばす恵皇だったが。皆の表情は思った以上に真剣だった。 「何かの鍵には違いないと思うのよね。でもこのアヤカシが石化の原因でないのなら、まだ先があるはずよね」 レートフェティがぽつりと呟けば、ならこれは先ほどの部屋の鍵か、と自信無さそうに呟くルヴェル。案の定、部屋を戻って翳してみても、特に何も起こらない。 「とりあえずはぁ一旦、出直しかぁね」 推測に間違いが無ければ、石像と化した行方不明一行は回収出来たことになる。件の商人も、石像が開拓者に戻るところを見せれば、嫌とは言えずに差し出すだろう。 そこまで変な顔をして聞いていた虎武太が声を上げる。 「そうだよ、石化って服とか装備も石になるんだよな?」 まあ、そうみたいだな、と恵皇が口に出せば、他の皆もそのことに気付く。 「ここの扉の鍵みたいなのも、今は石化しちゃってるんじゃないか?」 虎武太の言に、千草は続ける。 「そうね。そしてそれを持っているのは、外まで持ち帰ろうとした耐性の強い巫女さんとか、一行のリーダのサムライさん‥‥ になりそうかしら?」 ふむ、と一行はその言葉を各々理解すると。やっぱり今日の探索はここまでどすな、と鬨が呟く。 「それでも無事に家に着くまでが探索どす。気ぃ引き締めて帰りましょ?」 にこりと告げる笑顔に、思わず虎武太が顔を赤らめ見とれてしまえば。誰かが吹き出す笑いが一行に広がっていた。 |