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■オープニング本文 朱藩のはずれ、神楽に程近い森の中に小さな村がある。 火薬の原料となる硝石を裏山で採掘し生計を立てているが、罠にかかった獣を獲ったり薪を得るために村人は西の森へと足を向ける。 「ん‥‥なんじゃあ、ありゃあ」 罠からはずした兎を片手に、老人が木々の奥に目を凝らす。老人の供についてきた若者が、同じ方を見ながら歩み寄った。 「どうした、じいさま」 「今、なんか青白く光ったような‥‥」 「あ、ひか――わぁっ!?」 「ひいぃっ!」 茂る木々に陰る森の暗がりに発した青白い閃光が、二人の間をかすめて背後の木を打ち据えた。光が当たった場所は黒く焦げ、木肌のくすぶる臭いが鼻をつく。 二人は同時に光の元を振り返る。茂みの低い位置、暗い陰には獣を思わせる双眸が何組か光っていた。 「ひ‥‥ア、アヤカシっ!?」 「ま、待て! 村に戻るより先生の庵の方が近いじゃろ。何日か前に戻って来たって、五平が言っとったわ」 アヤカシは茂みの向こう、罠に掛かりまだ息のある兎を食すのに夢中になっているようだ。 今のうちにと、二人はもつれそうになる足を必死で動かし逃げ出した。森の奥にたたずむ庵を目指して――。 神楽の都にある開拓者ギルドには、天儀各地から日々絶えることなく依頼が寄せられる。 ギルドの受付卓には、いましがた受けたばかりのアヤカシ退治の依頼書を作成している受付係がいた。 薄柿に染めた地に秋明菊を咲かせた着物は裾を膝丈まで上げて着こなし、年の頃は十四、五。筆を執るその肩には高く結い上げた銀髪が流れる。 まだあどけなさの残る顔立ちに真剣さをにじませて紙面に文字を書き連ねていく。 と、一旦手を止め、梅紫色の帯に挟んでいた綴帳を取り出した。表紙には『アヤカシ一覧』と記されている。 使い込まれた様子のそれをめくり目当ての頁を開く。そこには今討伐依頼を受けた鼠のアヤカシについての詳細が姿絵と共に掲載されていた。 大きな碧い瞳がアヤカシの能力についての文面を辿り、依頼書へと書き写していく。 「『化け猫』‥‥猫の姿を成したアヤカシ。身のこなし素早く、鋭き爪・牙を用い襲い来るなり‥‥と」 依頼書を書き終えると、早速受付卓を離れ、それを壁面の掲示板へと貼り出しにいく。 あいにく掲示板の空きは高い位置にしかない。小柄な身体をめいっぱい伸ばし、何とかして貼ろうと苦戦していた依頼書を、後ろから伸びた手がするりと奪った。 反射的に振り向いた小さな受付係の顔はたちまち笑顔に変わる。 「うわぁっ、蓮雀先生久しぶり!」 「やあ、久しぶり。四葉は相変わらず元気そうだねぇ」 そこにいたのは四十絡みの男だ。長い榛色の髪を後ろで緩く束ね、痩せているが人好きのする笑顔と赤い瞳が印象的である。 身を包むのは天儀本島のものに泰国風のものを織り交ぜたような変わった衣服だが、最近は奇抜な姿の開拓者も多いためか以前よりは衆目を集めなくなったようだ。もっとも他人の視線を気にするような男ならば、元よりそんな格好はしていない。 自分の代わりに依頼書を掲示板に貼ってくれている蓮雀に、四葉が尋ねる。 「先生、今はいつもの庵に帰ってきてるの?」 「ああ、まぁ‥‥いたりいなかったりかなぁ。しばらくは本島にいる予定だけどね。最近はアヤカシの動きも活発になっているみたいだし」 「もしかして、今日は調査のお手伝いを依頼に来たの?」 「そうそう、そうだった」 今言われて思い出したと言わんばかりに、彼はぽんと手を打った。 「実は庵近くの村人から相談を受けてねぇ。森にアヤカシが出たそうなんだけれど、話に聞くとまぁ珍しそうな奴なんだ」 実に嬉しそうに話す彼の様子を見ると、どうやらまだ具体的な被害が村人に及んでいる訳ではないらしい。 「じゃあ、そのアヤカシの能力調査をした上で、最終的には討伐する‥‥って、いつもの感じでいいのかな?」 「そうだねぇ、できるだけ身体が丈夫そうな人と、できれば巫術や陰陽術が使える人もいれば助かるけれど‥‥いなければいないで、まぁ何とかなるか」 胸の前で組んだ腕の一方で顎をなでながら言う蓮雀に、四葉は笑顔で頷いた。 「りょうかい! アヤカシの出る場所とかいろいろ、もっと詳しく聞きたいからさ。先生こっち座ってよ」 四葉に袖を引かれ受付卓に誘われながら、蓮雀は首を捻った。 「ん、その辺言い忘れてたかね‥‥そうそう、忘れてたといえばこれだ」 言って取り出したのは小振りな紙が数枚。そのどれにも異形の生物の姿絵が描かれ添え書きがされている。 「ありがと、先生! 本島にいないときも郵送してくれて、すっごく助かってたよ」 同じ大きさの『アヤカシ一覧』を取り出し、受け取った紙を間に挟む。四葉が愛用しているそれは、蓮雀が続けてきたアヤカシ調査の結晶である。 四葉は蓮雀の話から必要事項を依頼書に書き起こし、満足げに顔を上げた。 「これでよしっと! 新しいアヤカシ情報、楽しみにしてるから。調査がんばってね、先生」 「そうだなぁ、私もどんな調査結果が出るかとても楽しみだよ」 和やかに微笑み合う二人の後ろで、四葉の先輩職員が密かに溜息をつく。 それは調査に同行する開拓者への哀れみが多分に含まれたものだった。 |
■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
桔梗(ia0439)
18歳・男・巫
氷(ia1083)
29歳・男・陰
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
神咲 輪(ia8063)
21歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 開拓者達はアヤカシが出たという森の近くにある村で蓮雀と落ち合った。 「やあ、君達が調査を手伝ってくれる開拓者だね?」 「ん、オレは符術士の氷ってもんだ。まあよろしく〜」 氷(ia1083)をはじめ皆が自己紹介をすませると、喪越(ia1670)が問う。 「五行とかの国の機関に身を寄せず、個人でアヤカシ研究やってるのか」 「はは。ああいった組織の中に在るのは肌に合わなくてね」 「お、言わば同好の士ってやつかね。仲良くしようぜ!」 嬉しそうに手を叩く喪越の横から、桔梗(ia0439)がそっと進み出る。 「四葉の綴帳、いつも世話になってる‥‥蓮雀も、ありがと」 桔梗がぺこりと頭を下げると、穏やかな笑みを浮かべた斎 朧(ia3446)も頷いた。 「これまでも、事前にアヤカシのことがわかっていればこそ、勝てた状況も珍しくありません。後進のため、というのもなかなか乙な物ですね」 「アヤカシへの恐怖はそれが未知であることより生じている部分も多い。完成した暁には世の人々の大いな助けとなるだろうな」 大蔵南洋(ia1246)の言葉に、縁側に腰掛けていた老人が大きく頷いた。 「お主分かっておるの。どうかわしらの為にも頼んだぞ」 アヤカシの目撃情報と引き替えに神咲 輪(ia8063)からもらった団子を頬張る老人に見送られながら、皆は森へと出発した。 「我ら開拓者はある程度アヤカシに抗する力があるからいいものの、一般の人は違いますものね。人々が少しでも安全に暮らせるよう、頑張りましょう」 高遠・竣嶽(ia0295)の真摯な表情に、蓮雀は申し訳なさそうに苦笑する。 「私がアヤカシを調査しているのは、極端に言ってしまえば単なる好奇心なんだ」 「うむ。アヤカシの生態については我も大変な興味がある」 蓮雀の言葉に同意したのは輝夜(ia1150)だ。 「大したことは出来ぬと思うが、是非とも協力させてもらおう」 「ま、理由は何でもいいんじゃない〜? 結果、皆が楽になるのは変わらないんだし」 そう言う氷も、抗する力を持たぬ者がアヤカシから逃れるためにどうすべきかを調べる心づもりでいた。 ● 森の中は茂った梢が陽を遮り薄暗く、いつもは聞こえる鳥のさえずりや獣の気配も感じられない。 「相手は五感の何を主にこちらを感知してるんだろうねぇ」 氷が呟くと南洋も小声で答える。 「人の何を感じ取り襲ってくるのか分らぬが、肉食で常に飢えていることだけは共通していると見て間違いない」 今いるのは、村人がアヤカシを見たという場所からより村に近い位置だ。 朧は森の奥をじっと見つめて言う。 「最初は出来る限り生態調査を行うということですし、気配を隠すのに長けていない身としてはお邪魔しないようにしている事しかできませんが‥‥」 「二人がアヤカシを探してくれるっていうんだから、のんびり待ってればいいさ」 ゆったりと構えた蓮雀がそう言った頃、喪越と輪は先行してアヤカシ目撃地点へと近付いていた。 抜足で行く輪からやや離れた位置取りの喪越の脳裏には、前方へ走らせている人魂の視界が浮かんでいる。式が周囲を探らせつつ慎重に進む。 と、喪越は輪に合図を送る。行く手の茂みを二つ越えた先に、それらしき姿を見つけたからだ。 茂みの間に数匹身を寄せているのは、血のように赤い眼を持つ真っ白な兎だ。やや大柄な三尺程の身体と額に突き出た青い角が、彼らが異形のものであることを示していた。 輪はあえて衣擦れが起こるように動いてみる。‥‥反応はない。 次はもふらのぬいぐるみをぽふぽふと叩き。それでも反応がないと見るや、今度は琥珀珠の勾玉を飛苦無でかちかちと鳴らし‥‥。 「危ねぇっ!」 喪越が声を上げたのは、兎を見ている式が青白い発光を目撃したからだ。茂みを貫いた雷撃は音の元、輪へと向かっていく。 喪越の声で当たる直前にかわす事ができた輪は、その身に木葉の幻術を纏う。着地点を狙って突進してきた兎の角は、木葉に目測を誤らされ空を切る。 「動きは速いみたいだけど、木葉隠は有効なのね」 「ひとまず皆の所まで一時撤退だ」 喪越は密封していた包みから生肉を取り出し、地面へ放り投げて踵を返す。 一目散に走り出す背中を五体の白い獣が追いかけた。生肉には見向きもせずに、放たれた雷撃が喪越の脇をかすめる。 「だあぁっ、生きてる肉の方がいいってコトかい!?」 「嗅覚の鋭さを確かめようと思ったのに、こんなに出てこられたら確認できないじゃない」 輪は憤慨しながら、用意していた甘い香りの団子を一気に頬張ると早駆で兎達を引き離す。 連なる茂みをいち早く抜けた輪は、近付く雷撃の音を聞き駆けつけて来た仲間の姿を木々の向こうに見つけた。 「皆! アヤカシを連れて来たわ」 「アヤカシ共、我が相手じゃ!」 大鎧が音を立ててはいけないとそれまで動きを抑えていた輝夜が、横にまわり込むように駆けながら咆哮を放つ。 兎達は輝夜へと向かって茂みを飛び出す。直進していたらそこから出てきたであろう位置から喪越が転がり出た。 角や爪の攻撃により受けた傷に朧が術を施す。 「精霊の慈しみ宿りし風よ、その恩恵をこの者に分け与えたまえ」 「助かったぜ、アミーゴ! 早速調査開始といこうかい」 「ん‥‥戸板、持ってきてる」 皆で森に運び込んだ戸板を、桔梗が喪越に手渡す。 手帳が雷撃によって被害を受けぬようにと気遣い、桔梗は蓮雀のすぐ近くにガードを構えて控えた。そうしながら、自らもその目で兎の攻撃法や動きを観察する。 輝夜は兎の攻撃を抜き放った白鞘で受け止めながら言う。 「一度にまとめて相手取っては、調査にもならなかろう。こやつら三体は我が引き受けておく」 「うむ。この数ならば調査前に減らす必要もあるまい」 そう言う南洋と、竣嶽も戸板を構え咆哮にかからなかった兎を囲むという妙な光景が生み出されていた。 「その戸板は何に使うんだね?」 興味津々といった様子で問う蓮雀に、竣嶽が答える。 「これで相手の攻撃を受け止めれば、私たちの防具で受け止めるよりは客観的な威力の基準にはなるでしょう」 戸板を貫く枚数を攻撃力の基準にしようという訳である。 ● 兎はぐっと身を縮めると、地面に立てた戸板の脇に立つように対峙する南洋に向けて地を蹴った。 相手を翻弄するように左右にステップを踏みながら近付く速度は並の兎よりも格段速い。 「むっ!?」 盾とした戸板はたやすく打ち破られ、衰えぬ勢いのままの角の一撃が南洋の身を打つ。 「しからば二枚ではいかに‥‥?」 身を捩り直撃を避けた南洋は、戸板を二枚重ねて再び兎へと向き直る。 戦いの音に、やや風上めの茂みの中にいた氷はがばっと身を起こした。 「っと、やっと来たか」 氷は涎を拭う。この場所に潜んでいたのはアヤカシの嗅覚を確認するためだったのだが、短い時間にも関わらずすっかり寝入っていたようだ。 「嗅覚は鋭く無いのか? モエツさん、雷撃の威力確認は任せた。俺は心属性の効き目を確認しとく」 喪越の名前を間違えつつ茂みから出てきた氷の隣に、輪の背中が近付いてくる。 「じゃあ、この子をお願いね」 咆哮の効果が切れた一体を飛苦無で攻撃しながら誘導して来たのだ。 氷は向かい来る兎に陰陽符を放つ。 「魂を喰らう牙よ、力を顕せ‥‥」 放たれた符が変じた光は虎の姿となる。兎に食らいついたと同時に、奪った兎の瘴気と共に弾けて消えた。兎は甲高い悲鳴を上げ苦しんでいる。 「ん〜、効果は悪くない、かな。じゃ、次は氷柱を‥‥っとと」 符を取り身を翻した氷の腕を兎の角がかすめて傷を残す。 「汝等は今しばらく我の相手をしてもらうぞ」 輝夜は再び咆哮を重ね、調査対象外の兎を調査中の仲間から引き離す。調査が済む前に全て倒しきってしまうことのないよう、自ら攻撃を仕掛けはせず防御に徹していた。 そんな輝夜の傷を癒した朧はさらに舞を送る。 「これで少しは楽になるでしょうか‥‥」 精霊力が輝夜に集い、その身を護る力を高めた。 「回復役を判断するだけの知能は持ち合わせていないようですね」 朧が呟く。治療の為に距離を寄せても、兎達は今戦っている相手しか目に入っていないようだ。 竣嶽は乱戦にならぬよう仲間と距離を取り、戸板数枚を用意していた開けた場所へと兎一体を誘導する。 気を引くための牽制に使用していた珠刀「阿見」を収め、戸板を手に身構えた。 「南洋殿が突進の威力を確かめられるのならば、私は雷撃を‥‥」 戸板を持ったままでは動きが制限される。相手の動きを注視し、極力場所を動かぬようにしつつ身体を開いて角の攻撃をかわす。 「――! 戸板が‥‥」 すれ違いざまに角を振り放った雷撃が端に当たり発火したのだ。 「竣嶽、水を‥‥!」 桔梗の声に振り向くと、彼の指す先にはあらかじめ汲み運んできた水桶がいくつかある。季節柄森に枯葉も多かろうと、桔梗の案で用意したものだった。 竣嶽が火を消す間、喪越が同じ兎に向かう。それを眺めながら、筆を走らせる手を止めず連雀が言う。 「生木じゃなく乾いた木は燃やせる熱量があるって事かね」 兎の姿を良く見んとしてか、皆が対峙する兎の合間を頻繁に動きまわる連雀。 桔梗はそれに振り回されながら、雷撃をガードで受け止めて歩く。 「連雀‥‥あまり近寄ると、危ない‥‥っ」 さすがに発火する事は無いにしろ、受け止めた雷撃は思いの外身体に衝撃を残す。 「いや、盾になってくれていると助かるよ」 連雀と来たら、かばってくれるのを良い事に全く避けるそぶりも見せず。ついには南洋に向けて、 「直接攻撃を受けた傷の具合を確認したいな」 「心得た」 そんな注文に南洋は事も無げに返答し戸板を捨てた。 「って事で、濡らした戸板を用意してみたゼ!」 喪越が飛んでくる雷撃を正面から受け止めた。戸板は乾いた音と共に縦に割れ、貫通した紫雷は喪越を直撃した。 「喪越殿、今のうちに」 濡らした戸板二枚を掲げた竣嶽と入れ替わりで後退した喪越は、神風恩寵を放ってくれている朧を振り返る。 「ねぇ俺の髪、焦げてチリチリいっちゃってない?」 「え、えぇと‥‥?」 朧は彼の頭部を見つめたまま笑顔だけを返す。元来天然縮毛なので正直見分けがつかない。 「くっ‥‥まずはこれまでか」 角と爪の攻撃を一身に受け続け傷が深まった南洋は、応急処置として不動にて防御を固め団牌で攻撃を受けつつ一時後退する。 傷を受けた者は桔梗と朧がその都度神風恩寵で回復し、時には連雀の非道とも言える要望に答えつつ調査は進み。 「大体こんな所じゃないかな」 連雀が手帳を閉じたのが、調査終了の合図となった。 「そうか。ならば遠慮はせぬ」 桔梗の術で傷の癒えた南洋は蛮刀を抜き放ち、兎への間合いを一気に詰める。 輝夜が雷撃をかわし。兎はそれを見越したように雷光の下から飛び出してくる。これまで受け続けていた兎の攻撃法は見切っている。輝夜が振り下ろした刃はその角を根本から切断した。返す刀で肩口を斬り上げる。 「肉質は一般的な獣のアヤカシと変わらぬようじゃの」 朧はこれ以上皆が傷つかぬよう神楽舞「抗」で支援すると、兎の一体に狙いを定め手鎖「契」を鳴らす。 「錬力も余っている事ですし、浄化の炎、試させてもらいます」 清き炎は木々には及ばず兎の身のみを焦がす。怯んだ瞬間を狙った南洋の重い一撃に、兎の身体は瘴気へと砕ける。 喪越と氷が呪縛符で動きを束縛し、竣嶽も収めていた刀を居合で抜き放ち兎をへ斬りつける。桔梗は力の歪みを使い。 極力スキルや攻撃への抵抗や耐久を確認しながら無事調査と討伐は終了したのだった。 ● 戸板や桶を回収し、皆は森の奥へと進み連雀の庵を訪れていた。 全員がくつろげる程度の屋内には文机の周囲を中心に様々な本が山と積まれ。壁の天井付近には多種多様な植物が干されている。 蓮雀が用意したのは花のような芳香を放つ泰国の茶で、名を白玉兎というのだとか。 「はい、皆様‥‥蓮雀先生も、お団子どうぞ」 輪は都で買っておいた蓬団子やおはぎを皆に振舞い、 「あーんしましょうか?」 と微笑みと団子を桔梗に差し出す。 お茶と団子をいただきながら、調査の結果を報告し合う。 「戦いの後、瘴索結界で探しながら探した、けど‥‥巣穴とかは作ってなかった」 桔梗は心なしか嬉しそうに瞳を輝かせてこう付け足す。 「触れなかったけど、毛はすごくもふもふしてた」 蓮雀はおはぎを頬張りながら皆の言葉を手帳に書き加えていく。 角の突進は戸板一枚を、雷撃は二枚を貫き。雷撃の直前に角が発光する事や、雷撃は直線的にしか飛ばず二間(4m)程の射程がある事。雷撃と角・爪の攻撃を互いに牽制・主攻撃と状況に応じて使い分けている事。 その他スキルや攻撃の効果等様々な調査結果を元に、蓮雀はアヤカシ一覧に載せるための清書を手がけ始める。 「なるほど、これがアヤカシ一覧か‥‥」 南洋は四葉が持っているものと同じ綴帳を、感心した様子で一枚一枚眺めていく。 「こーゆーので皆が正しいアヤカシの知識を得られるというのは良いことだねぇ。出来れば複写ももらいたいとこだけど。えーと、リンジャクさん?」 またもや名を間違っている氷だが、訂正すらせず蓮雀が答える。 「手書きで世に二冊しかないからねぇ。ここに来て自分で写していく分には構わないよ」 「ん、めんどいからいいや」 あっさり諦めた氷だが、喪越はまじまじと綴帳を見つめ、 「研究結果を書籍化してウハウハかぁ。俺も検討してみるかな? ‥‥って冗談。冗談サ」 鋭い視線で彼を黙らせた竣嶽は、皆に茶のおかわりを配りながら言う。 「こういう地道な活動が、平和な世に結び付くと良いのですが。また機会があればぜひ手伝いたいところですね」 「そのうち魔の森に関する調査もやってみたいところじゃの」 言って輝夜は身を乗り出す。 「我は、もふらとアヤカシとの因果関係に付いて興味があるのじゃが、汝はどうかの? 主たる性質は真逆ではあるが、死したる後は消滅してしまうところなど特に似通っておると思うのじゃが」 「なかなか面白い事を考えるね。人やケモノも、もふらやアヤカシに比べたら随分時間はかかるにしろ最終的に行き着くところは無だからねぇ。世の中気になる事が多くて困るよ」 角の生えた兎の姿絵を描きながら楽しそうに語る蓮雀に朧が言う。 「私も蓮雀さんにこれまで見たアヤカシのお話を聞きたくて。情報は武器、ですし」 甘味とアヤカシ談義をお茶のお供に、楽しい時を過ごし。皆はアヤカシ討伐が住んだことを村人に告げて神楽へと帰還した。 数日後『一角雷兎』の頁を携えた蓮雀がギルドを訪れた。 「先生、これ‥‥いっかくらいと。ひとつのかみなりうさぎ。何て読むの?」 「呼びたいように呼べばいいさ。それより今回は思った以上の成果だったよ。また次回も頼むとしようか」 四葉の問いに満面の笑みで答える蓮雀だった。 |