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■オープニング本文 ●お屋敷にて 何時ものようにおやかた様がごろごろと自室で転がりながら紙を捲って何かを見ている。 どうやら自分が出した依頼に参加した開拓者の此処最近の仕事の成果、と言った所だろうか。 伊達に情報収集に秀でている一族の出ではないと言う事だろう。 さらに追加すればおやかた様自体、結構な名の知れたシノビの家柄もあって、顎で人を使える程。 「ふむー‥‥中々頑張っているようじゃの」 ぱらぱらと一枚の本になるほどの報告書を眺めながらそんな事を呟く。 色々とおつかいやら化け物退治やらと基本的な部分を教えてきたので。 「此処は一つ、力量を測るのもいいかも」 むくっと起き上がるといつもの装束に着替えて、爺を呼ぶ。 最近何かとやる気のあるおやかた様の為に奔走しているらしい。 「ちょっとギルドにいってくるぞ?しっかり留守番するのじゃ」 「わかっております、お気をつけていってらっしゃいませ」 丁寧にお辞儀をしながら涙と鼻血を拭いて、空を見上げる。 日に日に立派になっておりますぞ・・‥!そんな事を言ったとかどうとか ●ギルドにて 「そういうわけで、ちょっと手合わせしたいのじゃよ」 どこから仕入れてきたのか秘密な依頼の成果の報告書を眺めながら夢がうーんと唸り始める。 確かに最近依頼もこなしてきて、仕事に慣れてきているとはいえ、いきなり強敵と手合わせはどうなのかと悩み始める。 「私はいいけどさぁ‥‥ちび助の力量だと自信とかぐらつきそうだし、ねぇ?」 「その辺は大丈夫じゃぞ、之を使う」 ちりんと腰から鈴を取り出し夢の目の前でそれを振ってみる。 少し前に鬼ごっこしたときの鈴のようだ。確かに見覚えもある。 「前は逃げてばかりだったからのう、今回は少し攻勢に出ようと思うのじゃよ、勿論手加減はするつもりじゃ」 「それでも、ねぇ‥‥でも、前にやったときは結構苦戦したし、どうだろうねぇ」 「物は試し、何でもやってみないとわからぬじゃろ?それに、いつかはわらわ以上の強敵と戦う事があるかもしれんしのう?」 机の上に転がる鈴を持ち上げてちりんちりんと鳴らす。 どうしようかと少し考えてから依頼書を取り出して筆を滑らしていく。 「勿論熟練した連中はお断りじゃぞ」 「はいはい、わかってますよ、っと」 あっというまに依頼書が作成される、内容は 『おやかた様との手合わせ、詳細は直接聞いたし』 と、中々の手抜きっぷり。 「相変わらず、面倒な事はやらないのう」 「いいじゃない?わかりやすくて」 煙管を揺らしながら、その依頼書が掲示板に張り出されるのだった。 |
■参加者一覧
風間・総一郎(ia0031)
25歳・男・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
八重坂 なつめ(ib3895)
18歳・女・サ
白銀狐(ib4196)
14歳・女・シ
如月 瑠璃(ib6253)
16歳・女・サ
咲宵(ib6485)
24歳・女・陰
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ
凹次郎(ib6668)
15歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●顔合わせ おやかた様のお屋敷の裏側のちょっと開けた平原、というよりは庭で開拓初心者がおやかた様と顔を合わせる。大体初めてみた者は可愛いとかちっちゃいとか撫で回したり、抱きしめたりとやりたい放題。でもおやかた様は大人なので怒りません。後で本気を出すだけです。 「この歳で家を継いでいるとは、末恐ろしい童でありんすなぁ」 しゃがんでおやかた様を見つめている咲宵(ib6485)がそんな事をいいながら観察中。子供だからと言って油断はせずにしっかりを気を引き締めているのは言わずもがな 「改めまして、サラファ・トゥール(ib6650)です。今回のお手合わせよろしくお願いしますね」 そういいながらおやかた様を撫でくり。「おおぅ」と言いながら黙って撫でられている、おやかた様は偉大な方です。 撫でられているおやかた様はおいておき、屋敷の方から白銀狐(ib4196)がぱたぱたと歩いてくる。いつもおやかた様のお世話で大変になっている爺に手縫いのハンカチを一つ渡してきたようだ。もちろんうれしさのあまりすぐにそのハンカチを使ったというは言うまでもない。 「おやかた様、戦う前に栄養補給なの」 とてとて近づいて豆大福をぽんと一つ渡しておく。おやかた様、嬉しそうにもきゅもきゅ食べます。 「うむうむ、撫でてやろう」 背伸びをして白銀狐の頭を撫でる。残念ながら絶望的に身長が足りないのでしゃがんでいる。そしてこっそりと八朔大福を一つ懐に忍ばせる。 「すいません、細工したりしませんので鈴を見せてもらっていいですか」 んむ?と言いつつ腰帯から鈴を取り外して八重坂 なつめ(ib3895)に手渡す。ちりんちりんといたって普通のものだ、どちらかといえば使い込んでいるせいで傷やら汚れが微妙についている。ともかく確認し終わり、おやかた様に鈴を返すと同じように腰帯にしっかりと括り付ける。 「ふーむ、あたしは可愛い後輩の姿をみて楽しみますかっ」 バサッと敷物を葉桜の木の下に引いてぺたんとそこに座りまったりとしているのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)今回は医療と援護を中心に、手を出さないということで見学。爺がお茶とお菓子を持ってきて隣で広げているので同じようにお茶とお菓子を用意しておく。 「さて、そろそろ手合わせをするとしようかのぅ?」 少し離れたところでとんとん、飛び上がって足を馴らし、腰に罰印に刺さっている刀の向きを微調整し終えると目つきが変わり。 「さぁ‥‥かかってこい、存分に相手をしてやるぞ」 そうして初めての本気を出したおやかた様と手合わせが始める。 ●対おやかた様 「では、お手並み拝見ッ!」 風間・総一郎(ia0031)が喧嘩煙管での一撃、金属部分がぶつかり合いガギンと独特な音を鳴らして受けられる。強く相手へと喧嘩煙管を押し込むがなかなかびくともしない。 「わしは何れ最強にならねばならぬ、こんなところ負けるわけにはいかないのじゃ!」 喧嘩煙管を受けているところの横っ腹を突くように如月 瑠璃(ib6253)が斬りかかる。渾身の力を入れての一撃、前髪を数本散らすだけで回避されたところへ直刀の刃が同じように前髪を数本持っていく。ゾクリと冷や汗が流れて軽く距離を取り、呼吸を落ち着かせる。 「腕試し‥‥というには厳しい相手でござるが」 小剣「狼」を構えて凹次郎(ib6668)がさらに反対側からさらに押し込んでいく。相手の先手を読みながら素早く剣を振るう。ぶれたおやかた様の姿を斬り、手ごたえの無さに違和感を覚えたところに、腹部へと蹴りが入り数歩たじろぐ。流石に音で空蝉の判別は難しい。 「少しは焦ってくれればいいんだけど」 槍「黒十字」で足元を払うように一撃、「じゃ」っと砂を抉る音を鳴らして大きく地面を削り当たらない、他の前衛者もいてなかなかに狙うのが難しい。小出しに、細かく足元を狙って何度も突出し、相手の動きを制限していく。 「流石、おやかた様ですのっ!」 次の攻撃を止めるように手裏剣を投げて、おやかた様の足を止める。ちらりと目があった瞬間に楽しそうな顔で此方を見つめる。どうやら先ほどの八朔大福を狙っているようだ。 「すばしっこい童で、なかなか」 煙管を吹かしてじっくりと相手を見て、隙ができた瞬間に斬撃符を鈴に向かってまずは一発。よくわからないが鎌を持った鋭い腕の蟲が飛んでいき、鈴と腰帯についている紐を一閃。ちりんと一つなった所で斬るには至らない。とはいえ、おやかた様も驚いて咲宵のいる位置を確認して、体制を直している。 「おやかた様は、やっぱり強い方で」 前衛の隙間を縫うようにウィップ「カラミティバイパー」が素早くおやかた様へと飛んでいく。「ぴしっ」と空気を切り裂く炸裂音が響く鋭い一撃をお見舞いしていく。流石に音速を超える一撃は避けづらいのかぴしっと頬に赤い物が流れる。すぐさま踊るように鞭を戻してひゅんひゅん振り回して次の一撃を準備。 「ふむ‥‥大体、わかってきた」 おやかた様と開拓者、中々に乱戦状況で一つずつ開拓者の癖や攻撃方法を観察。早駆による後退で一度開拓者と対峙して、頬の傷をぐいっと拭う。 「おやかた様、強いわねぇ‥‥」 爺にお茶をもらい「ずずず」とそれを啜る。いい感じの熱さと香りと味わいにほんわかと。 「我が玖流滝家最強と謳われていた旦那様と奥様の子ですから。我が玖流滝家は情報が最大の武器、武術は他の分家や宗派より劣っていますがそれを補う為、常に優位に立てる為の情報を取集。戦闘中と雖も相手の情報を収集し、弱いところを突く。その能力が頭一つ飛びぬけているのですよ」 せんべいを渡しながら説明を続けていく。 「おやかた様は血と才能のおかげもありますが、我が玖流滝家歴代最強の「お館様」になれるのは確実でしょう。本当に今のお姿を旦那様と奥様に見ていただきたかった」 先ほどもらったハンカチで涙をちょいちょい拭きながらそんなことを言う。 「ふーん‥‥つまるところ凄いのね」 煎餅をぱりんと割って食べつつ立ち上がり。杖を持って。 「流石に依頼の失敗ってのは嫌だしね」 そういいながら戦列に参加し始める。 戦闘はかなり激しく動き始める。ある程度の相手の情報を収集したおやかた様が前に出て、小さい体を巧みに使って攻撃に回る。 「ちぃ、ちょろちょろと‥‥予想はしていたが、イライラする」 風間が飛んできた一撃を刀で受け、そこから流して腕を狙う。しかし苛立ちもあってか精度が悪く、その隙をもらい鞘での一撃。鳩尾の辺りに鞘がひねるようにめり込み。視界が明滅する。 「っ‥‥!」 二、三歩下がって一呼吸。 「落ち着け‥‥落ち着くんだ」 自分に言い聞かせながら、おやかた様へとさらに攻撃を繰り出し迫る。 「落ちろぉぉぉ!」 常に相手へと回り込み、武天長巻を振りかぶり思い切り振るう。確実に相手をとらえた所でごうっと風切音と地面の破砕音が響く。 「余計な力が入りすぎだ、もっとちゃんと丁寧に振るえ!」 空蝉の効果でぶれた姿が消え、その瞬間に身を捻り、鞘のついたままの刀を抜いて左肩にと、攻撃後の戻しが間に合わずに直撃。みしみしと骨の軋む音と共に奥歯をかみしめる。スマッシュでの一撃が仇になり始める。 「追撃はさせません!」 振りぬいて刀を腰に戻すところへとカラミティバイパーの攻撃がひゅんひゅんと飛び交うのを避けられ、煙遁を投げつけられ咄嗟にそれを鞭で弾き炸裂。辺りに白煙が舞う。 「‥‥そこでござる!」 ちりんとなった鈴へと凹次郎が一閃。微かに切っ先に手ごたえを感じるが確実な物ではない。 「どうにもならないのう」 白煙の外から獲物を構えたまま回り込み、様子を伺う。符を投げようにもこの状況ではいまいちだ。 「んっ‥‥九時の方向に鈴の音ですの!」 耳をぴくぴく動かして超越聴覚での位置把握。鈴の音と極力音を消して歩いているおやかた様をとらえて手裏剣数発。煙を斬りながらカキンと弾く音が響く。確実におやかた様を見つける。 「少し卑怯ですが‥‥」 用意していた大福を投げつけてみる。とりあえず攻撃の手はなくなったので良しとする。 「んっ、とらえたでござる!」 少し見えないが鈴の音を頼りに捕まえて「高い高い」、白煙の上空におやかた様が飛び出ると、それを起点に開拓者が動き出す。微妙に口回りに餡子がついているのは気のせいだろう。 まずは八重坂が槍を振り回して白煙を散らしてから鈴を狙いに行く。 「わっちも、伊達に開拓者じゃないのでなぁ」 もう一度上空に上がっているおやかた様の鈴を狙って斬撃符を放つ。それを空中で身を捩り、わずかに回避。鈴と腰帯が繋がっている紐がぷつっと何本か切れる。 「なんでもやってみないと!」 空中にいるおやかた様を捉えるために鞭を振るう。相手を絡め取る動きをし、おやかた様の腕‥‥は捉えられずに刀を抜き去る。とはいえ、空中制動はかなり封じ、獲物も一つ奪ったのはかなりの優位だ。 おやかた様が着地をしてから風間が体制を低くして、さらに鈴へと一閃。空蝉が使われているとは言えまた数本の紐を斬り、さらに鈴が取れやすくなっていく。 「丁寧に、一撃を!」 如月が深呼吸をしてから上段からの振りおろし地断撃を一発。直撃はしないもののおやかた様の体制を崩すには十分だ。 「そこ‥‥!」 体制の崩れた所へとさらに槍での一撃。ちりんと一つ鳴った鈴が宙を舞う。 「ちぃ!させん!」 数歩たじろいだおやかた様が早駆を使って鈴を取り戻そうと駆け始める正面から白銀狐がこれまた早駆でおやかた様の腰のあたりを掴んで体当たり。そしてそのまま身長差を生かして地面に足がつかないぎりぎりのところまで持ち上げて鈴から引きはがしていく。 「今回は流石に出番は少ないわねぇ‥‥っと!」 詠唱を済ませて、丁度白銀狐が体当たりでおやかた様を運んでいる後ろへと白い壁を召喚。確実に相手を抑え付けるためにはこれ以上ない程にいいものだ。背中から叩きつけてそのままがっちりと抑え込んでおけば後は鈴を取るのはたやすい。 ●勝敗は 結構本気で殴っていたようで鴇ノ宮が開拓者とおやかた様の治療をし始める。 「世話のかかる子って結構可愛いのよねー‥‥うちの団に一人くらいほしーわ」 治療をし終えて爺からもらったお茶を啜りながらそんなことを言う。まだまだ世界征服は諦めていません。 「むぅ、本当に取られるとは思っていなかったな」 取られた鈴を返してもらってちりんちりんと鳴らしてみる。また鈴に傷が一つ入ったのを嬉しそうに見つめると懐にしまう。 「十分に合格だ、私以上の者やアヤカシでも十分に太刀打ちできるよ」 腰に二振りの刀を仕舞い、屋敷の方へと戻っていく。 「依頼に関してはあとでギルドの方で報告が上がるだろう、さ、今日は早く帰って休むといい」 いつもの雰囲気じゃないのに驚きながらも開拓者が各々の所へと帰っていく。 開拓者が全員かえって爺と二人でおやかた様が一息ついている。 「ご苦労様です、お館様」 「‥‥うむー、疲れたのじゃ」 切り替えが終わったのかいつもの状態に戻るとお茶を要求、湯飲みにお茶が注がれてそれを飲んでまた一息。そうしていると思い出したように懐から八朔大福を取り出し、一齧り。 大きな猫の鳴き声が辺りに響いたとかどうとか。 |