【只人】男という馬鹿
マスター名:小風
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/11 15:50



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 朝、目覚めたら枕元に母と名乗る義父が居た。
 前半はともかく、後半は意味不明。だが、これが皆道標の現実である。
「‥‥何してんの、アンタ」
「可愛い娘の寝顔を拝見に来たの」
 そんなもんは、正月の里帰りで見た筈だ。だが、そんな事はどうでも良い。
 女性陣は想像して頂きたい。一人暮らしの筈なのに、朝枕元に、絶世の美女にしか見えず『母』と公言してはいるが性別的には間違えなく『父』である人物が満面の笑みで正座している光景を。
 足は治ったのかとか何しに来たとかどうやって入ったとか色々あるが、とりあえず問答無用で殴り倒した。

 標の義父である千尋の足は、まだ完治とはいかないようだった。松葉杖付きでここまで来たのは大した根性だと思う。
「‥‥それで、何しに来たの? あっちは放っておいて良いわけ?」
 あっちとは、千尋が管理する孤児院。標の実家と言える場所の事。
 これから職場である開拓者ギルドに出勤であるので、あまり時間が無い。朝食を口にしつつの義娘の問いに、義父はたおやかな笑みで答えた(因みに彼は朝食を食べていない事を主張したが、全力で無視された)
「人手が欲しいのですけど」
「お金が欲しいのですけど」
 詳細を語らない千尋も悪いが、その返しで現金を要求する標もどうかと思われる。前者も後者も分ってやっているのだが、言外に『人手が欲しいから開拓者を貸して』というのと『それを雇うだけのお金があるのか』というのを込めると言うのは流石に言葉が足りな過ぎと言わざるを得ない。
 孤児院というのは他に収入を得る手段を持っていなければ、国や周囲の人間からの支援が無い限り維持出来ないもの。自立した標の給料から幾ばくかの仕送りがあるとはいえ、あの施設に金銭的余裕などあるわけもない。そこを分っていても、人手が欲しい理由は何なのか?
「次がね。年明けから外で働き始めたのよ」
 千尋の言う『次』とは、彼の施設で現在最年長となる少年の事。標にとっては義弟になる。
「‥‥随分と中途半端な時期から。日雇いか何か?」
「いや、定期ではあるのだけど。ちょっとね‥‥」
 年末年始の忙しい時に雇われたという事は臨時的なものかと標は思ったが、千尋の様子を見るとそういう事でもないらしい。
「怪しい仕事?」
「何かね、ヤ印の下働き集団みたいのに入っちゃったみたい」
「いや、それ仕事って言わない。何してんのあのアホ‥‥」
 標の知る次は、口も態度も悪いが真人間だった筈。少なくとも進んで駄目な道に進むような人間ではなかった。
 千尋は苦笑いで小指を立てる。
「最初は脅されているのかとか考えてたんだけど、どうもコレ絡みらしの」
「‥‥女? あの子にそんな甲斐性‥‥心の事?」
 『心』というのは、次と同じく施設最年長の少女。日頃は喧嘩ばかりしているが、千尋や標からすると『その内こいつらくっつくだろ』という関係。
「そうだったら良かったのだけどね。二十歳越えの人みたい――多分、ヤ印のお手付き。その集団の頭みたいね」
「手を出して脅されたわけではないって事は、色香にでも惑わされた?」
「ま、そういう事。あの子、私や貴方や心以外の女性に免疫無かったものねえ。施設で鍛えられてるから、使いっ走りにはもってこいの人材だったのかもね」
 とりあえず自分を女に含めている千尋の妄言は無視するとして、標は唇を噛む。
 相手が悪い。当人が進んで入ってしまったのも拙い。下手な介入をすれば大元を刺激する。そうなれば孤児院の方が危険だろう。
「心は落ち込んじゃって使い物にならないし、次が取り返しがつかなくなる前にどうにかしたいの諱v
 役人に御厄介になるだけならまだしも、犯罪に手を染めてしまえば後戻りは利かない。千尋の言う事はそういう事だろう。
「つまり、荒事になるかも知れないから、そういうのに慣れた人手が欲しいと。
 ‥‥概要は分りました。このままギルドまで一緒に来て下さい。詳細な話は其方で伺います」
 前半は義娘として、後半は開拓者ギルドの職員として。告げた標に、千尋は不思議そうな顔。
「お金の事は良いの?」
「何処から融通しているのか知らないけど、少ないとは言え用意してるでしょ?」
「うん。心がずっと貯めていたお金をくれた。流石に胸が痛い」
 それは痛い。千尋と標は胸が痛いが、次に関しては行動自体が痛い。金額自体は決して多いとは言い難いが、額面の問題ではないだろう。
 ――とりあえず、次に会ったら一発殴るか。
 そう、標は心に決めた。


■参加者一覧
陽(ia0327
26歳・男・陰
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
太刀花(ia6079
25歳・男・サ
煌夜(ia9065
24歳・女・志


■リプレイ本文

●妨害の輪
 環境を変える事は、自身からでも他者からでも大変なもの。それが自身で選んだ道であれば、尚更である。
 そして、その道が反社会的となれば、無理矢理にでも修正してやる必要が出て来る。
 今回の一件はそんな話であるが、追加事項として『女絡み』が付随されている面倒なものであった。
 これに対し、開拓者達が取った手段は――
「このアマぁ、逃げんなあっ!!」
 ――絶賛逃走中、巫 神威(ia0633)。全力とは程遠い速度であるが、追う人相の悪い若者と連れの少年は引き離されていくばかり。因みに、少年の方が今回の依頼における修正対象、次。
 次が集団の中での立ち場を失うよう仕向ける、それが狙い。第一段階として、彼の仕事をとことん邪魔する事。
 依頼主の千尋が事前調査した『仕事先』に先回りし、徹底妨害。加減を誤ると不要な被害が出る可能性があるので標などは難色を示したが、そこは皆で説得した。
 もう一つの問題としては、神威を含めた半数以上が次に顔を知られているという点。一応、ばれないように努力はしているもののどこまで有効かは本人も怪しく思う。なので、必然的に長時間接触が出来ない事が難点。
「撒きました‥‥か。しかしあの元気、もっと他の事に振り向ければ良いものを」
 追跡を振り切った神威は追跡模様を思い出し苦笑。
 次が踏み込んだ世界は不健全であるが、惰弱な者はやっていけない。そういう意味で、勿体無いとは思う。
「その使い道が分らない辺りが一番駄目なのでしょうが‥‥さてと」
 懐から資料を取り出し、捲る。千尋の調査資料であるが、その正確性は見事の一言。一体、あの人は昔何をやっていたのかと一同疑問に思った程だ。

 煌夜(ia9065)も同じような感想を、違う時間、別の場所で感じていた。
 彼女の役割も同じくだが、神威と違い面が割れていないので動き易い。
「それはともかくとして‥‥次君のどこが気に入ったのやら、その人」
 幾度か遭遇した次の様子を思い出し、首を捻る。
 悪くはないが、態々色目を使って引き入れる程のかと言われると微妙。大体、色目で落ちるような人間がどこまで役に立つかなど怪しいものである。
 この辺り、異性に対し主に胸を使ってからかう事の多い煌夜の実感。
「大体、私の効かなかったしなぁ‥‥」
 次は先輩格とつるんでいる事もあれば単独の時もある。その単独の時を狙って絡んでみたのだが、どうにも効果が薄かった。
 尤も、ただ単に胸の大きい女性は好みでないのかも知れないのだが。

●仮装大会?
 外見は非常に大切。標と鈴木 透子(ia5664)の目の前には、その典型例が居た。
「紫音君はともかく、陽さんは‥‥」
「‥‥チンピラを通り越して、不審人物ですかね」
 前者が標、後者が透子の感想。
 二人の目の前には、凸凹という表現がしっくりくる二人。凸が陽(ia0327)、凹が伊崎 紫音(ia1138)。
 陽は、透子の言ったようにチンピラ風。顔の造りが元々鋭めなのでそこは構わないのだが、問題となるのは全身に刻まれた怪しげな文様の刺青。その筋の人間が刻む刺青とは全く方向性が違うし、傷跡と言い切るにも無理がある。
「いやいや、このままは無いって。怪我の手当てみたいに隠しちゃえば問題無いでしょ。後は頭に何か巻くとかすりゃ充分」
 そんな事は本人も分ってるからして、この答え。それならと二人の視線は隣へ。
「‥‥あの、何かおかしい所ありますか?」
 此方は自信無さ気の紫音。服装は何処にでも居る少年と言った風情だが、当人の顔立ちや振る舞いが明らかに違和感になっている。
「場馴れしてない感じの方がこの場合は良いのですかね‥‥」
 標は、自分が神楽の都に出た際はどうだったかと思い出しつつ、結論付けた。少女と見間違われる容貌に関しては、幼い頃から間近に性別を超越したナマモノが居たので気にしてない模様。
 そして、変装しているのがもう一人追加。
「色付き眼鏡も悪くはないですが、思った以上に見辛いものですね」
 薄黒く色付いた眼鏡を掛けた太刀花(ia6079)が、部屋に入って来る。彼は元々眼鏡男なので見ている方はそれほど違和感が無いのだが、寧ろそれは当人が感じているようだ。そもそも、別に彼は視力が悪いから眼鏡を掛けているわけではない。その健常な目で視野を狭める眼鏡、しかも色付きを掛ければ違和感を覚えるのも当然だろう。
「並んで見るとどうよ?」
 陽が太刀花と並ぶ。元々、外見の共通点など無いに等しい彼らだが、更にそこが強調された気がする。
「一応、お二人にそれで迫られれば怖い事は怖いですよ」
 紫音の感想。彼と二人を見比べた透子と標は、まあこれはこれでありか、と納得。
 そこへ帰還する少年。実働ではなく後方支援、下地作りの為に走り回っていた赤マント(ia3521)は、そのままの勢いで孤児院内に駆け込んで来た。
「ただいま。
 二人の妨害は問題無くいってる。例の女の人の行動半径は掴んだから、大まかな場所選定はやっておくよ」
「お疲れ様です。ところで、その人ってどんな人でした?」
 標がふと気付いた様に尋ねる。義弟を落とした相手の事、やはり義姉としては気になるのだろうか。
「んー‥‥想像していたより普通? 美人さんではあったけど、際立った特徴も無いし」
 手下への接し方も、その辺りの女性と変わりなかった。実際に観察した赤マントからすると、単純な相手ではないように感じられた。
 そんな事を思いつつ、もう一つ確認すべき事を思い出した。
「そういえば僕とすれ違いで、秋桜が布袋抱えて凄い勢いで外出てったけどアレ何?」
「布袋‥‥?」
 標は首を捻る。彼女に一体何を任せていたのかと言えば――
「ああ。多分、お腹が空いて泣き出したのでしょう」

●心と次
 当然、秋桜(ia2482)自身ではなく、彼女が世話を引き受けた孤児院の赤子の事である。
 前回、ここに来た際にも彼女は同じ事をしていたが、今回も空腹を訴え泣き出した赤子を抱えて近所の子持ち主婦の元へ全力疾走した次第である。
 そして満足した赤子を抱え戻って来たのだが、孤児院の入口に無表情の少女が立っているのに気付いた。
 心。一応、今回の依頼主は千尋になっているが、報酬の出所は実はこの少女らしい。その額は開拓者にとっては雀の涙だが、彼女にとっては必死に貯めたものだろう。
 因みにこの報酬、秋桜や陽は辞退しようとしたのだが、意外な事に標から止められた。曰く『心の今後の為にも受け取っておいて下さい。物事に代価が付くのは当然ですし』との事。
「どうかなさいました?」
 白々しいと思う。心が夕方になるとこの場所に居る理由など明白で、表情に出ない手合いなので分り難いが、これは重症と言える。
「‥‥何かもう、戻って来ない気がする」
「それは戻り辛いとは思いますが‥‥彼の家はここでしょう?」
「‥‥女云々は別にして、あいつ働きに出たんでしょ。この街で、あたし達みたいのが仕事見付けるの難しいから」
 首を傾げる、イマイチ意味が分らない。
「親が居ない。そんな子供にまともな仕事なんか無い。標姉さんみたいに何でも出来る人なら別だけど」
「要するに、まともな職を求めるにしてもこの街からは出るのでは、と?」
 雇う側からすれば、素性の定かでない子供と逆のどちらが良いかと言われれば大概は後者だろう。そこは分るが、その辺りはもう秋桜達の踏み込む領域ではない。あくまで彼女達の仕事は、次をまともな道に戻す事だけだ。
 ――そう、思ってはいるのだが。
「つかぬ事をお伺いしますが‥‥あのお金はどういったもので?」
 ――微妙な領域に踏み込んでしまう。
 心は横目で秋桜を見る。年下である心ではあるが、背は秋桜よりも遥かに高い。見下ろしている状態になるのは当たり前だが、そうされると睨まれているような気になる。その彼女の答えは。
「――もう忘れた」

 一方、次であるが。
 街でも治安の宜しくない区域、彼が所属する集団の溜まり場に居た。
 目の前には集団の頭たる女性。周囲に兄貴分達の姿は無い。
「‥‥昨日今日でいきなり余所者が手出ししてくるのは考え難い。そうなると‥‥次、心当たりは?」
「いや、俺も分りませんよ。つか、何で俺なんです?」
「昨日今日に入ったのは貴方だけだから」
 彼女も馬鹿ではない。ここ数日でシノギに邪魔が入り始めた意味はおおよそ理解していた。間違いなく次が原因だろう。そもそも邪魔が入ったのが、彼の仕事のみというのが決定的だ。
(‥‥どうしたものかしら。安い買い物の筈だったけど)
 次を引っ掛けたのは、単に心身共に優れた若いのを探していたから。シノギの一つである店から、孤児院の子供が職を探していたと聴き、鍛えれば化けるかと引っ掛けてみれば中々の逸材だった。
 教養、武術、機転、度胸――礼儀は足りていないが、若い内はそれでも良い。何より、碌な生まれ方をしなかった者はこの業界に多い。誘惑紛いの勧誘をしたのは彼女であるが、それなりに考えて引っ掛けたのだ。
 とは言え――
(‥‥早まったかしらね)
 ――早々に切り捨てる事も考えている辺り、やはりどう足掻いても悪党の一人だった。

●けじめ
「‥‥率直に言って要らないわ、坊や」
「ど、どうしてですか?」
「坊やみたいな規格外、末端組織が抱えたら上から即潰されるの。坊やは無事に済むだろうけど、私達は終り――出る杭は打たれるって言葉、知ってる?」
 計画は躓いた。偽装襲撃を撃退し集団への組み込みを希望した紫音に対し、女性は詰まらなそうに言い放つ。
「‥‥何か変な話になってないか、アレ?」
「‥‥暴れすぎましたかね」
 物陰で紫音に追い払われる役目を担った陽と太刀花が顔を顰める。
 女性が拒絶反応を示したのは一点――紫音が人間の枠を超えた力を見せてしまった事。完全な上下社会たるヤ印の世界で、末端組織が規格外の力を抱える事は終わりと同義。
「あー‥‥何か良くない方向に行っちゃたね」
 二人の後ろから小声。この場所を設定した赤マントが苦い顔をしている。
「大体、わざわざ私達みたいのに絡まなくたって、そんな力があるなら行く所行けば引く手数多‥‥で、目的は次かしら?」
「えーと‥‥何の話か、ボクにはさっぱり」
「都合が良すぎるのよ。あの子の仕事が妨害されて、その後に此方が絡まれて、挙句に不相応な逸材が職を求めて来る? 坊やならコレ、偶然として片付けるかしら?」
 普通に考えて有り得ない。女性の分析は至極真っ当だった。
「まあ、その力が此方に向けられても困るから、あの子を放流しろって言うならするわよ。ただね‥‥」
 女性は目を細め、口角を上げる。何処にでも居そうな様相が一変し、如何にもその筋の女性である事を感じられた。
「どの業界でもそうだけど、けじめってものがある。特に私達の間じゃそれは絶対。分るかしら? 次一人で、私の所に抜ける事を言わせに来なさい。
 ‥‥殺しはしないよ」
 最後の一言はともかく、それ以外は至極真っ当だ。だが、彼女らの業界での『けじめ』というものは、漠然とはしていても暴力的である事は間違いない。
 何より一番の問題は次なのだが‥‥それは透子次第か。

 実は。
 その現場の間近に、次と透子は既に居たりする。
 計画では次の集団内での評価を下げた上で、更に紫音が誘われる現場を見せ自発的に集団を抜けさせる方向に持って行く形だった。
 だが現実は、女性は次を切っても構わないと言っているが、次にその気はない。
 想定とは違うが、話の向きは悪くない。
「それで、貴方はどうします?」
 前置きは必要無い。透子は俯いている次に問い掛けた。
 本当は事前に接触して下地を作っておきたかったのだが、出会う度に逃げられた。顔が割れているのが災いしたのだが、顔見知りと接触するのを避けるというのは後ろめたく思っている証拠。
「‥‥親父か姉さん辺りか? コレ」
「直接頼んできたのは千尋さんですけどね‥‥お金は心さん持ち。貯金全額ね」
 働きに出ようとした次であれば、心が貯め続けたお金の大事さは分るだろう。それが自分の為に全て放出されたとなれば、どう反応するか――
「‥‥何で俺の事で使う?」
「分らないとは言わせませんよ。将来を見据えた相手が馬鹿な方に進んだのを修正する為、彼女なりに必死だったのでしょう」
「‥‥俺もあいつの事は嫌いじゃないよ。でもさ、貧乏人同士がくっついて何になる? 心は無愛想だけど、見た目も気量も悪くねえ。その気になりゃ、もっと良い相手が見付かるだろ」
 ――成程、この子は別の意味で馬鹿だ。そう透子は理解した。
 言っている事は分る。だが――
「確かに、私も彼女に言いました。男なんて星の数くらい居るから、すぐ次が見付かるって。ただ」
 ――あなたは一番重要な所を無視している。
「きちんと話してそういう結論に達したのならともかく、あの人の色目に惑わされた挙句相談もしないまま駄目な道に進んで他人の事を言えた立場ですか? 頼りないのは仕方ないにせよ、責任の置き場所を違えている時点で子供以下です」
 何か殴りたくなってきたが、それは皆道家の人間の役目だ。
「‥‥あーあ。俺も馬鹿だけど、皆馬鹿だな。何にせよ、もうあそこに俺の居場所はねえし、ケリ付けるか。あんたらは孤児院に戻ってろよ」
 何を吹っ切ったのか、次は苦笑いして女性の元へ向かっていく。
 そして、それから――

●顛末
 あの場所で何があったのかと言えば、実に単純。女性の前に立った次は、取り出した小刀で自身の小指を叩き切った。
『‥‥貴方ね。私は仲間内で適当に袋にして終わらせる気だったのだけど』
『‥‥何ならこの後、そうしてくれても構わないですよ』
『お断り。どうせその辺りにそこの坊やのお仲間居るんでしょ? 最後のお駄賃上げるから、とっとと医者行って来なさい』
 ――以上が、次と女性のやり取り。
 千尋はそれくらいで済んで良かったといった様子だったが、心は無表情のまま半泣きだった。

 そして、何とも言えない結末のままでの後日、開拓者ギルド。
「「「「「「「「孤児院を出た!?」」」」」」」」
 標によって呼び出された一同は、顛末を聴いて唖然。
「出たというか叩き出されたというか‥‥どうも心が切れたらしくて、自分に相応しい男になるまで帰って来るなー、と。逆切れした次は次で、お前の想像以上になってやるから男日照りで待ってやがれ、と」
 何だそれは。お互い罵り合いつつ将来を誓っているだけではないか。あの騒ぎは何だったのかと、疑問にすら思う。
「そこで何処か誰も知らない所で頑張れば決まったのですけどね‥‥あの馬鹿、私の所に転がり込んできたんで、知り合いの変人にお願いして高給だけど超が付く程厳しい職を紹介してもらってから、叩き出しました。小指無いから、更に大変でしょうねー」
 無害な笑顔で毒を吐く標。
 ある意味進展したのだろうが、イマイチ納得しきれない一同だった。