のみくいだんしゃり
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 易しい
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/06 22:53



■オープニング本文



 なんとなく買ってみたけど封を切ってない。いつか食べよういつか飲もうと思いつつ保存したまま。
 そんな食料品、あなたの台所に眠っていませんか?
 実によくない傾向です。断言していい。いつかとか、そのうちなんていう日は、永久に来ないのです。
 漫然と構えているうちに賞味期限は過ぎ消費期限も過ぎ後は生ゴミになるだけです。
 人生は短いもの、そんなにいろいろ溜め込んでどうしますか。
 いつ何時万が一があるかも分からない、そんな世の中だからこそ、常に身辺は身奇麗にしておきたいもの。
 お掃除をすると身も心も軽くなります。
 トイレの場合女神様も出てきます。
 というわけで今回開拓者ギルドはだんしゃり会を開催することになりました。
 皆で飲食物を持ち寄り楽しく消費するのが目的です。
 参加される方は必ず、持参品をお持ちくださいませ(*口に出来るのものに限ります)。
 闇鍋イベントもあります。

 希望者は最寄りのギルド窓口までお申し込みください。定員の25名に達した時点で、受付を締め切らせていただきます。



■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ツェルカ イニシェ(ib9511) / ティルマ・ゴット(ib9847) / 鶫 梓(ic0379) / 徒紫野 獅琅(ic0392) / 文殊四郎 幻朔(ic0455) / 八壁 伏路(ic0499) / 七塚 はふり(ic0500) / 燦千國 猫(ic0741) / 源氏 蛍(ic0791


■リプレイ本文

 八壁 伏路(ic0499)は自宅でごろ寝。
 夢うつつにうとうとしていたところ、どたどたと廊下を走ってくる足音。続けて脇腹に衝撃。

「家主殿、惰眠おつであります」

 見上げれば平生部屋の隅に正座で居候している子鬼、七塚 はふり(ic0500)。
 葉っぱから落下したイモムシのように体を曲げている伏路を見下ろし、敬礼の姿勢を取ってくる。

「だんしゃりとは何でありますか」

「…質問する前に何か言うことはないか…」

「ございませんであります。家主殿が素早く起きないのが敗因なのであります。これが実戦だったら貴様の命はすでにないのであります。常在戦場を心掛けられますようご提案なのであります」

「居候の癖に最近態度がでかいのう、おぬし…」

 じっとりした眼差しを向け起き上がってきた伏路だが、はふりから事の次第を聞いて、眉を開いた。

「なるほどそういうことか。だんしゃりをやると聞いてきたのはえらいぞ、よくやった。とりあえず何か手頃なものが家に残ってなかったか、探すとよかろ」

「そのことなら心配無用なのであります。すでに自分は家主殿の部屋を掃除してみたのであります」

 はふりはさっとふろしき包みを出してきて、開いた。
 中から節分豆、菱餅、沢庵、高級紅茶セット、手作りクッキー、月餅、雛あられ、ワッフルセットなどなどが出てくる。

「さすればこのように出るわ出るわ。買い食いをなさるはご自由にですが、忘れたまま傷むに任せるなど理解に苦しむであります。よい機会です、ギルドで処分いたしましょう」

 後ろ手に何かを隠しながら言うはふり。
 伏路は青い斑点が出ている菱餅を指さして言った。

「待てやめろはふり、さすがにその菱餅はヤバイ」

「カビなんて削ぎ落とせばよいであります、好き嫌いはダメであります」

 無茶を言うなといいかけた伏路は、彼女の後ろから何かがこぼれ落ちてきたのを見た。
 すかさず拾ってみると、真っ黒なハート型――炭化したクッキー。
 ばつ悪そうに、頭をかくはふり。

「……混ぜて焼くだけと伺ったのですが」

「……食べ物はな、食材である前に可燃物なのだ」



「楽しそうですねぇ、知らない食材もあるかもしれませんし、参加してみましょう♪ ええと、確かこのあたりに会場があるはず…」

 ジェレゾの一角を行く礼野 真夢紀(ia1144)が持参しているのは、『辛みのある保存食』だ。
 酒は祝い事や慰労会、甘味やおつまみは祭りや宴会、通常食料は災害援助依頼などに重宝するのだが、これだけは使いどころがいまいち掴めずにいた。取扱説明書に『水が欲しくなる』とあるので、移動先で食べるのは適さない。かといってご飯のおかずにもなりづらい。
 最終的にもらってから、ずっと下宿におきっぱなし。

「やっと消費出来ますね〜」

 ひとりごちたところ、後ろから来たツェルカ イニシェ(ib9511)に声をかけられた。

「おーい、きみもだんしゃり会か?」

「あ、はい、そうです。ツェルカさんも参加されてたんですね」

 真夢紀は相手の手元を見た。両手に下げられた袋には、瓶がいっぱい詰まっている。

「持ってこられたの、お酒ですか?」

「おー、極辛純米酒に、「も王」に、酒々「嫁」だ。後甘酒もあるな。棚にあったの全部かっさらってきたんだ。それとつまみに糠秋刀魚と焼きイカ。昼間っから飲んだくれても注意する家人がいない素敵な催し。これは行かざるを得ないな! ウヒヒッ! 辛口の酒にゃあ、やっぱりイカだなーおい!」

 ばんばん背中を叩かれて、真夢紀はちょっと痛かった。とはいえ相手が実に楽しそうなので、悪い感じはしない。

「で、きみは何持ってきたんだ?」

「あ、はい、辛みのある保存食というのを…」

「いいねー。それもなかなかの肴になりそうだ。後で分けてくれないかな?」

「いいですよ、もちろん」

「おー、あんがと!」

 こんなツェルカと同類の酒目当てな参加者は、他にもいた。

「闇鍋よりお酒ね、私はお酒が飲めればそれでいいのよ」

「闇鍋か……まぁ食べれれば何でもいいけどね…とりあえず、お酒よね〜お酒入れとけばとりあえず美味しくなるわよ」

 鶫 梓(ic0379)と、文殊四郎 幻朔(ic0455)である。
 後者は極辛純米酒と甘酒のほか、テュルク・カフヴェスィ、携帯汁粉 ジャムセットなども持ってきているが、前者はヴォトカ5本しか携帯してきていない。
 といって問題はない。もう1人の同行者徒紫野 獅琅(ic0392)が食べる分を補ってくれる。

「飲みましょう! 貰い物ですけど極辛純米酒に寿司の折詰がありますよ」

 手提げ袋から寿司の折り詰めを取り出し見せる少年に梓は感激、頭をなでなで。

「あら、ありがとー獅琅くん。うれしいわー♪」

 まだ飲んでないのに、早くもクールさが崩れかかっている。
 それもこれも彼女が彼に好き好き大好き超愛している状態だからなのだと弁えている幻朔は、邪魔など一切せず、見守るのみだった。



 ジルベリアの一角にある、天儀風大衆食堂兼居酒屋。
 入り口のところ、『開拓者ギルドだんしゃり会様お座敷貸し切り』とある。

「ここで間違い無さそうだな」

 ティルマ・ゴット(ib9847)が言うと、連れの燦千國 猫(ic0741)が頷いた。
 ネズミと猫という対照的な獣人同士の彼女らだが、仲はとてもいい。

「それにしても最近はジルベリアにも、天儀の系列店が増えてきておるのう。ほう、本格握り寿司とな。一昔前は生魚など、ジルベリアの人は嫌がったもんじゃが、世界も狭うなったもんじゃ。む。ラーメンもあるのかの」

 店内に入るなりあちらこちらのテーブルをチェックして回る猫。
 襟首を持って、ティルマが引き下がらせる。

「マオ、あまり人の食べているところをジロジロ見るものじゃない。失礼になるから」

「いやいやティルマ、もうちょっと、もうちょっとだけなのじゃー」

「駄目だって」

 じたばたする相手を連れてお座敷に行けば、すでに羅喉丸(ia0347)と源氏 蛍(ic0791)が来ていた。
 そこにある品の多さに、彼女たちは目を丸くする。

「ほお、これは皆、お二方が持ってきたのじゃろうか?」

「いや違う。これらは皆羅喉丸殿のものだ」

「いやー、依頼に持っていくものはないかと探してみたら、思っていたより色々と見つかったものだ。腐らせてしまうのは、もったいないし、悪いしな」

「兎月庵の白大福に、神楽之茶屋のみたらし団子に、桜のもふら餅、龍の鱗クッキー、雪だるま饅頭、もふらさまのオーナメント・クッキー、オリーブオイルチョコ、大判鍋蓋煎餅…おやつ方面は隙なしじゃのう。おう、西瓜もあるのかの」

「叉焼包やら糠秋刀魚やら焼きイカまで…おや、羅喉丸殿も、恵方巻きを持ってこられたか」

「ああ。節分はもうすんだんだが…それでも効果があるもんかね」

 わいわいやっているそこに、残りのメンバーがやってきた。

「これはなかなか立派なお座敷であります、家主殿」

「甘いものなら大歓迎だのう」

 まずは伏路、はふり。

「あっ、ちゃんとテーブルにコンロがついてるんですね」

「でっかい鍋だなー。網はあるか? イカ焼きたいんだけど」

 続いて真夢紀とツェルカ。

「獅琅君、私の隣にどうぞ」

「はーい」

「みんな早いのね。まだ予定時間の15分前よー」

 最後に梓、獅琅、幻朔。
 全部で11名。これでメンバーは揃った。



「どんなに高価なものでも一人で食べては、美味しさ三割減というものだよ。さぁマオ、一緒に食べようか」

 お座敷からは天儀風庭園の中庭が見えている。藤棚が見ごろだ。
 それを眺めながらティルマは、ヤギの内弁当と寿司の折り詰めの蓋を開ける。

「…ヤギの肉は使われてないようだな」

 猫は重箱を開き、一段一段ばらしていく。2人仲良く半分こしつつの消化作業。

「もっとバランスよく食べないと駄目だぞ、マオ。昆布巻が残っておる」

「…ティルマだって寿司のワサビこそぎとっておるじゃろ」

「わ、私は辛いものがどうしても苦手なのだ。人の食べているものをそう覗くな」

「商人のあたしとしては、開拓者が普段どんなものを食べてるのかの市場調査の場でもあるのじゃよ」

 うそぶく猫は弁当をつつきつつ、温めた甘酒に桜の花湯を浮かべて飲む。

「これはいい商品の案になりそうじゃのぅ」

 席に落ち着くや否や梓らは、早速飲み始めた。
 寿司の折り詰めをお供に純米酒をたしなむ幻朔が、すでにヴォトカで口を潤している梓に、杯を差し向ける。

「梓も飲む? 純米酒」

「もちろん、いただくわ。ヴォトカもいいけど、天儀料理にはやっぱり天儀のお酒が一番合うからね」

 喉の焼け付く液体を流し込んでから数秒で、梓がぐらぐらし始める。

「あら? もしかして酔ってる? 梓…お酒弱かった? 甘酒にする?」

「あれ…? お酒はべつに弱くないはずなんだけど…おかしいわね…いえ、らいじょうぶよ?」

 早速舌が回らなくなっている彼女は獅琅に対し、全く遠慮がなくなってきた。

「も〜…らに、らんでそんらにかわゆいの、しろーくん。しろーくんたらもおおお。このこのお」

 相手の頭を両手で挟み胸にぎゅうぎゅう押し付けるという行動に出た友に、幻朔がクギを刺す。

「梓〜絡むのもR15くらいにしときなさいよ〜」

「15歳未満禁止ですか…!? 参ったなあ、俺14なのに。梓さん、14禁ぐらいでお願いします」

「はいは〜い。ざんねんらけどお、このくらいにしておくぅ〜」

 額や頬にチューされて落ち着いているあたり、獅琅はこの手のことに、相当慣れているようだ。

「そういやあ、酒のない所で梓さんと話した事ないですねえ。だからいつも大胆なんだ? あは」

「いつもごめんね〜。もう本当に酒癖の悪い子でさー、梓は…」

 傍若無人な光景に、苦笑を浮かべる羅喉丸。

「色々とあるものだ」

 諦めたように首を振る幻朔は、顔赤らめて推移を見ている真夢紀に言う。

「あ、おつまみとってもいい?」

「え、ええ、どうぞ」

 皿にあけた『辛みのある保存食』が、瞬く間に消えていく。幻朔のみならずツェルカからも、極辛純米酒の友として消費されていっているために。

「貧乏忍者には勿体無い、いい酒だな…」

 あまりに味がいいのですぐなくなってしまう。
 と言うわけで、次は「も王」だ。

「秋刀魚って時期じゃねーけど、保存食だし…傷んでねーだろ多分」

 大らかな認識を見せる彼女は、誰が持ってきたものかは関係なく、目についた秋刀魚を次々むさぼり食っていく。そして、大福だのワッフルだのクッキーだのばかり食している伏路に絡む。

「おーい、きみもちょっとは飲まないか?」

「いや、わしは食べる係ということで。ああ、こうして食っちゃ寝だけで生きて行きたいのう」

「なんだなんだ今はやりの草食系って奴かー。大の男が情けねえこと言ってんじゃねえよ。飲め飲めー」

「いやいやいいから、構わんでくれ。おいはふり、助けろ、はふりー!」

 家主を無視し焼いた菱餅を食べているはふりは、鍋の用意が始まったので、そっちに移動した。
 料理は不得手だが鍋なら作る様子を見たことがあるからいろはを知っている――と彼女自身は思っている。

「とりあえず煮ればよいでありますね」

 もちと沢庵とどっちを入れよう。
 彼女が迷っている間に、ツェルカが一番乗り。伏路を脇に酒々「嫁」を引っ張り出しラッパ飲みしつ、投入するのは甘酒と梅干だ。

「あんまきっつい酒ぶちこんでお子様が倒れても困るしな!」

 もごもご恵方巻きを食べていたティルマは、作法に従い無言のまま。

(甘いものを投入したらどうなるだろうか…)

 すでに甘い物が入っているのだから、そうおかしい味にもなるまい。というわけでジャムを投入。

「おっ、そう来たか。じゃあこれもついでに入れてやろ!」

 酔いの勢いというのだろう、ツェルカが樹糖を追加した。
 この時点でかなり好みが分かれそうな次第だが、とりあえず甘党の伏路はそそられてきたようである。

「うまそうだな、ちと味見を…火を通せばなんでも食える、はず」

 ワッフルに鍋の中身をちょいとつけて食す。
 結構うまい。
 思ったとき幻朔が動いた。

「って幻朔さん、それ入れるんですか!?」

「入れるわよー。絶対もっとおいしくなるから」

 酒、汁粉、ジャム、そしてテュルク・カフヴェスイが煮立つ甘酒とジャムの混合物の中へ――誰も止めるひまなどなかった。
 ただ甘かっただけの匂いが微妙なものとなっていく。
 黒く変色していく鍋に、獅琅も恐れをなし始めた。

(どっちかってえと甘味鍋……珈琲はともかく、汁粉とジャムが覿面に合わないですねえ…食べますけど…)

「汁粉足しましょうか…はあ…さすが名は体を表す? 体に負けず劣らず? 豪快ですねえ…」

 箸でかきまぜてみるともったり重い。
 重いといえば頭の上に乗ってくる梓の胸部も重い。

「えー? しろうくんたらー、げんさくのほうがおっぱいおっきくていいってー? ひどーい」

「言ってません、ボインとか言ってません」

 いろんな意味で大汗かいて弁解する獅琅の横から、今度ははふりが手を伸ばした。

「酒が入るなら茶もいれていいはず」

 茶葉が新しく鍋に加わる。

「物事には限度と言うものが――」

 言いかけ諦めたのだろう、伏路がパタンと横になった。

「――料理は頼んだ。わしはこのへんでゴロゴロしている」

 張本人の幻朔も逃げに走った。

「……あ、私もうお腹いっぱいだから後はみんなで食べると良いわよ。育ち盛りな獅琅くんとかは遠慮なく食べるといいんじゃないかな? 私はdietもしてるからもういいかな?」

 いけない。このままでは鍋の中身が無駄になる。折角の食料や飲料を食べられなくするのは依頼の趣旨にも合わない。

「み、みなさんちょっと待ってください! 一旦投入を止めましょう!」

 発奮し待ったをかけた真夢紀は、果敢にも味の調節を試みた。

「ええと、とりあえずアク取りをしませんと…コーヒーかすや茶葉のかすが浮いてきていますので」

「アク? 巣食う? この鍋にアヤカシでも?」

「いえ、はふりさん、そういう意味ではなくてですね…」

 説明をしつつ、持参のおたまを取り出す。

「…とにかく水を足しましょう。薄めた方がいいです。ジャムの粘りで焦げそうです」

 餅は餅屋ということだ。味の仕立て直しは彼女に任せよう。
 決めた羅喉丸は皆にスイカを切り分ける。やや季節外れな品だが、それでも水気は多く味もよい。
 散々菓子を食べ尽くしていた伏路も手を伸ばしてきたので、思わず聞く。

「伏路殿、まだ入るのか?」

「デザートは別腹だ」

 甘味好きなティルマにも、これは有り難い。

「おいしいな、マオ」

「そうじゃのう。欲を言えばメロンなども欲しいところじゃで」

 そこでばたんと音がした。
 見れば梓が獅琅に抱き着いたまま倒れている。限界が来たらしい。
 うにゃうにゃ呟いている彼女にティルマが、岩清水を差し出した。

「寝る前には水をしっかり摂っておかないと、ですね」

 梓はそれを受け取り一口だけ飲んだ後、今度こそ本格的に寝込んでしまった。実に幸せそうな顔をして。
 その間に真夢紀は何度も何度も工夫を重ね、ようやく鍋の中身を「茶とコーヒーの匂いがするアルコール入りのジャム的甘みの交じる前衛的な汁粉」段階まで持ち直させていた。

「よし、これなら…なんとか…」

 しかし猫が全てを台なしにした。

「追いオリーブオイルじゃぁああ」

 鍋に希儀の産物であるオリーブオイルがぶちこまれる。
 熱した水面に豚骨ラーメンのごとき油膜が出来たのを目に、さすがの真夢紀も――サジを投げた。



「うぐっ…だ、大丈夫じゃ、吐き戻さねば…食べた事になるし、オバケもでまいて…」

 責任を取りオリーブ汁粉をすすっている猫の顔色は悪い。涙目でもある。
 しかし自分が撒いたオリーブであり、食べ物を粗末にしてはもったいないお化けが出ることもありで、ここは踏ん張るしか無さそうだ。

「頑張れ、マオ。後少しだ。すんだら岩清水を飲ませてやるからな」

 隣で励ます友、ティルマ。
 羅喉丸がそっと湯飲みを差し出した。

「飴湯のほうが腹に優しいだろう」

「おお、かたじけないですじゃ」

「いやいや、気にせんでくれ。たまにはこういうものもいいものだな」

 すっかり寝込んだ梓に上着をかけてやった獅琅は、桜の花湯でしめている。

「これで一息つきましょう――あは、でも楽しかったですね!」

「本当ね。でもまだちょっと残ってるかな? 持ち込みが多かったものね」

 あたりを見回す幻朔に、真夢紀が紙の折り箱を渡す。

「何なら使ってください。予備がまだありますので。捨てちゃうのは勿体ないですから」

「真夢紀殿、自分にもお一つ分けてくださいであります。家主殿に食わせる明日の弁当代が浮くのでありますゆえ」

「はい、いいですよ」

 はふりは折り箱に叉焼包と糠秋刀魚と沢庵と寿司とみたらし団子をごっちゃに詰め、無理やり蓋を閉めた。中で味が交ざりあうことは、たいして気に止めていないらしい。
 寝そべったままオリーブチョコレートをぽろぽろ食べこぼしている伏路の尻を、えいと踏む。

「家主殿もなんかするであります」

「わしはこのようにちゃんと消費活動をしておる、これ以上何をしろと言うのだ」

「とりあえず、至高の鍋を無慈悲に消費するのを手伝うであります」

 それを聞いた途端、だらけていた彼がむくっと起き上がった。

「人手が足りん? では皿でも洗おう、面倒なことは後回しだ」

 皆この鍋によほど手をつけたくないものと見える――友でさえ。思えば猫の孤独感は募る。
 だが幸いにしてすっかり酔って味覚も鈍っているツェルカが、一緒に食べ始めてくれた。

「どうも一味足りねえなー。おーい、ここのヴォトカ追加していいかー? いいんだな、よし決定」

 だぼだぼ増量されていくアルコール。
 比例してどんどん赤くなっていく猫の顔。

(…倒れるんじゃないか?)

 もしそうなったら、自分が家まで担いでいく手伝いをしてやろう。
 思って蛍は雛あられを齧る。倒れた空き瓶を隅に、片付けていきながら。



 昼も過ぎ昼下がりも過ぎしているが、日はまだ高い。
 ただいま、五月である。