モノ愛
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/05 21:29



■オープニング本文



「ええーっ、エリカ番長いないんすか!」

「そうでち。たまたま偶然用事があって出かけているのでちよ。ちなみにここにいるスーちゃんのお友達のご主人たまたちも、皆どこかへ出かけているのでちよ。そんなわけで、現在もふ会の最中なのでち」

 ぶちもふらのスーちゃんから事情を聞いた聖マリアンヌ女学院の口だけ番長アガサは、膝を折ってその場に座り込んだ。ぶるぶる震えながら。

「そんな…この肝心なときに何で揃いも揃って出払ってるんすか…」

 チームの仲間も皆一様に怯えた表情をしている。

「間違いなくあれは悪いものに憑かれているとしか思えないですの」

「どう考えても正気の沙汰じゃないですわ。今思い出しても寒気が…」

 彼女らの話を聞いてやっているスーちゃんは、クッキーばりぼりしながら言う。

「落ち着くのでちよみなたま。まずは何がどうしてどうなったのか具体的に説明してほちいのでち。開拓者はいなくとも、ちょっとやそっとの依頼ならスーちゃんたちだけで解決してみせるのでちよ」

 もふもふの胸を器用に前足で叩くスーちゃん。
 女生徒たちは一応その言葉を信じ、今起きている問題を打ち明けた。

「うちの学校にいるオバン先生知ってるっすね?」

「もちろんでち。表の顔は口やかましい生徒指導の教員、裏の顔はえげつなーいBLを描く薄い本界の著名人。最近その副業がうっかり白日の下に晒されしばらく登校拒否を起こしていたけど、開き直って乙女限定裏漫画クラブの顧問に収まったとか言ういわくつきの独身アラサー女教員でちな?」

「そうそう、その人っす。そのオバン先生がおかしいんす!」

「もとから一般的常識に納まる方ではなさそうでちが」

「それがとうとう人として越えてはならない一線を越えたっす! これを見て欲しいっす!」

 持ってきていた紙袋から数多の薄い本をぶちまけるアガサ。
 そういうものに興味がある相棒もない相棒も覗き込み――戸惑った。表紙に描いてあるタイトルが明らかに変だったので。

 ボルト×ナット。
 机×椅子。
 鉛筆×消しゴム。
 マッチ×マッチ箱。
 ドリル×ハンマー。
 インク壷×羽ペン。

「…ははあん、なるほど、擬人化BLにはまってしまわれたのでちな。確かにちょっと特殊な趣向でちが、でも正気の沙汰じゃないとまでは言えないのではないでちか? お年頃の男の子が鋏の形にさえエロースを感じてちまうのと似た類のことで…」

 アガサは影のかかった顔で、捨て鉢に言った。

「…その台詞、中を見てから言って欲しいっす」

 言われたとおりにした相棒たちは言葉を失った。
 中に描かれていたのは本当に、ボルトでありナットであり机であり椅子であり鉛筆であり消しゴムでありマッチでありマッチ箱でありドリルでありハンマーでありインク壷であり羽根ペン――微塵も擬人化されていない。
 それが効果音と台詞をつけて常の通りの展開を演じている。
 じっとりわいてきた嫌な汗を肉球で拭うスーちゃん。

「これは…何か心の病にかかっているとしか思えまちぇんな…早急に手を打たないと冗談抜きで命に関わる心地がするでち」



「先生、もう止めてください先生! いつものBLに戻ってきてください! カタケットで求められるもの描きましょうよ!」

「邪魔をしないで頂戴! 私はBL作家として更なる高みへあくなき挑戦をしなければならない…今がその時期なのよ!」

「先生が向かってるのは高みじゃありません、無人の荒野です! お願い戻ってきてえ! こんなんじゃ全然萌えられないーっ!」

 悲鳴に近い支持生徒たちの哀願を振り切り、オバン先生は走る。天儀×アル=カマル(擬人化なし)という前代未聞の代物が入った箱を抱えて。
 行き着いた先は、目立たない場所にある会館だった。祭りはそこで行われているのだ。




「『モノコミ』…こんなものが開催されているなんて、同じジェレゾにいながら知らなかったでちなあ」

 寂れ気味な建物の前にある看板を読んだスーちゃん以下相棒たちは、どやどや会場に入る。
 さほど広くないホールには、さほど多くない数のサークルと客。隙間が目立つ。
 無理もない。

「出品は無生物CP(擬人化・美化厳禁)ものに限る。BL、NLどちらでもOK」

 など…コアな上にもコア過ぎる層しか受け入れられないはずだ。
 
「それを考えるとこの程度の集客人数でも、驚異的に思えてくるでちな。とにかくオバン先生ここにいるはずでち。説得して大衆のためのまんが道に戻ってきてもらうのでち」

 相棒たちは頷きあい、目当ての人物を探すため、会場のあちこちへ散っていく。





■参加者一覧
/ エルディン・バウアー(ib0066) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 霧雁(ib6739) / サライ・バトゥール(ic1447) / 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476


■リプレイ本文




『すごく悪い予感がします…』

 主人であるリィムナ・ピサレット(ib5201)へ置き手紙をしてきたことは正しかったと、相棒人妖のエイルアードは思っていた。
 モノコミ会場に到着してわずか十分、気分は既に遭難者。

「消しゴムがコンパスから針でめった刺しにされて端が欠けるほどボロボロにされるとか、滾る」

「布巾が雑巾の汚れた布地を包み込むとか…イケメン過ぎるわ」

「わたしはソフト路線がいいなあ。晴天のもと洗濯挟みに挟まれて満天下にさらされるシーツとか」

 どうしよう皆が何を言っているのか分からない。
 でももしかして分からないのは僕がおかしいのか? 
 僕が間違っているのか? 
 疑心暗鬼に取り付かれそうになる彼を救ったのは、エルディン・バウアー(ib0066)の相棒羽妖精、ケチャの一言だ。

「無機質同士、ありだと思いますわ。でもワタクシは擬人化させないと萌えませんわ」

 妖精界では名の知れた売れっ子同人作家の彼女が言うなら、ひとまずそっちの考えがスタンダードなのだろう。

「なんじゃこりゃ…」

 霧雁(ib6739)の相棒猫又のジミーは本を立ち読みし、しかめ面。
 団地妻の火遊びとかいうタイトルのがあったので、さては一般ものも紛れ込んでいるのかと興味をもって開いてみたら、マッチ箱から取り出されたマッチが火をつけられているだけだった。
 団地妻、手だけの出演。
 サライ(ic1447)の相棒羽妖精レオナール――通称レオナと、もふらのスーちゃんが横からのぞき見する。

「内容的に偽りはないわね」

「むー。確かにギリセーフでちかな」

「そうか? 俺ならこのタイトルで本買わされて中身がこれだった日には、返金させるぜ間違いなく」

 鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)の相棒羽妖精、ビリティスが飛んでくる。

「おーい皆、それっぽい奴いたぞー。向こうで何か売ってる」

 一同彼女が案内するブースまで行く。
 確かにオバン先生。
 群がるお客は(この場にしては)多い方。
 ケチャが早速展示物に目をつけた。

「天儀×アル=カマル本は新しいわね。ちょっと見てみようかしら…」

 憚りながら無機物萌え転化の才を持つ彼女、儀の擬人化によるBLも描いていたりする。最近は軍人気質のジルベリア君をゆる気質の泰国君が翻弄するという筋書きがお気に入りだ。
 しかしそんなプロ思考の持ち主でさえ、萌え道の異次元的深淵、モノ愛スペクタクル活劇にはついていけなかった。数ページめくっただけで敗北を宣言する。

「ごめんなさい、レベルが高すぎて理解不能ですわ」

 冷たい汗を額から拭い、いざ始まる直談判。

「えーとオバン先生? 無機質では弾む筋肉、ほとばしる男臭い汗、熱い息遣い、力強い指、搾り出すような声、これが無いじゃない。どうやって萌えるのよ。絵や文章から感じる五感が完全に抜けてますわよ」

「分かってないわね…それはBLとして最も安易で陳腐で使い古された表現でしかない…私はそういったものには与さないわ。形而上的表現による新たな地平を目指すのよ!」

「BLの醍醐味を無くしてはBLとは言えないわ!」

 口論を前にビリティスは、エイルアードに耳打ち。

「よくわからねーけど、煮詰まり過ぎておかしくなってんじゃね? この先生」

「…まあ、お疲れなのかなとは正直思わなくもないですけど」

 同意を得たのでオバン先生の後頭部へと回り込み、右腕を振り上げる。

「ならこいつで正気に戻す! 斜め45度・改!」

 あわやチョップが放たれかけたが、ジミーが大急ぎでオバン先生の頭に飛び乗り、白刃取り。

「馬鹿、カタギに相棒が手出すと死ぬぞ! このオバハンお前の主人みてえに合金仕立てじゃねえんだから!」

「誰がオバハンじゃ!」

 髪を乱し不埒な相棒たちを追い払うオバン先生。
 スーちゃんが仲裁に入る。

「まあまあ落ち着いてくださいでちオバン・ザ・グレートティーチャー、略してOBANG。新たな地平などオバンたまのほか誰にも見えないことをどうか分かって欲しいのでち」

「帰れ動物!」

 余計荒ぶってしまった先生。
 成り行きでエイルアードが謝り倒す。

「すいません、本当にすいません。悪気とかはないんです本当なんです、すいませんすいません」

 レオナも加勢に入った。

「…試しにおねショタとか描いてみない? 駄目?」

「ふ…そんなものはもうやり尽くしたわ。今更興味など覚えないわね」

 業界用語が分からないので、会話に戸惑うエイルアード。

(おねしょた? おねしょならここの所、リィムナは毎晩してますが…それと何か関係が…)

 噂をすればなんとやら効果で、当のリィムナがやってきた。霧雁、エルディン、テラドゥカスを引き連れて。

「やっほー! どんな感じ?」

「もう解決したでござるか?」

「だといいのですがねえ…」

「なあに、うまく行かぬときは、ふはははは! わしの力を思い知らせてくれるわ!」

 そこでレオナが、オバン先生を更生させる大胆な抜本的解決法を思いついた。

「こじらせたあげく明後日の方向に行ってしまっているのよね…なら、BLの良さを思い出させるのがいいわ。基本に立ち返らせるのよ」

 まずまず常識的な意見だと思うので、相棒たちは皆首を縦に振る。
 特にケチャ。

「そう、人と人との触れ合い馴れ合い傷のなめ合い絡み合いにカムバックしていただくのですわ。で、具体的な方法はいかにお考えですのレオナール様?」

 レオナはバサッと髪をかきあげポーズを決めた。

「もちろん、目の前で実演よ♪ エイルきゅんと」

 愛らしい人妖を指名した後辺りを見回し、どうしたもんかねえと顔を洗っている猫又に指を突き付ける。

「ジミーさんがね♪」

 名指しされた両者の声が重なった。

「…ええっ!?」

「…は?」

 エイルアードがまず席を立つ。危機感を覚えて。

「冗談じゃありません! 僕帰りま…」

 その前に颯爽とビリティスが立ちはだかる。

「ここは通さん!」

「ちょっ、なんで進路妨害するんですかあ!」

「えー、そりゃ面白いから。何事も経験だろ?」

「止めてくださいよ僕の貞操かかってるんですよ!」

 一方ジミーも全然乗り気ではない。

「俺は猫又で雄だぜ?」

 近所の雌猫ならともかく何故同じ雄。しかも人妖。性別も種族も合わないではないか。
 その意味のことを猫語で喚き、プイと横を向く。

「そんなん御免だ…」

 ここまでの展開は予想済みのレオナ。
 あわてず騒がず中年猫又に投げキッス――もちろん精霊力をありったけ上乗せして。

「えいっ♪」

 続けて妖しいお薬入りのミルクが入った哺乳瓶をちらつかせ、囁く。

「ジミーさんオ・ネ・ガ・イ。コレ飲んでヤっちゃって♪」

「貴女の言う事なら何でも聞きます♪」

 キリッとした顔でミルクを飲んだ猫又は、たちまちのうちに毛を逆立てた。

「うおおっ!」

 全身の筋肉が膨張しまずいところも膨張しているのだが、あいにく脂肪という良心に守られ見えない。
 足止めを食らっていたエイルアードによだれを垂らして近づき、セクハラ親父みたいなことを言い出す。

「…俺のここ見てくれ。どう思う?」

「す、すごく大きいです…」

 腹が。
 そう続けようとしたが、相手の目の血走りように危険を感じ背を向けるエイルアード。
 そうするのが後もう少し早かったなら、以下のようなことも起きなかったのに。

「もう辛抱たまんねえんだよっ」

「…アッー!」

 背後から飛びつかれ前のめりに倒れるエイルアード。
 思い切り出された爪が背に食い込む。おまけに首筋を噛んでくる。
 なにしろ猫だから。

「痛い痛い! やめてぇええ!」

「てめぇいい声で鳴くじゃねえか!  益々サカってきちまうぜ!」

「あっ、そ、それだけは許していやあああああ!」

「…んなああああご!」

 大変ひどいことが行われているような感じもするが、危険部位は腹のたるみがガード。全く見えず。
 正直大きめの猫が少年の背中に乗ってるだけと強弁出来なくもない。いやそれにしては激しい動きをしているが。
 とりあえずレオナは大興奮。

「やぁん♪ 獣■よ獣■よぉ〜♪ 動物型相棒×人型相棒もいいわね♪ 次のカタケはこれが来るわ!」

 ケチャもむろん同好の士として盛り上がる。
 どこからともなく取り出したスケッチブックに素早くデッサン。

(ケモっさんと少年…美味ですわ)

 次のカタケにはこれで一冊出そうなどと、不埒なことを考えている。
 スーちゃんは助ける素振りも見せず言った

「これ相棒同士じゃなかったら即通報ものでちなあ…」

 いきなり始まった一大ショーに当然会場の人々も釘付け。
 モノ愛にあふれる人々ではあるが、だからといってそれ以外を受け付けないということでもないようだ。
 オバン先生も席から身を乗り出している。
 そこにがやがや女学生たちが。

「先生、異次元から帰ってき…いやああああ! 何これ何の御褒美!」

「少年がっ、ケモノにっ、乗られてるっ!」

「うそっ、モノコミってこういう催しあんの!?」

「だったら私毎回来るわ!」

 黄色い声の大合唱――人は獣だ。特に年頃の女子の一部は。
 ジミーがぴたりと動きを止めた。

「…ふう」

 やりきった顔で彼が背中から降りるとき、エイルは最も大きな悲鳴を上げた。

「ぎゃおおおおん!」

 理由は猫の身体的特徴に由来するものなのだが、ここでは説明を省く。

「ひどいです…ぐすん…もうお婿にいけない…」

 床に伏したまま泣き濡れる人妖少年。
 リィムナはそんな彼の肩を抱いて優しく言った。

「大丈夫だった?」

 主人を心配させまいと気丈に頷くエイルアード。

「…うう、はい…なんとか…」

 それがそもそも間違いだった。

「じゃあまだやれるねっ♪ 一杯お客さんいるんだし、さぁ、エイルくんももっとサービスサービス♪」

「えっ、い、いやあああああやめて壊れるううう!」

 ビリティスは乱痴気騒ぎそのものにはあまり興味がない。オバン先生の薄い本を読んでいる。
 展開と台詞があれだが、それさえなければ手に汗握るカタストロフ。巨大な儀の重量やら質感やら衝撃の激しさやら実によく描けている。
 そこを確認して作者に顔を向けると、興奮で曇ったメガネを拭いているところであった。

「…やっぱさ、表現者として読んでくれる読者の声に応えるべきだと思うんだ。BL、嫌いになった訳じゃねえんだろ? さっきからすげえかぶりつきだし」

「そっ、それは勿論…でも常に新しい道を求めなければ。似たり寄ったりな記号と化した無個性なキャラクターから構成される焼き直しに過ぎないストーリー…それでは駄目なのよ! 怠惰に埋もれていてはこの業界の発展もないし進歩もないのよ! いえ、むしろ後退して行くのよずるずると!」

 熱く語る先生。やや気圧されるビリティス。
 ごろ寝するスーちゃん。

「腐のみなたまがBLに求めるものって、まさにそのありきたりな展開以外何もないはずでちが。オバンたまはしなくてもいい努力をして周囲を苦しめていると思うのでち」

 霧雁もごろ寝。

「拙者もそのように思うのでござるグレート・ザ・オバン殿。時代を越えて最後に残るのは黄金パターンであることを今一度思い出していただきたいのでござる。漫画は不特定多数を喜ばせてこそなんぼでござるぞ」

「お黙り!」

「まあまあ、何にしても努力って悪いことじゃないと思うせ。それに…あんた、こんなスケールのでけぇ漫画描くだけのアイデアと技術あるんだから、BLやりながら少年向け冒険活劇とか描いてみたら? きっと、すげぇ受けると思うぜ♪」

「おお、それはいいアイデアでちなビリティスたん。あふれる探求心は是非とも別の方面に生かすべきでち。なら誰も不幸にはならないでち」

「そうそう。ファンも沢山できるさ! 応援すっぜ♪」

 とりあえず自分は少年格闘家が武道会で必殺技を連発し、アヤカシをバタバタぶっとばすようなのが読みたい。
 ビリティスがそう注文をつけているところ、サライがやっと現場に来た。

「すいませーん、遅れちゃいました!……うわあ…」

 どこから手をつけたらいいものやら。
 思案を始める彼のもとに、レオナが飛んでくる。

「あ、サライきゅんも実演して♪」

 実はかくかくしかじかでと説明し、もう一度言った。大事なことなので。

「実演して♪ ほら向こうではジミーさんとエイルきゅんがあんなに頑張ってるでしょう♪」

 サライは普段至って常識的な子である。

「…え、でもっ」

「実演かぁ。サライ君頑張れ♪」

 しかしリィムナから魅了コンボをくらってしまえば。

「サライ君…いけない子でござるな…」

 しかもノリノリで流れに乗り迫ってくる師匠つきと来れば。
 そのようであり続けるのも難しいというもので。

「せ、先生…こんなところで…」

「サライ君…」

 マスクを外すと予想以上に美形。
 そんな男が愛くるしい少年の下顎をくいと上げ、唇重ね押し倒しとくれば、周囲は盛り上がらざるを得ない。

「いやーっ! ガチよガチ!」

「ヤバイですわ、これマジでヤバイですわ!」

「ちょっとアンタ前に立たないで見えないっ!」

 押すな押すなの大盛況。

「ああっ、そ、そんなこと…せんせぇ…僕、もうっ…」

 サライもサライでノリノリだが、そこはそれマナーというかエチケットを忘れてはいない。霧雁も同様である。
 当然だ。忍が己の技に溺れていては仕事にならない。

「サライ君、もうこんなになって…本当にいけない子でござるな」

「あああっ! 出る! 木の葉でちゃいますうう!」

 木葉隠で肝心なところが見えそで見えない演出。これで倫理関係も大丈夫だ。
 ケチャとレオナが叫ぶ。

「きいいっ、もどかしいですわーっ!」

「あともうちょっとなのに角度がっ!」

 オバン先生も。

「くうっ、木の葉が、木の葉が邪魔−っ!」

 エルディンは立ち尽くす。引きつった笑顔で「神よ」と呟く。

「私にどうしろというのでしょうか…?」

 テラドゥカスは貫禄たっぷりに踵を返した。

「わしの助けはいらん様じゃな」

 彼の頭に乗ったリィムナは、鉄琴よろしく棒で頭を叩いていた。

「うわー、大公いい音! 楽しいね!」

 そこへ突如、制服の男たちが入ってくる。

「はーい、全員その場から動かないで! そこのあなたも出て行かないで止まってください!」

 テラドゥカスは彼らを見下ろしながら、横柄に聞く。

「このわしに楯突くとは、何者だ」

 答えは簡単だった。

「警邏です。ご近所から怪しい物音がする、違法行為が行われているようだとの通報がありましてね。見たところ、確かにそのようですな…」

 ふうと息をつき、肩をすくめるビリティスは。

「やれやれだぜ」

 一目散に小窓から逃げた。







 残った会場の人々は(動物も)事情聴取のため全員詰め所に連れて行かれた。




 とりあえずオバン先生は王道に立ち返り、大衆のためのBL路線に戻ったそうである。
 別PNで相変わらずモノ愛を製作し続けてはいるらしいが。