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■オープニング本文 ●とある山中にて 「‥‥むんッ!」 一人の暑苦しい男が岩を持ち上げながら、屈伸運動を始める。 その肉体は最小限までに無駄を省き、最大限までに筋肉を付けた、完璧なる肉体。 彼の名は「金剛」 その名にふさわしくなるために己の肉体を極限までに鍛え上げ、今日に至る。 「ふんッ!」 ぐっと、腕に力を入れれば、山のような力瘤。 傍目から見れば分かるとおり、筋肉達磨だ。 しかし幾ら鍛え上げたとしてもそれは自己満足の範疇でしかない。 そう、自らを高める為にはやはり相手が必要だ。 「よし、開拓者とやらを倒しに行こう!」 強い相手がゴロゴロしているギルドに向けて、早速歩み始める。 その歩みは誰にも邪魔することはできるわけがない。 目の前に立ち塞がるは大きな岩。 どうやら落石したのがここに転がってきたようだ。 勿論、普通の人間ならば横を通ったり、別の道を通ったり、色々と方法は考える。 しかし彼、金剛は違う。 「ふおぉぉぉぉぉ!!」 気合の掛け声と同時に全身の「気」(彼的には筋肉)を右手に込め 大岩に向けて、腰を落として真っ直ぐに貫く。 一仕事終えたように一息つき、拳を戻す。 すると大岩には拳の形がくっきりと残り、それほど力が収束されていたのがはっきりと分かる。 そして拳のあとから真っ直ぐ縦にひびが入ると真っ二つに割れ、彼の道を開けるのであった。 「道は出来た、いざ行かん!」 しかし頭は悪い。 ●ギルドにて 「失礼する!」 最近新しくした扉の奥から大きな声が聞こえる。 そしてその次には粉砕される扉。 「‥‥今度は何なんだ‥‥」 二枚目の扉に合掌をすると、筋肉隆々の男がのっそりと現れる。 その姿はまさに、金剛像を思い浮かべるほど。 「うむ、自分よりも強い人物を探してほしいのだ」 礼儀正しく一礼しながら、ユメに頼むとそれだけ伝えてさっさといってしまう。 「‥‥ま、面白そうだしいいか」 前にもこんなことがあったなぁ、といいながら依頼書を作成し、張り出すのであった。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
鈴 (ia2835)
13歳・男・志
メイユ(ib0232)
26歳・女・魔
風和 律(ib0749)
21歳・女・騎
透歌(ib0847)
10歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●対面金剛 開拓者一同、夢に案内され金剛の元へと向かう。 どうやら前にもこんな事があったせいか、楽しそうにしている。 「最近は血気盛んな連中が多いこって‥‥あ、お前ら勝てよ?賭けているからな」 ケラケラと笑いながら、金剛の待つ部屋に入る。 そこには汗に輝く筋肉おり、一同の度肝を抜いてから勝負が始まった。 ●第一回戦 金剛が向こう側で腕を組みながら待っているのを尻目に開拓者の誰が一番初めに行くかと言う。じゃんけんを始める。 ‥‥数分後、決着が付いたのか。金剛の前に勇み足で前に出る人物が一人。 鞠とそれなりに長い棒を持って樹邑 鴻(ia0483)が金剛と対峙する。 「こいつでこの鞠を遠くに飛ばす、単純で分かり易いだろう?」 「うむ!単純で分かり易い!」 腕を組みながらぶんぶんと棒を振り回す。体格のせいだろうか、枝の様に見えてしまう。 「む、打ち方とかはあるのか?」 どんな感じにやるのかお手本を見せてくれといわれ、棒を構える。 俗に言う「ごるふ」のフォームを見せる 「ま、こんな感じにやるんだ」 少し得意げになりながら「どうぞ」と言う感じに場所を開けて、金剛の番に変わる。 「ふむ、ちょっと小さいのだが‥‥どうにかなるだろう!」 棒‥‥であるはずだがどうみても枝ぐらいにしか見えない棒を先程見せてもらったの見よう見まねで打ち付けてみる。 「ゴウッ」と空振り。だが、その空振りのせいで樹邑は一つ思った。 (あの勢いで鞠に当たったら‥‥死ねる‥‥) 少し離れた横のところにいたのだが、そこまで風がやってくる。 「中々難しいな、少年よ!」 豪快に笑いながら、もう一度構える。今度は大きく体勢を低くし上段に棒を構え一気に掬い上げるように鞠に棒をぶつける。 一瞬鞠が凹の形になりながら、偉い勢いで飛んでいく。 「おぉ、飛んだなぁ!」 「す、凄いな‥‥言うだけの事はある」 そういうとポスンと向こう側に落ちたのか夢が鞠の落下地点に向かっていく。 「んじゃ、肩慣らしってことで」 しっかりとしたフォームを取ると、全身のバネを使い技術で鞠を飛ばす。 一打目ということもあり、さほど距離は伸びずに、無難な距離で鞠は落ちる。 金剛の少し手前と言った所だろう。 両者二打目も同じ距離で落ち、勝負所の三打目となる。 「決着が付かんなぁ!ははは!」 「いや、ここで決着をつけるよ」 構えから意識を集中し、自分のもてるだけの気力を全てつぎ込んで破軍を発動する。 ただ全力で愚直に棒を振るうと、金剛の一打目よりさらに飛んでいき、見えなくなってしまう。 「うっし!さぁーて、どこまで飛んだかな?」 さも楽しそうに先程と同じ体勢で打ち方を始める金剛だが‥‥。 全力と言うのだろう、筋肉が隆起し気配すら変わり、限界まで溜めた力を解き放つ。 「握力!体重!スピード!すなわち破壊力!」 「バンッ!」と言う炸裂音と共にあたりの目が丸くなる。 あまりに本気で打った為か鞠が耐え切れずに破裂、棒も真っ二つに折れる。 「む!?これはやりすぎた!」 「‥‥見に行くのが面倒だ‥‥と、金剛は三打目は飛距離0だな、樹邑の勝ち」 ぽかんとした樹邑を尻目に、金剛は豪快に笑っている。 「負けてしまったな!ははは!」 釈然としないが力の入れ具合が違った為に起きた現象であった。 ●第二回戦 「うーん」と唸りながら戻ってくる樹邑、どうやら先程の力の入れ具合が気になる余蘊だ。 流石にあんなものを見せられたからには黙っていられない、ガチャガチャと重装備の鎧から音を鳴らしながら風和 律(ib0749)が立ち上がる。 用意していた荒縄を肩に担ぎ、金剛と対峙する。 「私とは綱引きで勝負してもらう、異論はないな?」 「一向に構わんぞ、ほれ早く縄をよこすといい!」 担がれていた荒縄を奪うと子供のようにはしゃぎながらそれを伸ばしていく。 (あれ?何も言わないのか‥‥) 伸ばし終わったのか手をパンパンと払いながら既に位置についている金剛。 「早くやろうじゃないか!」 「ま、まぁ‥‥事が早く運ぶのはいい事だ」 金剛の反対側に周り、同じように綱を持つとゆっくりと腰を落として、べったりと脚を地面につけ、自然に剣術の一つ「米糊付(そくいつけ)」の態勢になる。 ぐっと力を込めて綱を持ち、相手を見据える両者 「ふむ‥‥では始め」 夢が相変わらずの気だるさで手を振り下ろすと同時に「ビシッ」と音を立て綱が真っ直ぐに静止する。 (流石に力自慢と言う‥‥ッ!?) 自分の持てる装備限界近くまで固めた風和だったが、足元を見ると徐々にだが金剛の方へとずれていく。 普通であれば、風和の重量と力では微動にしないだろうが相手が悪かった。 「ふぉおおお!」と気合を入れた叫び声をあげながら綱を引き続ける金剛。 その顔は無邪気な子供のそれであるが、もりもりと背筋が動くさまは中々である。 (ぐっ‥‥騎士として負けられない!) さらに後ろへと体重を掛け、向こうの負担を増やしつつ巻き返しを狙うが、それも適わず、徐々に徐々に引きずられ‥‥。 「はーい、終了」 殆ど真ん中に引きずられてしまっていた。 しかしそこまで引きずられた痕見る限り、並みの力と重さではないのは明白である。 「脳筋すぎる‥‥」 ぽてん、と縄を落とすとその場に尻餅を付く。 「ははは!面白い戦いだったぞ!」 風和の頭をぐしゃぐしゃと撫でつける。やはり脳筋のようだ。 ●小休止 先程からのんびりとお茶を飲みながら透歌(ib0847)が夢に話しかける。 「金剛さんって面白い方ですね」 「ん、あぁ‥‥世の中いろんな奴がいるからな」 煙管を吹かしながら、次の戦いを誰がするかと言う相談を聞く。 あーだこーだ、言っている辺りもう少し掛かるだろう。 「そういえば、最近ジルベリアのマスターさんに紅茶の飲み方を教わったんですよ」 「茶か‥‥私は酒の方がいいんだが」 「まぁ、終わったら皆さんで飲みましょう?」 のんびりとした口調でのんびりとした会話をしていると、金剛がのしのしと近づいてくる。 「何を話しているんだ?」 どうやら暇をもてあましてしまったようだ。 「お茶についてですよ」 「お茶か、うむうむ、和の心は良い物だ」 腕を組んでうんうんと頷く金剛。 と、そんな事を話していると透歌にイタズラ心が。 ぷつっと自分の髪の毛を一本引き抜くと、それを出して。 「これで綱引きしましょう」 髪の毛の根元を持ち、先端を金剛の方へと向ける。 「おぉ、いいぞ!」 金剛が人差し指と親指でちょんと髪の毛を掴むと「せーの」で引っ張る。 すると先端のほうがぷつりと千切れる。 「私の勝ちですね」 「うむ、お前の勝ちのようだ!」 傍から見れば仲のよい親子のようなやり取りだ。 案外勝敗を気にしていないのが少し垣間見える。 少しして‥‥金剛は笑いながらわしゃわしゃと透歌の頭を撫でていると向こうのほうで次の対戦相手が決まったのか声があがる。 「うむ、ではまた後でな」 白い歯を輝かせながら笑いかけ、次の勝負の準備に取り掛かる金剛。 「面白い方ですね」 「全くだな」 透歌と夢がのしのし歩く金剛を見つめてそう思うのだった。 ●第三回戦 「一筋縄ではないようだな‥‥」 先程の光景を、酒を傾けながら眺めていた紬 柳斎(ia1231)がゆっくりと立ち上がる。 取りあえず、腰みの一枚ではないのを確認したのでなんら問題はない。 が、金剛の格好が炭鉱夫のような物なので半裸と言えば半裸に近い。 「拙者‥‥回りくどい事は嫌いでな、ここは一発勝負、私の一太刀を受け止められたら私の負け、受け止められなかったらそちらの負け、でどうだ?」 「ふむ」と一言小さく呟くと金剛が考え始める。 (一応考えられるだけの脳味噌はあるのか‥‥) 夢がぽつりとそんな事をおもいながら話が進んでいく。 「勿論木刀だがな」 どこからか取り出したのか、紬が「洞爺湖」と書かれた木刀を手にする。 色々と危ない気もするがそれを構える。 「うむ、では私も準備しよう!」 紬の前に立つととても深く息を吐き出し、真っ直ぐ見つめる。 「では、やらせてもらおう‥‥」 目を瞑りながら木刀を構えると小さく呟く。 「天清浄‥‥地清浄‥‥内外清浄‥‥六根清浄‥‥」 そう言い切ると同時に目を見開き、上段に構えたまま、一気に接近し木刀を振り下ろす。 「破ッ!」 一太刀だからこそできる、全てをつぎ込んだ一撃。 まともに食らえば木刀と雖も人を殺める事できるだろう。 「ふぅぅ‥‥ッ!」 冷静に接近してくる紬を見た金剛は腕を交差させる。 意識を集中し体内中の気を交差させた腕に集中。 神速と言っても過言ではない程の一撃と交差した腕がぶつかる。 傍にいた誰しもが振り下ろされた一撃から衝撃が伝わる程だ。 金剛は木刀の一撃を貰う瞬間に全身の筋肉を固め、気でさらに防御したせいか上着が隆起した筋肉によって破れている。 手ごたえはあった。が、交差させた腕と木刀との接点からピシリと音が響く。 あまりの衝撃に耐え切れずに木刀に細かくひびが入り、一気に崩れていく。 金剛はと言うと防御した腕を解かずにじっと立っている。 「むぅ‥‥流石」 満足気に笑うと腕を下ろし一息。すると同時に片膝を付く。 「引き分けかな?」 白い歯を紬に見せながら満面の笑みで。 「うむ、そのようだな」 此方も全力で相手も全力、何も悔いはなくやりきった顔で戻っていく。 その後ろで夢が「それじゃあ引き分け」と相変わらずの気だるい声が響き、第三回戦が終わる。 ●第四回戦 場所は変わり、多少高地にある森林に辿り着く金剛。 事前にメイユ(ib0232)から指定された場所へと行く。 ちなみに夢と金剛だけで此処に来ている。 「山登りは久しぶりだなぁ!」 相変わらずといった感じに森の中をあるいていく。 ここに来る前に戦ったと言うのに全くと言っていいほど疲れた様子がないのは、彼が脳筋だからだろう。 「しかし、相手はどうする気なんだ?こんなところに呼び出して」 審判役も大変なんだぞ、悪態をついていると指定された場所へと辿り着く。 森の窪みだろう、比重の重い煙がうっすらと立ち込めた場所であり、酸素が薄い。 しかしそんな事はお構い無しに突っ込んでいくのは流石だろう。 「うむ、相手が見えないようだが?」 煙の中を平然と歩いていると、遠くからファイアーボールが窪みの中に直撃し爆散、土煙を上げ、さらに空気を薄くする。 「むぅ、何も見えないではないか!」 しかしそれでも怯みはしない。 普通の人間なら耐えられずに酸欠になるなど、色々弊害が出るだろうが、そもそもの身体の作りや並みの人間の環境で生きていない金剛にとってはこれぐらい日常茶飯事のこと。 「あれ、おかしいですね‥‥普通だったら‥‥倒れるはずなんですが‥‥」 遠めに見ていたメイユが苦笑いをする。考えてみればあんな筋肉達磨が普通じゃないと。 「あー‥‥どうなんだこれ、これ以上何もしてこないようだし、金剛の勝ちか?」 夢が土煙に咽ながら窪みを眺める。 「何だかなぁ‥‥」 そう呟くと煙で右往左往している金剛を尻目に元の場所へと戻る。 戒めを教えようとしていたメイユもそれを見て。 「‥‥愚直だから悪い方向に力を使うなんて考えないですか‥‥」 作戦を間違えたと大きくため息を付くのであった。 ●第五回戦 少し不満げな顔をした金剛が戻ってくると、 鈴 (ia2835)が準備運動をしながら金剛を待っていた。 「最後は俺が相手をします、いいですね?」 やっとの思いで手に入れた愛刀「蒼天花」を抜き放ち、切っ先を金剛に向ける。 「最後の最後で真剣勝負か、面白い!」 うんうん、と頷きならが少し離れたところにおいてあった自分の荷物をごそごそと探り始め、取り出したのは篭手。銘品でもなければ、店で売っているような物でもない、完全お手製の篭手を装備すると、鈴の前に。 「ほんじゃ両者見合って」 夢がそういい手を上げると、両者とも構え、相手を見据える。 「ほんじゃ、開始」 気だるそうな声と同時に手が下ろされると、一気に間合いを詰めて攻勢にでる鈴。 初動が遅れたせいか、金剛は取りあえず防御の構えに移る。 その間にも鈴は体格差を利用して懐に潜りこむと舞踏を発動し攻撃。 刀身に合う繊細な傷を正確に金剛に刻みながら、ヒット&アウェイを続ける。 勿論金剛は相手の手数に押され、手をだせないままである。 「これなら!いける!」 そういいながら常に動き回り、翻弄し続ける。 しかし金剛も防御のままで終わる人間ではない。 隙あらば拳を繰り出し鈴の攻撃を止めさせたり怯ませたりとしている。 一撃を貰えば確実にやられ、かといって警戒しすぎれば攻撃ができなくなる。 そんなぎりぎりの戦いを続ける鈴。 攻撃の合間に飛んでくる左拳、右拳が頬を掠めるたびに冷や汗をかく。 そんなぎりぎりの戦いをしていても決着は付かないと睨んだのか、奥の手である陰陽符「玉藻御前」を取り出そうと、攻撃の手を一瞬休める。 その一瞬を狙い、金剛の拳がもろに鈴の腹部に入り、十数メートル吹き飛ばされる。 「かはっ!‥‥――ッ!」 もとより装備していれば攻撃を貰う事もなかったのだが、そのミスを犯したせいでかなりの体力と速度を奪われる。 「次の一撃でが最後‥‥」 「玉藻御前」を構え、瑠璃を発動すべく、金剛に向き直った所でもう一つのミスをしていたのを把握する。 相手が大きいからと勝手に判断していた為の油断。 鈴が金剛の足元に気が付く、それは隼襲の構えであることを。 解き放たれた練力が一気に開放されると、その巨体に似合わない超加速をし、接近。 「しっかり受け止めて下さいね‥‥これが俺の全力です!」 それを撃墜する為に瑠璃を使用した「玉藻御前」を投げつける。 一瞬の交差。 鈴は符を構えたまま、金剛は突きの姿勢で固まる。 「ふふふ・・‥ふははは!」 そう叫ぶと同時に金剛の巨体が倒れる。 鈴も自分の服が抉られているのに気が付く。 「玉藻御前」が当たったのが少しだけ早かったお陰でなんとかなったとしか言えない。 だが「玉藻御前」に当てられたせいか、鈴もぱたりと倒れる。 「ふむ‥‥鈴の勝ちだな」 煙管を吹かしながら、夢の判決が下される。 ●事が終われば 少し気絶しただけで体力が回復した金剛はやはり人外だろう。 既に開拓者達と酒を飲み交わしたりと普通に接している。 脳筋だから、と言うのもあるかもしれないが彼がある意味では純粋な人間だからだろう。 「うむ、やはり世の中は広い!」 そう言うと金剛は酒を一区切りつけて、立ち上がる。 「また何処かで勝負してくれ!ふははは!」 豪快な笑い声を発しながら地平線の彼方へと走り去っていく金剛。 開拓者達はそんな彼を見てどう思ったかは分からないが。 取りあえず熱い男だった!と皆で頷くのであった。 |