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■オープニング本文 ● アヤカシの一撃を喰らって開拓者が派手に後ろに吹っ飛んだ。そのまま玉砂利を撒き散らしながら転がり地面に伏す。倒れた者を庇おうと仲間が駆け寄り、人の背丈ほどある紫陽花の影に隠れるアヤカシと対峙する。 開拓者が立ち上がろうと腕に力を込めるが途中で崩れ落ちてしまい中々立ち上がれない。 「あぁあっと!お化けマイマイの一撃がアジサイダーに…!大丈夫か?!立ち上がれるか、アジサイダー!!」 そこにちっとも緊迫感がない明るい元気な声が響く。 アヤカシと開拓者の周囲は縄で区切られており、縄の外側には人だかり。先程の声の主である少女は、紙を円錐状に丸めたものを口にあててもう一方の手を振り上げた。 「駄目だ、立ち上がれない。アジサイダーに危機が迫るぅう!」 ゆらぁりと紫陽花の影から現れたのは紫陽花と同じほどの背丈のカタツムリに良く似たアヤカシ。此処では『お化けマイマイ』と呼ばれている。縄の外から開拓者とアヤカシの戦いを見守っていた子供達の「ゴクリ」と息を飲む音が聞こえた。何かきっかけがあれば泣き出しそうな緊張感が漂う。その緊張感が最高潮に達した頃合を見計らい先程の少女が息を吸い込んだ。 「さぁ、良い子の皆、アジサイダーに力を分けてあげて! せーの…頑張れ、アジサイダー!」 「がんばれぇ、アジサイダー!!」 少女の声に子供達の必死な声が唱和する。中には握った拳を必死に振ってる子供の姿も。 「俺達は負けないっ」 子供達の声援に後押しされるように、倒れていた開拓者が立ち上がる。一際大きな歓声が上がった。 ● 少し離れた場所で初老の男が嬉しそうに目を細めその歓声を聞いていた。白髪交じりの髪を一つにまとめて、薄い紫の着物に白い狩衣姿、彼はこの神社の宮司、名を相生と言う。そう此処は神社であった。相生がいるのは社務所だ。 理穴の西にある地方都市に存在し、元々は敷地は広いがさして人の来ない目立たない神社であった。そのため先々代の頃、未曾有の経営危機に陥ったことがある。それを乗り越えるため先々代が「何か名物を」と、一発逆転を賭け敷地内に沢山の紫陽花を植えたのだが、これが大当たりし毎年紫陽花の時期になると見物客で賑わうようになった。そして何時の間にやら『紫陽花神社』として親しまれるまでになったのだ。 現在紫陽花まっさかり、この神社に一年通して一番人がやってくる時期だ。境内には茶店に出店も並びちょっとしたお祭状態である。 相生が障子を開けて歓声が聞こえてくる方へと視線を向けた。此処からでは見る事はできないが盛り上がっているのはわかる。 「今年も賑わっているようで何よりです」 相生の言葉に禰宜が頷く。 「えぇ、毎年この時期になるとこれを楽しみにしてる子供を連れた家族もきますしね」 『これ』とは先程の開拓者とアヤカシの戦いを指す。紫陽花神社は神社だというのに立地条件が悪いのか、短い期間に人が集まりすぎるのがいけないのか、それとも神域だというのに商売根性を出してしまっているのがいけないのか、何故かこの時期になるとアヤカシが発生するのだ。 最初のうちは参拝客を避難させて対処していた。しかし頻繁に発生する上に、たいして強くもない低級のものばかりであり避難誘導のほうが時間がかかってしまう。更にアヤカシが現れる神社として参拝客も大幅に減少してしまっていた。 再び迎えた経営危機。そこで試しに開拓者のアヤカシ退治を見世物にしたところこれまた大当たりした。子供という新しい客層を掴む事に成功したのだ。 ちなみにアジサイダーというのは一般公募で決まった名前である。正式名称「開拓戦隊 アジサイダー」という。 「そろそろ紫陽花も満開になりますかねぇ」 「となるともう少し開拓者さんのお力をお借りしたいところですな」 発生するアヤカシの数は参拝客に比例する。これからいよいよ紫陽花の最盛期に入り、来客数も右肩上がり。となってくると、今雇っている開拓者だけでは足りない。 「えぇ、できれば皆さんを盛り上げてくださる、芸達者な方々だと良いのですが……」 |
■参加者一覧
悪来 ユガ(ia1076)
25歳・女・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
猿養 吉兆(ib3995)
18歳・男・シ
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
春風 たんぽぽ(ib6888)
16歳・女・魔
楠木(ib9224)
22歳・女・シ
天翔丸(ic0417)
20歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●控え室 猿養 吉兆(ib3995)は緩む口元を隠しきれない。紫陽花神社で行われるショーの配役が両手に紫陽花ならぬ花なのである。 猿養はアジサイダー役であり、仲間は可愛らしい水月(ia2566)とナイスバディな楠木(ib9224)。 もう俺自身盛り上がっちゃうぜ……なんて考えていたら鼻の奥がツンとしてきた。 慌てて鼻を押さえる。流石に正義の味方に鼻血は似つかわしくない。 水月はそんな思惑など知らずに難しそうな顔で考え込んでいる。 楠木は春風 たんぽぽ(ib6888)とちょっとした芝居の打ち合わせ中。 「敵を助けるっていうのも中々のみどころだよねぇ」 頷く春風の面持ちは少し緊張している。仲の良い友達同士だが、アヤカシ退治にショーも楽しめて一石二鳥、とはしゃぐ楠木に緊張をしてる春風は対照的であった。 そして奥には狸と……。 「カッコウだ」 天翔丸(ic0417)が言う。 「なるほどなのだぁ。隼とはちょっと違うと思ったのだー」 狸のような格好をした玄間 北斗(ib0342)が納得と頷く。天翔丸の着ぐるみは本来はやぶさなのだが、改良が加えられていた。 「なんでカッコウなのだ?」 首を傾げる玄間に「カッコウは六月の季語だ」と言ってから一拍置き……。 「託卵までする悪い鳥なんだぜ」 と仮面の下でニヤリと笑ってみせる。 そこに神社の職員が現れた。 「皆様、よろしくお願いします」 「水無月逸興、気合で晴れ間を呼び込むぜ」 陣羽織を翻し立ち上がった悪来 ユガ(ia1076)が気合を入れ部屋を出て行く。それに純白のスーツに蝶を模った仮面を着けたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が優雅にマントを靡かせて続いた。 「全力で盛り上げるよ」 そのための仕込みもしてるのだ、と悪来と一瞬だけ視線を交差させ微笑んだ。 ●出動!アジサイダー 四方に張られた縄の中央にからかさお化け二体とそのお供の鬼火が三体。 「悪の栄えたためしなし!六月の天下を華麗に染める、アジサイダー参!上!」 猿養が舞台へと駆け込んでくる。そしてアヤカシの真ん中に躍り出るといきなり……。 「アジサイダーレッドサイクロン!」 空気を切り裂く鋭い音と供にアヤカシが四方に吹っ飛んだ。 「レッドだぁ!!」 赤い髪に真っ赤な陣羽織、まさしくレッドの登場にテンションの上がる子供達。しかし犬養は立てた人差し指を振る。 「華麗にして華麗、アジサイダーレッドパープル」 片手を天に、もう一方を腰に当てての決めポーズ。 「レッドぱーぷる?」 「赤紫のことなのだぁ」 何時の間にやら「あじさいだ〜を応援し隊」と認めた襷をかけた玄間が舞台の端に。 襷は一緒にアジサイダーを応援してるんだよと子供達に、何か遭った時のフォロー役だと親御さんに伝えるための心遣いだ。 「みんな、アジサイダーの登場なのだぁ」 玄間が手を上げると勇壮な歌が響きだす。 「愛を与えるアジサイダー桃、登場っ!」 続いてアジサイダー桃、楠木の登場。小太刀片手にポーズをつけたあと、笑顔で観客を振り返る。 「皆の平和と笑顔の為に、頑張るよー!応援してねー!!」 最後に静々と現れたのは、白から青のグラデーションの美しい帽子に青い紫陽花を一輪飾った、アジサイダー青の水月。歌声は彼女のものであった。 「紫陽花神社の平和は俺達が守る」 猿養の言葉に楠木が小太刀を抜き、水月がコクリと頷く。 「行くぜ、アヤカシ共!」 猿養、楠木が地面を蹴って突進する。水月は二人のサポートだ。 迎え撃つからかさお化け二体、勢い良く広げた傘から飛び散る雨水の礫が二人を襲う。 楠木は小太刀で払い落とすとそのまま斬りつけた。礫が頬を切り裂く事も気にせず猿養はまっすぐ突っ込んでいく。そして八尺棍を叩き込んだ。 猿養の背後に回った鬼火が体を震わせ、火の粉を撒き散らし体ごとぶつかってくる。 楠木はからかさお化け一体を舞台の中心まで誘導すると高らかに宣言した。 「これでお終いっ!」 利き足を軸に、もう一方の足を振り上げ華麗に回し蹴りを放つ。からかさお化けはその場で瘴気となり消えた。 「やったぁ……うあっ、危ない!!」 上がった歓声が悲鳴に変わる。体を膨らませた鬼火が水月に特攻を仕掛けてきたのだ。彼女は鬼火を見つめたまま動かない。 誰もが水月が鬼火にやられた、と思った瞬間、水月が手にした布が翻った。 「わたしだってアジサイダーの一員なの」 布が鬼火をいなす。 「甘くみないで」 そして次に布が舞ったときには鬼火は四散していた。 三体目の鬼火はたった今、手裏剣に貫かれ霧散したところ。観客へと向かったところを玄間の手裏剣に落とされたのだ。 眼前の出来事に驚く子供に、玄間が愛嬌たっぷり首を傾げてみせた。 「たぬきさんは千変万化、不思議もいっぱいなのだ〜」 そこに一際大きな歓声が上がる。 猿養が派手に体を回転させ、からかさお化けに止めの一撃を打ち込んだのだ。ほぼ同時に楠木の小太刀が鬼火を薙ぐ。 すべてのアヤカシを倒し、此処で悪来達の登場なのだが、玄間の聴覚がそれとは別の物音を拾う。 「隠れていてもアジサイダーには通じないのだぁ」 玄間が指さした茂みから新たにからかさお化けと鬼火、そしてお化けマイマイが現れた。 ●登場、悪の華 「水無月決戦、正義の味方が梅雨に花咲く紫陽花ならば、我ら咲きたるは血の雨に咲く悪の華、叩き潰せ野郎ども!!」 迫力のある女の声が大気を震わせる。 姿を見せる悪来と天翔丸。 悪来が不敵に笑えば鋸のような歯が覗く。その身に周囲を圧倒する気を纏い、観客、アジサイダーをゆっくりと見渡した。 「現れたわね、悪の組織!これ以上の悪事は、私たちがアジサイダーが許さないよっ!」 普段世話になっている悪来の迫力に少々気後れした猿養に代わり、楠木が小太刀を突きつけた。その背後で怯えたような視線を悪来達に向ける水月。 「その様であたしらとやり合おうと?」 悪来が鼻で笑う。 「青はさっき僕らを守ってくれたんだ」 子供の声が飛ぶ。水月はその声に小さく頷いた。 「私も負け、ない」 再び場を盛り上げる勇壮な歌をうたいだす。 悪来の背後に控えていた天翔丸が飛び上がり、猿養の前に降り立つ。 「カッコウ怪人・天翔丸、見参」 猿養の棍と天翔丸の爪が鈍い音を立ててぶつかり合った。 悪来はまだあくまで観戦の構えだ。 猿養の助けに走る楠木。 悪の組織が登場しての第二戦、観客は盛り上がる。 鬼火を片付け振り返る楠木の目に入ったのは、客へと向かうからかさお化け。 「いけない」と慌てる楠木の横を、突如地面から生えた蔦が抜けていく。 「そっちじゃありません!敵はアジサイダーです!言う事を聞きなさい…!」 黒いローブに金髪を靡かせた春風が、黒い魔道書、黄金の蛇が絡みつく持ち主よりも大きい杖を手にして現れた。 蔦はアヤカシを絡め取り、そこを間髪入れず水月の闘布が襲う。ぼろぼろのからかさお化けが逃げ出す。 春風が杖を天翔丸と悪来に翳せば、淡い光が二人を包む。 魔法使いの姿に楠木が動きを止めた。 「あれ?敵の魔法使いの子……どこかで見覚えが……ぽぽちゃん!!?」 「私の名を知ってる……貴女は?」 春風が目を瞠る。 「くっきーさん!?まさかこのような形で再会をするなんて……。運命とは残酷ですね……!」 いきなり始まった芝居に大人達がやんやと喜ぶ。 「これは大変!かつての友達同士が敵と味方に別れてしまったのだー……っとレッドパープルが危機なのだぁ」 子供達が夢中なのはレッドパープルと怪人の戦い。お化けマイマイと怪人に挟まれレッドパープル、ピンチである。 猿養の背後でお化けまいまいがゆったりと体を反らす。 「後ろ、後ろー」 子供が手に汗握って叫ぶ。その声に猿養が後ろを振り向いた。 「行け、アジサイダーの足を止めろ」 お化けマイマイが粘液を吐き出したのに合わせて、天翔丸が猿養を指をさす。 間一髪避けた猿養を狙い天翔丸が蹴りを繰り出した。その蹴りを喰らったふりをしてお化けマイマイのほうへと飛ぶ。飛んだ勢いを利用し身を捻って一撃を与えるが、思いのほか殻が堅い。 「どうして悪に手を染めたの!?…」 楠木の悲痛な声。 「今の私は悪に仕える魔女…!昔の私は、もう居ません!」 春風が杖を振る。楠木の周囲の空気が凍りつき、纏わりついた冷気が髪や頬を白く染める。 「……こうなったら、私自らの手で更正させるからね」 楠木が小太刀を構えた。 高く舞い上がった天翔丸の一撃を猿養は棍で受け止め、そのまま弾き返す。天翔丸は後方に二転、三転して着地した。 猿養がお化けマイマイに鋭い突きを繰り出す。罅割れる殻、お化けマイマイは瘴気に帰した。 「次はお前だ」 「面白い、やれるものならやってみろ」 立ち上がった天翔丸が爪を顔の前で交差させる。 「そろそろあたしの出番だな」 悪来が動く。野太刀を手に観客へと近づいていった。 「今日の獲物は……おまえ、だ」 刃をぴたりと向けられた前列の女性が己を指差す。 「きゃ あ」 不吉な笑みを浮かべ向かってくる悪来に、女性は悲鳴を上げた。実は彼女、神社の職員、サクラだ。 悪来の手が女性に迫る。あと一歩のところで空を裂く音とともに悪来の足元に突き刺さった扇。 走り抜けた白い影が、女性を抱き上げる。 風に翻る白いマント、蝶の仮面から覗く金色の瞳に宿る凛々しい光。 「清楚なる紫陽花の香りに誘われて。白蝶侯爵マルキ・ド・パピヨン、ここに参上!」 笑うと白い歯がキラリと輝く。今まで興味なさそうに遠巻きだった娘達の歓声があがる。 女性をそっと下ろし「大丈夫かい?」と微笑む姿に、娘達の「ずるい」という声。 白蝶侯爵フランヴェルは腰に下げた二振りの刀を抜くと、一本を空高く掲げた。 「アジサイダー、正義の力いまこそ見せるのだ!」 そして悪来と対峙する。 白と黒、高まる緊張感。そこに先程、逃げたからかさお化けが二人の間を通り抜け客席に行こうとした。 「邪魔をするなっ」 悪来が吼える。その迫力に動きを止めたアヤカシを二人の刃が切り裂いた。 そしてそのまま二人が切り結び始める。 唸りを上げて襲い来る悪来の刃を二本の刀で巧みに受け流す。かと思えば今度はフランヴェルが目にも止まらぬ速さで刃を繰り出した。目まぐるしく攻防が入れ替わる剣戟は舞いのようだ。 玄間と水月は客席寄りに控えていた。司会である玄間は当然のことだが、水月も子供達に被害があってはいけないといつでも動ける位置にいるのだ。 猿養の蹴りが天翔丸の顎を捉えた。高く舞い上がり、そのまま地面に落ちる天翔丸。「やった」と子供達が喜んだ頃合を見計らったかのように天翔丸の咆哮が轟く。 「うぉおっ」 凄まじい怒気に天翔丸の体が真紅に染まったかのように見えた。拳が油断をしていた猿養の腹にめり込み、今度は猿養が地面に倒れる番であった。 「レッドぱーぷるぅ!」 立ち上がろうとして何度も倒れる猿養を子供達が、泣きそうな顔でみつめていた。 「みんなの声が必要だぜ…!」 「傷付き倒れた仲間に立ち上がる力を……」 水月が軽快な歌をうたいだす。正義の味方が奇跡を起す、そんな期待を抱かせる歌だ。 「アジサイダーに、皆の力を分けてなのだぁ〜」 玄間がアジサイダーと同じ色の編み紐で作られた輪を巻いた腕を天に向かって突き上げた。祈る子供達の顔は真剣だ。 「皆の声援が、この紐輪を通じてアジサイダーに注がれているのが判るのだぁ〜〜。アジサイダー、皆の力を受け取って欲しいのだ」 玄間が腕を舞台に向かって振り下ろした。 「皆の気持ち受け取ったぜ」 猿養が飛び上がる。空中で拳を握りポーズを決めた。あれは……。 「アジサイダーレッドサイクロン!」 猿養と玄間、子供達の声が重なる。 悪来とフランヴェルの戦いにも決着が訪れようとしていた。 悪来が野太刀を手に大きく体を回転させる。受け流すことはできず後退をしていくフランヴェル。しかし後ろには観客が。 フランヴェルは両手に持った刀を十字に組み、襲い来る刃を受け止めた。勢いを殺しきれずに膝をつく。 刃越しにぶつかり合う赤と金。 「はぁっ」 鋭い気合と共に悪来の刃を押し返す。一歩、二歩、後退する悪来に詰め寄った。 「麗技・蝶舞剣爛!」 煌めく切っ先が、幾重にも分れ蝶のよう舞う。 「……ぐっ!」 防ぎ切れず悪来が崩れ落ちた。 猿養の技で吹き飛ばされた天翔丸が春風に迫る。 「ぽぽちゃん、危ないっ」 楠木は咄嗟に春風を庇う。天翔丸は重たい音を立てて地を滑り、止まった。 「見事だ、アジサイダー。好敵手に巡り合えた事、中々楽しかった……ぜ」 カッコウは即ち閑古鳥、それを倒して良い景気を招くというまじないもこれで完成。更にカッコウは呼子鳥ともいう。子供達を呼び込む鳥だ……と喜ぶ子供達を見て満足気に笑う。 悪来が立ち上がる。春風も楠木の手を振り払った。 「花は落ちても、再び咲くが道理。それは悪の華とてまた同じ。いずれ再びまみえようぞ!!」 「くっ…今回はまだ序の口…私たちの力はこんなものでは…!」 二人、紫陽花の影へ。 「さらばだ、また会おう!」 フランヴェルも優雅に一礼すると走り去っていく。 三人が舞台の中央でポーズを決める。 「紫陽花神社に願いを込めれば、アジサイダーはいつだって現れるぜ!またな良い子のみんな!」 舞台は観客の拍手と歓声に包まれた。 ●終演後 猿養と玄間は事務室の前で鉢合わせた。 「どうしたんだ?」 「おいらは相生さんにちょっと用事があったのだ」 玄間は例の紐輪を子供の小遣いでも買える御守りとして販売できないかと、相談するつもりだと話す。猿養も御守りとか人形とかアジサイダーのグッズを提案するつもりだった。 「きっとアヤカシの事を思い出して、夜寝れない子もいるのだ。そんな子も、ヒーローと一体感を持った御守りがあれば安心して寝れると思うのだ」 子供達は笑顔が一番という玄間の笑顔に猿養が視線を逸らす。 「あれ、水月サンじゃねぇ?」 事務室では水月と相生が話していた。 「いくら弱いからってアヤカシで客寄せなんて……良くないと思うの」 水月の澄んだ緑の目でじっと相生を見つめる。公演前から考えていた事だ、アヤカシ発生の原因を調べて祓うべきだと。今日の公演でも何度かアヤカシが客席に向かう事があった。そのたびに開拓者達が阻止したのだが、万が一の事もありえる。 「神社に来てくれた子供達が怪我とか……あってはいけないの」 その真摯な眼差しにたじろぐ相生であった。 その様子を扉の隙間から覗いていた二人が顔を見合す。 「出直したほうがいいみたいだな」 「なのだぁ」 戦闘だけではなく物語も楽しめると、彼らの公演は大盛況であった。 |