地上観測調査隊
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/19 01:27



■オープニング本文


 ジルベリア帝国は公然の秘密として神代の遺物『アスワッド』を所有している。
 飛行能力を備えたこの物体が、造成初期の天儀の環境を調査をするための物だったらしいことは、さまざまな研究によって明らかとなっている。儀を護るという役割も担っていたらしい。破壊光線装置を搭載しているからには。
 これを対アヤカシ兵器として投入しようという向きも以前にあったが、その前にアヤカシとの長きにわたる戦いが終結。かくして『アスワッド』は帝国軍施設に安置されたまま。
 『アスワッド』に使われている技術を模倣し作られた、アイズなる記憶媒体装置は、近々機械ギルドにより一般向けに(お高いものとなるのは確実であるが)製造販売される予定である。
 そこまではいい。
 だが先ほど述べたように『アスワッド』は攻撃能力を備えている。
 軍関係者が大いに関心を示しているのはそこなのだ。
 発射される光線は山の形を変え、一瞬にして吹き飛ばす。現段階では、どんな装備も防御不能。
 この能力も模倣出来れば、と彼らは思っている。
 もしそれが可能となったら実際に使いたくなってしまうだろう。強い力には、それだけ強い誘惑が付きまとうものだ。
 ……そこが分かっているからこそガラドル大帝は、ジルベリア帝国アカデミーのお歴々に、以下の課題を与えた。

『アスワッドにおける、兵器以外の使い道を考案せよ』

 ベラリエース大陸を一つの帝国としてまとめた彼が最も厭うのは、内政の乱れだ。いずれ大乱に繋がりそうな芽は、早め早めに摘んでおかなければならない。





 一週間後、アカデミーは以下の回答をスィーラ城に携えてきた。

――――――――

 理論的に、瘴気が薄れていくならば、精霊力もまた薄れていく。
 無論今日明日の話ではない。4、5世代くらい先になってから、やっとその兆候が見えてくるのではないか。
 精霊力は儀を支える屋台骨だ。それをなくしては空にいられなくなる。地に降っていくしかない。
 落下、大破という最悪の事態は、まず心配しなくていいはずだ。精霊力は少しずつ抜けて行くだろうから、少しずつゆるやかに降下して行くであろう。
 その頃には地上の瘴気もまた抜け、水や大気は危険な状態でなくなっているはずだ。
 しかし問題は残る。
 それは、地上のどこへ落ちて行くかについてだ。
 そこが平坦な地であればいいが、火山地帯だったら、あるいは海だったら――地上世界のそれは、天儀のものとは比べものにならぬくらい、広くて深い。ベラリエース大陸が沈み込んでしまう可能性もある。
 我々は今のうちから事前調査をしておくべきだと考える。
 もしそこが適さない地の場合、適当な場所まで大陸を引いていくのがよいだろう。
 それが不可能なら、地上の方を整備しなければならない。
 そのためにはアスワッドの破壊力が、すこぶる有効であると思われる。
 かの遺物は兵器でなく工作機械として使用するのが、今後ジルベリアのとるべき道であろうと思われる。

――――――――


 ガラドルフ大帝はその案に理解を示した。
 かくして壮大にして地味で地道で、息の長いプロジェクトが動き出すことになる。



 『ベラリエース大陸落下予定地周辺の測量と調査』という。



■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟


■リプレイ本文



「未開の地、良い響きだねぇ」

 ケイウス=アルカーム(ib7387)はこれから訪れる場所について、尽きせぬ興味を抱いている。危険もあると理解はしているが、好奇心は踊り続けだ。

「ジルベリアの真下って、一体どんな所なんだろうね」

 羅喉丸(ia0347)は首を傾け、素直な見方を示した。

「…儀はもともと地上から引き離されたものだから、その分だけの穴が開いているんじゃないか? 時間の経過によって穴に水がたまり、湖になっているかもしれないが」

 それについて成田 光紀(ib1846)は異論を示す。キセルを振りながら。

「どうだろうな。確かにベラリエースが本来あった地には、そのような変容も起こっているだろうが…儀の真下イコール儀が生まれたところとも、限らないだろう?」

「なるほど、それも一理あるな。まあどっちにしても、俺は開拓者として本分を尽くすまでだ。早く自分の目で確かめたいものだな」

 八壁 伏路(ic0499)は地図を広げる。

「ま、要はベラリエース大陸が世界全体のどこにあるのかっちゅーことだが…」

 天儀世界でごく普通に使用されている世界地図の上に、旧世界の無明、及び以前訪れた小部落の位置を書き込み、そこからジェレゾへ向け線を引いたもの。
 最新の世界地図には、嵐の壁の穴がある位置も記されているので、そこを基点にすれば、大体ずれることなく位置を合わせられる。

「無明から見て北だの。そこが本来あった場所かどうかは定かでないとしても、気候は大陸のものと近いのではないか?」

 旧世界の地図は大部分が空白だ。古代人が把握出来ている範囲は意外と狭い――人口が少なく、移動技術も発達していないためだろう。
 従ってこれから行く場所は、天儀人にとって未知領域であると同時に、彼らにとっても未知領域。まだ人の手が触れない場所。
 そこを認識すると自然、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)の身も引き締まる。

(大陸に生きる人々の未来の為、この調査は是非とも成功させねばなりません。我が身に変えても調査隊の方々はお護りいたしますわ!)

 リィムナ・ピサレット(ib5201)は船室の窓に顔をくっつける。
 眼下にはきりなく続く灰色の森。
 古代人の首都である無明は随分前に通り過ぎた。

「そういえば地上の測量と調査なんて、初めての試みだよね。降りるところに生きてる火山とか、無いといいけどねー」

 言っていた所、柊沢 霞澄(ia0067)が、船室の扉を開き入ってきた。

「あ、霞澄。どこに行ってたの? トイレ?」

「…あ、いいえ…調査団の方々に…今後の作業の流れについて…話し合いをしてきまして…今回は降下予定地の縁を巡る形で…ピンポイントに行うそうです…次回以降少しづつ内側に向けて…調査して行くと…」

 言葉を切った霞澄は、現在ある瘴気の森と、はるけき先に生い育つだろう緑の森の姿を重ねる。

(儀が地上に降りる…いずれはそのような日が来るのですね…)

 今から調査を始めるのは英断であり、必要な事でもある。非現実なほど遠く感じられるとしても、きっと来る未来。自分に出来る精一杯の事がしたい、と彼女は願う。

「ふーん、そうなんだー。どんな地図が出来るか楽しみだねー、霞澄♪」

「…そうですね。地図とはどのように作るものなのか…よくは知りませんが…」

「えっとね、確か三角測量かな〜? それを使うんだよ!」

「…三角測量とは、どのような…」

「……さ、三角形を使うんだ。三角形は三角比が三平方で…で…」

 己には説明が不可能だと悟ったリィムナは、話をそらそうとする。

「あたしもよく、夜中の地図職人て呼ばれ」

「え?」

「…な、なんでもない」



 色分けされた棒を持った1人と、三脚の上に箱を乗せた1人が組になり、測量を行っている。
 箱は『経緯儀』と言うらしい。望遠鏡が直軸と水平儀の2軸によって支えられ、回転する仕組みとなっており、2つの目標間に発生する角度を計れるようになっている。

「図形の公式等については学校で習われましたね? 測量というのは、その応用です。例えば1辺の長さと2角が分かっている場合、内角の和から残りの角を求めて、正弦定理を使えば、残り2辺の長さもおのずと弾き出されるわけです。直に計らなくても」

「なるほど…よく分かりますわ。ところで大陸の落下予定地周辺の測量調査という事は、落下予測地点の割り出しは済んでいるという事でしょうか?」

「ええ、誤差もありましょうが、おおまかには」

「まあ…我が帝国の技術力は素晴らしいですわね」

 測量技師につきっきりなマルカについて伏路は感心する。よくあの解説を飲み込めるなと。

「正弦定理とか遠い記憶の彼方だわ、わし…もっと手軽い測量の仕方ないもんかの」

 光紀は、煙をひと吐き。

「そうだな。いっそジルべリアからアスワッドの光線でも撃ってもらえば、直下がどこかわかるのではなかろうかね」

「そんなことされたら、下にいるわしら骨も残さず消し飛ぶんだが」

「当たり前だろう。だからやらんのだ」

 彼の言葉はどこまで本気か冗談か、はっきりしない。
 リィムナが盛り上がった根の上に、機材を積んだ台車を押し上げる。

「困るなあ、こんなに見通し悪いと」

 彼女と霞澄の術により、調査団一行は軽装防護服で動き回ることが出来ている。
 というものの、巨大化した菌類は四方八方枝を広げ天を塞ぎ、根によって地を隆起させており、移動するのも一苦労。
 前方警戒に当たっているケイウスと羅喉丸は、道なき道の切り開きも担当することとなった。

「こーれーはすごいねぇ」

「こいつはなるほど、古代人も足を運ばないだろうなあ」

 吹き上がる胞子をものともせず、巨大シダを折り倒して行く羅喉丸の肩に、ケイウスが手を置いた。

「…ちょっと待って、何か聞こえる」

 ややもして羅喉丸にも聞こえてきた。耳障りな羽音が。
 後方の開拓者たちも気配を察し、調査団の周囲を固める。
 瘴索結界に引っ掛かってくる気配を伏路は、指折り数える。

「ひいふうみ…どうやらこうやら、数が多いようだの」

 彼の言う通りだった。森の奥からずるずると、5メートルはあろうかという蜂アヤカシが現れた。異様に膨れ上がった腹部のため飛ぶことがならず、地面を這って動いている。
 …だがその周囲には、1メートル大の小蜂が無数に飛び交っている。どれもこれも凶猛そうな顔だ。

「うーん…これは危険な奴かな?」

 そうでもないならそのままにしようと思っていたリィムナだが、生憎向こうはやる気満満だ。
 大蜂が顎を鳴らすと、小蜂が一斉に襲いかかってきた。
 羅喉丸はすかさず煉獄をかまえ、蜂を射貫く。至近距離まで来た奴は、頭を蹴り潰す。
 ケイウスは詩聖の竪琴をかき鳴らす。

「手出しはさせないよ!」

 見えない力に捕まった蜂は、黒い霧となって弾けた。
 しかし数が数、取りこぼした一部が後方に殺到する。
 マルカはべイルを掲げシールドを張り、相手の出端を挫く。

「争いは好むところではありませんが、降りかかる火の粉は払わせていただきますわ!」

 闇照剣がひらめき、蜂の頭部を弾き飛ばす。
 光紀の懐から次々に、トンボの形をした式が飛び立った。
 それらは空中で蜂とぶつかりあい、身を切り裂く。
 霞澄は手裏剣で周囲を旋回する蜂を牽制し、近づいてきたものに白霊弾を浴びせ、撃ち落とす。
 その手際を光紀が褒めた。

「おお、やるねえ」

 恥ずかしげにもごもごする霞澄。

「皆を護るのが私の…巫女の役割ですから…」

 伏路は蜂たちに子守歌を浴びせ、動きを鈍らせていた。

「双頭の蛇とか大ワニでない限り恐るるに足らず! 寝ない子だーれーだー、貴様か!」

 リィムナは外道祈祷書を開き、高い歌声を響かせる。
 蜂が何匹も空中で弾けとんだ。

「ケイウス、羅喉丸、そっちのラスボスっぽいの潰しといてー!」

 彼女がそう言ったとき、羅喉丸はすでに大蜂の頭部へ、五神天驚絶破繚嵐拳を打ち込んでいた。
 巨体が内部から弾け、四散する。

「よし、終了だ。では行こうか」

 羅喉丸がそう言い一歩踏み出したところ、地面がぐらっと揺れた。
 足元から、巨大な矢印が現れる。
 …どうやらプラナリア型アヤカシのようだ。漫画みたいな目で見慣れぬ人間たちを見ている。
 攻撃してくる様子はないが、追い払った方がいいのではと判断し、霞透は、脅しの焙烙玉を投げ付ける。
 その途端プラナリアは、焙烙玉を飲み込んでしまった。
 直後爆発。
 粉々になるプラナリア。
 だが粉々になった部分が、それぞれ1つの個体として再生。
 結果辺り一面小型プラナリアでいっぱい。
 伏路はげんなりした。

「…なんかキモい」

 とりあえずプラナリアたちは見てくる以外何もしないので、無視して先を急ぐとする。




 外側を巡った限りでは、活火山などはない。
 東側に急峻な山岳地帯がある。
 南側は地が大きくすり鉢状態に窪んだ箇所が、幾つもある。
 西側は平板な森が広がる。
 北側へ行くに従い森が途切れ砂地に…


 そういったあれこれを記録しつつ進んで5日目。一行は野営を行っている。
 一面砂地で、見通しがいい。アヤカシの姿もない。伏路の天気予報によれば、ずっと晴(現実的には曇りに等しいのだが)が続く――なら船に戻らずとも大丈夫だろうと思われたので。
 テントの入り口から顔を出してみれば、比喩でなく何も見えない。
 もともと日の遮られている地上は、たとえ昼でも雨雲が出ると天儀の夜程に暗くなる。
 夜ともなれば文字通りの暗闇。光源と言えば、森の中でぼんやり発光しているカビだのキノコだの。
 だが植物の育たないここには、それさえもない。
 南瓜提灯とたいまつの明るさが、いかに頼もしいことか。




 寝付けないでいたリィムナは、ケイウスが半身を起こし、耳をすませているのに気づいた。

「どうしたの? あやしい音してる?」

 彼は、首を振る。

「違うんだ。波の音が聞こえるんだよ。この砂地に入ってからずっと」

「え、ほんと? じゃあじゃあ、この先に海があるって事?」

 思わず高声を上げるリィムナに、しっという声が飛ぶ。
 伏路だ。

「静かにせんかい。はよ寝え。明日も早いのだぞ」

 リィムナは膨れる。

「そんなこと言ったって、眠れないものはしょうがないじゃない。伏路がとってきた変な肉食べたら胃にもたれてさー。あの新聞紙みたいな味の奴」

「わしのせいにするでない。おぬしの胃がもたれとるのは、霞澄の樹蜜を一気飲みしたせいだ…しかし、酒が厳禁とはつらいのう…」

「アカデミーからお達しだもんね。儀に帰還して任務完了するまでは飲むなって」

「融通きかんのお。なんか胃を温めたいもんだがな。このへん砂だらけでかまども作れんで、あったかいもんが食えん…」

 外で夜番をしていた羅喉丸と霞澄が、入り口から顔を覗かせる。

「しーっ。静かにしないか」

「…調査隊の人達が起きてしまいます…」

 リィムナたちは口をつぐんだ。
 奥にいる調査団の間から響いてくるのはいびきだけ。誰も目を覚まさない。
 光紀が目を開いた。
 枕元のド・マリニーを確認し、起き上がる。

「羅喉丸君、夜番を交替しよう。時間だ」

「ああ、そうか。なら頼む」

 周囲を踏まないように注意しながら、彼は、向かい側にいたマルカを揺する。

「起きてくれマルカ君、俺たちの番だ」

「――あ、はい。ええと…今何時でしょうか」

「時計によると午前2時だ」

 交替し外に出てみると、風が顔をなぶる。砂がそれによって、さらさら動く音がする。
 明かりの届く範囲外は地も空も黒く塗りつぶされ、区別がつかない。
 どこに視点を合わせたらいいか迷うマルカの視界に、ぽっと明かりが灯った。
 頭の上、蛇アヤカシが青白く発光し飛んでいる。
 はっと剣に手をかける。
 光紀がそれを押さえる。

「大丈夫だ。あれは離れたところにいる」

 改めて見れば確かに、うんと遠くにいるらしい。
 黒一色での背景を前にして、遠近感がよく掴めなかったのだ。
 アヤカシは地上のことなど歯牙にもかけず、彼方へ、滑るように飛び去って行く。

「…わたくしたちが進んでいる方角ですわね」

「そうだな。どこかに戻るのか、あるいはどこかから出て行くのか…」

 マルカは、ふと己の来し方を思った。
 父母の仇を討ち果たすことを願い、開拓者という道を選んだ。しかしてつい先日、悲願は成就した。

(これからわたくしは、どうしましょう…)

 このまま騎士としての道を進み、皇帝親衛隊を目指すのが、世間的に穏当なところ――昔であれば迷いなくそちらの道を選んだだろう。
 だが今彼女は迷っている。
 もっと別の形で帝国に尽くす道もあるのではないか。例えばこの調査団のように、学問の力で、技術の力で、臣民の役に立つという道もあるのではないか、と…。



「これが海…」

 ケイウスは、ちょっとがっかりした。やっと海まで出てきたものの、浜辺から沖にいたるまで、一面でろでろした赤い物に覆われているので。

「うーん、これはアヤカシじゃなくて、生き物だよ。瘴気適応した海草だね」

 海水を採取てがら調べたリィムナが、正体を突き止めたが、どっちにしても邪魔になる。このままでは海上測量が出来ない。
 早速伏路は手近なのを抜こうとしたが、力を入れて掴んだ途端手が滑った。
 刺激を与えると粘液を出すようになっているらしい。
 後ろにひっくり返り、頭を打つ。下は砂なので衝撃は強くなかったものの、痛いと言えば痛い。

「ええい、なんだこの死に損ないワカメは!」

 懐手で観察していた光紀が、思いついたように言う。

「凍らせるか。それなら粘液も出ないだろう」

「…あのな、それ、もっと早う言うてくれ」

 凍らせると海草は小さく縮んだ。今度は触ってもぬめらない。
 浜辺に生えたそれらを引っこ抜いた後は、リィムナが作った筏に、彼女とマルカ、伏路、ケイウス、光紀が乗り込み、海面に漂っている階層を凍らせ、除去していく。
 あらわになった水面は――白く濁っていた。

(瘴気が無くなれば、ここも綺麗な海になるのかな)

 ケイウスは、空を見上げた。あるのは、どんよりした分厚い雲ばかり。

「いつか儀がここまで落ちてくるなんて想像できないな…」

 伏路は光紀が凍らせた海草を、櫂で押しのけつつ、零す。

「だの。今のところ、大陸の裏側も見えんわい」

「…でも、この調査はその時の役に立つものなんだよね。未来の為に何かをするっていうのも、なかなか悪くないね」

 その時の世界を自分たちはけして目にすることはない。
 彼にはそれが分かっている。
 いや、ここにいる全員が分かっている。
 それでもなおやるのだ。やらなければならないことだから。
 リィムナが筏の上に棒を立てる。
 護衛の羅喉丸と霞澄を伴った測量士が、浜から手を振るのが見えた。
 マルカは海の彼方へ視線を向ける。そして祈りを捧げる。真摯に、心から。

(この調査がまだ見ぬ未来の人々の役に立ちますよう)

 果てしなく続く水平線から、尽きせぬ潮騒が響く。