【四月】AAA計画
マスター名:機月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/18 18:27



■オープニング本文

 がらんと席の空いた、昼下がりの喫茶店。実祝(iz0120)は向かいに座る女性の口元と、そこから零れる言葉に意識を集中していた。相手が和装なのは珍しいが、色合いは地味で誂えも質素。じっと見つめれば表情というものが一切無いことに気付くが、目を離すと疑問どころか、そうした思いすら消えてしまう。‥‥意味することを考えないために、失礼と思いつつ唯一動く真っ赤な唇を見ながら、懸命に話を追う。
「『媒体』を再生する『機器』を探す、というところまでは理解できました。ですが、何故『今』なのですか?」
 半年以上も時間を掛けて試みた『炎羅復活』は、前回召喚こそ成功したものの、予め組み込まれていた防壁に阻まれてしまった。『帝国』や『教会』とも協定が結ばれた以上、既に機を逸しているとみて間違いない。
「だからと言って、我々が動かない理由にはなりません。所詮、薄氷に乗った円卓。誰かが踏み出すのを待つまでも無く、湖底に沈むのが道理」
 もう春ですからねと呟く唇は両端を吊り上げていたが、到底笑みには見えなかった。
「‥‥必要でしたら、他に二つほど上げておきましょう。媒体の解析が非常に困難であること、そして機器の在り処が絞り込めたこと」
 口に出して繰り返す実祝に頷き、女性は続ける。
「媒体に書き込まれた『詠唱』には、機器自体の稼動音、果ては不規則に発する雑音までも組み込まれています。それが使役者の結界として働いているため『他の手段では媒体を破壊せずに読むことは出来ない』と結論付けられました」
 どこまでが『手段』に含められるのか試したのか、先を考えそうになる実祝をやんわり制するように、女性は言葉を続ける。
「機器の在り処ですが、買収出来たのは当該倉庫のみ。そこから必要なものを接収した後、その痕跡も消していただきたいのです。勿論、敷地外に及ぶような方法は論外です。人目に付く方法を起そうというなら、逆に何もしないでいただいて結構です」
 提示された倉庫街の住所を書き留めつつ、実祝は必死に依頼書の書式を思い起こしていた。
「媒体の特徴は聞いても良いですか? えと、聞かない方が良いなら、機器の方でも良いのですけど‥‥」
「媒体の大きさはこれくらい、です。逆に、これ以上はお答えできません」
 女性は人差し指と親指を直角に広げて、顔の前で四角を示してみせる。左右の指は接していない。
「なるほど‥‥ えっと、有志を募って事に当たっても良いのですよね?」
 覚書を指差し確認した実祝が、ふと視線を上げると。そこには数人を雇うに十分な金額が書き込まれた小切手が置かれており。そして立ち去る気配すら残さず、既に女性はその場から消えていた。


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
マリアネラ・アーリス(ib5412
21歳・女・砲


■リプレイ本文

●依頼と使命と
「足は何とか確保できそうだ。ワゴンでもトレーラーでも ‥‥【星占】の伝ってのは、便利だな」
 組織の素性を考えかけた恵皇(ia0150)は、だが頭を一つ振ると端末での作業を終え、冗談めかしながら二人に声を掛けた。締め切った店内に、様々な機材が持ち込まれた急拵えの秘密基地。バーカウンターの止まり木から振り返ると、幾つか小振りなテーブルを中央に集めた天津疾也(ia0019)と実祝が、そこに乗せた地図と紙束、そして携帯端末と格闘していた。
「やれやれ、確かに割のいい仕事やが‥‥ どう見ても真っ黒や。見てみい。標的の周辺、全部【帝国】の縄張りやで」
 目的の倉庫は青いペンで×印が書き込まれているが、その周りを取り囲む建物は、全て赤のマーカーで塗りつぶされていた。
「それにどうやら、時間もあんまりあらへんな。倉庫の持ち主、明後日には元に戻りそうや。余程の意表を突かん限り、こんな所が中立地帯になるはずないんやが‥‥ 【帝国】も威信に関わるとか、思っとるんやろなぁ」
 恐いわぁと口に出しつつも、疾也はその更に外側に、幾つか印を入れていく。歩み寄った恵皇が見下ろすと、オフィス街の一角から始まり、地図上の公園や駐車場などに印が付けられていた。
「大分細い道もあるようだが‥‥ 行きは良くても帰りに困るんじゃないか? 第一持ち出す『機器』とやらの大きさすら分からないんだ」
「まあ、半分保険や。それに『媒体』いうんは、厚みは無さそうで丸くも無いんやろ?」
 疾也の問いに、実祝は肯定しながらも不安な様子を隠せない。
「もう一度問い合わせてみたのですが、中身はともかく『媒体』自体は現場にもあるだろうとの回答でして‥‥」
 申し訳無さそうに唇を噛む実祝に、恵皇と疾也は視線を交わして笑い飛ばす。
「なんだ、十分じゃねえか。それもついでに持ってくれれば、良い土産が増えるってことだろ」
「手ぶらでお邪魔するのも、行儀が悪いってもんや。色々準備しといた方が良いんやろし‥‥ ま、それでも明日には揃うやろ」

「『節度ある慎み深さを持って事に当たるように』? はっ、上品に取り繕っても、やる事ァ変わんねえってのによ」
 長々と続く訓戒を流して、マリアネラ・アーリス(ib5412)はもう一度依頼の内容のみを拾い読んだ。
「場所は湾岸倉庫街、【星占】の連中が運び出すブツを‥‥ 押さえる必要はねえと? その辺は臨機応変に、か。‥‥殺生は望むところじゃねえしなァ」
 そういって麻酔銃を申請しながら、愛用の銃を腰から外す素振りは全く無い。放り出しかけた端末が、振動で通知を知らせる。
「もう承認通ったのかァ? 協定結んだばかりなのに、仕事熱心というか‥‥ あ?」
 新しく届いた通知には、別セクションからの奉仕活動が指示されていた。
「審問官待遇? 人外には『速やかな慈悲を与える』ように『期待している』? 少しは大目に見てくれるって事か‥‥」
 マリアネラは目を細めて呟くと。先程とは別の認証コードで、煩雑で細々とした申請を嬉々として始めた。

●忘れられた宝物庫?
 倉庫の扉は、疾也が取り付いて数分と掛からず、その鍵を破られていた。かすかに引き摺る音を立てて、人が通れるくらいに開かれる。差し込んだ月明かりに照らし出されたのは、最初は奇怪なオブジェに見えた。だが見直した恵皇に言わせれば、さまざまな機械の残骸というか、単なるガラクタの山にしか見えない。
「前衛的に見えるからって、ガラクタや無いで? 宝珠技術の黎明期の作品、収集家には垂涎って奴やな」
 大小は様々。手の平に収まるものから、小型の飛空船のようなものが、半ば墜落したように先端を天井に向けて伏していたりする。思わずかつん、と足音を立ててしまった恵皇は、我に返って疾也を見遣る。
「ここは【帝国】の資料庫、みたいなもんや。大概なんでも一揃え、どんなルートを通ってか集まる拠点があるっちゅうことや。まあ、俺らが必要としてるんは一昔前の工業製品、多分‥‥ あの辺りやろ」
 疾也が指差す先には、人の背より大きな直方体が群れを成している。本棚‥‥というよりは、冷蔵庫の類に見える一画へ。二人は荷物を抱えて歩き出した。

「ああ、多分これやろ」
 手に余るほどの大きさの、少し固めの紙箱の上半分を引き抜くと、疾也が中のものを一枚取り出して恵皇に放った。白い紙袋に入ったそれは、黒くて四角く、真ん中に穴が開いていた。その他にも小さい穴や楕円形の窓が開いており、そのどこからも黒いフィルムが覗いていた。
「‥‥フロッピーディスクか?」
「丸く無いならレコードやない、真四角ならカセットでもない。そしたらこれしかないやろ。俺も見たんは初めてやけどな?」
 ぺらぺらと何気なく振って見せてから、辺りを見回す恵皇は声を掛ける。
「‥‥で、どれを持っていけばいいんだ?」
 両脇に並ぶ陳列ケースの中には、ディスプレイと本体、キーボードが揃った形で『機器』が並んでいた。そららは同じ大きさのスリットを持つ、だが全く系統が異なる外観を持っていた。

(「何を揉めてんだか‥‥ まあ、ダミーを持ち込んで摩り替えるってのは気が効いてらァ」)
 【帝国】も、何が狙われているかまでは気付いていないだろう。ここが拠点の一つであっても、そもそも保管目録があるのか怪しい上に、あったとしても時期的に紙資料の可能性が高い。それは時間が稼げる公算が非常に高い、ということだ。
 一段高いところにある、作業用通路に身を潜めたマリアネラは、暗視スコープを覗きながら映像を記録するタイミングを計り続けていた。ライフルと連動した機材を抱えた体勢を崩さずに、既に丸一日が過ぎようとしていた。
(「‥‥さっさと済ませてくんねェと、その顔写真も一緒に送っちまうぜェ〜? あー、その方が退屈しねえし、お互いのためかも知れねえなァ?」)
 表情はそのままに、物騒な考えを実行に移そうとしたマリアネラだったが、軽いモーター音を聞いて身を強張らす。倍率を少し下げた視界に、ぼんやりを輝き始めた箱を認めると。明らかに嬉々とした表情を浮かべ、もうしばらく静観する事にしたのだった。

●警告と刻まれた真理
 作業を終えた二人が、その一画から足を踏み出すと。唐突に眼前に、文字が浮かび上がった。
『声紋照合、不一致』
『機材の持ち出しにはライセンスAが必要です。上位者からの許可、承認がある場合は速やかに提示してください』
『Y/N?』
 何らかの入力を求めるかのように、三行目の文字が点滅を繰り返す。視線を見合わせた二人は、何をどうすればよいのか分からない。そしてそもそも、許可や承認とは無縁である。
 一応その文字に触れることは避けて二人は歩き出したが、宙に浮く文字は少し離れた場所にある、取っ手の付いた『箱』から投射されていることに気付いた。それは静かに口を開くと、文字の変わりに何かを吐き出した。
 それは二メートルほどの人影を取る、古めかしい甲冑を思わせる銀の体躯だった。非常にほっそりとしていて継ぎ目も無い。ふわりと宙に浮いていたそれは、目の前に構えた右手に大剣を掴み取り、左手には二本のナイフを指に挟み、そして音もなく着地した。
 扉に目をやった疾也と、咄嗟に間合いを取ろうとした恵皇。二人の足元には、何時の間にかナイフが突き立っていた。甲冑の左手は何時の間にか振り上げられており、そして挟まれた刃は四つに増えている。
「荷物を盾に、間合いを詰めぇ! 荷物の破壊許可は出てへんはずや!」
 疾也は右手の荷物を転がすように放ると、懐に手を突っ込む。その射線に荷物を抱えた恵皇が割り込んだ。寸前で刃を止めた甲冑は、ふわりと後ろに向けて飛びずさると、右手の大剣を投げつけて、転がる荷物の取っ手を地に縫い付ける。それでも面を二人から逸らさなかった甲冑は、再び宙から大剣を取り出して見せた。

 正解、と心の中で呟いたのはスコープ越しのマリアネラだった。後頭部に『真理』と刻まれた神機とは、運が良いのか悪いのか。
(「ま、『人外』には慈悲をくれてやれってのが教義だしなァ。あー、Eを刻むんだっけか? いや、風穴で十分だよな、型落ちの木偶ならよォ」)
 間髪入れずに疾也が叩き付けた焙烙玉は、地面に叩きつけられる前に四本のナイフに串刺しにされる。だが爆発せずに飛び散った破片に、甲冑はその動きを止めたように見えた。
 その隙を逃さず、両脇を走り抜けた疾也と恵皇は、地に転がる荷物すら回収して倉庫を飛び出した。‥‥全ての荷物に弾丸が打ち込まれていたのに気付いたのは、滅茶苦茶に逃走経路を走り抜け、実祝と合流した後のことだった。

●特別手当?
「‥‥二つ、お知らせがあります。どちらから、お聞きになりたいですか?」
 機器を引き渡した翌日、秘密基地に召集された恵皇と疾也は、神妙な様子の実祝に迎えられた。
「別にどっちからでも、俺は構わないが」
「約束通りの報酬は確認したで? 返せと言われても返されへんけど、その辺はきっちりしときたいとこや」
 荷物に撃ち込まれたのは、対アヤカシ用のライフル弾だった。その貫通力ゆえ、荷物の中身も貫通した機材以外は比較的無事だった。というより、周到に複数を持ち帰ったという選択が功を奏したのだろう。直撃を避けた機材を組み合わせることで稼動するのを確認してから、依頼主へ『機器』一式を引き渡していた。
「予備の『媒体』にはOSまで揃っていたそうで、その点は非常に感謝されたのですが‥‥ 『媒体』が違ったそうです」
 へ、と呆ける二人には、実祝が申し訳無さそうに、もう一回り大きな媒体を差し出す。
「本来は、この八インチのディスクが対象だったそうです。これが使えるのは一台しか無い筈で‥‥ あ、でも五インチ用の機器は互換性も高く、それに持ち出しが一台だった場合は壊されていた可能性が高かったという見解ですから‥‥ その、報酬は既に払った分で、差し引きなし、だそうです」
 すっかり呆然とする疾也とは反対に、そんな『媒体』初めて聞いたと恵皇は目を丸くしている。
「‥‥で。もう一つの話ってのは、良い話なんだろう?」
「そや! 何だったんや、あんなん出るなんて聞いてへんで?!」
 それ以上聞き続けることが出来なかったのだろう、実祝は二枚の紙切れを二人に突き出した。そこには二人の顔写真と、目玉が飛び出るような数字が並んでいた。
「お二人には二つ名と、多額の賞金が掛けられたようです。【帝国】の機密に触れてしまったのが原因では無いかと‥‥」
 ご愁傷様ですと書かれた実祝の顔を、恵皇も疾也も、呆然と眺めるしかなかった。

「仕方ねえよなァ。アヤカシ作り出そうなんて計画、【教会】なら手伝うだけで粛清対象だぜェ?」
 上司に提出しなかった二人の写真が賞金付きで配信されたのを見て、マリアネラは思わず口笛を吹いてしまった。
「審問官は不殺が原則だしなァ。‥‥でもまァ、結局状況次第って奴?」
 携帯が許可された銃を見遣った顔には、その口調に似合わない狩人の笑みが浮かべられていた。