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■オープニング本文 エリカは荒れ果てた古城に来ていた。アヤカシ依頼を受けてのことである。 もうずっと前に放棄されたきりのここは、現在廃墟マニアの聖地と化しているのだが、アヤカシが湧いて出たため、急遽立ち入り禁止区域となった。 アヤカシはよっぽどこの城が気に入ったらしく出てこようとしない。その点は周辺住民にとって安心だ。 しかしだからといって放置は出来ない。この世のものと思えない叫びを昼夜問わず周囲に垂れ流されていては。 ほあああああああ わあああああああ 本日エリカの近くにはスーちゃん以外の生き物もくっついている。 雪に鼻を突っ込み古城に尻を向けて震えている――犬。 犬種はコリーで名前はレオポール。 ペットショップで大きくなりすぎたまま売れ残っているのを、不憫であったし他にも最近色々思うところがあったしで、エリカが引き取ったのである。相棒にしようかと。 だが。 「レオポールたんは今日はお腹が痛いといっているでち」 「朝ばくばく餌食べてたじゃない」 「あれのせいで痛くなったといってるでち」 これがもうとんでもなくヘタレ過ぎて使えない奴だった。 「ああそうですか。そんならそこで待ってなさいよ」 「それも怖いから行かないでだそうでち」 「…どうしたいのよあんたは!」 「イライラするのはよくないでちご主人たま。たとえ昨日ロータスたまから『恋人でもない相手とキス出来るなら、特に好きでもない僕とも結婚できますでしょ? 結婚しましょうよ』というしごく論理的な言葉を投げかけられたとしても全ては身から出たさび虐待でち虐待でち!」 ああ彼女には男運だけでなく相棒運もないんだなあと、同行者たちは思った。 とにかくアヤカシ退治だけは、さっさとやり遂げなければ。 あそこの城壁の上から、窓から、身を乗り出して吼えている腐乱死体そっくりな輩どもを退治しなくては。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
そよぎ(ia9210)
15歳・女・吟
岩宿 太郎(ib0852)
30歳・男・志
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
アーディル(ib9697)
23歳・男・砂
藤本あかね(ic0070)
15歳・女・陰
ツツジ・F(ic0110)
18歳・男・砲 |
■リプレイ本文 重々しい城門、幾重にも重なる城壁、一際高い物見の塔。 長い年月をかけ石積みの表面にはツタが絡み、あちこち崩れているが、そこもまた微妙な味となっている。 「へぇ、城の雰囲気は悪かねぇな。滅びてる感じがたまんねぇ」 さすが廃墟マニアの聖地。 納得したところでツツジ・F(ic0110)は、多少の不満を持つ。まず第一は城に群れているゾンビ型アヤカシだ。 ほわあああおわああああえあああああはあああへああああ 見た目と鳴き声で雰囲気ぶち壊しだ。 それに負けず劣らず騒がしいのがエリカなる女騎士とその相棒たち。 「あのね、今更だけど一体あんたは何が出来るの。ちょっと正直に言ってみて?」 「ワウワウワウワウ。ウオーン」 「吠えることなら誰にも負けない。えへん。だそうでち」 「そんなん誰でも出来るわ!」 「全くでちなあ。しょっちゅう吠えてるご主人たまが言うとものすごーく説得力あるでち虐待でち!」 (……何だ。寂れた空気が台無しさ) 駆除が始まればどっちにしろすぐ騒がしくなるとはいえ、一言口を挟まずにいられぬ気分である。とりあえずクンクンしている犬に対して。 「おいワン公、ビビってチビんなよ?」 「ワンワンワン!」 通訳はもふらが受け持つ。 「大丈夫。すでにチビってるから、もう出るものない――だそうでち」 「‥‥」 無言になるツツジの脇から、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が顔を出す。 「エリカよ、それは忍犬か? 只の犬ではアヤカシとの戦いの役には立たぬぞ」 「うーん、一応訓練は受けてる触れ込みだったんだけど…なんかあやしくなってきたわ」 「レオポールたん、お店では格安でちたからなあ」 「レオポール? 大層な名じゃの『弱虫レオッパー』に改名するがよかろう」 「そうね。そっちのほうがあってるかもね」 新相棒について諦めも漂わせ始めるエリカの背を、そよぎ(ia9210)が軽く叩く。 彼女にまつわる騒動を知っているだけに、事後経過が気になっていたのだ。そこへもってきて先ほどのスーちゃんの発言は、まことに、まことに聞き逃しがたい。 前回あれだけ頑張ったのだから、もう身辺が平穏になったかと思いきや、どうも逆っぽいとは。 「…え? ロータスさんに、太郎さんが恋人じゃないことバレてるの?」 エリカの横顔がこわばる。 「ええ…なんかあいつあのときどっかにいて見てたみたいなのよね…」 「ご主人たま最終的に自分でお芝居って大声でばらしてたでちからなあ。つけこまれるのもむべなるかなでち」 そよぎはよろめいた。若干大袈裟な動きで。 「それなのにこんなところにいて……ゾンビなんて倒してる場合じゃないわよー!」 藤本あかね(ic0070)はレオポールの鼻面を叩いている相棒猫又を横目に、寂しげな笑みを浮かべる。 「ねえエリカさん…駄目な現実とちゃんと向き合おう? 仕事で誤魔化しきれないものもあるんだよ。このままだとたださえ駄目なものがますます駄目な感じで駄目になって行くよ?」 エリカの眉間がかなり狭まったように見えたのは気のせいだろうか。 「駄目駄目駄目駄目繰り返すのやめて。士気がだだ下がりになるから」 「これぞ言霊の力でちな。でもご主人たま血の気が多すぎて激突事故繰り返すたちでちから、地の底まで下げてもらうくらいがちょうどいいかもしれないでち」 眉ばかりか目元まで吊り上がり始めた彼女の足元へ、岩宿 太郎(ib0852)がスライディング土下座してきた。 「すいませんでしたぁあああああ! 無気力ハンサム様にお引き取り願うつもりがかえって正論与える口実作っちまってるとかホントすいませんでしたぁあああ!」 前回色々あってあげくのこんな展開。紛れも無い直接関係者である彼としては謝り倒すしか手がない。ゾンビ戦前に101体目のゾンビになるかもしれないという不安を背負ってもだ。 「い、いえ、今そういうことされても」 「手遅れでちな。すでに軽い女認定された後でち。でも別にいいのではないでちょうか。実際そうだしロータスたまは全然気にせずいるでちょ虐待反対でち! 反対でちよ!」 スーちゃんの顔を両側から押して口を閉じさせたエリカは、続けて足元の太郎に目を向ける。 「うわああもう本当にすいません! とにかく謝るよ! 何かできることあったら聞」 襟首をもち睨みつける。目元に血を上らせて。 「あのね、蒸し返さないで? まだ色々生乾きだから」 「…あ、はいすいません」 「分かってくれたらいいのよ――とりあえず出来ることとして、レオポールを頼むわ。ここに残りたくないっていうから、面倒見てて」 彼らの間の悶着について知らないリンスガルト、三笠 三四郎(ia0163)、杉野 九寿重(ib3226)、アーディル(ib9697)は騒ぎの間中、事前入手した城の見取り図を確認している。廃墟マニアの手によるものが、付近の本屋で普通に販売されているのだ。 「ゾンビ型…出来損ないなのか、作った人の意図があるのかは分りませんが、それなりに数がいそうだから、頑張らないといけませんね」 おわああわあああほええええふええええ 「纏めて討伐して、付近の憂いを無くす依頼ですね。確かに何時弾けるか判らない状況は怖いものです。恐怖を打ち消して安心させてあげませんと」 あええええくえええええばあああああああ 「しかし敵の数が多いな…。仕方ない、依頼を受けた以上、やるしかないな。隅々まで綺麗にしてしまおう。」 みいいいいいいあぼおおおおおげろろろろ 「とりあえずじゃな、探索場所が広い。城の付き物として、地下室もあるようじゃ。敵をおびき出し集めて叩く。さすれば効率がよかろう。後は探査が重複しないよう、終わった場所には随時印をつけていくのが良策かと…」 おえっぷううげええええええええええええ 「ええいやかましいわ! 少しは黙っておれんのか貴様らは! 何を吐いておるのじゃ何を!」 ツツジは『ワトワート』を、城壁の銃眼から出ている顔に向ける。口笛を吹いて。 (相手をある程度まとめて一気にヤっちまおうって連中が多いな。俺は、そういうのはちょっと苦手さ。討ち漏らしをいただいておこうかな) ● ゾンビたちは、はっきりした意志というものを持っていないらしいが、領域内に入ってくるものについては敵意を示すようだ。城門から内庭に入った途端、四方八方散っていたものが、ゆらゆら寄ってきた。 「向こうから来るなら好都合です」 九寿重は『ソメイヨシ』を奮い、近づいてきたゾンビの首を跳ね飛ばす。 切り落とすについて困難さはなかった。肉体の強度はさほどでないらしい。落ちた首が黒い瘴気を上げ四散する。 「さあ出て来なさい!」 三四郎の『毘沙門天』で貫かれた相手も同じくだ。首を落とされたほどすぐではなかったが、ぴくぴくしながら霧に戻って行く。 つまりこれは瘴気で変化した死体ではなく、丸まる瘴気で作られたアヤカシ。 そのことが分かってリンスガルトは、ややほっとする。たとえ操られているだけとしても、もと人であった死体と切った張ったするのは気分がいいものでない。 「そんなのろい攻撃が妾に当たると思うてか!」 『秋水清光』で背中からひと太刀。 切られたところから2分割されて倒れたゾンビを見届けることなく攻めていく。戦いやすい外で数を稼いでおきたいところなのだ。 そこはエリカも同様か、積極的に攻めて行く。ゾンビの脳天から剣を振り下ろし胸元を斜めに切り下ろした。べちゃりと崩れ落ち蒸発して行く腐乱死体を踏み付け、次にかかる。 前衛が多いのでアーディルは『フリントロックピストル』での援護に当たった。近づいてくる敵の頭部をねらい、動きをより鈍くさせ。攻撃しやすいようにさせる。 ツツジは『ワトワート』で、皆の打ち漏らしを消化して行く。はっきり死にきれていないのや、城の内部へ引っ込もうとしているのに狙いを定め引き金を引く。 (ゾンビか…こういうの苦手なんだよなあ…) 内心ちょいと恐れる太郎は、『槍串団子』で脇にいるゾンビをちくちく突く。 その背中に乗っかり張り付くだけという醜態をさらすレオポール。 あかねは自分の相棒がゾンビの、たださえもつれている足元を更にもつれさせ転ばしているのを見届け、誇らしげに言う。 「トメさんは生粋のすねこすらーよ、転倒は免れないわ」 それから式を発動させる。 「練力切れが怖いけど、私にできるのは鬼を作ることだけよ!」 首輪を着けた鬼が現れ、太い腕でゾンビを殴りつける。腐った頭が拳の当たった分だけもぎ取られ吹き飛んだ。 彼女は後衛の位置から離れないようにして、前線にいるエリカに呼びかける。 「ねえエリカさーん、犬を飼うのはいいけど、オスじゃなくてメスを選んだほうがよかったんじゃないかなー。エリカさんのスキル的にー」 「何のスキルよ! いいから黙ってて!」 話し声を耳に援護しているそよぎは、いたたまれなさで一杯になった。思い過ごしではあろうが、エリカが自分の未来図のように思えてきてしょうがなかったのだ。 ロータスと太郎で二者択一なら絶対太郎のほうがいい。 その信念のもと彼女は『カドゥケウス』を手に、太郎への助力を惜しまぬこととする。さりげなく戦闘力を高めさせ、ゾンビが団子の櫛に貫かれたところをアピールする。 「あ、太郎さん一撃でゾンビやっつけたわよ! かっこいいよね、エリカさん、かっこいいよね!」 「え? ごめん見てなかった!」 と言っても混戦中にはなかなか難しいようであったが。 ともあれ外に出ていた分は比較的すぐ消化出来た。 引き続いて一同は、城内に潜んでいる分の駆除に移る。こちらは視界がきかず隠れ場所も多いこととて、格段にやりにくそうだ。 「とりあえず進むごと、窓を開けていこうぞ」 「そうですね。光が少しでも入る方がいいでしょう」 リンスガルトとアーディルの意見を元に一同、はぐれないよう固まりながら先を進み、鎧戸を開けて行く。 といっても奥はやはり暗いので、松明も灯す。揺らめく明かりで作られた影が壁や天井に蠢き、靴音が反響して響く。 九寿重は周囲に探索の目を走らせるが、すぐには反応が伺えない。 「隠れているんでしょうか」 先ほど外で激しく戦闘したから、警戒しているのかもしれない。 だがさっさと出てきてくれないと困る。 そんなわけで太郎は、呼び出し役を買って出た。 「大技持ってる人消耗させるわけにはいかねえからな」 いまだ犬を張り付けたままで『槍串団子』を燃やし、ブレスベットベルを輝かせ、その場で踊り始めた。なにかこう、どじょうすくい的な動きのものを。 そよぎは、不安にならないでもない。こんな姿を見て、エリカが好意を持つのかと。 ちらと窺ってみると――案の定格好いいとか思っている顔ではなかった。 そこで九寿重が叫ぶ。 「来ました!」 踊りに釣られたのか単にうるさかったのか知らないが、行く手からゾンビの団体が接近してくる。 三四郎が前に出、『毘沙門天』を旋回させる。 複数の敵が一気に倒れた。 後列から湧いてきた控えを、九寿重が次々切り倒して行く。 通路の逆側からも束になった気配が近づいてきた。そちらはリンスガルトが相手する。 「なんじゃ、おるならおるで最初から、さっさと出てこぬか!」 地図の情報と照らし合わせ周囲を確認。一階であり地下室の上ではない。ここなら衝撃を与えても踏み抜くことはないと判断。足を大きく踏み出した。 ドズンと重く地が揺れ、ゾンビたちが将棋倒しになる。 上から彼女は『秋水清光』でめった斬る。エリカもそこに加わった。 屋内で埃が舞っているため視界はききにくかったが、とにかく手ごたえがあるところを斬って行けば間違いはない。 目をこするそよぎは、九寿重に向け言う。 「焙烙玉行きます、退いてください!」 呼びかけ対象が弾いたのを確認し、投擲。先ほど起きたのと負けず劣らずの地響き。 群がっていたゾンビは四散し、通路の向こう側が開ける。 あかねが式符を取り出し、リンスガルトたちの前方へ壁を作った。今いるものを片付けてしまわないうち、新手に寄せてこられないように。 「あのゾンビの配置と開拓者の位置…今っ! ぬりかべ!」 2人が殲滅を終えたところで壁を消す。 向こう側にたまっていたゾンビが姿を現したところにアーディルが『アクケルテ』を撃ち込んだ。 壁の一部が多少崩れ、たまっていたゾンビが消滅する。 「よし、次――」 言いかけたツツジはすかさず撃った。先にある狭い階段の暗がりから、ずるずる這って降りてきた1体の頭を。 「――行こうか。こううるさいと、雰囲気も楽しめやしないからな」 ● 古城最上階。 壁が崩れて外が見える謁見の間。 ごろごろしているもふらのもとに、疲れている開拓者9名と気絶している犬1匹と顔を洗う猫1匹が今、たどり着いた。 「おおご主人たま、みなたま、クモの巣だの埃だので、ずいぶんばっちくなってご苦労様でち」 「スーちゃん…姿が見えないと思ったら何をこんなとこで自分だけのうのうとしてるのかしら」 「いや、今日は相棒複数態勢でちたからスーちゃんはいらないかなーと思ってでちね、ゴールで待ってようかと。迎えてくれる人がいるとうれしいものでちょう?」 「うれしくない! 腹が立つわむしろ!」 息を荒げるエリカに、そよぎが話しかける。 「エリカさん落ち着こう。それよりもさっきの話の続きをしよう。そうやってハッキリしないままにしていると、いつの間にか式場が予約されてたりするかもよ? もしも無人島に流れ着いてそこにロータスさんと太郎さんしかいないとしたら、どっちを取る?」 「………………太郎ね」 「でしょう! ならもうここで決めちゃおうよ! 太郎さん、ねえ聞いてる太郎さん!」 聞いているのだろう。背中を向けている太郎の耳が、赤くなっている。 「ちょっと待ってよ、それもしもの話でしょう!?」 リンスガルトは白目をむいている犬の耳を引っ張り、スーちゃんに言う。 「レオポールは独身か? 見合いをさせてみてはどうじゃ。父犬となり護るものが出来れば多少は逞しくなるかも知れぬぞ?」 「ううむそいつはむつかちいでちな。大体自分が結婚出来ないのに他人の見合いをプロデュースなんてあまりに惨めというかご主人たま虐待でちよ!」 あかねは壁の縁に腰掛け、相棒の背中を撫でている。 九寿重は刀の点検をする。アーディル、三四郎も各々武器の損耗がないか確かめる。 ツツジだけは謁見用の椅子に座り、なにやら得意げな顔。 雪峰を紅に染め、夕日が沈んで行く。 本日のお仕事、これにて終了なり。 |