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■オープニング本文 「後ろに何かが立っていたとすれば、どうなさいます?」 かなり突拍子も無い語り出し。年齢不詳、独特の雰囲気を纏った女は開拓者ギルドに持ち込んだ依頼説明の開口一番、そう告げた。当然ながら、対応を任された受付は目が点になる状態。 ――そもそも、この女性は何なんだろうか? 年齢不詳と感じはしたが、容貌から換算するに20〜30の間であろうとは思う。ただ、身に纏う雰囲気が世間一般の人間とは明らかに隔絶しており――更に言えば、開拓者ともまた違う―― 「私はね、面白いモノが好きなんですよ。自分で言うのもなんですが、節操無く。 人でも物でも話でも、挙げればキリが無いですし依頼そのものには無関係ですから省きますけれど」 容姿は端麗、口調自体は丁寧であり、よくよく見れば着衣や装飾品も地味ながら仕立ての良い物であるのが見て取れた。しかし、受付は一目見た時にこの女を嫌いになる事を決めていた。 誤解されない為に説明しておくと、別に受付当人は人のえり好みをする質ではないし、真人間から明らかに踏み外した人間までが揃う人間陳列物のような開拓者達を相手にしている身であるからして、多少の相手であるなら動じない。 にも拘らず、この女は嫌いだった。理由は自身にも測れないのだが、強いて言えば笑顔、と言える。 普通に考えて、笑顔が他者を不快にする事は余り無い。勿論、使い所を考えればの話であるが。その観点から言って女の笑顔は問題無い筈なのだが―― 「私の友人の旦那様がですね、ひと月程前から 『外に出るとバケモノが後ろからぴったりくっついてくるんだよ。何もしてこないけど、そのうち何かされるかもしれない。怖くて外に出れない』 とか言い出したそうで。結局、お仕事も辞めてしまわれまして、新しい職を探すにもそんな状態では探せない――とりあえず、今は奥様の方が働きに出てますけれど」 バケモノというのはアヤカシの類だろうか? そもそも、そこらに沸いて出るアヤカシで、ひと月も背後に張り付いて身も心も喰らわないモノなど居るのか? アヤカシの全貌をギルドも理解しているわけではないのだが、その男はギルド以前に医者なり祓師なり訪問するのが先ではないか? などと思ってしまう受付。 考えが顔に出てしまったのか、女は微笑を苦笑に変える。 「言いたい事は分らなくもないのですけどね。でも、実際に彼らが困っているのは事実ですし、このままだと奥様も潰れてしまいますから、友人としてはちょっと、ね。 ――ああ、言い忘れてました。その旦那様の方ですけれど、仕事を辞めて以来部屋に閉じこもって排泄以外では出てこなくなってしまったのですよ。食事も差し入れ、身体の汚れも湯を張った桶と布を差し入れている状況。要するに、一切合財奥様の肩に掛ってしまっているわけでして」 概要は理解した。だが、それを友人である彼女が依頼してくるのは? まず初めに彼女は『面白い事が好き』と言った。今の話をどうすれば面白い事と言えるのか? 「放っておけば夫婦共倒れで面白くも何ともないですけれど、誰かが介入すれば何か変化はするでしょう? それに、一か月も人の背後に張り付いて嫌がらせするアヤカシなんかも面白いですね」 ‥‥という事は何か? この女は友人夫婦の状況を面白がっているだけなのか? 「あら、失礼な。 勿論、友人の心配をしていますよ? でも、それだけでは私が身銭を切るには足りないですし、少しくらい楽しんでも構わないと思いませんか? 報酬は充分な額を用意していますし、悪い話ではないでしょう?」 受付の不快感を感じとっても、尚も女の微笑は崩れない。寧ろ、訪れた時よりも深くなる。 「交換条件と言ってはなんなんですけれど、私も依頼をお受けした開拓者の方々と同行させて頂きますね。 彼らの仕事ぶりというか、どういう方々が来るのかも非常に楽しみですし」 ――ああ、やっぱりこいつ嫌いだ。 |
■参加者一覧
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
ルーシア・ホジスン(ia0796)
13歳・女・サ
風雲・空太(ia1036)
19歳・男・サ
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
碑 九郎(ia3287)
30歳・男・陰
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
ヴァーティクト(ia3781)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●駄目夫婦 アヤカシは人の身も心も喰らう。それは開拓者の中では常識であるし、一般人の間でも似たようなものである。基本的に常時飢えているらしい彼らは、食事の機会を逃さない――筈なのだが。 「少なくとも、現在確認されているアヤカシには、一か月も何もしてこないモノなど存在しません――問題は、事実ソレに怯えている方が居るという事ですね」 依頼人宅。都にある個人宅としてはかなり大きい部類に入るであろうそこに、開拓者達は集まっていた。 現場である夫婦宅には既に一度顔を出している。日中という事で妻の方は居なかったのだが、問題の人物である夫の方は依頼通りに自室に鍵を掛けて引き篭もっていた。 話合いの口火を切った長い黒髪の女性――高遠・竣嶽(ia0295)がその場で『心眼』と呼ばれる察知術を行使したが、得られた結果はシロ。勿論、術とて成否はあるのだが――ギルドが存在を疑っている事、彼女らも疑問に思っている事、挙句に依頼人した当人も信じていない様子なので、全員の共通認識として『夫の思い込みないしは狂言』というのが既に成立していた。 「そうなると身辺を調べるべきか――奥方が戻られる夜にもう一度顔を出して、話を伺ってみねばならないな」 口調はともかく此方も女性。服装も男性物だが、隙間から覗く豊満な肢体が寧ろ余計に『女』を強調して見せている紬 柳斎(ia1231)は、考えを纏めながら口を開く。 一行の中で最も小柄かつ最年長である碑 九郎(ia3287)は、その台詞に繋げた。 「夜は良いけどよ、まだ時間あるんだし元職場とかも調べた方が良いんじゃねえか? 俺も調べたい事があるし――」 言葉を切る九朗。その視線は、彼らが話し合っている部屋に人数分の緑茶と茶菓子を持って入ってきた女に向けられていた。 「――何か?」 「いや、何でもねえ」 依頼主である正体不明の女性――蔓と名乗った彼女であるが、ある程度の素情は判明している。この家だが、敷地の八割を店舗及び倉庫で占められている。当人は古物商だと言っていたが、並ぶ品々を見て一様に『ガラクタ商の間違いだろ』と思ってしまった。それほどまでに、素人目で見ても意味不明な代物ばかりが並んでいた。倉庫も見せようかと満面の笑顔で勧められたが、これまた一斉にお断りした。 九朗としては、この女性に引っ掛かりを解消できずにいた。彼ほど明確にはしていないが、竣嶽もこの依頼主には好意的とは言い難いものを感じている様子である。 「そうですね、私も職場の方が気に掛ります。アヤカシの可能性が消えた以上、どこかに原因があるのは明白ですし」 穏やかな微笑のまま淡々と続ける斎 朧(ia3446)。肢体と衣服の構造上、纏った巫衣がやや窮屈そうな少女は、年齢こそ違え蔓にどこか似た雰囲気を持っていた。違うとすれば、蔓は明確な能動によって雰囲気を作っているのに対し、朧はそれが不明瞭である点か。 「元職場――魚介類の卸場ですね。直ぐ分るとは思いますけれど、地図を書いておきますね。ついでに紹介状も」 「紹介状? ――失礼ですが、古物商が魚介卸に伝手があるとは思えないのですが」 筆記具を取り出す蔓の背に、これまた常時笑顔の青年が疑問をぶつけた。ヴァーティクト(ia3781)という名の彼、その笑顔は蔓や朧と違って天然のものらしく違和感を与えない。 「まあ、流通に携わっていると色々と伝手も出来てくるものなのですよ。それに、彼にそこの職を紹介したのも私ですし」 「大したものですな、その若さで。しかし、旦那に職を紹介したというのはどういう経緯ですか?」 鍛え上げられた体躯と相応に精悍な顔立ち、それから受ける印象からは外れた丁寧な言葉で問い掛ける風雲・空太(ia1036)に、蔓は苦笑いを向けた。 「若いと言われますけれど、一応貴方よりは一回りくらい上だと思いますよ。 ――まあ、それはさて置いて。彼、元々は結構良い家の跡取りだったんですけど、今の奥さんと付き合った結果、三カ月前に家を叩き出されてしまったんですよねー」 困ったものです、などと表情と裏腹な台詞。明らかにその経緯を面白がっている蔓である。 その経緯を聴いて、見直したと頷く少女一人。 「じゃあ、奥さんを選んで勘当されたって事ですか? 思ったよりも性根が座っている人なんですね」 自身も良家の出であり現状何気に極貧生活者だったりする剣桜花(ia1851)は、共感があるのか、感心している様子。その感想を聴いた瞬間、蔓が豪快に噴き出した――淑女然とした容姿からは想像できない、余りに明け透けな笑い。 「――桜花さんの言った通りなら良かったんですけど、実際の所は逆ですよ」 「逆?」 首を大きく捻る桜花。その動きに合わせて豊満な胸が揺れる――余談だが、彼女は朧同様の巫女だが、巫衣は身に着けていない。どう見ても神職から逆行している胸元の露出が激しい服は、全てがその乳房が原因だったりする。朧の様に頑張って着るのか諦めるのか――どっちが良いのかは本人次第だろう。 「彼、ご両親が覚悟を試す為に口にした『家か恋人を選べ』って質問に、即答で家って口走ったらしいのですよ。結果、激怒され勘当。 その後、ご両親から『根性を叩き直してくれ』と頼まれまして、心身共にきつい職場を敢て紹介した次第です」 見直すどころか、想像以上に駄目人間かも知れない夫。ついでに言えば、離れない妻。蔓がその二人をどう思っているか以前に、突っ込み所満載な夫婦だった。 ●加速する駄目男 とりあえず都の魚介卸場。 兎に角魚介類は鼻に付くし海水臭も酷い。鮮度を保つ為に水に入れられ運搬されるそれらは、漏れなく重い上に速度も要求される。商店の関係上朝が恐ろしく早く、心身共にきついというのは伊達ではなかった。 「くさいー、あついー」 現在進行形でその洗礼を受けているのは、侍の装いをした少女――ではなく、れっきとした女性。ルーシア・ホジスン(ia0796)という名の銀髪侍は、幼さが色濃く残る容貌と相まった苦情の声を上げていた。 因みに彼女、話し合いの場にも居たのだが、基本考えるより動く手合いなので口を挟むのを自重していた。 「――環境はともかく、ここに勤めれば中々に豪胆な男にはなれそうだな」 「なれなかった方も居るみたいですけどね――いえ、そもそもなろうとしなかった、という方が正しいですか」 威勢が良く鍛えられてもいる働き手達を見て感心している柳斎の台詞に、卸場で得られた追加情報を加味して笑顔のまま、呆れ気味に繋げる朧。 「遅刻常習に無断欠勤に職務放棄――ここまで揃ってると、逆に凄いですねっ」 職場やその周辺で問題を抱えているのでは、と踏んでいたルーシアだったが、調べた結果は夫の駄目っぷりを助長させるものばかり。『バケモノ』が原因の可能性も考えられたが、職に就いた直後からそんな調子らしい。真面目に考えていた自分が滑稽に思えてきたルーシアの物言いは、半分以上ヤケクソだった。 卸場の熱気に耐えかね、ギリギリまで着衣の合わせを開け空気を入れながら柳斎は依頼主の事を思い出していた。 「しかし――蔓さんだが、もしや全て分ってて依頼をしたのではないのか?」 「恐らくはそうでしょう。あの方、何が面白いのでしょうか」 「? 朧が面白くなさそうな顔してるのって珍しいね」 「――そういう顔、私していました?」 「うん」「していたな」 確かに蔓に好感は持っていない朧だったが、笑顔のままで見て取られたというのは余程だろう。彼女の自覚以上に引っ掛かったのか―― どう言えば良いのか――言い切ってしまえば『大変だった』である。 卸場に向かった三人と別の懸念を解消しに行った九朗を除いた全員で、夕方になってから夫婦の家を再訪問したのだが。散々暴れられ、泣かれ――どうにか落ち着かせて現状。 「瓦版に包まって公園で寝て朝一でギルドに駆け込んでやっと取れたお仕事なのにー‥‥」 夫婦宅で食卓に突っ伏す桜花。向かいには涼しい表情の蔓だけ。空太とヴァーティクトはどうにか夫の部屋へ入るのを許され、竣嶽は妻と共に酒のつまみを作っている最中である。 「やはり開拓者のお仕事は大変ですか?」 「日雇い労働と変わらないですもん――ごはん食べるのも一苦労ですもん――」 興味津々といった風情の蔓に、力の籠らない返答の桜花。実際の所、彼女が極貧生活を送るのは彼女の『悪癖』に寄る部分が大きいので、他の面子からすれば『お前と一緒にするな!』と言われかねない。勿論、開拓者全般を見ても裕福な者は少ない上、活動し出して日の浅い開拓者ギルドが紹介する依頼が、登録者数に対して全く足りてないのも事実なのだが。 「では、ご主人は休日明けにいきなり後ろに何か居ると言い出したのですか?」 「‥‥ええ。元々気が弱い人でしたけど、流石にあれは普通ではないと感じまして。直ぐに蔓さんに相談したんですが――此方で対処するから触るな、と」 夫もそうだが妻も若い、恐らく二十歳になっていないだろう。三十歳近い蔓と友人と言うから同年代の夫婦を想像していた竣嶽は最初に彼女を見た時には戸惑った。蔓は一括りに『友人』と言っていたが、むしろ姉の様な立場だったのではと思う。ただ、生活の疲れか、若さというものは余り感じなかったが 「毎日、仕事に対して愚痴はありました――元々まともに働いた事が無い人ですし、慣れてくれば変わると思っていたんですが」 「‥‥失礼ながら、結婚を反対された事については?」 有り合わせの食材を調理しつつ、竣嶽は触れられたくないだろう領域に踏み込んだ。妻はそれに対し、線の細い身体全体で嘆息しつつ頷いた。 「知っています。家を取ろうとして勘当された事も、蔓さんから聴きました――本当は捨てろと言われたんですけど、あの人、私が居ないと駄目になりそうで‥‥。この家も、蔓さんから無償で借りているので、申し訳無くは思うのですが」 (どっちもどっち――そんな感じですね。これを面白がるあの人も何とも――) ただ、無償で手助けをしてる辺り、蔓も面白がっているだけではないようだ。どうにも、読めない女である。 酒の席は進む。 豪胆に笑いつつ呑んでいく空太、必要以上には口にしないヴァーティクト。そして夫は何かに憑かれたように煽る。 目の前にしても、二人には特に異常は感じられない。ルーシアに確かめるように言われた『背中に何かくっついてない?』という疑念も調べたが、それもない。だが、何かに追い詰められているという印象は受ける。 空太としては酒によって内心を吐露させたかったのだが、この夫、異常な速度で呑み続け既に脱落寸前といった風情。もはや此方の言葉も聞こえていないだろう。 「ぬううう――この手は使いたくなかったが」 「‥‥その物騒なモノをしまうように。酔ってませんか?」 「はっはっは、そんな事は無いですぞ〜」 酔ってるのか素面なのか謎な空太を止めながらも、ヴァーティクトはここまで来ると最終手段しかないのか、と思い始めていた。 結局、夫は潰れてしまい二人は連れの元へ戻る事にした――が、部屋を出る直前、夫が妙な寝言を口にした。 「‥‥何時になったら、家に戻れるんだよ‥‥」 ●過去の無い女 「――気に食わねえな」 九朗は一人、陽が沈むまで都を巡り調査をしていた。但し、夫婦ではなく蔓の。 あの女が何か握っている可能性もある。故に調べて周った。当人が語った部分に関しては、間違いないらしい。変人扱いや忌避されている部分もある。だが、決定的なものが何一つ掴めない。 陰殻から来たとは聴いたが、親類縁者の話が出てこない。当時、蔓が幾つだったか不明だが、少女と言って良い年齢の筈。それが十年そこらであれだけの財を築けるものなのか? 目的があって神楽の都に居るとしても、ならばこの過去が無いという事実がおかしい。そういう立場の者なら、違和感無く隠蔽しているのが当然だからだ。或いは表舞台に出ないか。 (いや――それを見越して、敢て隠蔽しなかったのか?) ――少なくとも、夫婦の件に直接蔓が関与した形跡は見られない。だが、生まれた疑念は消えなかった。 ●背後に忍び寄るモノ 深夜、未だ眠りから覚めない夫を連れ出して繰り広げられた開拓者劇場。 監督、演出、主演、脇役に至るまで開拓者。ヒロインがよく分らないモノに追われている若い男というのはどうかと思わなくもないが、二名の観客の内一人は横に居る友人の手前堪えてはいたが、明らかに笑っていた。 簡単に言えば、遂に現れた『バケモノ』を退治する『フリ』。勿論、妻にも信じてもらう関係上、実戦さながらの動きはしたが――何せ、どうも夫の言動が狂気や強迫観念などではなく、ただの狂言である事に全員気付いてしまったので、もはやそれは喜劇にしか見えないし感じなかった。 因みに、退治される役は艶めく外殻と触覚を持ったお台所に出現する奥様方の天敵――っぽい仮面を被り黒い外套を纏った桜花だったりする。仮面と外套は蔓の店から持ってきたものだが、外套はともかく仮面は桜花以外にこんなモノ欲しがる人間が居るのだろうかと、残り七人は真剣に悩んでしまった。 翌朝。 案の定と言うか何と言うか――やっぱり夫は「まだ居る!」と泣き叫んでいた。妻や開拓者達が何を言っても繰り返す。 「――いい加減になさいな。何したところで私は貴方の実家に報告しませんし、きちんと働く事の出来る人間になるまで、ご両親も門を開ける気はないですよ――例え貴方が首を括っても、ね」 蔓だった。何時ものような微笑だが、瞳の温度が氷点下。流石にこの女も切れたのだろうか――と一同が思った所で、彼女はその瞳を妻にも向けた。 「貴方も。駄目な男を支える良妻に酔うのは結構だけれど――そんなもの、昨夜の彼らが見せてくれたモノに比べれば三文芝居以下――ここまでやって眼が覚めないなら、二人揃って死ね」 そう言い切って、蔓は夫婦宅を出て行ってしまった。唖然とした開拓者達であるが、もうここに居てもやる事は無い。泣き崩れる夫婦を置いて彼女の後を追った。 依頼達成。報酬によって得られる食事を想い別次元に旅立った桜花を不憫に思ったか、蔓は8人を食事に誘ってきた。その場のひと幕。 「最初から分っていて、敢て私達を使った――そういう事ですか?」 「ええ。立場上、あまり色々言えないので。尤も、最後は我慢の限界が来ましたが」 朧の確認に蔓も頷く。夫婦宅で最後に一瞬だけ見せた壮絶な殺意はもう伺えない。 「しかし――結局背後には何も居なかったというオチですか」 苦笑いをしつつヴァーティクト。危険の無い依頼は楽で構わないのだが、経緯を見るとただのアヤカシ退治の方が良かったような気がしなくもない。 そんな彼に蔓は微笑を向けた。 「あら? 確かに彼の背後には居ましたよ――『休日の翌日』がね」 |