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■オープニング本文 統べる存在が居なくなった時、その下に従っていたモノはどうするのか? 色々あるだろう。 自身も同じようにならないよう逃げる、自身がその立場を得る為に動く、或いは足枷が無くなったのを良い事に好き勝手に暴れ回る等々―― 中には状況を把握出来ないまま、自身に宛がわれた仕事を続けるモノも居るだろう。 そんなモノ達がここにも居た。 ジルベリアの森の中にある、とある村。 特に何の変哲も無い村であるが、今この村を治めているのはアヤカシ――その一点のみ、明らかに異常であった。 勿論、アヤカシ自身は村を治めているつもりなど無いし、そういった職務をこなしているわけがない。 彼らの目的はただ一つ、『餌』の管理である。 村で一番大きな建物――恐らくは宿屋なのだろう。村襲撃の際にそこを占拠し、同時に捕えた女子供を地下倉庫に監禁して男衆の抵抗を封じる。自分達は宿内に引き篭もり、必要以上に外に姿を現さない。 どういうつもりか、アヤカシ達は監禁した女子供の食事の世話を行った。彼らに料理の習慣があるわけはないので、出されるのは生ものばかりであったが。 また、男衆に関して言えば逃げる機会は幾らでもあった。助けを呼ぶ機会も同様。実際、この依頼が出されたのはそうした者のお陰なのであるが、残された者達は既にそんな気概も失せていた。 一人が逃げ出した日の夜、男衆は件の宿屋の前に集められた。宿に引き篭もっているアヤカシ達――雪子鬼達に引っ張り出されたのだ。実はこれ、アヤカシ達が村を支配し始めてから毎日行われているものである。最初は皆して喰われるのかと怯えていたものだが、意外な事にアヤカシ達は何もしなかった。ただ、雪子鬼達を統率しているモノが並んだ男衆を眺め、暫くしてから解散させる‥‥ただそれだけ。 だから、その日も何も無いものと男衆は思っていた。 空腹で目をぎらつかせる二十体の雪子鬼達、そして男衆が待つ中、宿から一体のアヤカシが出てきた。恐らく単純な個体としては同じく雪子鬼なのだろう。だが、元々そうであったのか変質したの分らないが体格が他の同種とはまるで違う。普通の雪子鬼は子供程度の上背しか持たないが、ソレは人間の成人女性と同等の上背があった。合わせ、体格もかなりのもの。更には、何処で奪い取ってきたのやら上から下まで重武装。 それが統率者。頭の造りも良いのだろう、ここ暫く人を喰らわず不満たらたらの二十体と違い、表情や瞳に理性が感じられる。彼は何時もと同じように並んだ男衆を見回す。今日も何事も無く終わると思っていたそれだが、ふと統率者が目を細めた。もう一度じっくり男衆を見回し、彼は部下に何事か指示を出した。 指示を受け、一体の雪子鬼が宿の中に入る。戻ってきた彼は、監禁されていた女子供の中から一人の若い娘を選んで連れて来ていた。 その娘を受け取りニヤリと笑った統率者は、娘を部下達の前に放り投げ一言。 ――その言葉、村人達に理解出来ないものだったのは幸か不幸か。統率者の言った言葉は、至って単純。 『喰ッテイイゾ』 その後の事は記すまでもあるまい。生きながら、二十体の小鬼に代わる代わる全身を引き裂かれ啄ばまれ喰らい付かれる娘の絶叫。それから耳を塞ぐ事も目を逸らす事も許されない男衆。 統率者の目が如実に語っていた。 ――昨日と比べて一人足りない。明日から足りなくなる毎にまた一人喰う。お前達は闇雲に喰われる為に居るわけではないのだ。余計な事をせず、大人しくしていろ。 彼にそれを命じた相手はもう居ない。統率者が何時それに気付くか、或いは一生気付かないのか――どちらにせよ、明るい未来ではないのは確かだった。 |
■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
氷海 威(ia1004)
23歳・男・陰
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
タクト・ローランド(ia5373)
20歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●看破と捜索 宿から雪子鬼達が溢れ出す。醜悪な顔つきをした彼らは、各々家々に散っていく。毎日恒例の数確認。尤も、彼ら自身はこの行為の意味を解っていない。統率者の命で、人間を喰らうのを我慢しなければならないと思っている程度だ。 だから、気付かない。 半月程度前、村の男衆が一人欠けていた。雪子鬼は数が数えられない程馬鹿ではないが、『自分の担当する家に何人の人間が居るか』というのを理解していなかった。そもそも『住』の概念が無く、生殖能力も無い彼らは『家庭』の概念も無い。総数としてしか認識しておらず、挙句に個体識別も出来ないと来ている。だからこそあの時、統率者が総数を数えるまで発覚しなかったのだ。 その愚昧さが、今日も表面化する。 あの時のように数が欠けているわけでも、まして増えているわけでもない。ただ、違和感は覚えた。愚昧であるのを引き換えに、感覚的部分は強い。匂いが違う、或いは余計な匂いが混じっている――が、そこまで。違和感を現実に結び付ける事が出来なかったのだ。これが無駄な命令を受けていない状況であったなら彼らも直感的に牙を剥いたのだろうが、中途半端な知性が『喰わない事』を優先してしまった。 不要な制御を受けてしまった事、これは彼らにとっては不幸だろう。 雪子鬼達に追い立てられる村人の中、明らかに村人で無い者が混じっている。 この村から逃げ出した男衆の一人が出した救出要請を受けた開拓者達である。 (羊飼い気取りか‥‥アヤカシめ) 村人に扮した者の一人、氷海 威(ia1004)は不快を押し殺しつつ、大人しく従う。アヤカシへの怒りが気を抜けば表面化してしまうが、それをすれば村人を危機に巻き込み死んだ娘も浮かばれない。代償か、握り締められた威の拳から軽い流血。力を入れ過ぎて爪が皮膚を喰い破ったのだ。 (こいつらも頭良いんだかなんだかなあ‥‥いや、やっぱり馬鹿か) 一方、此方は怯えた様子を装いつつ、脳内では気の抜けた感想を漏らしているタクト・ローランド(ia5373)。 普通に考えて雪子鬼如きがここまでの行動を取るわけが無い。彼らに命じた者が居る筈で、恐らくそれはこの地に既に亡い。タクトの脳内は、それに気付けないアヤカシ達への揶揄で占められている。尤も、下級のアヤカシまで世情を正確に把握するような知能を持った日には、たまったものではないが。 (程度が低いな‥‥上辺をなぞっているだけか。統率しているのがどの程度か‥‥) もう直ぐ宿屋。追い立てる雪子鬼を統率する者を思い浮かべ、雪斗(ia5470)は平坦に分析をする。何処か区切りの付いた思考、彼の過去に由来するものだが事この状況においては有効に働く。 尚、雪子鬼が雪斗を見た際、他の仲間達以上の違和感を覚えたようだ。個体の識別は出来ていないが、体型から性差の区別くらいは出来る。女性寄りの容姿、だが匂いは男――後者を信じた雪子鬼の判断は正しく間違っている。 (今の所は問題無しか。後は救出組次第ってところだが) 宿前に集められる。間も無く統率者が現れるだろう。ここまでで決定的な破綻は無い。この後に続く点呼、分岐点はそこだ。そこで気付かれるか否かで対応が分かれるな――そう、羅喉丸(ia0347)は落ち着きの無い雪子鬼達を見ながら考えた。 宿の入口が開き、統率者が現れる。成程、容姿は同じく雪子鬼だが大柄。何より、佇まいに落ち着きが見られる――男衆を一瞥した彼は顔を顰め、鼻をひくつかせる。そして―― 『違ウ匂イガ混ジッテイル――ソコノ四匹、オ前達ハ何ダ?』 ――そう、人には理解出来ぬ言葉であっさりと擬態を看破した。 同じ頃、宿の裏口から四つの人影が静かに中に入った。 一人以外は女性。この村の女性は全てこの宿の地下室に集められている。必然的に彼女らはこの村の者ではなく、表の四人と同じく開拓者である。 内部は略奪した食べ物のカスが散乱、家具も適当に投げ出されている。かつては古くも手入れが行き届いていたであろう壁や床も穴だらけ。そして、微かに糞尿の匂い――アヤカシに排泄の生理現象は無い。だとすればこれは―― 「捕えられている女子供のもの、か――食料を与えているだけらしいな」 静かに答を出す琥龍 蒼羅(ib0214)。表面上冷静だが、内心穏やかではない。彼の心眼によって、捕えられた女子供の位置は大まかに特定できている。表の男衆の為に、何より劣悪な環境に置かれる女子供の為に即動き出そうとしたが。 「――どうした?」 「表のアヤカシ達が‥‥」 「‥‥活発になった?」 動きを止めた巫女二人。蒼羅の心眼に合わせ張られていた巫女の結界、それに引っ掛かっていた瘴気の動きが変動した。斎 朧(ia3446)は落ち着きを持って、沢渡さやか(ia0078)は心配げに――二人の巫女が異常を察知した直後、表から笛の音と争う音が響き始めた。 「うわ、もう表の四人ばれちゃった?! 悠長に話している場合じゃないね」 素早く宿の外観から想定した内部構造を頭に浮かべ、伝えられた大まかな位置と合致させていく叢雲・暁(ia5363)。彼女はシノビ――但し、至る一族郎党一切合切斜め上の方向性を持った『NINJYA』という概念のシノビだが、積み重ねたものは事実。直ぐに監禁場所を割り当てた。 「こっちっと‥‥厨房、食糧庫か」 裏口から厨房は直結。すぐさまそこに飛び込んだ四人は、これまた酷い惨状の厨房の床に広がる様々な物を払い除け、地下室への入口を発見した。但し、鍵付きの。 「助けに来た者です! 中に居らっしゃいますか?!」 床を叩きさやかが確認する。弱々しいながらも返答有り。便臭が強くなっている事からも、ここで間違い無いだろう。 「なるべく出口から離れろ、扉を抜く」 蒼羅が中に告げる。安普請の宿だ、一撃で抜けるだろう。加減を間違って中の者を負傷させないよう気を使えば問題無い。但し―― 「――どうも、そう簡単にはいかないみたいですわね」 「気付かれましたか‥‥」 朧、さやかが立ち上がり、厨房の出入り口を睨む。振り向いた蒼羅はそこに居た者を注視して眉を顰め、刀を構え直す。暁は既に臨戦態勢。 『余計ナ事ヲシニ来タ餌ガ此処ニモ居タカ‥‥』 錆が浮き最早鈍器と化した大剣を携え、統率者がそこに立っていた。 ●暴発と陣取 即座に開拓者達の擬態を見破った統率者はその場で命を下した。 『餌共ヲ盾シロ』 彼らにとって村人は大事な餌だが、命を賭けてまで確保するべきものでもない。生者と死肉のどちらが良いと言われれば当然前者だが、後者でも一時の空腹凌ぎにはなる。人間などそこらに腐るほど居る、幾らでも使い潰せ――そういう事だ。 尤も、実行出来ているかと言うと微妙。走り回っているのが良い証拠。盾にするならば、男衆を人質にしてしまうのが手っ取り早いが、理解が足りず逃げ惑う男衆の間を走り回るのみ。統率者も僕の質の悪さに辟易したのだろう。宿屋内の女子供を連れて来る為に身を翻した。 当然、それを許す開拓者ではない。乱戦の合間を縫い飛び道具や術が彼を襲うがそれらを振り切って宿内に消えた。その頃には既に男衆は離散しており、残ったのは開拓者とアヤカシ。地面に血が点々としているところを見ると、流れで負傷した男衆も居たようなのが痛恨の極みだが、今問題にすべきはそこじゃない。 「どうやら、我慢が利かなくなったらしいな」 甲に覆われた拳を打ち合わせ、羅喉丸は自分達を囲むアヤカシを睨む。 我慢を続けてきた雪子鬼達、突然始まった戦いで完全に振り切ってしまったのだろう。包丁や斧、槍を携えた彼らの目は、食欲と憎悪に満ちていた。 「上が真っ当でも下がコレじゃね‥‥来なよ、自分らは逃げる気無いしきみらも逃がす気なんか無いだろう?」 同じく甲に覆われた手でアヤカシを手招く雪斗。 ――二十対四。丁度五倍の差だが、今展開されるのは数に勝機を見出す戦争ではなく戦闘。どちらも殺し合いには違いないが、彼らは開拓者。戦いにおいて質で数を覆す超人である。 錆びた大剣が厨房の壁を削りながら襲い来る。障害物を無視した打撃を刀で逸らし、跳び込む蒼羅。長物を振るう相手に最も有効なのが懐に跳び込む事だが、統率者は腕力の割には背が低く必然的に懐が浅い。 「っ――小器用な奴!」 おまけに技量も高い。振り抜いた大剣から咄嗟に片手を放し、跳び込んだ蒼羅を殴り飛ばす。 徐々に統率者は位置を調整している。狙いは明白、地下への扉。戦いは陣取りの様相を見せていた。 勿論、取らせる気など無い。兜割を横払いして足止めに掛る暁。鉤先が統率者の纏う帷子を削るが止まらない。間合いを変えていく統率者を遮る様に炎が巻き上がる。巫女二人掛かりの浄炎。 『邪魔ナ連中メ――!』 「とっとと下がれ、この阿呆っ!!」 統率者の喉元を暁が狙う。引っ掛けた感触はあったが浅い。続き、蒼羅が払い更に後退させる。それで空いた間合いに大剣が通り過ぎ、更なる追撃を封じる。 「下の人達は――」 「――下手に出さない方が宜しいでしょうね」 二対一の戦いは拮抗している。さやかと朧で女子供を出す事は出来るだろうが、衛生状態最悪の場所で監禁されていた以上、まともに動けるか怪しいものだ。彼女らが護衛に付いても良いが、外でも戦っている以上、下手に出すよりは中に居てもらった方がまだ安全だ。 『俺達ノ餌ニ手ヲ出スナ、貴様ラァッ!!!』 「ムカツクから――」 「――此方に分る言葉で喋れ!!」 大剣、兜割、刀がぶつかり合い火花を上げる。ぴしり、と何かに罅が入る音が聞えた。 ●決着と傷跡 威の式が得物を落とさせ、羅喉丸の拳がその顔面を打ち抜いて止めを刺す。タクトの手裏剣が喉元を抉り、雪斗の拳が鳩尾を貫き沈める。遠近揃った連携――だが、アヤカシも負けていない。長槍で牽制している間に、横合いから包丁が掠めていく。或いは振り回される斧を捌いている間に、嫌らしく槍が突き出される。 「暴発した割には協力バッチリかよ――面倒臭え!」 タクトが言葉通り如何にも面倒そうな表情で毒吐く。彼を含め、四人の身体の各所に細かい傷が刻まれている。致命傷には程遠く行動が制限されるようなものではないが、積み重なればどうなるか分らない。面倒という言葉通りだ。 「変に離散されないだけマシだ――式!」 躍り掛かる雪子鬼に斬撃の式を放ち態勢を崩し、身を躱す威。実際、この交戦はアヤカシをこの場に繋ぎ止めている意味もある。逃げた男衆が何処まで行ったかは分らないが、それを追って離散された日には泥沼なのだ。 「出来れば親玉は此方に止めておきたかったんだが、そうも言っていられないか!」 更に一体、羅喉丸の前に倒れる。恐らく、この雪子鬼達とは比べ物にならない統率者は既に屋内。奴も仲間達も出て来ない所を見ると、恐らくは中で交戦している。救出という危険な仕事を分担させた以上此方で抱えられるものは抱えるつもりだったが、それは言っても仕方が無い。反省は後でするものであり、そもそもそんな後ろ向きの性分ではない。 「ここまで間合いが変わると中々――沈め!!」 全体重を乗せた拳。雪斗のそれに直撃され、また一体倒れていく。彼の手甲、本来の得物ではない。それで弱体化する程ぬるい修練を積んだわけないが、それでもどうしても差異は生じる。まして、アヤカシ達は斧や槍など比較的長めの得物を運用する。それが連携を伴い襲い来るのだから、対して強いアヤカシとは言えないまでも時間が掛ってしまうのは仕方が無い。 ただ、何にせよ時間の問題なのだが。 四人の開拓者を相手取って未だ互角。異常な強さと言えた。個体としては雪子鬼、だが心身において通常のそれらの遥か後ろに置き去っている。恐らくではあるが、上級アヤカシから命を下される事だけの事はある。 何よりも恐ろしい、無造作のようでいて的確に振るわれる大剣。壁床家具を破壊しながらのそれは、暁と蒼羅に間合いに踏み込ませないだけの力を持っていた。 更には幾度となく彼を焼く浄化の炎。熱くないわけがなく効いていないわけもない。だが、衰えないその動き。 「この狭い所じゃ足も意味無し――いい加減、首取らせろっ!」 暁が最も信を置く足は、ある程度の広さが無ければ効果は成さない。厨房は狭く、そして床には余計な物が散乱している。この状況に苛立ちつつ手裏剣で顔を狙うが、弾かれる。 これもまた問題。統率者は帷子を纏っている。更には己の頑強さにも自信があるのだろう。守るのは首から上か或いは手足のみ。最小限の防御と最大限の攻撃、敵ながら上手い。 但し、そこまで戦い慣れていながら彼にも忘れている事が一点。 一度刀を収め呼吸を整える蒼羅。直後、呼気一つ神速の動きで刀を抜き払い、再び収める。名残はアヤカシの帷子に刻まれた傷――歯を剥き出しにして嗤う統率者。刀を収めた直後の蒼羅に向かい、大剣を振り上げる。それは天井の梁を巻き込み――鈍い音を立てて折れた。 『――ナ、ニ?』 「‥‥武器の手入れも戦いの一部だ。気付くのが遅かったな」 呆然とする統率者。そんな隙を見逃す程、彼の対峙する者は甘くない。決定的な要因を指摘しつつ、全体重を込めて刀毎突進した蒼羅が遂に帷子を背まで貫き通す。 『ガ‥‥マダ、マダ俺ハ!』 まだ落ちない。身体毎ぶつかってきた蒼羅を殴り飛ばし、仁王立ちの統率者。だが、もう勝負は着いている。 「変異なのか進化なのか‥‥中々の方でしたが‥‥ごきげんよう」 「傷付いた村の方達の分です――!」 幾度目かとなる、朧とさやかの二重浄炎。焼かれる身体、だがまだ終わらない。耐えきって消えた炎の向こうに見えたのは、兜割を振り上げた暁の姿。 「その首――貰ったぁッ!!!」 すれ違いざま、統率者の首を一閃。落ちる首――直後、瘴気を撒き散らしつつ統率者は消滅した。 宿から女子供を引き連れて四人が外に出た時点で、其方の戦いもケリが付いていた。お互い、巫女二人以外は細かい傷だらけだが、大したものではない。 逃げ出した男衆は、各家に残った物で有り合わせの武器を作ろうとしていたところだった。そこに戻ってきた女子供と開拓者――感動の再会といきたいところだったが、男衆も宿前の混戦で負傷者がおり、何より女子供は長期の監禁による衰弱と不衛生な場所に居た為に病気になっている者が居た。 これを放置する程開拓者達は薄情で無く、更には村長から暫くの滞在を求められ、自身達の回復を含め、さやかと朧が病人の看病をし他の者は宿の修復を手伝いつつ、数日の間滞在する事になった。 そんな中、瘴気となって消えたアヤカシ達に追悼を捧げる雪斗の姿があったが、その内心は彼のみが知る所である。 |