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■オープニング本文 朱藩の首都安州、うららかな昼下がりの大通は、飛び交う店の呼び込みに香具師の口上、大道芸を披露してる芸人の姿など大変な賑わいだ。 朱藩の特徴と言うべきか、若き王の影響と言うべきか、華やかだが保守的な大人からみれば不可解な服装で大通りを闊歩してる若者達の姿を見かける。紺地に杜若を染めた女物の羽織を肩に羽織り煙管片手に歩く男、高く結い上げた髪に藤の花を模した簪をしゃらしゃらと鳴らしながら歩いている女、挙げていけばキリがない。 そんな道行くかぶき者、洒落者に負けない目立つ格好をした娘が三人、開拓者ギルドの脇に立っている。 午前中からこうしていたから、かれこれ数時間此処に立っていたことになる。 一人はまるで空に浮かぶ雲のようにふわふわと髪をまとめそこにいくつもの簪をさしている、もう一人は着物のすそを短く切り、足元は砂漠の民のようなサンダルに色とりどりの石を縫いつけたものを履いていた、さらにもう一人は薄物を幾重にも重ねて袖や裾から様々な色が覗くようにしている。それぞれ統一感のない格好ではあったが、親が見れば「おかしな格好をして」と眉間に皺を寄せるであろう事だけは共通している。それともう一つ皆、手に帳面と筆を持っているのも共通していた。 「ねぇ、今の人どう?」 簪娘、椙乃がたった今ギルドから出てきた開拓者を遠慮のない元気な声とともに指をさしつつ二人に尋ねる。 「黒一色の着流しの裾に流水紋…渋いけどちょっと地味かなぁ?」 舌足らずな声でかくんと頸をかしげたのはサンダルを履いた娘の雛。 「あら今入って行った人の花緒、とても可愛らしかったわ」 二人の会話を全く聞いていないのが薄物を重ねた栗子である。 三人は先程からギルドに出入りする人物を見てはその服装について勝手に批評してるのであった。いや本人達に言わせてみれば『勝手に』ではない。仕事のためだ。 三人は街で流行してるもの、美味しい店などを載せた瓦版を発行してる。その名も『朱藩百景』という。大層な名前だがごく一部の若者のみ知っている、そんな程度のものだ。 今度その瓦版で『発見!洒落者開拓者』という特集を組むことにした。それで現在、その特集に相応しい開拓者をみつけるために開拓者ギルドの前を張っているのである。 「これだ!って人中々いないなぁ」 良識的な大人がその場にいれば「お前に言われたくない」と突っ込みを受けそうだが、椙乃はたいそう残念そうに溜息を吐く。 「あっ!」 「なになに?」 雛が上げた声に一斉に二人が顔を上げた。ちょうど開拓者ギルドから一人の女性開拓者が出てきたところだ。依頼を受けたところか、はたまた依頼の完了を報告しにきたところか。背中に弓を背負った凛々しい顔立ちの女性である。弓も鎧も艶を消した黒、鎧の下に着込んでいる着物は緋色、長い黒髪は何色もの組みひもでまとめ、目元に紅を一刷け。 「あの人素敵だねぇ」 「宵闇をかける漆黒の狩人って感じ?」 「それは一体なんなのかしら?」 「え?瓦版に載せるときの煽り文句よ。そういうの必要でしょ?」 椙乃が得意そうに片目を瞑る。どうからそういう言葉が本気で格好いいと思っているらしい。 「……そうだわ、取材申し込まないと」 栗子は煽り文句を聞かなかったことにした。それに気付いていない椙乃が女性開拓者を追いかけていく。 「すみませーん、ちょっとお話を伺わせてください」 というわけで『朱藩百景』は自薦、他薦問わず、洒落者募集中なのであった。 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
呂宇子(ib9059)
18歳・女・陰
佐藤 仁八(ic0168)
34歳・男・志
蔵 秀春(ic0690)
37歳・男・志
小松 ひよの(ic0889)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●『起せ、大波!伝統の伝道師とは俺の事!!』 開拓者ギルドから少し離れた一膳飯屋、所謂定食屋に椙乃、雛、栗子と卓を挟んでもう一人、茶色の髪から獣の耳を覗かせた少年がいた。 「此処がお勧めの美味い店?」 ぐるりと店内を見渡す。羽喰 琥珀(ib3263)と名乗った少年は好奇心で煌く金色の瞳が印象的だ。 「お惣菜がどれも美味しいの」 椙乃が品書きを差し出す。 女将さんと娘で切り盛りしている小さな店だが、お袋の味に外れはない。 料理の注文を終えると、羽喰は改めて三人と向き合う。 「開拓者の服装について取材してんだっけ?」 羽喰に声を掛けたのは栗子であった。この辺りではあまり見かけない独特の文様の衣が目に留まったのだ。しかも手には朱藩百景、これは運命とばかりに呼び止めた。 羽喰もちょうど店巡りをしていた最中で、美味しい店で奢ってくれるならと取材を承諾した。 「俺の拘りなー」 髪を結っている紐を指で掬い上げる。長い黒い紐の端にはトンボ玉がいくつも通されていた。 万屋などで手に入れた材料で羽喰が作ったものらしい。 「金出せば手に入るものより、こーした普通のものであれこれ工夫したり組み合わせとか考えるのって楽しーだろ?」 その言葉に三人が頷く。 誰もが入手可能なもので個性を出そうと工夫するのは楽しいものだ。 「そうそう工夫するってーならさ……」 卓の上に刀を乗せた。黒と朱の石目塗りの鞘に数箇所布が巻かれている。 「刀ばっかじゃなく、鞘とか色々凝るのも面白いんだよなー」 「これって羽喰君が着てる着物の模様と同じかしら?」 その布に描かれている文様に栗子が気付いた。 あったり、と浮かべた笑顔が料理の登場で更に広がる。 「これは厚司織っていう神威人の衣装なんだよ。俺、この文様が好きなんだ」 襟元を引っ張って鍵括弧を組み合わせたような独特の文様を三人に見せる。 それから箸を手にすると「いただきます」と食事を始めた。瞬く間に皿が空になっていく。 「着てる奴ってあまりみかけねーから、逆にこれ着て歩いているだけでも目立って宣伝になるだろ?」 それで興味を持った人が増えて神威人の作った品が万屋に沢山並ぶようになればいい、と夢も語る。 そこにも三人は大いに頷いた。自分が良いと思ったものを沢山の人に知ってもらいたい、朱藩百景を作った理由と似てるのだ。 ●『善悪併せ持つ鉄線花の如く咲き誇れ』 「開拓者は、見た目に拘るのと性能優先ってのがいるかなー」 店から通りを覗いてあれこれ言っている三人に羽喰が説明してやる。 「なるほど。なら今通った人は前者かなぁ?」 雛の視線の先には赤い髪の狩衣姿の女性。袖や裾が短く詰められた狩衣、腕には狩衣の下の単衣に合わせた布が巻かれ、左右大きさの違う角には紐飾りが結ばれている。 そんな視線に気付いたのだろう。立ち止まった女性が雛へと歩み寄り……。 「私に何か用かしら?」 格子越しに覗き込むと首をかしげた。 「あらま、瓦版の取材とか。何だか面白そうじゃない」 修羅の女性、呂宇子(ib9059)は羽喰と並んで座る。折角だから、と取材を申し込んだところ快く受けてもらう事ができたのだ。 手にした煙管を薫らせ少し考えてから。 「まず思いつくのは狩衣。どんな依頼でもこの格好で望んでるわね。師匠も狩衣姿だったから、私もそれに倣ったんだけど……」 腕を上げて袖をみせる。丁度肘くらいまでの長さだ。 「イマイチ動きづらくて、袖と裾を短くしたの。でも、それだと腕が寂しいでしょ」 そのまま腕を体の前に、三人の視線の高さまで上げる。 「だから布を巻いたのよ。単衣や帯と合う色にしてみたわ」 その腕が更に上がり、大きな方の角に巻かれた飾り紐に触れた。 「これは故郷の風習で、『旅先や戦場で道に迷っても、この紐を頼りにふるさとへ帰ってこい』って願いが込められてるんですって」 服装に合っていることもあり、いつも角に巻いているらしい。 「その煙管の羅宇に描かれているのは鉄線花?」 雛が煙管を指差した。 「えぇ。そうね、最後はこの煙管。母親からの贈り物よ。これも肌身離さず持ってるから、服装の一環みたいなモノよ。鉄線花の花言葉って知ってる?」 煙管を三人に見せつつ唐突にそんな質問をする。三人は顔を見合わせた。 「『精神的な美しさ』『旅人の喜び』『たくらみ』とか、良いも悪いもまぜこぜ……」 一度言葉を区切ると少し視線を遠くに投げる。 「母さんがどういう想いでこれを渡してくれたのか、いまだに分からない部分もあるけど……」 良い意味で鉄線花の煙管に見合った人物になりたい、と言ってから呂宇子は苦笑を浮かべた。 「なんか、私の拘りって故郷や家族につながったモノが多いわねえ」 順調に皿の山を築いていた羽喰が「ごちそうさん」と笑顔で帯のあたりを叩く。 「思ったんだけどさー。折角面白そうなことやってんだから、例えば主題を設けて、それに沿った衣装や小物を特集したりとか、もっと色んな奴に見てもらえるよーに工夫したらどーだ?」 皿の山に顔色を失っている三人に羽喰はそんな提案をした。服装でもなんでも工夫をするのが好きなようだ。 「これが朱藩百景ね。うん、覚えた」 呂宇子は羽喰の持っていた朱藩百景を捲る。 「発行されたら必ず読むわ」 二人と別れた後、三人は通りでの取材を再開する。少々懐が痛い。 ● 一膳飯屋から出てきた三人娘を見ている者がいた。小松 ひよの(ic0889)である。 黒い短い髪の上でピクピクと動く灰色の獣の耳。その様子は気になるものを見つけた犬のようだ。尤もそれを本人に言えば「ボク、本当は狼なんだー」と返されることだろう。 「なにしてるのかな? なにかあるのかな?」 朱藩の首都まで遊びにきた小松は、午前中から開拓者ギルドの前でなにやら盛り上がっている三人が気になっていた。 「気になるなあ、気になるなー」 少しずつ遠ざかっていく背中を眺める。うずうずと尻尾が落ち着き無く揺れる。 「えーい、もう話しかけちゃえ!」 両手を握り締めそう決心すると、三人めがけて駆け出した。そして丁度真ん中を歩いていた椙乃の背中に抱きつく。 「お姉さんたち、楽しそうですー。どうしたんですか?」 「きゃぁあ」 小松の声と椙乃の悲鳴が重なった。 椙乃に軽く説教を喰らった後。 「なるほど、お洒落さん探しってことですかー」 とっても楽しそうと盛大に尻尾を振る。 「ボクも着いて行って……」 「洒落者探しか。自分も混ぜてもらおうじゃないの」 そこに男の声が割って入る。何時の間にやら四人の背後に黒髪に何本か簪を挿した小柄な男、蔵 秀春(ic0690)が立っていた。 「綺麗な色です……」 「素敵な模様です」 小松の漏らす感想は素直で可愛らしい。その小松がしきりに自分の格好を気にしている。 どうしたのかと問う雛に対して、紫の袴と紺の陣羽織、それに髪も耳も地味だというのだ。 「結構適当に選んじゃいましたから。あ……でも」 と腰の胴乱を手に取った。 「この胴乱はとっておきなんですよー」 革の表面には龍の鱗を模した柄。基部に飛龍の装飾が施されている短銃に合わせたのだと語る表情はとても嬉しそうで、聞いてる雛も笑顔になる。 「そういえばあんたの簪見せてくれないかい?」 簪職人の蔵が椙乃に尋ねた。 「玉簪は使いやすいし手ごろだねぇ。自分もよく作るよ」 椙乃を近くの甘味処の床几に座らせると簪を一本ずつ確認し、それから少し離れて全体を見る。 「そうだねぇ、しいて言えば、髪型に捻りを加えたほうが椙乃さん、あんたの顔立ちに映えそうなんだが、どうよ?」 そう言われればやってもらうしかない。蔵に髪を弄ってもらうことにした。 蔵の手によりふわふわと落ち着きの無かった髪が耳の後ろに後れ毛を垂らした大人っぽいものへと変わる。 「どう?」 顔を上げた椙乃の視界に不思議な色合いの紗のようなものが横切った。 ●『白き天女―それは魂の簒奪者』 五人の前を一人の女性が涼やかな鈴の音とともに通っていく。肩と背中が露出した体の線を強調するかのような白い衣、そこに浮かび上がる鳳凰は今にも翼をはためかせ空高く舞い上がりそうだ。そして両腕に通された不思議な長い布。背中に垂らされた部分が彼女の動きに合わせ、ふわりふわりと舞い、まるで天女の羽衣を思わせる。 「へぇ、いいねぇ。見目麗しいじゃないの」 蔵が呟く。その美しさに思わず見送ってしまいそうになった三人が慌てて女性を引き止めに走った。 「瓦版での洒落者自慢だなんて、朱藩ではなかなか楽しい事をしているのですねー」 この斑鳩(ia1002)という女性、笑うと幼さの残る顔立ちのせいかとても愛嬌がある。 「天女さまみたい」 小松の言葉に斑鳩が照れたようにはにかんだ。 「えぇ。でも私は天女ってほど綺麗でもないですけどね」 謙遜を、心の中で三人娘がほぼ同時に叫ぶ。 斑鳩の身に着けている衣装は『チーパオ』と呼ばれる泰国の民族衣装。民族衣装というわりには着る者を選びそうだが。 「あとは……」 爪先が軽く地面を叩くと、先程も聞こえた鈴の音がする。足首に巻かれた繊細な金色の鎖、そこにどんぐり型の鈴が連なっていた。それが彼女が動くたびに涼やかな音を立てるのだ。 「そして、欠かせないのは神器『牌紋』です」 耳慣れない単語に三人娘は首を傾げる。 「なにやら不思議な材質でできてるのです」 両腕にかけた布を右にヒラリ、左にハラリと揺らす。そのたびに炎が花弁のように舞い斑鳩を彩った。その光景に通りを行く者も足を止める。 「これは身に着けるといつも以上に歌とか舞踊とかが上手になる優れもので……」 説明をしていた斑鳩が周囲の注目が自分に集中してることに気付く。 「あの……」 一歩踏み出した椙乃が熱っぽい瞳を斑鳩に向けた。その瞳は「ぜひ見たい」と語っている。示し合わせたように通行人が通りの端に寄った。 シャン…… 鈴の音が響く。 シャン……シャン、シャン…… 彼女が足を滑らし軽やかに手を広げるたびに羽衣が舞い、炎の幻影が踊る。揺らめく炎の緋が白い衣に映え、鳳凰に命が宿る……そんな光景に一同が息を飲んだ。 斑鳩がその場から去った後も、暫しの間、皆魂を抜かれたように呆然としていた。 我に返った三人が今日はもう取材を終えようかと話し始めたころ、蔵が驚きの声を上げる。 「ほう、こいつぁまた、派手な御仁だね」 ●『大馬鹿野郎? そいつぁ結構。 傾奇はあたしの生き様よ』 通りの向こうからやってくる大柄な男。派手な単衣に、腰には金色絵を施した丸い板金を連ねた飾り帯、肩にかけた羽織は紗綾形の地紋に炎を模した文様で襟元には真っ白い毛をあしらっている。頭で揺れるのは二本の鼈甲簪に紅玉と紙垂の付いた銀の平打簪、紅玉と金輪の付いた銀の棒差し髪留。そして靡く黒髪に一房だけ混じる朱。 時折瓢箪から酒を煽りつつ、道の真ん中を堂々と闊歩する姿は斑鳩とは違った意味で注目を集めていた。 娘三人で声をかけるには少しばかり怖いと尻込みすれば、蔵がその男に近寄っていく。 「自分は簪職人なんだけどね。ちぃとばかし、屈んでもらえっかね」 簪が見たいと。簪職人として男の簪が気になったのだろう。 唐突な申し出にも関わらず「構いやしねぇよ」とその場に屈みこもうとした派手な男と蔵を三人が慌てて床几前まで引っ張ってきた。 そして取材について説明をする。床几に腰掛け、うんうんと話を聞いていた男は膝を打ち胸を張る。 「おうおう、あたしの拘りが見てえなら、好きなだけ見ねえ」 佐藤 仁八(ic0168)、言葉も身振りもなにかと大仰な男であった。 「……見事な一品だね」 唸るように搾り出された声。鼈甲簪に視線は釘付けだ。右が鹿で左が馬。その細工の素晴らしさに、蔵の喉は思わず鳴りそうになった。これに反応しない簪職人なんて嘘だと、と言ってもいいほどだ。 「自分も鼈甲が扱えないわけじゃぁない」 と前置きしてから、だがよ、と続けた。 「佐藤さんの簪ときたらどうよ。継ぎ目が完璧にわからねぇ」 鼈甲を継ぎ合わせる際の熱や力などの微妙な加減は、経験でのみ培われていく職人秘伝の技術だ。元々一枚であったかのように見えるこの簪は職人の粋と技が結集された一品である。 「こいつぁ……」 言葉にならない。どの角度から見ても丸み帯びた光沢に継ぎ目はない。 「いいもんを見せてもらったよ。あんがとさん」 一通り簪を見た蔵が足早に去っていった。 「こいつぁ、自分も負けてられんね」 佐藤の簪に職人の魂が刺激されたようだ。 「そういえば、羽織りも馬と鹿なんですねー」 小松が羽織に描かれた馬、鹿を指摘する。位置は簪と同じ右が鹿、左が馬だ。 「二組の馬、鹿……?馬、鹿重ねて……」 閃きました、と言わんばかりの勢いで椙乃が手を上げた。 「その心は大ば……ふがっ」 慌てて雛がその口を塞ぐ。 椙乃の言わんとしたことを察した佐藤が呵呵と笑った。 「大馬鹿野郎たぁ、あたしにとっての褒め言葉ってぇもんよ」 立ち上がると、羽織を翻し背を向けた。そこには朱で『謂鹿為馬』の四文字。 「背にもこの通り、右に謂鹿、左に為馬。ここも、右が鹿、左が馬てえわけだ」 今一つ意味を飲み込めていない様子に親指で背を示し、朗々とした声で続ける。 「鹿を謂いて馬と為すような野郎、つまるところ権勢だの脅しだのにびびって言いてえことを言えねえような野郎にゃなるめえとな」 背負った文字は佐藤の心意気の現れだ。 「世間が馬と言おうが、こいつぁ鹿だとあたしが思や、鹿だと堂々言ってやろうてんでな。こんな恰好をしてんだ」 再び四人へと向き直る。 「事程左様に、あたしの傾奇てのぁ見てくれじゃあねえ。根っこぁここでえ」 佐藤は拳で胸を叩く。ドンッと音が響くほどの強さだ。しかし二本の足でしかと大地を踏みしめる男の体は揺るぎもしない。 「ここに一本筋が通ってりゃあ、褌一丁でも傾いてられんだ。覚えときねえ」 そう言うと袴に手をかけ「見せてやろぉか、あたしの傾奇てえもんを」と悪戯小僧のような笑みを浮かべる。 当然三人に止められた。 ● 夕暮れ時、取材は無事終了。 楽しかったが疲れた、と三人と小松はへたり込んでいる。 「ボクもお洒落してくれば良かったです」 小松が「よいしょ」と勢いつけて立ち上がると、三人を見た。 「お姉さんたち、朱藩百景頑張ってくださいね」 頭を下げ、通りを走り出していく。そして少し先で振り返えった。 「いつかまた、ボクのことも取材してくださいね。またですー!」 笑顔で大きく手を振る。 三人も口々に「またね」と手を振り返した。 朱藩百景、開拓者特集号は好評を博し発行以来最大部数が売れたことをここに追記しておく。 |