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■オープニング本文 ●港某所にて 「主任、グライダーの格納庫の請求書です」 見事に真っ赤な字でうめつくされているその請求書を受け取りため息一つ。 とは小型船や大型船なども製造されているので後ろ向きに考えてはいけない。 グライダーが一つ生産されればやはり前向きに傾く。 しかし、いまいちグライダーの流行具合が悪い。 それに乗り手もまだまだ発展途上中。 そこでぽんと手を叩いて一つ。 「だったらグライダーでのレースでもしてみるか」 「はぁ、どうしてまた」 「うむ、先日の牧場のときにグライダーを飛ばせないと苦情もきたし、格納庫完成の記念で一つな」 と、いいながら話を続ける。 「それでグライダーの購入者が増えればまたそれもよし、乗り手の訓練にも丁度いい」 と言う事でイベントの企画書みたいなものを作り始めるのだった。 ●ギルドにて 夢が港から届いた一枚のチラシを貰って「ほう」と一言。 チラシの内容は「グライダーでの空戦及びレース」と大きく書かれてその下に詳細が書いてある。 で、何故ギルドにこのチラシが届かれたと言うと。 「一番開拓者に目に付くところじゃないですか!」 そう強く言われただけである。 とは言え、夢もグライダーを(勝手に)乗る人物の一人。 こういうのは楽しくてしょうがない。 ぺたぺたといつもの様にチラシを掲示板の角にあわせてぴっちりと張り出すのだった |
■参加者一覧
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
九条・亮(ib3142)
16歳・女・泰
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●特設グライダーレース会場 小高い丘へと港から丁寧に運ばれた開拓者のグライダーが整備用の仮設用テントに配置され、一人一人にそれが割り振られる。開拓者を待つというのことなのでまだ朝は早く港の関係者が準備をしているところに箒を持った巫女が一人。 「ふふ‥‥地の利、天の利を利用するのは勝負の鉄則‥‥」 あまよみを使い、レース場を見渡しながら天候を探り始める。 ――少しして眼を開き終えるとにやりと笑いながら港関係者にコースの話を聞き始める。 「ん、そうだなぁ‥‥まぁ、別に教えちゃいけないわけじゃないし‥‥俺はあんたに賭けているしなぁ」 そういいながら整備の手を止めると地図を広げて話を始める。 「まずはこのスタート位置から平野を直線、渓谷に入ってからは道なりに、道幅狭くなるから気をつけろよ?で、渓谷を抜けた後は湖の上を抜け、森の上を通ってまたここの平野に戻ってくる、一応港の管理地だからアヤカシの心配はいらないぞ」 ぐるっと円を書くように地図の場所をなぞっていき最後にとんとんと叩く。そうして一通りの説明を聞いた水津(ia2177)が眼鏡を光らせるのだった。 そしてもう一人足早に会場にやってきて自分の愛機を整備している新咲 香澄(ia6036)。頬に油をつけながら工具を持ちながら汗を拭う。 「整備不足で負けたら情けないもんね」 一つ一つ各部位を指差し確認しながらしっかりと整備を進めていく。港に管理されているとは言え、愛機なのは変わりない。 「さ、出番だよシャウラ。しっかり整備するから頑張ろうね」 機体を撫でながら工具をしまって頬の油を拭う。 ●コース、スタート位置にて 機関部を吹かしながら各機が横並びに一列に並んでいる。勿論全員がそれぞれの獲物を持っていたり、ばちばちと火花を散らすほどに視線を合わせている。 「さて始まりました、第一回港主催、グライダーレース!実況はこの私と!」 「ギルド嬢の夢ちゃんでーす」 棒読みで自己紹介をしながら続けて参加者の紹介を始めていく。 最初に水津のクトゥグァスター。 次にルオウ(ia2445)のシュバルツドンナー 新咲 香澄のシャウラ からす(ia6525)の舞華 趙 彩虹(ia8292)の翔虎 九条・亮(ib3142)の紫電 朱鳳院 龍影(ib3148)のブレイズヴァーミリオン と、各機が射出機に準備を済ませ合図を待つ。 「解説の夢さん、このレースどう見ますか?」 「そうねぇ‥‥遠距離攻撃の出来るからすが優位に立てるかどうか、グライダーの扱いに長けた朱鳳院が先に飛び出るか‥‥とは言え接近戦には趙が、一撃の大きさでは新咲と水津が怖いかねぇ‥‥」 「なるほど、有難うございます。それではスタート一分前です!」 スタート位置で旗を持った一人がびっと張ったまま秒読みを開始する。 五、四、三、二、一‥‥零と同時に旗が振り下ろされ、一気に射出機からグライダーが飛び出て行く。 「ちなみに最大人気は水津とからすだ、倍率は一と三倍」 と、余計な一言が告げられたと同時に全員が空の戦場へ。 ●空の戦場 轟音と風切り音を発しながらグライダーが飛び出していく。心地よい快音と飛行機雲を流しながらほぼ一列のままに、その中で新咲とからすが徐々に上昇を始め、朱鳳院が二式加速によって突出していく。 「ふん、まずは様子見じゃ」 連続使用によって先頭に飛び出るとそのまま二番手、現状並行しているので朱鳳院以下全て二番手になるのだが。大体百五十〜二百ほどの距離を維持し、一周目を回り始める。相手がどう出てくるかまずは探り探り、そのまま自分の位置を確かめるように動きを始める。まずは渓谷、道幅が狭くなったところに機体を水平にし順番にそこを滑るように通過していく。 「各機様子見ですか、中々慎重に事が進んでいきますね」 「コースを覚えるのもあるだろう、本格的に始まるのは二週目だな。ちなみに今は朱鳳院が一番人気、倍率一と二倍だ」 渓谷を抜け湖の上空に順繰りと飛び出る。日光が反射する水の鏡の上を滑りながら横並びに綺麗に雲を引いていく。そのまま雲を引いたまま湖をぬけると森の上空を飛行する、今のところ順位は変動せずにからす、新咲が二十程上にいる。 「そろそろ二週目、私も動こう」 ちらりと上にいる二人を見、前と横にいる他のを好敵手を見てからゆっくりと最後尾にさりげなく付き始める趙。何時でも後ろから虎の様に食いつく為の準備でもある。 そうして平野‥‥スタート地点を通り過ぎてから各機が動き始める 依然として朱鳳院を追うのは変わらないが、後続機が乱れながら飛び始める。 後ろから撃ち落すのは定石ではあるが射撃武器の優位性が関与している為に、今回ではそれほど強い射撃は無く高射程の攻撃もない。 「おっとぉ!遂に戦闘が始まったようで!」 「まぁ、こればかりはしょうがないだろう」 そういいながら実況席が盛り上がる。ほぼ確実に逃げ切りの状況になった朱鳳院の後ろ。まずはルオウと水津が小競り合いを始める。後ろにがっちりと水津が張り付きルオウが引き剥がそうと機体を振っている。 「攻撃有りとかきいてねぇよ!」 と、悪態をつきながらもなんとか水津の攻撃を避け続けるのだが、逃げるだけの選択肢では到底振りほどく事はできず。 「ふふふ‥‥魔女からは逃げられませんよ‥‥」 眼鏡が照準の様にぎらつき、偏差、距離、予測移動場所、それを瞬時に計算し、箒を前に構えて一息えついてから詠唱。溜まりに溜まった精霊力が一気に放出されてルオウのシュバルツドンナーの後部を吹き飛ばす。 「うわぁぁぁ!」 そのままルオウは落下し救助班に拾われる。その様を横目に水津は朱鳳院を落すべく、追走し始める。 「精霊砲での一撃ですか、凶悪ですねぇ」 「練力的にもまだ余裕があるからな、流石というべきだろう」 救助班に拾われたルオウが治療や修理を受け始めたという報告を受けてから実況もレースも続けられていく。 「戦闘のおかげでかなり順位が変動しますねぇ」 「今のところ朱鳳院、後ろに水津、九条、上空に新咲、からす、最後尾に趙だねぇ‥‥」 平野をぬけて渓谷へ各機が続けて入りながら、趙が動き始める。 「まずは目の前の」 九条とその乗機である紫電に狙いをつける。 「こっちにきたか!」 ちらりと後ろを見ながら趙のまるごととらさんを眺める。本物の虎の獣人とそれを真似ただけ、と言う何とも数奇な巡り会わせだ。 「落ちてもらいます!」 手裏剣「鶴」を後ろから撃ち、主翼を狙う。それを確認し、すぐさまに横転と機首をあげて機体一つ分横にずらしながら螺旋を描き其れを回避する。その後ろでは機体が唸りをあげ、雲を引きながらも趙が何とか食いついている。しかしいつまでも逃げ切れるとは限らない、空戦用の機動を何度もしながら九条が趙を振り切ろうとするが、どうにか其れに食らい付いている。 「しつ‥‥こいね!」 急制動による重力に顔を歪ませながらも飛び、食らい付いてくる趙を引き剥がそうとし続ける。この状況で前に出ていても攻勢に出ない限りは勝つことは難しいのだが、まずは後ろの虎をどうにかする事が今の最重要事項だ。 「空戦とはいえ‥‥狙いは外しませんッ!」 八尺棍「雷同烈虎」をびしっと構えて急加速、何度も動いていればある程度の癖も見切れる。ぎゅっと唇をかみ締め、狙いを一点に集中すると気合一閃。 「天雷百虎箭疾歩!」 機体とのすれ違い様に「雷同烈虎」をぶつけ一撃。機体と口から血と煙を吐き出しながら九条が落ち始める。 「流石ですねぇ‥‥すれ違い様の一撃は見事でした」 「虎対決は中々の見ものだったな、救助班はすぐに現地に」 砂地に突き刺さった紫電と眼をぐるぐるさせた九条を尻目に虎対決に勝利した趙は次の標的に食らい付く為に加速する。 「さて、此処で順位と倍率発表のお時間で!」 「朱鳳院、水津、趙、からす、新咲だな、前から一と一倍、一と三、一と二、一と四、一と三だ」 そんな放送を尻目に新咲が上空から趙と水津を狙い始める。 「ごめんねー、ホンちゃん」 そういいながら上空から一気に降下して趙を捉えながらぴっと一枚符を取り出して投げつける。符から炎が燃え上がり、火輪が趙に向かって襲い掛かる。 「くっ‥‥!」 緊急回避によりそれを回避すると相手をみやる、それと同時に加速をし戦闘機動に入る。 宝珠とは便利な物であっという間に高速まで速度が引きあがる。 「かみちー!」 丁度湖の上でレースそっちのけで戦闘を開始する二人。 「ボクの火輪から逃げられるかな!」 びっと符を構え直して一度すれ違い、湖面を主翼で撫でながら反転。そこから無理やり 機首を上げて高度を取り始める。 「くぅ‥‥逃がさない!」 此方も急反転から加速し新咲の後ろを取り「雷同烈虎」と手裏剣「鶴」を構えながら、追走する。後ろ向きに符を投げつけ火輪を何発も打ち込みながらもう一度高度を上げていく、それを雷同烈虎を回転させて防御をしながら鶴を投げ返す。しかし射程が足りずにいまいち趙は手が出せない、防戦一方のまま、湖の上で火と水を撒き散らしながらも戦闘を続けていく。 急反転、加速、緊急回避、二人とも同じスキルを使いながらいかに相手を落すか考えながら加速、減速、急上昇、急降下、反転、捻りと様々に組み合わせながら常に相手の後ろに回りこみ、火輪と鶴の応酬を繰り広げ続ける。懐に潜れば緊急回避、相手の後ろにつくために急反転、引き剥がそうと加速。はっきり言えば埒が明かない。 「こん、のぉ!」 手裏剣「鶴」を投げつける趙、それを緊急回避で避けるとすぐに急反転で相手に向き直り火輪、それを続けているが流石に練力が切れ始めると、次第に機体に攻撃が掠め始める。加速し一気に接近して一撃、それが二人の勝てるであろう唯一の手段。一度距離を取ってから正面同士に向き直り加速。 「落ちろぉぉ!」 「いけぇぇぇ!」 ごうっと火輪と雷のような閃光が一度交差し、湖の上をゆらゆらと飛び着水、すぐさま振り返ると、向こうも一緒になって水面にぷかぷかと浮いている。お互い、くすりと笑いあうとそのまま救助班を待ちながらのんびりと水面で笑いあうのだった。 「なかなかの死闘でしたねぇ」 「そうだなぁ‥‥これで後は朱鳳院と水津とからすだな」 そう言っていると高速で三週目を回ってきた朱鳳院が上空にいるからすに狙いをつける。今回のレース、ちんたら飛んでいれば負ける上に勝利条件が自分以外を叩き落す事にある。赤い目をぎらつかせながら、弓「緋凰」を構え、撃ちながら攻め始める。機械弓と弓の射程差と言うのは大分大きい、距離と慣れていないと言うだけではあるがそれなりに掠めただけでも並みの弓術師異常に脅威的だ。 「私の後ろに立つな、とな」 すぐさまからすが空中静止をしてすれ違い様に烈射「流星」を射撃、安息流騎射術を使い命中率を上げるが、いかんせん射程と命中の関係、そして攻撃力が不足気味だ。衝撃により朱鳳院が体勢を崩すとは言えそこまで大きくぶられるほどではない、からすのリロードの合間に殲刀「朱天」、長巻「焔」に持ち直し、急反転し二式加速。 「悪いが終わりじゃ!」 からすが急起動をし、戦闘機動へと切り替えるが遅すぎる。空中静止で止まったのが大分まずかった、いくら後ろを取ったとしても動かなければ的だ。朱鳳院のグライダーの機関部が唸りを上げて真っ直ぐにからすへと突撃、そして最適置を使用しての回り込み、真正面に捉えてから一閃。見事に主翼とからすへ斬撃を放ち撃墜する。とは言え、流石に落されるのは癪に障るのか、何とか着地をするからすだった、 「おっと、有力候補も落ちて後二人ですか」 「接近主体の朱鳳院が勝つか、遠距離高火力の水津が勝つかってところだな」 そうして朱鳳院がゆっくりと落ちたからすを見て、次の標的を探すところで横から閃光が一筋高速に飛来してくる。そう、水津の。 「今必殺の眼鏡びぃぃぃむ!」 どうみても手から出ている精霊砲なのだが、細かいところは気にしてはいけない。すぐさまその光を緊急回避で避けると水津のいるほうを確認し緋鳳に持ち直す。水津はというと避けられたのを確認したと同時に回り込みながらその手に精霊力を集約していく。 「ちぃ!流石じゃのう!」 二式加速で距離を取りながら緋鳳での牽制攻撃、距離もありなかなか当たらない、かろうじて当たると思われた矢は精霊砲でかき消されるように吹き飛ばされる。 「落ちろ、巨乳ぅぅぅ!」 気合と私怨と恨みやら辛みの散々こもった三射目、ほぼ確実に朱鳳院の機体主翼を貫いていく。とは言え、空賊で龍王、さらには覇王の妻とくる朱鳳院、ただで落ちるわけはない。加速して接近、そこからさらに機体を足場にして飛び上がると無双での一閃。胴体部分を切りつけてから落下していく。 「ふん、どうじゃ」 にやりと笑いながら先に落ちている自分の機体に着地し、そのまま墜落。水津の機体も流石に堪えたのかよれよれと落ち始める。 「やはり、直撃させて後腐れのないように完膚なきまでに‥‥」 そういいながら自分の胸と落ちていく朱鳳院の大きな胸を見比べる。やはり気になる。と言うわけでもう一発腹いせといわんばかりの精霊砲をぶっぱなし、ダメ押しの一撃。この世の貧しい(胸の)人を代表しての一撃だといわんばかりに。 そうして水津が眼鏡を光らせ握りこぶしを作り、口を三日月にしながら勝ったと心の中でガッツポーズをしていたとか、していなかったとか。 ●全て終わり 開拓者一同の簡単な治療を済ませて、表彰式が始まる。 一位、水津 二位、朱鳳院 三位、からす 以下墜落順にと。 また功労賞やら努力賞やらそういうのを受賞中だ。 そんな中で整備班の各々が各機が中々の墜落具合、損傷具合に頭を抱えたり、掛け金をめぐっての話をしている。 「成功ですかね、今回のこのレース」 「そうだなぁ‥‥中々の好評具合だったし、意外と儲けれると言う事も分かったからな」 掛札をひらひらとみせつけながらにんやりと笑いかける。 「では‥‥次回も開催するんでしょうか?」 そう尋ねてみると一枚のチラシをぺらりと見せ付けられる。 「見てみろ、開拓者の楽しそうな顔を」 表彰台で水津が朱鳳院と胸に関して取っ組み合いをし始めたり、ルオウが機体の整備を手伝っていたり、九条が指で空をなぞりこんな機動をしようと呟いていたり。こちらではからすと趙と新咲が笑いあいながら先ほどの空戦について話している。 「俺達は港で缶詰にされてるが、ああやって機体を動かして、ああやって楽しそうにしてるのが一番だと思わんかね?」 「そうです、かねぇ‥‥?」 そうだとも、といいながら先ほどのチラシをぺらりともう一度見つめる。 ――その内容は第二回グライダーレースの内容と日付の書かれたチラシ。 近いうちにまたやるぞぉ!と開拓者の輪にそのチラシを持ち込むのであった。 |