仕事始め
マスター名：KINUTA
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| ■オープニング本文 年明けの余韻まだ残る頃。休みに慣れた体が仕事に戻るのをちょいとおっくうがる、そんな時節。開拓者ギルドにこれぞアヤカシ退治という依頼が舞い込んできた。 場所はジルベリア、アーバン渓谷。 スキー客で賑わうこの、ジルベリアきっての冬季観光地に、ドラゴンが現れたというのだ。 真っ赤な鱗を持った５メートル級の奴で、口と鼻から火を吹きまくり、燃えるものを悉く燃やしまくり、多大な被害を及ぼしているとのこと。 姿形、及びやっていることから考え、シンプルな破壊型。 仕事始め、なまった心と体のたがを締め直すには打ってつけの依頼かもしれない。 そう思った面々は、早速現地に飛んだ。 ● 到着してみれば、雪が積もっているべきゲレンデが、焦げ付いた地表をさらしていた。 山頂にある山小屋も燃え付き柱だけになっている。 そしてドラゴンはというと…いた。情報通り全身赤い鉄のような鱗に覆われており、裂けた口には牙がずらり。太い手足には鉤爪がついている。 飛行型ではないらしく翼はないが、炎が鬣となり背中を覆っている。 特筆すべきは体から放射されている熱気だ。周囲にある雪をみるみる内に溶かし、水蒸気を立ちのぼらせている。 依頼を出してきた当地の観光委員会は情けない顔をして、話し合いの真っ最中。 「ああ、なんたることじゃ。これじゃアヤカシが倒されても、しばらく雪が戻らんぞ。この数日は天気がいいらしいし」 「全く、商売上がったりになってしまうわのう…雪こそうちの最大の売りなのに」 「人の手でどうにかならんものかの。ほら、魔法使いなんかがようやるでないか。吹雪を出したり凍らせたり…全面は無理でも主要コースくらいは雪を積もらせられるんでないか？」 「なるほど…そいつは試してみる価値ありそうだべな。アヤカシ退治が終わったら、あの来てくれた人達にちょっくらその話持ちかけてみるか」 「そだな。あー、にしてもえらい赤字だべ」 …会話内容が比較的落ち着いているのは、人的被害が出ていないからだ。 ドラゴン出現の報が入ってすぐ、観光客、住民ともども、ふもとの町へ全員避難している。その際ドラゴンが追いかけてこないよう、ゲレンデの周囲へ、アヤカシ避けの札を張った柵をめぐらせている。それが実際どこまで効果があるかは定かでないが、今のところドラゴンは町に降りようとしていない。 雪が完全に溶けたところは水浸しになりぬかるんでいる。 急激な温度上昇は雪崩を招くかも知れない。そうなると被害は更に拡大する。 ● 「なんだよ、またアヤカシが出たのか」 アーバン渓谷の奥にあるヤーチ村では、赤毛の少女ミーシカが、麓を眺めて渋い顔。 これから町まで炭を売りに行く予定だったのだが、緊急事態ということで、山道が封鎖されてしまったのだ。 なので現在荷を積んだソリに座って、待ちぼうけ。アヤカシが退治されなければ降りられない。 「年始も終わってこれから仕事初めって時なのによ。ケチがついちまった」 頬杖をつき眉を潜める彼女に、相棒である金髪の少女、エマが言う。 「そうカリカリしないで、ミーシカ。開拓者が来たら、すぐに片付くよ」 |
■参加者一覧
朱華（ib1944）19歳・男・志 
マルカ・アルフォレスタ（ib4596）15歳・女・騎 
リィムナ・ピサレット（ib5201）10歳・女・魔 
雁久良 霧依（ib9706）23歳・女・魔 
八壁 伏路（ic0499）18歳・男・吟 |
| ■リプレイ本文 リィムナ・ピサレット（ib5201）は正月休みの間充電したのか、元気一杯ノリノリだ。かんじきを装着した足でステップを踏み、バルムンクの柄頭を集音宝珠代わりに『ドラゴン殺しの勇者の歌』を熱唱している。 「やっつけちゃうぞ、レッドドラゴン〜♪ 強くて赤いよレッドドラゴン〜♪ だけど負けない。あたしは最強。かかってこい上等だ〜♪」 その声が耳障りに感じたのか、まだ離れたところにいるドラゴンが吠えた。 ゆるみがちになっている雪が樹上から固まりとなって落ちてくる。 「雪が溶けているなら、雪崩とかも心配だな。出来る限り、大きな音等は避けた方がいいか…」 アヤカシにより引き起こされている現象について危惧するのは、朱華（ib1944）。 かんじきを借り受けるついで念のため、地元民に聞いておく。 「あのアヤカシならまず見失わないからいいとして…あとは、この辺の地形だな。危ない場所とか…出来れば、敵を近付かせたくない場所とかあるか？」 「そうさなあ、可能ならゲレンデの東側には近づかせんでくれたほうがええ。あそこの裏側は渓流になっとっての。対岸へ橋が架かっておるのよ。それを壊されると困るでな」 マルカ・アルフォレスタ（ib4596）の靴には荒縄が巻いてある。ドラゴンのいる辺りはぬかるんでいるらしいので、滑らないための用心だ。 ただし雪があるところは、かんじきを利用する予定。 （昨年は確か小鬼騒ぎがありましたが、今度はドラゴンですか。この辺りアヤカシが出やすいのでしょうか？） またドラゴンが吠えた。 雁久良 霧依（ib9706）は耳に響いてくる振動を、快いものとして受け止める。 「レッドドラゴンと戦えるなんて最高ね♪」 真夏のような風が吹いてきた。これもドラゴンがもたらしているものだ。 蒸気の向こう側には、真っ赤な鱗と燃え盛るたてがみ。 八壁 伏路（ic0499）は神妙な顔をして、戯れ言を言う。 「あのドラゴンはもしや、ときめきを胸に秘めているのやもしれん。ゲレンデが溶けるほどの恋をしておるのか。人間様には関係ないがな」 「あ、あたしその歌知ってる。あれでしょ、『急上昇ヤバいハート溶けるほど来い死体』ってやつ♪」 「変換ミスしておらんかリィムナ殿。それだと別の意味でハートが溶け」 台詞の途中で伏路の上に雪の塊が落ちた。全身埋もれるほどの量である。 皆は慌てず騒がず周囲の家からシャベルを借り、粛々と掘り出す。 「ちべてえええええええ！ 背中雪入った！ 濡れた！ 寒すぎて死ぬわ！ ええい、アヤカシ滅ぶべし、慈悲はない！」 歯をガチガチ鳴らす伏路は真っ先にゲレンデに向かう。アヤカシに対する八つ当たりもあるが、第一には早く暖かいところに行きたかったので。 リィムナはその後についていく。グラーシーザを振り回して。 「あ、待って待って。今回はあたしが前衛やるよ。折角レッドドラゴンと戦うんだし♪」 自分は後衛だとわきまえている伏路、以下の一言は忘れない。 「かたじけない。では先鋭の皆様方しっかりわしのガードを頼む！」 ● ドラゴンのいる場所に近づいて行くに連れ、確実に気温が上昇して行く。 雪が残っているところにはまだ冷気も残っているが、すっかり溶けてしまったところには、容赦なく熱気が立ちこめている。 マルカはダラダラ流れてくる額の汗を拭った。 「これは…完全に夏ですわ…」 雪がなくては用をなさないので、皆かんじきを脱ぐ。霧依はローブの前を開き、手のひらで顔を扇ぐ。 「これ以上雪が解けると拙いわね」 「ええ。雪崩は気温が上がったときに起きやすくなると申しますし…それにしても暑いですわ」 ドラゴンが尾を打ち付け、地面を震動させた。 マルカは口をつぐむ。 「熱もそうだが、あまり大きいものが動くのも怖いから、速やかに倒そうか」 朱華は火を吹くドラゴンを見据える。 仇華と長曽禰虎徹の二刀流で、対象に接近して行く。 「あれこれ言ってはおられませんわね。早々に退治してしまいましょう」 マルカはグラーシーザを手に続き、ドラゴンの正面に立つ。 ドラゴンは前足で乾いた地面を引っ掻き、姿勢を低くし、喉を鳴らした。牙と牙の間から炎が絶え間無く漏れ出している。 「長々付き合ってはおられませんので、一気にいかせていただきますわ！」 まだしも柔らかそうな腹部に目標が定められる。 猛火が吹き付けられてくる。 マルカは槍を回転させそれを反らしたが、完全に防ぐことは出来なかった。 「くっ…」 ダメージは承知で一気に押し通す。ドラゴンの腹に小さな傷がついた。 熱さが限界まで来ていたので、すぐ離れる。 朱華はマルカを庇うよう前に進み出る。 「雪山に似合わない姿だな、まったく」 仇華の切っ先から、ドラゴンの鼻へ、ばちばちっと雷が走った。 ドラゴンは一旦後退りしてから、猛然と襲いかかってくる。 後ろに跳ね、避ける朱華。足を止めないまま挑発を繰り返す。 「こっちを見ろ。こっちだ」 燃える目に向け桜色の燐光が放たれた。 「おっとっと、こっちにもいるよ！ うおりゃー！」 背後から、リィムナがバルムンクで攻撃する。 ますます苛立ったドラゴンは首を四方八方に向け、所かまわず火を吹きつける。 「うおっ！ あちあちあち焼ける！」 離れた場所にいた伏路さえ、つい顔を庇うほどの熱気。ちり紙があったら軽く火がついたことだろう。 至近距離にいた３名も一旦退く。 朱華はぼやいた。 「燃えてるってだけでも、厄介だ。とっとと倒してしまった方が良いだろうな」 機を逃さず霧依が攻撃を仕掛けた。 伏路は彼女の後援として、背後でハンドベルを鳴らす。 「速攻撃破よ♪」 氷の刃が炎の壁を越え右前足に刺さった。 熱しているところへ急に冷たいものが当たったのがよくなかっただろうか。鱗にひびが入る。 ドラゴンの体は右側に傾ぐ。 霧依は継続してアイシスケイラルを仕掛けた。前片足が崩れたところで、目標を左後足に切り替える。 前後の支えが弱まったことで、ドラゴンの体はなお不安定になる。立つことが出来ず、腹を地につけてしまう。 「ふふ。これで歩けないわね♪」 回復を待ってやる気は当然ない。ものはついでとばかり目に向けても氷の矢を放つ。 ドラゴンがすさまじい咆哮を上げた。喉袋が膨れ上がる。 「おっと、事前通告のない発射はノーサンキューよ♪」 強烈な眩さと熱さに、身を引き裂く冷気が衝突する。 せめぎ合いを示す立て続けの爆発音。 ドラゴンの目は爛々と光り、牙は剥き出しになる。だが形相の凄まじさに反し、たてがみの炎は縮んでいく。 リィムナが後足のひびが入った部分へバルムンクを叩きつけた。 ドラゴンは体をよじり、後方に首をねじ向ける。 マルカは節分豆をかみ砕き、グラーシーザを構え直した。呼吸が苦しくなるほどの熱気だが、そんなことに構っている暇はない。覚悟を決め無防備にさらされている胸へ、一突きを繰り出す。 「我が槍に貫けぬ物なしですわ！」 柄を握る手に堅い抵抗感が伝わってくる。そこを押してなお力を入れる。 食い込んだ穂先から血が流れ出した。それは溶鉱炉の鉄のように触れたものを焦がし、グラーシーザ本体をも熱する。 マルカは奥歯を噛む。 「つっ」 ドラゴンがマルカを攻撃対象に定め、首を再度前に向けた刹那、リィムナが地を蹴りうなじに切り込む。 「受けろこの技！ 秘奥義…爆裂瘴気剣！ リィムナスペシャルっ！」 雪崩を懸念し声は小さめだ。 朱華も同様の配慮により、無言で喉を切り裂く。 ドラゴンの頭が落ちる。 巨体は形を失い、一個の火焔となって天を冲した――かと思う間に消え去った。霧依のアイシスを受けて。 リィムナは剣を天に掲げ、勝利のポーズをとる。 「見たか！ 倒してやったぞレッドドラゴン〜♪」 途端に周囲の気温が、本来あるべき位置にまで下がる。 マルカは思わず身震いする。さんざ汗をかいた副作用か、背中が冷たくていけない。 「倒したら一気に寒くなりましたわね」 伏路も全面同意する。 「おお寒いの。早く宿に戻った方がよさそうだ。アヤカシのおかげで風邪をひいてはつまらんでな」 刀を鞘に収めた朱華は、勝敗が決したと見てゲレンデを上ってきた人々に、話を聞く。 「かなり暴れたと思うが、何か麓の方で被害は出ていないか？ 崖崩れとか、雪崩とか」 「ありがたいことにそれは起きんかったで。いや、まんずえがった。で、その、なんでちゅうが、ついでにひとつ相談に乗っていただきてえだが…」 「何だ？」 「見てのとおりゲレンデの雪が、あちこち溶けてしもうたでな。このままじゃスキーを楽しんでいただこうにもえらく支障があるわけで…で、どうですかえの、開拓者の方々は様々な能力をお持ちだで…ひょっとしたら人工雪など降らせられんべが？」 と言われても、刀の扱いが専門である志士にはどうにもならぬ。 「人工雪か…俺は、あまり力になれそうにないな」 だが幸い、場にはこの頼みにぴったりなスキルを持つ人間がいた。２人も。 「人工雪ねぇ…霧吹きやポンプで空中に水を散布して、空気が水分を多く含む状態にしてからブリザーストーム使えば…雪になって降るんじゃないかしら♪」 「うんうん、人工雪は空中に水分が多い状態にして冷気発生させればいいね♪ あたしも氷龍で手伝うよ♪」 伏路にはスキルはないが、口は出す。 「先に溶けた場所に藁を敷くといいかと思うぞ。断熱材代わりになろう。泥より雪が定着しやすくなるかもしらん」 ● 朱華と伏路は地元民と一緒に、ドラゴンに溶かされトラガリ状態となったゲレンデのあちこちへ、藁を敷いた。 手押しポンプを乗せたソリが複数やってくる。ソリを引いているのは、ジルベリア北部特産の毛深い大型馬だ。 うち１つを操っているのが、マルカ。彼女が町の消防へ、これらの放水用具一式を貸してくれるよう掛け合ったのである。 「馬がいると随分助かりますわ」 藁の上に散水されていく。 リィムナもこの作業に参加した。えっさえっさとポンプの取っ手を上げ下げし、水をふりまいて回る。 その後からブリザーストーム、氷龍で雪が作り出される。 伏路は全体を眺め、したり顔で評した。 「うむ、とりあえず穴が塞がって見目よくなったの。とはいえ、まだ雪が薄いとこがあるの」 自然の雪と違い人工に降らせる雪なので、片寄りは否めない。だがそれも霧依には、想定の範囲内だ。 「特に薄いところには、主要コースから外れていて雪が残っている所から、台車に乗せて運んでもいいんじゃない？ ちょうどソリもたくさん来ているんだし、手分けすればすぐに終わるわよ」 「なるほど！ さすが頭いいね霧依さん！ じゃあさ、じゃあさ、ついでに雪像作りしようよ！ 雪祭り的な感じにさ！」 「あ、いいわね。でもどうせなら１シーズン残る様に氷の像にしておきたいわね♪ 雪像に塩と水かけて一晩おいてー」 「ならわし、かまくら作るぞ、かまくら！」 観光委員の面々は、心配そうな顔である。 「そこまでするほど雪、あるかの」 「ゲレンデだけの分でも、あちこちからかき集めてきとるじゃろ…この上また取ってきたら今度はそこがはげちょろに…」 朱華はそんな彼らに、提案を試みる。 「人工雪が足りないなら…雪とはちょっと違うが…しゃぼん玉とか、どうだ。洗濯液に蜂蜜を入れて粘度を上げれば、多少割れにくいものが出来る」 「ほお、そんでどうすっぺ」 「子供を雪の代わりにしゃぼん玉で遊ばせるのもいいが…うまく使えば、雪が少ないところも、効果的に飾り付けられるかも知れん」 シャンシャン鈴の音が聞こえてきた。 山道からトナカイのソリが降りてくる。乗っているのは少女２人。 マルカは「あら」と手を口に当てる。 「あれは…ミーシカ様とエマ様では？」 「なぬ？ あ、ほんとだ。おーいおーい！」 ソリは手を振る伏路に気づき、方向を変えた。 ミーシカはフードを後ろにはねのけ、からから笑う。 「なんだ、あんたたちも仕事初めか。おめでとさん」 「おー、明けましておめでとうミーシカ殿――エマ殿も息災で新年から仲睦まじいの」 エマはうふ、と微笑み、ミーシカに後ろから抱き着く。 「そうね。私たちいつも仲良し」 「おいよせよエマ」 じゃれあう少女たちを、マルカが軽く冷やかす。 「お２人の熱々ぶりにまた雪が融けなければよいですわね」 ● 夜のゲレンデに雪像――氷像が立ち並んでいる。ドラゴンと、それに対峙する開拓者５名の像。 人は見栄えがするように実物より大きく作られている。対してドラゴンは実物より小さい。 その周囲を囲むのは凍りついたシャボン玉にロウソクを入れた、照明の数々。 観光客と一緒にそれらを見上げる伏路、ミーシカ、エマ。 「…おい、フセ。お前の顔、２・５倍くらい水増しされてないか？」 「何をおっしゃるミーシカ殿。あのりりしき横顔は紛れも無くわしそのものではないか。第一それを言うならリィムナ殿と霧依殿の姿はなんとする」 彼女らの雪像は実物比５・０倍くらいの豪華なコスチューム。美々しい鎧に額飾り。『ドラゴンも一目惚れする伝説のドラゴンスレイヤー』という但し書きまでついている。 「本当はドラゴンを等身大にしたかったのだが、生憎時間と原料がなくての。観光資源になるとよいのう。霧依殿は観光委員会とジェーン殿を通じて、大々的に宣伝してもらうと言うておったが」 「へー」 興味なさげに聞いているミーシカ。 伏路は咳払いして続けた。 「のう、わしかまくら作ったで、エマ殿連れて遊びにこんか。お年玉はないが酒ならあるぞ。それから珍しい苺のジャムを手に入れたでな。なによりあったかい料理が食べたいのう」 ミーシカはエマと顔を見合わせ、頷いた。 「いいぞ。おごる気があんならボルシチくらい作ってやるよ。ジャムあんならブリヌイも出来るな」 色よい返事に伏路は、顔をふやかせる。 「おー、大いに期待するところだの。にしてもヤーバンはえらく積もるのだな。引越してきたいがはてさて」 「へえ。越してくるのか。そりゃ歓迎だなエマ」 「うん」 「えっ、本当かの」 「ああ、近場に１人開拓者がいたら何かと便利だしな」 「いーやっほう！ 夜間照明あるならオールナイトで滑っちゃうもんね！」 リィムナが華麗なシュプールを、夜のゲレンデに描いていく。 「シャボン玉で照明を作るとは、いいアイデアでしたわね、朱華様。きれいですわ」 普段はもう滑る時間でないのだが、ゲレンデのお客は夢のような光景に引き付けられ、去りやらぬ。マルカもそこに混じり、イルミネーションを楽しんでいる。 自分の提案が役に立って何よりだ、と朱華は思う。 「あっ、やだぁ、ごめんなさーい。転んじゃったー」 霧依がドジッ子を装い目星をつけた男の子を引っかけ、数分で仲良しこよしコテージへ直行して行く場を作る結果になったとしても。 （…役に立っているなら何よりだ） と思うのである。 |
