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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 影法師さん? またどこかに行ってしまったわ。 あのひと誰かに取り付いていない限り姿というものが持てないから、近くにいても人間には気づけないでしょうね。オランド執政がそうだったように。 ああ、私には見えてるわもちろん。同じアヤカシだから。 次に誰のところへ行くかは、さあねえ、なんとも言えないわ。追求する気もないし。 いい加減アヤカシであることに満足すればいいのにね。 学校も試験も仕事もない。あくせく食べるも飲むもしなくていい。誰からも命令されない。何かに従う義務もない。 それはとてもすてきなこと。 ビバアヤカシライフ。 「むー、確かにその論に一理はあるでちなあ隙間たん」 タぺストリーの隙間にはまり、ボソボソやっているアヤカシ。それと話し合っているもふら。 彼らをひとまず置くとしたエリカ・マーチンは、弟のゲオルグに問うた。 「で、御前会議はどうなったの?」 「いや、それがまだ結論が出てないんだ。何しろこんなケースは初めてだから」 上奏文によって告発された執政の不祥事は以下の通り。 1:前侯爵の殺害容疑。 2:城に存在していた隠し財産の横領。 3:それを隠匿するための高官への買収工作。 4:ジェレゾから呼び寄せた職人たちを殺害しようとした(ただし未遂に終わる)。 5:そのために使った配下の人間を隠蔽のため抹殺しようとした。彼らの身体へ残虐な破壊行為を行った。 このうち最も重く見られたのが1と2と3――特に2と3。 罷免された侯爵の私有財産は、すべて皇室に収められた形となっている。それへ勝手に手をつけるなど、不敬もいいところ。反逆に準ずる罪。 関与した高官が罷免されるのは当然の流れとして、張本人であるオランド執政にはそれ以上の厳罰をもって望まなければならない――本来なら。 問題となるのは、当時の執政が犯したことの責任を今の執政に引き継がせるのが妥当かどうかという点である。 ここで意見が二つに分かれているのだ。 一つは、『当時執政はアヤカシによって分裂した状態であり、今存在している執政とは別もの。従って責任は問えない』という見方。 もう一つは『確かにアヤカシによって引き起こされた事態ではあるが、2人の執政はあくまでも不可分なものである。最終的にまた1人に統一されている。従って罪に問うべきである』という見方。 「オランドさん自身は後者の立場で考えているんだけどね…僕としては前者の立場を取りたいんだ。アヤカシがいなければ、そもそもあんなことは起きていなかったはずなんだから」 ソファに寝そべって話を聞いていたロータスが、むくりと起き上がった。 「そうでしょうかね。あれほどあからさまじゃなくても、似たようなことはしてたかも。そこの隙間さんの話によれば、影法師は取り憑く人間が持つ以上の知識を有しないわけでしょう。だとしたら、ババロア侯爵の隠し財産の件、あらかじめ知っていたはずですよ、あの人。皇室に供出しつつ中抜きするとか、その程度の小粒な不正行為なら発覚してもここまで大事にはならなかったのにねえ」 「黙れニート穀潰しくたばれ。姉さん、子供が生まれる前にこいつを追い出した方がいいよ。教育によくないから」 「…あれですね、僕はこの先未来永劫君と仲良くなれる気がしませんねゲオルグ君」 「あんたたち本当に反りが合わないわね…そういや脱獄囚は、結局どうなったの?」 「ジェレゾの中央監獄に移されましたよ。殺人未遂ということですが叙情酌量のもと、懲役3年。その間に治療も受けさせてもらえるそうですよ。少しは状態も改善するんじゃないですかね。元通りとはいかないでしょうが」 ● ミーシカたちはババロアへ来ていた。さんざん騒がせてくれたお隣さんが現在どうなっているのか、知りたかったので。 いつぞや足止めを食らった橋の門は開きっぱなしになっており、見張りもいなくなっている。 長々あった柵も撤去。あっちこっちうろついていた保安隊の姿も見かけない。 結構なことである、と言いたいところだが住民は落ち着かない様子。 言い掛かりで引っ張られる気遣いがなくなったのは喜ばしい。 逮捕された人々が牢屋から戻ってきたのもいいことだ。 ひどい目に遭ったことに対して謝罪と賠償が行われたのも出来過ぎるくらいの朗報。 だが、この先どうなるのか。 「あの執政様もこの執政様も同じ執政様だから責任はとらなきゃなんねえそうだ」 「そこんとこ、どうもようわからんなあ…したら、誰がうちを治めてくださることになるんかの。ババロア様はもうおられんし、執政様も帰ってこんとなれば」 「さあなあ…いい加減まともな方に来てもらいたいんだが、何故かうちには曰く付きのような方しか…」 ミーシカは市場の雑談を小耳に挟み、ふん、と鼻を鳴らした。 「はいはい言うこと聞く奴ばっかりが多すぎんだ、ここは。だから上が増長すんだよ」 ● オランド執政は城の近くに建てられたババロア侯爵と金庫番の墓の前に一人佇む。 「…あなたも、私も、統治者として失格でしたね…」 それだけ言い残して場を立ち去る。 ジェレゾへ向かう。オランド・ヘンリーが成したことへの裁定を受けるため。 |
■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
レイア・アローネ(ia8454)
23歳・女・サ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
八壁 伏路(ic0499)
18歳・男・吟
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ババロアの一件が明るみになってからしばらく、かの地で行われていた残虐行為や不正について、憶測や誇張を交えた記事が何度も紙面に上り世間を賑わせた。 が、人の噂もなんとやら。やがてそれらも収束していく。 「もう下火になったと見ていいでしょうね。決審の段階で再度わっと騒いでおしまいですよ。お裁きの後どうなったとかこうなったとか、一般読者の興味をかき立てるものじゃありませんからね。しかし」 スィーラ城前。 珍しく正装しているロータスは首もとに手をやり、鈴木 透子(ia5664)を見下ろす。 「何も僕に頼まなくてもねえ…あなたが直に御前へ出てオランドさんを擁護してもいいと思いますよ。平民とはいえこれまでに幾つか、皇室に認められた実績がおありでしょう。勲章もお持ちですし、ジルベリア学会員の肩書もお持ちですし、正直僕より説得力を持って持論を展開出来るんですがねえ…大体こういうの僕の出る幕では…」 「気にしないで透子。こいつさぼりたいだけだから」 「…エリカさん、僕今回、すでに結構働いてると思うんですけど」 弁解に努める彼の反対側から、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)、フィン・ファルスト(ib0979)。そしてサライ(ic1447)と八壁 伏路(ic0499)が異論を述べた。 「ロータス様とて貴族の端くれ、高貴なる義務はお持ちのはずです。たまには働かなければなりませんわよ。妻子に見限られてもいいと仰せなら仕方ありませんが」 「大体ロータスさん、矢面には一度たりと出てなくなかったですか?」 「言われてみれば…直に何かされたことって最後までほとんどなかったような」 「口先三寸しか動かしてはおらぬの」 彼らもまた正装している。目的はロータスと全く同じ。御前会議に赴いて、オランド執政の弁護をしようというのだ。 「何言ってるんですか! オランド執政の近くに何度も近寄る羽目になりましたよ! あれものすごく危険なことじゃないですか!」 エリカはロータスの顔をちらと見て、首を振った。 「いいや、あんたはその気になればもっと出来る。やれるのにやらない子だっていうの私知ってるから、グダってないで早く行く」 口を噤んで渋々城門から入って行くロータス。 透子はエリカを見上げ、感想を漏らした。 「随分ロータスさんの操作がうまくなりましたね」 「そう? まあ、慣れかしらね。ところであんたは、影法師を探すんだって?」 「はい。陰陽師として出来ることをしなくてはと思いまして。誰かに憑かない限り姿が無いのは…すごく困ります。憑いてからは結構派手だと思うので、注意報とかをだすことができれば早く手当てをすることも可能かも知れませんが…それはそれで変な噂や混乱の元にもなってしまうかも知れませんし…」 オランド執政の例を見る限り、そして隙間女の話から推測する限り、人間の姿を得た影法師は本物と全く見分けがつかない。分裂した当人が隣にいなければ『急に性格が変わった』としか思えないだろう。 専門家である自分たちでさえ真偽を確かめるのが難しかったのだ。 下手をすれば魔女狩りのような事だって起きかねない。 「やっぱり討たないと終わりにならないのかもしれません」 討つどころか祓うことも出来なかったのだが、もし隙間女の力を借りたなら、あるいは。 ● 「というわけで、将来我が領内にじめじめテーマパークを作ろうかと。つきましては影法師のことについて、もっと詳しくお聞かせ願いたいのですが」 サライが提示する交換条件を聞いた伏路は、金持ちっていいなあとつくづく思った。 自分が示せるものといえば、せいぜいこんなものしかない。 「わしはあれだ、礼代わりに村娘に粉かけては振られ続ける男の負の感情を食っていいという許可をお主にだな、やろうかと」 裏通りの家と家の間にぴっちりはまり込んでいる隙間女は、三白眼をじろっと伏路に向けた。 「…あのね…あなたの感情…負でもなんでもないわ…むしろ正を撒き散らしてる…安いラブコメみたいで…見てると少々ウザったいっていうか…イラっとくるっていうか…ゲロまず…」 「万年お一人様がとてつもなく無礼なことを言うとるの…その隙間をセメントで埋めてやろうか」 やや喧嘩腰になりかけるが、一応これでも事件解決の恩人だと考え直しぐっと堪える。 「んで影法師はどこへ行ったのだ? 知っているならちと教えてくれ」 「…何かあのひとに…用事でもあるの…」 「そりゃ大いにある。のうサライ殿」 「ええ。可能なら実体化前に発見する方法と、有効な攻撃手段も教えていただければと。悲劇が繰り返されることは望ましくないと思いますので」 隙間女は風に吹かれるようにゆらゆらした。何やら考えているらしい。 一応アヤカシ仲間だから、弱点を教えるのに遠慮があるのだろうか。 思った透子は別方面から質問を行う。 「取り憑く相手に好みはありませんか。後…なんで人に憑くのだと思いますか」 「…取り憑かれやすいのは…何かと重圧感じてる人ね…なんで人にかというところは…さあ…私もいまいち理解出来ない…確かあのひと…人でいるのがいやで…ああなった…はずなんだけど…」 その答えに彼女は、自分の予想が間違っていなかったことを確信する。 「では、人の無念から生まれたアヤカシなのですか」 「…そんな…感じかしら…何度も…代替わりしてるけど…最初は人間やめたいって…意志から…生まれたはず…あのひと…でもなったらなったで…なんかちがうって…さながら…就職2日目に…嫌気がさし…辞表を出す新入社員…」 アヤカシといえば見敵必殺を信条とするフィンは、苦虫を噛み潰しながら聞いている。 (はた迷惑過ぎ…) 情報提供の恩や人間への直接的な被害が稀であるとの理由で、隙間女に対してはなんとか攻撃を我慢している彼女も、影法師に対しては一切容赦出来そうにない。奴が執政に張り付いたことで、一領地がこれだけぐちゃぐちゃになったのだ。 「困りますわねそういうのも…」 眉根を寄せるマルカは、核心部分について再度尋ねた。 「それで、影法師は現在どこに?」 ● 「オランド・ヘンリー。出ませい」 収容されていた房から出されたオランドは、先導されるまま細く長い廊下を過ぎ、とある部屋に入る。 そこには袖の長い服をまとった法官たちが、コの字形の机を前に座っていた。 「オランド・ヘンリー。そこにかけてくれ」 腰掛けたオランドは、背筋を伸ばして問う。 「私の処分は決まりましたでしょうか」 「ああ…君はそれがどういうものでも受ける覚悟はあるかね?」 「もとより。陛下の御前に、恥じ入るしかない身でありますゆえ」 眼鏡をかけた真ん中の法官が、横から渡された書類を読み上げる。 「では結論から言おう。オランド・ヘンリー。君は今回犯した罪の償いとして、資産の一切を没収される。今後は無償でババロア執政職を務めること。まかり間違っても不正など起こさぬように。もし起こせば今度こそ命はない」 「…は…ま、待ってください、それは」 「なんだね? どのような処分でも受ける覚悟があると言ったばかりではないかね」 「もちろんです。しかしそれではあまりにもその、軽いのでは、ないかと…」 狼狽する一方のオランドを、法官が手で制した。 「そういう意見があるのも確かだが、総合的に論じた結果この結論に至ったのだよ。助命の奏上も幾つか来ていてな…議事録を見てみるかい」 渡されてきたものには、彼にとっては覚えがある人物の名が多く連ねられていた。 ゲオルグ・マーチンを初めとするかつての職場関係者。 フィン・ファルスト、マルカ・アルフォレスタ、サライ、八壁 伏路。 ロータス・B・マーチンも来ていた。鈴木 透子の代理人として意見を述べるために。 何十ページにも渡り記された、侃々諤々の議論。ババロアを立ち直らせたいという真摯な思い。 全てを読み終わったオランドは瞼を押さえた。涙までは出ていなかったようだが、感極まっているのは確かである。 法官は静かに言った。個人的意見だが、と最初に断りを入れて。 「…サライの意見について…後半部分から記録に残すべきかどうか、かなり揉めたんだよ。帝国の根幹に言及している箇所があるからね…ジルベリアは強大な皇帝の権威あってこそ治まってきた、平和を享受してきた。絶対君主制こそが、ここまで我が国を支えてきたのだ」 台詞がいったん切れて、再び繋がる。 「…アーバンのような政治体制が王道とは思えない。だがあのやり方で問題を起こしていないのも事実だ。それがあそこにだけ成立可能なものなのか、そうではないのか――執政、あなたにそれを確かめてもらいたい。果たして本当に平民が政治に参加し、責任のある行動がとれるものなのかどうか」 ● 開拓者たちはヤーチ村を訪問していた。 伏路は声を弾ませる。 「ピロシキの礼に来たぞー!」 折よくミーシカとエマが、森から戻ってきたところ。 前者は矢の刺さった山鳥を腰にぶら下げ、後者は山菜の入ったカゴをしょっている。狩猟と採取の分担作業をしていたらしい。 「なんだ、フセか」 近づいてきたミーシカは、すぐ隙間女がいるのに気づく。 「…おい、またうちにアカヤカシ置いて行く気じゃないだろうな」 「いや違う違う。これまでの協力に感謝の意を表明すると共に、後始末に来たのだ。こやつによると影法師の奴、このへんからまだ遠くには行っておらんはずだそうで…」 「マジか。消えたんじゃなかったのかよ」 「うむ、マジじゃ。…時にあの後、同じ人間が2人現れたりとかしておらんか」 「今のとこねえよ…ていうか、そんなら早く退治しろよ」 「そりゃもう、望むところ。そのために来たでな。今のやり方は上手く行っても性格の悪い人間と新たな影法師が生まれるだけではないかの? という疑問とかなんやかやあって、方向性としては完全消滅を視野に入れ前向きに検討したいところでな」 そこで隙間女が、ひょいと脇から顔を出す。 「…それは偏見ね…逆の結果になることもあるのよ…最高にどうしようもないゴミ男が…目も当てられない善人に入れ替わっちゃうとか…すてきに根性ひん曲がったクズ女が…直視もためらう聖女になっちゃうとか…ね…要はなりたくてなれない…自分の投影だから…そこに生まれる性格がいいか悪いは……ケースバイケース…」 陰陽道に通じる何かを感じたのか、変に透子は納得する。 「なるほど…何事も表裏一体ですね」 じゃあ最初から悪人にだけつけばいい、と思わないでもないフィン。 だが、そのためには本人が内心善人に憧れてないといけないわけで…やはり性格の悪い人間を作ってしまうパターンの方が、圧倒的に多いのだろう。 見つけたときのために『レーヴァテイン』を持ってきてはいるのだが、相手に有効かというと確信が持てない。隙間女によれば、人妖ですら存在を察知しづらいというのだ。なんとなくいるなというのは把握できても、多分姿は見えないんじゃないかとのこと。 「…あ、やっぱり…いた…ほら…ここ…移動する力は…まだ溜まってないと…思ったのよね…」 だから、今隙間女が指さしている方向にあるのは、自分たちにとって単なる虚空。 「…」 目をこらすサライは、試しにその空間に向かい手を払ってみる。 空気以外何もない。 「あの、本当にここにいるんですか?」 「…いるわよ…人間には見えないし…感じ取れないって…先に教えたじゃない…言いたいことあるならどうぞ…」 伏路はまず手初めに説得をしてみた。倒すのは、それが通じなかった後。隙間女への義理を重んじる故である。 「のうおぬし、影法師よ。他人を乗っ取ろうとするのはもう打ち止めにせんか? 隙間のように影を渡り不幸を観察する方が、効率がよいぞ?」 返答は隙間女が通訳した。何か喋っていたところで人間にはこれまた一切感知不能なので。 「『俺は観客じゃない、役者だ』…だそうよ…」 「…なんだその勘違いした俳優志望の若人みたいな言い草は」 「…『余計なお世話だ…後もう少しだったのに邪魔しやがって…くたばれ』…だそうよ…」 フィンがこめかみに筋を浮かせる。 「ねえ、ちょっと斬ってもいい?」 「『斬れねーよ、ざまあw』…だって…」 反省の色というものは皆無だ。アヤカシなら当然なのかもしれないが。 (とにもかくにも所在はこの通り分かったのですから…巫女様たちをお呼びして…サライ様が先におっしゃっていたように『魂よ原初に還れ』で一斉攻撃していただけましょうか…確かアーバンの麓町に、小さいながらもギルド出張所があったはず…片道1時間というところでしょうか。その間皆様にここで足止めをしてもらって…) 思案しているマルカの横で透子は、隙間女に確認を取る。 「陰陽術は効きますか」 「…効くと思うけど…」 言いよどんでから隙間女は、サライに横目を向けた。 「…じめじめテーマパーク…私がプランニングしても…よいかしら…?…素人に任せると…コレチガウ感が…漂うものに…なってしまいそうだから…」 「え、ええ。かまいませんよ」 「…なら…ちょっと…サービス…」 いきなり隙間女の髪が逆立ち、目の前にある空間に延びる。 それに巻き付かれ、黒い影が姿を現した。 ――と思う間に彼女の元へ引き寄せられ、がぼっと頭から飲みこまれてしまう。 「…げふ…」 フィンが、恐る恐る透子に聞く。 「…アヤカシを食べるアヤカシって…どういう理屈?」 「…ううん…瘴気の塊が同じ瘴気の塊と同化する…という感じなんでしょうか?」 「あやつ一体何者なのかますます分からなくなってきたの…まあこれでとりあえず、一連の後始末が終わったということか」 伸びをした伏路は、改めてミーシカのところへ。 「いや、改めて、これまで大変世話になった」 ミーシカは彼を上から下まで眺め、ふんと鼻を鳴らす。 「全くだ。こっちこそ報酬がほしいところだっての…でもお前らも、いやお前もよくやったほうだ」 それからぐいと彼の襟を取り、顔近づけて頬にキス。 すぐ離れてそっぽを向く横顔は、照れているのか赤かった。 「あれだ、感謝の印だ。女と男は関係として別物だから、このくらいなら構わんってエマが許可してくれた。だからエマに感謝をしろフセ。近いうち春祭りやるから、あんたたちも来いよ。もちろん何か持ってだぞ。手ぶらでただ食いはなしだからな」 マはミーシカの隣で口元を押さえ、くすくすやっている。 伏路は彼女に礼を言うどころでなかった。完全にのぼせている。 「え? ええ、ああ、うん。もちろんもちろん」 あらあら、と微笑むマルカは、サライに顔を向けた。 「確か、恐れは頭を鈍麻させる。権力者は鷹揚たるべし。民の言論を抑え付ける事無かれ。でしたわね。あなたが評議会でおっしゃられた言葉は」 「ええ」 「…とてもいい言葉ですわ。わたくしたちが…いえ、臣民全てが、座右の銘とするべきものですわね」 |