最速への道
マスター名:如月 春
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/17 01:59



■オープニング本文

 ●とある場所にて
「よーい‥‥ドンッ!!」

 自らの掛け声と同時に、その場から土煙を巻き上げながら走り出す影が一つ。
 前傾姿勢を維持したまま、一気に丘を下りさらに加速し続ける。
 その速さは既に人間の域ではたどり着けないのではないかと思うほどの速度で。

 彼の名は「フル・スピード(仮名)」
 
 最速を目指し、最速を求めんが為の名前(自ら命名)
 ジルベリア出身の一国の兵士であったが、自分の才能に気がつき走り出したのである。
 ちなみに本名はトムだ。

「この速度、この風、この速さぁぁぁぁぁぁ!」

 そう叫びながら、平原を走り続ける。
 彼の前に立ちふさがるものは無く。
 彼の隣を並べる物も無く。
 ただひたすらに速さを求め走っている。

「ヒャァァァァハァァァァ!!」

 そんな彼も最近になり、やっと世間的に認知されてきた。
 噂を聞き、彼に挑むものは沢山いたが、やはり追いつく事すら出来ずにいた。
 そしてジルベリア最速の名を(一部で)ほしいままにしていたが、最近になって知った事実がある。
 「天儀にはジルベリアよりも速い奴がゴロゴロしてる」という話を。
 之を知ったからには挑戦しなければならない。


 ●数日前、天儀ギルドにて
「‥‥ごめん、くだ、さーい!!」

 扉を蹴破り、ユメの目の前で急ブレーキ。
 勿論床にはブレーキ痕が残るほどの勢いでだ。

「私よりも速い奴を見つけて欲しい!」

 着くと同時に用件だけを簡潔に述べて、既に走り出そうとしている。

「いや待て、それだけじゃ分からんだろうが」

 素早く立ち上がり、足払いを掛けるとそれを華麗に避けて落ち着くフル・スピード(仮名)
 あのスピードの癖に息切れ一つ起こしてないのは流石というべきか。

「おや失敬、何分走らないと落ち着かないので」

 と言う訳で依頼の内容を事細かにいい始める。
 案外兵士をしていたのが長かったのか変なところで細かい奴。
 ため息を付きながらも、依頼書を作り出すユメ

  ‥‥案外面白そうな話になってきたと、煙管の紫煙をくゆらせる。


■参加者一覧
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
時任 一真(ia1316
41歳・男・サ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
藍 舞(ia6207
13歳・女・吟
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
シア(ib1085
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●遭遇
 開拓者一同が、ぞろぞろとフル・スピードに会うべく中に入っていく。
 そこから宿泊しているところに夢の案内で向かっていく。
「あぁ、私が審判を頼まれている、お前らは勝負に集中してくれ、だとよ」
 そういうと、本人がいるだろう部屋の前に立ち、扉を開ける。
「む、開拓者の方達ですかな?私はフル・スピード、以後お見知りおきを」
 しっかりとした態度で出迎えると、備え付けの台所に風の様に走り、お茶を用意し始める。お茶を配り終え一息付いた所で、早速と言わんばかりに勝負をするべく、用意をし始める。

●VSフル・スピード第一回戦
 ゆっくりとストレッチをし、体を暖めているフル・スピードの後方で開拓者達が相談し始める。誰が一番初めにいくか、と言う順番決めでだ。
「うちが始めにいってどんな奴か見てくる」
 藍 舞(ia6207)が指をピンと立てながら、懐にしまってあった一升瓶を取り出す。
 なんというか流石にそれはどうなんだ、と言う顔をする一同であったが、そんな事をお構い無しに、フル・スピードに向かっていく舞。
「一番手はうち、酒一升早飲みで」
 何処にどうしまっていたのか、二本目の一升瓶を手渡すと、早速栓を開けて準備をする二人。呆然、ではないが軽くため息のような物を付きながらフル・スピードも一升瓶を手にする。
「ん、じゃあ用意して、いいね?‥‥んじゃ、開始」
 夢が気だるそうに腕を振り下ろしたと同時に、一気に一升瓶を逆さにし、一気に飲み始める舞。
(ここで、一気にコンディションを崩すッ!)
「リタイア」
 突然のリタイア宣言に「ぶーっ!」と言う効果音がぴったり合う勢いで舞が含んだ酒を盛大に辺りに撒き散らす。
「ちょ、速さで勝負するんじゃないの!?」
「流石に、私もどうかと思うんだが‥‥」
 舞と夢が双方そろってフル・スピードに説明を求める。
「私は速度を求めている、その為にこのような暴飲暴食はしない事に決めている、そもそも私は一日三食、間食無し、決められた時間に決められた時間内に食べる事を常に心がけている訳で‥‥」
 と、言う説明を永遠と聞かされる二人。
「諦めの速さすら向こうが上だった‥‥」
 とぼとぼ開拓者達の所に戻る。ぐったりと横になって休憩する姿に哀愁が漂う。

●第二回戦
 取りあえず、置いておいて次は誰が行く?と言う話になる。
「じゃあ、次は俺だな、罠頼むぜ?」
 よし、といいながら立ち上がり援護を頼む天ヶ瀬 焔騎(ia8250)、それを受け取ったのか舞が寝たまま手を振る。
「次は貴方ですか、まともな勝負だといいんですが」
 すっかりモチベーションが下がったのか、微妙にテンションが低い。
「ちょっと待っていろ、今用意するから」
 そういうと、事前に準備していた障害物をてきぱきと配置していく。
 等間隔に配置されたハードルが数百メートル、その光景を見つめるフル・スピードは「これはまともかな」といいながら準備運動を始める。
 それに伴い、舞がハードル間に色々と草を結んだ物や、引っかかりそうな物を仕掛けている。
 全て並べ終えたのか、パンパンと手を払いながら戻ってくる。
 フル・スピードも準備が出来たのか、ゆったりと屈伸運動している。
 そして手渡される、目隠し。またこれか、と言うようにため息を付いている。
「俺に負けるようじゃぁ‥‥ウチの副長、アルにも、赤さんにも勝てやしねぇぜ?」
 そう小さく笑いながらスタート位置に付き、目隠しをする。
 フル・スピードも目隠しをし、スタート位置に一応付く
「‥‥んじゃ、開始」
「セットゲット!レディ・GO!」
 そういうと一気にハードルに目掛けて紅蓮紅葉を使用した飛手で破壊しながら進んでいく。怒涛の勢いでハードルをぶち壊し、手当たり次第に殴りまくって進んでいる。
 その隣ではフル・スピードがさっさとリタイア宣言していた。
「‥‥私が求めている事と違います、それに目隠しをして全力疾走をしてぶつかったら危ないじゃないですか、常識的に考えて」
 どうやら変則的なのが不満なのか、イライラし始めているフル・スピード。
 天ヶ瀬はというと、連力が切れるまで紅蓮紅葉を使い、それでも前方を攻撃し続け、そのまま走っていく。‥‥5分後、舞の隣でぐったりと横になり「真面目にやればよかった」と呟く。

●三回戦
 ぐったり横になっている二人の近くでまた相談。
「んじゃ、次は私が行ってくる」
 ゆっくりと立ち上がり、フル・スピードを見つめるシア(ib1085
 先ほどからフル・スピードは残念そうな顔で、開拓者を見つめている。
「流石に、いい加減にしないとダメそう」
 と、いいながらしっかりと目の前に対峙し、口を開く。
「純粋な速さ、だったらどんな勝負でもいいの?」
「先程の様な事じゃなければ、私はいいぞ」
 それを聞くと、うーんと顎に手を当てて、考え始める。
(最高速勝負では分が悪い。‥‥だとすると反射速度‥‥)
 うんうん、と自分に言い聞かせ、提案をする。
 内容は反射速度に依存した腕相撲。開始合図から一秒で止めて、どちらに傾いているかと言うものを提案した。
 多少なりと、フル・スピードも思案した後に提案をのむ。
 取りあえず手頃な机をギルドから持ってきて、その上で手を組み、また対峙する。
「(少しずるい気もするけど‥‥)あなた、何で速さに目覚めたの?」
「‥‥それは勝負の後で、教えよう!」
 じっと合図を待ちながら、シアを真っ直ぐ見つめる。
 どれくらいこの勝負を純粋に遣りたいかと言うのが伝わってくると、一言
「ん、やっぱ、やめ」
 真剣なまなざしに負い目を感じたのか、ぱっと離れる。
「ちょっと騙し討ちしようとしたし、これで勝っても納得できないかな」
「む‥‥では、これなら?」
 近くにあった、木を蹴り落ちてきた木の葉を素早く掴み始める。
 半身を木のほうに向けて、左手が何本も見えるほどの動きをし続け、木の葉が落ち終わると、左手を開く。
「ひぃ、ふぅ、み、‥‥二十と」
 パラパラと木の葉を落とすと「どうぞ」といわんばかりに木の傍から離れる。
 軽く眼を丸くしていたシアもはっと気がつくと、同じように木を蹴ると、落ちてきた木の葉を掴み始める。
 一般人から見れば、殆ど動かない状態に見えるが、それなりの開拓者が見ると眼を見張る程の速さで素早く掴む。
「っと‥‥終わりか」
 ある意味では瞬発力も問われるこの方法、確かな手ごたえを感じて木の葉を数え始める。
「いーち、にー、さーん‥‥」
 一枚ずつ、木の葉を落としていくと、丁度二十と一枚数え終わる。
「むむ、流石天儀の開拓者!」
 「ぐっ」と拳を作ると、左手を差し出す。
「あぁ、確か普通は右手を出すんでしたっけ?」
 どうやら左利きらしい、右手に変えるとシアとがっちり握手し、満足気にする。
「さー、次は誰だ!?」
 開拓者を見ながら、調子が上がり始めるフル・スピードの後ろでシアがぽつりと。
(利き手だけで二十枚‥‥私は両手で二十一枚‥‥私もまだまだ)
 多少悔しくはあったが、まだまだ世界は広い、とシア自身も感じるのであった。

●四回戦
 恒例の誰が行く相談。
 戻ってきたシアはじっと木の葉を見つめて、ぶつぶつといっている。どうやらイメージトレーニングをし始めたようだ。
「さて、次は俺の勝負と行こう」
 時任 一真(ia1316)が立ち上がり、フル・スピードに対峙。
「あそこの丘からここまでどっちが早く付くかで勝負しないか?」
「え、往復するんじゃないのか?」
「あ、まぁ、それでもいいが‥‥」
 おぉ、と言いながらせっせと地面に線を引くフル・スピード。
 やはり純粋に速度を求めているというのがひしひしと感じる。それほど速度に命を掛けているのかと思うと、男として、負ける訳にはいかない。
 ざっと丘と今の場所を全力疾走で一分程だろう。頭の中で考えていた予定通り。
(簡単だ、相手より速くここに戻ればいいだけなんだ!)
 四十も過ぎて年甲斐も無いと思う。だが、譲れない。きっと男の子だからだ。
 フル・スピードの隣に同じようにクラウチングの態勢で丘を見つめる。
「よーい‥‥どん!」
 夢の合図と共に走り出す二人。砂煙を上げ、轟音を撒き散らしながら開始数百メートルはずっと並走し続ける。どちらも本気で、かつ楽しそうに走り続ける。
 ひたすらに、相手よりも速く、それだけを考えて走り続ける。
(くっそ、やっぱり速いな!)
 丘の手前ぐらいから徐々にフル・スピードとの差が開き始める。
 泰拳士でもシノビでもないサムライではしょうがないといえばしょうがない差であるが。
(意地があんだよ!男の子にぁ!)
 丁度丘の上から往復してきたフル・スピードとすれ違う。
 それを機に隼人を発動、急加速し、同じく丘を往復し後を追う。
(うおおぉぉぉぉ!)
 既に自分の体の限界は来ている、それでも速度を上げる。
 残り数百メートル。残りの練力で隼襲を発動。
 フル・スピードと並んだ‥‥そこでゴール。
 もつれたせいでごろごろと転がっていく。
「んー‥‥引き分け、同着」
 夢が判定を下す。
 ブレーキ痕を残しながらも、それを聞いたフル・スピードはやはり満足気に頷いている。
「はぁ‥‥はぁ‥‥久しぶりに‥‥全力だから‥‥草鞋が‥‥ダメになった‥‥」
 フル・スピードに脚を挙げ、草鞋を見せる。ボロボロになったそれは、やり遂げた感がある。
 そんな時任に水を渡すフル・スピード
「いい速さだったぞ、名前はなんだ!」
「一真‥‥俺の名前‥‥一真と言う名前を刻め!」
 やりきった感じに腕を突き上げ、そのままぱたりと横になる。どうやら練力を使いきった反動で気絶したようだ。しかしその顔はやりきっていた。

●第五回戦
 横になったのが三人に増えたところで、次の挑戦者が立ち上がる。
 アルティア・L・ナイン(ia1273)がゆっくりと構える。
「僕は戦闘速度で勝負を挑むよ、駆け比べもいいけど、こっちの方が僕向きだ」
 トントンと小刻みに飛び上がり、リズムを取り始める。
 先程まではにこやかにしていたが、一度戦闘となると空気が変わる。
 満足気に笑っていたフル・スピードもそれを感じ取ったのか、同じようにリズムを取り始める。
「僕の名前はライカウィンド、同じ速さを求める者ッ!」
 ダブルショートを抜き放ち、一気に間合いを詰め始める。
 勿論全速力、泰練気法・壱を常時発動。
 持久戦になればそれだけ長引いて遅くなる。つまり最速で相手を叩き潰す。それが最速を求めている同士の戦い方だと、二人とも認識している為かフル・スピードも本気で掛かってくる。
 アルティアが前に出ると同時にフル・スピードも前に出る。瞬時に相手をみやり、どういう獲物かを定め、常に優位の位置に回りこむ。
 左に回りこむと同時に右のショートソードを袈裟きりに振り下ろす。
 常人であれば、即座に首を切られる斬撃を右篭手で受け止め、回転。さらに懐に潜りこむ様に体勢を低くし、そこから一気に下部から上部へ拳を振るう。
 拳を上体反りをし、避けると同時に後方宙返り、そこから着地すると瞬脚でもう一度間合いを詰め、交差するように斬撃を放つ。
 腕を十字構えにし、交差する斬撃を受ける。速度が重なったその一撃で「ズザッ」と地に貼り付けにされる。
 それを音で聞くや否や、一度目の百虎箭疾歩を放ち、さらに追撃。
 きつい一撃を貰ったのか、大きく後ろに吹き飛ばされる。が、ダメージがそこまで通っていない。直前で後方跳躍をし、受け流したのを確認する。
 そして双方の距離が取ったところで。
「君とはいい宿敵になれそうだ」
「面白い、面白いぞ、ライカウィンド!」
 「ふははは」といいながら、砂煙をぶち上げながら、迫ってくる。
 ‥‥次の一撃で決まる。
 残っている練力と気力をつぎ込み、二発目の百虎箭疾歩を放つ。
「受けて見ろ!――これが!この一撃が!僕の全速力だぁぁぁ!」
 一瞬のすれ違い、瞬き一つの間に両者の位置が変わり、どちらもブレーキ痕を残しながら止まり、微動しなくなる。
「こ‥‥この僕が!このライカウィンドがぁぁぁぁ!」
 そう叫ぶと、胸部に一撃重い蹴りの痕がくっきりと浮かび上がり、倒れこむ。
「ライカウィンド、しっかりと刻んだ!」
 そう言うと胸部が交差状に斬られ、血飛沫を上げる。が、倒れない。
「勝者、フル・スピード」
 夢がそう言い、第五回戦が締められる。

●最終戦
 ボロボロになったりぐったりした開拓者の中から赤い塊が飛び出してくる。
 手早く回復したフル・スピードの前に降り立つと一言。
「最後は僕が相手だ!」
 そう元気よく叫ぶ赤マント(ia3521)。
 速さを求める者、その赤いマントが物語っている。
「んじゃ、見合ってー」
 夢の一言で双方構えに入る。
 ボロボロになっているとは言え、アルティアを倒した人物。
 様子見なんてしていれば飲み込まれる。
 そう自分に言い聞かせる。
「ほい、開始―」
 夢が手を振り下ろすと同時に通常打撃を自身の最高速に乗せて放つ。
 その打撃を打撃で応戦し、ラッシュの応戦をし始める。
「ウラウラウラウラウラァ!」
 赤マントとフル・スピードの拳が何度もぶつかり合い。乱打戦となっていく。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
 どちらも引かずに、常に乱打を繰り出す。そんなさなか。
「さて、身体も温まってきたし、加速しよっか?」
 そう呟くと、泰練気法壱、弐を発動し加速する。
 多少なりと、拳がすれ違うようになり赤マント、フル・スピード共に負傷し始める。
「もっと、もっと速くなれる!」
 そう言いながら牙狼拳を発動し、命中限界を突破する。
 じりじりとフル・スピードが攻められると、それを追撃していく。
「これが‥‥僕の持つ‥‥全速力だッ!!」
 気合を入れた一言を放つと同時に、腹部に一撃を入れる。
 それを受け、大きく後ろに飛ばされると、ごろごろと転がっていき、仰向けに倒れる。
 ぎりぎりまで練力を使ったせいか、赤マントも肩で息をしながら、ゆっくりと尻餅を付く。
「僕が、最速だ!」
 そう叫ぶと同時に夢の一言が辺りに響く「勝者、赤マント」と。

●全て終わり
 夕日をバックにボロボロになったフル・スピードが開拓者達を見やる。
「天儀がこんなにも広いとは予想外だった、特に赤マント!」
 突然名前を言われ、ピクリと動く赤マント。
「お前を倒したときは結婚してくれ!その時がくるまで楽しみにしていてくれ!」
 「わははは」と叫びながら夕日の中へ全速力で消えていく。
「はー‥‥結婚?‥‥」
 呆然と言われたことを考えている赤マント。
 横では妥当フル・スピードに燃えるアルティアとシア。
 もう少し奥を見やればぐったりしている、時任、舞、天ヶ瀬。
 
 そんな光景を夕陽は、のんびりと沈んでいくのであった。