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■オープニング本文 ●とある峠にて ただひたすらに速さを求めんが為に、常に走り続けている男が一人。 朝起きれば峠を往復、昼間も欠かさず峠を往復、夜寝る前に峠を往復しひたすらに自らを高める為に走り続けている。 そうこの世の最速と言う唯一無二にして最高の呼び名を求める為にだ。 彼の名はハイ・スピード(最近敗北した為降格:本名トム)己の限界を高める為に此処に来た。昨日の敵は今日の宿敵、最近付けられた胸に罰印の傷と打撲痕が今の彼の動力源になっている。 だから彼は走り続ける。 どれだけ峠の曲がりがきつかろうが、上りがきつかろうが、下りが崖と同じぐらい急であろうが、常に全力疾走で峠を往復し、今日も今日とて速さを求めている。 ある?A何時もの様に峠を全力疾走していると並走してくる影が一つ。 ちなみに彼の速度は普通の人間では追いつける訳が無く、一般的な搭乗動物以上にも速い。 そんな彼の隣を並んで走るのだ、とりあえず何かは分からないが彼にとってはそんな事は関係も問題も無い、重要なのは今隣を走られていると言う唯一つの点だけ。 「この俺が遅い!?この俺が遅いだとぉぉぉ!?」 さらに加速しても、しっかりと並走してくる影。そうこうしていくと、峠を下りきったところにある空き地に彼と影は急停止する。そして対面し相手をしっかりと見据える。 このクソッタレの野郎は何処の馬の骨だ!と言わんばかりに蹴りの態勢に入る。 一度態勢を低くし脚に練力をこめて一気に開放、神速と言わんばかりの速さで馬らしきケモノに蹴りを放つ。が、寸前で避けられ多少掠める程度で完全に当たらず、奥にある大木へと向かってしまう。 「冗談じゃ、ねぇぇぇ!」 そのまま大木を足場にしてもう一度加速してから蹴りを放つ。しかしそれも避けられ、元のところへと着地する。 影はそれを見ると、大きく嘶く。此方を見下したような気もするが、それはいい。 こいつを倒さなければ最速にはなれないと思い、もう一度見据える。 すると同時に影が峠へと走り去ろうとする。勿論それを見逃す訳は無い。ハイ・スピードは影と並走しながら格闘を続けるのであった。 ●ギルドにて いつものようにギルドに届く手紙を捌きながら、面白そうな物を見つける夢。 ぱらぱらと眺めていくと、どうやら峠を全力疾走しているケモノと人間がいて、通行の邪魔になっているらしい。 人間一人の時はまだマシだったのだが、ケモノが現れ始めてからと言うものの道が狭いのに並走するおかげで完全に峠の道が塞がれてしまったのだと言う。 「速さを求めてる人、ねぇ‥‥」 最近そんな奴がいたな、と思いながら手紙を読み進めていく。 ‥‥数分経ったところで読み終え、何時もの様に依頼書の作成に入る夢。 何がどう気に入ったのか分からないが、何時もの気まぐれだろう。 |
■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562)
19歳・男・巫
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●その男、最速 峠の山頂で一人の男が腕を組みながら空を仰ぐ。 宿敵と言う名の友を待つために、その場にいる。‥‥そして現れる、宿敵。 一本角の馬、どんな奴はか知らない、知っているのは‥‥。 「俺よりも速いという事だ!」 視線を落として、一気に加速。そして並走してくる影。 今日こそ決着をつけるべく、本気の速度で空き地へと。 ●追走撃 走り始めた馬と人間を確認して飛び出す影二つ、アルティア・L・ナイン(ia1273)と時任 一真(ia1316)だ。 前にも一度戦った事のある二人だからこそ、この勝負に乗り出す。 少なからず「最速」の称号を手に入れたいと思っているのもあるだろう、此方も本気で並走をし始める。 「面白そうなことをやっているじゃないか、ハイ・スピードくん!僕も混ぜて貰えるかな!!」 そうアルティアが叫びながらハイ・スピードの隣にぴったりと並ぶ。相変わらず引けの取らないその速さで並んでいくのはさすがというべきだろう。そして此方、時任も負けじと、隼襲を使用してのブーストしながら二人と一匹に並走をする。 「あいっかわらず速いな、あんた!」 時任がハイ・スピードに叫びながら、加速を続けていく。 ハイ・スピードはと言うと、特に気にする様子もなく、ただひたすらに速度を求めて走っている。と、そこでやっと二人に気が付く。 「何だ、俺の獲物を狙ってきたのか!」 凄まじいというべき速度で普通に喋るのは流石の一言だろう。 「そのケモノに対して討伐依頼を受けてね!下の空き地で僕の仲間が待ってるんだよ!」 「ま、どっちが先に倒せるか競争ってわけだ!」 アルティアと時任が交互に状況の説明をしていく。 「愚問だな!俺の方が速いに決まっているだろう!」 そういいながら空き地の方を軽く眺めると、他の開拓者達を確認する。 全てにおいて最速、確認するのも走るのも認めるのも最速だ。 「いいだろう!しかし倒すのは、俺だ!」 ヒュっと前に飛びながら空中でケモノに対して蹴りを放つ。 それを旨くいなしながら走り続けるケモノも流石と言うべきだろう。」 「まずは僕のほうが速い事を」 「まずは俺のほうが速い事を」 『証明してやる!』 ほぼぴったりと言わんばかりにアルティアと時任が声を揃えて、ケモノとハイ・スピードの前に飛び出る。それを見た一人と一匹も「ニヤリ」といわんばかりに口角を上げてさらに速度を上げていく。 そして一方、空き地では他の開拓者が討伐するべき獲物を待っている。 紙木城 遥平(ia0562)が依頼人からケモノの特徴を聞いてきたのか、空き地の反対側から戻ってくる。しかし、その顔は満足な情報が得られなかったのが嫌でも分かる。 「そんなもの知るか、と一言で終わるとは予想外だ」 当たり前といえば当たり前の事だろう、今までいなかったものが突然と現れる。はっきり言ってそれを調べるのが仕事なんだろう、といわんばかりの剣幕だったらしい。 アレーナ・オレアリス(ib0405)がそれを聞くと大きくため息を付く。 拳を構え軽く準備運動を初めながら峠のほうを見やる。度を過ぎればただの迷惑だなぁと思いながらも、動きを確認する。取りあえず、トムに反省させるべく入念に動きを確かめていく。 「流石にメッしてあげないといけませんからね」 シュシュと素早い突きを繰り出すが、はたして其れが通用するのかどうかは別だ。 そしてこちら巴 渓(ia1334)も軽くステップを踏み始める。 どれほど狂った速さなのかどうか、気になるのもあるが泰拳士としてどれほど相手が出来るかと言うのもある。こちらもシャドーをしながら峠のほうへと目をみやる。 そしてその傍ら峠に目を見やりながらゆっくりと視線を動かすのが一人。 まだ全くと言っていいほど見えない場所にいる、三人と一匹を確実に捉えながらくすくす、と笑っている雲母(ia6295)。 「案外、遅いもんだなぁ‥‥私の弓を避けられるほどだと期待したのだが」 此方は矢を一本くるくると手でまわしながら一点を見つめている。弓術師として最高位の地位と能力を持つ彼女だからこそ、言える台詞だ。 何かを楽しむかのように眺めている。 「‥‥あれ、見えるんですか?」 紙木城が雲母の後ろで唖然としながら呟く。幾ら開拓者といえども、あんな高速で入って尚且つ距離があるものを見るのは容易い事ではない。さも、当然の様に見られるのは極めているからこその芸当だろう。 「人間やろうと思えば何でも出来るだろう?そんなもんだ」 ゆっくりと立ち上がり、弓の用意をし始める。それを見てか皆臨戦態勢で峠の降り口へと向かっていくのだった。 ●一撃 全員が横並びで峠を走りぬく。 ただ誰も譲りはしない、本気のかけっこ。 これまで天儀の歴史上もっとも速くて、意地の張り合いがあっただろうか。 其れほどまでに本気のかけっこ。 しかし、そんな中で一人遅れ始めるのが出てきた。 「やっぱり、本職は速いなぁ」 一人苦笑を浮かべながら、そう呟く。 ただでさえ、少ない練力を注ぎ込んで自らの敏捷をあげるのは中々に大変だ。 (んじゃ、一勝負しますかね) そろそろ空き地が見え始めたところでドン!と思い切り地面を蹴りつけ、さらに練力をつぎ込み隼襲を使う。一時的にだが、かけっこしている全員よりも体二つ分ほど前に出れた。そして、ケモノに向かって抜刀しながらの一撃を食らわせるべく、さらに加速。十分な間を取り、一気に反転。 ‥‥目の前に信じられない速度で突っ込んでくるケモノ、避ける気なんてものは全くない。ただ正面にやってきた一人の男を倒すべく、頭を下げて、突撃してくる。時任の完全に読み間違いだ。何かしらの獲物を使って攻撃してくるだろうと予測していたためか構え方が突撃に対して迎撃できる状態ではない。 「なめるんじゃねぇ!」 ‥‥一瞬の交差。 大きく跳ね飛ばされ、空中に放り上げられた体に生じる浮遊感をゆっくりと感じる。 だが、手ごたえもあった。一瞬だが、確実に剣先が触れたのを確信したと同時に突撃されたせいで多少記憶が飛んでいる。それだけ速さと威力があったわけだ。 そして思い切り受身も取れずに地面にたたきつけられ、さらに意識が飛びそうになる。 ‥‥が、目の前に続く血痕を見て、満足そうに笑うのであった。 ●開戦 後ろで一撃を決めた時任を横目で見つめさらに速度を高め、空き地へと侵入していく。 取りあえず、と言うところで雲母が矢を放つが、あっさりとその矢を避けて、接近してくる。それを迎撃する為に巴がさらに前に出て行く。 「チンタラ遅いと、俺達が獲物を奪うぜ!」 と、意気込んで瞬脚でブーストを掛けて、出鼻を挫く為の攻撃を行う。が、逆にケモノにとっては獲物がまたやってきたと、言うぐらいの認識である。 顔を下に角を真っ直ぐに向けると仄かに光り輝きはじめ、そのまま一気に突き上げる。 確実なる不意打ち、そもそも速度を緩めさせるなどと言う軽い気持ちであるのが間違いであった。腹部に電撃のような衝撃が一瞬走り、そこから一気に上空へと跳ね上げられる。 「馬鹿なっ!」 一心不乱に突撃、それこそが速さを追求しているものの攻撃。 並走し続けていたハイ・スピード、アルティアも後ろで一度とまり、相手の出方を伺い始める。 周りを見渡せるところから、紙木城が白霊弾をケモノに放ち、確実な討伐を狙う。 確かに追尾するようにケモノへ向かっていくが、速さが足りない。 確実な着弾はないが、ケモノへ触れるであろうところで炸裂したため、少なからず硬貨が現れ始める。 「なかなか倒れないな」 連続発射のせいか疲労が現れる。荒くなった息を整えながら、ゆっくりとケモノをみやる。 いまだ健在、雄雄しく走っている様は凄まじいの一言。 次にアレーナがケモノへ向かってオーラを纏いながら攻撃をするべく軽やかに移動をしていく。しかし幾ら強化したところで全くと言い程、に追いついていない。 それに、不慣れと言うべき拳を装着しての攻撃。何よりも自分の射程へ近づけない。 動きの予測はできる、だが体が付いてこない。采配のミスと言うべきだろう、進路予測をし、流し斬りを放つも掠める程度。直撃する事は全くといっていいほどない。 「はや、すぎる‥‥」 ぜーぜーと息を荒げながら何とか真正面に対峙する。拳を構えて、接近。向こうも一直線にこちらに向かって走ってくる。横に飛びながらすれ違いざまに攻撃しようにも武器が悪い。そもそも脚が地面について、それを起点に攻撃するのが拳の基本、結局真正面からの殴りあいになる。‥‥何とか一撃を加えることはできたが、負傷具合が段違いだ。突撃されたその体が思い切り跳ね飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がっていく。視界が真っ赤になるほどの衝撃に倒れてしまう。 そして雲母。ぎりぎりと弓を引き絞りながらケモノへと狙いを定める。 「私の弓は一発必中、避けられるかな?」 真っ赤な目が怪しく光、ケモノを見据える。それを感じ取ったのか雲母のほうへと超速度で走り初める。ギリギリまで引き絞り強射「繊月」を放つ。轟音と光る軌道を放ち、真っ直ぐ正確にケモノへと向かっていく。当たれば並みのものなら粉砕されるだろう。 だが、それで終わるはずもなく。身を偏らせ、回避。胴体に真っ直ぐ一本の傷を付けながらも突撃していく。そして、思い切り正面でぶつかり跳ね飛ばされる。が、倒れない。覇王の意地という奴だろう。気合と覇気の塊の彼女は倒れない。 それを見たケモノは大きくいななくのだった。 そうして最後にアルティアとハイ・スピードが真正面にケモノへと対峙する。 いたるところに負傷しているケモノへ敬意を払いながら戦闘を行う。 唯一同じ速度で捉える事が出来る二人はかなりの激戦になる。 アルティアは刀を、ハイ・スピードは蹴りを使っての攻撃。 だが、幾ら傷つこうが、向こうも此方も倒れる気配がない。そのときに。 「ハイ・スピード君、一撃をかけてみないかい?」 刀を持つ手が震える。どれだけ動き回ったのだろうか、全身が気だるい。 「俺に命令するんじゃない!」 「じゃあ、提案ではどうかな?」 一呼吸置いて。 「乗った!」 アルティアの隣に半分背中を預けるように立つ。 それに答えるように背中を預け、ケモノへと最後の攻撃をする。 まっすぐ一直線に此方に走ってくるのを確認し、此方も走り始める。 二人が泰練気法を使い加速、そして全力の百歩箭疾歩を三連続で叩き込むアルティア。 その隣では、何を使っているのかわからないが、超速度で蹴りを放つ。 「──風爆ぜッ!」 掛け声一閃、相手の頭とぶつかり、ようやくケモノがとまる。 両者ともに疲れきり相手を見やる。 雄雄しく立ったまま微動にしないそのケモノへと歩みを進め、一言。 「お前のことは忘れない、いい勝負だった」 そっとその傷ついた体へと手を添える。 雄雄しく一心不乱に戦っていたケモノへ静かに敬礼をするアルティアとハイ・スピード。 ‥‥そうしてこの騒動の幕が閉じられるのだった。 ●全てにおいて最速 意気込んで説得に向かう二人、紙木城とアレーナ。 が、そもそもこんな事をする奴に説得するという行為自体が無駄である。はっきりいって全くと言っていいほど耳に入っていないのが嫌と言うほど分かる。 「で、いいですか‥‥」 と、たらたらとアレーナが反省会をさせるべく説得を続けている。 「悪いが俺を止める事は無理だ、そしてこうやっている時間こそ無駄な時間ッ!」 バッと身を翻すとほぼ一瞬で向こうの彼方へと走っていく。 「あ、そうだ‥‥君のお嫁さん候補がよろしくいっていたよー!」 後姿に叫ぶアルティア、それを聞いたのか軽く此方を向いて口角をあげる。 しかし、殆ど見る事ができるわけがなく、確認できたのは雲母だけだった。 「あぁいうのは説得とかは無駄だ」 「確かに、あれは説得してやめれたら、やらないからねぇ」 よろよろになった時任が頷く、二回も相手をしただけあるのか、大体理解している。 「‥‥浅はかでしたね」 紙木城が頭を掻きながら走り去った向こうを見つめる。 「なんつークレイジーな兄さんだ」 巴もやられた部分を庇いながら、走り去った背中を見る。 はっきり言えば完敗、之でもかと言う位打ちのめされたせいか、沈みがちだ。 「彼らしくて、いいじゃないか」 そういい、静かに一つの墓を見る。 ‥‥雄雄しく、最速のケモノ、ここに眠る。と書かれた墓標を。 |