【八人雅】波打ち際で
マスター名:北野とみ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/31 01:25



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文

「まだ、俺の夏は終わってないんやっ!!」
 先の巨勢王の誕生日。武闘大会の賑やかさの中、呉服商店街の一角で『八人雅』と銘打って、きらびやかな練り歩きを仕掛けた、新進作家の一人、矢波が、ギルド職員佐々木 正美(iz0085)を捕まえて、熱く語っていた。
「それは、十分わかりましたからーっ!!」
「本当だな?」
「はいです。矢波さんの暑苦し‥‥えへん、熱い気持ちは、きっと開拓者の人にも伝わると思うんですよーっ?」
 多分。とか、こっそり正美が呟いたのは、矢波には聞こえてはいない。
「せやろ。せやったら、あんじょう頼んまっせ?」
「へ?」
「何の為に、ギルドに来た思うとんねんっ! 依頼頼みに来たにきまっとるやろーがっ! わからんやっちゃなっ!」
「は‥‥あい‥‥承りますですよー」
 今まで、自分の作る服がイカに素晴らしいかを語っていただけじゃあないかと、ふと思ったのだが、反論しないだけの頭の回転はまだ正美に残っていたようだ。
「夏! 海!」
 拳を上げる矢波。
「大勢の人が集まる、今こそ、絶好の宣伝の機会やろ!」
 
「えー。服飾作家の矢波さんの水着を着て、海辺で遊んでくれる方募集ですー」
 最近流行りの? 南志島の白い砂浜で、楽しく遊んで来れば良いらしい。
 自作の水着と、店のチラシを持って、矢波がしっかりと動向するとか。
 ひと夏の一日を楽しんでもらえたらと。
「あー。男性ももちろん歓迎だそうですよー。『覚悟して来いや』と、男性だけに特別なお言葉頂いてまーす」
 ちなみに、かわいい男性はこの限りでは無いらしい。

 服飾『得路夏』。
 君は、着こなす事が出来るか。

 そんなチラシのあおり文句から、こう、魂の叫びが聞こえてきそうであった。


■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
煌夜(ia9065
24歳・女・志
シルフィリア・オーク(ib0350
32歳・女・騎


■リプレイ本文


「渡りに船といった所か」
 もう、時節は夏とは呼べないのだが、今年はどうも残暑厳しく、まだまだ暑さが弱まる事は無く、海で泳ぎたくもなり、紬 柳斎(ia1231)はくすりと笑う。
「水着、の宣伝? ああ‥‥それで女性ばかり集まったの。楽しそうな依頼ね♪」
 ギルドに集まったのは、見事に女性ばかり。暁 露蝶(ia1020)は、くすりと笑う。
「折角だから、矢波さんが考えた水着を着てみたいしな」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)は、にこりと笑う。
「別に自分で考えるのが面倒臭いってわけじゃないぞ‥‥うん」
 僅かに矢波から視線を逸らして注文をした絵梨乃であった。
「一寸縛りがある位じゃなきゃ創作意欲が掻き立てられないだろ?」
 何やら楽し気な依頼である。シルフィリア・オーク(ib0350)は、矢波ににやりと笑った。
「折角の機会だしねぇ〜見えそうで見えないとか、透けてるから余計に魅せられる‥‥そんな感じでお願い出来ないかい?」
「ちら見せの美学やな? 挑戦、受けてたつで」
 皆ありがとさんやでと、矢波が工房へと走って行くのを見送った。
 そして。


 青い空。青い海。そして、まだまだ暑い陽射し。
 そこで、何名かが、ちょっとばかり人々の視線を集めていた。
 袖なしの着物は、襟から僅かに胸を覆うだけの布がある。
 襟は胸元下臍辺りで、合わされ、蝶結びが基本だが、そこに装飾品で止めている者も居る。
 臍下に、やはり着物が合わさるかのような短いスカートが。
 きっちりその下には、見えないように布があてられているので、残念‥‥いや、安全に穿けるようだ。
 背後から見れば、襟が首周りを一周し、胸元からの布が、申し訳程度に背中を一周していた。
 泰国の商人が考え出した水着とは異なり、風合いも布地も天儀風な水着であった。 
「夏だー! うみだー。あそぶぞおー」
 ふんわりとしたつばのついた若草色の帽子の隅に四葉がかわいく刺繍されている。
 その帽子を押さえて、海へと駆け出して行くのは神流・梨乃亜(ia0127)。
 若草色の地に、真朱色と白で大きな花が染め抜かれ。
 所々、黄はだ色した蝶が舞う。下の合わせは、ひらひらと広がるように作られ、動きにつられて動く布の蝶が舞うかのようだ。
 首の後ろにを一周する襟は、首の後ろから大きなリボンとなって背中まで下がり、可愛らしい。
 その瞳と同じ小ぶりの青い色の石が、リボンの裾で夏の日差しを反射する。
「わー! まだにぎわってるなっ!!」
 ルーティア(ia8760)は楽しそうに笑うと、波打ち際で、波を蹴立てて走る。
 筒状の真っ白な胸当ての後ろを締めるのは、真っ白な細い組紐。甚平のような短い下穿き。
 快活なルーティアに良く似合う。布地は帯地で、青海波が光の加減で浮かび上がる。
「この夏多分最後の海遊びですね」
 楽しんでやっちゃいましょうかと、葛切 カズラ(ia0725)の水着は刺激的だった。
 紺碧の水着の上は、胸の上を真横に襟が背中へと回る。
 首周りはすっきりと何も無い。
 襟の下から、その豊かな胸にぴったりと合わさった布が胸の下まで下がる。
 艶やかに染め抜かれるのは牡丹を中心に片方の胸に咲き誇る百花繚乱の柄。
 筒状のその布を背中で落ちないように締めているのは、濃紅の細い丸組紐。
 そこまでは普通だが、その下が。ごく細い帯状に仕立てた紺碧の布が腰周りを渡り、真ん中を隠して背後へと通る。
 つややかな丸い尻の上で、花が彫金された輪でその紐が止められていた。
「海には、少し時期はずれだけど、やっぱり一度は来ておかないとね」
 自分の年の事は遠くに知らん振りを決め込んだ煌夜(ia9065)は、さて、とばかりに歩き出す。
 膝下までの長い下穿は、白地に、月白、白菫、白花、藍白、紫水晶、などが織り込まれた、涼しげな布地で、歩く度に雪輪文様が光の加減で浮かび上がり、雪の結晶が艶のある白糸で刺繍されていた。
 それらがキラキラと僅かに光を反射する。同じ布地の上着の合わせの短めの胸元には、氷の結晶のような小さな彫金された飾りがついていて、暑い水辺にちょっとした冬を持ち込み、涼を感じさせていた。
「皆、楽しそうで良いですね」
 露蝶の白藍色の水着には、小さな薔薇達が散る。
 白い薔薇と中心に淡い鴇色が落ちる、白薔薇、そして千草、青磁、白緑など複雑な緑の葉が彩り、水滴がまるで真珠のように、丁寧に幾つも描かれている。
 その布は胸下で小さく超結びに結ばれ、下の合わせは、膝下まで下がる。その裾は片方から、もう片方へと切上がり、歩く度に複雑な影を落としていた。

 仲間達の水着を見て、楽し気に頷くシルフィリアは、ごくごく薄い鞣革の水着を纏っていた。
 艶々に光らせた深緑の布は、細く、しっかりと着物風に襟が作られ、首を渡る。
 しかし、合わせはこれでもかというぐらい、削られていた。
 そのぱっくり開いた胸の谷間は、網のように編まれた細い皮が繋ぐ。
 網の合間に、蝶の模様がひとつだけ隠されるように編みこまれ。
 腰骨から急角度を描く下部の布地から、上部まで、脇から、やはり細い皮ひもが編みこまれていた。
 その網込みには、花が隠されていて、作家のこだわりを見てシルフィリアはくすりと微笑んだ。
 絵梨乃は、帯のような織りの黄金色の地に、黒橡の柔らかな布で一厘の花を腰に飾った水着を身に纏い、海辺を眺めて嬉しそうに目を細めていた。
 そんな絵梨乃の後姿は視線を釘付け。
 首の後ろの襟からは、細い金鎖が何本か下がる。
 そして、背に回った細い布の代わりに脇の辺りで胸周りの布を止めていた。
 綺麗なお姉さんも可愛い子も沢山。
 そう口の中でこそっと呟き、ずりあがりそうで、あがらない胸元を無意識に手で下げる。
 肩を出し、臍が僅かに見える。足首まで下がった布からは、素足が見える。
 袖と帯の無い着物姿のようである。
 その色は褐返の濃淡のあるぼかし布。
 そして、大き目の楕円が幾つか、絞り染めで染め抜かれている。
 豊かな胸は隠しきれないが、長身の柳斎が纏う布の色としては、迫力のある布の色だ。
 だが。小さな兎が様々な姿で、胸の裾、腰布の裾に、絞り染めで浮き出され、赤い目が描かれた様は、何処か可愛らしかった。
「うむ、眼福、眼福」
 仲間達の姿を見て、満足そうに頷く柳斎は、絵梨乃とシルフィリアと何となく視線が合って、互いに同じような笑みを浮かべて頷き合った。


 『この後水着披露』
 そんな、立て看板の下、砂浜に線を引き、柱を立て、ロープを一本張った場所で、開拓者達の球技が開始される事となる。
「さてと、やるか。遊びとはいえ、負けたくは無いな」
 柳斎が、裾を蹴立てて甲班へ。
「ふふふ。手加減はしないからな」
 乙班、シルフィリアが球「友だち」を手にして不敵に笑えば、甲班カズラが、艶やかに笑みを浮かべる。
「当然、こちらも本気ですから」
「あー。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
 集まってきた見物人を眺めて、乙班煌夜が、小さくため息を吐く。
「楽しくを第一にします」
 こくりと頷くのは露蝶。
 水辺から走って戻って来たルーティアは、どっちだったっけと首を傾げる。
「ん? こっちか?」
「あ、違う違う。ルーティアはこっちだからな」
「そうか、ありがとう」
「いやいや。一緒の班になった人はよろしく頼む」
 色んな意味で。
 そう、乙班にルーティアを誘導しながら、絵梨乃は、こそっと呟いた。
「よーし、いってみよ〜っ!」
 甲班、梨乃亜が、元気良く手を振れば、それが開始の合図となった。

「速さだけなら他に負けるかもしれんが、力は誰にも負けんぞ? 拙者の攻撃、受け止められるものなら受け止めてもらおうか!」
 唸りを上げるかのような柳斎が打ち込む球が乙班の陣地へと向かう。
 動きやすい。
 足元まであるのにと、柳斎は水着の出来に軽く驚く。
(「視線が妙に気になるが」)
 が、それと共に、食い入るように応援中の矢波の姿を目の端に入れて、ちょっとだけ苦笑する。
「任せて」
「自分がとるよっ!」
 絵梨乃が向かう所に、ルーティアも突っ込む。
 どーん。
 そんな衝突が起こり、球が宙に零れる。
「あ、ごめんねーっ」
「いや、良いんだ。こっちこそ悪かった。‥‥そろそろ離れた方が良いんじゃないか?」
「うんうん。そうだな!」
 ぶつかったついでのぎゅーを堪能した絵梨乃は、不振がられないうちに、きっちり離れる。だが、ルーティアは、ぶつかったものだと信じているので、あまり問題はなさそうだ。
「はいはーい」
 その間、零れた球を、丁寧に煌夜が打ち上げる。
「よしっ!」
 シルフィリアが飛ぶ。浮いた汗も周囲へと軽く飛ぶ。豊かな胸もゆさりと揺れる。
 力いっぱいの攻撃は、ちょっとばっかり甲班は受けれない! 流し切り込みっ!
 暑さ対策の草履を履いたシルフィリアの足が砂を踏みしめ着地した。
「私は本気だ」
 いや、それスキルですからっ!
 仲間達が心の中で突っ込みを入れるが、こちらも豊かな胸を揺らして甲班のカズラが、嫣然と微笑んだ。
「そういう事なら?」
 式を使おうかと、カズラは思ったわけであるが。
「あー。そこまでにしましょー? 今回の目的は?」
 やれやれと言った風に、煌夜がにこりと笑うと、カズラとシルフィリアは、顔を見合わせた。
「だな」
「そういう事で」
 はい、仕切りなおし〜。と、スキルは使用せずに、女性達がステキに弾ける球技は、十分に周囲を沸かせる事が出来たのだった。
 

「私はしないわよー。行事として催すなら、司会進行は必要だし、そっちの方で手伝わせてもらうわよ? 投票用紙集めたりとかね。やる事いっぱいあるでしょ?」
「ほな、わいが一票入れとくな」
「いりません!」
 裏方するからと、簡単に、縄と杭を打っていた煌夜を、矢波がせっせと手伝いながら、煌夜をからかう。渋面を作って否定すると、さて、準備は良しと、周囲を見回した。
 ビーチバレーで沢山の人が集まり、残ってくれていた。

 絵梨乃が、笑みを振りまきながら、縄の張ってある道を歩く。
 行き止まりで、ふっと緩んだ笑顔が色っぽい。きらびやかな金色がくるりと回る。
 腰に手を当てるとぐっと尻を突き出せば、どよめきのような歓声が上がる。
 きゅっと姿勢を正すと、軽く手を振り、鮮やかに踵を返して戻って行く。
「あの、よろしくお願いします」
 すれ違うように前に歩いてきたのは露蝶。
 さて、じっと見られているのはとても恥ずかしい。
 何となく顔を赤らめながら、歩く姿は、それはそれで女性達からの応援の声が上がる。
 くるりと回り、水着の裾がひらひらと回れば、その後ろから歩いてくるのは、カズラ。
「着心地は‥‥悪くない」
 ゆらゆらと腰を揺らし、たっぷりとした胸元が揺れるのは計算しつくされた歩き方である。
 軽く流し目を向ければ、地響きかと思う男性達の声が上がる。
 くるりと回れば、今度は颯爽とした歩き方。 重心がきゅっと天へと引き上げられたかのようなすらりとした姿勢。
 長い足が砂を踏みしめて行くのを、女性達からの溜息が見送った。
 途端に、その場が和む。梨乃亜が軽い足取りで歩いてきたのだ。
「は〜い。こんにちは〜っ! 可愛いひらひらも出来ます〜っ」
 ふわふわと揺れる帽子に、水着の裾。腕に抱えている人形も可愛らしい。
 首の後ろの長いリボンの裾が、名残惜しげにたなびいた。可愛らしい姿に拍手が巻き起こる。
「どのような裁断も思いのままという訳だ」
 水浴びをしてきたばかりのシルフィリアが、洗い髪を手でかき上げると、なびかせた。
 艶やかで自信に満ちた笑みが向けられれば、男女共に、自然な拍手が湧き上る。
 水着を良く見せるようにくるりと回ると、再び洗い髪をかき上げれば、綺麗なうなじがちらりと見えて、溜息が周囲に広がった。
「動きやすいのが良い人は、こういうのも良いかも!」
 おぼつかない足取りで前に進み出るのはルーティア。
 仲間達の歩き方を十分見て、真似をするのが、どこか危なっかしい。
 その危なっかしい姿が、ルーティアの飾り気の無い水着と良くあっているようで、微笑ましい応援拍手が送られる。
「似合っているか?」
 刀を小道具に颯爽と歩いてくるのは柳斎。
 きりりとした雰囲気に豊かな胸が実に不可思議に目を惹く。
 その色合いは彼女の硬質な雰囲気を高めていたが、兎柄が歩く度に跳ねるようで、拍手喝さいで送られる。
「はいはーい。それでは、こちらに投票お願いしますね」
 矢波がお買い上げはあちらと、自分の持ってきた水着の売り場へと人を誘導し、煌夜が大勢の人から、配った投票用紙を回収すれば。
 優勝・暁露蝶、次点・葛切カズラ。
 大きめの紙に書き記すされ、矢波の出店の目立つ場所にしばらく張り出されてたりした。

● 
 こうして、大成功のうちに、夏の一日がゆっくりと暮れて行く。
「ぅおっと。あんまり遠くには行かないからなっ!」
 砂浜で波と戯れるルーティアは、海に向かって、つい独り言。何しろ、泳ぎはからっきしなのだ。
「ここで十分楽しいから、良いよねーっ!」
 梨乃亜が、にこっと笑うと、ぱしゃぱしゃと波間を歩き、その波に歓声を上げる。
「だなっ!」
 二人は顔を見合わせて、笑いあうと、どちらからとも無く、水かけっこを始める。
「きゃーっ!」
「やったなーっ!」
 落ちかかった陽が舞い上がる水飛沫に反射してキラキラと光った。
 大きな傘を日避けにし、柳斎はゆっくりと身体を休める。潮の香りが心地良い。
 陽射しはまだ暑さを残しているが、こうして涼んでいると、暑さが引いて行くように感じられるのだから不思議で、目を細めて微笑む。
「次は家族全員ときたいものだ‥‥皆楽しいであろうし」
「あの、良かったら打ち上げっぽいのやりませんか?」
 後片付けの手伝いをしていた、露蝶が、それぞれに夏の残りを楽しむ仲間に声をかける。
「賛成、賛成。ボクも打ち上げやりたいって思ってた!」
 だよねっ! とばかりに、絵梨乃が露蝶の後ろから、きゅっと抱きつき。
 じゃあ、時間いっぱい打ち上げをと、仲間達は夜風の吹いてくる浜で、賑やかに過ごし。
 その仲良しな姿を見た人々によって、『得路夏』印の水着の評価がぐっと上がり、売り上げも上々だったとか。
 夏の名残の波音が、開拓者達を優しく見守っていた。