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■オープニング本文 「まあ、良いです‥‥それで? もう一つの依頼と言うのは何ですか」 「此方は単純ですよ。ただのアヤカシ退治です」 ――普通、人命に関わる方が最優先ではないだろうか? 「この間、私の家でアヤカシが出たのは聴いていますよね」 「ええ、ちょっとした動物園状態だったと伺っています。親玉が猿だったとか」 「そのお猿さんなのですけどね、どうも理穴の方へ逃げたそうなのですよ。非常に大きい上に片腕の猿となれば、それなりに目立ちますからね。 今後の為にも、始末しておこうと思いまして」 明確な目的の為に使われていた以上、今後も何かの目的の為に再度動く可能性もあるだろう。その可能性を潰すというのは、ごく自然な発想だった。 「分りました。それで、そのアヤカシはどういう場所に逃げ込んだのですか?」 「緑茂の里近くにある森です。場所柄、あちら様の独壇場でしょう。私一人では流石にアレなので、人手を貸して頂きたいなと思いまして」 「猿と森――確かに独壇場ですね。まして手負いとなれば危険度は高い、と。 了解しました、手続きをしておきます。他に何かありますか?」 真面目な依頼内容だが、蔓の事だからまた妙な付随事項を付けて来るに決まっている。標はそう思ったし、案の定蔓はこんな事を言ってきた。 「アヤカシを処理後、一日だけですが現地の温泉宿にお手伝い頂いた方をご招待します」 「‥‥現地の温泉宿?」 はて、と標は首を捻る。先程似たような言葉を聴いた様な気が―― 「――って、ひょっとしてその宿ってさっきの依頼の――?!」 「さてどうでしょう? 気になるのでしたら貴方も来ます?」 「行きませんっ、私は忙しいんです!!」 間違いない。さっきの依頼で出てきた、廃業した宿に開拓者を送り込んで泊まろうとする変人というのは、目の前のこの女だ。出費を惜しまないのは良いのだが、どうしておかしな方向にお金を使いたがるのだろう、この人。 森の奥、ソレはかつて腕があった場所を睨み低い唸り声を上げた。 彼の特性である、左右で繋がった腕は既に片方が無くかつての動きをする事は出来ない。 それを千切ったのは彼自身であるが、原因を作ったのは槍で腕を繋ぎとめた人間―― 死ぬわけにはいかず逃げたが――やはりアレを喰らわねば、気が晴れそうにない。 僕たるモノは使わない。死を与えるのは自分自身だ。 森の奥、咆哮が響く。人間全体への悪意、そして彼自身が初めて抱く個人を対象とした怨嗟が滲むそれ。 ――危険を感じたか、本来の住人たる動物や虫達が次々と周辺から逃げ出していった。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
翔(ia3095)
17歳・男・泰
嵩山 咲希(ia4095)
12歳・女・泰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●囮 11月上旬、木々の葉は紅葉満開。木々の葉が落ち切るにはまだ早い。 標的である猿のアヤカシにとって、森の中は自身の庭の様なもの。紅葉の中にその身を隠した彼は、見覚えのある姿を複数見付け、歯を剥き出しにした怒りとも歓喜とも取れる表情を作った。 既に無い筈の腕が疼くような感覚がある。膨れ上がった憎悪が理性を消し飛ばす寸前に、猿は思い留まる。 「あのお猿さんですよね‥‥今度は逃がさないよう、しっかりと討伐しなければ」 見覚えのある一人、沢渡さやか(ia0078)が死角となる木々の覆う場所を特に警戒しつつ歩を進めている。その動きは慎重、なるべく足場の良い広い場所を選んで進んでいるのが分る。 更にもう一人、さやかとは真逆の雰囲気を纏っている叢雲・暁(ia5363)。彼女はそれほど警戒している風には見えないが、そもそもが彼女はシノビである。手裏剣を直ぐにでも取り回せるようにしているし、何より暁が最も警戒しているのは、癒し手であるさやかが負傷しない事である。 「そういえば、僕の手裏剣があいつの目に刺さってたよね。アレで目が駄目になっててくれると有難いんだけどなー」 「さて、どうでしょうね。集めた情報の中には、隻眼だったという話は無かったのですが――それを確認出来る程の距離で目撃したとも思えませんし、期待ぐらいはしておきましょうか」 暁が引き出した記憶に、戦闘を歩く蔓は微妙な表情。警戒心の欠片も見受けられない彼女であるが、同じく彼女もシノビ。まして囮役を二つ返事で引き受けている以上、表に出さないまでも警戒は充分にしているだろう。 そんな女性三人組から、やや離れた後方。此方も同様にシノビだが、暁や蔓とは印象が違う。かなり顔色が悪く、病人どころか死人の様な肌の色をしている風鬼(ia5399)。囮と後続の丁度中間点付近で、猿が現れるのを待っている。 (さて、幾ら頭に血が上っている可能性が高いとは言え、真っ正直に正面から来るとも思えんわけで。と、なると上からが定石‥‥片腕が無い以上、木の上での行動にはおのずと制限が掛る) 猿の大きさは、人並みかそれ以上。そんなものが木の上を移動すれば、素で目立つ。まして片腕が無いのであれば、更にだろう。 この作戦に入るに当たり心配されたのは、以前同様に猿が下級のアヤカシを動員してくる事であった。これをやられると分散作戦は意味を成さなくなるのだが、実際の所有効な対処手段は無い。ならば、と手負いであるアヤカシを挑発する為に蔓達三人が囮を務める事になった。 そして、その件のアヤカシであるが。 一度は抑えたものの、既に限界が訪れようとしていた。傍目には、警戒しているように見えるのは一人だけ。残り二人は穏やかな様子。ましてやその一人が、彼の腕を貫いた張本人である。 ――舐めるな―― 彼に言葉が発せられたのであれば、そう叫んだだろう。代わりに発せられたのは、咆哮。 木々を揺らし紅葉を撒き散らしながら、通臂猿猴が報復の歓喜と共に跳び下りてきた。 ●伏兵 笛の音が響く。さやかの持っていた呼子笛の音。それが遭遇を知らせる伏兵組への合図。 「猿回しの調教開始‥‥ってところか。お嬢さん方に一番危ない役目を任せたのは不本意だが、この場合は仕方ないか」 前半は冗談だが、後半は本気。軽妙に言いつつ肩を竦める緋桜丸(ia0026)。基本的には手段を選ばない彼ではあるが、その中に女性が含まれているのであれば別である。実際、口調は冗談めかしてはいるものの僅かに悔しさが滲んでる。 「本人も進んで引き受けたわけだし、そこは目を瞑りましょうよ。此方に気付かれて作戦がおじゃんになるよりは、遥かに良いでしょう。しかし、ここからじゃよく見えませんね」 緋桜丸を宥める徒手空拳の青年。非常に軽装の彼は翔(ia3095)。決して軽んじているわけではなく、その軽装こそが彼の武術を最も引き出す姿。 「うん‥‥とりあえず初手は問題無いようです。誘導も上手くいっています――アレ、相当頭に血が上っていますね」 流石にここからは囮の様子は伺えない。飛ばした人魂の視点から戦況を確認した鈴木 透子(ia5664)は、特に蔓を集中的に狙うアヤカシの姿に興味を持った。 アヤカシの人間に向けるのは基本的に食欲や憎悪――但し、それは種としての本能に近いもので個人の感情や欲求ではない。あの猿とて当初はそういったものであり、誰かの駒でしか無かったモノだ。 だが、透子に見えているアレは明らかに報復を狙っているモノ。或いは、これは彼にとっての『成長』なのか――それとも、元々がそういうものだったのか気になる所ではある。 「残りの腕一本――直ぐに斬り落として上げないとね。これで斬れるのか怪しい所だけれど‥‥」 報告を受け、くすりと口元をほころばせる鬼灯 恵那(ia6686)。落ち着いた物腰の少女だが、蛮刀を携えて呟く姿はそれとはかけ離れたもの。血のような色の瞳も、刀が同じ色に染まる事を待ちわびているようだった。 「下級の鬼アヤカシ以外の討伐は初めて。少し緊張しているけど――うん、いけます」 開拓者になってまだ日が浅いのだろう、年齢も一行の中で最年少の十歳という若さである嵩山 咲希(ia4095)は、言葉通り緊張は隠せない。だが、ここまでくれば覚悟も決まる。両親と一門の名前の為にもと、槍を握る手に力を込めて己を鼓舞。 ――さて、彼らの役目は伏兵。交戦に入った囮達に合わせ猿を挟撃する立場。囮組の位置調整の後に動く形となるが―― 「そろそろ動きましょう。三人で上手く此方に背中を向けるよう動いてくれていますし」 再度、透子の報告。ここまでは予定通り。後は仕上げを残すのみだ。 ●包囲網 囮の三人、何れも猿と相対した事のある人物。だが、彼の狙いはほぼ蔓のみに絞られていた。蔓当人にはいい迷惑だろうが、対する側とすればこれは非常にやり易い。 「これって差別じゃありません? 若い子を狙わないなんてねー」 当初は槍で応戦していた蔓は、既に回避一辺倒に切り替えている。猿の怨嗟に応えてやる義理など無く、笑いながら呟く。それがまた気に障ったのか、猛攻が一回り加速した。 「男は誰でも若い子の方が良いじゃないのか――な!!」 下手に蔓の補助に周ると自分も巻き添えになる。暁は兜割と手裏剣を使い分けて猿に細かい傷を与え続ける。 「あの、気にする所はそこじゃないと言いますか‥‥挑発は程々にっ?!」 蔓、暁、共に実際はそれほど余裕があるわけでもない。弓を持ちつつも、森の木々や猿の激しい動きに邪魔をされて射線の取れないさやかが一番余裕がある。但し、生真面目な彼女だからして挑発の混じるシノビ二人のやり取りは落ち着かないのだろう。 その三人の足運び――徐々に初期位置から反転しているのに猿は気付かない。この時点で彼の末路は決まったようなだが、頭の中にあるのは笑いながら己の攻撃を捌き続ける不愉快な人間をこの手で喰い殺す事のみ。 そして一瞬、蔓の足が木の根を引っ掛けた。シノビとしての勘を取り戻している最中の彼女であれば、仕方無い事とも言えるが――充分な隙。笑顔を増幅させた猿が一際大きく踏み込み、姿勢を崩した蔓の鳩尾に長大な腕を渾身でねじ込んだ。 ごきり、と嫌な音。躊躇せずに間合いに踏み込んだ暁の斬撃が治り掛けていた猿の目を抉るが、遅い。女性としては長身の部類に入る蔓の身体が軽々と後方に浮き木の幹に激突―― 「‥‥あー、骨逝きましたかねコレは‥‥ところで、自己犠牲も程々になさっては如何です?」 「ご忠告有難いのですけど‥‥これが私ですので」 ――流石に顔を顰めている蔓と幹の間にはさやか。咄嗟に割り込んだのだ。 その間にも、さらなる追撃。全身に刻まれた傷も割り込むように振るわれた兜割にも頓着しないその突進。暁の身体を武器毎跳ね飛ばし、漸く立ち上がった仇敵に迫る。 「少し、場の読みを外しましましたわ。すまんです」 頭上、枝の上、風鬼。言葉と共に撒き散らされる手裏剣――予想外の方向からの攻撃に、猿の突進が僅かに緩む。その隙に、蔓はさやかを抱えて離脱。標的を失った猿はそのまま幹に激突するが、激突された木はその部位より音を立てて折れていく。視界を覆う、舞い上がる土埃や落ち葉。 視界が効かない中で踏み込みと斬撃の音。咄嗟に振り向いた猿の残った腕に鋭い痛み。 「‥‥やっぱり斬れない。もっと良い刀が早く欲しいな」 晴れ始めた視界の中に、蛮刀を構え残念そうに呟く恵那の姿。まだ居たか、と其方に標的を移そうとした猿の側面を式が襲う。 「心配していた木の倒壊が逆に良い方に向きましたね。とは言え手負いの獣――油断はまだ禁物――」 式を放った姿勢のまま、透子は猿を見据える。手負いの危険を彼女に教えたのは、師である人物。蔓の屋敷に現れた時の様な計算された動きは、今の猿には無い。だが、それを補って余りある力と気迫に満ちているのもまた事実。 ここまで来て、漸く猿は自分の方が嵌められたのだと自覚した。だが、この程度の人数ならばまだやれる。慢心ではなく、彼の冷静な部分が判断した事であるが。 「遅いんだよ気付くのが。猿は猿らしく、山に籠ってりゃ良かったのにな!!」 尚増える、死角からの敵。緋桜丸の斬撃が、恵那に与えられた裂傷を更に深く裂く。それでもまだ腕は動く。離脱も叶うかもしれないと、猿は頭上に跳躍するが―― 「悪いけど、もう逃がす気は無いんですよね。こうなった以上、覚悟を決めて下さい」 ――それすらも、不可視の衝撃波に阻まれた。翔により撃墜された形の猿は即座に立ち上がり退路を探す。そして見付けた一箇所、そこに向けて駆け出そうとしたが。 「残念ですが、これで詰みです。嵩山咲希――推して参ります」 其処すらも、槍を携え見栄を切った咲希に塞がれた。彼女の宣言通り、これで詰み。頭上を含めた全方向からの包囲網が完成していた。 ●怨嗟の断末魔 「痛ぁ〜‥‥よくもやってくれたね。残りの目ん玉潰してやる!!」 身体の各所に汚れや葉を付けてはいるが、吹っ飛ばされた際の負傷は軽かったらしい暁が跳ね起きる。言葉通りに手裏剣を放つが、これは振るわれた腕により弾かれた。 その払った腕に、再び恵那の蛮刀が迫る。二度抉られた箇所に狙い違わず喰い込んだそれだが、そのせいで一瞬止まる細身のサムライ。 「――蹴り?!!」 腕は使えない。ならば脚を使うまで。腕に比べれば未発達とも言えるそれだが、猿の体長は人並み以上。直前にさやかが舞いで運んだ風による護りの力のお陰で衝撃は少ないが、しなった脚は恵那の身体を大きく引き離す。 「この期に及んでまだお嬢さん方に手を出してんじゃねえよ、猿公!!」 蔓、暁に続いて恵那にも攻撃を加えた猿に対し、堪えていた緋桜丸が切れた。怒りが上乗せされた渾身の一撃は更に腕を抉るが、未だ健在なそれ。 合わせて懐に飛び込んだ翔の拳と足が筋肉の鎧に覆われた猿の身体を穿つが、痛みを無視した猿はそのまま懐の彼を抱え込もうと――した瞬間、態勢を崩す猿。 咲希の放った一撃。決まれば転倒すら誘うそれだが、流石にそこまでには至らない。だが、翔が離脱するには充分。 「まったくしぶとい――とっとと終わってくれんですかね」 頭上から風鬼の放つ手裏剣。あくまで樹上に上げない為の牽制だが、それは猿の身体に吸い込まれていく。だが、その程度の痛みは気にもしない猿は咆哮。気迫に満ちた姿にやり難さを改めて痛感する透子だが、手元は自然に式を放つ。放たれたそれは猿の喉元をかなり深く抉ったが、未だ衰える事の無い気迫――凄まじいまでの生命力と執念。 そして、ふらりと猿の前に無防備に立つ姿――蔓。骨折の痛みはとりあえず無視し、常以上の笑みを猿に向けた。瞬間、腕が失われた記憶が頭の中で蘇る。咆哮と共に腕が蔓の鳩尾に再度迫り、同じように嫌な音を立てつつ身体を吹き飛ばす。ここまでは同じ。 「‥‥後、お任せしましたよー」 苦笑いしつつ、意識を失う蔓。ここからが違った――いや、ある意味では同じか。仇敵を殴り飛ばした腕が動かない。気付いたその時には、既に蔓の槍が猿の腕を地面に縫い付けていた。 ここであの時と同じく腕を捨ててまで逃げれば、猿にも再戦の機会はあった。だが、二度も腕を失う屈辱が彼の行動を致命的に遅らせてしまった。 恵那と緋桜丸が同時に伸びきった腕を叩き斬る。自由になった瞬間、暁の手裏剣が残った目を宣言通りに潰す。消える視界――その顔面を、全体重を乗せた翔の拳が打ち抜く。後頭部まで抜けた衝撃の中、それでも感覚だけを頼りに樹上へ跳ぼうとするが、風鬼がそれを許さない。更には全身に闘気を走らせた咲希の振るう槍の石突が、今度こそ彼に地を舐めさせた。 ――ヤツだけは。 己の死はもう見えた。だが、そんな事はどうでも良い。あの女だけは道連れにしてやるとばかり、足の力だけで包囲網を抜け出し吹き飛ばした蔓の方向へ突進する猿。 衝撃――確かにぶつかりはした。だが、これでは距離が近すぎる。俺が当たったのは何だ? 盾と身体ごと吹き飛ばされたさやかは痛みと共に苦笑い。これが私、と言ったものの確かにこれは損な性分だと自覚した。改める気などは無いのだが。 「これで――終わりです!!」 現状を認識出来ない猿を、透子の放った式が襲う。これで終わり。轟音と共に地に倒れ伏す通臂猿猴。僅かに残る意識と力で最後に彼が行ったのは、長い長い怨嗟の籠った咆哮。 それは、彼が消えるまでの間、延々と森に響き渡っていた。 ●ご褒美 蔓の骨折はさやかの力である程度は癒えたものの、完治とは言い難い。報酬に含まれていた温泉がある意味では役立ったわけだが、一つ問題もあった。 蔓の意識が戻るまで、開拓者達は場所を知らないので待ちぼうけになったのである。 結局、彼らが宿に辿り着いたのは深夜に近かったのだが、それなりに楽しませてはもらった。詳細は別に語る事になるが―― そして、温泉。 翔と緋桜丸は至って普通に入浴を楽しんでいたのだが、暴走した暁が何故か覗きに走りひと悶着。重ねて言うが、覗かれたのは男二人である。 風鬼は十秒というとんでもなく短い時間で上がっていった。 残りは普通に入浴。消耗著しい後にこれは有難い。恵那は紅葉を楽しみつつのんびり。さやかはしきりに蔓の怪我を心配し、苦笑されていた。 「‥‥何か、このまま寝てしまいそうです」 「明日にはここ閉鎖されますから、下手をするとそのまま放置されますよ」 半寝の透子と、流石に顔色の余り優れない蔓。その蔓に、透子は半寝の無防備さからふと思い付いた事を尋ねてみた。 「蔓さんって、妹さん居たりします?」 「‥‥確かに居ます‥‥ちっとも似ていないですけどね」 返答はやや低調。その表情は懐かしむものとは違うように、透子には思えた。 |