【霞虎】春を散らす雪
マスター名:機月
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/03 19:16



■オープニング本文

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「‥‥初めから、こうすれば良かったのかしら」
 空に伸ばした袖は長く、薄手の衣にはうっすらと影が透けて見えた。そのまま天にかざしていると袂が滑り落ちるが、その先には青空が広がるのみだった。それでも女は袖を翻し、その先に手の平と甲があるかのように矯めつ眇めつ見つめては、喉を震わせ続けている。
 その後ろには鬼が二体、両膝をついて控えていた。身体を窮屈そうに縮めており、その顔は笑っているように見えて時折引きつっている。視線をちらりと上げては女を追っていたが、それ以外は美味しそうな獲物が地面にあるかのように、そこをじっと見つめ続けていた。
 女が手を伸ばしたままくるりと回った後を、ふわりと一片の雪が流れた。
「まだ少し、早いかしら? ‥‥そんなこと、無いわよね? 試しは十分‥‥ そうよね?」
 がくがくを首を振る鬼には何の関心も見せず。女は静かに北の空を見やり、楽しげに唇を歪めた。

 本当なら、西渦(iz0072)も職権を存分に活用して、アル=カマルの夜市を堪能‥‥ いやいや、ギルドの威信と勇名を轟かせるべく、彼の地で不寝番の任を務めるはずだった。神隠しは一応解決し、それ以降アヤカシによる騒動は起きてはいない。だというのに、何故か理穴の一地方から目を離すことが出来ずにいた。
 一番良い方法は、人手を大量に投入して全域を一斉に調査すること。だがこれは何も起きていない現時点では、権限以上に費用の面で論外だった。次の良策は、同僚や知り合いを頼っての人海戦術。だがこれも、全く人手が集まらずに頓挫してしまった。
「まったく! みんな新大陸とか神砂船とか浮かれすぎ! ‥‥でも念願の『開拓』だし、仕方ないか」
 そうは言いつつ、西渦も出来る限りの準備は続けていた。青年団を説き伏せて村同士の連携を密にし、狼煙を使った連絡網を作り上げた。本当は風信術を使いたかったところだったが、全ての村にあるもので無く、互いに連携を取るには呪術者も必要とする。一方的な通話に限定することで奏生にある支部に詰めることも考えたが、別件でギルド長から動員が掛かっているとの噂を聞き、短い時間とはいえ風信術を占有するのを、西渦は殊勝にも遠慮していた。

 何事も無く数日が過ぎ、ようやく情報が繋がり始めた。智里と呼ばれる商人が、少なくとも一年は前から、この辺りに現れていたらしい。これは山徒の住人の暗示を解いたことにより「思い出した」者から聞いた話だった。そしてその姿と名前は、泰国でも確認されていた。
「ちょっと、どういうことなの、当事者は! 行方不明? それで何で‥‥ ああもう! 一旦資料全部持ってこっちに来なさい! 龍も連れて来るのよ!」
 東湖(iz0073)との会話を一方的に打ち切ると、通話の終わりを待ち構えていた青年が堰切ったように喋り始めた。
「灯実川と来見川、どちらも木片がたくさん流れてきたんです! 様子を見に行った奴らの話だと、橋とか水車小屋とか、川沿いにあったものが、手当り次第壊されてたみたいで!」
「一度に? それとも、何回かに分けてかしら?」
 西渦が地図を広げながら尋ねると、震えながらも広げた手の平と地図を交互に指差しつつ、青年が地名を読み上げた。西渦によって付けられた印は全部で五つ。ぱっと見た限りでは、比較的離れた灯実川と来見川、双方を徐々に下ってきているように思える。
「足跡が残っているところと、残っていないところがあるって話です。残ってる方は、色んな大きさの素足の跡で、それから荷車か何か、車輪の跡も残ってたって。木っ端は、その場に残っていたり全部流されたり。場所によってまちまちだって話です」
 ここ数日の天気と被害があった場所を照らし合わし、移動経路を推定してみる。‥‥荷車を引くのは無理でも、アヤカシなら行き来が可能な距離かもしれない。山岳地帯をわざわざ蛇行する意味があるのならば、ではあるのだが。
「それから、淵東の近くで蜜蜂が帰ってこないって話も、さっき届きました。その、気付いたのは今日の昼過ぎだけど、多分昨日のことだろうって‥‥」
 印が追加されたのは、来見川の中ほどだった。一番近い場所で言うなら、その下流にある早瀬(はやせ)。川を交互に移動しているなら、灯実川にある白牧(しろまき)付近。最終的に目指してるのは‥‥ 二つの川が交わる二瀬川(ふたせがわ)、そしてその先の‥‥ 奏生だろうか?
「とりあえず、アヤカシ討伐の依頼を出しましょう。連絡は‥‥ するだけしておくわ」
 そもそも報告書が届くとは限らないが、儀弐王(iz0032)宛にするか、理穴ギルド長、大雪加 香織(iz0171)宛にするか。最後の言葉を口の中で呟くに留める。これ以上青年を不安にさせないだけの分別が、西渦にもまだ残っていた。


■参加者一覧
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
久坂・紅太郎(ib3825
18歳・男・サ
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰


■リプレイ本文

●到着
「こっから早瀬とは、連絡取れるんだろ?」
「少し無茶でも無理でもさっ! 怒ってでも一旦は逃げてもらわねーと!」
 精霊門から飛び出して来た久坂・紅太郎(ib3825)と羽喰 琥珀(ib3263)がまくし立てるのに、西渦は最初呆気にとられた様子だった。
「街の人たち、もう当事者なんだからその辺りは大丈夫よ。まあ、ちょっと浮かれ過ぎって気はするけどね」
 直ぐに調子を取り戻すと、訳を苦笑いしながら説明する。早瀬への説得は済んでおり、用意が調い次第、避難を始めることになっているらしい。しかも青年団の哨戒は続いており、途中でアヤカシの一団を見つける成果まで上げているという。粗末な荷車を取り囲む小さな鬼が五〜六体、その倍以上の背丈の鬼が四体。積み荷が何かまでは、良く分からない。‥‥少しでも情報が多いに越したことがないのも確かではあったが、発見次第引き返すようにという指示が更に徹底されたとか何とか。
「輿の類では無さそうだな。何を運んで、いや集めているのやら」
「背丈が倍以上っていうのも気になりますの。思った以上に大物が絡んでいるかも知れないですの」
 マハ シャンク(ib6351)の呟きに、十 砂魚(ib5408)が指摘を加えた。
「宗樹に寄りたいところ、だけど。‥‥やっぱり、アヤカシ退治が終わってから、かな」
「そうですね。将虎様とヌシ様のお見舞いには花を添えたいところですし」
 頷き合う桔梗(ia0439)と趙 彩虹(ia8292)は、互いの表情に決意を見つけて気を引き締め直す。
「ここから二瀬川に向かう、で良いのよね」
「ええ、その積もりです。直行する分、二瀬川で時間は取れると思っていますけど」
 こくりと頷く和奏(ia8807)に、西渦は続けた。
「網と篝火だったわね。話は通してあるから、二瀬川の詰め所で受けとって頂戴。飛空船はいつもの所、朋友も連れていって大丈夫。‥‥他に何かある?」
 西渦が満足そうに頷くのに見送られて、一行は飛行船に乗って奏生を出発した。


●迎撃
 二瀬川の街とその周辺には盛大に篝火が焚かれ、二つの川には網と柵が仕掛けられた。最初に白牧より続く灯実川、次いで早瀬より続く来見川に、橋や水車の破片と思われる木片に混ざって陶片が流れ着いていた。川の流れと距離を考えれば、アヤカシは概ね予想通りの動きをしているらしい。だが予想していた到着は、夜半を大きく通り越して早朝と言ってよい時刻になっていた。
 街より灯実川を少し遡ったところ、蓮華の咲く草原に一行は陣を張っていた。地を這う蔓草に、薄紅の花が咲き乱れており、朝露に濡れたその小さな花びらの集まりからは、ふんわりと甘い香りが漂っていた。縁から中央に向かっては緩やかな下り坂になっていたが、縁の外には木立が並んでいて、そちらに比べると格段に見通しは良い。その中央、少し下流側に用意した遮蔽の後ろで、一行は何時もと違う朝を迎えていた。空気は澄んでいて爽やかながら、鳥のさえずり一つ、聞こえてこない。そして上流側からは隠そうともしない、甲高く気に障る叫びや地に響く咆哮が聞こえ始めた。
 草原の縁にまず三体がひょこりと姿を見せたが、どうにも鎧の大きさが合っていない、不格好な小鬼だった。手に持った何かを辺りに放り投げては、はしゃいだように飛び回って一際高い声を挙げている。続いて現れたのは、縁に降り下ろされた、巨大な鈍色の固まり。先の三体が慌てて戻ると、重そうな荷車を引いて再び現れる。荷車に集る小鬼が六体、その後ろに控える大鬼が合わせて四体。大鬼は、どれも小鬼ほどもある棍棒を携えていた。
「鉄甲鬼、ですか。‥‥思ったよりは大物ですが」
 彩虹の呟きに、紅太郎が苦虫を潰した。琥珀が首を傾げたが、直ぐにぽんと手を打つ。
「えっと、智里っつったっけ? あいつがいねーな?」
 振り返ったその背後に、どすんという音と共に大岩が降った。大分離れてはいたが、振動は身体に響くほど大きい。こちらに気付いた鬼たちが、荷車に群がり手に手に岩を抱え上げ、こちらに投げつけ始めたところだった。
「その辺は置いておいて。まずは彼奴等、何とかしねえといけねえみたいだな」
 槍を一降り、紅太郎が寄る構えを見せると、マハも拳を打ち合わせて頷く。
「あんなへなちょこ、当たると思われては心外だがな」
「回復も援護も、出来ると思うけど。油断、しないで」
 朋友の首筋を撫でつつ鞍に跨った桔梗の言葉を受けて、一行は攻勢に転じた。

 投石の精度は出鱈目も良いところだったが、とにかく数が多かった。そして小鬼が投げる岩は小さいが、鉄甲鬼が投げるものは人の頭ほどもあり、泥が付いた断面の険しいものもあれば、河原にあった思われるすべらかなものもある。飛ぶ距離や勢いも区々で、それが面倒だった。数発、桔梗の朋友が飛ばした風の刃や琥珀の焙烙玉が荷車を吹き飛ばしたが、岩石の雨が止む気配がなかった。
 琥珀は危なげなくも飛び跳ねていたが、紅太郎は自分に飛んできた岩を槍で律儀に受けていた。少しずつ詰めているとはいえ、まだしばらく距離がある。だが弾いた土塊を頭から被った紅太郎が、とうとう呻いた。
「なあ。もう少し、手っとり早い方法があるんだが‥‥」
 ちらりと視線を逸らした先では、和奏が無造作に歩いていた。掠る岩や砂には気を払わず、下げた剣先を偶に閃かせては、飛んできた岩の勢いを殺しては足下へ転がしている。彩虹も棍を使って同じようにいなしていたし、マハは拳で岩を掴み取っては勢いもそのままに脇へと投げ捨てている。だがやはり砂土には辟易した様子を隠していなかった。
「何とか成るなら、さっさと‥‥ っ、援護も時と場合によりけりだっ」
 空中で飛び散った岩の小雨が降り注ぐ中。マハの許可を得た紅太郎が、袖で口元を数瞬隠す。そこで大きく息を吸い込むと、他が止める間もなく大音声で吼えた。
「ほぉら、こっちだっ! 来いよぉおっ!」
「ちょ、無理ですよ、こんな状態で咆哮なんて! まだあんなにいるのに!」
「大丈夫でしょう、あのくらい。紅太郎さんが多少痛いかもですが、その間に自分たちが‥‥」
 慌てる彩虹に、和奏が暢気な答えを返す途中で。空から桔梗の鋭い声が飛んだ。
「右手、奥に新手! それから、砂魚が見えないっ!」
 後方からの援護が途絶え、そして遮蔽ごと、そこにいたはずの砂魚が確かに消えていた。
「三人で持てるか?!」
 マハの問いには背の鞘に刀を納めた琥珀が、おうっと片手を突き出して応える。
「出来なくても言うしかないよな、ここは」
 両脇から迫る脅威に無理矢理肩を竦めてみせる紅太郎と、言葉少なに刀を構え直す和奏。彩虹とマハも目線を合わせ、そして桔梗を見やる。そして一行は二手に分かれた。

●接触
 何かが陰ったように思えた。
(「篝火でも消えましたの?」)
 銃眼から目を離さなかった砂魚の前の、動きの何もかもが少しずれた気がした。唐突に止まりつ進んだ光景が、ゆっくりとその間隔を広げて、そして止まる。岩が降る振動も、それが弾かれる音も、かすかに聞こえていた軽口も。動きも音も、何もかもがゆっくりと、途絶える。
 そして砂魚は真後ろから、両手で首を掴まれた。
「こんなところで、一人で何をしているのかしら。あら、素敵な毛並みの、耳と尻尾。あなたも狐なのね」
 耳の傍から声が聞こえた時点で、砂魚は身動きを取れなくなっていた。肩から銃床を外すことすら出来ず、長銃を前に構えたまま、振り返ることすら出来なかった。首に触れる手は温かい。それがかえって、嫌悪を催す。
「ようやく、お会いできましたの‥‥」
 口と喉は動くらしい。耳も動かせそうだったが、相手に触れてしまいそうなので我慢する。
「あなたを待たせてしまったのね。悪かったと思っているわ、本当よ? ‥‥私も本気で後悔しているの」
 すり寄る口元からこぼれる声は、だんだん小さく、そしてふるえ始める。
「‥‥もっと早く。狼なんかじゃなくて、あなたみたいな娘で試していれば。もっと早く、手に入れられたのに‥‥!」
 一息に告げた女の声は、だが歓喜に打ち震えていた。
「ああ、長かったわ! ‥‥でも、だからこそ、これは私の力。私だけが手に入れられた力。ねえ、そうでしょう? あなたもそう思うでしょう?」
 震える息を、意識的に抑えた。耳は聞こえる。体は動かない。ゆっくりと息を、吸って吐く。‥‥辛うじて、指先に痺れが、感覚が戻ってきた。
「このまま進むのも、良いと思うの。あの方にも出来なかったことを成し遂げる‥‥ ああ、考えただけで武者震いが止まらない。でも地盤を固めるのも大事よねえ? どちらが良いかしら、どちらも良いわねぇ‥‥ あなたは、どう思うかしら? 聞いても良いかしら、答えてくれるかしら?」
 全神経を、背後に集中させる。それでも、すぐ傍にある相手は感じ取ることは出来ない。だが頭の左右を揺れる相手の言葉と、それから衣擦れの音を、想像してつなぎ合わせることは出来た。後は、今まで使い込んできた銃と、積んできた経験を信じるしかない。
 応えを求めているようで決して噛み合わない言葉を素通りさせ、砂魚は機会を待ち続けた。

●消失
 何かを突き抜けた先は、寸前と幾つか光景が異なっていた。幾つか燃え盛っていたはずの篝火は消え、何より暖かな「雪」が地表から空へと舞っている。そして遮蔽に長銃の筒を乗せて膝立ちに構える砂魚に、後ろから多い被さるような人影が映った。
「砂魚!」
 駿龍に乗った桔梗が空から声を掛けるのと、銃声が重なった。直後、人影の顔が跳ね上がる。砂魚がわずかにずらして撃った長銃が、その肩を滑って真後ろに跳ねていた。桔梗の声に上を向いた、白い人影の横面を銃床が打ち抜いたようだった。
「砂魚様、伏せて!」
 彩虹の言葉に反応できない砂魚は、だが人影に、智里に前へと放り出されていた。そのまま後ろにたたらを踏む智里に向かって、彩虹は迷わず踏み込んだ。まず右斜めに遮蔽を避けて一度、そして智里の真横から、反対側にマハを認めてからもう一度。智里は未だ空を仰いでおり、その体は急所の何から何までがら空き。真正面から拳に固めた白虎の気を、その猛る唸り声と共に叩き込む。
 その手応えを認識する前に、彩虹は跳びずさっていた。本能的にマハと桔梗の攻撃が反対側に通るのを避けてのこと。だが、それ以外の何かがおかしかった。

 後ろに跳ねたのは、マハも同じだった。上空から放たれた浄炎を目印に気弾を飛ばす。更に間合いを詰めて背後に回り込むつもりが、最初の感触に何か警告を感じたのだった。浄炎が効果を失って消えたのは、驚くほど白い女の腕が、唐突に消えて見える境目。そして覗いて見えた女の顔からは、一切の動きが消えていた。まるで表情を浮かべることすら忘れたように、その圧倒的な何かを思い出したように。
「‥‥‥‥」
 こぼれたのは、言葉にならない喘ぎだけだった。その指先の見えない右手から薄絹のような、わずかに光沢のある風が巻き上がると、女の足下からその姿を何重にも覆い始めた。その度に薄れていく女の姿は、一気にきゅっと、握り拳くらいまで縮んでしまった。かすかに歪ませながらも向こう側を写す、透き通る空色の塊り。それは蕾が開くように、今度は一枚一枚解けながら、宙に解け始めた。
「何だ、どういうことだ?!」
 マハが再度放った気弾は、その煌めく風の花を完全にすり抜け、同じく近づこうとしていた彩虹を掠った。それを回り込むように避けてから距離を詰めた彩虹の一撃も、桔梗が念じた浄炎すらも、効果を及ぼさない。
 そしてしばらくして、跡形もなくそれが消えてしまう。遠くに鬼たちが争う音が戻ってきてからも、誰もその場を動くことが出来なかった。
「どーなったんだ? 砂魚は、だいじょーぶなのか?!」
 切れ切れで少々やけっぱちな琥珀の呼び掛けに、まずは桔梗が砂魚に走り寄った。その場を任せることにした彩虹とマハは、まだ収まる様子の無い戦場に向けて、再び駆け出した。

●臨戦
「‥‥参ったわね。嫌な予感はしていたけど、まさか『魔の森』とはね」
 春の日差しの中、溶けない雪が積もり始める草原を眺めて西渦は呟いた。宗樹、白牧、早瀬、二瀬川と二つの川に挟まれた地域に数カ所。いや、哨戒の密度を上げればもっと増えるかも知れず、そもそも『魔の森』は広がり続けるもの。元凶と思われていた智里の退治が上首尾に終わった後だけに、悔しいことこの上ない。
「予算が降りれば良いんだけど‥‥ いえ、ここは絶対もぎ取るしかないわよね。‥‥それから、絶対息の根を止めてやる」
 西渦の不敵な宣言は、だが大分、強ばっていた。