言葉――心と心を繋ぐ道
マスター名:菊ノ小唄
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/30 14:43



■オープニング本文

●昔話

 林に囲まれた、湖を。
 弓を担ぎ、空を駆ける二人の旅人が訪った。
 清き水、涼やかな緑、眩く光。
 二人は暫く、その地に留まる。

 そこへ、影が現れた。
 人の心の闇を、恐怖を喰らおうと。
 二人は、その影を知っていた。
 狩る手段も、心得ていた。
 同時に、それが自分たちには困難であることも承知していた。

 旅人たちは、林に身を隠した。
 影は、林の獣を殺し始めた。
 喰らうためではなく、人を誘き出すためだった。

 二人は、母熊が子熊を茂みに隠すのを見た。
 そしてその晩、殺された母熊の死骸を見た。

 林の抵抗を、二人は思い知る。
 だが、このままでは林は滅びる。
 二人は、影を討ち取るため策を練り始めた。

 影が、湖の上を悠々と舞っている。

 一人が、子熊の隠れていた茂みに潜んだ。
 一人が、湖上へ騎獣を駆り、影の前に躍り出た。

 影は、狂喜して飛びかかる。
 弓矢になど目もくれず、手足を喰いちぎって弄ぶ。
 騎獣には一蹴りだけくれてやり、騎手だけ捕まえて振り回し戯れた。
 遂に影は、喉笛を裂く。
 湖上に、鮮やかな赤が汚く散る。
 直後、何かの衝撃で影は死骸を取り落とした。
 二度、三度、と己の首を衝撃が襲い、視線を巡らした。

 茂みの射手は、影と目が合ったのを感じた。
 迫り来る影の眉間に、最期の一矢、狙いを付ける。

 弦が鳴る。
 衝突する。

 茂みのそばの岩陰で、黒い子熊が一頭、震えていた。


●便り
 開拓者が集う神楽の都。その北外れに佇む、とある小さな屋敷に一通の書簡が届けられた。
 秋の気配を含んだ風が肌に心地よい、よく晴れた朝のことである。

「何かあったのかしら」
 少し心配そうな顔でフミは届いた書簡をぱらりと広げ、文机に向かって読み始めた。
 便りは、フミが先日まで滞在していた理穴国から――かの国の東部で起きた急変に際し、西部平野の湖のそばへ逃れてきた者たちから届いたものであった。
 先日の助力の礼に加え、大きな事故も無く避難先の開拓を進めている、という報告が書かれておりフミはひとまず安心する。また、新しい村の名前が決まった、と書かれていた。『束枝村(つかえむら)』とするそうだ。
 続く内容は、かの地に住まうケモノの長から語られた昔話。
 その中に登場する『影』、人の恐怖を喰らう存在。これは恐らくアヤカシのことだろう。理穴の湖に現れたアヤカシを、二人の旅人が命懸けで退治した……そんな昔話がケモノの長から語られたという。

 そこで、フミはあることを思い出した。林に住むケモノの長は黒熊の姿だったと、束枝村の者たちが話していた気がする。もしかすると、昔話に出てくる子熊が今のケモノの長かもしれない。或いはその子孫。

 ところで、この昔話がどうしたというのだろうかと我に返り、フミは便りを読み進めた。
 書かれていたのは、ケモノの長たっての願いもあり、湖に新しい名前を付けてささやかな奉納祭を催すことになったという話だった。村の名前はすんなり決まったが、湖の名は検討中で、中々決まらず苦悩しているという。ただ、日頃助言をくれるケモノへの感謝、そしてこの地への感謝を込めたものにしたい、とのこと。
 要は、祭と名前の準備に再び開拓者らの助力を得られないだろうか、と頼んできているのだった。

 現在、準備のために働いてるのは約三十人らしい。器用で、集中力があり、身軽な人々だったことをフミは思い出す。手紙によれば、そのうち三人は志体を持っており、弓術士としても良い腕だという。
 また、東部で起きた急変で多くが身内と離れ離れになったが、合流できた家族、そうでない家族は半々程度らしい。それでも諦めず、前進するため日々を過ごしている、と書かれていた。そんな近況を読み、自分も頑張ろうと身が引き締まる思いのフミである。

 ちなみに、彼らが直接ギルドへ依頼を持ち込むのではなく、フミへ頼んできたのには理由があった。
 かの地の人々は殆ど身一つで東部から西部へ移り、資金の類がろくに用意できない。有事の際には助けてもらいたいが、複数の開拓者には頼みにくい……と、以前滞在中だったフミに、避難民の一人がこっそり相談してきたことがあったのだ。その際フミは
「私に相談してくれたら、できる限りのことをする。もし人が集まらなかったら、私一人だけでも助けに行く」
 と約束した。その約束を頼りに、彼らはこの手紙を送ってきたのだろう。


『自分がした約束には、全力で取り組め』

 この小さな屋敷の主だった亡き祖父の言葉がふと蘇った。文机の前で、ぴんと背筋を伸ばす。

「言われなくてもそのつもりです、じいさま」

 初秋の朝風が入ってくる障子窓の向こうに、黄色く色づき始めた木々が揺れている。
 あの林はもう赤いだろうかと理穴の湖畔に思いを馳せ、そしてフミは腰を上げた。


■参加者一覧
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
白葵(ic0085
22歳・女・シ
桃李 泉華(ic0104
15歳・女・巫
ラサース(ic0406
24歳・男・砂
源三郎(ic0735
38歳・男・サ


■リプレイ本文



●一日目
「おはようございます」
 レティシア(ib4475)が村人たちにぺこりと一礼し、桃李 泉華(ic0104)がにこやかに、ラサース(ic0406)が静かに続ける。
「また遊びに来たよって、皆さんよろしゅうに」
「今回もよろしく頼む」
 残る開拓者たちも挨拶を述べると、村人たちが礼の言葉と共に挨拶を返す。いつもお世話になってばかりで……などといった言葉を聞き、レティシアが村人たちの顔を見回す。
「引き受けたからにはできる範囲でなんでもやりますので、どんどん申し付けてくださいね」
 彼女の明るい表情と声。おかげで村人たちの肩の力も抜けたようだ。
「ありがとう、ではいろいろお手伝いしていただこうと思います」

 村人たちとの顔合わせの後、源三郎(ic0735)は今回の依頼代理人でもある山県 フミ(iz0304)に声を掛けた。
「おフミさん、お久しぶりです。今回もよろしくお願いします」
 眼帯に眼鏡姿の娘が、もはや見慣れたその長身に笑みをこぼす。
「いつもありがとう。またよろしく、源三郎」
 礼を言われて恐縮する源三郎の後ろからそろーっと顔を出したのは、黒猫の獣人、白葵(ic0085)。
「おはよーさん、や」
「おはよう、白葵もありがとう」
「んん、気にしやんと……がんばろや」
 そういう白葵はフミの眼帯を見て、失われた光を思い、負い目を覚えている風。だがそれでもフミに会えて嬉しそうなのが黒い尻尾の動きでわかる。
 少し離れた場所にフェンリエッタ(ib0018)が立っている。戦で多くのものを失った村人たちが前向きに動き出している姿を暫し眺め、物思いに耽っていたが、白葵たちのところへやって来て、
「フミさん、今回のお仕事、声を掛けてくれてありがとう。皆でいいお祭りにしましょう」
 と微笑んだ。依頼した自分が礼を言う前に、依頼を受けた側のフェンリエッタから礼を言われてフミは目を少し瞬かせる。だが協力を惜しまぬフェンリエッタの気持ちを感じたか、すぐ嬉しそうに微笑み返した。
「うん、みんなで頑張ろう」

 ラサースと泉華は、まず林の主……ケモノの長の黒熊が居る場所へ足を向けた。滞在の挨拶と、祭りに関する助言を請うためである。
 二人を出迎えるように、住処である大きな茂みの外へ黒熊のケモノが出てきていた。泉華が
「あ、居はったで♪」
 と笑顔になり、ケモノに向かって軽やかに礼をとる。
「主さんお久しぶりです。またお世話になりよるわな?」
 続けてラサースも、
「三日間、この村の祭の準備を手伝うため、再び滞在する。よろしく頼む」
 と挨拶を述べた。それを聞いて、ケモノが低い声を響かせる。
「此度の祭りに、そなたらが手を添えること、嬉しく思う」
 そして、知識や助けが必要であれば何でも言ってみるようにと続けた。
 ラサースは、祭りで使うやぐらなどの材木にしてよい木、そうでない木など注意すべきことがあるか、確認を取り始める。その結果、基本的に太く大きく育った木は使って良いことが判明する。ただ、ひとつだけ残してほしいものがあるようだ。
「湖の北、古いクロマツ」
「北か。それは、我々が見てそれと判るだろうか」
 ラサースの問いに、ケモノは頷く。そして泉華を見て言った。
「そなたであれば、なお容易いであろう」
 その木は精霊に親しいほど見つけやすいそうだ。張り切る泉華。
 ラサースが別の問いを発した。
「村人たちに語ったという昔話、その旅人たちについて知りたい」
「語れることは、少ないが」
「構わない、可能な範囲で。彼らの名前は記憶にあるだろうか」
 ケモノは首を横に振る。
「では、湖に散った者はどこに葬られたかと、最後に影を射たほうはどうなったのか知りたい」
「我々は、遺骸を移し葬ることをせぬ。
 影を射た者は、今わの際の影に、裂かれて死んだ。その茂みが、ここ」
 鼻先で自分の住処である大きな茂みを指した黒熊のケモノ。ラサースはその視線を追って静かに頷く。そして、湖に名前をつけたいとのことだが、と最後の問いを投げかける。
「この地の主、おまえに名はあるのか」
 黒熊は再び、首を横に振った。
「役目はあれど、名は無い」
 好きに呼べ、と答える声はどこか優しげに響いて、ケモノの長は茂みへ消えた。

 その頃、村の広場では。
 フェンリエッタを中心に、村人の半数ほどが集まって、奉納の儀式の内容をどのように演出しようかと相談していた。
 フェンリエッタはまず、
「昔話になぞらえてみてはどうでしょう」
 と提案。興味を持った村人たちの様子を見て、言葉を続ける。
「お祭りを見に来た観客にも、この地の始まりの話を伝えられたら、と思って」
「なるほど、では語り部を用意するといった感じでしょうか」
 と考える村人に、ええ、と頷くフェンリエッタ。
「語りに歌、背景に音楽を流したり。お芝居のように見せれば、なお分かりやすいかも」
「面白そうだ。この地に馴染みの薄い者にも、あと子供にも理解しやすくて良い」
 うんうんと頷く村人。別の者が、
「では必要な役柄は……」
 と紙を用意し、旅人が二人、影のアヤカシ役、動物たち、熊の親子は動物と分けようか、と一覧にして手早く書き出した。それを見ながらフェンリエッタが考えを述べていく。
「アヤカシ役は黒っぽい衣装にして、動物たちはお面をつけて……。アヤカシと林の動物たちの戦いの場面を、舞で表現しても良さそうですね」
「いいですねぇ。では、後で舞手と歌い手を募らないと」
 そこへ、白葵がひょっこり登場。
「白、声かけて集めとこかいな?」
 用意しよんなら早いほうがええやろー? と小首を傾げ、髪に飾った花が揺れる。
「そうね、お願いします」
 とフェンリエッタが頷き、黒猫はひらりと身を翻した。
「ほな、いってきまぁすv」
「どうもありがとう」
 そんな二人に、村人の男が軽く頭を下げる。
「何から何まですみません。えー、そんじゃ見せ場はやっぱり、旅人たちとアヤカシの戦いですかね」
「ええ、そこは是非盛り上げましょう。小舟に乗せたアヤカシに見立てた的を射抜くとか。でも夕方だと難しいかしら……」
 顎に手をやって考えるフェンリエッタだが、村人は事も無げに
「いや、真っ暗でもなければどうにかなるだろう」
「大丈夫そうですか?」
「心配ご無用。これまでも、薄暗い森の中で弓引いて動物追っかけてきたからさ。でも、気遣いは嬉しいよ」
 大事な儀式だしなあ、と村人同士頷きあう。それを見てフェンリエッタは安心し、話を進めることにした。
「それじゃ、その辺りは皆さんの腕前を頼りにするとして……全体の流れの確認と、舞や歌の分担など考えましょうか」
「おう!」
「では、照明についてなんですが……」
 その後も相談は進み、戦いの場面と平和や感謝を表す場面で明かりの種類を変えることにしたり、林から戻ってきた泉華の発案で湖に灯籠を浮かべることになったり、白葵がまたひょっこり顔を出して灯籠の形の提案をしていったり……と、祭りの大枠が固まっていくのだった。

 外では、レティシア、源三郎、フミが村人たちの手伝いを始めている。
「食器の種類と数は決まってますか?」
 レティシアが角材を担いだ村人を一人つかまえて声を掛けると、
「あー…っと、それだ、そこに書き出してある。確か、まだ全然用意できてないんだよな……」
 と村人は広場に置かれた急ごしらえの机を指し、肩の荷を担ぎ直しながら遠い目。
「あの紙ですね。では、その辺りは私が人手を集めてやっておきます」
 子供たちにもできるかもしれませんし、とレティシア。
「そりゃ良いな、是非頼む。あと誰か力持ちは居るかい」
「でしたら、あっしが」
「おう。向こうで新しい伐採の準備が始まってんだ、手ぇ貸してやってくれ」
「承知しやした。ふむ、ラサースさんたちとも合流できそうですな」
 では行きやしょう、と呼ぶ源三郎に返事をしたのは小柄なフミ。二人は揃って腕まくりしながら林のほうへ向かった。

 あちらこちらで開拓者たちと村人たちがあれやこれや頭を捻り、知恵を絞り、手を貸し、貸され。そうして初日が過ぎていったのだった。


●二日目
「ほんだらまた、五節目から」
「はーい」
 朝早くから集まり、自らも体を動かして舞の練習の音頭をとっているのは泉華だ。そして、いちにのさんし、と声を合わせて歌い始める娘たちの中には先ほどまで白葵の姿もあったが、今はふらりとどこかへ出かけている様子。ちなみにフミが彼女らを手伝おうとその場に来ていたが、なぜかいくら練習しても皆と拍子を合わせられないという致命的欠陥が発覚して今は大人しく見学していた。
 するとそこへ、林で摘んできたと思しき花を手に、白葵が戻ってくる。
「お花?」
 どこかに飾るの? と首を傾げるフミに白葵はにこーっとして、
「舞い手さん、こっち来てや」
 と稽古していた娘たちに声を掛けた。集まってきた順に、白葵が彼女らの髪へ白い花を挿していく。
「きれいやなぁ。どっかに群生でもしとった?」
「そそ、熊の主さんが教えてくれはって、な。ほら! 桃李さんも♪」
 感心して見ていた泉華の髪にも、白い花が飾られた。嬉しそうにその場でくるりと回って見せる泉華。白葵も楽しそうに
「ふふ、よー似合とるv」
「わぁ、桃李も皆も綺麗! ……ん?」
 楽しそうなフミを、白葵がきらりんと光る目で見ている。
「わ、わたしはイイヨ?!」
 とおろおろあわあわし始めたフミだが、背後にはいつのまにか泉華が立っていてあっさり退路を失う。もぞもぞと身を縮めているフミの髪にも、花が一輪飾られた。
 白葵がふわりと笑う。
「……ほら、かわえぇ」
 だが、
「白葵さんも着けよるー?」
 泉華が一輪手に取って尋ねた途端、しどろもどろに。
「や、んと…し、白は、えぇねん……これが、あるよってな」
 頬を染め、もごもご答えながら白葵が指でつついたのは、自分の髪飾り。……その後暫く、稽古の休憩がてら白葵を質問攻めにする娘たちであった。

 彼女らの姿を横目に見つつ、材木運搬中の源三郎やラサースたち男衆が通り過ぎていく。
「何やら賑々しいですな」
「女三人寄らば何とやら、か」
 やぐらの設営が進められ、しっかりとした土台と、足場が組まれる。ラサースの提案で梯子には落下防止の幌が張られ、昇り降りのしやすさが段違いになった。試しに上がった村人は、満足そうにやぐらを叩く。
「こりゃいい、安心感がある」
「年寄りも子供も居るしね」
「さて、次は屋台だな」
「また頼むぜ旦那方」

 広場にやぐらが立った。
 編みかけの籠を膝に載せ、それを見上げているのはフェンリエッタとレティシアだ。
「随分進みましたね、こちらも頑張らないと」
「そうですね。さて、皆はどれくらい進みましたか?」
 頷いたレティシアは、一緒に籠作りをしている子供たちに尋ねる。これもうすぐできるー、あーまってー、と色々な声が上がった。レティシアが作業をしながら、旅での出来事を物語調に語って聞かせたり、ちょっとした童歌を教えたりしていたので、子供たちもすっかり打ち解けている。
 わいわいと籠編みを続ける子供たちをにこやかに見守りながら、こまごまとした道具の用意が進んでいくのだった。

●三日目
 開拓者が滞在する最終日。
 ラサースは昨日設営したやぐらや屋台に具合の悪い所が無いか確認して回る。
 フェンリエッタとレティシアは食器の数の確認や、屋台の飾り付けを始めた。
 源三郎は、屋台で売る料理の提案。彼に頼まれ、手伝うのはフミ。源三郎が暇を見ては探しておいた食材を並べ、
「鮎の塩焼きってなことでしたんで柚子でも添えてやれたらと思いやしたが、代わりにイチジクを見つけたもんで」
 と紹介していく。そこへ、レティシアがやってきて
「この笹、良かったら使ってください」
 と笹の葉を提供。鮮やかさが引き立ち、鮎の塩焼きが華やかな一皿に。これがいたく村人たちに好評で、我も我もと作り方を教わりたがる者が集まり、急遽、料理講習会となった。

 その間に、練習を一区切りさせた泉華と白葵が、奉納にこんなのはどうだろうかと灯籠の試作品を作っていた。蓮華や草木を象ろう、と泉華が船を作り、白葵が灯籠の覆いを貼る骨組みと蝋を用意。
「ふっふーん♪ 白、器用やろーv」
 得意げにてきぱきと、船底に板を貼って平らにし、骨組みを蝋で固定。はいはい、と泉華が笑いながら、作った和紙の花弁を骨組みに貼った。
 様子を見に来た村の老女が、おや素敵な物をお作りで……と立ち止まる。泉華が顔を上げた。
「夕方に奉納の儀式しよんのやろ、舞台が灯籠で照らされてめっちゃ綺麗や思うねんでな♪」
「ほうほう。……ばらけて、どこかへ行ってしまいませんかな?」
「船同士、紐で繋ごかなーて」
「ああ、それなら大丈夫そうですねぇ」
 こんな飾りはどうか、こうすれば作りやすい、と和やかに試作品が出来ていった。

 その日の晩。
 作業が一通り済んで夕餉の頃合となり、村人たちが感謝をこめて食事の用意をしていた。その中に、すっかり料理担当が馴染んでいる源三郎が盆で食事を運ぶ姿もあるがそれはさておき。
 あとは湖の名前を決定するだけ、というわけで、食事会兼湖の名前提案会が広場で始まった。
 まずフェンリエッタが、なかなか思いつかず……と言いつつ提案。
「みちびき、という名前が浮かびました。多くの命が互いに道を引き合う、導きあって集う……そんなことを考えまして」
「確かに、いろんなことが重なり合って、今ここにこうしてますからね」
 レティシアが頷く。続いて、泉華。
「ウチもひとつだけ。喜燎湖(きりょうこ)。このお祭りで喜びが集まったやろ。篝火みたいやなぁ思うて、な」
「湖が、人の集う篝火に……綺麗」
 フミが呟く。その隣で、指折り数えるのは白葵。
「白からは、水護(みずご)、水輪(みなわ)、葵(あおい)のみっつ。最後に、何々の湖……て付けよるねん。
 水護は、水の神様のご加護ある場になってほしいな、て意味。水輪と葵は、綺麗な湖の様子」
「いいかも、呼ぶほどに馴染む感じ」
 村人が何度か名前を言ってみている。ラサースは少し考えこみ、
「昔話の旅人たちの名を、と思ったがその名は残っていなかった。昔語りを彷彿とさせる名があればと思うが」
「では、黒熊のケモノを名前に使ってはいかがでしょう」
 そう提案したのは源三郎だ。
「神代の湖、と書いて、くましろこ、とか」
「成程、そちらを使うのも手か」

 そんな調子で色々な案が出て、混ざり、あるいは別の形に発展していく。
 月と星明りの下、村人たちと開拓者たちの話は弾み、箸も進み、賑やかに様々な意見が飛び交った。夕餉と共に話が進み、そしてゆったりと終わりを告げる。

「祭で名前を発表する、ぜひ来てほしい」

 笑顔と感謝、そして労いが、広場の人々をひとつに繋いだのだった。